ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
幕間2
マシロにとっての第二の人生の分岐点はマシロがイオリ・タケシと出会って数か月程経った頃だ。
その頃にはガンプラは飾るだけの物ではなかった。
プラフスキー粒子が発見されたことでガンプラは動く事が出来るようになったのだ。
プラフスキー粒子はプラフスキー・パーティクル・システム・エンジニア社、通称PPSE社によってバトルシステムと呼ばれるプラフスキー粒子散布装置を用いる事でバトルシステム内でガンプラを実際に動かして戦うガンプラバトルが始まった。
ガンプラを制作するモデラーにとって、自分の制作したガンプラを実際に動かすと言う事は夢のような事でガンプラバトルは瞬く間に世界中に広まる事となった。
そして、ガンプラバトルを行うモデラーの事をファイターと呼ばれるようにもなって行った。
イオリ・タケシにガンプラ作りを教わったマシロも、近所の模型店でガンプラバトルを日々行っていた。
「行け! ジェノアス!」
「今日こそ、俺のキュベレイ・マシロスペシャルで!」
マシロは今日も模型店でバトルをしていた。
マシロの後ろには、マシロの妹も観戦していた。
だが、マシロが半ば無理やり連れて来ている為、妹の方は余り興味がなさそうだ。
マシロの使っているガンプラはイオリ・タケシと共に制作したキュベレイを改造したキュベレイ・マシロスペシャルだ。
大幅な改造はしていないが、ファンネルコンテナを外し、右手には模型店のジャンクパーツコーナーで自分の小遣いで足りる武器として偶然見つけたジンクスⅢ用のGNランスを持たせてある。
そして、ところどころが破損していた。
ガンプラバトルは実際にガンプラを動かすと言う特性上、バトルで破壊されると全てではないが、ガンプラにダメージが反映される。
孤児で金銭的に贅沢の出来ないマシロはバトルで壊れたキュベレイを完全に直す事も出来ずに過去の損傷がそのまま残されていた。
そのバトルを一人の男が見ていた。
男の名はクロガミ・キヨタカだ。
彼は世界に名だたる大企業クロガミグループの総帥にてクロガミ一族の当主でもあった。
世界的大企業であるクロガミグループ総帥と言う立場で多忙な日々を送るキヨタカだが、そんな多忙な日々の中でも楽しみがあった。
それがガンプラだった。
幼少期に偶然、ガンダムの再放送がやっていた事を期に彼はガンダムにのめり込んだ。
特にモビルスールやモビルアーマーと言った兵器系の方を好み、ガンプラを時間を作っては制作していた。
プラフスキー粒子関連の技術を独占しているPPSE社を現会長のマシタが設立する際に彼の妻が多額の出資を行うと言った時にとんでもない額の資金を理由も聞かずに出した事が今のPPSE社が数か月でクロガミグループ程ではないが、世界的大企業になって要因の一つとされている。
彼自身もガンプラバトルを嗜むが、クロガミグループをまとめ上げている手腕を持つキヨタカだが、ガンプラバトルの腕は余り高くないようで、今はバトルを自分でやるよりもバトルの観戦が殆どだ。
今日も近くまで仕事で来ていたが、時間が出来た為、お忍びでバトルシステムの置いてある模型店にバトルを見に来ていた。
「ほう……あの少年」
キヨタカはジェノアスのファイターではなく、マシロの方に注目した。
バトルはジェノアスの方が優勢なのは誰の目にも明らかだ。
周りの観戦者たちは優勢であるジェノアスのファイターの方ばかりを注目しているが、バトルの実力は微妙でもキヨタカはクロガミグループをまとめ上げているだけあって、マシロの秘めたる物に気づいていた。
(あの少年は目が良いのか。それも常人のレベルを遥かに上回っている。反応速度は当然の事、視野もバトルシステム全体に及んでいると言ったところか、残念なのは情報の処理が出来ていないところか)
マシロが劣勢の最大の理由はマシロの操縦技術ではないと言う事をキヨタカは見抜いていた。
