ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle24 「偽りの真実」

 

 

 準決勝と決勝戦の間には一週間の間が空いている。

 その間にアオイは決勝戦に向けての練習をホワイトファングで行っていた。

 

「もう一度お願いします!」

 

 アオイは練習相手のコウスケにそう言う。

 今はコウスケがアオイの連中相手を務めていた。

 決勝の相手であるマシロと戦うに当たり、エリカやタクトではすでに役不足である事を本人たちが自覚している。

 すでに、エリカとの勝率が7割、タクトとは8割となっている。

 

「少し休んだ方が良い。余り根を詰め過ぎると体調を崩しかねないからね」

「分かりました」

 

 アオイもコウスケの意見に素直に従う。

 今までは闇雲にバトルを繰り返していたが、コウスケが加わった事で練習の密度が濃くなっている。

 

「お疲れさん」

 

 そう言って、バトルを見ていたタクトがアオイにスポーツドリンクを渡した。

 

「それじゃ休みながら今のバトルを振り返ってみるよ」

「はい!」

 

 時間を少しでも有効に活用する為に、休憩時間にもバトルの振り返りと行う事で、現在のアオイの問題点を対戦相手の視点や観戦していた第三者の視点から洗い出していく。

 

「それにしても大した物だよ。これだけの短期間でここまで成長するなんてね」

 

 コウスケは何度かバトルしてアオイの成長を実感した。

 コウスケに対する勝率は4割と言ったところだ。

 

「けど、相手はあのマシロだからな」

「実際に戦ったから分かるけど、アイツは口だけじゃねぇ……」

 

 アオイは確実に成長しているが、マシロと比べるとどうしても劣って見えてしまう。

 

「流石にこの短期間でアオイ君がマシロ君に実力で上回るのは不可能だよ。だけど、来週の決勝戦だけでも勝てるようにする事が先決だね」

 

 マシロの実力はコウスケも嫌と言う程分かっている。

 その為、一週間と言う期間内に実力でマシロを超えると言う事は確実に不可能だと思っている。

 だが、実力を超える必要はない。

 要は次の決勝戦の一戦だけでも勝てるようにすれば良い。

 

「けど、どうするんですか?」

「そうだね……まずはガンプラの強化、大幅な改造は難しいけど、武装を追加して必要に応じてパージすれば操縦の感覚が変わっても最悪、すぐに捨てれば良いからね」

「最終決戦仕様とかですか?」

「そんなところ」

 

 マシロに勝つ為の準備の一つがガンプラの強化だ。

 ここまでのバトルを見ただけでも、マシロは操縦技術だけではなく、ガンプラの性能も非常に高い。

 それに対抗する為には、今のアオイのビギニングガンダムBでは厳しい。

 それを補うために装備を増やすと言う事だ。

 それだけでも戦い方に幅が出て来る。

 

「次にマシロ君の戦い方を重点的に対策を立てると事だね。そうすれば、純粋な実力の向上には繋がらないかも知れないけど、決勝戦はある程度は戦えるようになる」

 

 もう一つはマシロの戦い方に絞っての練習だ。

 総合的な実力を上げるよりも、マシロと戦う事だけを重点的に練習すれば一週間でもある程度は戦えるようになるかも知れない。

 

「マシロの戦い方か……」

「近接戦闘だな」

「そうだね。彼は色々な戦い方が出来るけど、その根幹は近接戦闘になるね」

 

 マシロの使っているガンプラは右腕を初めとしていくつもの接近戦用の装備を持っている。

 準決勝までのバトルの大半は接近戦で仕留めている為、間違いはないだろう。

 

「今のアオイ君なら射撃戦は十分に戦えるから、近接戦闘をメインに練習をして行こう。良いね?」

「よろしくお願いします」

「なら、アタシの出番だな!」

 

 話しが纏まったところでエリカが名乗りを上げる。

 この中でエリカが最も近接戦闘を得意としている。

 近接戦闘の練習を行うなら、一番適任者とも言える。

 

「勢いだけ練習にはならないんじゃないのか?」

「カガミ君」

 

 エリカが名乗りを上げたところにレッカも話しに加わって来る。

 準決勝が終わった頃には、レッカも帰っていて話しが出来なかった。

 確認するまでもなく、マシロに敗北していた事は分かっていたが、長期戦に持ち込む事も出来ずに完敗したと知ってからは話す事も出来なかった。

 その上で連絡先を交換していた訳でも無い為、今の今まで話しをする機会もなかった。

 

