指揮官の日常はKAN-SEN達に侵略されているようです 作:烏丸蓮
一行でわかる前回のあらすじ ◇――KAN-SEN、キレた!
―――よう!俺はアズールレーンの指揮官! 夢はKAN-SENマスターになること! ちなみに名前はあるがまあ答えなくても問題ないだろう!仕事は母港の運営だったり、KAN-SEN達の指揮をとったり、ツッコミだったりと様々だ!
突然だが、俺は人生で最大の危機に直面している……! 酒に酔って、KAN-SEN達がいる女湯に突撃したり、シリアスに誤射で爆撃されそうになったりとかそういうものではないぞ!
それは…………目安箱の撤去だ!
おいおい、そんな怪訝そうな目をしないでくれよハニー、俺は何時だって真面目に不真面目解決指揮官なんだ!
…………えっ? 『あんた何か解決したことあんの?つーか、ただのアンケート集計係じゃないの?』だって?
……上等だよハニー、屋上に行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…
今、アズールレーンの最前線基地は異様な熱気に包まれていた。
それは夏の暑い日ざしが作り出す天然物の熱気ではない、人が……KAN-SEN達が作り上げる熱気であった。
その熱気の中心地は基地内の大講堂からであり、当事者の指揮官はこれをもろに受けていた。
「ふざけんなー!」
「勝手に撤去するなー!」
「謝罪会見を開け―!」
「我々が納得できる説明をしろー!」
「指揮官大好きー!!!」
「早く指輪を買って、明石に渡すにゃー!」
「指揮官には失望しました……サンディエゴちゃんのファンをやめます」
「何で私!?」
この通り、多種多様な怒声、罵声、謝罪要求、告白、失望等がブーイングの嵐になって、指揮官を襲ってくる。
これに対し、指揮官は黙って耐えている。というよりも理解が追い付かないので黙るしかなかった。
しかし、流石はここの長たる指揮官、黙っているだけではない。すぐに皆を静かにさせるために次の行動をとる。
「だ、黙れ!!!」
指揮官は強くドンッ!と机を叩く。しかし、悲しいかな……歴戦の猛者達はそれぐらいの脅しには臆しないのだ。
KAN-SEN達はその行動に対しさらにヒートアップさせていく。これには指揮官もお手上げ状態になってくるが、この状況に助け舟を出してくれる者もいる。
「はいはい、皆さんお静かにー」
パンパンッと手を叩き注目を集めるのは、重桜の重鎮で、艦隊の中心的存在の天城であった。先程まで静観していた天城は、このままでは埒が明かないと考え、鎮め役を買ってでたのだ。
流石に重桜陣営の重鎮が先導するだけあって、重桜メンバーを中心にひとまず熱波は収まっていく。
これには助かったと指揮官は思うと、天城が問いかけてきた。
「指揮官様、なぜ目安箱の廃止をお決めになったのですか?」
これにKAN-SEN達は指揮官に関心を集める。
そうである、なぜ目安箱をなくすのかKAN-SEN達は知らない。ならば、KAN-SEN達はこれを知る必要はあると今更ながら考える。
「だって皆まともな意見出してくれないじゃん。大体が個人的なボケばっかりだし。最近、激務続きでツッコミ疲れたんだよ」
「「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」」
指揮官は至極当然な理由を言うが、KAN-SEN達は先ほどまでとは一転して、今度は講堂内に静寂が訪れる。
さっきまで指揮官に罵声を浴びせていたKAN-SEN達が、黙り込むのは非常に気味が悪い。俺また何かやっちゃいました?
