指揮官の日常はKAN-SEN達に侵略されているようです   作:烏丸蓮

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間に合ったな
今回、ちょっと長いです




第4話 指揮官はKAN-SEN達の反感を買うようです(後編)

 一行でわかる前回のあらすじ   鉄血の絆、あったけぇ……

 

 

 

 

 

 時刻は午前10時、指揮官は執務室の前にようやく帰ってきた。

 

 指揮官の両手には先程、食堂前で回収してきた大きな目安箱が抱えられていた。その重い物を持って走ったせいで、少しだけ息遣いが荒れていた。

 

 指揮官は呼吸を整えてから執務室の扉を開け、室内に入ると自分の席の隣に目安箱を置き、自分も椅子に深く座る。

 

 これで一安心だと指揮官は安堵していると、扉がコンコンと2回ノックされ、「指揮官入るよー」と声がかかる

 

 

「あー、入っていいぞ」

 

 

 その言葉と同時に、今日の秘書艦であるホーネットが入室する。

 

 ホーネットはエンタープライズとヨークタウンの妹である。天真爛漫で明るい彼女はこの母港内では、比較的まともなKAN-SENであり、指揮官とも気が合う存在である。

 

 ホーネットは疲れている指揮官を見てから慰めの言葉をかける。

 

 

「指揮官、さっきはご苦労様だったねー」

 

「ああ……ほんと疲れたわ。なんで朝っぱらからあいつら元気なの? 俺にもその元気を分けてほしいわ」

 

「まあ、それほど皆にとって目安箱は大切なんじゃない? 私もあれ気にいってるし!」

 

「はあ……そんなもんかねぇ……」

 

 

 指揮官は深くため息をつく。KAN-SEN達が楽しんで投函していることは分かっているが、膨大な量を捌くにはちと骨が折れる。

 まあしかし、それも今日で終わりだ。これからは早く業務が終わり、自由時間がふえること間違いないだろう。…………少し、ほんの少しだけ寂しい気もするが。

 

 

 しみじみと思いながら指揮官はあることに気が付く。

 

 

 

「そういえばホーネット。エンタープライズはどうした? 今日、手伝いに来るって言ってなかったか?」

 

「あー、そのことなんだけどねー……」

 

 

 秘書艦については原則として一日交代制であり、秘書艦をしたいKAN-SENが複数人いた場合、一人だけ指揮官が任命する仕組みになっている。

 これは色々な経験を積ませたい指揮官の狙いもあるが、何よりもそのKAN-SENのことを深く知りたいという理由もある。

 ただ、偏りがないように調整するのも、指揮官の手腕が問われる。

 

 前に、ロイヤルメイド隊のKAN-SENを3連続で指名したとき、『指揮官メイド大好き説』がKAN-SEN達の間で出回ったのだ。

 その後、メイド服を着た一部のKAN-SEN達が、指揮官の目の前に現れたので、彼女らの誤解を解くのに大変だった。

 これに懲りた指揮官は秘書艦を慎重に選ぶようになった。

 

 そしてここで重要なのは、指揮官は一人だけ秘書艦を選ぶが、そのKAN-SENは姉妹艦や仲のいいKAN-SEN同士で一緒に手伝いに来てもいいことになっている。

 これはKAN-SEN達の要望で、これに指揮官は応じる形になったのだが。

 

 もちろんベルファストのように一人でしたがるKAN-SENもいる。

 

 そして、ホーネットが秘書艦の時は大体が、ノーザンプトンかエンタープライズが手伝いに来てくれる。

 しかし、今はエンタープライズの姿は見えず、先ほどの件もあってボイコットしたのだろうか?と予想する。その疑問にホーネットは答える。

 

 

「さっき、エンプラ姉から伝言預かったよ」

 

「…………どんな内容だ?」

 

「『実家に帰らせていただきます』だってさ」

 

「……いや、実家ってどこだよ。ここじゃないのか?」

 

「指揮官……実家はね……」

 

 ホーネットは目を閉じ、手を胸に当て答える。

 

「皆の心の中にあるんだよ」

 

「……………………ああ、なるほど。自室に引きこもっているわけね。つーか、随分と遠回しな言い方だな、おい」

 

 

 指揮官は実家のことが心の中であるなら、おそらく心の中とは誰にも邪魔されず安らげる場所、つまりエンタープライズの自室だと解釈した。

 

 指揮官は自分が予想したボイコットがほとんど当たっていたことに、嬉しくもあり悲しくもあった。

 

 

 

