ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle31 「帰る場所」

 

 

 

 マシロは約10年ぶりに生まれた町に帰って来た。

 町に向かう時にアイラを誘うと言う事は無かったが、アイラは町に行く気は無いのか、珍しく真面目に勉強をしていた。

 それがいつまで続くか分かった物ではないが、マシロはアイラを誘う事無く、生まれ故郷の町を歩いていた。

 

「結構変わったな。この町も」

 

 マシロは歩きながらそう感じた。

 マシロが町を出てから10年近くも経てば町も変わるだろう。

 それとも、以前のマシロと今のマシロとでは見えている物が違うからそう感じるのかも知れないが、それを判断する事は出来ない。

 

「治安が悪くなってんのか?」

 

 そう思う根拠として、明らかに以前よりも巡回している警察官の姿が多い。

 それは以前に比べて、治安が悪くなっている証だ。

 

「あの店……」

 

 マシロは不意に立ち止まる。

 その視線の先には、かつて、マシロがイオリ・タケシとガンプラと出会った模型店があった。

 しかし、その模型店は今は営業していないと言う事が一目でわかった。

 模型店のショーウィンドウのガラスが割られているからだ。

 そして、模型店の中に人気は感じられない。

 マシロにとって全ての始まりとも言える場所が無残に変わり果てた姿に虚しさを感じる。

 この模型店の店主は子供好きで、ガンプラのジャンクパーツを格安で売ってくれたりしていた。

 

「マシロ?」

 

 干渉に浸っていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くとそこには一人の男が立っていた。

 

「……ヨハン?」

 

 マシロはすぐには思い出せなかったが、記憶の片隅から何とか引っ張りだした。

 記憶の中ではまだ、幼いが確かにマシロと同じ孤児院にいたヨハネスの面影がある。

 

「やっぱり、マシロだったのか! 帰って来てたのか!」

「まぁ……な」

 

 多少、ガラが悪くなったと印象を受けるも、ヨハネスは相手がマシロだと言う事を確認すると、あの時と変わらない笑顔を見せた。

 一方のマシロは少しバツが悪そうにしている。

 

「折角、再会したんだ。こんなところで立ち話もなんだ。俺達のアジトに来いよ」

「アジト?」

 

 アジトと言う言い方に違和感を覚えるも、半ば強引にマシロはヨハネスに引っ張られて車に乗せられた。

 そして、ヨハネスに連れて来られたのは、町から少し離れたショッピングセンターだ。

 マシロの記憶の中では、このショッピングセンターは町から少し離れて交通の便は不便だが当時は憧れていた場所でもあった。

 そんなショッピングセンターもこの10年近くで営業が立ち行かなくなったのか、廃墟と化していた。

 確かにここなら、アジトと言うのもしっくり来た。

 

「ようこそ! 俺達のアジトに! 歓迎するぜ!」

 

 ヨハネスはそう言って、マシロを中に招き入れた。

 中には二人以外にも人がいるが、どう見ても全うな生活をしているようには見えない。

 ストリートチルドレンがつぶれたショッピングセンターを根城にしているかのようにも思えた。

 その中にはマシロの見覚えのある顔もちらほらあった。

 

「まぁ、座れよ。ろくにもてなしもできねぇけどな」

 

 ヨハネスに連れて来られた部屋でマシロは座り込む。

 潰れたショッピングセンターと言えども、元々物があったのか部屋は潰れたショッピングセンターの中だと言う事を除けば少し汚いだけの普通の部屋だ。

 

「ここに住んでんのか?」

「まぁな。見てくれは悪いけど、住んでみれば結構快適なんだぜ」

 

 マシロは何故、ヨハネスがこんなところに住んでいるかは聞かなかった。

 大体の理由は分かっているからだ。

 

「で……何で俺をこんなところに連れて来たんだよ。ヨハン」

「おいおい……10年振りくらいの再会だってのに、冷たいな。兄弟」

 

 ヨハネスは少しおどけてそう言う。

 確かにかつて兄弟のように同じ孤児院で育ったマシロで偶然にも再会したら、話しをするのに特別な理由も必要はないだろう。

 尤も、マシロは自分でも驚きく程、ヨハネスとの再会をどうでも良く感じていた。

 

「まぁ……今日、マシロと再会したのも運命だな。マシロ、俺達に協力しろ」

「協力?」

 

