ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
ガンプラ専門店「ホワイトファング」のショップ大会の日程は初日でベスト4までを決める事になっていた。
バトルに勝利して勝ち残ったファイターは次のバトルまでにバトルで損傷したガンプラを修理する為の工具やパーツを店側から無料で提供を受ける事が可能となっていた。
これはバトルとバトルの間の限られた時間でガンプラの修理や補強を行えるかと言うガンプラビルダーとしての実力を測る為の事だった。
大会が問題なく進み、エリカとレッカは危なげなく勝ち進み、アオイは試合ごとに追い詰めながらもギリギリのところで勝利してベスト4に名乗りを上げていた。
「これがベスト4に残ったファイターの資料で~す」
大会の一日目の日程を終えて、イチカがバトルの資料をマシロに渡す。
大会の予定では3日後に残りのバトルが行われる。
わざわざ、日を開けて行う事で今日のバトルの経験をどのようにして次に活かすかを見る為だ。
その間、ホワイトファングのバトルシステムはベスト4に残った4人は優先的に使用できる。
「全部のバトルを見たからいらない」
「ですよね~」
イチカは一応は今日のバトルの展開や結果をこと細かくまとめた資料を用意しておいたが、マシロは興味のない分野の事は全く覚えれないが、ガンプラバトルに関する記憶力は無駄に良い。
今日だけで多くのバトルが行われたが、その全てを記憶しているのだろう。
イチカも分かっていても、仕事である以上は資料をまとめなければいけなかった。
尤も、マシロは必要が無くとも、レイコの方は必要である為、全くの無駄ではない。
「それで気になる子はいますか~? 私の一押しはやっぱりゲンドウ君かな~」
「ゲンドウ・ゴウキね……ゴッドガンダムの改造機を使ってた奴か。確かにあのパワーは目を見張る物があるけど、パワーファイターならタイのルワン・ダラーラの方が上だね」
イチカが押すベスト4のアオイ、エリカ、レッカに並ぶ4人目のゴウキの事をマシロは評価する。
ゴウキのこれまでのバトルはゴッドガンダムの改造機、ゴッドタイタスによる圧倒的なパワーで勝利して来た。
だが、マシロからすればタイのファイター、ルワン・ダラーラの方が強いと断言できる。
それも当然の事だ。
ゴウキは実力はあるが、地区大会の上位どまりでルワンはタイ代表として何度も世界大会に出場している。
比較対象としては地区大会レベルと世界レベルとでは実力差があって当然だ。
「他の三人はともかく、一番気になるのはタチバナ・アオイだ」
「タチバナ君……ああ、あの子ですか~」
イチカはアオイの事を思い出す。
だが、4人の中で唯一ギリギリのところで勝ち進んでいる為、マシロが気にする理由が分からない。
「アイツのバトルは全てギリギリで勝って来た。これだけを見ると大した実力ではないように見える。けど、今日のバトルを全て総合すると不可解なんだよ」
マシロはそう言うが、イチカにはアオイのバトルの不可解さが見えて来ない。
「レイコが用意した参加者の過去の戦績にも目を通したんだけどな。そうしたら更に訳が分からない事になった」
そう言われてイチカもアオイの過去のデータを見るが、見た限りでは勝敗は五分五分と言ったところで特出すべき事は無い。
だが、マシロはそのデータから何かを感じ取ったようだ。
「たとえば、今日の一回戦で当たったキサラギ・タクトは過去に何度もバトルをしている。最初と今日のバトルではタチバナ・アオイの実力はかなり向上している。それに対してキサラギ・タクトの方の実力にはさほどの変化はない。しかし、結果は初めてのバトル同様にギリギリの勝利だ」
「でも~キサラギ君は新しいガンプラを使ってましたよ~」
「確かにな。けど、データを見る限りではギャプランとフライルーの間に完成度の差はない。多少の差異はあっても大きく変わる程じゃない。バトルフィールドも似たような場所だしな」