「まあ……とりあえず今日の業務始めるか」

 

「うん、今日はよろしくね! 指揮官!」

 

 

 

 こうして、ようやく今日のデスクワークが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――それから2時間半経過した。

 

 

 

 

 

 朝に大講堂でトラブルもあったが、なんとか朝の業務は終わることができた。

 この後は昼ご飯を食べて、少しの休憩をしてから昼の分の業務に取り掛かれば、遅くとも午後4時半には本日の業務が全て終了するだろう。

 目安箱を置いていた時は、それから3時間も意見・要望に目を通していたがその元凶も今はない。

 

 指揮官はようやく日常が戻ってきたと痛感する。今までが異常なだけだったのだ。

 

 

 (さてと……腹が減った。昼飯を食べに行こう)

 

そう思い、指揮官は隣で背筋を伸ばしているホーネットに尋ねる。

 

 

「ホーネット、今から昼飯を食べに行くが、一緒に来るか?」

 

「おっ! いいね! ご一緒するよ!」

 

「そうか。それじゃ行こうか」

 

 

 短いやりとりの後、指揮官とホーネットは並んで執務室を出て食堂に向かう。

 

 

 食堂は執務室を左にでて、50mほどまっすぐ進むとL字型の角にあたる。その角を右に曲がり、また50mほど進めば、『食堂』と書かれた表札が見え、そこに食堂の出入り口がある。

 その出入り口付近には大きな机があり、前は目安箱を置くために使われていたが、今は机だけがぽつんと残っている。

 

 だがここで問題が発生する。

 

 ホーネットと談笑しながら歩く指揮官、右角を曲がるとすぐに歩みが止まった。

 

 

 

 

 ―――なぜならば、50m先の机の上に、あるはずがない“目安箱”が置いてあったからだ。

 

 

 

 

「?????」

 

 

 これには指揮官の頭の中は疑問符でいっぱいだった。そして、すぐさま踵を返し執務室に向かい、勢いよく扉を開け目安箱を確認する。

 

 

 

 

 

 ――――目安箱はなかった。

 

 

 

 

 

 指揮官は驚くと同時に恐怖すら感じた。あの短い間で……執務室を出て50m歩く数十秒の間に、何者かが目安箱を持ち出し、食堂前の机上に置いたのだ。

 

 指揮官が頭ポルナレフ状態になっていると、ホーネットが指揮官を追いかけて戻ってきた。

 

 

「指揮官!? いきなり走ってどうしたの!?」

 

「いや……ここにあったはずの目安箱がない」

 

「……? 何言ってるの指揮官。目安箱は食堂前の机に“最初から”置いてあったじゃない」

 

「……何言ってんだホーネット。そんなはずは……ん? 今なんて言った?」

 

「だーかーら! 目安箱は最初から置いてあったの! 指揮官が朝礼の時に怒って大講堂をでた後、私も食堂前を通って執務室に向かったけど、その時にはあったよ?」

 

「な、なにーーーーッッッ!!」

 

 

 指揮官は必死に考える。確かに目安箱を回収して、自分の席の隣に置いた。それだけは間違いない。

 ………よく考えよう。執務室は一階にあり部屋には窓がある。誰かが窓から持ち出すことも可能なはずだ。しかしだ……あの短時間で目安箱を持ち出し、遠回りして先に元の場所に戻せるはずがない。そう、あの数十秒では戻せないんだ。

 

 そう考えを巡らしているとホーネットは言う。

 

 

「まあ、とりあえずさ。確認しに行ったらどうかな?」

 

「……それも一理あるな」

 

 

 確かに考えても何も始まらない。ホーネットの言う通り確認しに行こうと思い、指揮官達は執務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 場所は食堂入り口前――――昼時を過ぎKAN-SEN達も昼食を食べ終えたのだろうか、人混みはピーク時より少なかった。

 

 そして、指揮官とホーネットの両名は目安箱の前に来て調査をし始めた。

 

 

「うーーむ……確かにこれは我々が使用していた目安箱だ」

 

 

 箱に堂々と大きく『目安箱』と彫られた物を見て、指揮官は思う。一ヵ月間だが、それなりにKAN-SEN達が使用したこの箱は、所々汚れが付着しており年季を感じる。

 

 

「そうだ……中も見ておこう」

 

 

 そう思い目安箱を開け、中を確認する。その奥底に一枚の折りたたまれた紙があった。

 指揮官は疑問に思いながらもその紙開く。そこには

 

 

 

 

『 ど う し て 私 を 連 れ て い く の ? 』

 