 さっきまでのおどけた表情からうって変わり、ヨハネスの表情は真剣になる。

 

「俺達の家が今どうなってるのか知ってるか?」

「いや……」

 

 マシロは今は孤児院がないと言う事は知っていた。

 10年程前、マシロを引き取る際にクロガミ・キヨタカから多額の寄付を受けた孤児院の院長はその金を使って孤児院の改修や、子供達に勉強の場や玩具などを与えた。

 しかし、金回りの良かったところを性質の悪い連中に目を付けられ、院長の人の好さを利用されて、寄付された金は巻き上げられて、多額の借金まで背負わされたと聞いている。

 それを聞きつけたキヨタカは借金の肩代わりを申し出るも、院長は自分の責任だからと肩代わりを拒否し、自ら働いて借金を返そうとした、

 だが、その無理が祟り院長は過労で亡くなり、孤児院は借金の形に差し押さえられて取り壊されたと聞いていた。

 その際に孤児院の子供たちはバラバラになった。

 孤児院がなくなったと聞いた、マシロは世界一になって帰ってくると言う目標がなくなった事で、今のマシロのように表舞台で活躍して認められる事はどうでも良くなり、誰かに認めて貰わなくても自分の実力を磨き続けるとようになったのかも知れない。

 

「孤児院を潰した奴はその辺りに大型のショッピングモールを建設する為に、院長を嵌めやがったんだよ!」

 

 元々、孤児院のあった場所はショッピングモールを作るのに立地条件が良かったらしい。

 その為、金回りが良かった事はきっかけに過ぎなかった。

 今では、そこには大型のショッピングセンターが建てられて、町の中心と言っても過言ではない。

 その影響で交通の便の悪いこっちのショッピングセンターは潰れてしまったのだろう。

 

「ヨハンは一体何をする気で俺に何をさせたい」

「何、お前に難しい事はさせないさ。お前でも見張りくらいは出来るだろ」

 

 そう言うヨハネスからは明らかにマシロを自分よりも下に見ていると言う印象を受ける。

 それも当然の事だろう。

 ヨハネスの知るマシロは運動も勉強も出来ないあの時のマシロのままだ。

 子供だった当時はともかく、今では完全にマシロの事は見下す対象なのだろう。

 それだけでも、自分の知るヨハネスから変わってしまったと言う事が分かる。

 以前のヨハネスは何の取り柄の無いマシロが、周りから苛められた時には率先して、マシロを守っていた。

 そんなヨハネスだからこそ、孤児院ではリーダー格でもあった。

 

「俺のダチに爆発物関係に詳しい奴がいるんだよ。コイツに頼んで、ショッピングモールをぶっ壊す」

「正気か?」

 

 マシロはガンプラバトルでも滅多に見せない程、内心では驚いていた。

 ヨハネスは悪がきの悪さでは済まされない事をしようとしている。

 ショッピングモールの爆破など、悪戯では済まないれっきとした犯罪行為でテロと言っても差し支えは無い。

 

「当然だ。あそこは俺達の家のあった場所だ! そんなところにあんなもんがあるなんて許せる訳が無いだろ!」

 

 ヨハネスは次第に声を荒げていく。

 彼らからしてみれば、自分達の家を土足で荒らされたような物だろう。

 

「なぁ……ヨハン。お前達はさ、こんな生活をしているみたいだけど……そうなる前に大人とかに助けを求めたりしたのか?」

 

 マシロは不意に思いついた事を話す。

 ヨハネスたちがここで生活しているのは、当然の事ながら正式に認められている訳ではない。

 孤児院がなくなって住むところがないから、こんなところに住んでいると言う事は予想がつく。

 孤児院が取り壊されたのは、何年も前の話しで当時はヨハネスもまだ幼い子供だろう。

 そんな子供が行き場を無くせば、大人たちは何かしらの手を差し伸べてくれたかも知れない。

 

「……お前、ふざけてんのか? 俺達の家を奪ったのは大人たちなんだぞ? そんな大人たちは信用できるか! そんな大人たちの力に頼るなんて俺達のプライドが許さねぇ!」

(プライドか……何だろう。なんかむかつく)

 

