ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle28 「マシロの家族」

 マシロがアイラをファイターとして育てると言う事を正式にフラナ機関の方に通達された翌日、マシロはネメシスの本拠地にあるヘリポートにいた。

 本拠地は孤島である為、出入りには船がヘリで行われる。

 そのヘリポートにはマシロがクロガミグループに建造させた飛行船が停泊している。

 飛行船はマシロのガンプラと同じように白一色で塗装され、旅の拠点となる事もあってマシロは初代ガンダムの母艦から取って「ホワイトベース」と名付けている。

 

「どういう事だ?」

 

 ヘリポートにはマシロ以外にキャリーケースを持ったアイラとバルトがいたが、バルトがマシロを問い詰めていた。

 

「だからさ、アンタはここでお留守番だって言ってんの」

 

 バルトがマシロを問い詰めているのは、連れて行くのはアイラのみだとマシロが言っているからだ。

 

「アンタさ、レイコ見たく神経質そうだから。それにアイラの立場は俺の弟子って事になってるし、師匠の俺を差し置いて弟子にマネージャーが付くとかおかしくね?」

 

 バルトのネメシスでの立場はアイラのマネージャー兼主治医だ。

 その為、アイラについて行くと言う事は自然な流れだが、マシロからすれば神経質そうなバルトと一緒にいる事は嫌だった。

 これが、身内であるレイコなら気にしないが他人ならいっしょにいる気にはなれない。

 

「このホワイトベースにはうちで抱えている医師が何人も乗ってるから医者も必要ないしな。アイラの方もこの眼鏡君がいなくても問題ないよな?」

「全く問題ありません」

 

 マシロの問いにアイラは間を開ける事無く即答した。

 アイラが何かしらの理由で、バルトがいなければ練習に影響が出ると言うのであれば、マシロも何か手を考えたが、別に問題は無かった。

 

「そう言う訳だからさ。大人しく留守番してな。安心しろって、アイラは俺が責任を持って一人前のファイターとして教育……もとい再調整するからさ」

 

 アイラの育成に関してはヨセフの方からマシロに一任したから、マシロのやり方を最優先に尊重するように言われている。

 そのマシロが残れと言う以上は、バルトは残るしかなかった。

 

 

 

 

 

 マシロはアイラを連れてホワイトベースの中を進んでいた。

 廊下を進み、マシロは扉の前に立つと扉の横のパネルに手をかざした。

 すると、扉のロックが解除されて扉が開いた。

 

「ここはバイオメトリクスの認証がないと開かないようになってる。すでに俺とお前のバイオメトリクスが登録してある」

 

 マシロが部屋の中に入り、アイラも続いた。

 中は開けた部屋となっており、アイラは中を一通り見渡した。

 まず、目に入ったのは壁にかかっている映画館のスクリーンを思わせる巨大なテレビだ。

 他にも普通サイズのテレビに中央にはバトルシステムが置かれている。

 そして、作業台にガラスで仕切られた塗装用の部屋、山のように積まれたガンプラ、業務用の冷蔵庫やソファーやテーブルなどが無造作に置かれている。

 その手の家具に詳しくないアイラでも、一つ一つが非常に高価な物だとは分かるが、明らかに必要な物を部屋に押し込んだようで内装に拘りが一切見られない。

 

「さて……まずはガンプラだ」

「私はガンプラを持っていませんが」

 

 荷物を置いてすぐにマシロがそう言いだす。

 しかし、アイラは自分のガンプラを持っていなかった。

 この前のバトルも自分専用のガンプラが無い為にマシロから借りていた。

 昨日の今日でガンプラを用意していなければ、持っている訳がない。

 

「マジで? たく……常識を疑うな」

 

 マシロは心底呆れていた。

 マシロからすれば、ファイターがガンプラを常に持ち歩く事は常識で持っていないと言う事はあり得ないからだ。

 アイラは軽くイラっとするがマシロが気にした様子は無く、収納スペースを漁っている。

 

「そうだな……これなんかよさそうだ」

 

 マシロはそう言って、収納スペースからガンプラを持って来る。

 

「サザビー改。俺が何年も前に作ったガンプラで出来はイマイチだが、練習用には丁度良い。コイツをお前に貸してやる」

 