 

 

と大きく書かれていた。

 

 

 

 

「いや、怖えよ!!!」

 

思わず、その紙を床に叩きつけてしまった。

 

 

「なんだこれ!? 何かの嫌がらせか!?」

 

「お、落ち着いて指揮官! これは……そう! 多分、目安箱の呪いだよ!!」

 

「そっちのほうがもっと怖いわ!!!!」

 

 

 指揮官は絶叫する。呪いなんてそんなもんあるかと否定したいが、現実に起こってしまったことだ。その呪いという言葉に少しだけビクビクする。

 

 しかし、ここで折れる指揮官ではない。なにがなんでも撤去するという黄金の意思が芽生え始める。それは自身を激務から解放するためである。自分の日常を守護(まも)るためでもあるッッ!!

 

 

「…………よし、俺決めた。呪いだがなんだが知らねえが、必ず撤去してやるよ! 呪いなんかに負けてたまるか!」

 

「いいよー指揮官! カッコいいーー!……でも、足が震えているのはちょっとカッコ悪いかな」

 

「うるせえ!! これは…………なにかの病気だよ!! 文句あっか!?」

 

「文句も何も問題大有りだよ!? ヴェスタルに診てもらおうよ!」

 

「今はいい! とりあえず、目安箱を回収して部屋に戻るぞ! ついて来い!」

 

「えっ? あー、待ってよ! 指揮官――!!」

 

 

 指揮官は目安箱を抱え、執務室へと早々と帰っていく。その後ろをホーネットは、遅れないようについていく。

 

 

 

 

 

 その後、執務室に戻るとホーネットは早速聞く。

 

「ところで指揮官。それ持って帰ってどうすんの? 執務室の前にでも置いとく?」

 

「それ、今までと何も変わらねえよ!!……まあ、よくぞ聞いてくれた」

 

指揮官は一呼吸置いて言う

 

 

「分解して燃やす」

 

「………………えっ?」

 

「だから、バラバラに分解してこの世に塵も残さないように燃やす」

 

「あー……そういうこと……」

 

「そういうことだ。つーわけで、分解するから鋸を持ってきてくれ。確か倉庫にあったはずだろ?」

 

「うーーーーん……………………まあ、指揮官の気が済むならいっか! ちょっと待ってて! すぐに取ってくるよ!」

 

 

 ホーネットは意味ありげに言い部屋を出る。指揮官はその反応に若干の違和感を覚えるが、今は気にしない。

 流石にバラして燃やせば、誰にもどうしようもできなくなるだろうと考え、不敵に笑う。

 

 

 

 

 

 ――――そして、本日をもって目安箱は一ヵ月の役割を終え、跡形もなく消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の朝、指揮官の目覚めはとても良かった。今、指揮官の心は夏空の様に晴れ渡っている。結局、目安箱の呪いとかはなく、昨日の晩はビクビクしながら過ごしていた自分が馬鹿らしく思えた。

 だが、もうこれですべて解決した。

 指揮官は服を着替えて歯を磨く。いつの間にか自室に入りこみ、布団に包まって幸せそうに寝ている大鳳を追い出して、今日も元気に出勤する。

 

 

 しかし、この後すぐに指揮官は絶望に叩きこまれる。

 

 

 

 

 

――――食堂前、机の上に目安箱はあった

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 指揮官は絶句する。昨日、確かにバラバラにして燃やしたはずだ……箱の形跡もなくなった目安箱が燃え尽きるのも、燃えカスをゴミ袋にいれてゴミ置き場に廃棄したのも、確かにこの目で見ている。

 燃えた後もなく、いつもと変わらず少し汚れがある年季が入った目安箱。

 そして、震える手で箱の蓋を開ける。そこにはまた、折りたたまれた紙が一枚。

 

 恐る恐る紙を開いていくとそこには赤い文字で書かれてあった――――

 

 

 

 

 

 『あああああああああああ熱いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

   助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぎゃああああああああああああ!!!!

