ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle30 「母」

 ストリートバトルを終えて帰って来たアイラの前に一人の少女が現れていた。

 見た感じだとアイラと同年代に見える少女だが、どこか違った空気を纏っている。

 

「一体どこから……」

「どこってドアからに決まってんじゃん。このユキネ様に書かれば、バイオメトリクス認証を書き換えるなんて余裕なのよね」

 

 ユキネと名乗った少女はそう言う。

 ホワイトベースのセキュリティは生体認証を採用している。

 ユキネは生体認証のコードを書き換える事で、内部に入って来たらしい。

 言うのは簡単だが、ホワイトベースの生体認証のコードのセキュリティはレイコが制作した物で並のハッカーでも簡単に破れる物ではない。

 それを簡単に書き換えたユキネはただ者ではないのだろう。

 

「帰ったぞ」

「お帰り! シロりん!」

 

 ユキネの正体も目的も分からないまま、状況が掴めないところにレティとハルキと会って来たマシロが帰ってくる。

 アイラよりも先にユキネがそう言い、アイラはキョトンとした。

 ユキネの物言いからユキネとマシロは知り合いなのだろう。

 

「……何でいんだよ」

 

 ユキネを見た途端にマシロは顔をしかめる。

 その反応からもマシロはユキネの事を知っていると言う事が分かる。

 

「何でって私のシロりんに会いに来たんじゃない」

「いつから俺がアンタの物のなったんだよ」

「マシロの知り合いなの? てか、シロりん?」

 

 マシロが帰って来た事で落ち着きを取り戻したアイラが質問する。

 

「シロりん言うな。この人は……母さんだよ」

「え?」

 

 アイラはマシロとユキネを何度も見る。

 ユキネはどう見ても自分と同年代でマシロよりも年下に見える。

 そんなユキネがマシロの母親だとは素直には信じられない。

 

「父さんの名誉の為に言っておくが、母さんはこう見えても40後半のれっきとしたババァだ」

「失礼しちゃうわね」

「本当の事だろう。ほんと、女って怖いよな。若作りでここまで歳を誤魔化せるとかさ」

 

 もはや、どこから突っ込まばいいのか分からなかった。

 マシロの父親が自分の息子よりも若い少女を妻に迎えたと言うのであれば、分かり易かったが、ユキネは自分の倍以上の歳らしい。

 そして、若作りと言うレベルではない。

 

「独自に研究したアンチエイジングの結果よ。女はいつまででも若々しくありたいじゃない」

「やり過ぎだっての。その容姿で父さんと一緒に表に出て見ろ。一発でアウトだぞ」

 

 アンチエイジングでそこまでの効果はあるとは思えないが、マシロはそこは気にしていない様子だった。

 あくまでも未成年にしか見えない容姿の事が問題らしい。

 ここまで気にされないと、自分の認識の方がズレているかも知れないとまで思わされてしまう。

 

「んな事より、今までどこに行ってたんだよ。父さんが死んだ時に探したんだのにさ。アリアンに言って来るってだけじゃ分かんないんだよ」

 

 ユキネは数年前にアリアンに言って来ると言う置手紙を残して行方を暗ませた。

 ユキネが研究の為に行方を暗ませると言う事は珍しくも無い為、その当時は誰も気にすることは無かった。

 しかし、父キヨタカが死んだ時には妻であるユキネの行方を捜した。

 クロガミ一族の情報網をフルに活用してユキネの行方を捜索させた。 

 だが、ユキネのいると思われるアリアンを見つける事が出来なかった。

 国や町、村を始めとして辺境の集落や個人に至るまで捜索の幅を広げたが、ユキネはおろかアリアンの手がかりすら見つける事が出来なかった。

 まるで、ユキネもアリアンも地球上のどこにも存在していないかのようにだ。

 

「シロりんはおバカさんだからなぁ……そんなシロりんの頭でも分かるように一言で言うと……異世界?」

 

 ユキネがそう言うと、アイラは無言でマシロを部屋の隅まで引っ張って行く。

 

「こう言う事を言うのは抵抗あるんだけど、マシロのお母さん……大丈夫なの?」

「いや……流石に今回はダメかも知れん。まだ、木星圏でGNドライヴを作ってたとかの方が説得力がある」

 

 二人は済みでユキネには聞こえないように話す。

 流石にいきなり異世界と言われても信じる事は出来る訳が無い。

 

