ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
ショップ大会準決勝戦が終了し、決勝戦の組み合わせが決定した。
アオイもレッカもこの地区では全くの無名である為、観客たちもざわついている。
特に地区でも上位のゴウキの敗北は誰もが予測していなかった事態だ。
ゴウキに勝利したアオイはバトル中にゾーンに入った事により、疲弊しエリカとタクトに近くのベンチに運ばれた。
「それにしても凄かったな」
「いつの間にあんなことが出来るようになったんだよ」
アオイをベンチに座らせて、二人は矢継ぎ早に質問した。
座って一息ついたアオイは次第にバトルの時の事を思い出して来た。
「僕にも良く……ただ、カガミ君ともう一度バトルする為に負けられないと思って、後は無我夢中で……」
「火事場の馬鹿力って奴?」
「そうだろう……でも、頭の中がクリアになって相手のガンプラの動きがゆっくりになって……」
次第に思い出すも、意識が朦朧となっていた事のあって、アオイは明確にバトルの事を思い出す事が出来ない。
「まるでバーサーカーのようですね」
そこに、自販機でスポーツドリンクを買って来たマシロが割って入る。
「どうぞ」
「済みません」
アオイはマシロからスポーツドリンクを受け取って飲み始める。
「普段は大人しいのに戦いの時になると鬼神の如く戦う。北欧神話とかに出て来る奴か?」
「ええ。まさに僕はそう感じました。尤も、からくりを解き明かすと神話と言った偶像ではなく、科学的に証明されている事実ではあるんですけどね」
マシロはアオイにもバトル中に二人に説明した事を掻い摘んで説明した。
「ゾーン……僕がそんな事を……」
「ええ。僕の兄の中にプロのスポーツ選手が何人かいます。その兄達もゾーンに入る事が可能で、その時の様子があの時の君に良く似ている」
アオイは半信半疑だったが、マシロが事例を付けて太鼓判を押すと現実味が出て来る。
実際にマシロの兄、クロガミ一族の本家の中にはプロのスポーツ選手として活躍している人が何人か存在している。
アオイ達も少なからず知っている程の選手だ。
その弟であるマシロが見た事があると言えば、根拠としては十分だ。
尤も、マシロ自身は他の兄弟とは必要以上に関わりを持っていない為、本当にゾーンに入れるかなど、知る訳もない。
「つまり、君は特別な才能を持っていると言う事ですね」
「やっぱ、アオイは凄い才能を持ってるって事だな。俺の目に狂いはなかった!」
「馬鹿言え、アオイの才能に目を付けたのはアタシの方が先だね」
クロガミ一族の本家であるマシロに才能を保障されて、エリカとタクトは喜んでいるようだったが、一方のアオイは浮かない表情だった。
「そんな事はありませんよ。僕は皆と何も変わらない……ただの高校生ですよ」
(何だ。この反応)
マシロはアオイの反応に違和感を感じていた。
自分に何かしらの才能があればそれが、人殺しや犯罪と言った非社会的な才能では無く、自分が好きな分野での才能であれば喜ぶのが自然だ。
だが、アオイは自分の才能を否定した。
これが、単に謙虚から来る物かも知れないが、マシロはそうは思えなかった。
そこに理屈はない。
ただ、直感的にそう感じた。
「そんな事よりも、ガンプラの修理の方を急いでも良いですか?」
「ああ、アタシ等も手伝うぞ」
「お願いします」
アオイがこれ以上、この話題を避けたいのは話題を変える。
だが、決勝戦までは一時間しか残されていない。
座ってある程度の体力が回復したら、ガンプラの修理をしなければ決勝戦では不利となる。
アオイはまだ万全とは言えない為、エリカとタクトはアオイのビギニングガンダムBの修理を行う為に、工作スペースに向かう。
マシロはそんな3人を見送った。