過去のデータを比較し易いデータをしてマシロはタクトとのバトルを持ち出した。
アオイとタクトと初めてバトルした時と今日の一回戦でバトルした時において、アオイの実力は大きく上がっている。
タクトの実力は大して上がっていないのに結果としてギリギリで勝利している。
イチカはタクトがガンプラを変えた事を指摘するも、過去のデータにあるギャプランと今日のフライルーの間に大きな差はない。
ガンプラバトルにおいてのガンプラの強さはガンプラの完成度に比例する。
作中で強化改修されて性能が向上していると言う設定があろうとも、完成度が下がっていればガンプラバトルでは弱くなると言う事も珍しくはない。
無論、装備が増える事などを考慮しても、ガンプラの性能向上で実力差を埋める程ではないとマシロは考えている。
そう考えると本来は楽に勝てる筈の相手に苦戦したと言う事になる。
「じゃぁ~タチバナ君は手を抜いていたって事ですか~」
「そんな感じが無かったから不可解なんだよな」
アオイがバトルで意図的に手を抜いていたとなれば辻褄が合う。
ガンプラバトルにおいて、自分の手の内を隠すと言う事は世界大会でも使われる手段でもある。
マシロ自身、バトルで手を抜いた事は無いが、全力で戦った事も数える程しかない。
だが、アオイのバトルを見た限りではそうは見えない。
マシロですら見抜けない程の高度な技術でやったとも考えられるが、自分のガンプラバトルへの嗅覚を絶対的に信じているマシロはその可能性はないと考えている。
同時にデータを解析したレイコの方でも似たような結果が出ていた。
マシロとレイコが違う方面からのアプローチで似た結果が出たと言う事はマシロの勘違いと言う線はない。
「まぁ、それだけの事で全力を出しても大したことはなさそうなんだけどさ。思った以上に強い奴が出て来ないからな。どうせだから、もう少し試してみたいんだよね。レイコは世界大会を前に不確定要素は減らしておきたいみたいだし」
アオイのバトルは不可解に思えたが、マシロからすれば脅威とはなり得ない。
放っておいても問題なないが、不可解な事を不可解のままにしておく事はレイコは好まなかった。
「だからさ、次の対戦カードを操作して欲しいんだけど出来る?」
「もちろんですよ~」
マシロはアオイの実力は脅威には値しないと考えているも、レイコの方は不可解なバトルをしたアオイを不確定要素と考えていた。
その為、アオイの情報を更に集めたかった。
マシロの問いにイチカはいつも通りに間延びした口調で答えた。
ショップ大会から1日が明けてアオイはタクトと共にホワイトファングで練習を行っていた。
何とかベスト4に残れたと言っても他の3人とは違ってアオイはギリギリのところで勝ち進んできた。
2日後の準決勝で勝つ為にも更なる練習が必要だとアオイは大会を通じて痛感した。
「今日はシシドウさんは来てないんですね」
「何か、家の用事らしいぜ。まぁ、明後日にはシシドウと当たるかも知れないんだ。一緒に練習する訳にもいかないだろ」
アオイはあたりを見渡すも、エリカの姿は無かった。
家の用事らしいが、準決勝でエリカと当たる可能性がある以上は練習を見られないのはこちらの情報を出さずに済むと言う事にもなる。
「ベスト4に残ったファイターは皆、近接戦闘型だ。アオイは距離を取っての射撃戦なら結構強くなって来てるけど、懐に入り込まれたら途端に動きが鈍る。多少はマシになっても準決勝で戦うには近接戦闘ももっと出来るようにしないと不味い」
アオイは射撃重視の戦い方を得意とするが、他の3人は近接戦闘を得意としている。
その上、レッカは素早い連続攻撃を、エリカは推力に物を言わせた突貫、ゴウキはパワーバトルを方向性も違う。
練習の成果で以前のように接近されると弱いと言う弱点はある程度は克服したが、ベスト4に残ったファイターを相手にするには実力不足は否めない。
