ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle26 「満たされる心」

 日本第一地区の予選から約3か月後、地区予選の時とは比べものにならない程、人工島は賑わっている。

 ガンプラバトル世界大会が開幕したからだ。

 この時は、地区予選ではバトルスタジアムしか使っていなかったが、世界大会が開幕すると選手村や各飲食店、模型店などが開店し賑わっている。

 

「たく……何でアタシ等までタクトの補習を待たないといけないんだよ!」

「悪かったって!」

 

 アオイ達はメインスタジアムを目指して走っていた。

 タクトが1学期の成績が悪かったと言う事で補習を受けさせられる事となり、アオイとエリカはホワイトファングで時間を潰してタクトの補習が終わるのを待っていた。

 タクトと合流して、バトルの行われるメインスタジアムへと急いでいた。

 

「今日のバトル……どっちが勝つと思う?」

 

 タクトは走りながら、二人に尋ねた。

 

「マシロの相手はあのカルロス・カイザーだからな。今年のカイザーのノイエ・ジールは相当なガンプラだからな!」

 

 マシロの対戦相手はカルロス・カイザー。

 キング・オブ・カイザーの異名を持つファイターで世界大会において何度も決勝トーナメントに出た事のある世界でもトップクラスのファイターだ。

 

「つっても、ここまで来るのにカイザーも相当手の内を明かしているぜ? 悔しいけど、マシロの奴なら何かしらの対策を取ってても不思議じゃねぇよ!」

 

 今日は世界大会の最後の一戦、つまりは決勝戦が行われる。

 ここまで来るのにカイザーはいくつもの手の内を見せて来た。

 マシロが相手の情報を徹底的に分析し、対策や裏をついて来ると言うのは地区予選でアオイ達は嫌と言う程思い知らされている。

 マシロは予選ピリオドも決勝トーナメントもそうやって危なげなく全勝で勝ち進んでいる。

 決勝戦と言う事もあって出し惜しみもしないと考えられる。

 

「とにかく、始まって見ないと分からないよ」

「だな……センパイが先に席を取っておいてくれてるって話しだから急ぐぞ。もうバトルが始まっちまう!」

 

 決勝戦の開始の時間までもう余り時間は無い。

 3人は急いでスタジアムの中に入る。

 スタジアムの観客席に入り、スタジアムの大型モニターを見ると開始ギリギリで間に合ったようだ。

 

「ふぅ……何とか間に合ったな」

「もう始まるみたいだから先輩を探すよりも立って見た方が良いかも」

 

 すでにバトル開始直前である為、下手にコウスケを探すよりもこの辺りで見た方がバトルを全て見る事が出来る。

 3人は通路の端によって、通行人の邪魔にならないようにして、大型モニターを見る。

 そして、決勝戦が開始された。

 カイザーのガンプラは機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYに登場するノイエ・ジールだ。

 カイザーはジオン軍の整備士の「脚なんて飾りです」に感銘を受けて足の無いガンプラを使う。

 ノイエ・ジールも同様に足がない。

 作中でも搭載されていたIフィールドが搭載されており高い防御力でここまで勝ち上がってきた。

 バトルが開始され、観客たちは最強が決まる最後の一戦がどのような激戦となるのか、始まったばかりだが、心を踊らされていた。

 しかし、それは一瞬の出来事だった。

 カイザーのノイエ・ジールがバトルフィールドに出た瞬間、高出力のビームがノイエ・ジールを撃ち抜いた。

 その一撃がノイエ・ジールのIフィールドをぶち抜いてノイエ・ジールを破壊した。

 時間にしてバトル開始1秒後の出来事だ。

 その自体に観客は唖然とし、本来バトルが終了時に起こり得た筈の歓声は上がる事は無い。

 モニターにはマシロのガンダム∀GE-1 フルアサルトジャケットが右手にハイパーメガドッズライフルを構えている映像が映されている。

 マシロはバトルが始まった瞬間に長距離砲撃でカイザーのノイエ・ジールを狙撃して仕留めた。

 ほぼ、バトルフィールドを対極の位置から始まっている為、精密な射撃能力とその距離からでも世界レベルのファイターが制作したIフィールド付きのガンプラを撃ち抜ける威力は驚異的だが、そんな事は観客たちにはどうでも良い事だ。