    死にたくないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!  』

 

 

 

 

 指揮官はこれを見てしばし沈黙し……ようやく言葉を絞り出した。

 

 

「うん……もう少しだけ……ここに置いておこう…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから1時間後、ここは母港内にあるどこかの会議室――――そこには数名のKAN-SENがいた。

 

 

 その会議室は円卓があり、KAN-SEN達はそれを囲んで座っている。

そして、悪の組織のように見せる雰囲気作りだろうか、室内は電気をつけておらず薄暗い。

 これにより、誰が誰だかわからない状態なので、プライバシーに配慮した形になっている。

 

 

???「皆、今日は集まってくれてありがとう。これより第135回KAN-SEN円卓会議を始めるわ」

 

 

 落ち着いた声で謎の人物が発言する。そして、その一声は会議の始まりの合図でもあった。

 

 

???「ふむ……我を招集するとは……遂に世界の終焉が訪れたようだな……」

 

???「いえ……暇な人たちが集まっているので、別に招集された訳じゃないんですが……」

 

???「…………ふん。それぐらいのこと理解しておる……」

 

???「なあ……さっさと本題に入ろうぜ。もう寝そうな奴が一人いることだし」

 

???「むにゃ……Zzzzzzzz……」

 

???「ちょ、ちょっと!? 起きてください! ラフィ……えーとっ、白うさぎさん!」

 

???「ふぁ…………ニーミおはよう……」

 

ニーミ「いや、ここでは本名を出さないでくれませんか!?」

 

???「ぐだぐだですね。あなたたち」

 

 

 

???「……そうね。本題に入りましょう。実は……指揮官様が目安箱を撤去しない可能性が出てきました」

 

 

 

 

    「「「「「!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

 

 

 

???「……ああ、なるほどな。今朝の“あれ”が関係しているんだな」

 

???「そうよ……指揮官様は燃やしたはずの目安箱が、また元通りになっていたことに恐怖していたわ」

 

???「『指揮官は目安箱の呪いだと信じきっていたよ!』ってホーネットが言ってた……」

 

ニーミ「まあ、箱が復活した謎も単純なトリックですけどね……」

 

???「ふむ……卿はまだまだ心眼が足らぬようだ……」

 

???「それならば……今日にKAN-SEN円卓会議を開いたのはなぜですか?と一つ質問です」

 

???「ええ、そのことなんだけど……指揮官様の心を挫くために、ここで畳みかけます」

 

???「ふーん…………なるほど、撤去させないように諦めさせるんだな。それは面白そうだな。で、その役は誰がやるんだ?」

 

???「……ここは私に任せてもらってもいいですか?」

 

???「あら、何か策はあるのかしら?」

 

???「とっておきの策があります。ええ」

 

???「ふふ……それじゃ、お願いしようかしら。私もその次に私のやり方で、指揮官様に諦めさせるわ」

 

ニーミ「どうやら決まったようですね」

 

???「二人とも……頼んだ」

 

???「ああ、任したぜ」

 

???「……二人の健闘を祈る」

 

 

 

???「それでは……第135回のKAN-SEN円卓会議を終了します。お忘れ物がないよう気を付けてお帰りください」

 

 

 

 その言葉にKAN-SEN達はそれぞれ席を立って会議室を出ていく。

薄暗い室内にさっきまで進行役だったKAN-SENが呟く。

 

 

「ふふ……指揮官様は私達の猛攻に耐えられるのかしら……」

 

 

 不敵に笑う彼女の姿は自信に満ちあふれていた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから少し時は過ぎ、現在の時刻は午後1時、指揮官は執務室を出て廊下を歩いていた。

 

 朝のあの事件から指揮官は執務室に籠り、何かに怯えながら今日の業務活動をしていた。

 本日の秘書艦、雪風が心配するようにこちらを見ていたが、大丈夫だと雪風に言って安心させておいた。

 しかし、怯えっぱなしではない。段々と時が経つにつれて指揮官の精神は安定し、まともな思考ができるほどまで回復した。

 よくよく考えれば……いや、よくよく考えなくてもKAN-SEN達の仕業であることは間違いない。だが、謎が未だに解けていない。

 

 ここはもう一度目安箱を見てみようと思い、食事もかねて確認しに食堂に向かった。

 

 

 食堂前、指揮官は目安箱を見つめていた。いつもと変わらずに存在感を放つ目安箱。

 指揮官は蓋に手をかけようとしたその時、箱の中からガタガタと音がした。これには指揮官の心拍数が跳ね上がる。

 しかし、ここで怖気づいてしまってはどうしようもない。指揮官は勇気を振り絞って、恐る恐る蓋を開ける。

 

 

 

 

中にいたのは鉄血艦装のレーベくんだった。

 

 

 

 

「おやおや……こんな所にいたのですね、レーベくん」

 

 指揮官は声のするほうに顔を向けると、そこには鉄血の駆逐艦Z2ことゲオルク・ティーレがいた。Z1ことレーベレヒト・マースの妹艦であり、自分の艦装と姉のことを“レーベくん”と呼んでいる。そのわざとらしい登場の仕方に指揮官は疑問をぶつける。

