ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
タッグバトルから1週間が経ち、タツヤはようやくマシロが入院している病院を訪れる事が出来た。
大会後、マシロは病院に搬送されるも命に係わる程ではないと言う診断が出た為、一安心だった。
その後は、2日も大会に出場する為に、勉強を殆どしていなかったので、2日間の遅れを取り戻さなければならなかった。
大会の優勝賞品のガンプラはシオンに渡してマシロの元に届いているだろう。
その甲斐もあって、タツヤはマシロのお見舞いに来れるようになった。
「ずいぶんと元気そうで安心したよ」
「大げさなんだよ。たかが足首の骨折程度でさ。足なんて所詮は飾りだろ? 一本や二本くらいなくなってバトルは出来るさ」
命に別状こそなかったが、マシロの足首の踝の辺りが骨折していた為、今は足が吊るされている状態になっている。
「宇宙ならともかく、重力下では足も重要だと思うよ。人の体にタンクはつけられないんだからね」
マシロからして見れば足の一本や二本は無くても腕と違ってバトルには影響が殆ど無い為、別にどうと言う事は無いらしい。
冗談でもそんな事を言えるマシロに呆れているが。マシロは割と本気だった。
「取りあえず、これお見舞いの花なんだけど、花瓶はないね」
「その辺に置いといて。てか、花を持って来るんなら、彼岸花とか鬼灯とかさ、後は蘭や菊とかでも可」
「生憎とシオン君からマシロにエサを与えないようにと厳しく言われているからね」
タツヤは苦笑いをしながら、持って来たお見舞いの花を適当な場所に置いた。
タツヤも当初は気を利かせてガンプラをマシロへのお見舞いにとでも考えたが、シオンが先回りをして、入院中のマシロにガンプラを与えないようにと言われた。
ガンプラを与えてしまえば、それの制作に熱中する事は目に見えている。
怪我で入院しているのに、まともに休まずにガンプラを作っていれば余り意味はない。
タツヤとしても、一日でも早くマシロに退院して欲しいと言う事もあり、常識的な範囲でお見舞いを選んで来た。
「つか、お見舞いでサラッと恥ずかしげもなく持って来る辺り、タツヤさ学校とかでモテルだろ?」
「どうだろうね?」
タツヤは余り自覚は無いが、マシロの言う通り学校で女子にモテている事は事実だ。
元々の容姿はもちろんの事、その物腰柔らかい言動や家が金持ちと言う事も含まれている。
「あれか、リア充って奴か。ケッ! 俺だって年から年中ガンプラを弄っているからリア充だね!」
「今日はいつにも増してトゲトゲしいね。なんかあった?」
「あったね。シオンにガンプラを取り上げられた。俺は半日以上、ガンプラを手放した事がないってのに!」
いつの誰に対してでも攻撃的な物言いの多いマシロだが、今日は無意味に攻撃的になっている。
その理由がシオンがガンプラを取り上げた事にある。
マシロは常日頃からガンプラを弄りガンプラバトルを行って来た。
それはクロガミ一族の本家の人間としてガンプラバトルに特化した天才的な才能を持っている為、一族はマシロにガンプラバトルの実力のみを求めて来た。
それ故に幼少期からガンプラを作り続け、ガンプラバトルを繰り返す毎日で学校に通う事もなく、必要な知識は家庭教師を付けてガンプラの合間に勉強していた。
何年もガンプラをやり続けるマシロの生活はガンプラに対する愛を凌駕して狂気の域に達しているが、マシロ本人としてはガンプラだけやっていれば良い今の生活は非常に充実した生活だった。
それが一週間とはいえ絶たれている。
マシロもそろそろ我慢の限界を迎えつつある。
「それより、あれってスケッチブックだよね。マシロは絵でもやるの?」
「良くぞ聞いてくれた!」
病室の机にはスケッチブックが置かれている。
病室にあると言う事はマシロの物と言う事だ。
マシロはスケッチブックを手に取ると開いてタツヤに見せる。
「これは……モビルスーツ? AGE-1に似ているけど、少し違うな……」