 そう言ってアイラに渡したガンプラはシャア・アズナブルの最後の搭乗機であるサザビーを改造したサザビー改だ。

 シャアのパーソナルカラーである赤からマシロの白に塗装され、全体的に軽量化されている。

 その為、スラスターは足と脚部、腰に外付けされている。

 装備は腹部の拡散メガ粒子砲に手持ちの火器として、ロングビームライフル。

 左腕にはベースとなったサザビーのシールドだが、裏側にゲルググから流用したビームナギナタが付けられている。

 バックパックにはファンネルコンテナがそのままつけられており、全体的に高い機動力と運動性能を重視されている。

 

「分かりました」

 

 アイラはサザビー改を受け取るとマシロはバトルシステムを起動させる。

 

「まずは……リフティングだ」

「は?」

 

 アイラは思わず聞き返してしまった。

 リフティングが分からない訳ではない。

 話しの流れ的にガンプラバトルの練習をさせられると思っていたからだ。

 

「やるのは当然、ガンプラでボールはこいつを使う」

 

 マシロはアイラにスーパーボールを渡した。

 どうやら、このスーパーボールを使ってサザビー改にリフティングをさせろと言う事らしい。

 

「取りあえず100回を目標にやって見ろ」

「……分かりました」

 

 釈然としないが、アイラには従う以外の選択肢はない。

 リフティングを100回やらせれば終わると言うのであれば、さっさと終わらせればいいだけの事だ。

 アイラはマシロに言われた通りにリフティングをサザビー改にやらせた。

 スーパーボールを軽く蹴ったつもりだが、スーパーボールは勢いよく飛び上がり落ちた。

 

「1回かよ。下手くそ」

「もう一度やります」

 

 アイラは2回3回と繰り返すも数回続けばいい方ですぐに落ちてしまう。

 その度にマシロは野次を飛ばした。

 それから数時間が経過していた。

 いつの間にかホワイトベースは飛んでいたが、このホワイトベースの最大の売りは飛行時の衝撃が限りなくゼロだと言う事だ。

 飛ぶ時も着陸する時も気を付けていないと気付かない程に静かで飛んでいると言う感覚を受ける事もない。

 その為、アイラはホワイトファングが飛んでいると言う事も忘れる程だ。

 その間にようやく10回に到達するか否かと言う所までになっていた。

 始めの方はマシロも野次を飛ばしながら見ていたが、いつの間にか飽きたのかガンプラを作っていた。

 それでも、失敗した時は必ず野次を飛ばして来る。

 

「下手くそ。これで何回目だよ」

 

 9回成功し、10回目と言う所でスーパーボールに追いつけずに落としてすぐにマシロの野次が飛んで来た。

 中々成功しない事でアイラもかなり鬱憤が溜まり、マシロの野次でそれが一気に爆発した。

 

「出来るか!」

 

 部屋の外まで響きそうな大声でアイラは叫び、流石にマシロの視線もアイラの方に向いた。

 

「……この練習の意味が分かりません」

「切れんなよ。これだから最近の若い奴は……てか、この程度でキャラが崩壊しているようじゃキャラを作るのに向いてないと思うぞ」

 

 平静を装うアイラにマシロがそう言う。

 今まで物静かに感情を表に出さないアイラが切れて大声で叫んだところでマシロは気にしない。

 アイラとバトルして、アイラの操作するガンプラに感情が乗っている事から、アイラ自身は自分で思っている程、感情を抑える事を得意としていないと言う事には薄々気が付いていた。

 

「取りあえず、無感情キャラは一先ず置いとけ。で、この練習の意味だっけか? 俺がやれと言った。やる理由はそれで十分」

 

 何か理論的な説明が来るかと思われたが、マシロの言い分は理不尽極まりなかった。

 

「だったら、マシロがやって見せてよ。まさか、自分が出来ない事を人にやらせる訳が無いわよね?」

 

 流石に我慢の限界に来ていたのか、今までとは違いアイラの方も感情を隠す気がない。

 

「そっちが素? 本当は自分で試行錯誤する事も必要な事なんだけど……良いだろう。もう一度、師弟の腕の差と言う物を見せてやろう」

 