 世界大会の決勝戦が僅か1秒で終わった。

 唖然とする観客が我に返ると歓声ではなくブーイングが巻き起こる。

 それも当然の事だ。

 観客たちはバトルを見に来ている。

 それなのに1秒で終わればブーイングするのも当然だ。

 そんなブーイングにマシロは我関せずとガンプラを回収して早々に立ち去った。

 その後、大会の主催者側で協議が行われたが、マシロの行動は正当な物でバトルのやり直しはしないと言う事が公表された。

 それに対して観客は怒りの声を上げたが、主催者側としてもマシロの行動がガンプラバトルのルールや大会規約に違反していない為、無効には出来なかった。

 本来ガンプラバトルにおいて、マシロの取った行動はタブーとされている。

 ルール上は互いのガンプラがバトルフィールドに入った時点でバトルは開始されている。

 その時点で速攻で相手を狙撃して仕留めると言う行為自体は反則ではない。

 しかし、実際の戦闘ならその手を使う事は立派な作戦で効果的とも言えるが、これはバトルであって戦闘ではない。

 互いのガンプラの力をぶつけ合ってこそのバトルと言うのが今のガンプラバトルの風潮でもあった。

 マシロの優勝が決まり、予定を前倒しにして優勝者へのトロフィーの授与とインタビューが行われた。

 

「それではマシロ選手、優勝された今のお気持ちをお願いします」

 

 インタビューアーが檀上でマシロにマイクを向ける。

 マシロは鳴りやまないブーイングを気にすることなくマイクを受け取る。

 

「率直な今の気持ちを伝えるとすればこの程度かと心底落胆している」

 

 マシロがそう言うとブーイングをしていた観客たちも黙り出す。

 

「どれほどのファイターとバトル出来るかと思っていれば大半のファイターのガンプラは過去に世界大会で好成績を残したガンプラの劣化コピーでしかない」

 

 それはマシロが真っ先に感じた事だ。

 多くのファイターの使ったガンプラは過去の世界大会で上位に入ったファイターのガンプラを真似た物が多かった。

 優秀なファイターのガンプラを真似る事は悪い事ではない。

 寧ろ、他のファイターの技術を取り入れる事は成長にも繋がって来る。

 だが、そのまま取り入れただけでは劣化コピーでしかない。

 そこから自分なりのアレンジや改良を行って本当の意味で自分の物にしたと言える。

 大半のファイターはそれが出来ていなかった。

 無論、決勝トーナメントに残る程のファイターは違ったが、逆をいれば100人程の中から16人程度しかそれが出来ていないと言う事だ。

 初心者が100人ならともかく、各国の地区予選を勝ち抜いて来たファイターであるなら少なすぎる。

 

「戦い方も同様だ。殆どが過去のバトルを真似るか基本通りのバトルで面白味もない。それ以前に出場ファイターは低レベルのファイターばかりだ。そんなレベルで世界大会に出られると言うのであれば、世界大会の質もたかが知れている。そんな世界大会に出る事を夢見て、世界レベルのファイターに憧れているお前等に敢えて言おう! 世界レベルのファイター達は雑魚であると!」

 

 マシロはそう言ってマイクをインタビューアーに返す。

 マシロのインタビューが終わった瞬間にマシロに対する野次が会場中から湧き上がる。

 それも当然だ。

 マシロはファイターなら誰もが憧れる世界大会を侮辱したのだ、世界中のファイターを敵に回したと言っても良い。

 だが、マシロはそんな野次をやはり気にすること無く、檀上から降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見ながら、ユウキ・タツヤは憤っていた。

 発言をしたマシロに対してではない。

 そんな発言をさせた自分に対してだ。

 タツヤはマシロとの約束を果たす為に地区予選にエントリーをした。

 タツヤの出場した地区よりもマシロの出場した地区の方が代表が決まるのが早く、マシロが日本第一地区の代表となって世界大会に出る事が決まった事を知り更に奮起して地区予選を勝ち上がり世界大会に出場した。