「それもどうなのよ」

「母さんは海外旅行のノリで月に行ったりするからな。それにSF……特に父さんも好きだったガンダムの技術に対抗して過去に本当にやった事がある」

 

 アイラには信じ難いが、マシロからすれば異世界に行っていた事は信じる事が出来なくても、木星圏に行っていたと言われれば信じる事が出来るらしい。

 少なくとも、ユキネは過去にいつの間にか月にいた事もある。

 

「良くないなぁ……自分の理解出来ない事を全て否定するなてさ。昔はママ、ママって素直で可愛かったのに……これが噂に聞く反抗期! ユッキーは素直過ぎてなかったなぁ……」

「科学者の癖に捏造するなよ。兄貴は反抗期なんてガキみたいな事、ある訳ないだろ。てか、俺も反抗期じゃないし」

「シロりんの癖に細かすぎ」

 

 ユキネはそう言ってむくれる。

 実際、マシロはユキネに甘えた過去など全くない。

 尤も、兄弟の中でマシロが最もユキネに可愛がられていたが、当時のマシロはガンプラに夢中でやたらと構って来るユキネの事を鬱陶しく思っていた。

 

「で……何の用? 俺、アイラの指導で忙しいんだけど?」

「は?」

 

 マシロがそう言うが、アイラは指導らしい指導は受けた覚えはない。

 完全にユキネを帰らせる理由に使われている事は明らかだ。

 

「ふーん。あのシロりんがねぇ……まぁ良いけど、ああ、そう言えばシロりんが喜びそうなお土産を向こうから持って来たんだった」

 

 ユキネは白衣のポケットに入っていた物をマシロに放り投げる。

 マシロは掴み損ねるも、床に落ちる前に何とか受け止める事が出来た。

 

「何これ?」

 

 ユキネが放り投げたのは小さな宝石のような石だ。

 

「それはアリアン王家の秘宝で……プ……」

「そう言う設定は良いから、ほら母さんも何かの研究で忙しんだろ」

 

 ユキネは渡した石の説明をしようとするも、マシロは聞く気が無い為、ユキネを追い返そうとする。

 マシロはユキネを部屋から追い出すと入って来れないようにロックをかける。

 ユキネに対して意味のない事だとは分かっているが、ユキネの方も用は済んだのか戻って来る気配はない。

 

「さて……母さんにああ言った手前、何もしないと言う訳にはいかないか」

「え……あ、うん。けど、良かった訳?」

「アイラさは……いい年こいてあんな恰好の母親を人前に出したい訳?」

「……何かごめん」

 

 アイラ自信、母親と言われてもピンと来ないがマシロの言いたい事は何となくわかった。

 見た目こそはアイラと同年代だが、中身は倍近くの歳だ。

 そんな母親がセーラー服を来て人前にいると言う事は息子としては拷問なのだろう。

 

「気にするな……俺のいない間に指示した練習はやり続けただろうから少し別の事にするか」

「……うん。お願いするわ」

 

 実際のところ、マシロに練習を指示された昨日は練習をサボった訳ではない。

 だが、元々始めこそはマシロを見返す為にやる気を出していたアイラだが、失敗が続きやる気を無くして、日が傾く頃には休憩時間の方が長かった程だ。

 

「アイラさはガンダムに関する知識は無いに等しいだろ?」

「だって見た事も興味もないし」

「その辺りの知識を増やすと言う事も重要だ。知識に頼りっぱなしと言うのも先入観となりかねないが、全く知識がないと言うのは論外だからな」

「まぁ……そうかも」

 

 アイラにはガンダムやガンプラに関する知識は無いと言っても過言ではない。

 元々、ガンダムやガンプラが好きだった訳ではない。

 たまたま、プラフスキー粒子を見る事が出来たのでフラナ機関にスカウトされたに過ぎない。

 その為、知識の無さは他のファイターと比べると不利に働いてしまう。

 今日のバトルでも、姿を消す敵に対して、粒子が見える為、意味を成さなかったが、自分の知らない能力を持ったガンプラとバトルした時に一気に劣勢になる事はあり得る。

 ガンプラバトルでそこまでして勝ちないとまでは思わないが、負けてしまえばフラナ機関から切り捨てられるかも知れない。

 そうなれば、アイラはまたストリートチルドレンに逆戻りだ。

 それを避ける為には面倒だろうと知識を増やすと言う事は訳の分からない練習よりかは納得も出来る。

 

