ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
マシロとの出会いの翌日、タツヤは聖鳳学園に登校していた。
世間の学生はまだ夏休みではあるが、夏期講習の為だ。
タツヤの本業は学生で、学生の本分は勉強だ。
ガンプラバトルに熱を上げるのは良いが、勉強を疎かにしてしまえばガンプラバトル自体が出来なくなってしまう。
夏期講習自体はまだ1年生であるタツヤが受ける必要は大して無い為、同級生も殆ど受けてはいない。
その為、教室はいつもよりガランとしている。
講習を受けるタツヤはいつもの授業とは違う上の空だった。
昨日からずっと、マシロとのバトルが頭から離れずにいる。
何度も、マシロとの戦いを頭の中でシミュレーションするも最後は決まって、最後に出したマシロの本気で負けている。
(一体、マシロ君は何者なんだろう?)
家に帰りネットを使ったマシロの事は少し調べた。
あれほどの実力を持っていれば世界大会に出場していなくても大会などで優勝経験や上位に入賞しているかも知れなかった。
しかし、結果はマシロと言う名のファイターは世界のどに大会にも出ていないと言う事が分かった。
マシロと言う名自体が偽名である可能性すらも考えられる程にマシロに関する情報は出て来ない。
これ以上は専門の機関に依頼しなければマシロに関する情報は得られないが、流石にそこまでするよりも本人に直接聞いた方が良いと思い、そこまでの行動には出なかった。
そこで新たな問題が出て来た。
昨日、マシロが書いた登録用紙にはマシロの名前と性別、年齢しか書かれていない。
大会の運営に提出する際の必要事項には連絡先や住所などもあるが、それはチームの代表者だけで良く、今回はタツヤの連絡先と住所で提出している。
その為、タツヤはマシロがどこに住んでいるのかや連絡先を知らない。
それを聞く前にさっさとマシロは帰ってしまったからだ。
(マシロ君はどうやってあれほどの実力を身に着けたのだろうか。マシロ君はどの作品が一番好きなんだろうか。AGE-1の改造機だからAGEだろうか? あの白い塗装には何の拘りや意味があるのだろうか……)
昨日からマシロに対する疑問は尽きない。
チームを組む事が決まり、チームメイトとして相手の事をもっと知る必要があると言う理屈をこねるも、結局は自分よりも強いマシロへの純粋な興味だ。
(全く……これでは恋する乙女だな……)
そう、ふと思ってしまう。
講習もまともに耳に入らずにマシロの事ばかりを考える今の自分はまるで意中の相手を考えているようにも思えて来た。
無論、タツヤとてそんな趣味は無い。
客観的に自分の事を見て思いつつも、タツヤは講習を受けながら教師には悪いが、早く講習が終わらないかと強く願った。
一方のマシロはタツヤと出会ったゲームセンターに開店と同時に居ついていた。
半ば、バトルシステムを1台占領する形でゲームセンターを訪れたファイターとバトルを行い連勝記録を伸ばしていく。
流石に連勝記録が二桁になる頃にはマシロにバトルを挑むファイターも減って来ていた。
その為、マシロはゲームセンター内のバトルシステムで1番大きく最大で6人のファイターがバトルを出来るサイズのバトルシステムでバトルを行っている。
基本的にはチーム戦やバトルロイヤル方式で使用されるバトルシステムで、今回はチーム戦だ。
チーム分けはマシロとそれ以外で1対5となっている。
今回、マシロはガンダム∀GE-1にウイングガンダムのバスターライフルを持たせている。
対する相手チームのガンプラはガンダムOOに登場するガデッサ(ヒリング機)とガンダムWに登場するリーオー(宇宙型ドーバーガン装備)、ガンダムUCに登場するギラ・ズール(ランゲ・ブルーノ砲・改装備)、ガンダムZZに登場するズザ、Vガンダムに登場するゾロアットの5機だ。
バトルフィールドは宇宙でバトルが開始された。
「5対1だと……舐めやがって!」
ガデッサがGNメガランチャーで先制攻撃を行う。
だが、∀GE-1は回避するとバスターライフルでガデッサに狙いを付けて放つ。
最大出力でGNメガランチャーを使っており、∀GE-1の反撃に対応する間もなくガデッサはビームに飲み込まれる。
「後、2発」
「よくも!」
