ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle18 「エリカの条件」

 ホワイトファングのショップ大会がアオイの優勝で幕を閉じ、アオイ達の春休みは何事も無く、終わりを迎えて2年生に進級しての新学年が始まった。

 幸いな事にアオイは今年も、エリカやタクトと同じクラスとなった。

 その上、以外な事実として、レッカも同じ学校であると言う事がクラス替えの掲示で判明した。

 今まで、面識はおろか、見覚えもなかったのは春休みの内に静岡に親の仕事の都合で引っ越して来たからで、今年からアオイ達と同じ高校に転校してきたかららしい。

 新学年が始り、アオイの生活は以前の物とは異なって来た。

 以前は友達と呼べる相手がいなかった為、高校は勉強をする場所でしかなかった。

 しかし、春休みの出来事でエリカやタクトと出会い、三人で行動する事も珍しくはない。

 そして、放課後になればホワイトファングでバトルをする日々が続いていた。

 

「今日はこの前の大会の賞品を装備させてみました」

 

 アオイはエリカとの練習にショップ大会の優勝賞品である装備「スノーホワイト」が装備されている。

 そのーホワイトはマシロが制作した装備で大型のビームライフルだ。

 従来のビームライフルよりも高出力で、二門の銃口が特徴的だ。

 

「へぇ……」

 

 アオイと対峙するエリカもスノーホワイトに興味深々だった。

 

「じゃあ撃って来いよ」

「はい。行きます」

 

 いつもなら、バトル開始と同時に敵に切り込んでいくエリカだが、スノーホワイトの威力を確かめる為に、対艦刀を構えているだけだ。

 そして、ビギニングガンダムBはスノーホワイトを構える。

 エリカのアサルトルージュに狙いを付けて、スノーホワイトを放つが、ビームはアサルトルージュから大きくそれた。

 

「なんつー威力だ」

 

 攻撃こそは外れたが、その威力は絶大だった。

 だが、その反動でビギニングガンダムBは後方に倒れ込んでいた。

 攻撃が大きく外れたのは発射時の衝撃に耐えきれなかったからだ。

 スノーホワイトの威力を確かめた事でバトルを中断して、アオイ達はバトルシステムを離れた。

 

「にしても凄かったよな」

「直撃コースじゃなくても、対峙する側からすればあれだけのビームはプレッシャーになるな」

 

 バトルシステムを離れて、ベンチに座ってアオイとエリカ、タクトはさっきのバトルを振り返る。

 外れこそしたが、スノーホワイトのビームはライフルが大型と言う事を考えても、凄まじかった。

 レイコはマシロに制作する際に見た目重視で性能は二の次で、寧ろ性能は低い方が好ましいと言っていたが、マシロは気にしてはいなかった。

 元々、スノーホワイトはマシロのガンダム∀GE-1の砲戦用の装備であるフルアサルトジャケット用の装備として制作していた物を使っている。

 ベースがウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを使っている為、高出力なのは当然の事だった。

 わざわざ、性能を落とすと言う事はしなかったのはマシロ自身がビルダーでもあると言う事だ。

 ファイター程の飛び抜けた実力がある訳ではないが、マシロのビルダーとしての実力は世界に通用するだけの技術は持っている。

 そして、勝敗に拘るのと同じように、意図的に弱い装備を制作すると言う気は無かった。

 仮に優勝者がスノーホワイトを手に入れたとしても、マシロは勝つ自信があると言う自信の表れでもあった。

 

「でも、外しちゃいましたけどね」

「だよな」

 

 威力こそは凄まじかったが、目標から大きく逸れていた。

 今回は、威力を見る為でエリカも大きな動きは取っていないが、実戦となると相手も避けようとしたり、攻撃をして妨害もして来るだろう。

 そんな状況で正確に射撃する事は今の状態では困難だ。

 

「地区予選までには何とか出来れば良いんですけど……」

「難しいな」

「この辺りの地区予選は今月の終わりからだからな」

 

 世界大会の地区予選の開催は地区によって異なる。

 大会の参加枠は100程度しかない為、その椅子を巡って参加枠の少ない国によっては万単位の中から一人が選ばれる程だ。

 静岡の日本第一ブロックの開催は4月の終盤から5月の中旬にかけて行われる。

 日本の地区予選では一番早く開催される。

 それまでにスノーホワイトを使いこなせればいいが、実際問題としては残りの時間を考えると難しいと言わざる負えない。

 