 そして、マシロとの約束を果たす為に予選ピリオドを戦った。

 予選ピリオドでは単純なバトル以外にも様々なルールでバトルが行われる。

 マシロはそんなルールの中でも難なくポイントを増やしていったのに対して、タツヤは2、3回のバトルでポイントを落とした。

 予選ピリオドでは1度でもポイントを落とすと一気に決勝トーナメントが遠のく過酷なバトルだ。

 タツヤはギリギリのところで決勝トーナメントへの進出を逃してし、マシロとの約束を果たす事は出来なかった。

 世界大会の中でタツヤはマシロと一度も話しをしていない。

 本当は何故、突然姿を消したのか、聞きたい事も話したい事も山ほどあった。

 だが、決勝戦で堂々を対峙するまでは、合わないと心に決めていた。

 マシロの方もバトルの時以外は選手村の部屋から全く出ていないようで二人が合う事は一度もなかった。

 決勝トーナメントに進む事が出来なかった後も静岡市内でホテルを取ってタツヤはマシロのバトルを毎回会場で見た。

 その中である事に気が付いた。

 決勝トーナメントで戦うマシロが勝ち進むにつれてつまらなそうにバトルしていると言う事にだ。

 タツヤとマシロの付き合いは非常に短い。

 マシロの事は分からない事だらけだが、一つだけ分かっている事がある。

 マシロは強い相手に勝つ事が好きだと言う事だ。

 世界大会はマシロにとっては強い相手が多く出ている大会だったが、決勝トーナメントで戦って気づいたのだろう。

 世界の強豪たちもマシロからすれば大したことがない相手だったと言う事に。

 だからこそ、決勝戦の戦いに繋がっている。

 完全にやる気を失った事で、さっさと世界大会で優勝したと言う事実だけを得る事に専念した結果が1秒で勝負をつけた決勝戦と言う訳だ。

 その事に気が付いてしまったが故にタツヤは自分に対して憤っていた。

 自分はマシロのライバルを自認していた。

 だからこそ、世界大会でマシロと戦う所まで勝ち進む事の出来ず、心の底からガンプラバトルが好きだったマシロに世界大会と言うファイターが誰もが憧れる夢の舞台でそんなつまらない思いをさせた自分自身に対して怒りを覚えてしまった。

 

「マシロ……今、君に謝罪をしたところで君にとっては何の意味はないんだろうね。だからこそ、僕は君に誓うよ。僕は僕のやり方で君のいる高見を目指す事を」

 

 約束を果たせなかった事を幾ら詫びたところで意味はない。

 今やる事は一つだけだ。

 来年の世界大会においてマシロと対峙する事だ。

 ただ、対峙するだけではない。

 マシロと対等に戦えるだけの実力をつけてだ。

 確かにマシロはタツヤが知る1年前よりも格段に強くなっている。

 だが、マシロとて人間である以上は決して届かない訳ではない。

 マシロは来年の世界大会の出場権をすでに得ている。

 それこそが今年、不甲斐ない結果をマシロに見せてしまったタツヤの贖罪だ。

 タツヤはマシロに誓いを立てて、来年の世界大会に向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシロがインタビューを終えて廊下を歩いていると、正面にエリカが待っていた。

 他にアオイとタクトがいないところを見ると一人のようだった。

 

「俺に何か用?」

「用って言うか……さっきにインタビューの事は今は置いて置く。取りあえずアタシの約束の件だ」

「約束……何だっけ?」

 

 マシロは少し考えるが、エリカの言う約束について思い当たる節が無かった。

 

「……だから、世界大会に優勝したら結婚って奴だ」

「ああ……そんな事もあったっけ。興味がないから忘れてた」

 

 以前、マシロとエリカの間で交わされた約束があった。

 それは、マシロが世界大会で優勝すれば結婚しても良いと言う物だったが、マシロは今の今まで完全に忘れていた。

 マシロにとっては興味のない事だからだ。

 

「興味って……お前」

「うちの兄貴がアンタの親の会社を取り入れたいらしくてな。それで俺がアンタを結婚すれば楽に取り入れるからってさ」

「んだよ……それ」

 

 エリカも生まれが生まれだけに家の為に結婚、政略結婚もある程度は理解している。

 だが、マシロに言い寄られて悪い気がしなかった事も事実だった。

 しかし、エリカに言い寄った事自体が政略結婚の為であるのは納得しがたい。

 