「今日と明日でどこまでやれるか分からないが、やれる事だけはやってみようぜ」
「お願いします」
「気にすんなよ。取りあえずは距離を取っての射撃は禁止な」
2日で出来る事は限られているが、勝ち進む為には必要な事だ。
その練習の為に敢えて得意の射撃を封印して近接戦闘でタクトとバトルする。
「練習とはいえ俺も勝つ気で行くからな。今日は勝利の女神が付いてるから負ける気はしないね」
そう言うタクトの後ろにはバイトが休みなのか私服のミズキが二人のバトルを観戦しようとしている。
ミズキの前でかっこ悪いところは見せられないのか、タクトはいつもよりも気合が入っている。
二人はGPベースをバトルシステムにセットして、練習を始める。
大会の翌日、マシロはホテルにて珍しく正装をしていた。
素人目にも仕立ての良い白いスーツを着用し、白いネクタイを付けてきっちりと髪も整えていた。
普段は周りに言われて人前に出ても恥ずかしくない最低限の身だしなみしか整えていない為、こうしてきちんとした格好をすると普通に美少年に見えるから不思議だ。
「誰?」
「酷くない?」
そんなマシロを見たレイコの第一声がそれだ。
余りにも普段のマシロとは別人過ぎて一瞬、誰だか分からなかった。
「てか、なんで俺が兄貴とパーティーに参加せにゃならんの」
「仕方が無いでしょ。ユキト兄さん直々の指名なんだから」
マシロが正装しているのには理由があった。
昨日の夜にマシロやレイコの兄のユキトから連絡があり、翌日にユキトが招待されているパーティーにマシロを同行させると言って来た。
マシロ側の都合を一方的に無視しているが、一族の長であるユキトの命令にマシロもレイコも拒否する事は出来ない。
「私としては非常に不安なんだけど」
「俺だって面倒だよ。今日は一日ここでバトルする気だったのによ」
マシロはあからさまに不服そうにしている。
今日はマシロはホテルでひたすらバトルをする予定だったが、その予定を大きく狂わされている。
一方のレイコはマシロを同行させる理由に不安を抱いていた。
「一応、聞いておくけど自分の役目は分かってるんでしょうね?」
「女を落とすんだろ? 相手を落とすのはいつもやっている事だ。大丈夫だろ」
マシロはそう言うが、レイコには何が大丈夫なのか理解できない。
マシロは軽く言っているが、マシロが言う「落とす」とはガンプラバトルでの話しで、今日のパーティーでの「落とす」とは意味がまるで違う。
ユキトは今日のパーティーでマシロにある人物を落とさせるつもりだった。
「あんたねぇ……確認するわよ。ターゲットはシシドウ・エリカ。シシドウ家の一人娘よ。偶然だけど、昨日の大会のベスト4に残っているけど、アンタの事だから覚えてないから後で写真を用意しとくわ」
マシロが落とすべき相手は、エリカであった。
レイコは昨日のバトルでエリカの顔を知っているが、マシロは大して興味が無かった為、顔は覚えてはいない。
「けど、なんで俺が……」
「彼女の実家は運送関係で独自のルートを持ってるからそれが欲しいんでしょうね。兄さんは……その為にアンタとこの子をくっつけさせばシシドウ家を乗っ取る事も出来るわ」
「回りくどいよな。俺としては兄貴が結婚しろって命じれば別に誰とだって結婚しても構わないし。俺の邪魔さえしなければ」
エリカの実家のシシドウ家は運送業の会社を営んでいる。
その会社は大企業と言う程ではないが、それなりの規模で独自のルートを持っている。
ユキトはそのルートを手に入れる為に、マシロをエリカと結婚させる算段をしている。
エリカは一人娘である為、結婚するとなればマシロが婿養子に入るだろうが、マシロにとってはクロガミの名を名乗る事には意味がない。
その後はマシロにユキトが指示を出してシシドウ家を動かせば実質的にシシドウ家はクロガミ一族の物になったと言っても良い。
マシロとしては、ユキトに言われれば例えどんな相手だろうと、ガンプラバトルの邪魔にならなければ興味はない。