「あの……ガンプラの方を改造しては如何でしょうか?」

「ミズキさん!」

 

 3人が話していると遠慮がちにミズキが声をかけて来る。

 

「見てたんですけど、ライフルの威力にガンプラの踏ん張りが負けてたんですよ。タチバナさんのガンプラは塗装が主で大幅な改造をしていないので、多少の改造でガンプラの性能が上がると言う事も珍しくないですから」

 

 珍しく、ミズキは饒舌に話しをする。

 ホワイトファングでバイトをしているだけあって、ミズキはガンプラに関する知識はあるのだろう。

 実際、アオイのビギニングガンダムBは部分的に塗装をしているだけで、大幅な改造はされていない。

 さっきのバトルでも、スノーホワイトの威力による反動を支えきれなかった。

 そこを改善すれば、安定した射撃が行える。

 

「改造ですか……やってみたい気もするんですが、失敗した時が怖いですからね」

「だよなぁ……」

 

 アオイの言葉にエリカもタクトも力強く頷く。

 これは、ビルダーならば誰もが通る道だ。

 ガンプラを改造する事自体は程度にもよるが、やり方さえ分かっていれば難しい事ではない。

 だが、その際に失敗すると言うリスクが付いて回る。

 改造の時に失敗してしまえば、最悪、直せなくなる危険性がある。

 ある程度の技術があれば、そうなった時の対処法も身に付くが、そこまで辿りつく事が出来なければ意味がない。

 そんな危険性がある事もあって、世界大会ですらも、大幅な改造をしないで基本的な部分をきっちりとやって、自分好みの塗装をしただけのガンプラで出場するファイターもいる程だ。

 エリカとタクトも手先が器用な方ではない為、ガンプラを大きく改造すると言う事はしていない。

 アオイの方は不器用と言う程ではない上に、一人でいる事が多かった事もあって、制作知識やある程度の技術はあるが、ビギニングガンダムBを改造すると言う所までは踏ん切りがつかない。

 

「そうですか。済みません。出過ぎた真似を……」

「いえ、こちらこそ……せっかくの好意なのに、済みません」

 

 余り自己主張をしない者同士が頭を下げると、空気が重くなる。

 

「やぁ、エリカさん。奇遇ですね」

 

 そんな空気を爽やか好青年モードのマシロがぶち壊す。

 表向きは店の様子を視察に来て、偶然にもエリカと出会ったと言う事になっているが、実際のところはエリカ達が店に来た事をイチカから報告を受けて来ている。

 マシロの登場で、相変わらずの速度でミズキはタクトの後ろに隠れるが、一方のマシロはミズキの事を全く気にした様子はない。

 

「そう……ですね」

「余り言葉使いを気にする必要はありませんよ。僕はありのままのエリスさんを見たい。それに活動的な女性の方が好ましい」

「だってよ」

「うっせ」

 

 茶化すタクトにエリカが軽くひじ打ちを入れる。

 

「ところで、エリカさん。今度の日曜、デートしましょう」

 

 相変わらずの脈拍もない、誘いにすでにパーティーで同じようにプロポーズをされているエリカは特に驚く事は無かったが、その辺りの事を詳しく聞いていないアオイとタクトは目を点にして言葉もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、デートの当日、マシロは待ち合わせの場所に1時間程早く到着していた。

 マシロは時間ギリギリで構わないと言ったが、レイコの指示で1時間も早く待ち合わせ場所に向かわされた。

 1時間もあれば、CPU操作の相手と何度もバトルが行える為、マシロは難色を示したが、デートに際して待ち合わせよりも早く到着して待つのは当然の事だと言われて渋々、それに従った。

 相変わらずの白いスーツを着用の元、マシロは仕方が無く実際のバトルではなく、頭の中でイメージをしながらエリカを待っていた。

 待ち合わせの時間まで後、30分と言う頃にエリカも待ち合わせの場所に現れた。

 

「アタシの方が早く来たと思ったんだけどな……」

「いえ。僕も今来たところですよ」

 

 マシロは事前にエリカが来た時に言えと言われていたので、実際には30分も待っていたがそう返した。

 

「それにしてもお似合いですよ」

 

 そして、もう一つ事前に言われていた事を言う。

 会ってすぐに、取りあえず服装を褒めろと言われていた。

 