 ヨハネスの言葉を聞いて、マシロはそう感じた。

 今のヨハネスたちは大人を信用していない。

 住んでいた孤児院を奪われ、父のように慕っていた院長を失ったからそれは仕方が無いかも知れないが、マシロにとってそんな事はどうでも良かった。

 まだ、幼かったヨハネス達が大人の力を借りずに生き抜く方法は限られて来る。

 少なくとも、全うな方法では不可能だ。

 つまりは違法行為にだって手を染めている。

 そして、大人の力を借りたくない理由がプライドだった。

 そんな、ヨハネスに対して、マシロは自分でも驚く程に嫌悪していた。

 マシロにとってはプライドなど、自分の目的を達成する為に邪魔となれば躊躇いも迷いもなく捨てる物でしかない。

 しかし、マシロの兄であるユキトは一族の誇りやプライドに拘る事がある。

 同じプライドに拘ると言っても、ユキトの場合はプライドを守ると言う行為は、一族の長としての矜持であって、先代の父に恥じない為に拘っている為、プライドに拘る事はマシロにとっては意味のないように見えるが、その姿はかっこよく見えた。

 だが、ヨハネスの場合はつまらない見栄や自尊心を守る為にやっているようで、その為に犯罪にまで手を染めている為、非常にかっこ悪く見える。

 

「そんな事はどうでも良いさ。それよりも計画の方だ。流石にお前はいきなり決断は出来ないから、猶予はやるよ。結構は今日の夜だ。その時間帯ならレストラン街で食事する客たちも巻き込む事が出来る」

「急だな」

「まぁな。だからそんな日にお前と再会するのは運命かも知れないな」

 

 ヨハネス達の予定していた日に偶然にも10年振りに故郷に帰って来たマシロと再会する確率はとんでもなく低いだろう。

 そこに運命じみた物を感じてしまうのも無理はない。

 

「取りあえず、車で送るけど、くれぐれも計画の事は漏らすなよ」

「分かってる」

 

 ヨハネスは、仮に計画を漏らした場合はマシロと言えども殺すと言わんばかりの威圧を込めた警告をするが、マシロには余り意味がない。

 マシロには常にSPが警護している。

 仮にマシロにヨハネスが危害を加えるようならば、そのSPがヨハネス達を瞬時に制圧するだろう。

 ヨハネス達もある程度は荒事の経験があるようだが、マシロに付いているSPはクロガミ一族が雇っている一流の者達だ。

 個々のスキルや統率力に関してはヨハネス達の比ではない。

 その為、幾ら威圧されたところで、マシロは気にする必要はない。

 マシロに警告し、ヨハネスはマシロを町まで送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 町に出る事なく、ホワイトベースに残ったアイラは頭を抱えていた。

 マシロがいない中、マシロに言われた通りにザクとジムの種類を覚えようとするが、中々上手く行かない。

 

「何なのよ……F型とか、S型とか専用機とかどんだけあるのよ。敵は全部、ザクで良いじゃない。ジムも改とかⅡとかカスタムとか……味方の奴は全部ジムで良いじゃない」

 

 思っていた以上の種類にもはや見分けを付ける事は出来ないでいた。

 ザクもジムもベース機から大幅に見た目が分かる事は無い為、微妙な違いで判別しなければならない事が多い。

 簡単に思えたが、マシロに嵌められたと思い始めた頃にマシロが帰ってくるが、マシロは何も言わずにベッドに倒れ込む。

 

「何かあったの?」

 

 降りる前から少し様子がおかしかったように思えたが、今は明らかに様子がおかしい。

 

「何で?」

「何か、マシロらしくないわよ」

「俺らしいか……なぁ、アイラから見て俺ってどんな奴に見える?」

 

 突然の問いにアイラは少し考え込む。

 すでに一か月近く行動を共にしている。

 その大半がホワイトファングの中で、二人でいる時間は多い。

 だが、殆どがガンプラバトルに費やしている為、そんな事を考える事は一度もなかった。

 

「そうね……自分の好きなように生きているって感じだと思う」

「成程ね。まぁ、間違いではないか」

 

 それがアイラのマシロに対する率直な感想だ。

 とにかく、マシロは自分のやりたい事をやりたいようにしている。

 それでアイラは色々と振り回されている。

 

「話しを変える。アイラは何かを壊したいと思う程、憎んだ事ってある?」

「は? 何言って……」

「答えてくれ」

 

 マシロはアイラの知る限り初めて、真面目な表情をしている為、流石に適当に答える事は出来ずに考える。

 

