ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
ガンプラ塾でのバトルから一か月、マシロはアイラと共にエントリーしたオーストラリアに来ていた。
マシロはアイラの世界大会の地区予選の場としてオーストラリアを選んだ。
元々、大会規約では自分の国籍以外の国からのエントリーを認められていない訳ではない為、ネメシスの地元のフィンランドから出る必要はない。
だが、何故オーストラリアだと言うアイラやバルトの疑問にマシロは答える事は無く、地区予選一回戦の前日となった。
マシロはアイラに会場の近辺で、最高級のホテルのスイートルームを貸し切りにして、泊まらせている。
流石にこの待遇をアイラは怪しんだが、マシロは公式戦の前に心身共に万全の状態にすると言うのもファイターの仕事だと言いくるめた。
そして、マシロはホテルのバーにいた。
素顔を隠す為か、大き目のサングラスをしているが、愛用の白いマフラーはいつも通りに着用している為、知っている人から見ればすぐに分かる。
「……で、俺をこんなところに呼び出した用件は何だよ? 俺は明日バトルなんだかな」
マシロはバーで待ち合わせをしていた。
正確に言えば、相手の都合を完全に無視して呼びつけていた。
その相手はマシロと同じチームでもあるガウェインだ。
ガウェインは敢えて、チームのホームではなく自分の故郷でもあるオーストラリアから出場していた。
これは、アイラがフィンランドから出ると思っていた為、わざと出場地区をずらした為だ。
ガウェインは去年まではネメシスのエースとして各国のファイターに知られていたが、今となってはネメシスのエースはマシロと言う事で定着している。
そして、アイラの加入で今はネメシスのナンバー3にまで落ちている。
その上で世界大会に出場する事が出来ないとなると、チームでの地位が完全に崩壊する。
それを避ける為に確実に世界大会に出る為に、アイラとは別の地区から出場しようとしていた。
尤も、それもアイラが自分と同じオーストラリア予選に出る事となって完全にご破算だ。
更に言えば、ガウェインの一回戦の相手はアイラであった。
「まぁ、座れよ」
マシロは椅子を指さして、ガウェインを座るように急かす。
ガウェインもマシロが用件をすぐに話す気がないと理解し、渋々座る。
「さて、今日、君を呼んだのは他でもない」
「前置きは良いから用件だけを言えって」
マシロは両手を肘をついた状態で組みながら、勿体ぶっている。
「急かすなよ。今日は良いものを持って来た」
マシロはそう言うと、足元に置いてあった包みをバーのカウンターに置く。
包みを開くと中には壷が入っていた。
流石にこのタイミングで、マシロが自分に壷を渡す理由に見当が無い為、ガウェインは状況が呑み込めずにいる。
「冗談だって、ノリが悪いな」
マシロはガウェインが乗って来ない為、少し機嫌を損ねるが、壷の中からUSBメモリーを出す。
「これをやるよ」
「何が入っている?」
「聞いて驚け、アイラのマル秘映像だ」
ガウェインはますます理解出来なくなる。
取りあえず分かった事は、USBメモリーの中にアイラの映像が入っていると言う事だ。
だが、それをガウェインに渡す理由が分からない。
「騙されたと思って見て見ろよ。今夜は眠れない事を保障するぜ」
マシロは言うだけ言うとガウェインからの質問を一切させる事無く、バーから出て行く。
ガウェインが我に返る事には、マシロを完全に見失い、バーにはマシロから渡されたUSBメモリーと壷、マシロが待っている間に飲んだミルクの伝票だけが残されていた。
そして、オーストラリア予選当日、会場の駐車場にはフラナ機関が用意したトレーラーが止まっている。
このトレーラーの内部には様々な設備が整えられている。
「何でコスプレ?」
マシロは第一声でそう言う。
今回は公式戦と言う事で、アイラはフラナ機関が用意した専用のスーツとヘルメットを着用している。
「君には関係ない事だ」
マシロの質問に対して、バルトが答える。
いつもは、オーナーからチーム内の事でかなりの権限を与えられていると言う事もあって、マシロに振り回されているバルトだが、アイラが着用しているスーツとヘルメットの事に関してはマシロに何も話す気は無いと言う事が言葉からも分かる。
一方のアイラも、マシロに何も話さないと言う事に後ろめたい事があるのか、ヘルメットを付けていても分かる程、視線を逸らしている。