「キャラに関する事は後回しで構わないから、映像化されている機体の判別と能力の判断程度は瞬時に出来るようにはならないとな」

「参考に聞くけど、それそのくらいあるの?」

「聞く?」

「……止めておくわ」

 

 リフティングに比べれば必要性は理解出来たが、リフティングとは別の方向で厄介な事になったとアイラは後悔しかけるも、そんな事はお構いなしにマシロは持ち込んできた資料集や設定集を漁っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マシロにより、追い出されたユキネは大人しくホワイトベースから降りていた。

 元々、マシロの様子見と土産を渡すだけの目的で会いに来ている。

 

「レイレイの差し金で面白い事になってるから見に来たけど、余り状況は動いてない感じだったわね。まぁ、あの子は運命的な確立は無意識に排除して考えるから、今の状況が核弾頭を抱えているって事に気づいてそうもないけど」

 

 ユキネも今のマシロの現状がレイコによる物だと言う事は調べが付いている。

 だが、レイコは自分で思っている以上に今の状況が危険だと言う事には気づいていない。

 レイコは情報戦においては天才的な才能を持っている。

 その点に関してはユキネも認めている。

 それでもユキネからすれば、まだレイコは甘い。

 あらゆる事態を想定していても、実際にはありえない程の確率は無意識にうちに捨てて考えている節がある。

 しかし、今回に限ってはその奇跡とも呼べる確率の事態となっていた。

 

「シロりんも気づいていない筈がないんだけどね……これはもう、無意識化でラノベ主人公並みの鈍感さを発揮して気づかないようにしてるんだろうね。自分の本当の望みすら気づいていないみたいだし」

 

 そして、今の現状はマシロなら気づかなければおかしいが、ユキネが会った感じからはマシロはまだ気づいていないようだ。

 マシロは本家の兄弟の中で最もユキネに近い。

 自分の欲望に素直で、その為なら普通の人間はおろか、クロガミ一族の本家の人間すらも躊躇する場面で躊躇う事無く前に進む事が出来る。

 少なくとも、自分以外で長い歴史を持つクロガミ一族でそこまで人間的に壊れていた者は多くはない。

 そんな自分に一番近いマシロだからこそ、ユキネは実の息子であるユキト以上に愛情を注いでいるつもりだ。

 

「まぁ……気づきたくないと言うのは分かるし、それが正解なんだけどね。知ってしまえば、その先にある物は希望ではなく絶望だと言う事をシロりんは知ってる」

 

 マシロが今、物足りなさを感じ何かを求めている。

 それをユキネは知っている。

 そして、マシロもすでに気づいている筈だった。

 それでも尚、気づいていないのはマシロ自信は知る事を拒んでいるのだろう。

 例え、物足りなさを感じていても、気づいた先には絶望しかないからだ。

 

「だけど……私とクロりんの息子なら単純な終わり方もしない筈。私は向こうでまだやりたい事が山ほどあるからしばらくはこっちに戻らないけど……シロりん。期待しているから。シロりんが絶望にぶち当たった後にどんな答えを出すのか、その果てにどんな結末を迎えるのか……」

 

 知れば絶望する事は分かり切っている。

 マシロが望む物はそう言う物だからだ。

 だが、ユキネはその先にマシロが何を見出すのかに興味を持っている。

 クロガミ一族の中で最も異質で最も自分と先代当主のクロガミ・キヨタカに愛されたマシロだからこそ、どんな答えを出すかユキネにも今のところは殆ど予想は出来ない。

 だからこそ、ユキネはマシロの動向を見守る事にした。

 

「私とは違って純粋に愛したクロりんの為にも絶望して終わりだと言うありきたりでつまらない終わり方だけはしないで頂戴よね」

 

 ユキネは自分が親としては全うな愛情を注いでいたとは思わないが、キヨタカはマシロにファイターとしての英才教育や必要な物を与えた反面で、自分と同じようにガンダムやガンプラに魅入られていたマシロを子供たちの誰よりも愛情を注いでいた。

 そして、ユキネもまたそんなキヨタカの事を誰よりも愛していた。

 だからこそ、血は繋がらずともユキネにとってマシロはキヨタカの忘れ形見でもある。

 

「尤も、私はクロりん程良い親にはなれないから、後は自分で何とかして貰うしかないけどね」

 

 マシロに対して愛情がない訳ではない。

 それでも、ユキネにとっては自分の興味のある事の研究を止める事は出来ない。

 ユキネは飛び立つホワイトベースを見送り路地裏に入る。

 そして、路地裏が少し光ると、そこにはユキネの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカを発ったホワイトベースは次の目的地へと道中にある。

