ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
準決勝を当日に迎え、マシロは会場へ向かっていた。
以前、タツヤと共に出場した大会の道中で怪我を負わされた経験から、地区予選のバトルは毎回、クロガミグループの専用車で送り迎えをさせている。
会場までの間に頭の中で今日のバトルのシミュレーションしていると、携帯が鳴る。
「誰?」
シミュレーションを邪魔されてマシロは少し機嫌が悪くなった。
「私だ」
「……ボスかよ」
マシロは電話の相手を確認すると更に機嫌が悪くなる。
マシロがボスと呼ぶ相手は一人しかいない。
マシロが名目上所属しているガンプラチーム「ネメシス」のオーナー、ヨセフ・カンカーンシュルヤだ。
そして、互いに用が無ければ連絡など取り合う事が無い為、何かしらの用があると言う事だ。
大会中と言う事もあって、面倒な事この上なかった。
「どういう事か説明して貰おうか」
「何の事だよ」
「決まっている。何故、お前がガンプラバトルの世界大会にエントリーしているのかと言う事だ」
「その事か。耳が早いな」
ヨセフがマシロに連絡を入れた理由は、マシロが世界大会に出場していることだ。
契約では今年ではなく、来年の世界大会で優勝する事となっている。
来年はプラフスキー粒子の発見から10年目である為に優勝時の副賞が例年とは違うからだ。
その為に、マシロの情報を秘匿し、来年の世界大会の切り札として来た。
しかし、マシロは一年早く表舞台に出て来た。
ヨセフの予定は大きく狂ったも同然だ。
「今年優勝すれば、来年は地区予選をパス出来るからな。そっちの方が楽じゃん」
「だが、今年優勝すれば来年は世界中のファイターに研究される」
「だから何? それでも勝てば問題ないだろ」
毎年、去年の世界チャンピオンはバトルを研究される。
それは当然の事で、研究されれば圧倒的に不利となり、それ故に今までに世界大会を連覇したファイターは今までに一人としていない。
だが、マシロからすればそんな事は関係ない。
ただ、今年も来年も優勝すればいいだけの事だ。
「そんなに俺の事が信用出来ないってんなら、ボスが金出してる……何だっけ? フラナガン機関? フラガ機関? とやらにファイターを送って来るように言えば良いじゃん。どうせ、ガンプラバトル関係の機関なんだろ?」
正確にはフナラ機関だ。
マシロも興味が無い為、深く調べてはいないがヨセフはフラナ機関に出資をしている。
タイミング的にガンプラバトルに関係していると思われる。
恐らくは万が一にマシロが勝てなかった時の保険と言う事だろう。
「そうさせて貰う」
ヨセフはそう言って一方的に電話を切った。
「たく……まぁ、少しは面白そうな奴が来れば良いんだけどな」
マシロはヨセフの事を忘れて再びシミュレーションに入る。
地区予選の準決勝ともなると観客の数はかなり増えている。
尤も、純粋にバトルを見に来た観客だけではなく、カメラを回しバトルの様子を録画しようとしている観客も少なからずいた。
彼らの目的は応援と言う訳ではない。
別の地区や国で出場予定の選手たちなのだろう。
自分の実力に自信があるファイターなら自分の参加予定の地区を勝ち抜けばいずれは世界大会で当たると言う事で偵察に来ているのだろう。
中には外人もちらほら見えるが、国によってはすでに予選が終わって代表が決まっている国もある。
そんな国のファイター達も世界大会の開催地である静岡に早めに滞在し、日本に慣れる事とこの地区の代表のバトルを見に来ている。
「勝算はあるのか? カガミ」
準決勝一回戦の開始時間が迫り、会場入りしたレッカにタクトがそう言う。
すでにアオイは自分のバトルの準備に入っており、タクトとエリカはアオイの応援に回る為、先にレッカを激励しに来ていた。
「彼のバトルを見る限り彼は強い。恐らくはこの地区でも彼以上のファイターはいないだろう」
レッカは今までもマシロのバトルからそう判断した。
後半になるにつれて確実にマシロの対戦相手のファイターの実力は上がっているが、それでもマシロは苦戦する事無く勝って来ている。
そこから、マシロの実力は第一地区の中でもずば抜けて高いと判断した。
「だが、それと同時に非常に幼稚なバトルをしている。自分の実力を見せつけるかのように戦っている。そこに付け入る隙がある」
確かにマシロの実力はずば抜けていた。