やがて、一人ずつ口を開いていく。
「お兄ちゃん……最低……」
「あなたには私を従える資格がないわ」
「私の居場所はどこなんでしょうか……」
「ハムマンはもう怒る気にもなれないわ……」
「だめだなぁ指揮官、ちっとも楽しんでいない」
「指揮官様のことは大好きですが、今のはあんまりですわ……」
なぜか、KAN-SEN達は失望VOICEを各々言っていく。指揮官、これには理不尽だと思い反論する。
「いや、なんで俺が悪いみたいになってんの!? おかしくね!? 後、ハム太郎!! ごちゃごちゃ言ってるとアサガオの種食わせっぞオラァァァァ!!!!」
「なんでハムマンだけこんなに厳しいのだ!? それと、ハム太郎ならひまわりの種じゃないのか!?」
指揮官に溜まった不満が理不尽にもハムマンに襲い掛かる。これに対しハムマンは抗議の声をあげるが、しかし指揮官これをスルー。そして、天城に問いかける。
「なあ……天城はどう思っている?」
「そうですね……私は指揮官様の意見を最大限尊重しますが……他の方にも聞いてみましょう」
そう言うと天城はユニオン陣営の方を見て、あるKAN-SENに尋ねる。
「ヨークタウンさんはどう思われますか?」
ヨークタウンと呼ばれたKAN-SENは、儚げな表情が印象的なユニオン代表の空母である。エンタープライズやホーネットの姉であり、エンタープライズがユニオン陣営の顔ならば、ヨークタウンはユニオンのまとめ役として機能している。
今日もペットのハクトウワシ“いーぐるちゃん”を連れており、ヨークタウンの肩に乗って羽根を休ましている。
そして、天城の狙いはここにある。各陣営の代表に意見を聞くことで、この場を収める算段だ。陣営の代表ならば感情論ではなく、中立の立場で発言するだろうと考えている。
突然、指名されたヨークタウンは臆することなく堂々と答える。
「そうね……私は指揮官様と皆が、目安箱でたくさん関われるならその方がいいけど……指揮官様の業務が減るのなら、撤去に賛成するわ……でも、それでは皆は納得しないと思うから、ここはいーぐるちゃんに聞いてみましょう」
指揮官はいーぐるちゃんに聞く必要ある?と疑問に思うが、黙っておく。
指揮官は日々成長するのだ。ここでツッコミ入れても話が進まないしね。
早速、ヨークタウンはいーぐるちゃんに問いかける
「いーぐるちゃんはどう思っているの……?」
これにいーぐるちゃんはヨークタウンの耳元で「キーッ!」と小さく鳴く。それに対してヨークタウンはうん……うん……と相槌を打っている。なにこのシュールな絵は。
「うん……うん……。…………なに?『我々はエセックスの倒し方を知っている』ですって?……まあ!」
「なにがまあ!だよ。無関係なエセックスがとばっちり受けてるだけじゃねえか」
エセックスはその発言を聞くと、すぐさまエンタープライズの後ろに隠れ、いーぐるちゃんを怯えた目で見ている。
しかし気をつけろ、エセックス!! いーぐるちゃんは「我々」と言っていた! 他にも君の敵はまだまだいるぞ!!
「ふむ……それではあなたはどう思いますか? ビスマルクさん」
天城は次のKAN-SENに尋ねる。
ビスマルクと呼ばれたKAN-SENは鉄血艦隊の指導者にして、鉄血の代表的な戦艦。
冷静沈着で寡黙な彼女は当初は近寄りにくい存在だったが、実は誰よりも仲間思いで、柔和な面を持った女性だと指揮官はわかった。その証拠に個性豊かな鉄血メンバーは彼女を慕っている。
しかし、今のビスマルクは普段よりも表情が固く、強い意志を秘めていた。
「そうだな……私は目安箱の廃止に断固反対する」
この発言に講堂内のKAN-SEN達はざわめく。そして、これには指揮官もひどく動揺する。
彼女の意思は鉄血の意思、彼女が反対することは即ち、鉄血陣営が明確に反対の立場に立ったことを意味する。
だがここで指揮官は狼狽えない。まずは理由を聞こうとビスマルクに尋ねる。
「ビスマルク、なんで撤去に反対なのかを教えてくれるか?」
これにビスマルクは少し頷いて回答する
「私……まだ投函していない」
「いや、そんだけの理由かよ!?」
指揮官、これにはびっくり仰天。
「つーか、猶予は一ヵ月あっただろうが! その間何してたんだよ!!」
「いや……何度も投函しようと思ったが……入れる時になんか恥ずかしくなってしまってそれで……///」
恥ずかしそうに言うビスマルク。
それに反応して、何人かのKAN-SEN達が「なんか分かるわー」といって表情で頷いている。いや、今頷いた赤城や大鳳たち、君たちに羞恥心なんかあったの?そっちのほうが驚きだよ。
「大丈夫だよ、匿名だから何も恥ずかしくないよ。匿名じゃない奴もたくさんいたし。……まあ、それなら後で渡してくれ。ちゃんと見て返事するから」
「で、できれば匿名で出したいのだが……///」
うーむ、これは困ったと指揮官は思う。できればビスマルクの意思表示は尊重したい。しかし、このままこんな業務を続けていくと、間違いなく疲労が蓄積していく。知ってる? 最近、俺は夢の中でも作業しているんだよ? 可哀そうだと思わない?
