ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
ホワイトファングのショップ大会準決勝の対戦カードはエリカVSレッカ、アオイVSゴウキと言う組み合わせとなった。
組み合わせの抽選が終わったところで一度、ステージに上がった4人とイチカとマシロが降りた。
準決勝と決勝は特設ステージに設置されたバトルシステムで行われる。
ここで一度、区切ったのは対戦相手が決まってからの短い時間での行動を見る為だ。
すでにどのファイターもある程度は対戦相手のバトルスタイルを把握している。
そこから、対戦相手に合わせたカスタマイズを行うのか、このままで行くかなどをデータをレイコは集めたかった。
「お疲れさん。二人とも」
「……ああ」
ステージから降りたエリカとアオイをタクトが労う。
タクトの横には今日もシフトが入っていないのか、ミズキがいた。
アオイは皆の前に出た事で少し緊張をしていたが、エリカはそれ以上に疲弊していた。
「シシドウさん?」
「いや……何でもない」
流石にアオイもタクトもエリカの様子がおかしいと言う事に気づくが、エリカは強がる。
「エリカさん。まさか、このようなところで会うとは奇遇ですね」
エリカの背後からマシロが声をかけてエリカはびくりとする。
「クロガミ……さん」
「マシロで結構ですよ」
マシロはとびっきりの笑顔を作ってそう言う。
つい先ほど、店のオーナーとして紹介されたマシロがエリカの知り合いである事にアオイとタクトも驚きを隠せない。
「ここのオーナーだったんですね」
「敬語も結構ですよ。僕はありのままのエリカさんが見たいです」
「えっと……シシドウとクロガミさんは知り合いなんすか?」
タクトが意を決してアオイも気になっていた事を質問する。
互いの事を知っている事は話しの流れから分かっているが、関係がイマイチ分からない。
エリカは余りマシロと会いたくないような感じにも見える。
「この前のパーティーで一目惚れしましてね。プロポーズをしたんですけど、フラれてしまいました」
「なっ!」
マシロの爆弾発言にタクトやアオイだけでなく、ミズキも驚いている。
当のエリカは気まずそうにしているが、心なしか顔が赤い。
その反応だけで、マシロの話しが本当である事は分かった。
「僕もあれから冷静になって考えたんですが、いきなりプロポーズはやり過ぎました。申し訳ありません」
マシロはそう言って頭を下げる。
「元々、この店のオーナーと言うのは名前だけだったんですけどね。エリカさんが大会に出場していると言う事を偶然に知ってしまい、無理を言って来ちゃいました」
マシロは少しおどけてそう言う。
そう言われたエリカは更に顔を赤らめる。
今までエリカはその気の強さから余り、女の子扱いをされた経験が少ない。
故にここまでストレートに異性から好意を向けられる事に慣れてはいない。
「ん? そこのあ……君」
エリカを口説いていた、マシロだがタクトの後ろにミズキを見つけて思わず声をかけてしまう。
声をかけられたミズキは恐ろしく速いスピードでタクトの後ろに隠れるとタクトの背に顔をうずめる。
「以前、どこかでお会いしましたか?」
「いいいいいいえ、滅相もございません!」
マシロの問いにミズキは普段からは考えられない大声で否定した。
流石にここまで強く否定された事が意外だったのか、マシロも呆気に取られている。
「えっと……クロガミさん」
見かねたタクトがエリカの方を指を指す。
エリカは少しむくれていた。
「エリカさん?」
「……行って来る」
明らかに機嫌が悪くなったエリカは特設ステージの準備が整ったため、ステージに戻って行く。
「どうしたんでしょうね?」
マシロの言葉にタクトは呆れ、アオイはついて行けず、ミズキは相変わらずタクトの背中に隠れている。
(当然でしょ。おバカ。まぁ、あの反応は脈ありね)
(レイコか。どういう事だ?)