「お前……」

「勘違いをするなよ。俺としてはライバルと認めたタチバナがアイツに無様に負けるのが癪なだけだ」

「素直じゃねーの」

「黙ってろ。地区予選で決着をつける事が出来なかったんだ。ここで決着をつけたいだけだ」

 

 レッカも素直にアオイの練習に付き合うとは言わないが、レッカも近接戦闘を得意としている。

 エリカとは違うタイプである為、両方とやる事にも意味がある。

 

「二人だけじゃなくて、僕とキサラギ君も含めてローテーションしながらやった方が良いね。相手を固定するとその相手でイメージが固まってしまうから」

「皆さん。よろしくお願いします」

 

 アオイはそう言って頭を下げる。

 アオイに協力して、アオイがマシロに勝ったところで、アオイは世界大会に出る事が出来るが、彼らには何一つとして得は無い。

 それでもアオイに協力するのは、打算からではない純粋な好意からだろう。

 それに報いる為にも、残りの時間で少しでも腕を磨くしかなかった。

 

「にしても、センパイが加わって練習も本格的になったよな」

「だな。この調子なら本当に決勝も勝てるかもな」

「皆さんのお陰ですよ」

 

 日が傾きかけた頃には練習もやり過ぎれば逆効果と言う事で練習は終わっていた。

 後はアオイがガンプラの強化のイメージを膨らませる事が次のステップだ。

 結局のところアオイのガンプラである為、強化の基礎はアオイがやりたいように考えて、そこから他の意見も取り入れて完成させる予定だ。

 

「ん……」

 

 3人は歩いているとタクトが立ち止まる。

 

「どうしたんですか?」

「いや……ミズキさんが路地裏に入って行った気が……」

「こんな時間に? 確かに今日はいなかったけど、流石に見間違いだろ」

「だよな……」

 

 タクトはミズキが路地裏に入って行った気がしたが、辺りも暗くなっているこの時間帯にミズキが路地裏に入って行くとは考え難い。

 

「けどな……悪い。ちょっと確認して来る!」

 

 見間違えかも知れないが、タクトはどうしても気になった為、路地裏に走って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、マシロはレイコの指示でホテルから人気のない路地裏に行かされていた。

 マシロはバトルをしていないと抗議するも、必要な事だと言われて渋々、指定された場所に来た。

 

「たく……」

「お久しぶりです。マシロ様」

「シオンか……」

 

 後ろからマシロは久しぶりにシオンの声を聴き、振り返るがそこにはマシロの知るシオンの姿はない。

 代わりにミズキがそこに立っていた。

 

「えっと……アンタ確か」

「シオンです」

「……マジで?」

 

 そう言うミズキの声は以前に会った時よりも少し低い。

 

「まぁ、こんな恰好ですからね。気がつかないのも無理はありません。レイコ様の指示でホワイトファングのバイトとしてファイターの情報を収集していました」

 

 シオンは今まで、レイコの指示で動いていると言う事はマシロも知っていた。

 それが、ホワイトファングでバイトとして働きながらファイターの情報を集めると言う物である事までは聞かされてはいなかった。

 レイコの方で集められる情報の大半はファイターとしての技術的な要素が強く、ファイターの人格や趣向などと言った方面を集める事は難しい。

 そこを補う為にシオンを使って、情報を集めさせていた。

 マシロがミズキを見覚えがあるのも当然の事だった。

 

「ふーん。お前も大変だな。偽名に女装とかさせられてさ」

「は?」

 

 マシロがそう言うと、ミズキ……シオンの表情が変わった。

 

「マシロ様……ミズキは偽名ではなく本名です。それに執事の恰好は去年くらいにマシロ様がインスピレーションが湧くかも知れないと言いだしてさせられただけで、私は生まれた時か

 

ら女です」

「……そうだっけ」

 

 マシロは完全に忘れていたが、シオンの本名はシオン・ミズキ。

 仕事である為、苗字の方のシオンで名乗っているだけに過ぎず、ミズキが偽名であると言う事ではない。

 そして、執事である事から誤解されがちだが、シオンの性別は女だ。

 そんなシオンが執事の恰好をしているのは、マシロの思いつきによる物だ。

 去年マシロが突然、ガンプラ制作のインスピレーションが湧くかも知れないと言う理由で男装をさせられて、男装をするなら執事でしょと言う理由だ。

 だが、いつしかマシロの方も完全に忘れていた。

 