「まぁ良いけど、サザビーの調整は済ませてある」
マシロはアイラにサザビー改を渡す。
アイラ専用のガンプラはすでに完成してあるらしいが、情報の漏洩を最小限に留める為、世界大会まで使わないらしい。
「相手はガウェインだが、大丈夫か?」
「問題ありません」
アイラはバルトがいると言う事もあって感情を殺してそう言う。
すでにアイラは一度、ガウェインに勝っている。
あの時はマシロが用意した素組よりも少し作り込んだジェガンを使ったが、今回はジェガンよりも性能の高いガンプラを使う為、アイラは余裕だ。
そんなアイラを見て、マシロはバルトの方に歩く。
「ちょっと、俺に付き合って貰う。アイラは一回戦は一人でバトルしといてくれ」
「何を勝手に……」
「大丈夫です。問題ありません」
流石にガウェイン相手にアイラ一人でバトルさせる事に、バルトは反対だったが、アイラは一人で大丈夫と言い、マシロは有無を言わせない雰囲気を漂わせている。
「そいつは頼もしい。んじゃ、こいつは借りてくから」
トレーラーにアイラ一人を残してマシロはバルトをトレーラーの外に連れ出す。
そして、マシロがバルトを連れて来たのは、予選会場の観客席だ。
観客席に到着すると、マシロは席に座り、バルトに座るように席を指さす。
「どういう事か説明して貰おう」
「説明も何も、アイラは一人で大丈夫だって言ってんだ。俺達はここでアイラのバトルを観戦しに来たんだよ」
マシロは当たり前の事だと言わんばかりにそう言う。
確かに観客席でする事はバトルを観戦する事だが、わざわざ、観客席に来てまでする事でもない。
マシロはすでに世界大会への出場が確定している為、アイラのセコンドにはつけないが、アイラにはバルトが補佐としてつく手筈となっている。
マシロはともかく、バルトがここに来る必要性は無かった。
「始まるぞ」
マシロから詳しい説明がされる事なく、アイラとガウェインが会場に入って来るとバトルシステムの前に立つ。
そして、アイラとガウェインのバトルが始まった。
バトルフィールドは市街地となっている。
バトルが始まり、互いのガンプラがバトルフィールドに入る。
ガウェインのガンプラはデビルガンダムだった。
バトルが開始し、アイラのサザビー改がバトルフィールドに入ると、サザビー改は直線的に前進する事無く、傾いて落ちていく。
そのまま、地面に着地するがサザビー改は膝をついてしまう。
「どういう事だ? アイラは調子でも崩しているのか?」
開始早々の操縦ミスからバルトはそう予測するが、バルトの横でマシロは面白そうにバトルを見ていた。
「違う。サザビーの重心が傾いてんの。片足に鉛を仕込んであるから」
マシロがそう言うと、バルトはすぐには理解出来なかった。
アイラの操縦ミスはアイラの問題ではなく、ガンプラの方にあると言う事だ。
マシロは事前にサザビー改の片足に鉛を仕込んでいた。
それにより、サザビー改の重心は大きくずれて、アイラはガンプラを制御し損ねた。
「事前に気づいていればアイラでも外せるようにしておいたんだけどな。アイツ、気が付かなかったみたいだな」
鉛を仕込んでいる為、サザビー改はいつもより重くなっている。
そこに違和感を覚えれば、鉛が仕込まれている事に気が付く事が出来た。
増えた重量はある程度、サザビー改の事を理解していれば気づけるレベルで、気づきさえすれば簡単に外せるようにしてあった。
だが、アイラは今の今までそれに気づく事は無かったらしい。
バトルが開始されてからおかしいと言う事に気づいてところで後の祭りだ。
そんなアイラの事情にはお構いなしにガウェインはアイラのあぶり出しにかかる。
デビルガンダムは至るところに装備してある拡散ビーム砲で障害物を破壊にかかる。
「相手はこっちの事情なんて気にしてはくれないぞ。どうする?」
サザビー改は飛び出して、ロングビームライフルを放つ。
デビルガンダムは巨体と言う事もあって、回避する事は出来ない。
だが、ビームはデビルガンダムに直撃するが、弾かれた。
「見た目が同じだからって性能が同じだとは限らない」
以前は無かったが、ガウェインはデビルガンダムにIフィールドを搭載させていた。
そのIフィールドがサザビー改のビームを弾いたのだ。
デビルガンダムの攻撃を何とか回避しながら、ロングビームライフルを連射する。
「あーあ……やっちまったな」
マシロがそう言うと、ロングビームライフルの銃身が爆発を起こす。
「今度は何が起きた!」