「マシロが何を聞きたいのか分からないけど、あるかないかで言えばあると思う……だけど、私はソレに生かされているような物だから、多分……どんなに憎んでもそれを壊す事は出来ないと思うわ。これで満足?」

「ああ……うん」

 

 マシロはそれ以上は深く追求する事は無い。

 話しのニュアンスから大体の事は想像は出来るが、それはアイラの事情でマシロには今は関係のないことだ。

 

「で、それが何なの?」

「やっぱ駄目だわ。考えたって埒がない」

 

 マシロはそう言って起き上がる。

 

「ちょっと出て来る」

「は? マシロ!」

 

 マシロはそう言うとアイラに何も説明する事なく出て行く。

 

「何なの!」

 

 訳も分からずに取り残されたアイラはただ叫ぶことしかなかった。

 

 

 

 

 

 マシロはホワイトベースから車を出せると、町に戻って来た。

 目的の場所は今夜、ヨハネス達が爆破を予定しているショッピングモールだ。

 

「ただいま……って言っても意味はないか。けど、まぁ……これで約束は果たしたって事で」

 

 マシロはショッピングモールの前でそう言う。

 だが、そこにはマシロの返ってくる筈の場所は無い。

 当然、マシロを出迎える者も居ない。

 

「本当に無くなったんだな」

 

 ここに来てようやく、それを実感した。

 孤児院が無くなったと聞いて、ここに来る理由も無い為、クロガミ家に引き取られて初めてここに帰って来た。

 

「俺って結構、薄情な奴だったんだな。何も感じない」

 

 孤児院も無くなり、ショッピングモールとなってかつての名残を全く見せないが、マシロはそれに対して何も思う事は無かった。

 そう思いつつも、マシロはショッピングモールの中に入って行く。

 すでに日が傾き始めているが、中にはまだ大勢の客が買い物を楽しんでいる。

 この様子だと夜になっても人足が減ると言う事は無いだろう。

 中を歩いていると、マシロはおもちゃ屋を見つけて立ち止まる。

 

「結構、大きい奴が入ってんだな。まぁ、うちホワイトファング程じゃないけど」

 

 そう言いながら、店の中を覗いてみる。

 おもちゃ屋であるが、ガンプラのブースは結構確保されている。

 特に目的もなく、マシロは店内をぶらついていた。

 

「あー! マシロだ!」

「ん?」

 

 後ろから、そう呼ばれてマシロは立ち止まって振り返る。

 そこには幼い子供がマシロを指さしている。

 取りあえず、周囲を見渡したが、騒音で周りは子供の声は聞こえていないのか、マシロは注目されていない。

 

「こら! 駄目じゃない」

 

 その後から、子供の母親が子供にそう言う。

 

「ごめんなさい。この子、なんか大きい大会をやっているのを見てから貴方のファンなんです」

「ふーん」

 

 マシロが出て、テレビで放送されているとすれば、世界大会くらいだろう。

 その世界大会で、マシロは世界のファイターに喧嘩を売ったが、この子供くらいの歳ではそこまで理解はしていないのだろう。

 純粋に強いファイターであるマシロに尊敬の目を子供が向けている。

 

「今日ね。ママにガンプラを買って貰うの! それでね! パパと一緒に作るんだ!」

 

 子供は持っていたガンプラをマシロに見せる。

 それはマシロのガンダム∀GE-1のベースとなっているガンダムAGE-1 ノーマルだった。

 世界大会で活躍したファイターが使用するガンプラは世界大会終了後に売れると言う事は毎年の事だ。

 子供も、マシロのバトルを見てAGE-1を買って貰いに来たと言う所だろう。

 

「ねぇ、僕が大きくなったらバトルしてくれる?」

「どうだろうな。お前が世界大会に出られるようになったら相手をしてやっても良いぞ」

「本当! 僕頑張る!」

 

 マシロは遠回しに世界レベルのファイターでなければ、相手をしないと言ったのだが、子供はそれに気づく事な無く、世界大会に出られるまで頑張ればバトルしてくれると取ったようだった。

 

「……まぁ頑張れ」

「うん!」

 

 子供はマシロに手を振りながら、母親に手を引かれてガンプラをレジに持っていく。

 マシロは少し疲れながらも、子供を見送っているとある事に気が付いた。

 

「……何だよ。変わらない物もあったじゃん」

 