 そして、アイラはテーブルにひれ伏していた。

 その周りには、マシロが用意した「教科書」が山のように積まれている。

 当初は映像化されているガンダムの数は10数種類程度で、かなり多いが、何とかなると軽く見ていたが、そうでもなかった。

 なにせ、平均して10機は最低でも覚えないといけないケースが大半だ。

 始めのファーストガンダムの辺りでは、余裕を見せていたアイラだったが、数時間後のZ、ZZに来る事には覚えきれなくなっていた。

 

「だらしがないな」

「うるさい……」

 

 マシロからすればこの程度の数を覚えると言うのは難しい事ではない。

 今のところは映像化されている機体のみである為、普通に作品を見れば覚える事が出来る。

 そこに設定集で足りない部分を補うだけで良いのだが、興味のない人間からすれば、苦痛でしかない。

 

「仕方が無いな……俺も鬼ではないからな。特別にザクとジムの系列の機体を覚えるだけで一先ずは勘弁してやる」

「本当に!」

 

 マシロの提案にアイラは食いついて来た。

 だが、アイラは知らなかった。

 マシロが出したのは決して妥協案ではないと言う事に。

 ザクもジムもファーストガンダムに登場した量産機の中でも有名なモビルスーツだ。

 アイラも名前くらいは聞いた事がある。

 その2機の種類と言っても精々、10機程度の事に過ぎないと考えていた。

 しかし、それは大きな誤りだと言う事に気づいていない。

 ザクもジムもバリーションの数を上げればキリがないからだ。

 ガンダムにおいて漫画などでの外伝作品やゲーム化において最も舞台とされやすいのがファーストガンダムの一年戦争となっている。

 そして、その中でザクとジムを改良した専用機やカスタム機が生み出される事は決して珍しい事ではない。

 更には一年戦争の後もその2機の流れを汲む機体は次々に生まれている。

 その上、ザクに至っては宇宙世紀と限定していない為、ガンダムSEED DESTINYに登場したザク・ウォーリアとザク・ファントムも含まれている。

 元々がザクやジムの流れを汲んでいる為、外見からは微妙な違いしかない機体もある事もあって、マシロの代案は分かる人からすれば見分ける事は容易いが、アイラのように興味もなければ知識の少ない者には見分ける事はおろか、同じ機体に見えると言う事もあり得る。

 

「ああ、本当だって。ただし、機体を見ただけで即答できる程に完璧に覚える事が条件だけどな」

「それで良いわ。何とかガンダムとかガンダム何とかよりかは覚えるよりかは簡単そうだしね」

「それじゃ資料を整理するから待ってろ」

 

 マシロは用意した設定集の整理を始める。

 すると、室内に備え付けの船内用の通信機が鳴る。

 

「何?」

「申し訳ありません。当初の予定よりも食料の消費が激しく、どこかで補充をする必要が出て来ました……」

「ああ……成程ね」

 

 マシロはアイラの方を見る。

 元々は食糧もある程度は積んでいる。

 だが、予想外の事態として、アイラの一度の食事量はマシロ達の予想を大きく上回っていた。

 その為、予定よりもだいぶ早く食料の補充が必要になったらしい。

 通信の相手は船長だが、予定外の事で申し訳なさそうな声をしているが、マシロの方も状況は察している。

 

「別に構わないから、近くで降りられる場所を探して補給しておいて」

 

 マシロとしても特別急いでいると言う訳ではない。

 

「了解しました。すでに降りる場所と食材の手配は済ませてあります」

「流石、仕事が早いね」

 

 向こうもクロガミグループで雇っている一流の人間だ。

 予想外の事態でこそあったが、その後の対応としてすでにホワイトベースを下す場所と、降りてからの補充の手配は済ませてあった。

 後はマシロへの報告と補充を受ける承諾だけでこの問題は解決する。

 

「恐れ入ります。それで、降りる場所は……」

「なっ……」

 

 船長が降りる場所の名を報告した途端、マシロは目に見えて動揺した。

 幸いにも船長の方は音声のみで、アイラもマシロの方を見ていなかった為、誰にも気づかれる事は無かった。

 船長は当然知らずに一番近くでホワイトベースを着陸させる事の可能な場所として、その場所に決めた。

 しかし、どんな偶然なのか、その場所こそがマシロがかつて育った故郷の町だったからだ。

 

 

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