「あのライフルは欠陥品でさ、長距離射撃用に威力は高いんだけど、銃身の強度がそれに見合ってなくてさ。連続で撃ち過ぎるとああなる」
サザビー改のロングビームライフルの威力は長距離の敵を狙えるように高出力となっている。
だが、銃身の強度が足りず、連続で使い続ければ銃身が威力に耐える事が出来なかった。
今までアイラはバトル中に連射した事が無かった為、その事は知らなかったようだ。
今までは実力差がある相手では連射する必要が無く、マシロとバトルする時は連射する前に破壊されるか、その前に負けるかのどちらかだった。
「鉛に気づかなかったと言い、ライフルの欠陥を知らないと言い……思った以上に自分の使っているガンプラの事を理解してないようだな」
マシロがアイラにサザビー改を持たせていたのは、暇な時にでも自分で弄る事で自分の使うガンプラの事を理解させる為だ。
だが、アイラは持っているだけで、サザビー改の事はバトルで知った以上の事は理解していないようだ。
ライフルが壊れた隙をついて、デビルガンダムは高出力ビームを放つ。
それをサザビー改はシールドで受け止めるが、シールドは破壊され、サザビー改は地面に叩き付けられる。
「アレを正面で受ければそりゃそうなるわな」
「どういう事だ? 何故、アイラはこうまで押されているんだ?」
マシロはアイラの戦い方に呆れているが、隣でバルトがマシロを睨みつけてそう言う。
マシロにアイラを預けて半年近くになるが、半年前には圧倒出来たガウェインに今は押されている。
バルトとしては納得が行く物ではない。
「色々と要因はある。俺も色々とアイラに教えたし、ガンプラ塾で色んなガンプラの対処法を見せた。けど、アイツはそれで理解して覚えた気になったに過ぎない。知識として増えても技量として会得した訳じゃない。聞いたり横から見ていただけでバトルが強くなれたら練習も必要ないし、苦労はないよ」
この半年間、マシロは色々とアイラに教え込んだ。
実際のバトルの中で指摘したり、ガンプラ塾では実演もした。
それでアイラはそれを理解はした。
だが、理解しただけでそれを実際にバトルで実行できるかは別だ。
アイラは頭では理解したが、マシロに指示された以上の練習をしなかった事もあり、知識として理解しただけで、技術としては殆ど吸収していないと言う訳だ。
マシロも何度もバトルの相手をさせたが、一度として同じ展開には持って行かせなかった為、バトル後に教えた事をマシロとのバトルの中で実践する機会は無かった。
その為、頭ではどうするべきか分かっていても、実際のバトルの中では行う事が殆ど出来ていない。
「もう一つは勝利に対する執念。ガウェインは余り後がないからな。その上で、相手がアイラだから、勝つ為に必死になってんだよ。多分、昨日渡した奴も何度も見返して来てるな」
アイラにとっては勝つ事が当たり前だった。
唯一、負けたマシロはチームからのお咎めは無い。
その為、普通にバトルすれば勝てる為、勝つ事に必死になる事は無かった。
対するガウェインはチームでの地位を守る為に、必死に勝ちに来ている。
マシロは昨日、ガウェインに渡したUSBメモリーの中にはアイラのバトルに関する情報が入っていた。
ガウェインはそれを何度も見てアイラのバトルを徹底的に研究して来ている。
アイラが幾ら粒子の流れから相手の動きを先読み出来たところで、自身の動きを完全に見切られていては完全に優位に立つ事も出来ない。
その上で、ガンプラに細工がされている為、圧倒的に不利な状況に追い込まれている。
「何故、そのような事を? これではアイラが潰れるかも知れないんだぞ」
今までのバトルならともかく、これは公式戦だ。
それで負けると言う事がどういう事か、マシロが分からない訳が無い。
「必要な事だからな。アイツに最も足りてないのは勝利に対する執念だ。ガンプラバトルをやってる奴の大半はガンダムが好きでガンプラが好きな奴だ。だから、自分のガンプラが最強で自分が一番、ガンプラを上手く操れると言う事を証明する為にバトルしてる。世界大会に出て来る奴はそんな連中の中でも世界の頂点を狙えるだけのセンスを持ってる。ガンダムもガンプラも好きじゃないって時点で、アイラは大きなハンデを背負ってる事になる」
半年間、アイラを見て来たマシロはアイラの最大の欠点はガンプラバトルに対する熱意、そして、勝利に対する執念と見ている。
それは今までの練習態度からも明らかだ。
なまじ実力がある分、勝利に対して執着する事は無くても勝つ事が出来ていた。