しかし、同時にマシロのバトルは常に自分の実力を見せつけるかのようなバトルだった。
その気になれば、もっと早く勝負をつける事が出来たバトルも多く、特にエリカとのバトルがそうだ。
わざわざ、投げたビームブーメランを掴むと言う無用なリスクを何度も繰り返す辺りはマシロが自分の実力に絶対的な自信を持ち、それを見せつけたいと言う思惑が感じられた。
「力だけで勝てる程、ガンプラバトルは甘くはないさ。正面からぶつかれば勝算は薄いが、彼の攻撃をとにかく防いでチャンスを待つ。彼だって人間なんだ、いずれは致命的なミスを犯すだろう。そこを突けば勝ち目は見えて来る」
レッカのマシロ攻略の策として、長期戦に持ち込むと言う事だ。
幾らマシロの実力がずば抜けていても、人である以上はミスは必ず出て来る。
そのミスを犯すまで耐えに耐えて、チャンスを待つ。
正面からのバトルでは勝ち目がないと判断すればこその策と言えた。
「けど、気を付けろよ。アイツは普通じゃない」
「肝に銘じておく。タチバナに伝えて置いてくれ。先に決勝で待っていると」
実際にマシロとのバトル経験のあるエリカの忠告を受けて、レッカはそう返す。
尤も、準決勝の開始時間はアオイの方が少し遅いが、レッカは長期戦に持ち込む為、終わるのはアオイよりも遅い。
「おう。頑張って来いよ」
タクトとエリカに見送られて、レッカはマシロとのバトルに向かう。
それを見送った二人もすぐにアオイのバトルが行われるスタジアムへと向かった。
会場にはすでにマシロが待機しており、レッカが来たところでバトルシステムが起動する。
二人はGPベースをセットすると、バトルシステムにガンプラを置いた。
マシロはいつものガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、レッカのビギニングガンダムRはいつもとは違いビームライフルとシールドを装備している。
長期戦に持ち込むに為に、距離を取って戦えるビームライフルと防御に使うシールドを装備して来た。
二人の準備が整い、バトルが開始される。
今回のバトルフィールドは以前にレッカがアオイとバトルした月面フィールドだ。
バトルが開始され、レッカは周囲を警戒する。
すると、正面からガンダム∀GE-1 セブンスソードがショートドッズライフルを撃って来る。
それをシールドで受け止め、ビームライフルで反撃する。
「やはり、馬鹿正直に正面から来るか」
ビギニングガンダムRの攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕の小型シールドで防ぎながら突っ込んで来る。
ビギニングガンダムRはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの勢いを削ごうとする。
しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは小型シールドを掲げながらも、速度を通さない。
本体への直撃は小型シールドで防いでいるが、ビームが掠る事を気にも留めていない。
「突貫する気か!」
向こうが損傷を気にすること無く、突っ込んで来ると言う事にレッカが気が付くのは少し遅れていた。
今までのバトルは一度も被弾する事が無かった為だ。
そして、気が付いた時には遅く、小型シールドを掲げたガンダム∀GE-1 セブンスソードがビギニングガンダムRに突っ込んだ。
ギリギリのところでシールドで受け止めてが、勢いの付いているガンダム∀GE-1 セブンスソードを止める事が出来ずに弾き飛ばされた。
「やってくれた……」
「遅いんだよ」
吹っ飛ばされて何とか立ち上がったビギニングガンダムRだったが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一気の距離を詰めていた。
とっさにビームライフルで応戦するが、ビームを撃った時には懐に入られていた。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して振り上げて、ビギニングガンダムRの右腕を切断した。
ビギニングガンダムRはガンダム∀GE-1 セブンスソードに距離を取らせる為に至近距離から頭部のビームバルカンを撃ち込むが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは被弾を気にすること無くCソードを振り下ろした。