「……よし、それではまだ意見書を出していない者は挙手してくれ。ビスマルクと一緒に後で纏めて見るから」
指揮官は講堂内を見渡し皆に告げる。
指揮官の妥協案として、まだ意見書を出したことのないKAN-SENがいるならば、ビスマルクと一緒に提出してもらうことだ。
それならば、ビスマルクは匿名で出せるし、投函しようと思っている者も提出できて一石二鳥だ。
――――しかし、誰も手を挙げなかった。まあ、分かっていたけどね。
ビスマルクはこれに意気消沈してしまい、隣に座っているティルピッツに慰められていた。
だがしかし! 鉄血の絆を舐めてはいけない! ここで挙手する者がいたのだ!
「指揮官、そういえば私まだ出していなかったわ」
手を挙げた人物……それはプリンツ・オイゲンだった!
…………いや、君が今回のほとんどの元凶だよ? 意味不明なアンケートを投函しなければ、目安箱の撤去はもっと遅かったと思うよ? そこんとこ分かってる?
指揮官は怪訝な顔をしてオイゲンを見る。
しかしここでは終わらない。オイゲンの行動に感化されて次々とKAN-SEN達が挙手していく。
「そういえば私もまだでした」
「指揮官申し訳ございません、私も提出しておりませんでした」
「悪い指揮官、俺様もまだだったぜ」
「レーベくんがまだなら私もまだです」
「我も出してはおらぬ」
鉄血メンバーが手を挙げていく。それは指揮官を困らせるためではない。ビスマルクを守るためであるッ!
そして、鉄血陣営だけでなく重桜やユニオン、ロイヤルメイド隊等のここにいるKAN-SEN達が次々と手を挙げていく。
そうして、ビスマルクを残した全てのKAN-SENが手を挙げた。これを見てオイゲンは指揮官に言う。
「指揮官、これがKAN-SENの……いえ、人が持つ本質よ」
「………………ほう、人が持つ本質とはいったい何だ?」
「人の持つ本質、それは―――――」
「光よ」
オイゲンはまっすぐと答える。
人の本質は光――――そう、希望の光である。
指揮官もKAN-SEN達も誰もが暗い過去がある。その過去は変えようがないし、変えられない。しかしだ……だからといって、気に病むことはない。過去が変えられないのなら今を変えればいいのだ!
現に希望の光はビスマルクを照らしている。過去に投函しなかったことで少し後悔しているビスマルクを皆は救いたいのだ!