 

 

「……どうしたんだティーレ。まるで、俺が蓋を開けると同時に、狙ったかのように登場して……すげーわざとらしいぞ?」

 

「そんなことはないと思います。はい」

 

「つーか、なんでティーレの艦装がここに入っているんだ?」

 

「最近、鉄血の艦装で流行っているプチ家出というものですね」

 

「家出!? 艦装って家出すんの!?」

 

「思春期にありがちですね。ええ」

 

「艦装に思春期ってあるの!? というか、なんで家出先がここなんだよ!?」

 

「その疑問についてですが、レーベくんを見てください指揮官。どうやら、ここが気に入ったらしいですね」

 

「えっ? レーベくんそうなの?…………おい、レーベくん首を横に振ってるぞ? 滅茶苦茶、嫌がってんじゃねえか」

 

 

 ティーレの艦装ことレーベくんは一頭身なので、首を横に振るという表現は少し違うが、嫌がっているという意思表示は理解できる。

 そんなレーベくんを見てティーレは無理やり押さえつける。

 

 そのやりとりを見てふと疑問に思う。

 

 

「……よく考えたらレーベくん、手も足もないのにどうやって入り込めたんだよ」

 

「………………それはですね」

 

 

 

 

 

 

「…………思春期って怖いですね。はい」

 

 

 

 

「思春期でなんでも解決できると思ったら大間違いだよ? 指揮官は騙されんぞ?」

 

「……とにかく、レーベくんはここが気に入ったらしいので、レーベくんの家を撤去しないでください」

 

「レーベくんの家ってなんだ!? ここに住ませるつもりかよ!?」

 

「それでは失礼します」

 

「あっ、おい待て! まだ話は終わって……レーベくんこっち見てる! 悲しそうな表情でこっち見てる! ティーレ! お願いだから気付いてあげて!!」

 

 

 

 指揮官との会話を切り上げさっさと撤退するティーレ。

 

 彼女はレーベくんを抱きかかえて帰っていったが、彼女の腕からこちらに助けを求めるかのような表情で、レーベくんは指揮官をじっと見ていた。

 指揮官も目を逸らすことが出来ず、ティーレの姿が見えなくなるまでその場で佇んでいた。

 

 

「うん……とりあえず飯を食うか」

 

 いろいろな感情が一気に沸き起こるが、指揮官は考えるのをやめて食欲を優先した。

 

 

 

 

 

 昼ご飯を食べ終えた指揮官は食堂をでる。

 

 結局、さっきは目安箱に関する情報をなにも得られなかった。得られたものはティーレの艦装レーベくんに対する扱いだけだった。

 

 これではいかんと思い、もう一度目安箱を確認することに決めた指揮官。

 箱の中を見ようとするとまた、ガタガタと音を立てた。

 

 これに少しだけ驚いた指揮官だが、もしかしたらレーベくんがまた閉じ込められているのかもしれない。そう考え、急いで蓋を開ける。

 

 

 

 

 

 中にいたのはいーぐるちゃんだった。

 

 

 

「おやおや……こんな所にいたのね、いーぐるちゃん」

 

 

指揮官は声のするほうに顔を向けると、そこにはユニオンの空母ことヨークタウンがいた。そのわざとらしい登場の仕方に指揮官は疑問をぶつける。

 

 

「……どうしたんだヨークタウン。まるで、俺が蓋を開けると同時に、狙ったかのように登場して……つーか、既視感を感じるんだが?」

 

「そんなことはないと思うわ。指揮官様」

 

「それと、なんでいーぐるちゃんがここに入っているんだ?」

 

「最近、いーぐるちゃんで流行っているプチ家出というものね」

 

「最近のトレンドは家出なのか?……一応聞くけどなんでいーぐるちゃん家出したの?」

 

「思春期にありがちなことね」

 

「いーぐるちゃんの思春期ってなんだよ。発情期の間違いじゃね?」

 

「その疑問についてだけど、いーぐるちゃんを見てほしいの指揮官様。どうやら、ここが気に入ったようだわ」

 

「さっきから思っていたけど、なんでティーレとセリフが全部同じなんだよ。台本でもあんのか?」

 

「? 何を言っているのかしら指揮官様? 意味が分からないわ」

 

「俺のほうが意味分かんねえよ……それで、どうやっていーぐるちゃんはこの中に入り込めたんだ?」

 

 

「…………ちょっといーぐるちゃんに聞いてみるわね」

 

 

 そう言うと、ヨークタウンは「いーぐるちゃん、どうやって入ったの?」と尋ね

る。

 

 

 

 指揮官はいーぐるちゃんに聞く必要ある?ヨークタウンが無理やり入れたんじゃない?そこんとこ白状しちゃいなYO!と疑問に思うが、黙っておく。

 指揮官は日々成長するのだ。ここでツッコミ入れても話が進まないしね。……あれ、これもデジャヴ?