 子供がガンプラを持っていたレジを担当していた店員に見覚えがあった。

 10年近くも経った事で老け込んではいるが、マシロがイオリ・タケシと出会った模型店の店長だった。

 自分の店は経営が立ち行かなくなったが、今もここで子供たちにおもちゃを売っていた。

 その様子はあの時と何も変わっていなかった。

 例え、町や友が変わって、何もかもが変わってしまったように見えてが、それでも尚変わってない物がここにある。

 

「やっぱ……駄目だよな」

 

 ヨハネスに協力を頼まれた事は正直どうでも良いと思っていた。

 孤児院が無くなったことも、院長が死んだ事もどこか他人ごとだった。

 だから、ここに来て確かめたかった。

 自分がヨハネスに同調出来るかどうかをだ。

 結果としては、何もかもが変わってしまったと言う事を認識したに過ぎない。

 すでにここに自分の帰る場所は無いと言う事をだ。

 その為、ここを破壊する事はマシロにとってはどうでも良い。

 だが、何もかも変わってしまった故郷の町で唯一変わらない物がここにはあった。

 例え、ここには以前のように自分やヨハネス達が笑って過ごした家は無いが、別の笑顔を作っている。

 例え、ここが善意を利用した悪意や犠牲の上に成り立っているとしても、あの子供の笑顔は純粋で、あの時の自分達の笑顔を何も変わらない。

 

「……シリアスとかヒーロー見たい事は俺のキャラじゃないんだけどな……けど、仕方が無いか」

 

 すでに答えは出ている。

 マシロは携帯電話を出してどこかにかけると車に戻り、ヨハネスの待つショッピングセンターへと向かった。

 

 

 

 ショッピングセンターに到着して中に入ると、ヨハネス達は計画実行の準備に追われていた。

 マシロが中に入ってすぐにヨハネスがマシロに気が付いて寄って来る。

 

「マシロ。来てくれたんだな」

「まぁな……それより、ヨハン。久しぶりにガンプラバトルしようぜ」

 

 いきなりマシロにそう言われて、ヨハネスは驚いている。

 

「何だよいきなり。忙しいの分かってんだろ」

「せっかく、再会したんだ。爆破した後だとやってる暇はないだろ?」

「確かに。今日はめでたい日だからな。久しぶりにやるか」

 

 マシロがガンプラを貰ってから、孤児院の男子の中でガンプラが流行った時期があった。

 ガンプラ自体、高い物から安い物まである為、安い物なら子供たちに買い与えるくらいの余裕は当時の孤児院にはあった。

 ガンプラバトルが始まってからもそうだった。

 ヨハネスは孤児院の子供たちの中でも一番強かった事はマシロは今でも覚えている。

 尤も、今のマシロがガンプラバトルの世界チャンピオンだと言う事は知らないようなので、今は殆どやっていないのかもが知れない。

 ヨハネスは今日が計画の実行である事で気分が良いのか、唐突な申し出にあっさりと受け入れた。

 それかは数十分後にショッピングセンターの広場にバトルシステムを設置された。

 バトルシステム自体はここのゲームセンターに残されていた物を持って来た。

 プラフスキー粒子が残っているのは、この辺りのゲームセンターのバトルシステムから粒子を盗んで来て度々暇つぶしで遊んでいたのだろう。

 電源もどこかから盗んで来たのか、発電機を置いているのかは分からないが、ショッピングセンター自体に電気は通っているようだ。

 バトルシステムが設置されて、余興として、ヨハネスの仲間たちが観戦している。

 

「じゃ始めるか」

 

 マシロはGPベースをバトルシステムにセットしてガンプラを置いた。

 今回はセブンスソードで行くようだ。

 対するヨハネスのガンプラはデスティニーガンダムだった。

 

「マシロ・クロガミ。ガンダム∀GE-1 セブンスソード……出る」

 

 大勢の観客が観戦する中、バトルが開始された。

 今回のバトルフィールドは宇宙で障害物の類は存在しないオーソドックスなバトルフィールドとなっている。

 

「せっかくの余興だ。あっさりと負けるなよ」

 

 ヨハネスはそう言って先制攻撃を仕掛ける。

 デスティニーはビームライフルを連射して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは回避する。

 

「少しは出来るようになったんじゃないのか?」

「そりゃどうも(ヨハンとのバトルは久しぶりだけど……何だろうな)」

 

 デスティニーのビームライフルを回避しながらマシロは思い出していた。

 かつて何回もヨハネスとバトルをした。

 その時は全く歯が立たずに一度も勝ったことはない。

 

(ヨハンってこんなに弱かったっけ?)