「うちは世界に名だたるクロガミグループなのよ。それが取るに足らない中小企業と対等な取引をするなんてプライドが許さないのよ。強引な策は最後の手段に取っておくとして、一番理想的なのはアンタとシシドウ・エリカが恋愛関係になって結婚するって事」
マシロ本人は自覚は無いが、クロガミ一族の本家と言う肩書だけでも価値はある。
その肩書に群がって来る連中も少なくはない。
当然、自分の娘をマシロの嫁にしたいと考えている者も居るだろう。
エリカの父がその手の人間かは分からないが、言い寄って来た相手を嫁にすると言うのはクロガミ一族のプライドが許さない。
特に今回はシシドウ家の持つ運送ルートが欲しい為、プライドが邪魔をして下手に出る事が出来ない。
故にマシロとエリカが自然とくっ付けばクロガミ一族の面目も立つ。
「つまり、一族の名誉を守る為に俺に恋愛ごっこをしろって事か……くっだらねぇ」
マシロからすれば、一族の名誉や面目を守ると言う行為に対して意味を見出す事は出来ない。
そんな物に拘っていたところで、それは邪魔でしかないからだ。
「まっアンタには守るプライドとか名誉とかはないからそう言えるのよ」
「プライドとか名誉とかを守って強くなれるなら死んでも守るさ。けど、そんな物は強くなる為には糞の役にも立たないからいらねぇ」
マシロにとって重要なのはガンプラバトルに勝つ事。
そして、その為の強さを得ることだ。
ファイターとしての矜持を捨てた勝利にはつまならく意味がないが、自分をファイターとして高める為ならば、それ以外の誇りもプライドも必要はない。
その為にマシロは過去のビルダーが制作したガンプラや実力のあるファイターのバトルを徹底的に研究して、必要であれば自分のガンプラやバトルに取り入れている。
「アンタの言いたい事も分かるけどね。世の中綺麗事だけじゃ生きられないわ。けど、分かってるわよね」
レイコもマシロの言いたい事は分かっている。
レイコも自分の目的の為なら手段を選ばないタイプの人間だ。
マシロとは方向性こそはあ違うが変なところで意見が合った。
「当たり前だ。面倒だけど、兄貴の命令じゃどうしようもないさ。拒否って一族から追い出されても敵わんしな」
一族の面目を守る事はどうでも良いが、これがユキトの命令である以上はやらなければ、一族にいられなくなるかも知れない。
それは非常に不味い。
だからこそ、気が進まなかろうとやるしかない。
「少し前までの俺には難しいミッションかも知れなかったが、今の俺には余裕だ」
「根拠はある訳?」
マシロは非常に自信があるようだが、レイコからすればまともに外の人間と接する事のないマシロが異性を口説き落とすなどガンプラバトルで世界大会を制するよりも難しく思える。
「俺はこう見えてキャラを作るのは得意だ。やっぱ、無個性の人間がバトルで勝ちまくってもつまらないからな。日夜キャラを演じる事を練習して来た。女にモテそうな感じならまぁ……それっぽいキャラを作れば多分、行ける」
マシロは自身満々だが、レイコは不安しかない。
「それと彼女はショップ大会に出てるからガンプラバトルをやっているみたいだけど、その話題は避ける事」
「何で? 共通の趣味の話題で攻めるのはセオリーじゃん」
「普通ならね。けど、アンタの場合は特殊過ぎて普通じゃないのよ。確実に引かれるわ」
一般的に異性を相手にする際に互いの共通した趣味の話をする事は正しい。
しかし、マシロの場合は趣味と言っても度を超えている。
その為、下手にガンプラ関係の話題で話すと興味を引かれるどころか、普通に引かれてしまう危険性が非常に高い。
「まぁなるようにしかならないけどね。兄貴だってそこまで期待してる訳でもないだろうしな」
今回マシロを連れて行く最大の理由は単にマシロがエリカと一番歳が近いと言うだけの事だ。
ユキトの方も強硬策を取る前に一応手を打ったくらいの認識でマシロが上手く行くとは思ってないだろう。