後方からギラ・ズールがランゲブルーノ砲・改を撃ち、その間に他の3機が∀GE-1に接近しようと試みる。
ギラ・ズールの攻撃は∀GE-1に当たる事は無く、逆にバスターライフルでギラ・ズールは撃墜された。
「次でラスト」
「なら、これならどうだ!」
ズザがミサイルを一斉掃射する。
ミサイルは∀GE-1に襲いかかり、∀GE-1は距離を取ろうとする。
「逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!」
「逃げてんじゃねぇよ」
一見、ズザのミサイルを逃れるような動きをする∀GE-1だが、気づけばミサイルとズザが一直線に並ぶようにミサイルを誘導していた。
そして、バスターライフルでミサイルごと射線上のズザを吹き飛ばす。
「弾切れだ」
バスターライフルの残弾が尽きた事で∀GE-1はバスターライフルを捨てる。
バスターライフルを捨てた事で残るリーオーとゾロアットが∀GE-1に集中砲火を浴びせる。
「ライフルの残弾が尽きればこっちのもんだ!」
「手も足も出ないだろう!」
リーオーのドーバーガンとゾロアットのビームライフルを∀GE-1は確実にかわしている。
「だから何?」
∀GE-1は腰のビームサーベルを抜くとリーオーとゾロアットに投擲してビームサーベルは2機に突き刺さる。
それによってリーオーとゾロアットは撃墜されてバトルは終了した。
「5対かかりでもこんなものか」
マシロは心底つまらなそうにしてガンプラを回収する。
「お疲れ様です。マシロ様」
「本当に疲れた。精神的にさ……」
バトルが終了すると、執事のシオンがゲームセンター内の自販機で購入して来た紙パックの牛乳を片手に待っていた。
今日はマシロも勝手に抜け出す事が出来ずに、シオンが同行している。
バトルシステムの周囲は飲食が出来ない為、シオンが勝って来た牛乳を受け取り、飲食が可能なスペースへと移動した。
「今日はユウキレベルの奴が来てないんだよな」
「マシロ様を満足させられるファイターがそう簡単にいる訳がありません」
マシロはベンチにドサリと座ると牛乳を飲む。
「これじゃ何の為に外に出たのか分かんねぇよ」
「仕事の為でしょう。マシロ様も引き籠ってないで他のご兄弟のように少しは外に出て活動したらどうですか?」
「やだね。面倒臭い。ガンプラは屋敷でも出来るし」
マシロはそっぽを向いてそう言う。
マシロは基本的に外に出ることがほとんどない。
一か月に1度、外出すればいい方で数か月も自宅から一歩も出ない事も珍しくない。
外に出る時は大抵はガンプラを買いに行く時だ。
ガンプラを買う事自体は自宅のパソコンを使えば可能だったが、マシロは実際にパッケージを見て買いたい派であり、ガンプラを買う事だけは誰かに任せると言う事はしなかった。
ガンプラを買う為に外に出ては世界中を飛び回り平均で数百、多い時には千を超える程のガンプラを買って帰る。
その勝ったガンプラを組み立てては、自宅のバトルシステムでCPU操作による練習用のガンプラとして一人でバトルをしている。
そんな生活は実に8年近くも続いていた。
「あのですね……」
シオンはため息をつく。
分かっていた事だが、マシロにとってはガンプラを中心に生きている。
ガンプラが出来れば屋敷から一歩も出ない生活も本人は気にすることではなかった。
「マシロ君。今日も来てたんだね」
「ユウキじゃん。さっそくバトろうぜ」
夏期講習を終えたタツヤは昼食を済ませてすぐにここに来た。
もしかしたら、マシロが来ているのではないかと言う漠然とした予感に基づいての行動だが、その予感は的中していた。
「マシロ様」
いきなりバトルを始めようとするマシロをシオンが諌める。
そして、シオンはタツヤの方を向いた。
「お初にお目にかかります。私はマシロ様の世話を任されているシオンと申します」
「ユウキ・タツヤです。初めまして」
シオンはタツヤの事はマシロに聞かされていたが、初対面である為、あいさつを兼ねて軽く自己紹介を行いタツヤもそれに応じる。
「じゃ。バトろうぜ。ユウキ。ガンプラは持って来てんだろ?」
「当然だよ」
マシロの挑発的な笑みに対してタツヤも挑発的な笑みで返す。
タツヤもマシロに会った場合は、練習も兼ねてバトルをするつもりだった為、ガンプラを持って来ていた。
さっきまでつまらなそうにふて腐れていたマシロが、元気を取り戻した事にシオンは少なからず驚いていた。