 

 

 これにいーぐるちゃんはヨークタウンの耳元で「キーッ!」と小さく鳴く。それに対してヨークタウンはうん……うん……と相槌を打っている。またこのシュールな絵ですか、そうですか。

 

 

「うん……うん……。……なに?『我は主の望みでここに入ってみたが、暗くて狭く居心地が悪かった。もう入りたくない』ですって…………えっ!?」

 

「なんでヨークタウンが驚愕してんだよ。そっちのほうが驚きだよ」

 

「……とにかく、いーぐるちゃんはここが気に入ったらしいので、いーぐるちゃんの家を撤去しないで欲しいの」

 

「いーぐるちゃんの話を聞いてやれよ。真顔でヨークタウンのこと見てるぞ?」

 

「それでは失礼します」

 

「あっ、おい待て…………いや、今回は別にいいか」

 

 

 

 指揮官との会話を切り上げさっさと撤退するヨークタウン。

 

 彼女はいーぐるちゃんを肩に乗せて帰っていったが、いーぐるちゃんは無表情でヨークタウンのことをじっと見ていた。

 

 指揮官は呆れて何も言えず、ヨークタウン達の姿が見えなくなるまでその場で佇んでいた。

 

 

「よし……今日の仕事をさっさと終わらせるか」

 

 指揮官は考えるのをやめて仕事を優先した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、午後5時。本日の業務終了―――

 

 

 

 

「いやー、今日も無事に終わったなー」

 

 指揮官は座りっぱなしで、固くなった筋肉をほぐすために背伸びをしている。

 今日の秘書艦雪風はもうここにはいない。時雨たちと遊ぶ約束があるといって1時間前には、執務室を出ていった。

 その頃にはほとんどの業務を終えていたので、気兼ねなく雪風を送り出した。

 

 

「さて、この後はどうするかな……ロイヤルのとこに行って、紅茶でも飲もうかな」

 

 この後の予定について考えているとふっと思い出す。

 

「あー、そういえば目安箱のこと忘れてた……」

 

 

 そうだ、今日中にまだやることがあった。昼時の意味不明なやりとりで、目安箱について考えるのを止めていた指揮官だったが、何も問題は解決していなかった。

 寧ろ、このままではまたKAN-SENたちがアホな内容を投函してくるのではないかと考える。

 

 

 …………気が進まないが行こう。そう考えて、憂鬱になりながらも部屋を出た。

 

 

 

 食堂前、相変わらず目安箱はそこにあった。

 

 午後5時ということもあり、食堂近辺にはKAN-SENの姿は見当たらなかった。後、1時間ほどでKAN-SENたちが夕飯を食べにやってくるだろう。それまでにはこの目安箱を何とかしたい。

 ……とりあえず、これを執務室に持っていこう。誰かに投函されることは阻止しなければ。そう思い、目安箱に手を伸ばしたその時、

 

 

 

 

 

        ガタガタッ!! ガタガタガタガタッッッ!!!

 

 

 

 

 

 目安箱の中で激しく何かが動いている音がした。

 

 

「……………………」

 

 

 指揮官は辺りを見渡す。

 

 ヨークタウンやティーレがまた入れたのか、それか今度はユニコーンがユーちゃんを入れたのかは分からない。それでもKAN-SENたちがいないことを確かめる。

 

 左右確認……よし!上下前後……よし!心の準備……よし!

 

 

 指揮官は覚悟を決めて蓋を開けた。

 

 

 

 

 

 

「やあ、アズールレーンの指揮官」

 

 

 

 中に入っていたのは人類の敵で、KAN-SENたちが死闘を繰り広げている相手“セイレーン”の“ピュリファイアー”…………の生首であった。

 

 

「……………………」

 

 

 指揮官はその場で硬直する。

 

 なんでここにセイレーンが……? なんで生首……? つーか、君なにしてんの?