だからこそ、失敗してもお咎めは無いと見て良い。
結局のところ、ユキトはマシロに何も期待してはいないのだから。
準備を終えたマシロがホテルを降りるとすでに、車が待機していた。
その車にはマシロの兄でクロガミ一族の現当主であるクロガミ・ユキトが待っていた。
まだ、20代も後半だが、世界有数のクロガミグループを取り仕切っている。
「速く乗れ」
「久しぶりに弟と会ったのにそれかよ」
ノートパソコンで仕事をしているのか、ユキトはマシロの方を見ようともしないでそう言う。
マシロがユキトと直接会うのは、父親の葬式以来かも知れなかった。
数年振りに直接会う弟に対する態度に文句を言うが、ユキトは気にした様子はない。
運転手が車のドアを開き、マシロは文句を言いつつも車に乗り込む。
マシロが乗るとドアが閉められ、車は目的地に向かって進み始める。
「それでどうなんだ?」
「今日の事を言ってんなら多分、行ける」
相変わらずマシロの方を見る事無く、質問するユキトにマシロも頬杖をついて窓の外を見ながらぶっきらぼうに答える。
「大会の方だ」
「そっちね。兄貴がレイコを付けたから、今年は余裕。本命の来年もまぁ……大丈夫だろ」
マシロにとっては今年の第6回の世界大会は保険でしかない。
世界大会で優勝すれば、世界チャンピオンとしての名声やその証である優勝トロフィーを初めとした名誉等だけでなく、翌年の世界大会において大会の主催者であるPPSE社から特別招待枠の一つが貰える。
その為、今年の世界大会に優勝しておけば、来年開かれる第7回目の世界大会では地区予選から出場する必要がなくなる。
その特別招待枠を得る為にマシロは今年の世界大会に出場するつもりだった。
例え、今年の優勝を逃しても来年も地区予選から出場すれば良い為、今年は保険としての意味合いが強い。
今年の内に特別招待枠を獲得していれば来年が地区大会に出る手間が省けるが、結局のところ世界大会を2回も優勝する必要があり、今年優勝してしまえば来年は世界中のファイターあら注目され、バトルの対策を練られるが、マシロからすれば世界大会を優勝するのも、普段のバトルで勝ち続ける事との間に違いはない。
マシロが所属しているチームネメシスの会長からは第7回大会で優勝すると言うのがマシロとネメシスの間にかわされた契約内容だ。
来年の7回大会はプラフスキー粒子が発見されてから10年目となる節目の年である為、特別に7回大会の優勝者には優勝トロフィー以外にも様々な副賞が与えられる。
それを手に入れる為にチームネメシスはマシロと契約した。
「チームの事はどうでも良いが、お前が世界の表舞台で絶対的な勝者となる事は一族としても重要な事だ。負ける事は許さんぞ」
「兄貴、なんか企んでんの?」
マシロは横目でユキトの方を見ながらカマをかける。
所詮はガンプラバトルは遊びの範疇を出ていない。
これがスポーツなどならクロガミ一族の人間が頂点に立つ事には意味があるが、ガンプラバトルで頂点に立ったところで一族にとってはさほど重要ではない筈だ。
「いずれはお前にも伝えるが、今は関係ない話だ」
マシロのかけたカマを気にする事無くユキトはそう言う。
そこから、クロガミグループが水面下で何かしらの計画が進行していると言う事が分かる。
それも、マシロに話すと言う事はガンプラバトルが関係していると言う事になる。
マシロに話すと言う事はそれしか考えられない。
だが、何をやろうとしているかは考えたところで分かる訳もなく、調べたところでレイコに頼んでも全貌は見えないだろう。
レイコとしても、表だってユキトに反抗する事はない。
「あっそ……」
結局のところ、マシロには何も出来ない為、考えたところで意味はない。
その時が来れば嫌でも分かる事もあって、マシロはその事を考える事を止めてそこで兄弟の数年振りの会話は終わった。