「そうです。一体何年、仕えて来たと思ってるんですか」

「だって、シオンはシオンだろ? 別に性別とか名前とかどうだって良いし」

「……まぁ、マシロ様はそう言う人ですよね」

 

 シオンは呆れるしかない。

 シオンは高校を卒業と同時にマシロの世話役となった。

 数年もマシロの世話をしているのに、マシロの方はシオンの名前すらも覚えてはおらず、一年男装していただけで女であった事も忘れている。

 所詮、マシロにとってシオンは自分の世話をするだけの付き人に過ぎず、名前や性別はどうでも良かった。

 

「それより、こうして正体を明かして戻って来たって事は任務を終えたって事か?」

「ええ、何故、このような場所で合流するのかは分かりませんが、必要な情報は得て来たと思います」

 

 今まで、マシロにすら任務を明かさずに行動していたシオンがマシロと合流したと言う事はすでに情報収集の必要がなくなったと言う事だ。

 普通にホテルに戻ってくればいいところを、わざわざルートを指定されてまで、マシロとこんなところで合流する必要性には疑問があるが、任務が終わった事に代わりは無い。

 マシロとシオンが路地裏に入って行くことを目撃して追って来たタクトが遠くで見ていた事に気づく事無く、ホテルへと帰って行く。

 

 

 

 

 

 

 決勝戦を翌日に控え、アオイ達はホワイトファングで最終調整を行っていた。

 ある程度の技術を持つコウスケの手伝いもあって、武装強化は終わっている。

 後は、強化したビギニングガンダムBをどこまでアオイが使いこなせるようになるかだ。

 

「さて、明日は本番だから今日はこのくらいにして置こう」

「分かりました」

 

 明日が決勝戦と言う事もあって、コウスケは少し早めに練習を切り上げた。 

 この一週間で出来る事はやったが、それでもまだ何かやれることがあるんじゃないかと思ってしまう。

 どれだけの準備をしても、足りないと思わせる程の相手が決勝戦の相手だからだ。

 

「タチバナ・アオイ君よね。少し良いかしら?」

「そうですけど……」

「良かった。私はクロガミ・レイコ。次の貴方の対戦相手になるマシロの姉よ」

 

 練習を切り上げたところに、レイコが話しかけて来る。

 マシロの姉と言う事でタクトとエリカは少し警戒する。

 

「何の用ですか?」

 

 タクトが警戒しつつも、レイコに問う。

 それに対して、レイコは笑みを浮かべて対応する。

 

「今日は貴方たちにお願いがあって来たの」

「まさか、明日のバトルを負けてくれとでも良いに来たんですか?」

「違うわ。寧ろ逆よ。明日のバトル、貴方たちに勝って欲しくて来たの」

 

 予想外の用事に皆が驚く。

 対戦相手の身内が、負けて欲しいと頼みに来る事は褒められた事では無いが、理解できる。

 だが、逆に勝って欲しいと言いに来る理由は見当もつかない。

 

「……どういう事ですか?」

「その前にあの子の事を少し話すわ。あの子もクロガミ一族の被害者なのよ」

 

 レイコは少し憂いを帯びた表情で話し始める。

 

「あの子は私達とは血がつながっていないのよ。あの子は小さな町で生まれた孤児だったの。それを私の父がガンプラバトルの才能を見出して買い取った。そして、あの子は学校に通わ

 

せても貰えずにただ、ガンプラバトルの訓練を義務づけられた」

 

 レイコの口から語られるマシロの過去はアオイ達が思った以上に重く暗い内容だった。

 

「そして、勝ち続ける事を強要されて来た。その為なら手段を選ぶこともしないわ。例えば、ファイターの情報を集める為にスパイを送り込む事とかね」

「スパイって……そんな、漫画やアニメの世界じゃあるまいし」

「だけど、事実よ。この店にもミズキって子がいたでしょ。彼女はファイターの情報を得る為に送り込まれて来たわ」

 