キヨタカの見立てではマシロは常人離れした目の良さを持っている。
単純な目の良さだけではなく反応速度や、バトル全体を見渡す視野の広さも持っている。
だが、マシロはバトル中にバトルフィールド全体を見渡し、どんな些細な情報すらも拾ってしまう為、本人も気づかないうちにバトルフィールド全体の情報を見ている。
それを全て頭の中で処理しようとしている為、反応が少し遅れ気味になってしまう。
(情報の処理が追いついていないのに、反応の遅れがあの程度で済んでいると言う事は、情報の処理を出来るようにすれば、ニュータイプ並みの反応が可能になる筈だ)
バトルフィールド内の情報量は膨大だ。
それを全て処理したうえでの反応の遅れが、あの程度なら瞬時にいらない情報を捨てて、必要な情報だけを選び取る事が出来るようになれば、マシロの反応速度は圧倒的な速度となるだろう。
後はその反応速度を活かす事の出来る技術と経験を会得すれば、理論上はマシロはどんな相手にも勝てる事になる。
(惜しいな。それだけの才能を持ちながら、彼はそれを目覚めさせることも出来ず、本人すらも自覚していない。それだけの才能を持っていれば活かしようによってはメイジンを目指す事も夢ではないと言うのに……)
マシロは才能の断片を見せているが、誰もマシロの才能に気づいてはいないだろう。
普段からそれだけの事をしているのであれば、マシロの脳はそのバトルシステム内以上の情報にも対応できるように順応しているはずだ。
それをしていないと言う事は、マシロが普段からそれ程の目の良さを使っていないと言う事だ。
恐らくは何かしらの条件下でしか、使っていないのだろう。
バトル中に使っていると言う事は、少なくともガンプラバトルの最中は使っていると言う事になる。
そう考えている間にジェノアスのヒートステックがキュベレイ・マシロスペシャルの胴体を捕えてバトルが終了する。
「くっそ!」
「よわ」
バトルに負けたマシロに妹が追い打ちをかける。
「今日は調子が悪かったんだよ! それに相手のガンプラが弱っちそうだったから手加減したんだよ。俺が本気を出せばな……」
「相手のロボットの動き、あんな見え見えな動きしてた何で負けるの?」
言い訳するマシロに止めが刺された。
今日は調子が悪いと言っていたが、マシロはガンプラバトルで勝った試しがない。
ガンプラの出来では相手のジェノアスよりもマシロのキュベレイ・マシロスペシャルの方が良い。
多少、ボロボロでも制作時にタケシによって厳しく基本に忠実に制作されている為、元々の完成度は素組レベルでは非常に高い。
それなのに負けたのは完全にマシロが弱いからに他ならない。
「それじゃ私、帰るから」
妹はそれ以上、マシロの良い訳を聞く事なく、帰って行く。
マシロはそんな妹を追いかけて孤児院までひたすら言い訳をしていた。
その翌日、マシロは孤児院の院長に呼び出されていた。
マシロが孤児院の応接室に入ると、そこには院長の他にキヨタカがソファーに座っていた。
「このおっさん、誰?」
「マシロ! そんな言葉使いを!」
「院長。私は気にしていないさ。このくらいの歳の子はこれくらいわんぱくじゃないと」
初対面であるキヨタカに対しての言葉使いを院長は叱ろうとするが、キヨタカの方は気にしていない。
マシロ位の歳の子供なら、目上の人に対する態度が多少悪くても子供らしい。
キヨタカの長男であるユキトがマシロ位の歳の頃には、将来クロガミグループを継ぐ者としての教育を受けさせていた為、子供らしいとは無縁な子供だった。
そんなキヨタカからすれば、子供らしいマシロは微笑ましいものだ。
「そうですか……」
「で、なんで俺だけが呼び出されたの? 俺、別に悪い事してないけど」
呼び出された理由はマシロも聞いていない。
考えられる理由としては孤児院の子供と言う理由で良く、難癖のような事を言って来る事がある。