準決勝を二日後に控えたエリカは父親に同行してパーティーに出席させられていた。
パーティーは何かを記念する物だとは聞かされていたが、実際には何かを祝うと言うよりもパイプ作りがメインなのだろう。
エリカも着慣れないドレスを着せられて、父の後ろをついて適当に愛想笑いをしているだけだ。
「これはシシドウ社長。ご無沙汰しています」
愛想笑いにも飽き飽きしていたところに父に一人の青年が話しかける。
エリカもその青年の事はニュースで見た事があった。
「クロガミ会長。活躍は私の耳にも届いていますよ。先代亡き後のグループをまとめ上げているとか」
「まだまだ至らない若輩者ですよ」
クロガミグループの現総帥であるユキトは爽やかな笑みを浮かべてそう言う。
エリカのクラスの女子もそのルックスからユキトのファンが多く、何度もエリカの立場から会った事は無いかと聞かれる事も珍しくはない。
エリカ自身は余り興味はなかったが、クラスの女子が熱を上げるのも分かる気がした。
そんなユキトの後ろにはマシロが付いていた。
マシロの方を見た時に不意に視線が合い、エリカは思わず視線を逸らしてしまう。
「そちらの彼は?」
「紹介します。弟のマシロです」
「マシロ・クロガミです。よろしくお願いします」
ユキトに紹介されて、普段のマシロを知る者からすれば目を疑うような礼儀正しい挨拶を行った。
マシロも伊達にクロガミ一族の本家を名乗っている訳ではない。
普段は面倒がっているだけで、公の場での礼儀作法は一通り叩き込まれている。
「いつもは自分のアトリエに籠って作品の制作にかかりきりで、社交の場に出る機会がない不作法な弟ですが、今日はマシロが社交の場に出る良い機会だと思って連れて来たんですよ」
「ほう……弟さんは芸術家でいらっしゃるんですか。クロガミ会長の弟さんの作品だ。さぞかし素晴らしい物を作るんでしょうな」
「まだまだ。人にお見せする代物ではありませんよ」
物は良いようである。
実際、マシロの作る作品はガンプラを指している為、ユキトは嘘はついていない。
そして、人に見せるレベルではないと言っておけば、マシロの作品を無理に見ようとはしないだろう。
尤も、表向きは人に似せられる物ではないと言って、納得してもクロガミ一族の本家に名を連ねているマシロが作る作品が人に見せられない程の稚拙な物だとは相手も思わない為、一族としての名誉を傷つける程の事ではない。
「それで、社長。例の件の事ですが……」
「おお。そうですな。エリカ、父さんは仕事の話をするから向こうに行ってなさい」
ユキトとエリカの父の間ですでに何かしらの仕事があるらしく、その事を話すようだ。
エリカは自分で連れておきながら、邪魔になれば一人で放置する父に軽くイラつきながらも、必死に顔に出さないようにする。
「申し訳ない。エリカ嬢。マシロ、お前がエリカ嬢をエスコートして差し上げなさい」
「分かったよ。兄さん」
「いえ……アタ、私は一人でも……」
まるでエリカが一人になる事を見越していたようにユキトはマシロにエスコートを命じてマシロはそれに答える。
エリカとしてはいいとこのボンボンと二人きりにされても困るが、ユキトの言葉を受けたマシロにエスコートされてパーティー会場の端まで連れていかれる。
実力行使をすれば、流石に父に迷惑がかかる為、エリカは殴り倒したい気持ちを抑えた。
「済みません。うちの兄が」
「まぁ……うちの父も乗り気みたいですし」
エリカは言葉使いを細心の注意を払って答える。
シシドウ家としても、クロガミ一族との繋がりは会社にとっては大きな利益をもたらす。
だからこそ、親子程歳の離れているユキトに対しても下手に出ている。
「それはそうと、エリカさん。ご趣味は?」
「はい? ガンプラバトルを少々……っ」
何の脈拍もなく、話題を変えて来たマシロの質問にエリカは反射的に答えてハッとした。
今では世界大会を開かれる程に広まったガンプラバトルだが、マシロ達のような上流階級の人間にはただのお遊びでしかなく、一社長令嬢の趣味としては少々野蛮だ。