マシロは周りには聞こえない程、小さい声で話す。
マシロのネクタイには小型のマイクが内蔵されている為、マシロの周囲の会話はモニター室にいるレイコに筒抜けとなっていた。
周囲の様子はモニター室からレイコが監視している。
更にマシロの耳には周囲からは簡単に見破れないようにイヤホンが付けられている。
モニター室で状況を把握したレイコがマシロに指示を出せるようにしていた。
先ほどの会話も半分以上はレイコが言葉を考えてマシロに伝えて言葉を話していたに過ぎない。
だが、マシロはミズキを見つけた時に勝手に話しかけてしまった。
その時の反応でエリカが少なからずマシロの事を意識していると言う事は確認出来た為、怪我の功名だ。
それも、マシロが初対面でプロポーズをした事が影響しているだろう。
(アンタは気にしないで良いわ。だけど、彼女の事は気にする必要はないわ。その内分かるから)
どうやら、レイコはミズキの正体に関して何かしら知っている口ぶりだった。
マシロとしても、見覚えがあると言う程度の興味しか無い為、レイコに従った。
(それで、どっちが勝つと思う?)
(赤い方)
(どっちも赤いわよ)
マシロならこの段階でもある程度は勝敗を予想出来ると思い質問したが、マシロはこのバトルに興味が殆どないのか、ひどく投げ槍だった。
エリカのアサルトルージュもレッカのビギニングガンダムRも赤がメインのガンプラだ。
赤い方が勝つでだどちらが勝つのか分からない。
だが、余りしつこく聞いてもマシロの機嫌を損ねるだけだ。
レイコは、マシロに予想を聞く事を諦めてバトルに集中する。
準決勝第一試合のバトルフィールドは砂漠地帯だ。
地上は柔らかい砂が敷き詰められている為、陸戦では砂に足を取られる。
だが、エリカのアサルトルージュはエールストライカーの推力で強引に突き進む事が出来る為、足場を無視でき、レッカのビギニングガンダムRは飛行能力を持つ。
「悪いな。アオイ。リベンジはさせてやれそうにない!」
アサルトルージュは出会いがしらにビームライフルを連射する。
ビギニングガンダムRはビームを回避して、バーニングソードRを両手に持つ。
「そんないい加減な射撃が当たると思うなよ」
アサルトルージュの射撃を易々と回避したビギニングガンダムRはアサルトルージュに切りかかる。
「舐めんな!」
アサルトルージュは対艦刀「シュベルトゲベール」を抜いて振るう。
ビギニングガンダムRは空中に回避すると、ビームバルカンを放ち、アサルトルージュはシールドで防ぎながら飛び上がる。
何度もシュベルトゲベールを振るうが、ビギニングガンダムRはヒラリと回避する。
「シシドウの奴……」
「いつもの勢いがないです」
エリカとレッカのバトルを見ているタクトとアオイがそう言う。
今のエリカのバトルにはいつもの勢いがまるでなく、闇雲に攻撃しているだけだ。
こうなったのも、マシロの事を変に意識しているせいだ。
そんな攻撃がレッカのビギニングガンダムRを捕える事は出来ない。
「俺は少し過大評価をしていたな」
ビギニングガンダムRはアサルトルージュの攻撃を回避して、地上に降りていく。
「逃げんな!」
アサルトルージュはバルカンを撃ちながら、ビギニングガンダムRを追いかける。
(終わったな)
その動きを見た瞬間にマシロは確信した。
ビギニングガンダムは振り向いてアサルトルージュの方を向くと後ろに下がりながら、かかとを砂にこすり付ける。
それによって、砂が巻き上げられてアサルトルージュは砂に突っ込む。
「くそ!」
砂に突っ込んだ事で完全にアサルトルージュの勢いが殺された。
その隙をレッカが見逃すわけもなかった。
ビギニングガンダムRのバーニングソードRがアサルトルージュを切り裂いてバトルがレッカの勝利で幕を落とした。
バトルに敗北したエリカはトボトボとステージを降りて来る。
「悪い。みっともないバトルを見せた」
明らかにエリカは憔悴している。
そんなエリカを始めて見てアオイもタクトもかける言葉が見つからない。
「みっともない事は無いですよ。戦うエリカさんの姿はとても美しい」
マシロが空気を読まずに、エリカを褒め称える。
これも、レイコからの指示だ。
そう言われたエリカは少し驚きつつも、呆れていた。