 マシロはアイラとサザビー改の操作を変わってリフティングを始めた。

 サザビー改が太ももで蹴ったスーパーボールは1ミリ程上がって落ちると、サザビー改はひたすら太ももで1ミリ程上げてリフティングを続けた。

 その光景は余りにもシュールでアイラも引いていた。

 しかし、アイラは気づいてはいなかった。

 一見、シュールな光景だが、ゴム製で少し蹴り上げただけでも大きく飛んでいくスーパーボールを何回も同じ高さに飛び上がるように力加減を調整している微妙な操作や、右手にロングビームライフル、左腕にシールドと左右のバランスが取れていない状況で両足ならともかく、片足だけでバランスを保っている等、マシロがやっている事は神業かかった微妙な操作だと言う事にだ。

 

「99……100っと!」

 

 そうして、100回目をサザビー改は大きく蹴り上げた。

 スーパーボールはまるで狙ったかのようにバトルシステムから飛び出してマシロの目の前に落ちて来た。

 そのスーパーボールがマシルの胸の辺りに差し掛かる頃にマシロはスーパーボールをキャッチしようとした。

 だが、スーパーボールはマシロの手に収まる事無く、床に落ちて飛び跳ねた。

 何とも言えない空気となるが、マシロは黙ってスーパーボールを回収して戻る。

 

「まぁこんなもんだ。俺はこれを3歳で極めたからな」

 

 そして、先ほどの事を無かった事にした。

 最後の事はともかく、マシロが一度でやった事は事実だ。

 その為、文句も言えない。

 尤も、マシロが3歳だったのは10年以上も前の事でその当時にはプラフスキー粒子は発見されていない為、3歳で極めると言う事は不可能だ。

 

「さて、続きをやれ」

「分かったわよ! やればいいんでしょ! やってやるわよ!」

 

 マシロからスーパーボールを受け取ったアイラは半ば自棄になって叫ぶ。

 マシロは出来て自分は出来ていない。

 このままではマシロにコケにされたままで気分が悪い。

 やり方はマシロの奴を見て把握をしている為、さっきまでよりかは簡単になった。

 アイラは再度挑戦した。

 だが、アイラが思っている以上にマシロがやった事は高度でやはり上手くはいかない。

 

(先読みをしていないのか? あの動きは)

 

 マシロは組み立て途中のガンプラを作業しながらアイラのやっているのを見てそう感じた。

 アイラの先読み能力を持ってすれば、スーパーボールの動きを先読みすればある程度は簡単に続けることは出来る。

 後はそこから細かい操作を会得させるつもりだったが、アイラはまるでスーパーボールの動きが見えていないかのように失敗している。

 

「なぁ、お前、先読み能力持ってんだろ? 使っても良いんだぜ?」

「うるさい!」

 

 横から声をかけられた事でアイラの気が散ってスーパーボールは地面に落ちた。

 

「横から声をかけられたくらいで気を散らすなよ。バトル中は相手と話す事も珍しくはないし、どんなに優秀な実力者でも一瞬の気の緩みで負けると言う事は良くある事だ」

 

 マシロが失敗するたびに野次を飛ばしていたのも、9割くらいは単にからかっているだけだが、1割は精神面の練習でもある。

 どんなに優秀だろうと、精神的な面で隙を作って負けると言う事は良くある事だ。 

 

「で、なんで使わないのさ」

「マシロには関係ない事よ」

(こりゃ使わないんじゃなくて使えないって事か……つまり、アイラの先読み能力には制限があるって事か)

 

 マシロの質問にアイラは取り合う事はしなかった。

 だが、そのやり取りからマシロはそう判断する。

 会話の中でアイラの性格をある程度は掴みつつあった。

 使う所を最低限の物にして、自分の情報をマシロに明かさないとも考えられるが、アイラの性格上ここまで何度も失敗し、マシロに野次を飛ばされても頑なに使わないと言う事は考え難い。

 寧ろ、早いところ成功させてマシロを見返そうとして来るだろう。

 つまりは、今は能力が使えないと言う事になる。

 それから更に数時間が経過するも、回数は増えるが目標に達する事は無かった。

 次第にアイラの体力も限界を迎え、回数を重ねるごとに操作も雑になって来ている。

 その間にマシロは制作したガンプラを白く塗装まで済ませた物がいくつも完成している。

 

「もう限界か?」

「……まだ行けるわよ」

 

 強がるアイラだが、目に見えて体力の方も限界だと言う事が分かる。

 だが、自分から休憩させて欲しいとは言えないのだろう。

 