 

 だが、今、バトルして見て感じた事がそれだった。

 以前は一度も勝てなかったヨハネスとのバトルにおいて、マシロはヨハネスの事を弱いとしか感じられない。

 それも当然のことではあった。

 元々、マシロが一度も勝てなかったのは自信の才能に気づかずにそれを伸ばす事をしていなかったからだ。

 今のマシロは自分の才能を知り、それを活かす術を知っている。

 そして、この10年近く、ひたすらに上を目指し続けて来た。

 そんなマシロと暇つぶし程度でしかバトルをして来なかったヨハネスとの間の実力差が覆り、圧倒的に開いた事は必然だ。

 

「逃げ回ってるだけじゃ勝てないぜ!」

 

 デスティニーはバックパックの長距離ビーム砲を放ち、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドで防ぐ。

 

「なぁ……ヨハン。一つ賭けをしないか?」

「賭けだと?」

「このバトルで俺が勝ったら、爆破計画は中止にしろ」

 

 マシロがそう言うとヨハネスの目つきが変わる。

 今まではかつての兄弟分とガンプラバトルで遊んでいただけだったが、マシロの申し出はそれでは済まない。

 

「……お前、自分の言っている事が分かってんのか?」

「分かってる」

「ふざけやがって! ここまで来て俺達の悲願を止めと! それにお前が俺に勝ったことが一度としてあったのかよ!」

 

 デスティニーは対艦刀「アロンダイト」を抜いて光の翼を展開する。

 残像を残しながらガンダム∀GE-1 セブンスソードに突っ込んで来るが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはデスティニーの攻撃をヒラリと回避する。

 

「それにあそこは俺達の家があるべき場所なんだよ! それが分からないのかよ!」

「分かるさ。俺も行って来た。けど……あそこにはもう、俺達が帰る場所は無いんだよ」

「だから、俺達はあそこを破壊しないといけないんだよ! そうして奪い返すんだ!」

「んだよ。それ……壊されたから壊して、奪われたから奪って……それで最後は全て元通りになるのかよ!」

 

 ヨハネスはただやり返したいだけだった。

 自分が壊されたから壊し返して、奪われたから奪い返す。

 だが、すでに失われた物は戻って来る事も元通りになる事はあり得ない。

 

「知った事か! そんな事で晴れる程、浅い恨みじゃない! 俺達から全てを奪った奴らに復讐する事が俺達のすべきことだろう!」

 

 デスティニーはアロンダイトを振り下す。

 

「この……馬鹿野郎!」

 

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードを展開して、振り上げる。

 Cソードは正確にアロンダイトの折り畳む繋ぎ目を捕え、アロンダイトは繋ぎ目から切り裂かれる。

 

「なっ……」

「いつまでもそうやって、俺の事を見下せると思うなよ!」

 

 アロンダイトを失いながらも、デスティニーは下がり長距離ビーム砲を放つ。

 だが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードには掠りもしない。

 

「……お前が……お前が裏切るから!」

 

 長距離ビーム砲ではガンダム∀GE-1 セブンスソードを捕える事が出来ない為、デスティニーはビームライフルに切り替える。

 

「お前が、俺達を裏切って、俺達を捨てて出て行ってから全てがおかしくなった! お前のせいで孤児院も院長も!」

「否定はしない。だからって、お前達のやろうとしている事はテロに過ぎない」

 

 今までは同じ孤児院の出身である為、ヨハネスもマシロを仲間に加えてやろうと思っていた。

 だが、心の奥底では全てが狂い始めたのはマシロが引き取られて孤児院を去ってからだと思ってもいた。

 それがここで、爆発してマシロにぶつける。

 一方のマシロもその事は否定のしようがない。

 元々、ショッピングモールの建設の計画があった時点で遅かれ同じ結末になっていたかも知れない。

 しかし、マシロがクロガミ一族に引き取られた際にキヨタカからの援助金が目を付けられるきっかけになった事も事実だ。

 