「たく……けど、サンキューな。アオイ……負けんなよ」
「はい」
マシロの励ましで少し、元気が出たエリカはアオイに激を飛ばす。
いつもに比べると弱弱しいが、それでもアオイにとっては心強い。
第一試合が終わり、今度はアオイの第二次第の番だ。
アオイは緊張した面持ちながらも、しっかりと歩き出す。
「お前が対戦相手か……アンドウの奴が出て来ないから退屈そうだったが、あのカガミとかいう奴は骨がありそうだ」
「カガミ君とバトルするのは僕です」
今回のショップ大会にコウスケは参加していなかった。
コウスケが参加していない以上、大したファイターは出ていないとゴウキは考えていたが、予想外の実力者であるレッカが出場していた。
ゴウキとしては、アオイよりもレッカと戦いたかった。
だが、アオイもまた、レッカと戦う理由がある。
「ゴッドタイタス!」
「ビギニングガンダムB!」
アオイとゴウキはGPベースをセットして、ガンプラをバトルシステムに置いた。
ゴウキのゴットタイタスはGガンダムの後期主人公機のゴッドガンダムの改造機だ。
改造と言っても四肢をガンダムAGE-1 タイタスの物に変更しているだけだ。
それによって俊敏性は失われたが、圧倒的なパワーと防御力を獲得している。
第二試合のバトルフィールドは荒野だ。
特殊なギミックは無く、フィールドにはいくつもの岩が設置されている為、隠れるところは豊富だが、逆に障害物も多い。
射撃を主体をするアオイにとっては腕の見せ所だ。
「相手は近接パワー型……接近されたらまずい」
この3日間でタクトと近接戦闘の練習はして来たが、接近されない事に越した事はない。
ビギニングガンダムBは上空からハイパービームライフルで先制攻撃を行うが、ゴッドタイタスは岩の陰に隠れてビームは岩で防がれた。
「貫通もしないのか……」
岩はアオイが思っている以上に頑丈でハイパービームライフルの一撃でも多少の損傷で破壊するには至らない。
これで破壊出来れば、障害物を破壊しながら攻撃が出来た。
ゴッドタイタスは岩の影を利用して、ジワジワとビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。
「こっちからも活かせて貰うぞ!」
突如、岩陰からゴッドタイタスが飛び出して来る。
肩からビームを出して、突っ込んで来る。
「っ!」
ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放つが、ゴッドタイタスは気にする事は無く突っ込んで来る。
肩から出したビームによって、ビギニングガンダムBのビームが弾かれて、ビギニングガンダムBはシールドで受け止める。
ある程度は勢いが削がれていた為、シールドが破壊されて吹き飛ばされるだけで済んだ。
「なんて、パワーなんだ」
「これだけで済むと思っているのか!」
地上に降下するビギニングガンダムBを追撃する為に、ゴッドタイタスは方向を変えて今度は拳を突き出しながら落ちて来る。
飛び上がった先ほどの攻撃とは違い、今度は降下しながらの攻撃だ。
自身の重量によって加速したゴッドタイタスがビギニングガンダムBを落とす。
「アオイ!」
ゴッドタイタスは地上に激突し、岩を粉砕する。
ビギニングガンダムBのハイパービームライフルでも殆ど損傷しなかった、岩の強度を考えると、一撃で岩を粉砕したゴッドタイタスの一撃が如何に凄まじかったか分かるだろう。
砂煙が起こり、誰もがゴウキの勝利を予測しているだろう。
(いや……まだだ)
砂煙からビギニングガンダムBが飛び出して来る。
完全に回避しきれなかったのか、ビギニングガンダムBは左腕と右足を失い、至るところが壊れている。
何とか、距離を保とうとするが、ビギニングガンダムBはバランスを崩して地上に落ちて岩にぶつかって止まる。
「運の良い奴だ」
(これが運に思えるならお前はその程度だよ)
一見、運が良かったように見えるが、マシロには見えていた。
ゴッドタイタスの一撃で周囲に吹き飛んだ岩をビギニングガンダムはライフルなど、失えば一気に勝算の落ちる部分への直撃を避けていた。
アオイ自身、運が良かったと思っている為、殆ど無意識で行っていた。
「だが、次で終わりだ!」