「つか、良い歳した男が女子高生を連れているのは不味くね?」

 

 エリカの今日の服装は高校の制服だった。

 マシロはデートと言っていた為、余り気合の入った服装で来れば、まるでデートを楽しみにしていたようで癪と言う事もあって、無難な制服を着て来た。

 それと同時に、日頃の意趣返しも含めて制服を選んでもいた。

 成人男性が明らかに未成年、それも制服の女子高生を日曜の昼間から連れて歩けば否応にも目立つ。

 そうなれば、社会的な地位を持つマシロは都合が悪いと踏んでの事だ。

 それで警察沙汰になっても、クロガミ一族の当主の弟と言う立場や、大事になる前に庇えばそれ程の事にはならないだろう。

 待ち合わせの時間に30分も早く到着したのも、デートに誘っておきながら、女性を待たせると言う失態をさせると言う軽い嫌がらせのような物だった。

 

「ご心配なく。僕とエリカさんは同い年です」

 

 マシロは動じる事なく、答える。

 今回もレイコのバックアップがあるが、この程度ならレイコの指示が無しでも問題は無かった。

 

「マジで!」

「マジです」

 

 マシロの年齢を知らなかった、エリカは驚きマシロは笑顔で肯定する。

 エリカが制服を着ていようともマシロとエリスが同い年であるなら、何も問題は無かった。

 

「では、少し早いですけど、行きましょう」

 

 出先を挫かれたエリカに、レイコからの指示でさり気なくエスコートをしながら目的の場所に向かう。

 

「けど、良くチケットが取れたな」

「ありすの所属事務所はクロガミグループ系列ですからね」

 

 マシロがデートの場所に選んだのは妹系アイドルのありすのライブだった。

 余りアイドルと言った方面に知識がないエリカも知っていた。

 ありすの所属事務所はマシロの言うようにクロガミグループ系列である為、マシロの立場を使えばライブのチケットを二人分、用意する事はさほど難しくは無い。

 尤も、このライブ自体、レイコがありすの事務所に圧力をかけて、急遽開催される事となった物だと言う事はエリカは知らない。

 

「しっかし、人が増えて来たな」

「ですね。車を用意しておいた方が良かったですね」

 

 会場に近づくにつれて、人の数が増えて来ていた。

 ライブは急だったのにも関わらず、チケットは即日完売である辺りはありすの人気が伺える。

 マシロは人が増えて来た事で、エリカの手を握った。

 

「これではぐれませんね」

「……ああ」

 

 その気になれば、マシロ達はこの人だかりを避けて会場に向かう事も出来ただろう。

 そうしなかったのはレイコの策だ。

 はぐれないようにと言う名目ならば、自然にマシロがエリカの手を握る口実が出来る。

 普段から異性に手を握られる経験のないエリカに対して、この手段は非常に有効的な策と言えた。

 マシロに手を握られて、エリカは照れもあって大人しくなっている。

 そうこうしている間に、マシロはエリカを連れて会場に到着するが、マシロは正面からではなく、会場の裏の方に回る。

 会場の裏手にも当然の事ながら、警備員がいるが、警備員はマシロを見ると敬礼して裏口から二人を通した。

 

「どうなってんの?」

「警備の方もうちの系列ですからね」

 

 さもあたり前のように言われ、もはやエリカも深く突っ込む事を止めた。

 

「ここが楽屋です」

「は?」

 

 会場の中を進むとマシロがある部屋の前に止まる。

 エリカの理解が追いつく前に、マシロは扉を開けた。

 

「お兄ちゃん!」

 

 開けると、中から少女が飛び出す。

 

「もぅ。来るときは連絡してよね!」

「ごめん、ごめん」

 

 飛び出して来た少女は、マシロに抱き着いてそう言う。

 その少女の事はエリカも見た事があった。

 その少女こそが、今日のライブの主役であるありすだ。

 テレビで何度も見た事のあるふりふりの付いた衣装を身にまとった人気アイドルが目の前でマシロに抱き着いている。

 次々と起こり、エリカは完全に混乱していた。

 

「立ち話もなんですから、中に入りましょう」

「うん! そうしてよ!」

 

  ありすに手を引かれてエリカは楽屋の中に入って、進められるままに座る。

 

「エリカさん?」

「いや……てか、お兄ちゃん?」

 