3人とも、マシロがファイターである事は知らない為、ついて来ない事は気にする事は無かった。
ここでついて行っても役に立たないと思われても、拒絶はされない為、ついて行ってビギニングガンダムBの情報を得る事は出来る。
しかし、2人のように純粋な善意から修理の手伝いを行うならともかく、情報を得るの下心を持って修理を手伝うと言う事はマシロのファイターとしての矜持に反する行いだ。
あくまでも情報はバトルの中で得なければならないからだ。
準決勝から一時間が経過し、決勝の始まる時間となった。
準決勝を軽く勝利したレッカの方はガンプラを修理する必要もなく、最低限の調整で余裕を持って決勝戦に臨んでいる。
一方のアオイの方は、準決勝でも何とか勝利した事もあって、ガンプラの修理に時間を要した。
その上で、アオイのコンディションも万全とは言えない。
「君がここまでやれるようになるなんてな。正直、想像していなかった」
「僕もです。でも、シシドウさんやキサラギ君のお陰でここまで来る事が出来ました。だから……僕は君に勝ちます」
「勝つのは俺だ」
二人はGPベースをセットしてバトルシステムにガンプラを置く。
「ビギニングガンダムR……カガミ・レッカ。出る」
「ビギニングガンダムB……タチバナ・アオイ。行きます!」
バトルシステムが起動し、バトルが開始される。
決勝戦のバトルフィールドは月面だ。
地上とりも動きが軽く、宇宙空間よりは動きが重くなる事が特徴で重力を振り切れば宇宙でのバトルも可能だ。
どちらのガンプラも前回のバトルと同じ装備でのバトルとなる。
「まずは!」
射撃武器を持っているビギニングガンダムBがハイパービームライフルで先制攻撃を行う。
「腕を上げたか。だが、避けられない攻撃ではない!」
ビギニングガンダムRはバーニングソードRを両手に持って、ビームを回避しながら突っ込んで来る。
前回よりも、アオイの射撃精度は向上し、以前のように容易に接近する事は出来ないが、それでもビギニングガンダムRは接近しようとする。
ビギニングガンダムRはビームバルカンで牽制の攻撃を加えて、接近しようとして来る。
ビギニングガンダムBはシールドを掲げつつも、ハイパービームライフルを連射しながら、距離を取る為に後退する。
「良し……それで良い」
「ああ。接近戦ではアオイが不利だからな」
決勝戦を観戦していたエリカとタクトも手に汗を握りながらも、バトルを観戦している。
いつの間にか、二人と合流していたマシロは冷静にバトルを観察している。
(射撃精度が最高時程じゃないな……)
アオイは確かに実力をつけて、特に射撃の精度は非常に高い。
それでも、今までのバトルの中で最も良かった精度には届いていない。
(アレはまぐれか……それとも別の要因があるのか?)
そう思いつつも、バトルが大きく動いて来た。
アオイの射撃に慣れて来たレッカは最低限の動きでビギニングガンダムBの射撃を回避できるようになって来た。
それにより、次第にビギニングガンダムBとの距離を詰めていく。
「逃げ切れない……なら!」
このままでは追いつかれる事が時間の問題だと判断したアオイは距離を取る為に後退するのではなく、前に出た。
流石に、射撃主体のバトルをして来たアオイが急に前に出た事はレッカにとっても予想外の行動で反応が少し遅れてしまう。
その隙にビギニングガンダムBはシールドでビギニングガンダムRに体当たりを行う。
「よっしゃ! 練習通りだ!」
タクトは練習通りに上手く行って声を上げて喜んだ。
3日間での練習で行って来た事はゼロ距離攻撃だけではない。
後退しているように見せかけてからの急接近のその一つだ。
2機のビギニングガンダムは月面に倒れ込む。
「やられたな。まさか、前に出るなんてな」
「僕も成長しているんです」
「そのようだな。だが、接近戦ではこっちが有利だ」