「違う! これは院長の無念を晴らす為の戦いだ!」

「院長の為? 大抵、テロリストってのは大義を振りかざす。けどな。院長は俺達に言っていたよな。俺達はどんな境遇だろうと人間で人間は法やルールを守らないといけないって」

 

 マシロ達は孤児と言う事もあって、冷たい目で見られる事も少なくはない。

 孤児院も多少の余裕はあってもお世辞にも裕福とは言えなかった。

 そこで魔が差して万引きやひったくりなどの犯罪行為を行ってしまう子供も出て来る事があった。

 そんな時、普段は人の良い院長は厳しく叱りつけた。

 例え、孤児だろうと人として超えてはいけない一線がある。

 どんなに苦しくても、家族と共に乗り越えなければならないと。

 それを平気で超える事が出来るようになってしまえばそれはもはや人ではないと何度も言われてきた。

 

「それは人が人である為に必要な事で、院長が俺達に臨んだ事は全うな人間として生きる事……それを捨ててまでやる大義に何の意味があるんだよ!」

 

 マシロもお自覚はないが世辞にも普通の生き方をして来た訳ではない。

 それでも、マシロは法を破る事はしなかった。

 それが自分が院長にマシロが出来る唯一の事だからだ。

 

「俺達を捨てて温かい家庭でのうのうと生きて来たお前に何が分かる!」

 

 デスティニーは両肩のフラッシュエッジ2を投擲する。

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードは一つ目をシールドで弾くと、二つ目を蹴りあげて弾き飛ばした。

 その間にデスティニーは距離を詰めて、掌に内蔵されているパルマフィオキーナを突き出す。

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはその一撃を最低限の動きで回避すると、デスティニーの背後を取る。

 

「言ったろ。今までの見たいにはいかないって」

 

 背後を取ったガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドからビームサーベルを展開すると、ビームサーベルを振り落す。

 デスティニーはパルマフィオキーナで受け止めるが、受け止めきれずに腕が破壊される。

 

「今の俺はあの時の何も出来ないただのマシロじゃない!」

 

 デスティニーはガンダム∀GE-1 セブンスソードを蹴り飛ばそうとするが、ガンダム∀GE-1 セブンスソードも蹴りあげて、2機の蹴りがぶつかり合うがすぐに、デスティニーの足が関節部からもげた。

 

「今の俺は……」

 

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはシールドから展開しているビームサーベルを振り上げて、デスティニーの片翼を切り裂く。

 

「世界最強ファイターの……」

 

 次にCソードを振るい、デスティニーを胴体かた真っ二つにする。

 

「マシロ・クロガミだ!」

 

 それでも尚、頭部のバルカンを撃って来るデスティニーに、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは距離を取りながらショートドッズライフルを撃ち込んで止めを刺した。

 

「俺が……マシロなんかに」

 

 バトルが終わり、ヨハネスは愕然としていた。

 以前のマシロとは比べものにならない程の力でヨハネスは手も足も出せなかった。

 

「俺の勝ちだな」

「……だからどうした? 所詮はお遊びの余興……こんなお遊びの勝敗なんて知った事か!」

 

 バトルに負けたヨハネスはそう言う。

 マシロはバトルの勝敗で賭けをしようと言ったが、ヨハネスはそれを承諾した訳ではないので、このバトルの勝敗はヨハネスにとっては重要ではない。

 一方のマシロは驚いた様子は無かった。

 

「まぁ……俺もテロリストとの約束なんて守って貰えると思ってなかったしな」

 

 マシロも始めから賭けが成立するとは思ってはいなかった。

 それでもバトルを挑んだ理由は二つあった。

 一つは過去に一度も勝てなかったヨハネスに勝っておくと言う事ともう一つは時間稼ぎであった。

 

「それと、俺は単にガンプラバトルで強くなっただけじゃない。権力を動かす事の出来る力を得る事が出来た」

 

 マシロがそう言うと、広場の全ての出入り口から警察とマシロのSPが雪崩れ込む。

 

「何だ!」

 

 ヨハネス達は突然の事態に対処する事なく、ものの数秒で全員が無力化、拘束された。

 

「俺はあくまでも時間稼ぎだったんだよ。俺とバトルしている間は爆破はしないだろ? だから、その間にここを包囲して、ショッピングモールに仕掛けられた爆弾も解除して実行犯も抑えた」

 