 エリカは座って一息ついたところで、ようやく現実を受け入れつつあった。

 

「紹介します。妹のありすです。ちなみにありすと言うのは芸名でして、本名はクロガミ……」

「駄目だよ。お兄ちゃん。ありすはありすだよ!」

「ああ、そうだったね」

 

 マシロはエリカにありすの事を紹介する。

 一般的に公表されていない事だったが、ありすもまたクロガミ一族の本家でマシロの妹に当たる。

 

「もう……なんでもありだな」

「ええ、うちは大抵の事はありですよ」

 

 エリカの投槍の言葉をあっさりと肯定するが、今更疑う余地もない。

 

「それで、お兄ちゃん。この人が?」

「そうだよ。いずれありすのお姉さんになるエリカさん」

「いや……まだそんな事は……」

「やったぁ! 私、エリカさんみたいなお姉ちゃんが欲しかったんだ!」

 

 エリカの言葉を遮るように、ありすがエリカに飛びつく。

 そして、エリカの事を上目使いで見つめる。

 

「他のお姉ちゃん達は冷たいの。いっつもありすと遊んでくれないんだもん」

「姉さん達も忙しんだよ」

 

 エリカにそう言うありすをマシロが窘める。

 耳につけられたイヤホンからは、ありすの言う冷たい姉の一人であるレイコがぶつぶつと言っているが、状況的に無視しても問題は無いだろう。

 

「ありす。エリカさんが困っているだろう」

「えー!」

「アタシは別に……アタシは一人っ子だから妹とか少し憧れているし」

「ほんと! エリカお姉ちゃん大好き!」

 

 エリカは一人っ子である為、兄弟に対して憧れのような物を持っているらしい。

 今は何人かの兄や姉のいるマシロからすれば、一部の兄弟はかなり煩わしい存在でもある為、その辺りは理解出来ない。

 

「そろそろ、時間だろ?」

「ぶー」

 

 話している間に時間は経過し、後、20分程でライブの開始となる。

 余り、ここで長話をしていたら、時間に間に合わなくなる。 

 頬を膨らませて、あからさまに不満と見せているありすをエリカから引っぺがそうとするが、ありすは中々離れようとはしない。

 

「マシロの言う通りだ。ここにはありすのファンが大勢来てるんだ。時間は守らないとな」

「お姉ちゃんがそう言うなら……」

 

 エリカに諭されて、渋々ありすはエリカから離れる。

 

「僕達は客席から見てるから」

「うん! 今日は楽しんで行ってね!」

 

 ありすに見送られて、マシロとエリカは客席の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ありすのライブは大盛況で終わった。

 ライブが終わるとすでに日が落ちて辺りは暗くなっている。

 

「余りアタシはこういうのは良くわかんないけど、凄かったな」

「そうですね」

 

 エリカはアイドルのライブは初めてだったが、ありすのファンの熱気を肌で感じていた。

 その熱気に当てられたのは、少し興奮気味だったが、マシロの方はいつも通りの笑顔を張り付けていた。

 マシロからすれば、多くのファンを世界中に持つありすの歌も街中の騒音も大して変わらない。

 

「僕と結婚すれば、もれなくありすも義理の妹としてついてきますよ?」

「いやいや。流石にそれで受けるとか無いだろ」

「僕としてはそろそろ、良い返事を聞かせて貰いたいものですけどね」

 

 そう言うマシロはいつになく真剣だった。

 それを感じたエリカも真剣な表情になる。

 

「つってもな……」

「では、エリカさんの好みの男性をお聞きしたいですね?」

「そだな……取りあえず、強い方が良いな」

 

 エリカの答えに対してマシロは肩をすくめる。

 どう見ても、マシロは腕っぷしが良いようには見えない。

 

「それは不味いですね……」

 

 マシロは少し考え込む。

 根本的にエリカとの好みに自分は該当しない。

 マシロ的にはここで諦めて引くと言う事も出来る。

 元々ユキトはマシロにそこまでの期待は持っていない。

 駄目なら駄目で次の手を用意しているだろう。

 それこそ、ここで引いても次の日には全てが終わっていると言う事も考えられる。

 だが、それはそれで癪だった。

 ここでユキトに言われた事を見事にやり遂げる事が出来れば、ユキトの中でもマシロの評価も変わって来るだろう。

 ガンプラ以外の事を積極的にやる気はないが、ユキトに見直される事は少し魅力的な事でもあった。

 マシロは普段はガンプラ以外の事で殆ど使わない頭をフルに回転させて、打開策を考える。

 