 アオイ達もミズキの事は知っている。

 だが、アオイ達の知るミズキは人付き合いも苦手そうでとてもスパイには見えない。

 しかし、タクトは少し前にミズキが路地裏に入ったところを偶然にも目撃し、追ったところマシロと会っている場面を見ていた。

 その時の会話までは聞こえなかったが、遠目で見てもミズキの言動は自分達の知るミズキとは違った。

 他人のそら似だったかも知れないと自分に言い聞かせていたが、あの時、ミズキはマシロに情報を渡していたんだとすれば説明が付く。

 

「彼女を恨まないであげて。彼女も仕方が無く強要されてやった事なの。彼女の実家は町工場を経営していたの。だけど、その町工場はクロガミグループに買収されて、彼女も逆らえな

 

いわ」

「何だよ……それ!」

 

 タクトは怒りの余り声を上げた。

 

「今のマシロは勝利こそを至上とし、勝利の為なら手段を選ばないわ。私はそんなあの子を救って欲しいわ。私にとってあの子は大切な弟なの……」

 

 そう言ってレイコは涙を流す。

 

「きっと、負ければあの子も目を覚ますわ」

「……僕にマシロさんを救える自信はないですけど、僕は色んな人に支えて貰っています。だから、明日のバトル、負ける訳には行きません……それで良いでしょうか?」

 

 アオイ自身、マシロに勝てるかは分からない。

 だが、ここまで来る為にタクトやエリカを始めいろいろな人に支えて貰って来た。

 それに報いる為にも勝ちないと思っている。

 

「ありがとう……これ、あの子のバトルをまとめた物よ。良かったら使って頂戴」

 

 レイコは鞄の中からDVDを取り出す。

 それは、マシロのバトルの様子がまとめられているらしい。

 

「良いんですか?」

「ええ」

「分かりました。ありがとうございます」

 

 アオイはレイコからDVDを受け取った。

 それ自体の重量は軽いが、それにはレイコのマシロへの想いが籠っている様で重く感じた。

 

「それじゃ明日のバトル期待しているわ」

 

 レイコはそう言って帰って行く。

 

「明日、負けられなくなったな。マシロの為にも」

 

 レイコを見送りながら、タクトがそう言う。

 タクトはマシロと揉めた事で嫌っていたが、まさか、マシロの過去がここまで重い物を背負わされていたと知り今までのわだかまりも無くなっていた。

 

「……そうですね」

 

 レイコからも思いを託されて、アオイは決勝戦に臨む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アオイにマシロのバトルをまとめたDVDを渡してレイコはホテルに帰って来た。

 ホテルを出る前にもマシロはバトルをしていたが、未だにバトルをしていた。

 

「出かけてたん?」

 

 バトルをしていて、マシロはレイコが出かけていた事にも気づいていないようだ。

 今まではマシロを一人にする事は非常に危険だったが、今はシオンも戻って来ている為、マシロの身の回りの世話はシオンに任せれば良い。

 

「珍しい。引きもこりのレイコが出かけるなんて。何してたの?」

「ちょっとね」

「ふーん。余計な事をしてないだろうな?」

「してないわよ。ちょっと、最後の詰めにね」

 

 レイコは鞄をベットの上に放り投げてPCに向かう。

 

「明日の相手のタチバナ・アオイ君に貴方の事を教えてあげたのよ」

「すげぇ、余計な事な香りがプンプンするんだが……」

 

 バトルが終わったのか、マシロもベッドに座って一息つくと、シオンが二人分の飲み物を運んでくる。

 

「で……何を吹き込んで来たんだよ?」

「アンタ達が如何に不幸なのかを涙ながらの教えてあげたのよ」

 

 レイコはアオイ達に教えた事をマシロやシオンにも話した。

 話し終えると、マシロもシオンも呆れていた。

 

「よくもまぁ……そんなデタラメを……」

「デタラメじゃないわよ。事実をありのままに話しただけよ。ただ、客観的な事実のみでアンタ達の感情的な部分は向こうの想像に任せたけどね」

 