ビギニングガンダムRはバーニングソードRを構えて、一気に距離を詰める。
すでにビギニングガンダムRがすぐに詰められる程の距離だった為、ビギニングガンダムRはバーニングソードRを振るう。
ビギニングガンダムBはシールドで受け流して、ハイパービームライフルで反撃する。
「やっぱつえーな。カガミの奴」
「だが、アオイも負けてない」
ビギニングガンダムRが近接戦闘を仕掛けて、ビギニングガンダムBが防いでハイパービームライフルで反撃する。
これの繰り返しが数分も続いた。
「どっちも決定打に欠けると言ったところですね」
「また、ゾーンに入る事が出来れば……なぁ、クロガミさん。簡単にゾーンに入る方法はないんすか?」
「簡単に入れては苦労はありません」
マシロはタクトの問いを一刀両断する。
マシロの言う通り、簡単に入れてしまえば苦労は無く、才能も必要はない。
マシロの正論にタクトは黙り込んでバトルを見る。
(ゾーンに入る為にはキサラギ・タクトは役不足って事もないけどな……一度、入ってしまえばある程度は入り易くなるんだがな)
準決勝で対戦カードを操作したのは他の3人の中で最も強いファイターをアオイにぶつけたかったからだ。
その結果、アオイはゾーンに入ると言う覚醒を果たした。
それよりも劣るとは言っても、ここまで互角に戦えば、その兆しを見せても良い。
(あれは偶然だったのか? それも……)
マシロが考えている間に更にバトルが動いた。
ビギニングガンダムBの放ったビームがビギニングガンダムRの左肩を撃ち抜いて、ビギニングガンダムRの左腕が肩から吹き飛ぶ。
「良し!」
だが、ビギニングガンダムRもやられながらもビームバルカンを至近距離から撃ち込み、何度も攻撃を防いでいたビギニングガンダムBのシールドを破壊する。
更に、右手のバーニングソードRを振るい、ビギニングガンダムBのハイパービームライフルを破壊する。
そして、2機は距離を取って対峙する。
「不味いな……」
「相手の片腕を破壊したけど、ライフルが……」
状況を見れば、ビギニングガンダムRが片腕を失って不利にも見えるが、ビギニングガンダムBはシールドとライフルを失っている。
特にハイパービームライフルはビギニングガンダムBにとってのバトルの要だ。
それを失ってしまうと一気に戦力が低下すると言っても良い。
ビギニングガンダムBはバックパックのビームサーベルを抜いて構える。
「次の一撃で勝負が決まる」
マシロがポツリと零した言葉はエリカもタクトも聞こえてはいなかった。
どちらも、アオイとレッカの次の行動に集中しているからだ。
「ここまでやられたのは予想外だったが、勝つのは俺だ!」
「カガミ君に勝つ為に、練習に付き合ってくれた二人の為にも僕は負けません!」
ビギニングガンダムRも片腕でバーニングソードRを構える。
2機のビギニングガンダムは互いの剣を構えて睨みあう。
そして、2機は同時に飛び出した。
ビギニングガンダムRがバーニングソードRを振り落す。
それを、ビギニングガンダムBがビームサーベルを持っていない左腕で受け止める。
ビギニングガンダムBの左腕はすぐには切り裂かれずに、バーニングソードRを受け止めて、ビギニングガンダムBはビームサーベルを突き出す。
「やったか!」
「まだだ!」
その突きを無理やりに胴体をくねらせて、ビギニングガンダムRはかわして、ビームサーベルはビギニングガンダムRの脇腹を掠った。
その後、バーニングソードRはビギニングガンダムBの左腕を切断するが、攻撃をかわす為に動いていた為、胴体までは切り裂けなかった。
2機はそのまま、剣を振るった。
ビギニングガンダムRの一閃はビギニングガンダムBの頭部を切り落とし、ビギニングガンダムBの一閃は少し遅れてビギニングガンダムRの右腕を切り裂いた。
「ちぃ!」
「行け! アオイ!」