これには指揮官の目頭が熱くなる。なんか……あったけぇ……
「皆の気持ちはよく分かったよ…………よし、俺も手を打とう!」
「「「「「「「「「「指揮官(様)!!!!!!!」」」」」」」」」」
KAN-SEN達は大いに喜ぶ。そう、これで目安箱は撤去されなくて済む。KAN-SEN達はまだまだ指揮官に伝えたいことがあるのだ。
そして、すでにKAN-SEN達はアンケート内容を第4弾まで考えてある。ここで止めたら意味がない……用意してきた意味がなくなるのだ。
「そんじゃ、ビスマルクと俺が指名するまとまなKAN-SEN数名は、後で意見や要望を提出してくれ。ビスマルク以外、内容はなんでもいいぞ! それで目安箱の役目は終わりだ!」
「「「「「「「「「「………………は?????????」」」」」」」」」」
KAN-SEN達は絶句する。今の流れは撤去しない方向なのでは……?そう考える。しかし、現実は違った。これにはKAN-SEN、怒りを露わにしていく。
「「「「「「「「「「…………ふ」」」」」」」」」」
「……ふ?」
「「「「「「「「「「ふざけるなあああああああ!!!!!!!」」」」」」」」」」
本日2度目の大絶叫。そして、KAN-SENは口々に自身の感情を吐露していく。
「なんで今ので撤去する流れになったのよ!」
「即刻、貴殿の発言を撤回せよ! 繰り返す! 即刻撤回せよ!」
「私達の楽しみを奪うんじゃねえ!!!」
「指揮官、見損なったぞ!!」
「アンケート係から逃げるんじゃないわよ!!!」
「ア、アンケート係だとぉぉぉ!?!?!? どいつだ! 今どいつが言った!?」
「ドイツじゃなくて鉄血だろ!!! いい加減にしろ!!」
「そういう意味じゃねえええええ!!!!!!」
指揮官も負けずに声を張る。しかし、多勢に無勢。指揮官の声はかき消されてしまう。
それでもなお、諦めない! 指揮官負けないもん!!
「つーか、俺にアンケート結果を集計させるつもり満々じゃねえか!! 発案した奴でてこい!!!」
突然図星を指され、ほとんどのKAN-SEN達は目を逸らしてしまう。これには指揮官も激怒する。
「……あー、もう分かりました! お父さんは知りません!! もう撤去するから後は勝手にしてくれ!!!」
そう言い残しながら指揮官は扉を開き急いで大講堂をでる。
勢いよく扉を閉めてもまだKAN-SEN達のブーイングは鳴りやまない。そのまま指揮官は目安箱を回収しに走り出す。
未だにKAN-SEN達の不満は聞こえていた。
「ふざけんなー!」
「逃げるんじゃねえよ!!」
「目安箱だ! 目安箱撤去するんだろ!? なあ目安箱なくすんだろ指揮官? ……箱置いてけ!! なあ!!!」
「お父さんじゃなくて私の旦那だろー!! 訂正しろ!」
「いや、わたしの旦那なんだが?……頭大丈夫か?」
「…………は? ふーん……頭に来ました」
「閣下、助けてくれ! シェフィールドとニューカッスルにロリコン矯正装置を付けられそうなんだ!なんとかしてくれ!!」
「「「「「「って、なんでアークロイヤルがここに!?!?!?」」」」」」
こうして講堂内は一層と混沌を極めていった…………
そんな風にワーワーギャーギャーと叫ぶKAN-SEN達を尻目に、ヴォースパイトは隣にいるクイーンエリザベスに声をかける。
「残念でしたねえ、陛下。考えたスピーチの内容が全部無駄になりまして」
「う、うるさいわね!! そんなこと分かっているわよ!」
そう、主な4陣営の中で、ロイヤル代表クイーンエリザベスだけ聞かれなかったのである。これにはエリザベスも憤慨していたが、今になっては後の祭りだった。
次回予告! 指揮官は強引に目安箱を撤去し廃棄した!
しかし、目安箱は不死鳥のごとく蘇っていたのだ!
この謎を探求すべく我々は中国奥地の四川料理を食べに行った―――
そこで食べた麻婆豆腐の味とは!!
そして、ついに母港前まで辿り着いたセイレーン!
彼女らの目的は何なのか……それは誰も知らない―――
結構長くなったのでまた分割します
どうしてこうなったorz