そんな疑問が後から次々と湧いてくるが、最初にした指揮官の行動は―――

 

 

「……失礼しました」

 

 

 そっと蓋を閉めることだった。

 

 

 

 

「いや、おい! そっと閉めるんじゃない! 開けろ!!」

 

 ピュリファイアーの生首が激しく箱の中で暴れているが、指揮官は困惑することしかできなかった。しかし、このままでは状況が一変しないので、質問することにした。

 

「あの……なんでここにセイレーンの方がいるのでしょうか……? ぶぶ漬けでもどうどすか?」

 

「遠回しに帰れって言われた!? つーか、私だってこんな暗い所に居たくないよ!」

 

「それじゃ、なんで入ってるんだよ」

 

「これには深いわけがあってね……話すと長くなるけど語っていい?」

 

「手短に頼むわ」

 

「……オブサーバーにちょっかいを掛けたらキレて、私を生首にしやがってここに突っ込まれた」

 

「そっか…………あれ、君たちどうやって侵入してきたの? 誰とも会わなかった?」

 

「普通に入れたよ? 途中で残念そうなメイドと鉢合わせになったけど、指揮官に郵便物があるってオブサーバーが言ったら通してくれた」

 

「この基地のセキュリティは一体、どうなっているんだ……それとシリアスェ……」

 

「まあ細かいところはいいじゃない! それより早くここから出してよ。なんかこの箱、鳥の匂いが充満しているんだけど」

 

「そっか……まあ、事情は分かった。今日は見逃してやるから、他のセイレーンにも伝えといてくれ。これはゴミ箱じゃねえと」

 

「…………おい、今ゴミって言ったか? 私のことゴミって言ったよな!?」

 

 

 

 指揮官はピュリファイアーの生首が入った目安箱を抱え、執務室に急いで向かう

 執務室にあったガムテープで目安箱をぐるぐる巻きにした。

 

 

 

「だせー! ここからだせー!!」

 

 

 ピュリファイアーは以前抗議の声を上げ続けるが、指揮官は無視する。そして、完全に蓋を閉じて母港の外、堤防に向かって走り出した。

 

 

 

 

 ――――堤防に辿り着いた指揮官は大声で叫んだ!!

 

 

 

 

「ピュリファイアーをぉぉぉぉぉぉ大海原にシユゥゥゥゥゥゥゥゥーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 そして、生首の入った目安箱を力一杯海に放り投げた!!

 

 

 

        「超!!!!! エキサイティン!!!!!!!!」

 

 

 

 

 放物線を描きながら海に落下し、大きな水しぶきをあげる。

 目安箱は次第に沈んでいき、その落下点からはブクブクと泡沫が海上に出ていたが、泡沫は小さくなっていきやがて沈黙……海面には平穏が訪れた。

 

 

 指揮官はこれを最後まで見届けてから母港に帰る。

 

 

 

「つーか、何が『次回!ついに動き出すセイレーン!』だよ。ただ、ゴミを捨てに来ただけじゃねえか……」

 

 

 そう呟きながら執務室に戻る指揮官、しかしこのときあることに気づいた。

 

 

「…………ん? ゴミ?」

 

「待てよ……もしかしたら……!」

 

 

 指揮官は走り出す。執務室に早く帰りたいわけではない。自分の推測が当たっているのならまだ、その場所にあるはずだと思い、急いでゴミ捨て場に向かった。

 

 

 

 

 

 ゴミ捨て場から戻ってきた指揮官は執務室の扉を開ける。

 

 どうやら、予想は当たっていたようだ。なぜ、燃やしたはずの目安箱が元通りになっていたのか。答えは簡単、目安箱は二つあったのだ。

 ゴミ捨て場に行って探したら、燃えカスの入ったゴミ袋をすぐに見つけた。

 確かにそれなら指揮官が執務室をでて、あの短時間でKAN-SENの誰かが目安箱を食堂前に置いたり、執務室から持ち去ることもできるだろう。

 

 

「なんであんな簡単なことに気づかなかったんだろう……」

 

 

 指揮官は悔しがるが今となっては仕方ない。

 それよりも気掛かりなのは、目安箱を海に捨ててしまったことだ。

 流石にもう蘇ることはないだろうがどうだろう……

 

 

「まあ、明日の朝礼で言おうか……」

 

 

 今日も疲れたので早めに自室に帰って寝よう。

 そう思い執務室の扉を閉めて鍵をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――次の日の朝、講堂内

 

 

 

 今日も朝礼は挨拶から始まり、指揮官は今日の行事や当番、秘書官を発表していく。

 

 

 

「――――以上で俺からの連絡は終わりだ。誰か質問や連絡事項があるものはいるか?」

 

 朝礼も終盤間近、指揮官はKAN-SEN達に問う。

 それにホーネットが手を挙げて、指揮官に問いかける。

 

 

「指揮官、食堂前に置いてあった目安箱どうしたの?」

 

「ああ、そのことなんだが……鼠が紛れ込んでいたから海に捨てた」

 

 

 指揮官は身構える。昨日は撤去するだけであのブーイングの嵐だった。海にダイブして今は海底にあることが分かったら、自分も海に沈められるのでは……?

