指揮官の日常はKAN-SEN達に侵略されているようです 作:烏丸蓮
メイの馬鹿! もう知らない!
夏の暑さもピークを迎え始めているある日の午後のこと、指揮官に人生最大の危機が直面していた。
調査室の外では駆逐艦たちが元気にはしゃいでいる声が聞こえ、蝉がミンミンと大合唱を響かせていた。
それとは正反対に室内は静寂に包まれ、エンタープライズとエセックスは指揮官に対して、ロリコン疑惑が再燃し冷やかな目をむけている。
アークロイヤルは目を閉じ、静かに微笑んでいる。
指揮官はアークロイヤルの態度に若干苛つきながらも、頭をフル回転させこの状況を打破するため口を開いた。
「お、俺はロリコンじゃないぞ! 本当だ信じてくれ!!」
打破しようにも何も思いつかず、言い訳っぽく言ってしまった。
それを聞いたエンタープライズは冷たい目を向けて言う。
「指揮官……では、あなたの制服から出てきた本について説明してくれ」
「ぐっ……そ、それは……!」
指揮官はアークロイヤルが犯人であることに目星はつけてある。そもそも、こんなことするのはアークロイヤルしかいない。
しかしだ、いつ制服にロリ本を紛れ込ませたのかも判明できず、指揮官は説明したくてもできようがなかった。
指揮官が黙っていると、アークロイヤルがニヤニヤしながら指揮官の肩をポンと叩く。
「閣下、ついに性癖が露呈してしまったな。ふふっ、ようこそ……こちらの世界へ……」
「~~~~ッッ!!」
指揮官はアークロイヤルの同類発言に、言葉が出ず憤慨していると2人のユニオン空母が陰で囁きあう。
「エンタープライズ先輩……やはり指揮官を正常に戻さないと駄目です」
「そうだな……とりあえず独房に入れて、電極を脳に差し込んで……記憶を改竄しなければな……」
「ちょっ、君たちの発想怖いって……!? つーか、ロリコン矯正装置ってそんな危ないもんだったの!?」
「ふふっ、私もメイド隊に付けられそうだったが……この情熱は誰にも止められない!」
「てめえは大人しく改心されろ!!」
怒りが頂点に達した指揮官は飛び蹴りを繰り出し、アークロイヤルに命中させる。変態は「グフッ!」と声を出しながら、盛大に蹴り飛ばされた。
とその時である。アークロイヤルから数冊の雑誌が服の中から出てきた。
「???」
指揮官は不思議に思いそれを手に取ると、そこには
『やはり俺の駆逐艦は最高だ!』と題名が書かれた本だった。まあ、要するにロリ本である。他の雑誌も同様に似たタイトルだった。
「エンタープライズ、エセックス! 証拠が出てきたぞ!! やっぱ、この変態が犯人じゃねえか!!」
「い、いやそれは……閣下に無理矢理持たせられて……」
「なんで俺がそんなことしないといけないの!? 大人しくお縄につきやがれ!!」
この期に及んで言い訳するアークロイヤルと指揮官が言い争っているのを見て、エンタープライズは呟く。
「…………面倒だから2人とも独房に入れて更生させるか」
「そうですね……ついでに、指揮官をユニオン空母好きにするよう調教しましょう!」
「ま、待てっ! 俺は無関係だろ!? 頼むからめんどくさがらないで!!」
「そうだ! 私達はそんなものには屈しないぞ!!」
「いや、俺をてめえと同類扱いするな」
指揮官達がギャーギャー騒いでいると、エンタープライズが一歩近づいて
「……とりあえず、2人とも一緒に来てもらおう。事情は独房で聞こう」
そう言うと指揮官達を捕らえるべく、エセックスと歩調を合わせ、じわじわと詰め寄る。
たがしかし、黙って捕らえられる指揮官達ではない。じりじりと後退する指揮官にアークロイヤルが提案する。
「閣下……ここは協力して、この包囲網を脱出しようではないか。私達が協力すればこの危機も脱しよう」
「…………ああ、そうだな。その後、お前は独房にぶち込んでやる」
2人は顔を合わせ笑う。そう、絶体絶命の中、指揮官達に芽生えたものは奇妙な友情。
この危機を乗り越えるには協力するしかないのだ。
「では参ろう! 閣下!!」
「おう! やってやるよ!!」
アークロイヤルの言葉と同時に2人は勇敢にも前に歩を進め、ユニオン歴戦の猛者に挑む。