「それは大層なご趣味をお持ちで」
だが、マシロの反応はエリカの予測の正反対で好感触だった。
「僕も立体芸術に携わる身としてはこの国の模型技術、特にアニメ「機動戦士ガンダム」を初めとした所謂、ガンダムシリーズに登場する機動兵器モビルスーツを模型化したプラモデル、通称ガンプラは実に素晴らしい。最初のガンダムの放送やガンプラの発売は半世紀以上も昔と言うのに未だに国を超えて愛され続けている。そして、10年程前に発見されたプラフスキー粒子のお陰で今や、ガンプラは作って飾るだけの物ではなく、実際に動くレベルまで進化している。特にこの10年でのガンプラの進化は目覚ましい。まさに至高の芸術と言っては過言ではありません」
「はぁ……(何だ。コイツ、絶対に変だ)」
突如、語り出したマシロにエリカは圧倒されている。
「それはそうとエリカさん。結婚しましょう」
「はい?」
更に脈拍もなく、本題を切り出してエリカはすっとんきょな声を上げた。
パーティーが終わり、ホテルに戻ったマシロは来ていたスーツを脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。
「疲れた……」
ベットに倒れながらも、ベットの下にしまっておいた組み立て前のガンプラを取り出しては枕元に置いてあるニッパーを手に組み立て始める。
「その様子だと失敗したみたいね」
マシロが帰って来た為、レイコは様子を見に来たが、どうやらマシロは失敗して帰って来たらしい。
「何が悪かったんだろうな。友達からなんて……」
「は? 友達?」
マシロはエリカを落とす事に失敗して来たようだが、レイコの予想とは違い友達にはなって来たようだった。
「やっぱり、直接結婚を申し込むんじゃなくてホテルにでも連れ込んで既成事実でも作って責任を取るって形の方が良かったか?」
「……取りあえず。連れ込む前に殺されるわね。あの子、以外と腕っぷしも強いし、マシロは取っ組み合いなら私でも勝てるし」
どういう状況から友達になったのかは、レイコには理解が出来ないが、ぶつぶつと変な事を呟くマシロに一応は言っておく。
事前情報からエリカはそれなりに腕っぷしが立つ事が分かっている。
それに対してマシロはガンプラバトルにおいては圧倒的な強さを誇るも、取っ組み合いの喧嘩となれば、肉体労働は専門外のレイコにすら劣る。
「で、実際のところ首尾はどうなの?」
「取りあえずは友達からだそうだ。携帯の番号とメアドは手に入れた」
「アンタにしては上出来じゃない」
元々、ユキトも全く期待していない状況を考えれば、エリカと友人関係となり連絡先を交換しているだけでも奇跡と言っても良い程の戦果と言える。
「後は時間をかけてジワジワと攻めれば良いわね」
「面倒だ。俺は今日で終わらせるつもりだったのに」
連絡をしても不自然な状況ではなくなったため、ここからが本番なのだが、マシロとしては早々にケリを付けたかった。
「とにかく、大会の方も使えるわね」
レイコはすぐに算段を付ける。
まずは2日後のショップ大会は利用できる。
マシロは名前だけとは言ってもホワイトファングのオーナーだ。
ショップ大会の視察とでも名目を付ければ当日に訪れても不自然ではない。
そこで、偶然を装って再会させる事が出来る。
「それでアンタ的にはどうなの? 彼女の事」
「どうだろ……まぁ、胸はやばかった」
「見るところはそこ? てか、アンタもそう言う所を見るのね」
レイコは心底意外そうだった。
マシロはガンプラバトルさえできればどこの誰と結婚させられようと興味がない。
そんな、マシロが異性に対して普通の回答をする事は意外以外の何物でもない。
「失礼な。俺だって人間だぜ? 人間にはガンプラ欲、食欲、性欲と言う三大欲求があるって俺だって知ってる」
「一つは明らかに違うわよ」