 

 そう考えながら、周りを見渡すがKAN-SEN達の反応は薄かった。

 

 

「…………えっ? 皆さん、何も言わないの? 罵倒しないの?」

 

「あー、そのことなんだけどね……」

 

 

 ホーネットが申し訳なさそうに言う

 

「皆と話し合った結果でね……最近、指揮官と関われていないじゃない? その原因って皆が面白がって、関係ない内容を投函したことで、指揮官の業務が増えたからって結論になったんだ。だからその……撤去してください!」

 

「えっ……あっ……そう……そっか……」

 

「ほんとっ迷惑かけてごめん!」

 

 

 その言葉をきっかけに、「ほんとすまない」「悪かったわ」「ごめんなさい」とKAN-SEN達が謝っていく。

 

 

「うん……なんか俺もごめん……」

 

 

 謝る必要は全くない指揮官だが、なぜか謝ってしまった。それは脳内の情報処理が追い付かないために起きたものだった。

 

 指揮官はしばらく放心状態だったが、ふっとあることを疑問に思う。ここのKAN-SEN達はほとんどがお馬鹿さんだから、今回のことは水に流そう。

 しかしだ、目安箱に入っていた赤い文字で書かれた紙のことだ。あれだけは趣味が悪い。というよりも、KAN-SEN達でもやっていいことと悪いことの区別はついているはずだ。

 

 誰がやったのかを聞いてみようと思い、KAN-SEN達に尋ねる。

 

 

 

「まあ、今回のことはいい。ただ、腑に落ちない点がひとつある……赤い文字で書かれたこの紙だ。別にそこまで怒らないから、やった本人は名乗り出なさい」

 

 

 その紙を皆に見えるように高く掲げ広げる。その書かれた内容を見てKAN-SEN達はざわつく。

 

 

 

「ねえ、指揮官……そんなこと誰もやってないよ?」

 

「……君たちではないの?」

 

「そんな悪趣味なことしませんわ」

 

「それは冗談では済ませれない案件です……」

 

「流石にそんな気色悪いこと誰もしねえよ」

 

 

 KAN-SENが口々に答える。どうやら本当にやってないようだ。段々と講堂内が静まってくる。

 

 

「待て……ホーネット、一昨日のことを覚えているか? 秘書艦の時に昼飯食べに行ったよな? あの時、目安箱に入っていた紙は誰が入れたんだ?」

 

「うん、それなんだけど……誰がしたのか他のKAN-SENに聞いたけどさ……誰も入れてないって」

 

「つまり…………この紙のことは誰も知らない……そういうことでいいんだよね?」

 

 

 

 

「「「「「…………………………」」」」」

 

 

 

 講堂内がしんと静まり返る。

 

 

「よし、今からお祓いしに行こう……」

 

 

 その言葉は誰にも聞こえず、指揮官は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――とある鏡面海域

 

 

「そういえば、なんかKAN-SEN達が目安箱?とかいうもので楽しんでいたわね」

 

「うん、あんたが私を押し込んだ箱のことね。後、さっさと私の体戻してよ。首だけじゃ不便なのよ」

 

「そこで私も投函してきたわ」

 

「話聞けよ…………それで、なんて書いたの?」

 

「目安箱の気持ちを書いてみたわ。『どうして連れていくの?』とか『熱い、助けて』とかね」

 

「うわっ! すごい悪趣味!! ついに頭でもおかしくなったの? 大丈夫? あっ、元からか!!!」

 

「………………もう一回、押し込んでやろうかしら」

 

「えっ!?……ちょ、ちょっと待って! ただのジョークだって! セイレーンジョーク……ちょっ、やめっ、ぎゃああああああああああ!!!!!!」

 

 

 鏡面海域に断末魔が響き渡った。

 そして、セイレーンがまさか投函していたとは誰も知る由はなかった……

 

 

 

 

 




今回の話はこれでおしまいです。
話のオチが弱くなって申し訳ないorz
なかなか思い通りに書くのは難しいですね……

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