マシロの目から見てもキヨタカはそこいらにいる大人とは少し違って見えるが、思いつく理由はそのくらいしかない。
「この方はマシロの事を引き取りたいと言って来たんだよ」
「俺を? 何で?」
キヨタカは昨日、マシロのバトルを見て、部下に命じてマシロの事を調べさせた。
そして、マシロがここの孤児院で育てられている孤児だと知った。
そこで、キヨタカはマシロを引き取ろうと思った。
マシロは才能を持っている。
それを埋もれさせることは勿体ないと思ったからだ。
「昨日のガンプラバトルを見ていたよ。君には才能がある。私の元に来れば君の才能を伸ばす事が出来る」
「俺に才能……」
マシロにとってはキヨタカが自分を引き取りたいと言って来た事よりも衝撃的な事だった。
マシロは運動が得意な訳でも無ければ、勉強が得意と言う訳でもない。
ガンプラバトルも一度も勝ったことがない。
何をやってもダメダメなマシロは初めて自分に才能があると言って貰えた。
マシロをその気にさせる為のデタラメかも知れないが、信じさせるだけの力がキヨタカの言葉にはあった。
「本当に……俺に才能があるのかよ」
「私が保障しよう。君はいずれメイジンを超える事も出来る」
メイジンカワグチ、それは大昔の伝説的なモデラーからPPSEが名を借りてガンプラバトルの象徴的とも言える人物として、最強のファイターとしてファイターの憧れの的だ。
「俺がメイジンを……俺、行く!」
最強のファイターであるメイジンを超える。
その言葉を聞いてマシロは二つ返事で返した。
「そうか。しかし、私の家は少々、普通とは違ってね。悪いけど、引き取るのは君だけだ」
マシロを調べた中でマシロに妹がいると言う事はキヨタカも知っていた。
その妹との間に血縁関係があるのかと言う事は、時間が無かった為、調べてはいない。
だが、キヨタカが引き取るのはあくまでもマシロ一人だ。
クロガミ一族は特殊な家である為、自らが見出したマシロは問題はないだろうが、妹を引き取ったところで危険かも知れない。
だからこそ、引き取るのはマシロだけだ。
当のマシロはそんな事は気にしてはいなかった。
キヨタカは今日のところは用件だけを伝えに来た為、マシロを引き取る件は後日詳しく話す事となり、帰って行った。
キヨタカがマシロを引き取る事になった1週間程が経って、マシロが引き取られる日となった。
孤児院の子供たちは血の繋がりに関係なく、兄弟のような物だった。
だからこそ、マシロが引き取られる事となって、寂しく思う反面、相手の家がかなりの資産家だと言う事で喜びもした。
昨日は、皆でマシロの送別会を行った。
その際にマシロが妹に自分だと思って欲しいとキュベレイ・マシロスペシャルを押し付けて、いらないと拒否られた事で妹と喧嘩となり、最後の夜まで騒がしかった。
「それじゃ元気でな」
「俺はいつだって元気だし」
孤児院を離れる日だと言うのにマシロはいつも通りだ。
マシロを見送る子供の中にはすすり泣いている子供もいる。
「元気でな」
子供たちを代表して子供たちのリーダー格のヨハネスがそう言う。
「お兄ちゃん……これあげる」
院長の後ろに隠れるようにしていた、妹がマシロに白いマフラーを投げつけた。
「お兄ちゃんはへなちょこだから、それでもつけてれば」
少し照れているのか、マシロとの別れを悲しんでいるのか妹は院長の足にしがみついて顔を見せようとはしない。
「そう言ってられるのも今の内だね。俺はいずれ最強のファイターになってここに舞い戻って来る!」
マシロはそう宣言する。
マシロが孤児院を出て行くと言うのに、いつもと変わらないのはいつでも戻って来る事が出来るからだ。
例え、どんなに離れていても、同じ地球にいる以上はその気になればいつでも帰って来る事が出来る。
だからこそ、マシロは今まで育って来た孤児院を離れる事になっても寂しくはない。
マシロはこれからの未来に向けて希望を持って、孤児院を去って行く。
だが、マシロがこの孤児院に笑顔で戻って来る事は二度となかった。