マシロが他のファイターに興味を示す事は今まで殆どなかった。
大抵は1度戦い勝利すればそれで興味が失せていたが、タツヤに限っては1度勝利しても興味を失せることが無い。
そんな、マシロの変化を嬉しく思いつつもバトルシステムへと向かった二人の後をシオンはついて行く。
マシロとタツヤとのバトルは全てマシロが勝利した。
十回以上ものバトルを行いバトルの度にバトル内容の討論を行い、他のファイターのバトルに関しても議論を行うと言うように非常に密度の濃い時間を過ごし、肉体的には疲労がたまっていたが、タツヤは非常に充実した時間を過ごした。
それらに一段落を付けてタツヤはベンチに座り込む。
すると、マシロが牛乳のパックをタツヤに放り投げる。
「俺のおごりだ」
「ありがとう」
タツヤは疲れていたと言う事もあり、マシロの好意に甘えることにする。
マシロも自分用に買って来た牛乳を飲み始める。
「流石、マシロ君だよ」
「まぁね。けど、ユウキも昨日より強くなってたけどな」
「君に負けていろいろと考えたからね。マシロ君はそれ程の実力を持っているのに世界大会や大きな大会で名前を聞かないけどガンプラバトルを始めて間もないのかい?」
バトルはマシロの全勝に終わったが、タツヤはバトルを繰り返す度にマシロの動きに対応しつつあった。
その成長速度はシオンも少なからず驚くのと同時納得もしていた。
それほどの素質を持っていたからこそ、マシロも興味を持ったと言う訳だ。
そして、タツヤは昨日からの疑問をマシロに聞いた。
これ程まで実力がありながら、全くの無名であると言う事だ。
ガンプラを始めて間もないのであれば、それも頷けた。
「いんや。ガンプラバトルはかれこれ8年くらいになるな」
その年数はガンプラバトルが始まった年数と合致している。
つまり、マシロはガンプラバトルが始まってから今までやり続けているベテランのファイターの一人と言う事だ。
「けど、大会に出ないのは興味がないからだな。世界大会で優勝して世界一の称号を与えられてもそれは人から与えられた称号に過ぎない。俺はそんな称号を与えられなくても自分が最強であると自覚しているから、別に誰かに証明して貰う必要はないんだよ。強い奴と戦いたければ大会に出なくても直接強い奴の所に行ってバトルをすればいい」
マシロにとっては誰かに与えられた称号に興味は無い。
そんな物がなくても自分が一番強いと思っているからだ。
一見すると自惚れのようにも聞こえるが、不思議と納得してしまう部分もある。
「そうか……マシロ君のガンプラは全塗装してるけど、何かこだわりでもあるのかい?」
疑問の一つが解決したところで、少し気になった事を聞いた。
その瞬間にシオンは顔を引きつらせた。
マシロのガンプラは白一色で塗装されている。
ガンプラを制作に当たり、塗装は重要な要素の一つだ。
ガンプラを塗装すると言う事はガンプラの表面をコーティングする事でバトル中のガンプラに様々な効果を与えることが出来ることは何年か前から分かっている技術だ。
だが、それ以上に重要な要素としてビルダーの好みだ。
ガンダムの作中でもエースパイロットは特別な装備を装備する事はなく、機体の色を変えた所謂専用機がいくつも存在し、パイロットによっては自分のモビルスーツの色に拘ると言う事も珍しい事ではない。
ガンプラ作りにおいても自分の拘りの色で塗装すると言うのは良くある話だ。
マシロも何かしらの拘りを持ってガンプラを白く塗装しているのであればそれを聞く事で相手の事をより理解する事が出来る。
「良くぞ聞いてくれた! 白とは何色にも染まる事が出来る。それは即ち、何にでもなれると言う事。つまりは可能性の色と言う訳だ! 分かるな?」
「えっと……まぁ」
いきなり色の関する持論を周囲の視線を気にすることなく大声で語り出したマシロにタツヤは圧倒されていた。
シオンが顔を引きつらせたのは、これを知っているからだ。
マシロは白を可能性の色と表現した。
それは白が何色にも染まらずにいて、何色に染まる事も出来ると言う事から何色にもなれる=なんにでもなれると考えての事だ。
だからこそ、マシロは白と言う色い強い拘りを持っている。
それは、マシロが白色に対して強い憧れのような感情を持っていると漠然に感じてタツヤも少しは分かる気がした。