 マシロが時間稼ぎを行っている間にはヨハネスは爆破をしないと予測して、マシロが囮となって時間を稼いでいた。

 その間にマシロが一族の名を使って、警察を動かした。

 ショッピングモールの方にはマシロのSPの中から爆発物の専門家を向かわせて処理をさせ、同時に爆発物を設置した実行犯を抑える。

 最後はここに集まったヨハネス達を抑えれば全てが終わる。

 

「……マシロ! お前、俺達を売ったのか!」

「勘違いしないで欲しいけど、俺は売ったんじゃない。義務を果たしただけだよ。善良な一般市民としてのね」

 

 ヨハネスは取り押さえられて身動きが取れないが、マシロに掴みかかる勢いで叫ぶ。

 どんなに、体をよじらせても拘束から抜け出す事は出来ない。

 

「お前は罪を犯して来た。なら、その罪は償わないといけないよな? ごめんなさいで済めが良かったけど、それで済まないなら仕方が無いだろ」

 

 今までにもヨハネスはやんちゃをして、院長に怒られた事は何度もある。

 その時に誰かに迷惑をかけた時は、院長と一緒に謝りに行かされた。

 だが、今度は謝って済むレベルではない。

 これから更に追求されると更に余罪が出て来るだろう。

 

「くそ! ふざけやがって! マシロ!」

「さよならだ。ヨハネス。もう会う事もないだろう」

 

 マシロへの恨み言を叫びながら、連行されていくヨハネスをマシロは見送る。

 

「いやぁ……助かりましたよ」

 

 ヨハネス達が連行されて行くと、警官の一人がマシロに声をかけて来る。

 

「これで爆破事件に発展していたら、今日は帰れないところでしたよ。今日は、息子とプラモデルを一緒に作る約束をしていましてね」

「それは何よりだ」

 

 マシロは素っ気なく返す。

 そして、次第に人気のなくなる広場を眺めていた。

 

「……これで本当に返る場所がなくなったな」

 

 この町にはマシロの帰る家が無ければ、待っている友人もいない。

 ヨハネスが逮捕された事で、マシロは本当に返る場所を無くした。

 後悔はしていない。

 少なくとも、マシロは人として正しい選択をする事が出来た。

 帰る場所がなくなっても、この町には変わらない物があったと言う事も分かっている。

 それでも、今になってどうしようもなく寂しさを感じてしまった。

 後は、地元警察に任せてマシロはホワイトベースに帰って行く。

 

「おかえり」

 

 マシロが戻るアイラがそう言う。

 アイラはテレビを見ており、こっちを見ていないが流石にドアが開けば誰かが入って来れば音で分かるだろう。

 そして、ここに断りもなく入って来る事はマシロしかいないと言う事は分かっている。

 「おかえり」と言う何気ない言葉にマシロは思わず立ち止まってしまった。

 今までに一度も言われた事がない訳ではなく、至極当たり前の言葉で特別な言葉と言う訳ではない。

 アイラもテレビの方を見ている為、特別意識して出した言葉と言う訳でもない。

 だが、その一言はマシロにとって特別に感じた。

 

「何かあったの? てか、ニヤついて少し気持ち悪いんだけど」

 

 アイラもマシロの様子がおかしいと言う事にすぐに気が付いた。

 出てく時もおかしかったが、帰って来た今もおかしい。

 

「うるさいな」

 

 マシロはムッとしながら、椅子に座り込んでガンプラを取り出す。

 

「アイラ」

「何よ?」

「……ただいま」

 

 マシロはガンプラを弄りながらそう言う。

 その様子は少し照れているようにも見えて、アイラはますます訳が分からなくなる。

 

「本当に何があったのよ」

「別に……ただ、ここが今の俺がいる場所で俺にはまだ帰れる場所がある。こんなに……ってだからなんでもないって言ってんの」

 

 マシロは新しいガンプラの箱を引っ張り出して来る。

 そして、組み立てを始めるとこれ以上は話す気がないと言うオーラを全身から出している。

 

「何なのよ……もう」

 

 マシロがこの町で何をして来たのか、何があったのか知らないアイラは事態を把握する事は出来なかった。

 

「ただ、こんな寄り道も偶には悪くない」

 

 ガンプラを組み立てながら、マシロはアイラにも聞こえない程の声で呟いた。

 ほどなくして、ホワイトベースは食糧の補充を終えて、次なる目的地へと飛び立った。

 

 

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