その一撃はビギニングガンダムRを一刀両断した。
「そんな……」
長期戦に持ち込んで隙をつく作戦だったが、長期戦どことが普通のバトルよりも短い時間で終わった事でレッカは茫然とするしかなかった。
レッカはマシロのバトルを力を見せつけていると分析していたが、それは正しくもあり間違いでもあった。
地区予選が始まった時にレイコから言われた通りのバトルをマシロは心がけていた。
それ故に、レッカはマシロに付け入る隙があると思わされていた。
レッカがマシロのバトルを分析したようにレイコもまた、レッカのバトルを分析した。
その結果、今までのバトルからマシロは力を見せつけるように戦うと印象づけたところで、本来の戦い方で戦わせた。
そうする事で、レッカが戦い方が変わった事に対処する前に勝負をつける事が出来た。
今回の作戦は奇襲である為、次からは余り効果的とは言えないが、速攻で決めた事で単に力を見せつけるだけのバトルの中に速攻で決めに来ると言う事も印象づける事が出来た。
次からマシロとバトルする場合は速攻も警戒せざる負えない為、他のファイターにも圧力をかける事にも繋がっている。
そして、レッカが知らない最大の誤算はマシロは一日の大半をガンプラバトルに費やす事も珍しくは無い為、数時間くらいのバトルでは普通に戦う分には絶対にミスを犯さないと言う事だ。
つまりは、一見ミスを犯すまで耐えると言う作戦はマシロに対して効果的とも思えたが、その実守りに徹しているだけでは始めから勝ち目などなかった。
マシロとレッカのバトルが終わった頃、アオイとコウスケのバトルの方も始まろうとしている。
観客席ではタクトとエリカが緊張した面持ちでバトルが始まるのを待っていた。
茨の園で久しぶりに会ったコウスケはまるで別人になっていた。
アオイにとってはコウスケは初めてバトルした相手だ。
あの時はバトルに慣れていなかった為に、操縦をミスしてあっさりと負けた。
今は、経験を積んだ事で実力を伸ばした為、あの時のようなミスはしないだろう。
アオイにとっては特別な相手でその相手は変わり果てている。
バトル前にアオイに会っているが、今日のアオイはいつもよりどことなく気合が入っているようにも見えた。
「まだ始まってないみたいだな」
「お前……」
バトルが始まろうと言う時にマシロが観客席に来ていた。
タクトたちは少し前にマシロとバトルするレッカを送り出した。
長期戦に持ち込むと言っていた事を除いてもまだ、バトル中の筈だったが、ここにマシロがいると言う事はすでにバトルが終わったと言う事だろう。
そして、マシロの様子を見る限りでは負けて来たとは見えない。
つまり、マシロに確認せずともレッカは負けた。
それも、この短時間でだ。
「俺としては強い方が上がってくればどっちが勝っても構わないんだけど、宣言した以上はタチバナ・アオイに勝って貰わんと超恥ずかしい事になるな」
マシロはそう言って、何気ない顔で二人の隣の席に座り込む。
「アオイは勝つさ」
タクトは自分に言い聞かせるようにそう言う。
それに対して、マシロは何も言わない。
そして、二人の準備が整いバトルが開始された。
バトルフィールドは山岳地帯。
アオイが初めてバトルしたバトルフィールドだ。
「センパイのガンプラが!」
バトルが始まり、モニターに双方のガンプラが映し出されている。
アオイの方はいつもと変わらないが、コウスケのガンプラは前に見たバンシィとは違った。
フルアームド・バンシィ・ノルン。
OVAに登場するバンシィを改修した総合性能向上仕様であるバンシィ・ノルンをベースにしている。
汎用性に難がある為に撤去された両腕のアームド・アーマーを撤去せずにそのまま装備している。
バックパックには増加ジェネレーターでもあるアームド・アーマーXCとシールドに増加ブースターとビーム砲を搭載したアームド・アーマーDEを装備している。
右手にはバンシィ・ノルンの通常装備であるリボルビング・ランチャーが付いたビームマグナムを持っている。
「アームド・アーマーの全部盛りね。少しはマシなガンプラを仕上げて来たみたいだな」
マシロはFAバンシィ・ノルンをそう評価した。
バトルが開始されFAバンシィ・ノルンはビームマグナムで先制攻撃を行う。
以前は威力にビビッて大きく回避して体勢を崩していたが、今回は冷静に着地してハイパービームライフルで反撃する。