だが、世界大会で本気で優勝を目指すのであれば、今のままでは勝ち進む事は出来ない。
「だから、多少荒療治でも知る必要があるんだよ。負ける事がどういう事なのかをな。ガンプラ塾で勝ち続ける事が出来なかったファイターの末路は見せた。そろそろ、それが頭の中でチラつく事だ」
サザビー改はファンネルを出すが、デビルガンダムの拡散ビーム砲であっさりと全滅してしまう。
そうすると、明らかにサザビー改の動きが鈍り始めて来た。
ライフルとシールドを失い、ファンネルが全滅した時点でサザビー改の武器は胸部の拡散ビーム砲のみだ。
すでに敗色が濃厚となった事はアイラも気づいている。
そして、アイラは否応なく、ガンプラ塾での二代目メイジンカワグチの敗北した時の事を思い出してしまう。
勝ち続ける事を義務づけられたメイジンはマシロに敗北し、惨めな醜態を塾生に晒した。
このバトルで負ければ、今度は自分も同じことになる。
相手は自分より弱いとして、マシロやバルトに大見得を切ったガウェインだ。
公式戦である事もあり、負ける事が出来ないバトルで勝ち目が殆ど無くなった。
「マ……」
「終わったな」
アイラはちらりと後ろを見た時点でマシロは確信した。
このバトルでアイラの勝ち目は無くなったことに。
恐らくは、アイラは自分を頼ろうとしたのだろう。
この半年でマシロはアイラに様々な事を教えて来た。
アイラは面倒がりながらも、マシロに一定の信頼を置いていた。
故にこの状況を打破する為の策を聞こうとでもしたのだろう。
だが、すぐに気が付いた。
マシロはバトルの前にバルトと共にどこかに行っている。
今は、マシロもバルトもいないと言う事に。
自分が一人だと気付いた事で、アイラの敗北の予感も確信に変わりつつあった。
勝算が薄くなったことで、アイラは勝利の重圧がプレッシャーとなり、アイラに重く圧し掛かる。
何とか状況を打開しようと、頭をフルに回転させるも、思うようにはいかない。
それが更にプレッシャーになると言う悪循環にアイラは陥っている。
そんな状況を打開する為には冷静になる必要があるが、こんな状況は初めてである為、容易ではない。
幾ら考えても答えは出せない事に加えて、サザビー改に細工をされている事が更にアイラを追い込む。
サザビー改に細工を出来るのは、マシロしかいない。
マシロが意図的にサザビー改に細工をしていた事で、アイラは本当にマシロに教えられたことが正しいかと言う疑心暗鬼に陥り更に冷静さを失わせている。
「この敗北でアイラはどん底に落ちるだろう。だが、そこで絶望するのも這い上がるのもアイラ次第だ」
元からマシロはアイラをこのバトルで負けさせるつもりだ。
それにより、アイラが負けた事で潰れるかも知れない。
それでも、今のアイラに必要なのは勝利ではなく、敗北であると考えていた。
マシロもマシロ・クロガミとして過去に一度だけバトルで負けた事があった。
そこで敗北を知ったからこそ、慢心する事無く強くなる事が出来た。
後はその敗北からアイラが立ち直れるかどうかだ。
「くっ……アイラにはどれだけの金をかけていると……」
「知ったこっちゃないな。それはそっちの事情でアイラを育てるのはこっちの事情。やり方はボスから俺に一任されてんだ」
バルトは今更ながら、マシロにアイラを預けた事を後悔している。
アイラにはフラナ機関が大金をつぎ込んでいる。
バルトもフラナ機関もそれだけの価値がアイラにあると確信している。
それが、何の成果を出せないまま、潰されてしまっては堪った物ではない。
ただ、潰されるだけでなく、結果を出せなければフラナ機関への資金援助も打ち切られかねない。
だが、今更後悔しても遅い。
マシロはアイラが這い上がる可能性に賭けているが、流石に根拠もない事をバルトは信じる事が出来ない。
今になって、マシロの存在は自分達が思っている以上に危険な存在だとバルトは思い知る。
普通では考えない事をマシロは普通にやろうとする。
ただの自分勝手なボンボンではなく、確実にマシロは自分達と同じ側の人間だと確信する。
それも、自覚がないタイプで自覚がないが故に何をしでかすか分からない。
バルトはアイラの事は最悪、切り捨ててる事も考え始める。
そうこうしている間に、アイラは最後の賭けに出る。
確実に一撃でデビルガンダムを倒す為に拡散ビーム砲をかわしながら接近している。
多少、被弾しても構わずにデビルガンダムにサザビー改は突っ込んで行く。
そして、至近距離からデビルガンダムに拡散ビーム砲を撃ち込もうとする。