「最近の若い奴は体力が無くていけないな。そんな状態でやっても大して身にはならないから少し休め。もう少しでアメリカに付く頃だし、俺も腹減ったからメシにするぞ」

 

 ホワイトベースの行先はアメリカだ。

 余りにも静かに飛んでいる為、アイラも自分が飛行船で移動していると言う事は完全に忘れていた。

 これ以上、変に意地を張ったところで結果は出ないと言う事もあり、アイラも仕方が無くそれに従った。

 

「アメリカと言えばステーキと言う事で用意させてみた」

 

 それから数分後、二人の目の前に肉厚なステーキが並べられていた。

 ホワイトファングには医師以外に一流のシェフも乗せられているらしい。

 アイラも一目見ただけで高い肉が使われていると言う事が分かる程だ。

 

「しっかり食うのもファイターの務めだ。しっかりと食って食った物は力に変えろ。遠慮はいらない。好きなだけ食っていいぞ」

「……本当にいいの? 後で請求とかしないわよね?」

「気にすんな。どうせ、チームの金だからな」

 

 ネメシスの最大の武器は豊富な資金にある。

 その中でもチームのエースであるマシロはチームの資金の大半を好きに使っていいとオーナーであるヨセフに言われている。

 クロガミ一族の方からもかなりの資金を使えるが、使って良いと言われている以上は好きに使っている。

 

「凄い無駄使いな気がするわ」

「俺の栄養になるんだ。無駄じゃないさ。一流の食材と言うのは希少価値だけでなく、栄養は豊富だったりするからな。それを損ねないように一流の職人に調理させる。すべては必要な事だ」

 

 マシロは食に対してこだわりがある訳ではない。

 あくまでも体調管理と空腹で集中力を欠かないようにする為に食事を取っているだけだ。

 裏がない事を確認し、アイラも食べ始める。

 

「遠慮するなとは言ったけどさ……」

 

 それからしばらくして、マシロは呆れていた。

 確かにマシロは遠慮はいらないとは言ったが、アイラはマシロの何倍も平らげた。

 マシロ自身、歳を考えるとそこまで食べる方ではないが、アイラの食べた量は相当な量だ。

 

「マシロが遠慮しないで良いって言ったからよ」

「そうなんだけどよ。太るぞ? まぁ……無感情キャラを捨てて食いしん坊キャラで行くなら太ってもありかも知れないけどさ」

「うるさい。さっきの練習は少し休んでからでも構わない?」

「ご自由に」

 

 マシロとしてもここまで食べてすぐに、運動をさせる気は無い。

 少なくともアイラはこのまま引き下がると言う事は無いようだ。

 アイラは食休みも兼ねて普通サイズの方のテレビをつけた。

 

「この子、最近よく見るわね」

「ああ……こいつか」

 

 テレビをつけるとマシロは少し機嫌が悪くなる。

 テレビにはバラエティーに出演するありすが映されているからだ。

 余り芸能方面に詳しくないアイラですらも、ありすの事は知っているらしい。

 

「マシロはこういうの好きじゃないの?」

「こういうのと言うよりもコイツが気に入らない」

 

 アイラも明らかにマシロの機嫌が悪いと言う事は察した。

 

「以外」

「コイツはうちの末っ子だからな。世間では甘えん坊の妹キャラとして大ブレークしているらしいけど、身内から見れば糞生意気が糞ガキでしかないんだよ」

 

 マシロがありすの事を毛嫌いしている事よりも、ありすがマシロの妹である事の方が驚きだ。

 

「まぁ……それでもコイツの出生には同情するけどな」

「どういう事?」

「コイツは母さんのエゴの被害者なんだよ。この事で同情される事をすっごく嫌ってるから俺は心の底から同情してやるね」

 

 ありすには一族の中でも一部の人間しか知らない出生の秘密があった。

 本人はその事で同情される事を嫌っている為、マシロは嫌がらせで同情している。

 

「マシロのお母さんってどんな人?」

 

 アイラはマシロの母に付いて訪ねてみた。

 クロガミグループは世界的に有名である為、アイラも当然知っている。

 マシロの母親と言う事は先代の代表の妻と言う事だ。

 先代の代表であるクロガミ・キヨタカは有名で事故死した時も代々的なニュースとなっているが、その妻に関しては余り多くの情報は出ていない。

 

「そうだな……生きたEXA-DB、現代のイオリア・シュヘンベルグと言った人」

「私にも分かるように説明してよ」

 

