ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
日本第一地区のファイターのデータを取る為に開催されたガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会は当日を迎えた。
集まったファイターは100を超えている。
ホワイトファングが開店する前に、マシロはホワイトファングを訪れて応接室で待機していた。
応接室にはいくつものモニターが持ち込まれており、大会のバトルを常に監視する事が出来るようになっている。
ホワイトファングを訪れたのはマシロだけで、レイコはホテルで自分の本来の仕事をしながら待機している。
レイコは録画した映像だけで十分だが、マシロはモニター越しとはいえ生でバトルを見たいと言う希望もあっての事だ。
「武器を与えれば戦う。人類とは愚かだな」
「シロ君、悪役みたいな顔してますよ~」
モニターにはすでに会場を訪れたファイター達が映されており、マシロは応接室のソファーに座り込んでその様子を見ている。
ワイングラスに注がれた牛乳を飲む様はまさに物語の黒幕を思わせる。
「一度やって見たかったんだよ。こういうの。俺ってさ、ザ・主人公って感じだろ?」
「…………まぁ、そうですね~」
マシロに対してイチカはずいぶんと間を開けて答える。
実際は露程にも思っていないのだが、マシロに合わせて答えている。
マシロはホワイトファングのオーナーとなっているが、オーナーは名目上で実際は店の経営方針はマシロが指示を出して、それに合わせてイチカホワイトファングを取り仕切っている。
そんなマシロの機嫌を取るのもイチカの仕事の一つだ。
一見、のほほんとしているように見えるイチカだが、長い物には迷わず巻かれて、上司の顔色を窺う事に長けている。
ホワイトファングの店長にバイトから抜擢されたのも、その才能を見出されての事だ。
「それにしても大変だったんですよ~これほどの人数を集めるのは~」
「だろうな」
大会自体、この地区のファイターのデータを集める事を目的に開催されている為、大会の告知にはネットを初めとした不特定多数の人間が見る事の出来るツールは使っていない。
基本的にホワイトファングの客を中心にビラを配ると言うアナログな手段を用いていた。
それを行う為にイチカは客に手当り次第にビラを配って参加者を集めてた。
「さて……面白そうな奴はいるかな」
マシロはイチカの苦労アピールを軽く無視する。
すでにマシロの頭の中は大会のバトルを見る事に集中していた。
大会の開始予定時間となり、大会は開始された。
開会式から始まり、参加者の組み合わせのクジを行いバトルが開始される。
参加者は100人を超えている為、一つつづバトルを行ったら時間がかかりすぎる為、複数のバトルシステムを使って同時進行で行われる。
アオイ達もそれぞれ指定されたバトルシステムでバトルを始める。
「悪いな。一気に活かせて貰う!」
エリカはバトル時には長い髪を括ってバトルしている。
コウスケとのバトル以降、改良していたガンプラ「アサルトルージュ」で対戦相手のダナジンを責め立てる。
エリカのアサルトルージュのベース機であるストライクルージュはガンダムSEED及び続編のSEED DESTINYに登場するモビルスーツでSEEDの前半の主人公機であるストライクガンダムのデットコピー機だ。
大幅な改造は無く、右手にビームライフルと左腕にシールドの基本装備に加えてバックパックのストライカーパックにはパーフェクトストライクのマルチプルアサルトストライカーからアグニを外した物を装備している。
エースストライカーの推力を活かしてアサルトルージュは一気にダナジンに接近する。
ダナジンも両腕のビームバルカンと頭部のビームシューターで迎撃する。
バトルフィールドは密林と足元が悪く、自然環境化における踏破性を重視しているダナジンの方がフィールド的には有利だが、アサルトルージュは足場を関係なしに推力に物を言わせて突撃して来る。
「おらぁ!」
エリカの気合の入った掛け声の同時にアサルトルージュはバックパックの対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いてダナジンを一刀両断にしてエリカは勝利した。