しかし、サザビー改が拡散ビーム砲を撃つ前に、デビルガンダムの周囲の地面に潜ませてあったガンダムヘッドがサザビー改に襲い掛かる。
完全に目の前のデビルガンダムしか見えていなかった事やデビルガンダムにそのような攻撃方法がある事を知らないアイラは完全に不意を突かれた。
無数のガンダムヘッドはサザビー改に突撃する。
不意を突かれた事で、アイラは完全に対処する事が出来ずに次々とガンダムヘッドの攻撃を受けてサザビー改はボロボロになって行く。
ボロボロとなったサザビー改に止めを指す為にデビルガンダムは下半身の一部が展開し、高出力のビームが放たれる。
すでにサザビー改には回避する事が出来ず、アイラにもそれだけの気力は残されてはいなかった。
デビルガンダムのビームをサザビー改は回避する事も出来ずに直撃を受けた。
それが決めてとなり、バトルは終了し、アイラは世界大会はおろか、地区予選の一回戦で敗北した。
地区予選の一回戦で敗退と言う結果に終わり、アイラはホテルの部屋に閉じこもっていた。
バルトの方はマシロに軽く文句を言うが、マシロは完全に無視している。
始めからマシロはアイラを負けさせる気だったと言う事もあって、今回の敗北でアイラをどうこうする気はバルトにはないが、絶対に勝てると思っていた相手に負けた事はアイラにとってはショックな出来事なのだろう。
部屋に閉じこもり、アイラは呼びかけても電話をかけても一切応じる事は無かった。
流石にこのままではまずいと踏んだバルトはマシロを説得に行かせることにした。
全てはマシロが仕組んだ事だからだ。
「出て来ないと思ったら泣いてたのかよ」
「……泣いてないわよ。それに何で勝手に入って来てんのよ」
アイラはベッドに座り、クッションに頭を埋めている。
大見得を切った手前、マシロとは顔を合わせ辛いのだろう。
「何しに来たのよ? 笑いにでも来たの?」
「生憎と俺も世界大会の準備があるからそこまで暇じゃないんだよ。コイツを持って来た」
マシロは直したサザビー改をテーブルの上に置く。
バトルが終わった後に、マシロはサザビー改を直していた。
「何よ……今更そんな物」
「まぁ……あれだけ大見得を切ったんだ。負けて死ぬほど恥ずかしいのは分かる。けどな、お前は負けるべくして負けた。俺がガンプラに細工してなくてもな」
アイラも気が付いていた。
ガンプラに細工したのはマシロであると。
その理由はともかく、今更、文句も湧いてこない。
ただ、アイラは負けたのだ。
自分よりも格下だと思っていた相手にだ。
「うるさい」
「自信を持つのと過信するのは違う。お前は自分の実力を過信し過ぎた。だから、自分のガンプラの事も相手の実力も理解しようとしなかった」
アイラの最大の敗因は自信の実力の過信と油断だ。
確かにアイラの実力は世界上位と言っても良い。
今までは実力差のある相手が多かったが、ガウェインもまた、世界に通用するレベルのファイターだ。
一度勝ったことで、今度も勝てると根拠もなく確信していた為、予想外の事態に対処出来なかった。
その上でサザビー改の理解不足も相まってアイラは何も出来ずにガウェインに敗北した。
「うるさい! マシロが変な事をしなければ!」
「勝てたと? 大体、確認する時間は十分にあったし、サザビー改に対する理解を深める時間もだ。それを怠った時点で俺に文句を言う資格はねーよ」
マシロが兄弟を訪ねている間に、アイラは何度も自由時間を与えられた。
その時間を活用すれば、少なくともサザビー改の事をより深く知る事は出来たはずだ。
だが、アイラはそれを怠った。
アイラは感情のままに抱きかかえていたクッションをマシロに投げつける。
マシロはかわす事が出来ずに顔面に直撃してよろける。
「本気で世界の頂点を目指すなら、それだけ真剣にガンプラと向き合わないと勝てる訳ないだろ。それが出来ないってんなら、世界の頂点を目指すのは諦めて、国に帰って格下相手に遊んでろ」
マシロはそれだけ言って部屋から出て行く。
ここから先はアイラの問題だ。
マシロがガンプラバトルを続けるように言ったところで意味はない。
アイラが自分でやろうとしない限り、世界の壁を突破する事は不可能だ。
この事はアイラ自身で決めなければならない事だ。
勝っても負けても楽しいガンプラバトルをやるのか、本気で頂点を狙うガンプラバトルをやるのかをだ。
後の判断をアイラに託したマシロはその事をバルトに伝えに行く。
そして、アイラはホテルから姿を消した。