 マシロは母親の事を簡潔に説明するも、ガンダムの事を知らないアイラからすれば全く意味が分からない。

 

「母さんは科学者でな。それも歴史上の天才と呼ばれた科学者が凡人に成程の化け物じみた程のな。けど、母さんの場合、自分の研究成果を世間に出す気はないどころか、自分で研究した物は自分だけの物だって言って公表しないどころか、研究成果を独占するんだよ。だから母さんの事は本当に一部の科学者しか知らない。で、母さんの頭の中にある技術を使えば世界を豊かにする事も出来れば世界を滅ぼす事も出来るとすら言われている。尤も当の本人は研究する事しか興味がないから世界がどうなろうと関係はないって人だよ」

 

 マシロの母親を知る者は余り多くはない。

 研究を一人でやる事を好み、研究が完成したところで資料の一切を破棄し、研究成果は自分の頭の中に残すに留めている。

 別の人間が同じ研究をする事を妨害する気は無いが、公表して情報を共有すると言う事もしない。

 ただ、自分がやりたいように研究をすると言うのがマシロの母親だ。

 

「今だってどっかで好き勝手やってるだろうね」

 

 マシロも父親が死んでから一度も母親と顔を合わせてはいない。

 元々、自分のやりたいように生きているところがあり、行方不明になっている事も珍しくは無かった。

 

「まぁ……うちの家族じゃ俺と父さんと兄貴くらいしかまともな奴はいないからな。母さんは別格だな」

「ふーん」

 

 マシロはそう言うが、アイラから見ればマシロも普通とは思えない。

 尤も、その事自体はマシロが自分で言っているだけで、他の兄弟からすればマシロは血縁関係こそないが、最も母親に近いタイプの人間だと口をそろえて言うだろう。

 

「さて……体を動かさずとも出来る事はある」

 

 マシロは収納スペースを漁る。

 

「せっかく、超大型テレビを置いたんだ。勉強しようか」

 

 マシロが取り出したのはブルーレイディスクだ。

 

「まずはファーストを1話から見て、その次08小隊にポケットの中の戦争、イグルーで一年戦争を終えて、スターダストメモリー、Z、ZZ、逆シャア、ユニコーン、F91、Vと宇宙世紀を時系列に見る。次はアナザーをまずはG、W、Xと見てSEED、SEED DESTINY、スターゲイザー、OOのファーストシーズンから劇場版、AGEと来て最後に∀で締める。それが終わったら外伝作品を網羅する」

「……それ、全部見たらどの位になるのよ……」

「さぁ? 計算しようか?」

 

 全てのガンダム作品を見るとなると数時間では済まないだろう。

 そして、ここはまだ空の上で逃げ場はない。

 

「……練習に戻るわ」

「好きにしたら。どの道俺は見るけど」

 

 アイラが練習を再開する中、マシロはブルーレイディスクをプレイヤーにセットし、壁にかかっている超大型テレビで見始める。

 大きいのはテレビだけでなく、音量もだった。

 アイラは何度も大声でうるさいと抗議するも、大音量にかき消されてマシロに届く事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホワイトベースはその静かな飛行を持ち味にする反面、飛行速度は大して早くない。

 アメリカの空港に着陸した頃には真夜中だった。

 空港に付いたところで、マシロも明日に備える為に休む事になった。

 そこでアイラが抗議の声を上げた。

 流石に同じ部屋で寝る事に抵抗があると主張するも、マシロは完全に無視して布団に包まって寝てしまった。

 それを見て、変に考えていた事が馬鹿らしくなり、アイラも寝るが次の日、アイラが起きるとすでにマシロの姿は無かった。

 テーブルにはサザビー改と一枚の紙が置かれており、紙には「出かけて来る。昨日の練習してろ」と書かれている。

 

「何なのよ」

 

 アイラは紙を握り潰して呟く。

 マシロはアイラにガンプラバトルを指導する立場だが、行動を共にする気は余りないらしい。

 部屋の外に出ようにも試してみるとロックがかけられているらしく外に出る事は出来なかった。

 つまりは、今日はここで一日中、練習をしろと言う事だろう。

 部屋の中には生活に必要な物は一通り揃っている為、ここにいても何日かは生活は出来そうだ。

 テレビなどで時間を潰す事は出来るが、サボったらなぜかマシロに気づかれそうだ。

 それ以上にマシロが戻って来た時に上達していなければ何を言われるか分かった物ではない。

 