「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
2人は勇ましく叫びをあげ、明日の自由を勝ち取るために眼前の強敵に突撃する
アークロイヤルとエセックスは互いに手を合わせ、取っ組み合いになる。
しかし、指揮官は――――
「痛たたたたたっっ!! エンタープライズ、もっと優しくお願い!! 背骨から変な音が聞こえる!!」
「そ、そうか……ではこれぐらいの力はどうだ?」
「そうそう、そんな感じ」
指揮官はエンタープライズに飛び掛かるが、やはり人間とKAN-SEN、圧倒的な力量差で指揮官は呆気なく捕らえられベアハッグの体勢になる。
指揮官は腰や背骨がミシミシと悲鳴を上げるのを聞き、エンタープライズに力を緩めるように要請する。
エンタープライズも別に危害を加えるつもりはないので、力を和らげる。
しかしこの体勢、端からみれば恋人同士が抱き合っているように見える。
「おい、閣下! 何をイチャイチャしてるんだ!? 閣下は幼女しか抱き着かないはずだろう!?」
「し、指揮官、後でそこを交代してください!……エンタープライズ先輩が代わってもいいですよ!」
未だに取っ組み合いを続けている2人は、ハグしているように見える指揮官達に抗議する。
「指揮官……私の後ろに手を回してくれ……」
「ああ……これでいいか?」
指揮官はエンタープライズに手を回し、より密着する形となる。
突如、始まった謎のラブコメっぽいもの。
2人はお互いに目を見つめあい、言葉を発しない……そう、今2人は見つめあうほど素直にお喋りできない状態なのである。
「んがぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」
突然、ラブコメを始めだした指揮官と尊敬する先輩をみて、やり場のない怒りが目の前で取っ組みあっているアークロイヤルに襲い掛かった。
「うわっ!」
いきなり発揮されたエセックスの馬鹿力を受け、アークロイヤルの体勢が崩れ、床に倒れこんだ。
エセックスもそれに引っ張られる形で転倒し、アークロイヤルに覆いかぶさる。
その時である。倒れこんだ拍子にエセックスの服から何かが落ちて散らばった。
「お、おい2人とも大丈夫か?」
「一体、どうした?」
指揮官とエンタープライズは隣で大きく転倒した音を聞き、ラブコメ空間から引き戻され、そちらに顔をむける。
そして、アークロイヤル達が倒れこんでいるのを見つけ、一旦体を離し2人に駆け寄った。
「ん? なんだこれ……」
指揮官が近寄ると散乱しているものを見つけ拾い上げる。それは写真だった。
そこに写っていたものは―――エンタープライズだ。
彼女が被写体の写真だった。しかし、どうもおかしい。写真の中のエンタープライズはどれもカメラ目線ではなかった。
「こっちは指揮官が写っている写真だ! ただ、どれも目線がこちらを向いてないな……」
エンタープライズも写真を拾い上げ分析する。
指揮官とエンタープライズが個々に写っている写真で、目線が向いていない……
つまり、ここから導き出される答えは――――盗撮だった。
「……! あわわっ! み、見ないでください……!」
エセックスは指揮官達が私物の盗撮写真を見ていることに気づくと、素早く立ち上がり顔を真っ赤にしながら涙目で写真を回収する。
指揮官とエンタープライズはあのエセックスが、まさか自分たちの盗撮写真を持っていることに唖然とし、アークロイヤルは同じ仲間を見つけた嬉しさで口角を吊り上げている。
エセックスは恥ずかしながらもこの場にいる全員に発案する。
「あ、あの……指揮官とアークロイヤルさんのことは秘密にするので……どうかこのことはご内密に……!」
ただの秘密の共有だった。
「エセックス、まずは説明してもらおうか……その後でその写真は押収する」
「つーか、俺はロリコンじゃないんですけど!? なんでまだ疑われているの!?」
「ふふふ……まだまだエセックスは盗撮技術が未熟だな……!」