スケッチブックにはモビルスーツが描かれている。
記憶の中からそれに類似するモビルスーツを思い出すが、ガンダムAGE-1に多少は似ているが、胴体部以外はかなり異なっている。
「こいつは俺が現在考えている∀GE-1の改修プランだ」
タツヤが分からなかったのも当然の事だった。
マシロは既存のモビルスーツの絵を描いたのではなく、決勝戦で大破したガンダム∀GE-1の改修プランを描いていたからだ。
病室でガンプラを触れない一週間だったが、少しでも気を紛らわせようと考えた結果の行動だった。
「∀GE-1がバトルでここまで破壊される事は珍しいからな。これはもう、新型フラグか強化改修フラグだろ? 新型にするにはまだデータが足りないからここは強化改修をする事にしたんだよ」
「へぇ……見たところ、色々と考えているみたいだね」
タツヤはスケッチブックを見て呟く。
スケッチブックにはマシロが考えたプランがいくつも描かれている。
その数は一つや二つと言う訳ではない。
「まぁね。色々と考えたけど、AGE系のガンダムが持つウェアシステムの延長上と言う設定の元、近接戦闘型と砲戦型の二種類で行こうと思う」
「マシロは砲撃は苦手だったよね」
マシロのバトルスタイルは機動力を活かした近接戦闘だ。
人間離れした反応速度を活かした戦いを得意とする為、攻撃時のタイムラグの多い大火力の武器や大型の武器の扱いは苦手としている。
「苦手だからと言ってやらないで置く訳にもいかないしな」
マシロも自分の得意分野と苦手な分野は理解している。
理解しているからこそ、得意な分野で戦えるガンプラを制作したが、これからは苦手な分野も克服して行かなければならないとも考えている。
その為の得意な近接戦闘型と苦手な砲戦型の二種類の強化プランを用意する事にした。
「でだ、今のプランだと……」
マシロはタツヤに現在の改修プランを説明する。
今までの鬱憤を晴らすかのように嬉々として説明するマシロにタツヤは時折、質問や意見などをして話しを聞く。
そうこうしている間に日が傾いていた。
「そろそろ、面会の時間も終わるし予定以上に長居をしてしまったから、僕はそろそろ帰るよ」
「なぁ……タツヤ。お前、来年の世界大会に出るか?」
面会時間の終わりが近づいた事でタツヤは帰ろうとするが、今までとは違う真剣な表情でマシロは問いかけた。
その表情に気がついたタツヤは慎重に言葉を選ぶ。
「分からない。僕自身は出たい気持ちはある。だけど、父が何ていうか分からない」
タツヤは偽る事なく答えた。
来年はタツヤは高校2年に上がる。
世界大会は毎年夏に行われている。
高校2年の夏となれば大学受験を始める大切な時期だ。
タツヤは親の後を継ぐ為に大学に進学しなければならない。
地区予選は週末などに行われるが、世界大会ともなると会場である静岡に最低でも10日程度は滞在しなければならない。
そうなると、その間は受験勉強をしている余裕はないだろう。
更には決勝トーナメントで勝ち進めば約半月は滞在しなければならなくなる。
流石にそれだけの期間をガンプラバトルに使うとなれば、タツヤの父親が黙ってはいないだろう。
「俺も次の世界大会は出場してサクッと優勝する。お前も出ろよ」
そう言って真っ直ぐタツヤを見るマシロに何も言い返す事が出来ない。
タツヤ自身、世界大会に出場したい気持ちがあるが、父に反対されると簡単にどうこう出来る問題ではない。
「才能は誰しもが持っている訳じゃない。だから才能を持って生まれて来たからにはその才能を活かす義務がある。そうでない者は万死に値する。死んだ父さんの口癖。タツヤは初めてのバトルの時、一瞬でも俺を本気にさせた。世界に俺を本気にさせるファイターは数える程しかいない。タツヤはガンプラバトルの才能がある」
「僕は……」
マシロの言葉に答える事が出来ずにタツヤは言いよどむ。
「タツヤはガンプラの為に全てを捨てる事が出来るか? 兄妹とか故郷とか全て」
質問が変わり考える。