「なら、僕の本気を見せましょう」

「本気?」

「ええ。確か、エリカさんは近々ガンプラバトルで少し大きな大会に出場されるのでしたよね?」

「まぁ……」

 

 マシロはそう切り返す。

 確かにエリカは今月末の世界大会の地区予選に出場予定だ。

 地区予選と言ってもPPSE社が主催している公式の世界大会だ、少し大きいと言うレベルではない。

 一般的なファイターからすれば世界大会に出場できるのは選ばれた一部のファイターのみで誰しもが憧れる夢の舞台である。

 しかし、本気で自分が最強だと確信しているマシロからすればその気になればいつでも出場が出来、いつでも優勝出来る大会と言う認識でしかない。

 

「では、その大会で僕が優勝したら僕と結婚してください。この国の法では僕は結婚できませんから、正式には婚約と言う形になりますけど」

 

 マシロはそう言い切る。

 エリカは呆気に取られてすぐには言葉が出なかった。

 世界大会に優勝すると言う事は名実共に世界最強のファイターとなると言う事だ。

 マシロの実力やファイターである事すら知らないエリカからすれば、後半月ほどで初心者から世界最強になると言っているようなものだ。

 幾らクロガミグループの力を総動員しても全うな方法では不可能だ。

 しかし、そう言うマシロの目は本気でやろうとしている目だ。

 

「……ああもう! アタシの負けだよ。良いぜ。約束してやる! マシロが世界大会で優勝すれば結婚でもなんでもしてやるよ!」

 

 エリカは半ば自棄になって叫ぶ。

 元々、女の子扱いされて悪い気はしていなかった。

 だからと言って、いきなり結婚云々と言われても困るが、流石にガンプラバトルで世界一に本当になってしまったとすれば、もう折れるしかない。

 

「けど、その代わりに優勝出来なければアタシの事はきっぱり諦める事。それが条件だ」

「構いません。そうでなければフェアではないですからね」

 

 マシロはあっさりとそう言うが圧倒的にマシロが不利である事はエリカも分かっている。

 地区予選はトーナメント戦である為、一度でも敗北すれば終わりだ。

 仮に地区予選を勝ち抜いて世界大会に出場しても、一度の敗北が命取りとなる。

 つまり、マシロは世界大会で優勝するまで、実質的に一度も負ける事が出来ないと言う事だ。

 

「……約束だからな」

「ええ。約束です。僕は絶対に優勝しますから覚悟していて下さいね」

 

 エリカは圧倒的に有利な条件である為、少し後ろめたかったが、このままズルズルと今の関係を続けるよりかはマシだった。

 マシロは自分が圧倒的に不利だとは気付いていないかのように、条件を受け入れた。

 

「では、今日はこれで。エリカさんを自宅までお送り出来ないのは残念ですが、僕も少しやる事が出来ましたからね」

「家は近いし、別に送らなくても良いって。多分、アタシの方が腕っぷしは強いし」

「確かに。ではお休みなさい」

 

 マシロはそう言って、タクシーを拾う。

 マシロの乗ったタクシーを見送りながらも、やはり、悪い事をしたと思いつつも帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルに付いたマシロは自分の部屋に到着すると、ネクタイや背広を脱ぎ捨ててベットに倒れ込む。

 普段は使わない言動で、マシロは疲れ切っていた。

 マシロが戻った事を確認したレイコはマシロの許可を得る事なく、堂々とマシロの部屋に入って来る。

 

「お疲れ様」

「死ぬ」

 

 レイコはこうなる事を見越して、牛乳の入っているグラスをテーブルに置くとマシロはその牛乳を一気に飲み干した。

 

「生き返った」

「サチコからメールが来てたわ」

 

 牛乳を飲んで元気を取り戻したマシロだが、レイコの言葉で途端に機嫌が悪くなる。

 

「なんて?」

「キモっだってさ」

 

 サチコと言うのはマシロやレイコの妹で兄弟の末っ子の名だ。

 そして、そのサチコこそがマシロがさっきまでエリカとのデートで利用したありすの本名だ。

 尤も、ありすは本名のサチコがダサいと言って普段からありすで通し、本名のサチコで呼ばれると機嫌が悪くなる為、兄弟の中でも本人に対してはありすと呼んでいる。

 兄弟の中で、本人をサチコと呼ぶのはユキトとマシロ位である。

 