「やってやろうじゃない」

 

 戻って来た時に堂々をリフティングを100回こなす事が出来れば少しはマシロの鼻を明かす事も出来るかも知れない。

 アイラはその一心で昨日と同様にリフティングの練習を始める。

 

 

 

 

 アイラが練習を始めた頃、マシロは事前に用意させた車でアメリカ国内の大学に来ていた。

 車を降りたマシロは大学内の研究棟を歩いている。

 

「確か……ここだ」

 

 研究棟の一室の前でマシロは止まってかかっているネームプレートを確認した。

 そこにはレティ・クロガミと書かれている。

 この研究室の主はマシロの姉の一人だ。

 

「さて……」

 

 研究室の前でマシロは深呼吸をして覚悟を決めた。

 以前に来た頃はこの部屋はゴミ溜めだった。

 レティは研究に没頭すると身の回りの整頓が適当になって研究資料とゴミの区別こそはしても、片付けようとはしない。

 覚悟を決めたマシロはドアを開けた。

 だが、そこにはマシロが思い描いたゴミ溜めは存在しなかった。

 資料はきっちりと棚に整理整頓されており、床には塵一つ無く床が見えている。

 マシロはそっとドアを閉めてネームプレートを確認する。

 

「何があった……」

 

 再度確認するもそこには紛れもなく姉の名で間違いはない。

 

「アンタこそそこで何をやっている」

 

 状況が掴めないマシロが茫然としていると後ろから声をかけられた。

 マシロの後ろには白人女性が立っていて、明らかに不機嫌だと言うオーラを纏っている。

 

「レティ……この部屋がおかしい」

「おかしいのは君の行動だろうに」

 

 そう言ってレティは研究室に入って行きマシロも中に入る。

 

「前来た時とは別世界だぞ」

「言いたい事は分かる。最近、ここに出入りする奴は何かと几帳面でな。うるさいからだったら自分で片付けろと言ったところ、本当に片付けてたんだよ」

「成程……まぁ、そんな事はどうでも良い。頼んだ物は出来てる?」

 

 レティの部屋が綺麗に片付いていたところで、マシロはどうでも良い為、本題に入る。

 レティは物理学者で主に資材の強度や耐震性等の方面に精通している。

 そこでマシロはレティにいくつかの頼みをしていた。

 

「ほら。そこにおいてある。さっさと持って行け」

 

 レティは顎で研究室の片隅に置かれているアタッシュケースを指してマシロが中を確認する。

 そこには金属が入っていた。

 

「要望のあった通りに合成した金属だ」

「助かる」

 

 マシロが要望したのはレティに金属を合成して欲しいと言う事だ。

 要望として頑丈で軽いと言う物だ。

 頑丈さはともかく、実際に手に取って見るとかなり軽い。

 

「それをどうするつもりだ?」

「ああ……カナタのところに持って行くつもり」

「カナタ兄さん? あの人、まだ生きていたのか?」

「さぁ? でも死んだって話しは聞いてないから多分、生きてると思う」

 

 カナタとはマシロやレティの兄だ。

 現在はどこかの山に籠っていると言う話しを最後に行方を暗ませている。

 生きているかも分からないが、死んだと言う話しを聞かない以上は生きているとマシロは考えている。

 

「そうか。それはそうと、ハルキ兄さんにも頼みごとをしているようじゃないか」

「耳が早いね」

「アホか。お前の頼みでシャトルを何度か打ち上げているだろう。シャトルを一回打ち上げるのに幾らかかると思っている」

「知らね」

 

 ハルキと言うのも二人の兄で現役の宇宙飛行士だ。

 そんなハルキがマシロの頼みで宇宙に何度も上がっていると言う事はレティの耳にも届いていた。

 

「ハルキの奴にはガンプラに使うプラスチックを宇宙で作って貰ってんだよ」

「わざわざ作る必要があるのか?」

 

 レティの疑問も尤もだ。

 プラスチックなど地球でも幾らでも作る事が出来る。

 わざわざ、シャトルを打ち上げてまで宇宙で作る必要などない。

 