 レイコがアオイ達に話した事は事実であり、デタラメだ。

 出来事としては真実ではあった。

 マシロが孤児で、才能を見出されて引き取られたと言う事は事実だ。

 しかし、買われたと言う訳ではなく、マシロは自分の意志でクロガミ一族に引き取られた。

 ただ、その際に孤児院に対してクロガミ一族から寄付があったと言うだけの事だ。

 次にマシロは確かにガンプラバトルを強要されて学校にすら通っていないと言うのも、通わされていないのではなく、本人が通う気がない。

 本人が通いたいと言えば、学校に通う事も出来たが、マシロ本人がガンプラバトルをやりたいが故に行きたくないと断っている。

 勝ち続ける事を強要されていると言う事は紛れもない事実だが、マシロ自身、ガンプラバトルで勝つ事は好きなので嘘ではない。

 勝つ為に手段を択ばないと言えば聞こえが悪いが、実際のところ勝つ為なら何時間でもバトルや制作の練習を行い、必要であれば他者が確立した物でも積極的に取り入れて、バトルの

 

際にも相手の情報から対策を立てて策を講じて戦うなどと言った誰でもやっている事をやっているに過ぎない。

 スパイに関しては事実と嘘を合わせている。

 スパイを送り込んだのはマシロではなく、レイコだ。

 だが、タイミングを見計らってシオンとマシロが会っているところをタクトに見せた事でマシロが送り込んだと思わせた。

 シオンの事にしてもそうだ。

 シオンの実家は確かに小さな町工場を経営している。

 レイコの言う通り、今は工場はクロガミ一族が所有している。

 買収されたと言う事に関しても、事実だがそこに違法性の無ければ強引な手段を使った訳ではない。

 普通に工場を買い取りたいと申し出て、シオンの父親がそれに了承して契約は成立している。

 今ではシオンの父は雇われの身だが、工場で働いていた従業員もそのままクロガミ一族が雇い工場で働いている。

 待遇面では以前よりも良くなっているともっぱらの話だ。

 逆らえないと言うのも、別に工場の従業員を人質のように使われている訳ではなく、上司の命令だからに過ぎない。

 唯一の嘘がマシロの事が大切な弟と言う事くらいで後は事実を少し言い方を悪くして伝えただけだ。

 そうする事で、悪い解釈をさせた。

 

「何故、そのような事を?」

「あの歳くらいの子供は自分達の行動に酔い易いのよ。あの子たちは明日、アンタを救う為にバトルするわ。本人は現状に満足していると言うのにね。クロガミ一族と言う巨大な組織か

 

らアンタとシオンを助け出すと言う大義名分の元にね。これがフィクションなら最後は何とかなるんでしょうね。だけど、これは現実。そんな都合よくはいかないわ」

 

 レイコの狙いはマシロとシオンをクロガミ一族から助け出すとアオイ達に思わせる事にある。

 実際はマシロは今の生活に満足しているし、シオンも福利厚生等もしっかりとしている為、仕事と割り切れば不満はない。

 二人を助けると言う大義名分があれば、心の中では何とかなるかも知れないと言う思いも生まれて来る。

 なぜならば、物語において巨大な組織に囚われている人物を助けると言うのは王道的展開として珍しくはないからだ。

 そう思わせる事で隙も生まれて来る。

 

「けどさ、その気させたら、実力以上の力を発揮するかも知れないぜ?」

「構わないわ。それならアンタがその気になるでしょ」

 

 心に隙が生まれる可能性もあるが、逆に負けられないが故に実力以上の力を発揮するかも知れない。

 しかし、レイコにとってはそれはそれで構わなかった。

 マシロは気分によって発揮する実力が変わって来る。

 弱い相手とバトルする時と強い相手とバトルする時では気分のノリが明らかに違う。

 その時、相手が強い方が気分がノリ実力を発揮できる。

 つまり、相手が強くなった方がマシロの実力も出せて勝率は上がる。

 

「性格悪っ! いつか後ろから刺されるぜ」

「安心しなさい。そう言う可能性は事前に排除しているわ。当然、合法的にね」

「合法的にね……」

 

 レイコは合法的と言うが、実際は違法ではない手段でまともな手段ではないだろう。

 だが、そこをマシロは深く追求する気は無い。

 追及したところでレイコは素直に話す訳もなく、話したところで胸糞が悪くなる方法である事は確実だ。

 それ以上にマシロは自分とは関係ない他人がどうなろうと興味が無かった。

 

「まぁ、そんな事はどうでも良いわ。明日のバトルの作戦をまとめて置いたわ」

「んなの役に立たないって」

 

 レイコはすでにアオイの過去のバトルからいつも対策を考えていたが、マシロはそれを見る事もなかった。

 