「お互い大変だよな。家に振り回されて」

「お前はそれで良いのか?」

 

 マシロの言い方はまるで他人事だった。

 

「別に。まぁ、アンタは中々好みだから別に構わないけど。だけど、安心しなよ。あれから兄貴から連絡はないから、多分兄貴の方で何かしらの手を打ったから結婚とか考えなくても良いと思うぜ」

 

 ユキトからの連絡はあれから一度もない。

 定期的に連絡を入れる手筈ではなかった物の、何か月も状況の報告をしていないのにも関わらず向こうからの連絡も無いと言う事はその必要がないと言う事だ。

 元々、マシロに期待をしていなかった事を考えると当の昔にマシロが失敗したとして、別の手を打っていても不思議ではない。

 

「ざけんな!」

 

 自分達の事を話しているのに、他人事のように話すマシロにエリカの方も堪忍袋の緒が切れたのか、拳を振り上げるが途中で止めた。

 ここでマシロを殴ったところで何の解決にもならず、エリカの気持ちが収まる訳でも無い。

 

「殴んないの?」

「お前を殴るならガンプラバトルでだ」

「良いね。俺も少し虫の居所が悪い。今なら誰でも良いからぶちのめしたい気分だ」

 

 直接殴っても意味がないが、ガンプラバトルでならマシロに対して大きな意味を持っている。

 

「どこでやる? この辺りならバトルをする場所には困らないけど」

「……来年だ。来年の世界大会で……大勢の目の前でお前をぶっ飛ばす!」

 

 今のエリカではマシロに勝つ事が出来ないと言う事はエリカ自身は良く分かっている。

 目の前にいるファイターは最後こそは反則スレスレの手段で勝った物の名実共に世界最強のファイターだ。

 そんな相手に準備もなしにまともに戦えると思う程、エリカは思い上がってはいない。

 

「つまんないの」

「何とでも言え」

 

 マシロは興が削がれたのか、あからさまにやる気をなくしている。

 そして、エリカの横を通り抜ける。

 

「来年こそはお前をぶちのめすからな! 短い天下を味わってろ!」

 

 振り返る事もない、マシロにエリカは叫ぶ。

 それに対してマシロは一切の反応がない。

 それがエリカの精々の強がりであると分かっているからだ。

 後は実力を持ってそれが強がりでないと言う事を証明しなければ、マシロは相手にすらしないだろう。

 マシロが見えなくなるまで、待ってエリカは待たせているアオイ達の方に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝戦の行われたメインスタジアムから出るとすでに、マシロを迎えに来た車が待機していた。

 シオンがドアを開くとマシロが乗り込んでドアが閉まる。

 シオンが乗り込むと車が進み始める。

 

「少し言い過ぎではないですか?」

「何が?」

「さっきのインタビューですよ。マシロ様が言う程、低いレベルではなかったと思いますよ」

 

 マシロは世界大会に出場したファイターのレベルが低いと汚したが、実際はそこまで低いと言う訳ではなかった。

 少なくとも決勝トーナメントに進んだファイターや予選ピリオドで上位に入ったファイターのレベルは十分に高かった。

 全バトルでマシロは快勝したが、それはレイコの情報集と作戦があったからだ。

 始めこそはデータの少ないマシロだったが、予選ピリオドを勝ち進む中で少しづつ情報を出さざる負えなかった。

 そんな情報から確実に対策を練って来ていた。

 レイコのサポートが無ければ、負ける事は無かった事にせよ、勝つまでにもっと手こずっていた事は確実だ。

 少なくとも、決勝トーナメントに進んだファイターの実力はそれ程だった。

 

「低いね。少なくとも世界大会の初期の方に比べると小手先の技術ばかりに目が行ってる」

 

 マシロからすれば、世界大会に出て来るファイターの質は年々低下している。

 世界大会が開催されるようになった当初は、ガンプラの傾向は徹底的に細かいディテールを作り込む事で、今のような派手さはないが、基本的な部分を極めていたファイターが多かった。

 それに比べると今はガンプラバトルの歴史がある程度出来て来た事で、新しい技術にばかり目が行っている。

 