恐らくはマシロは自分がどんな答えを返すかを見たいのだろう。
だからこそ、この答えはいい加減に答える訳にはいかなかった。
「僕には出来ないと思う。僕はガンプラが好きだ。でも、その為に家族や友人、生活を捨てると言う事は出来ないと思う。本当に捨ててしまったら、僕はきっと一生後悔すると思う。そうなれば、心の底からガンプラを楽しむ事が出来なくなるから。だから、僕は両方を取ると思うよ。それでもどちらかを選ぶのであれば捨てずに置いて来るさ。後からいつでも拾えるようにね。どちらかを捨てられないと言うのは甘いかも知れない。覚悟が足りないかも知れない。それでもそれが僕だから」
それがマシロの望む答えかは分からない。
だが、それが嘘偽りのないタツヤの答えだった。
タツヤにはどちらかを選んでどちらかを捨てると言う事は出来ない。
出来ないからこそ、両方を選ぶ。
「そっか……お前はその方がお前らしいよ」
マシロは俯いてそう言う。
俯いた事で、何か不味い答えだったかと一瞬、思いかけるもそうではないらしい。
「お前は大切なもんは捨てんなよ……捨てちまった俺の代わりに」
「マシロ?」
「何でもないよ」
俯いていた事やマシロの声が少し小さかった事もあって、最後の方は聞き取れなかったが、マシロは顔を上げると先ほどまでの真剣な表情から普段のマシロに戻っていた。
「何が言いたかったかと言うとだな。お前の親父が出るなって言っても気にせずに出ろって事だ。もっと強くなって世界大会で俺が相手をしてやる。どうせなら、決勝戦が良いな。その方が面白い。けど、あんまりモタモタしてっと俺は世界王者になってるぜ」
「その時は、僕がマシロから王者の座を奪う事にするよ」
「ふぅん」
マシロへの勝利宣言でマシロの目つきが鋭くなるが、口元は笑っている。
タツヤもマシロに対して精一杯の強がりを見せる。
「それじゃまた来るよ」
ある意味、マシロに対して宣戦布告を行ったタツヤは病室を出る。
それと入れ違いにシオンが病室に入る。
「今日は遅かったな」
「空気を読みましたので」
シオンがタツヤと入れ違いになったのは偶然ではなかった。
タツヤが見舞いに来ていた為、シオンは気を利かせていた。
だから、タイミング良く入れ違いとなっていた。
「それで、そろそろ見つかったのか?」
「ええ。見つかりました」
シオンはここ数日の間にマシロの兄の一人の居場所を探していた。
マシロの兄弟の一人にクロガミ一族本家の主治医がいる。
その兄は世界的名医である為、その兄にマシロの怪我を治療させようとしていた。
「そっか。そんな今日の内に向かう」
「すでに手続きを済ませておきました」
兄が見つかった時点でマシロがそう言う事はシオンも分かっていた為、タツヤが見舞いに来ている間にマシロの退院手続きを済ませていた。
病院側はマシロの怪我の具合もある為、渋っていたが金を掴ませて黙らせている。
「その前にユウキ様に一言挨拶しては如何です?」
「何で?」
マシロは心底意外そうにしている。
タツヤとの付き合いは差ほど長くはないが、大会に出るにあたり最も深く関わった相手でもある。
そんなタツヤに日本を発つ前に一言挨拶を入れると言うのは当然の事だ。
「別に一生の別れって事でもないんだ。別に挨拶の必要はないだろ」
「マシロ様がそれで構わないのでしたら」
シオンもマシロがその必要はないと思っている以上は何も言う事は出来ない。
その日の内に荷造りを終えて、次の日にはマシロは日本から姿を消していた。
マシロとタツヤの出会いと別れから半年後、マシロは再び日本の地を踏んでいた。
季節は廻り冬となり、半年前は季節感の無かった白いマフラーも今の時季には合っている。
この半年で足の怪我を完治させたマシロは世界大会の出場権を得る為に日本第一ブロックの地区予選が行われる静岡県を訪れる事となった。
「ここが聖地静岡か……さて、まずはホビーセンター見学だな」
マシロは白い息を吐きながら、空港から事前に用意させた車に乗り込む。
静岡の地にて、マシロの新たな戦いが始まる。