異性の反応は意外だったが、結局はいつもマシロである事には変わりはない。
「俺だってシローやガロードみたいな恋愛をしてみたいって気持ちはあるさ。尤も、実際にやりたいかって聞かれると御免こうむるけどね」
マシロとて10代も半ばの思春期だ。
恋愛の一つや二つをしてみたい気持ちは持っている。
だが、結局のところはマシロは恋愛よりもガンプラバトルの方が優先ではあった。
初日から3日が経ち、ホワイトファングではショップ大会の準決勝戦が開始される当日となった。
すでに4人まで絞られているが、大会を最後まで観戦しようとしている観客が非常に多い。
「アオイ。誰が相手でもこの3日間の特訓の成果を出せば優勝出来るぞ」
「全力でやります」
「言ってくれるじゃん。アタシも優勝する気だから。負ける気はないね」
アオイと同じく、ベスト4に残っているエリカも優勝出来る自信はあった。
この3日間は互いの手の内を見せないようにエリカとアオイは別々で練習していた。
「お集まりのみなさ~ん」
会場の特設ステージにイチカが上がり相変わらずの間延びした口調で司会を始める。
会場を訪れていた観客たちは一斉にイチカの方に注目した。
「それでは~ショップ大会の準決勝戦の組み合わせの抽選をするまえに~ゲストを紹介しま~す」
イチカがそう言うとステージにスーツを着込んだマシロが上がる。
それを見た観客たちは誰かと戸惑うが、エリカだけは顔を引きつらせている。
「こちらの方はマシロ・クロガミさん。このホワイトファングのオーナーなんですよ~」
「ご紹介に預かりました。マシロ・クロガミです。今日のバトルを楽しみにしています」
相変わらずの別人っぷりをマシロは発揮している。
会場の女性たちはその本性を知らずに黄色い声援を上げている。
「ではでは~今日の主役のファイター達の入場で~す」
「お前達の出番だぜ」
「言ってきます」
何も知らないアオイとマシロと顔を合わせるのは気まずいエリカはステージに上がり、会場に来ていたレッカと最後の一人であるゴウキもステージに上がる。
「では~抽選を初めま~す」
イチカはそう言って穴の開いた箱をマシロに手渡す。
「この中には~白と黒の2種類のボールが入ってま~す。同じ色を引いた人が対戦相手です~」
「ではレディファーストで」
マシロはエリカにボールを引かせる。
エリカはマシロと顔を合わせる事無く、穴に手を入れて少ししてボールを取る。
「シシドウちゃんが引いたボールは白ですね~」
「次は……君」
今度はレッカの前に箱を持って来るとレッカは穴に手を入れてすぐにボールを取り出す。
「おやおや~カガミ君も白ってことは~対戦カードはこれで決まりよね~」
レッカが白のボールを引いたと言う事は対戦相手はエリカと言う事だ。
と言う事は自動的に残りのボールは黒となり、アオイとゴウキがバトルすると言う事が引く前から確定している。
「よろしくお願いします」
「ああ」
ボールを引く事無く対戦カードが決まったアオイはゴウキに一礼をする。
ゴウキはベスト4の中で唯一高校生ではない。
屈強な体格の大男でアオイとの体格差は凄まじい。
(さて……見せて貰うぞ。お前の力を……)
この対戦カードは仕組まれた物だった。
イチカは箱の中には2種類のボールが入っていると言ったが、実際のところ4つとも白いボールが入っている。
つまり、最初に引いた二人は確実に白を引く。
本来ならば、観客や選手の前で不正がないと言う事を見せるべきだが、誰もが普段のイチカの言動から、対戦カードを操作すると言った事をしないと言う先入観からそれを行わずとも文句は出なかった。
マシロが気にしていたアオイの対戦相手として他の3人の中で最も実力があるゴウキが宛がわれた。
マシロはゴウキとのバトルの中でアオイの実力とバトルの違和感を確かめる気だ。
そんな、裏の思惑を準決勝を戦う4人のファイター達は知る事も無く、準決勝の第一試合であるエリカとレッカのバトルが開始される。