別のバトルシステムではレッカもバトルをしている。
対戦相手のガンプラはジムⅢだ。
ジムⅢはビームライフルを放つが、レッカのビギニングガンダムRは回避しながらバックパックのバーニングソードRを両手に持って接近する。
ジムⅢは肩の中型ミサイルを放つが、ビギニングガンダムRはビームバルカンで迎撃する。
迎撃されたミサイルの爆風からビギニングガンダムRは飛び出して来て、ジムⅢはビームライフルを向ける。
「遅い」
ジムⅢがビームライフルを撃つよりも早く、懐に飛び込んだビギニングガンダムRはバーニングソードRでジムⅢの右腕を切り落とす。
そして、すぐにもう片方のバーニングソードRをジムⅢの胴体に突き刺して撃破した。
大会が開始され、各バトルシステムで白熱したバトルが繰り広げられている中、アオイとタクトはバトルシステムを挟んで対峙していた。
100人を超える参加者の中から偶然にもいきなり、二人がぶつかる事となった。
「行き成りアオイとか……まぁ、こうなったからには仕方が無いな。互いに全力を尽くそうや」
「うん。僕もカガミ君とバトルする為に負けません」
アオイはレッカとの再戦の為に大会に出場している。
この一週間の練習で再選に賭けるアオイの意気ごみはタクトも知っている。
だが、対戦相手としてぶつかった以上は手加減をする訳にはいかなかった。
アオイとタクトはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。
アオイはいつものビギニングガンダムBだが、タクトのガンプラは以前のギャプランではなかった。
ギャプランTR-5[フライルー]……ギャプランを改修したモビルスーツでアニメではなく雑誌企画や漫画、小説などで展開されているZガンダムの外伝作品である「ADVANCE OF Ζ ティターンズの旗のもとに」に登場している。
「タチバナ・アオイ。ビギニングガンダムB……行きます!」
「キサラギ・タクト! フライルー……行くぜ!」
二人がバトルするバトルフィールドはコロニー内だ。
コロニー内は基本的には地上戦と変わらないが、コロニー内と言う設定が反映されている為、コロニーへのダメージレベルでバトルフィールドが更新される。
「まずは挨拶行くぜ!」
タクトのフライルーはロングブレードライフルで先制攻撃を行う。
距離もあり、タクト自身の腕もそこまで高くない為、ビギニングガンダムBは簡単に回避してハイパービームライフルで反撃する。
フライルーは変形してかわすとロングブレードライフルを撃ちながら接近する。
「前よりも速い!」
「当然!」
ビギニングガンダムBの接近して再度変形したフライルーはロングブレードライフルを振り下ろす。
それを、シールドで受け流してハイパービームライフルで反撃するが、フライルーは後方へ下がりながらロングブレードライフルを放つ。
「くっ!」
ビギニングガンダムBはシールドを掲げるが、さっきの攻撃を受け止めた時にすでにシールドに切り込みが入っていた為、シールドが破壊される。
「シールドが!」
それだけに留まらず、シールドが破壊された衝撃でビギニングガンダムBはビルに落ちた。
「カガミの奴と再戦させてやりたいが、これも勝負だ。悪く思うなよ」
「まだ、僕は負けてません!」
ビルに落ちながらもハイパービームライフルを連射してフライルーに狙いを付けさせないようにする。
フライルーはロングブレードライフルにビームが掠るとライフルを捨ててモビルアーマー形態に変形して旋回しながら、チャンスを伺う。
「行けると思ったんだけどな」
「僕にだって勝ちたい理由がありますから簡単に諦めませんよ」
「知ってるよ。なら、俺に勝って見せろ! アオイ!」
フライルーは旋回して、ビギニングガンダムBにビームキャノンを放つ。
ビギニングガンダムは飛び退いて、ビームバルカンで反撃する。
その攻撃はフライルーのスラスターノズルの一つに直撃して煙を上げた。
「やべ!」
「そこです!」
スラスターノズルへの被弾からバランスを崩したフライルーをビギニングガンダムBはハイパービームライフルを撃ち込んだ。
まともに回避も防御も取れずに直撃を受けたフライルーは撃墜された。
「負けたぜ。今回は本気で行けると思ったんだけどよ」