エセックスの発言にその場にいる3人はそれぞれ三者三様の反応を見せる。
しかし、エセックスも負けていられない。この状況を改善すべく、羞恥心で思考回路がショート寸前になりながらも、次の一手を打つ。
「ま、待ってください! 今、思ったんですけど……私たちが恥ずかしい私物を持っているなら先輩も何か持っているはずです!」
訳がわからない理屈だった。
「…………そんなものあるわけないだろう」
「ふむ、それもそうだな。我々だけ痴態を見られるのは公平ではない……ということで服の中を見せてもらおう」
エセックスの発言に意外にもアークロイヤルが乗り気になる。
「いや、我々って……俺は君の罠に貶められた哀れな被害者なんだけど……一緒にしないでくれる?」
「そうですよ! 先輩も恥部を曝け出してください!」
「私達と運命共同体になろうではないか! エセックス、手伝ってくれ!」
「分かりました!」
そう言って、アークロイヤルはエンタープライズの後ろに回り、羽交い締めにする。
エセックスは身動きが取れない尊敬する先輩の服の中を探り始めた。
「……な、なにをする! 私のそばに近づくな!……お、おいエセックスどこを触ってるんだ!? そこには何もないだろ!?」
「先輩の腹筋……鍛えられてとても美しいです!」
何故か彼女は服よりも腹回りを重点的に調べているようだ。その時のエセックスの表情は惚れ惚れしており、とても生き生きとしていた。
それとは反対に、腹筋をぺたぺた触られているエンタープライズは、くすぐったいのか恥ずかしがっていた。
指揮官は流石にこれには参加できず、傍観するしかなかった。
「……! 何かポケットから出てきました!!」
エセックスは満足したのか腹筋を触るのをやめ、ポケットの中を調べる。
そして、何かを発見したのだろうかエセックスはエンタープライズの私物を取り、勢いよく高々と上げた。
高くあげられた物体、それは……ローションだった。
「いや、お前もかよ!?…………ってローション!? なんでローション!?!?!?」
「ふむ……どうやらレーションと間違えて持ってきたようだな」
「なんでそんなに君は冷静なの!? つーか、レーションとローションって……一文字違うだけで現物を間違えることなんてありえねえよ!!」
「今日は偶々だ。何時もはレーションを持ち歩いている」
「当たり前だろうが! いつもローションを懐に忍ばせていたらただの危険人物だって!」
まさか、皆の頼れるエンタープライズがこんな阿保だとは夢にも思わなかった。
しかし、ローションを日常的に持ち歩いていないことに指揮官は少しだけ安心する。これを持ち歩くのがクセになっていたら、目も当てられない。
指揮官がそんなことを考えていると、横からアークロイヤルが口を開く。
「ふふ……これで我々は他人に言えない秘密ができてしまったな。これについてどう思う閣下?」
「どうもこうもこの基地にはまともなKAN-SENが少ないことが分かった」
「閣下、そういう意味で言ったのではないのだが…………では今後のことはどうしようか?」
「とりあえず、このことは他言無用にしよう。そのほうが皆の都合はいいだろ?」
「そうですね……私も秘密にするのがいいです。一番、知られたくない人に知られましたが……」
「そうだな、流石にローションを持ち歩くKAN-SENと思われるのは遺憾だ」
「私もただ駆逐艦を愛しているだけだ。ロリコンだと思われるのは遺憾だ」
「いや、それ紛れもない事実じゃん」
何かアークロイヤルがふざけたことを言っているが、皆の了解は得られた。
時刻は午後5時、すでにこの部屋に来てから2時間が経過していた。
すでに今日の業務は終わっているだろうが、もしかしたら綾波は執務室に残っているのかもしれない。
それなら待たせるのは悪いと思い、3人を見渡して言う。
「それじゃ、俺は執務室に戻るけどもういいな? 他には何もないな?」
「ああ、もう問題ない。時間を取らせてすまなかったな」
「今日はありがとうございました!」
エンタープライズとエセックスの了承を得られ、指揮官は退室しようとする。