「お前もなって返しといて」

「嫌よ。自分で返しなさい。あの子と言い、アンタと言い私を中継しないで頂戴」

「嫌だね」

 

 マシロは即答で返す。

 エリカのいた時は仲の良い兄妹に見えたが、実際のところマシロとありすの仲が悪いのは兄弟の中では公然の事実だ。

 今日はユキトの指示でマシロが動いていると言う事やエリカが一族とは関係のない部外者だと言う事で、ありすも内心は嫌々だが、マシロを慕う妹を演じていた。

 

「てか、アンタは何でそこまでサチコの事を嫌うの?」

「あの言動が生理的に受け付けない。何? あのお兄ちゃん大好きオーラは」

 

 マシロはそう言って身震いをする。

 ありすは基本的に兄に対しては、エリカに見せた態度を取る。

 マシロにはそれを受け付ける事が出来ないらしい。

 

「ああいうのは。妹は二次元だからこそ許されるんだよ。リアル妹がああだと正直気持ち悪いね。妹ってのはもっとこう……普段は兄の事なんてゴミ屑を見るかのように冷たい視線を送っている物なんだよ。それでいて、いざって時に見せるデレにこそ真の妹としての価値がある! 具体的にはツンが8でデレが2と言う比率が好ましい」

「それ、アンタの性癖の問題よね。弟の性癖なんてデータは知りたくなかったわ」

 

 妹に対しての余りにも偏っている価値観に対して、本気で引いているレイコに対して、マシロは不満気な視線を向けている。

 

「俺のではない。ファイターのだ。ファイターってのはな。自分が強くなる為ならどんな苦行だって耐える事が出来る。それが強さに繋がるのであれば、苦行はやがて強くなる事に対する快楽に変わる。敢えて言おう、ファイターはドMであると!」

「知らないわよ」

 

 もやは、レイコは呆れて物も言えないが、マシロの一緒くたにされたファイター達には同情を禁じ得ない。

 

「そんな事よりも上手く事を運んだじゃない」

「シシドウ・エリカの事?」

「ええ。婚約の条件が世界大会の優勝なら決まったも同然よ」

 

 マシロがエリカとかわした条件は、マイクを通じてレイコの元にも届いていた。

 一見すると圧倒的にマシロの不利である、世界大会の優勝と言う条件も、レイコからすれば現状における最も成功率の高い条件だった。

 

「まぁね。これでこっちのフィールドに持ち込んだ」

「アンタの事だから、そこまで考えた訳ではないけど上出来ね」

 

 自分の得意分野に持ち込むと言う事は何をするにも基本的な事だが、マシロはそこまで考えていた訳ではないだろう。

 単にエリカの好みが強い人と言う事で、自分の強さを見せるにはガンプラバトルで世界大会はどの道、来年の為に優勝しておくつもりだったので丁度良かっただけだ。

 

「後は勝つだけね」

「それが一番簡単な事だよ」

 

 マシロにとっては世界大会で優勝するよりも、エリカを口説き落とす事の方が大変らしい。

 

「こっからは変に取り繕う必要もないよな」

「そうね。彼女の性格を考えると、一度交わした以上、こっちから条件を破らない限りは約束を破ると言う事はないわ」

 

 エリカの性格を考えると、マシロが実はずば抜けた実力を持ったファイターと言う事や今までのは全部が演技であったと言う事が明らかになったところで約束を反故にする事はない。

 ならば、もはやマシロが慣れない演技をする必要もなくなる。

 後は、いつも通りにガンプラバトルで勝ち続けるだけだ。

 

「レイコ。この地区のファイター全員の最新情報と戦術を用意しといて。戦術は最低でも1人当たり100は用意ね。地区予選までの間に全て頭に叩き込む」

「任せて」

 

 約束を取り付けた以上は、今までのように定期的にエリカと会う必要もない。

 そうなれば、地区大会までの時間の全てを勝つ為の準備に使う事が出来る。

 エリカの件でかなり、時間を割かねばいけなかった事もあり、その時間を取り戻すかのようにマシロは地区予選までの残り時間をひたすら勝利の為に費やすのだった。

 

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