ゴッドタイタスは腕からリング状のビームを形成すると、ビギニングガンダムBに突撃する。
「ゴッドラリアット!」
「まだ!」
ビギニングガンダムBはビームバルカンで応戦するが、ゴッドタイタスは片腕で防ぐ。
「僕は……また負けるの……カガミ君に再戦をする事も出来ないまま……そんなのは、嫌だ!」
ゴッドタイタスの渾身の一撃はビギニングガンダムBを捕えるかのように思えた。
しかし、ビギニングガンダムBは直前のところで回避し、ゴッドタイタスのゴッドラリアットは岩を粉砕しただけだった。
「かわしやがった!」
(目覚めた……やっぱ、アイツはこちら側の人間だよ)
観客はビギニングガンダムBが攻撃を回避した事に驚いているが、マシロは笑みを浮かべていた。
攻撃を回避したビギニングガンダムBは片足を失いながらも何とかバランスを保っていた。
「死にぞこないが!」
ゴッドタイタスのラッシュをビギニングガンダムBはとても片足を失っているとは思えない動きで回避する。
「アオイの奴……どうなってやがる」
「種割れ」
「マシロさん?」
マシロはポツリを呟いたが、エリカは何かを呟いたと言う事は辛うじて聞き取れた。
「いえ……彼は恐らくゾーンと呼ばれる現象に入ったのでしょう」
「ゾーン?」
「心理学用語で極限まで集中する事で発揮される精神状態の事です」
レイコがすぐにフォローを入れる。
とっさにフォローを入れた為、確実にそう言えるかは分からないが、そう仮定した。
主にスポーツ選手に起こり得る現象だが、ガンプラバトルもまたスポーツに分類する事も出来なくはない。
敗北が迫り、アオイが勝利を心の底から望み極限まで勝つ為に集中した事による物だろう。
「一体何なんだ! お前は!」
幾ら連続攻撃を行っても、ビギニングガンダムBには当たらない事で、ゴウキも焦りが生じていた。
焦れば焦る程、攻撃は大雑把となり、隙が生まれる。
ゴッドタイタスの右ストレートに対して、ビギニングガンダムBは攻撃を最低限の動きで回避すると、ゴッドタイタスの懐に入り込む。
そして、ハイパービームライフルをゴッドタイタスの腹部に押し付けた。
「アオイ! 特訓の成果! 見せてやれ!」
タクトが叫び、零距離でハイパービームライフルが放たれる。
この3日間でアオイは近接戦闘の練習を行い、その中で身に着けた技術がこれだ。
相手の攻撃を掻い潜って零距離での攻撃。
練習では思い切りが悪く、中々成功しなかったが、ゾーンに入り極限まで集中している今のアオイなら、攻撃を掻い潜っての攻撃は造作もなかった。
流石に零距離でハイパービームライフルを受けたゴッドタイタスは胴体を撃ち抜かれて破壊された。
「マジかよ……アオイの奴! 勝ちやがった!」
「いつの間にあんなことを練習してたんだよ」
優勝候補のゴウキが敗北した事で会場はシーンと静まり返っていた。
「僕……勝ったんですか?」
ゾーンに入り、軽く意識が飛んでいたアオイは自分が勝ったと言う実感がなかった。
しばらくすると、観客が歓声を上げた。
「勝ったんだよ! アオイ!」
「大したものだよ!」
茫然としているアオイにタクトとエリカが駆け寄る。
「これで……カガミ君と……」
実感が湧いたが、アオイはガクりと倒れそうになり、エリカとタクトが支えた。
ゾーンに入った事でアオイの体力も限界に近かった。
「それでは~決勝戦は1時間後で~す!」
エリカとタクトに肩を貸されてアオイはステージから降りて来る。
決勝戦は1時間後である為、それまでアオイを休ませる必要があった。
エリカとタクトはアオイを近くのベンチに座らせた。
(マシロ。今のバトルどう思う?)
(別に。少しはマシな奴が出て来たってところ)
バトルの様子は当然、レイコも見ていた。
アオイがゾーンに入った事でレイコには少なからず動揺が見えていた。
アオイのバトルが少しおかしいと言う事はレイコもデータ解析から思っていた事だ。
だから、アオイの相手を操作もさせた。
その結果が予想外の事態となった。
一方のマシロの方は大して動揺をする事は無かった。
マシロからすれば、ゾーンに入った事は大して重要ではない。
どの道、自分とバトルすればゾーンに入れようが関係はない。
マシロはただ、自分が勝つと信じて疑ってはいなかった。