「あるんだよ。そいつはただのプラスチックじゃないんだよ。無重力下でなら、練り込む金属片が重力で偏らないからな。そうして出来たプラスチックがガンプラバトルにおいて従来のプラスチックよりも強度の高い、いわばガンダリウムプラスチックだ」 

 

 ガンプラバトルにおいて金属パーツは強度の向上に使われると言うのは一般的に知られている。

 金属パーツは砲身やシールドと言った直接稼動しない部分に使わないとプラフスキー粒子に反応しない為、使えない。

 だが、マシロはナノレベルの金属片をプラスチックの内部に練り込む事でプラスチック自体の強度を上げると言う方法に出た。

 その為に何千、何万回と言う試作を経て、金属片が練り込まれてもプラスチックとして粒子が反応するギリギリの配合を割り出している。

 それを無重力空間で金属片が偏る事なく作り出した。

 

「試作品の出来は上々で、ようやく完成品のサンプルが出来たからこの後、取りに行くんだよ」

 

 すでにガンダリウムプラスチックの試作品は完成しており、フルアサルトジャケットの関節部に使用している。

 その結果、関節部の強度は格段に上がり、ハイパーメガドッズライフルを持たせても無茶をしなければ関節への負荷に耐える事が出来るようになっている。

 

「お前もハルキ兄さんとよく付き合えるな」

「レティはハルキの事苦手だったっけ」

 

 クロガミ一族の本家は皆が仲がいいと言う訳ではない。

 寧ろ、顔と名前を知っている程度で顔を殆ど合わせないと言うのも珍しくはない。

 その中でも相性が存在していた。

 マシロの兄弟たちはいくつかの分類に分けられる。

 大きな括りとしては2種類の分類方法がある。

 一つ目は本人の持つ才能で分類する方法だ。

 その分類は3つに分けられる。

 頭脳型、肉体型、バランス型の3つだ。

 頭脳型はその名の通り、頭脳面で秀でた才能を持っている者達の事を指す。

 レティやマシロの母がそれに該当する。

 肉体型もその名の通り、身体的な面で秀でている。

 ハルキは宇宙飛行士である為、宇宙飛行士に必要な知識も持っているが性格的な面からこちらの肉体型の該当する。

 バランス型は頭脳型と肉体型の中間で肉体も頭脳の必要とする才能に秀でている。

 現在のクロガミ家の当主であるユキトにありす、マシロがこれに該当する。

 そして、肉体型と頭脳型とでは相性が悪いらしく余り仲が良いとは言えない。

 レティもハルキの事を嫌っているとまではいかないが、苦手意識を持っている。

 もう一つの分類方法が内向型と外向型だ。

 それは、自身の能力を積極的に外に向けるか中に向けるかだ。

 一般的にクロガミ一族として有名なのは外向型でマシロのような内向型は世間に認められる気が無い為、能力的にはずば抜けた物を持っていても有名にはならない。

 

「まぁ……俺もハルキのノリにはついて行けないからな。けど、ハルキの能力が必要だから、頼んださ。兄を落とす必殺の上目使いを使ってまでな」

「それ、弟じゃなくて妹がやる物だと思うがな。いや……あのハルキ兄さんになら通用するか」

 

 レティは呆れると同時に納得もした。

 ハルキには弟はマシロしかいない。

 その為、ハルキはマシロの事を妹である自分達よりも可愛がっていた。

 だから、マシロに頼まれれば頼みを聞いてしまうのだろう。

 

「そんじゃ、ハルキのところにもいかないといけないから俺は行くわ」

「マシロが何をしようと私には関係のない事だが、余り私の手を煩わせると言う事は無いようにな」

「どうだろうな。必要なら力を借りるし、必要じゃないなら何もしないさ」

 

 今回はレティの力が必要だから力を借りた。

 必要が無ければ、マシロもレティに連絡を入れる事もなければ、会いに来る事もない。

 レティとしては、自分の研究を優先したのだが、マシロが頼みごとを言って来た場合、無視する事も出来ない。

 頼みごとをして来たと言う事は確実にレティの力が必要だと言う事で、マシロはレティの都合など一切気にする事は無い。

 マシロはレティが合成した金属を受け取ると研究室を出て行く。

 これで暫くはマシロが来る事は無い為、落ち着いて研究に没頭できるとレティは一息ついた。

 マシロは外で待たせている車に戻ると、そのままホワイトベースには戻らずに次なる兄弟の元に向かった。

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