タツヤは大手の塗料メーカーの御曹司で、いずれは父の後を継がなくてはならない立場にある。
タツヤ自身はその事を受け入れてはいるが、生まれつきのレールから外れた生き方を羨む気持ちも少なからずあるのだろう。
マシロの場合は事情は知らないが、その気持ちが人一番強いのだろう。
「逆に黒は最悪だ。黒はいろんな色に染まり過ぎてこれ以上、染まり様がない絶望の色だ」
さっきまでは得意げに語るマシロだったが、いつの間にか色に対する持論が白から黒へと変わっていた。
憧れから一転して黒に対しては嫌いを通り越して憎しみすら感じさせていた。
「シオン君。彼は一体……」
もはやタツヤの事をお構いなしに話しを進めている為、タツヤはシオンの方に尋ねようとする。
だが、シオンはそれを止めた。
「今は知るべき必要はありません。後、10年もすれば嫌でも関わる事になりますから。貴方がユウキ家の人間である以上は」
「僕の事を……」
「失礼を承知で調べさせて貰いました。マシロ様が気に入った相手とはいえ、万が一の事があってはいけませんから」
シオンはタツヤの事を調べていた。
マシロが気に入った相手である以上はマシロに害はないと思うが、万が一の事があっては大変でそれを事前に防ぐのがシオンの仕事だ。
タツヤと知り合ったのは昨日でマシロもタツヤの名前しか知らない。
それなのにシオンはタツヤの名前だけで自分の家の事まで調べ上げたようだ。
タツヤの家自体は大手である為、すぐに調べはつくがユウキと言う苗字は日本ではそれ程珍しくは無い上にタツヤ自身は学生と言う身分であるので家の仕事には関わる事はない。
多少は家の付き合いのパーティーなどに出席させられる機会もあるが、そう簡単に名前だけで自分とユウキ家が繋がる訳もない。
それでもたった一日足らずで自分とユウキ家の繋がりまで調べ上げたと言う事はシオンがそれほどの情報収集能力を持っているのが、それだけの力を持った存在がマシロのバックにいると言う事になる。
「安心してください。調べた結果、ユウキ様はマシロ様にとっては害はないと判断しました。寧ろ、マシロ様にはガンプラ以外に友達がいませんので友達になってくれると私としては非常に安心です」
「はぁ……」
流石にマシロのガンプラ以外に友達がいないと言うのはオーバーな表現のように思えるが、マシロを見ているとあながちオーバーではないと思えて来る。
「何、話してんだよ?」
「それは……」
「マシロ様に友達がいないと言う事です」
「何だ。そんな事かよ」
ストレートに言ったシオンにタツヤは驚くも、マシロもあっさりとしていた。
「それよりも、マシロ君。大会に出場する時のチーム名だけと昨日は相談する時間がなかったから僕の方で決めて提出したけど、良かったかな?」
タツヤはマシロの友達の有無の話しを続けるのは気まずい為、話題を無理やりに変えた。
大会は二人一組のチームで参加の為、登録用紙にはチーム名を記載する欄もあった。
チーム名自体は必至事項ではないが、せっかくだからとタツヤはチーム名も登録しておいた。
「チーム『アメイジング』それが僕らのチーム名さ」
「アメイジングねぇ……」
「日本語で驚きなどと言う意味ですね」
「ええ。僕達はまだ無名のファイターだからね。僕達が優勝はおろか勝ち進む事も誰も予想はしていないだろうね。だからこそ、僕とマシロ君で大会に出場しているファイターや観客を驚かすと言う意味を込めてチーム名を決めたんだ」
タツヤも同年代では高い実力を持っていると自負しているが、日本ではまだ無名のファイターだ。
一方のマシロも実力があっても大会への出場記録が無い為、全くの無名のファイターである。
そんな二人が他の参加者から見れば優勝候補ですらない、唯の参加者の過ぎない。
だからこそ、タツヤとマシロの二人で大会を勝ち進めば誰もが驚くだろう。
そう言った意味を込めてタツヤはチーム名をチームアメイジングと名付けた。
「良いチーム名ですね。私もマシロ様の奇行に日々、驚かされています」
「喧嘩売ってんのか? シオン」
「とにかく……そのチーム名に恥じないように一緒に頑張ろう。マシロ君」
マシロはシオンを睨みつけるが、シオンは気にした様子は無い。
そんな二人をタツヤが強引に纏める。
そして、この日からチーム『アメイジング』は始動し、タッグバトル大会が開催される。