しかし、ロリコン疑惑はどうなったのだろうかとふと思い体を反転させ、エンタープライズ達に向き直る。
「そういえば、俺のロリコン疑惑どうなった? もう無実でいいよな?」
「そうだな……指揮官が無実なら、秘密の共有ができないから今は保留だ」
「保留って……まあ、いいや。他のKAN-SENには疑いが晴れたって言っといてくれ」
「了解した」
「閣下いいのか? 正直に自分を曝け出したほうが楽になれるぞ?」
「お前は詐欺罪と児童ポルノ所持罪で訴えるからな。独房にぶち込まれるのを楽しみにしとけ。いいな!」
指揮官はそれだけを言い残し、ドアを開け部屋を出ていった。
指揮官は疲れた足取りで廊下を歩く。
コツコツと廊下に靴の音が響くのを聞きながら、執務室を目指す。
流石に綾波はもういないだろうなと思いながら、廊下の角を曲がると『執務室』と書かれた表札が見えてきた。
指揮官はやっと帰ってきた安心感から少し早歩きになり、扉の前まで到達する。
「綾波―、まだいるかー?」
指揮官は扉を開きながら、部屋の中に声をかける。
「おかえりなさい……です!」
綾波はまだ執務室にいた。
彼女は指揮官の椅子に座り、手持ち無沙汰なのか指揮官の帽子をくるくる回していた。
だが、指揮官が帰ってくるのを見て嬉しそうに駆け寄ってくる。
「おう、ただいま。待たせて悪かったな」
「問題ない……です」
「そうか……執務はもう終わったか?」
「はい……ジャベリン達が手伝いに来てくれた……です」
「後で、手伝ってくれた皆にお礼しないとな」
そう言って、指揮官と綾波は笑い合う。
指揮官がこの基地に着任して随分経つが、綾波とは旧い仲で何度も彼女に助けられた。
いや、綾波だけではない。他のKAN-SEN達も同じだ。色々と皆は指揮官を助けてくれる。
そして、彼もまたKAN-SEN達が快適に、この母港を過ごせるように努力している。
そんな持ちつ持たれつの関係を築き上げているので、お気に入りのグラスを割られたり、勝手に私室に侵入されたり、アンケート係にされたり、エロ本を服に差し込まれたりしてもKAN-SENのことが嫌いになれない。
「そういえば……どんなことを取調べされた……ですか?」
「ん? ああ、大したことないよ。俺は事実無根だ。つーか、ただの冤罪だった」
「……? それならよかった……です」
「……あっ、そうそう。今から晩飯を食べに行くか? 今日は体力を物凄く使って腹が減ってんだ。なんでも奢るぞ」
「……! それならジャベリン達も誘いたい……です!」
「よし、それなら今すぐ行こうか」
「はい……です!」
綾波は早く食事をしたいのだろうか、指揮官の手を取り引っ張る。
その行動に指揮官は優しく微笑み一歩前に踏み出す。その時、指揮官の制服から一冊の本が出てきて、綾波の足元に落ちた。
綾波は不思議に思いながらその落下物を拾い上げる。
それは雑誌であり、タイトルは『モーレツ! 駆逐艦帝国の逆襲!』と書かれていた。
表紙を飾るのはスクール水着をきた幼女たち、要はアークロイヤルの私物のロリ本だった。
綾波は驚いた顔で交互に指揮官の顔と雑誌の表紙を見て、指揮官は青ざめた表情で大量の冷や汗を流していた。
時が止まったかのように錯覚するが、やがて
「――――!!」
顔を赤らめた綾波は全力疾走で執務室を飛び出した。
「あっ、ちょっと待って!! お願い!! 俺に弁解をさせてくれ!! それは違うんだアークロイヤルの物なんだ!! 俺はやってない!! それでも俺はやっていない!!!」
指揮官がすでに廊下を出た時には、綾波は食堂へと繋ぐ廊下の角を曲がり切っている頃だった。まさに俊足、韋駄天の如し。
だが、指揮官は諦めない。諦めたらそこで試合終了、もしくは指揮官生活が終了するのである。1050年は独房行きになる可能性があるのだ。
「待って――――!! 綾波――――!!!!」
そう、今日も指揮官はKAN-SEN達に振り回されている
読んで頂きありがとうございます。
なんか思っているより文章が長くなるのは何故ですかね……
次の話も近日中には出せると思うのでよろしくお願いします。