「アイツのバトルのデータなんて殆ど役に立たない。アイツのバトルはチグハグ過ぎる。実力にムラがあるなんてレベルじゃない」

 

 アオイのバトルはデータ上は実力にムラがあるように見えるが、マシロから見ればそうではない。

 

「どういう事よ」

「シオンが持ち帰った情報を統合して分かったんだよ。違和感の正体がさ」

 

 シオンはアオイに関する情報を持ち帰っていた。

 その中にはバトルに関する物だけではなく、家族構成から学校内での素行などのアオイ自身の情報も含まれていた。

 その情報を繋ぎ合わせた結果、違和感の正体が見えて来た。

 

「アイツは単にボッチが嫌だっただけだ」

「情報は正確にしなさい」

「才能を素直に発揮すれば皆の中には入れなくなるって事だよ。俺達がそうだったようにな」

 

 マシロの言葉にレイコは何となく理解出来た。

 マシロ達は才能を素直に発揮し過ぎたが故に「皆」の中に入れくなった。

 幼き日のマシロは実家の近所でガンプラバトルを毎日のように行っていた。

 クロガミ一族で才能を開花させたマシロは近所の子供たちはおろか、大人たちにすら負けなかった。

 初めはマシロの強さを回りが褒め称えた。

 それからも勝ちに勝ち続けた結果、マシロは誰からもバトルして貰えなくなった。

 余りにも強くなり過ぎたマシロに対して誰もがマシロとバトルしてもどうせ勝てないと諦めてしまったからだ。

 店を変えてもマシロの噂が広まっていたのか、バトルの相手をしてくれるファイターは殆どおらず、何度かバトルするとやがてバトルの相手はいなくなる。

 マシロは自分の才能を素直に示し過ぎたせいで誰も相手にしてもらえなくなったのだ。

 レイコも少なからず似た経験を持っている。

 それは天才が故の孤独なのだろう。

 

「意図的ではないにしろ、アイツは本能的に理解してんだろうな。だから、手を抜いて負けたりもする」

 

 アオイの勝敗が安定しないのは、無意識の内に勝ち過ぎて相手にされない事を恐れているが故だとマシロは考えている。

 特にアオイは引っ込み事案で中学時代も親しい友人はいなかった。

 タクトやエリカは高校に進学しても変わる事がないところに出来た親しい友人だ。

 それを失いたくがないが故に無意識化で手を抜いて負けていたとしても不思議ではない。

 

「出ないと、普通のバトルは勝率が全体的に5割から6割程度なのに大会では負けなしってのも説明がつかないからな。運がいいのか悪いのか2度の大会で初めに友達と当たっているからな

 

 

 勝率が安定しないのにもかからわず、ホワイトファングのショップ大会と世界大会の地区予選では未だに負けなしだと言うも説明が実力を無意識化で落としていたのであれば説明が付

 

く。

 アオイはどちらの大会でも始めにタクトと当たっている。

 

「友達に勝った以上は途中で負ければ、友達に託された想いが無駄になってしまうから、そうなれば友達に失望される。それが怖いから何とか勝つってところだろうな」

 

 初めに友人であるタクトと当たり、勝利すれば当然タクトはアオイに期待を託すだろう。

 自分の分まで頑張れと。

 そんな期待を託されてしまえば、アオイは負けるに負けられない。

 負けてしまえば、自分に期待を託してくれたタクトの期待を裏切ってしまうからだ。

 

「強すぎても相手にされないが、弱すぎてもいずれは相手にされなくなる。だから、適度に勝ったり負けたりを繰り返す」

 

 アオイの勝率が安定しない最大の理由がそこだ。

 強すぎても相手にされないように、逆に弱すぎても相手にされなくなる。

 その事はマシロは痛い程理解していた。

 今でこそは圧倒的な実力を持ち、一度しか敗北をした事がないマシロだが、それはマシロ・クロガミとしてだ。

 ただのマシロだった時は寧ろ、マシロは一度もバトルで勝ったことは無かった。

 当時のマシロは誰も自分すらも、マシロの才能に気づく事は無く、それを活かしてはいなかった。

 寧ろ、その才能がマシロの足かせになっていた程だ。

 弱いマシロだったが、初めは弱い者虐めとして何度も相手をしてくれるファイターはいたが、余りのも弱い為、飽きて最後にはどうせマシロとバトルしても簡単に勝てるからつまらな