ビギニングガンダムRはビームバルカンで攻撃し、ビギニングガンダムBはビームバルカンの直撃を受けて、ボロボロになりながらもエリカとタクトの声援に応えるかのように、最後の力を振り絞ってビームサーベルを振るった。
その一撃はビギニングガンダムRの胴体に突き刺さり、同時にビギニングガンダムBの右腕も破壊された。
ビームサーベルが突き刺さった事で、ビギニングガンダムRは後ろに倒れ込んだ。
「アオイの奴……」
「ああ……」
最後の攻防は時間にして僅か数秒の出来事だった。
ビギニングガンダムRが倒れた事で勝敗は決した。
勝負がついても、会場はシンと静まり返っていたが、やがて大きな歓声が沸きあがった。
「結局、最後の方は軽くゾーンに入った程度か」
湧き上がる歓声の中、マシロだけは歓声を上げる事は無かった。
最後の数秒の攻防で、アオイはゾーンに軽く入っていたが、完全に入る事は無かった。
ガンプラショップ「ホワイトファング」のショップ大会はこうして、アオイの優勝で幕を下ろした。
優勝者が決まった事で賞品の授与と閉会式が特設ステージで行われている。
ステージには優勝者のアオイと司会のイチカが上がっている。
「それでは~優勝者のタチバナ君、一言どうぞ~」
イチカにマイクを向けられて、アオイは少し戸惑い、照れて視界を泳がしている。
すると、視界の端にエリカとタクトが見えて少しは落ち着きを取り戻す。
「えっと……優勝出来たのは僕一人の力ではなくて……一緒に練習を付き合ってくれた友達のお陰です……ありがとうございました」
アオイは少しゆっくりだが、エリカとタクトへの感謝の言葉を述べた。
アオイがここまで戦う事が出来たのは二人の支えがあったからだ。
そう思ったからこそ、この場で二人への感謝の気持ちを口にした。
「ありがとうございま~す。では、優勝者への賞品の授与に入りま~す」
イチカがそう言うと、マシロが小さい箱を手にステージに上がる。
「優勝おめでとう。ありがとうございます」
マシロは少し笑みを浮かべながら、アオイに賞品を渡す。
アオイも賞品を受け取り、エリカとタクトの方に見せる。
そして、閉会式は滞りなく進み、大会は終了した。
大会が終了し、大会の為に設営された特設ステージが解体される頃には、観客も帰っている。
マシロは応接室のソファーに座り込む。
「はぁ……やっと終わった」
「お疲れさまです~」
マシロはエリカたちといる間は、好青年でいた為、ストレスがかなり溜まっている様子だった。
イチカは頼まれる前に牛乳の入ったグラスをテーブルに置いた。
マシロはその牛乳を一気に飲み干した。
「どうでした~」
「予想以上の収穫だった。特にタチバナ・アオイ。アイツは俺と同じこちら側の人間だよ」
始めは大して乗り気ではなかったが、終わってみれば、思っていた以上の収穫を得る事が出来た。
アオイは思っていた以上に才能を開花させた。
それを確かめる事が出来ただけでも収穫としては十分だ。
「以外でしたよね~あの子が優勝したのは~」
「まぁな。まだ、俺達の域に達してはいないが、アレはそこまで来るだけの才能を感じたよ。問題は本人の気持ちの方か……」
アオイの中から才能をマシロは感じた。
しかし、少し話して見てアオイは自分の才能に否定的な感じだった。
その理由は分からないが、このままでは才能はこれ以上開花しないかも知れない。
「ご執心ですね~」
「興味以上の対象にはなったかな」
そう言うマシロの目はまるで獲物を見つけた獣の様だ。
今回の世界大会の地区予選には大した実力者もいない為、退屈だと思っていたが、少しは楽しめそうな相手を見つけた。
これからどう転ぶかは分からないが、退屈はしないで済みそうではあった。
地区予選が始まるまでにはまだ、期間が開くため、マシロはそれまでの退屈凌ぎとして、アオイに狙いを定めた。