そのビームはビームマグナムを掠った。
FAバンシィ・ノルンはすぐにビームマグナムをパージして着地する。
ビームマグナムを失った事で、腰につけて来たビームマグナムとリボルビング・ランチャーの予備の弾倉をパージする。
「少しはマシになったみたいだけどな!」
FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSを展開して攻撃する。
「先輩のように強くなりたくて僕は頑張って来ました!」
「無駄な事を!」
ビギニングガンダムBはFAバンシィ・ノルンの攻撃を回避しながら反撃する。
「無駄なんかじゃ!」
ビギニングガンダムBの攻撃はFAバンシィ・ノルンに掠った。
損傷こそないが、初めてのバトルの時の印象しかないコウスケにとってはアオイに攻撃を掠らされたことは屈辱でしかなかった。
「雑魚の癖して!」
アームド・アーマーDEを使ってFAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBに突っ込んでアームド・アーマーVNを振るう。
ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで迎撃するが、接近を防ぎ切れ無かったが、FAバンシィ・ノルンの攻撃を掻い潜りFAバンシィ・ノルンの背後に飛び上がった。
そして、ハイパービームライフルを放つが、バックパックのアームド・アーマーDEで防がれる。
「無駄なんだよ!」
「違います!」
FAバンシィ・ノルンの背後に着地した、ビギニングガンダムBはシールドを掲げて前に出る。
FAバンシィ・ノルンは振り返るが、ビギニングガンダムBの体当たりを受ける。
「僕はあの時、先輩に言われました。もっと努力すれば伸びるって……だから、それを信じて、僕は友達と共に頑張って来たんです!」
「黙れ!」
ビギニングガンダムBの体当たりをFAバンシィ・ノルンは辛うじて受け止めた。
「嫌です! 今の先輩は間違ってます!」
「喋るなぁぁぁぁ!」
アオイの真っ直ぐな言葉は、コウスケをイラつかせる。
アオイの真っ直ぐな言葉は自分が如何に汚れてしまっているかを思い知らされる。
FAバンシィ・ノルンはビギニングガンダムBのシールドを蹴り飛ばすと、至近距離からバルカンを撃ち込む。
強度の増しているシールドなら受け止める事は容易いが、ビギニングガンダムBはその場から動けない。
「バトルは勝たないと駄目なんだよ! 敗者は惨めなんだよ! 努力なんて意味がなかったんだよ!」
「そんなの違う! 絶対に違います! 努力に意味なんてない訳がない!」
ビギニングガンダムBはハイパービームライフルで反撃する。
「努力があるから結果に繋がるんです! 僕がそうだったように!」
ビギニングガンダムBのビームがFAバンシィ・ノルンの左腕のアームド・アーマーVNを破壊する。
「貴方は急ぎ過ぎたんですよ!」
「何も知らない癖に! 俺だって……こんな筈じゃなかった……こんな筈じゃ!」
FAバンシィ・ノルンは左腕にビームトンファーを展開して、ビギニングガンダムBに付き出す。
シールドで受け止めるも、次第にシールドにビームトンファーが突き刺さって行く。
「諦めたら、そこで終わりなんですよ!」
「俺だって諦めたくはなかったさ! けどな……どうしようもないんだよ! 諦めるしかないだろ!」
コウスケは負けた事が無かった訳じゃない。
だが、マシロに敗北した事で思い知った。
努力だけでは超える事の出来ない壁を。
だから、諦めた。
自分には超える事が出来ないと。
だから、コウスケは努力する事を止めて、自分よりも弱く勝てる相手を徹底的に弄り叩きのめす事で自分が強いと思おうとした。
「だからって!」
ビギニングガンダムBはシールドを捨てて、ビームサーベルを抜きざまに振るう。
FAバンシィ・ノルンも右腕のアームド・アーマーBSを向けるが、ビームサーベルが振り落される方が早かった。
ビームサーベルがアームド・アーマーBSを切り裂き、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーBSをパージした。
2機は距離を取ってFAバンシィ・ノルンは左腕にバックパックのアームド・アーマーDEを付けて、右腕のビームトンファーを展開する。