 

いと言われてバトルをしてもらえなくなった。

 結局のところ、強すぎても弱すぎても誰からも相手にされなくなる。

 

「けど……だからって無意識だろうと自分の才能を否定して、手を抜く……ムカつく」

 

 マシロはアオイの気持ちは良く分かる。

 かつては弱すぎて相手にされず、強くなっても強すぎて相手にされなかった。

 だが、それとこれとは話しは別だ。

 かつて、マシロはタツヤに才能がある物は才能を使うべきだと言った。

 それはタツヤにガンプラバトルの才能があり、タツヤ自身もガンプラバトルをやりたいと思っていたからこその言葉だ。

 才能があってもやりたくないなら、やらなくても良いとも思っている。

 しかし、アオイはバトルの才能が有り、バトルをやりつつも、友達を失いたくはないと心の奥底で思い無意識の内に才能を否定している。

 それだけは許せそうには無かった。

 

「才能は誰にだってある物じゃないんだ。才能があってやりたい事と一致している。それなのに才能を否定するとか……傲慢だ」

 

 マシロはガンプラバトルにおいて、天才的な才能を持っている。

 だが、その反面、それ以外はガンプラに関係しなければ人並以下でしかない。

 今の才能が開花するまでは、勉強も運動も出来ないダメダメだった。

 何の取り柄もなかった時期のある、マシロからすれば才能があってやりたい事と一致しているのに、才能を発揮しないのは傲慢以外の何物でもない。

 

「そう言う奴には死んでも負けられないな」

「そう言う奴でなくても負けて貰っては困るわ。それと、明日のバトルは砲戦用の装備で行きなさい。その為にわざわざ、アンタのバトルデータをくれてあげたのよ」

 

 レイコがアオイにマシロのバトルをまとめたの物を渡したのはそれを研究させるためだ。

 そうする事で砲撃戦用のフルアサルトジャケットを使わせれば、相手の裏をかく事が出来る。

 

「フルアサルトジャケットか……」

「問題があるの?」

「今のところは完成度は9割ってとこ、実戦には十分使える。後は装備の一部の完成と腕の関節部の強化、普通に戦う分には戦えるけど、ハイパーメガドッズライフルでぶん殴るには強度

 

が足りない。ハルキにその辺りは頼んでるから世界大会の途中に解決できる筈」

 

 ライフルと名がついている武器で何故、相手を殴る事を考えているかと言う疑問をレイコは一度脇に置いておく。

 話しを聞く限りではバトルに使えるのであれば問題はない。 

 完成系の方も世界大会の途中で完成する見込みがあるなら良い。

 

「構わないわ。寧ろ好都合よ。決勝戦は中継が入るから、マシロ・クロガミは接近戦意外でも戦えると言う事をアピールできればいいから」

 

 未完成だろうと、砲撃戦用の装備を見せれば今まではマシロは白兵戦を中心に戦って来たと言う前提が崩れる。

 そうする事で、マシロの対策を立て難くする事が今回、フルアサルトジャケットを使う最大の目的だ。

 

「それは構わないんだけどさ……フルアサルトジャケットを作っている間に変なテンションになって少しやり過ぎたんだよね。その時にさ……ヴェイガンを殲滅するって声が頭の中に入

 

って来て、結果的に砲撃戦と言うよりも殲滅戦用の装備になっちゃった」

 

 フルアサルトジャケットを作る際にマシロは一日徹夜している。

 その際にモチベーションを維持する為に取り換えずBGM替わりにガンダムのDVDを流していた。

 ガンダム∀GE-1のベースがガンダムAGE-1と言う事もあってAGE-1が搭乗するガンダムAGEを1話からBGMとして流していた。

 一日徹夜していた事もあって、その時のマシロのテンションは少しおかしかった。

 そして、そのテンションのまま調子に乗り過ぎて当初の予定を大きく外した改造となって。

 

「……もう、それで良いわ」

 

 呆れながらも、決勝戦は明日だ。

 今更、足掻いたところで無意味でしかない。

 多少は予定が狂ってもこのまま行くしかない。

 結果的にバトルに勝利してマシロに近接戦闘以外もあると言う事を見せつける事が出来ればそれで良い。

 マシロとアオイが相反する思いの中、決戦の日がやって来る。

 

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