「偶然ですよ。最後の奴が無ければ勝負は分かりませんでした」
素直に負けを認めたタクトに対してアオイは謙遜気味にそう言う。
実際のところ、アオイの言うようにビームバルカンが偶然にもフライルーのスラスターノズルに被弾しなければ勝負の行方は分からなかった。
それでもアオイの勝利には変わらない。
「途中までは優勢だったのによ。なっさけねぇの……」
「そんな事は無いですよ。キサラギ君」
優勢からの敗北で少ししょげるタクトに店員の一人が慰めの言葉をかける。
黒い髪の三つ編みに厚いレンズの丸眼鏡をかけているその店員は一言で言えば非常に地味な印象を受ける。
ホワイトファングは店の規模も大きい為、店員の数も多い。
その為、アオイはその店員の事は知らないが、タクトの方は顔見知りの様だ。
「ミズキさん……参ったな。かっこ悪いところを見ちゃったな」
ミズキと呼ばれた店員に対してのタクトの言動からアオイでもタクトが彼女に対して好意を持っていると言う事は理解出来た。
彼女のエプロンの胸元のネームプレートにはミズキと書かれており、タクトに呼ばれた事からもそれが彼女の名であると分かる。
「そんな事ありませんよ」
ミズキに慰められているタクトを横目に会場の普段は広告などが映されている大型モニターに他のバトルの結果が映されているのを見て、アオイはエリカとレッカが勝利したと言う事を知った。
「シシドウさんもカガミ君も勝ったみたい」
「だな、お前も俺に勝ったんだ。カガミの奴に当たるまで負けんじゃねぇぞ」
タクトのエールを受けて、アオイは次のバトルの相手が決まるまでの間に気合を入れ直した。
会場で同時進行しているバトルを複数のモニターでマシロは観戦していた。
モニターには別々のバトルの様子が映されているが、マシロはそれらすべてを同時に観戦し、完全にバトル内容まで把握していた。
「まぁ……こんなもんだとは思ってたけどさ」
マシロは少し飽きて来たのか、応接室のソファーに寝そべって観戦している。
どのバトルもマシロにとっては得る物の何もない退屈なバトルでしかなかった。
それでも万が一と言う事もあって、マシロにしては珍しく根気強く観戦していた。
「ん? 今の……」
マシロは不意にモニターの一つに目を止めた。
それはアオイとタクトのバトルだ。
ちょうど、アオイのビギニングガンダムBのビームバルカンがタクトのフライルーのスラスターノズルを破壊した場面だ。
傍から見れば偶然で、本人たちも偶然だと思っている偶然からのアオイの逆転勝利にマシロは何かを感じていた。
ガンプラバトルにおいては人並外れた嗅覚を持つマシロが偶然にしか思えない出来事に些細な違和感を持った。
その違和感の正体にはまだ辿り付いてはおらず、それ程、興味が湧いて来る程でもない。
そうこうしている間にバトルが終了していた。
「まぁ……良いか」
釈然としないながらも、余りにも些細過ぎて心の片隅にでもおいておけばいいと判断したマシロは別の画面と見ようとするが、再びアオイとタクトが映っているモニターに視線を戻す。
「あの店員……どっかで……」
タクトを慰めている店員、ミズキを見てマシロはそう感じた。
マシロがホワイトファングには何度もこっそりと訪れている。
その時に見たかも知れないが、パッと見では地味過ぎて覚えがない。
視線の端に止まっただけの相手かも知れないが、どうもそう言う感じではない。
マシロはホワイトファングのオーナーではあるが、最初の従業員を雇う時も全く採用には関わっておらず、レイコに丸投げしている。
採用自体はクロガミグループのやり方である為、応募した時点で採用は確定しているが、一応は面接を行っている。
その際にもマシロはレイコに任せて、面接や企業スパイの可能性を探る為の素性や思想の調査も全てレイコ任せだ。
そのせいもあって、マシロはオーナーながらも従業員の事には一切、関知していない。
「まぁ……良いか」
ミズキに見覚えがあろうと、マシロにとっては全く重要ではない。
ミズキの事を思い出せなくても、ガンプラバトルには何の影響もない。
影響ななければ時間を使ってまで思い出す必要がない。
すぐにミズキの事から他のバトルの方に意識を向けた。
マシロはまだ決着のついていないバトルに集中し、アオイのバトルから感じた違和感やミズキへの見覚えを完全に頭の中から消していた。