「だからって……出来ないからって諦めてしまえば、もっと何も出来ないじゃないですか! 僕だって……何の取り柄の無い僕だって、友達に支えられて……諦めないでやって来れたからここまでこれたんです! 僕に出来て先輩に出来ない訳ないじゃないですか!」
ビギニングガンダムBはハイパービームライフルを放ち、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで防ぎながら接近してビームトンファーを振るう。
ビギニングガンダムBは一歩下がってビームトンファーをかわして、ビームサーベルを振り落す。
それを、FAバンシィ・ノルンはアームド・アーマーDEで受け止める。
「だから……こんな相手を叩きのめす為のバトルなんて絶対に間違ってます!」
ビギニングガンダムは後ろに引いてハイパービームライフルを向ける。
ハイパービームライフルのバーストショットをアームド・アーマーDEに撃ち込んで破壊する。
だが、FAバンシィ・ノルンも負けじとビームトンファーを振り上げてハイパービームライフルを切り裂く。
「僕の知ってる先輩はこんなバトルはしません!」
ビギニングガンダムBのビームサーベルとFAバンシィ・ノルンのビームトンファーがぶつかり合う。
「だから……僕が勝ちます!」
「だったら……僕に勝って証明して見せるんだ!」
ビギニングガンダムBはもう一本のビームサーベルを抜いて、二本のビームサーベルでFAバンシィ・ノルンのビームトンファーを押し戻す。
押し返されたFAバンシィ・ノルンも左腕のビームトンファーも展開して振るう。
二本のビームトンファーの斬撃をビギニングガンダムBは紙一重で回避して見せた。
「これをかわした!」
そして、ビギニングガンダムBはビームサーベルを振るう。
二本のビームサーベルが同時にFAバンシィ・ノルンを捕えた。
両肩からバッサリとビームサーベルで切り裂かれたFAバンシィ・ノルンは地に倒れ伏した。
「こんなもんか」
バトルに決着が付き会場が歓声で湧き上がる中、マシロだけは冷ややかだ。
この勝敗自体は始めから分かっていた事だ。
最後の攻撃をかわした時にアオイはゾーンに入っていたと思われるが、そのくらいしか見どころは無かった。
「まぁ……お楽しみは最後に取っておくと言う事か」
未だにアオイのバトルの違和感の正体が分からないが、初めから何もかもが分かっているバトルはつまらない。
熱狂が覚める前にマシロは席を立って帰って行く。
「先輩! 何か勝手な事ばかり言って済みませんでした」
バトルが終わって、アオイは冷静になって見るとバトル中にコウスケに対していろいろと言っていた事を思い出して謝った。
「……いや、君の言う通りだったよ。努力はやる事が重要なんじゃない。諦めない事が重要なんだ」
一方のコウスケはバトルに負けたが、どこか憑き物が取れたかのように晴れやかだった。
マシロに負けた事で諦めたが、アオイに負けて希望を見いだせた。
初めてアオイとバトルした時とは比べものにならない程、アオイは強くなった。
それは、アオイが諦めずにここまで頑張って来たからなのだろう。
「僕の負けだよ」
コウスケはそう言って、アオイに手を差し出す。
アオイもその手を握り返す。
「次の決勝戦は恐らく彼だろう。でも……アオイ君ならきっと……」
まだ、二人にはマシロとレッカのバトルの結果は届けられてはいない。
だが、コウスケはアオイの決勝戦の相手はマシロであると漠然と思っていた。
圧倒的な力を持つマシロにコウスケは心が折られた。
しかし、どんなに強大な力を前にしてもアオイは折れないと確信していた。
元からアオイには才能があった。
それに加えてここまで積み重ねて来た物もある。
そんなアオイならマシロを相手に勝てるかも知れないとコウスケは思っていた。
「僕にどこまで出来るか分かりませんが……」
「アオイ君、君は強い。もう少し、自分に自信を持った方が良い。出ないと君に負けた僕の立つ瀬がないからね」
「……そうですね」
コウスケは軽く茶化すが、アオイはここに来るまでにいくつも勝利を重ねて来た。
そんなアオイが自分を卑下する事はアオイが倒して来たファイターへの侮辱となる。
「僕はあの人に勝ちたい……いえ、勝ちます」
「その意気だ」
日本第一地区地区予選準決勝が終わり、世界大会への切符をかけた決勝戦はマシロ・クロガミとタチバナ・アオイの二人でバトルする事となった。