「それはマシロ様も同じなのでは?」

「まぁね。先人の真似をしたってつまんないし」

 

 尤も、その事をマシロは否定するつもりもない。

 今、同じような事をしても結局は過去の真似でしかない。

 

「けど、そろそろさ、既存のガンプラバトルを打ち破る新しい時代が来ても良いと思うんだよ。だから、今の時代のファイターのレベルを底上げする必要がある」

「だからあのような事を?」

「王者は嫌われ者でなければならないんだよ。コイツだけは王者でいさせることが出来ないと思わせる程にね」

 

 インタビューにおいて、マシロの話した事は本音ではあるが、本当の狙いはそこにあった。

 あれだけ言われれば他のファイター達はマシロを倒す為に強くなろうとする。

 マシロを倒す為には普通のやり方ではまず勝てないだろう。

 その為に、今までとは違う新しいガンプラバトルをする必要が出て来る。

 それを編み出せるファイターをマシロは待っていた。

 

「そうやって出て来た奴らを倒せば見つかるかも知れない」

「何がですか?」

「それが分かれば苦労は無いんだけどな。だけど……足りないんだよ。世界の強豪を倒しても王者になっても……何かが足りない」

 

 マシロにとってガンプラバトルの楽しみは強者に勝つ事だ。

 そう言う意味では世界大会は充実していた。

 決勝トーナメントにおいても苦戦は無かったが、強敵とのバトルは楽しかった。

 だが、そんな強敵を倒した時には達成感もなければ楽しくもない。

 あるのは虚しさだけだった。

 それを埋める為には何かが足りない気がした。

 それを求めてマシロは更なる高見を目指し強者に打ち勝つも、いつも何かが足りない気がした。

 そんな悪循環が何年も続いていた。

 

「私には良く分かりません」

「シオンは秀才どまりだからな」

 

 マシロに付いているシオンだが、天才と言う訳ではなかった。

 何事もそつなくこなし、大抵の事はある程度まで技術を身に着ける事が出来るが、その道の天才には遠く及ばないのがシオンだ。

 だからこそ、シオンにはマシロの抱えている物を理解する事は出来ないだろう。

 

「何でだろうな……俺はガンプラバトルが好きで勝てば楽しい……そうだった筈なんだ。でも……何で名実ともに世界最強の座に付いたってのに、こんなにつまんないんだよ」

 

 シオンはマシロに何も言えない。

 今のマシロは今までの自称ではない。

 名実ともに最強のファイターとなった。

 だが、それでも何かが足りず、マシロの心は満たされる事は無い。

 どんな分野でも器用にこなしても頂点を取る事の出来ないシオンにとっては理解出来ない域での悩みだ。

 

「こんなんならさ……外に出なかった方が良かったかもな」

 

 マシロはそう呟いた。

 家で一人でバトルする時はCPU戦でバトルしている。

 CPUを相手にするのは味気ないが、少なくとも対人戦のような虚しさを感じる事は無い。

 今となっては外に出た事自体が間違っていた気すらしている。

 

「マシロ様」

「分かってる。ボスとの契約は来年の世界大会で優勝する事。契約は果たす。だけど、その後の事は俺の好きにさせて貰う」

 

 マシロとチームネメシスとの相手の契約はプラフスキー粒子発見から10年目となる来年の世界大会の優勝者に送られる副賞を持ち帰る事だ。

 その為に、マシロは今年の世界大会で優勝して、来年の世界大会の出場権を手に入れいる。

 少なくとも、チームとの契約を果たす事はマシロの義務だ。

 それは果たさねばならない事だ。

 それさえ果たせばマシロは晴れて自由の身となる事が出来る。

 

「フィンランドに帰る。今年の優勝トロフィーを持ち帰ればルーカスの機嫌も良くなって取りあえずはボスのご機嫌取りも出来るから俺の面目も立つ」

「分かりました。すぐに手配します」

 

 シオンはすぐに各方面に連絡を取って、日本からフィンランドに戻る手筈を整える。

 その日のうちに準備が整いマシロはチームネメシスの本拠地のあるフィンランドへと帰って行く。

 名実共に世界最強の座に付いたマシロだったが、その心は未だに満たされる事は無かった。

 

 

 

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