ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
オーストラリア予選にてアイラは一回戦で敗退した。
その後、マシロの追い打ちによりアイラはホテルから姿を消した。
荷物が一式無くなっていた事からも少し出かけた程度ではない事が分かる。
「どうしてくれる!」
「俺もびっくりしてる。まさか家出をするなんてな」
バルトはマシロを非難するが、マシロは気にした様子を見せない。
「あの年頃の娘は色々と難しいんだよ。その内帰って来るだろ」
マシロからすれば、アイラが家出した程度の事だが、バルトからすれば全く違う。
予選敗退はマシロが意図的にやった事でネメシスのオーナーであるヨセフから何か言われると言う事は無いだろう。
だが、アイラが行方を暗ませたことは、フラナ機関から責任を追及される事は確実だ。
アイラはフラナ機関の最高傑作とされている為、そのアイラが行方を暗ませて戻って来る事が無ければ、バルトの首は軽く飛ぶだろう。
フナラ機関の内情を知り過ぎているバルトは場合によっては死活問題でもある。
「悠長な事を! 大体、君が無茶をやったせいで……」
怒りの矛先がマシロに向いた。
元々、バルトからすればアイラが世界大会で優勝する必然性はない。
優勝出来る事に越したことはないが、重要なのはアイラの有用性をヨセフに認めさせてフラナ機関への更なる援助をさせる事にあった。
だが、マシロはアイラを世界大会で優勝する事を念頭に置いていた。
その上で、マシロはアイラが途中で諦めようとも構わない為、かなり無茶な事も平気でさせている。
全てはマシロのせいで狂ったと言っても良かった。
「うるさいな。男のヒスはモテないぞ。まぁ、アイツが持ってった荷物の方は別に構わないとアイラの奴、サザビーまで持ってったからな。せめて、それだけは回収しとかないとな」
アイラは自分の荷物を持ち出しているが、その際にマシロが貸していたサザビー改も紛れたのはホテルの部屋には見当たらなかった。
アレはアイラにあげた訳ではない為、返して貰う必要がある。
「家出してからそう時間は経ってないし、仕方が無いから探しに行って来る」
マシロも渋々だが、バルトの相手が面倒だと言う事もあり、アイラを探す事にした。
ホテルを飛び出したアイラは公園のベンチにいた。
マシロに色々と言われて頭に来て飛び出したが、アイラに行く当てもない。
取りあえず、荷物は一通りまとめて持って来ている。
マシロからある程度の金は貰っていた為、当分は金に困ると言う事は無いが、いずれは尽きる。
金を稼ごうにも働き口を見つける事も困難だろう。
「何やってんだろう……私」
飛び出して冷静になって見ると少し馬鹿な事をしたと思い始めている。
実際、ガウェインに負けた事はショックだが、それ以上にマシロに色々と言われた事に腹を立てた。
負けたとはいえ、たかが玩具の戦いで負けた事で何故、ここまで言われないといけないと言うのが本音だ。
「これからどうしよう」
勢いで飛び出した事もあり、今後の事は考えてはいない。
「見つけたぞ。家出娘が」
「何よ」
今後の事を考えていると、アイラを探しに来たマシロが声をかける。
いずれは連れ戻しに誰か来るとは思っていたが、それがマシロなのと予想以上に見つかる事が早かった。
それも当然だ。
マシロは近くのホテルなどの宿泊施設の全てにアイラらしき客がいないかと確認させて、同時に町中の監視カメラの類を使いアイラの同行を追わせた。
普通ならば、警察機関でもないマシロにそのような事は出来る訳もないが、そこはクロガミグループの名と金を積んでやらせた。
アイラ自身、追手を撒こうとはしていなかったと言う事もあり、すぐにアイラの足取りを掴む事が出来た。
「私を連れ戻しに来たって訳?」
「あの眼鏡がヒスってんの」
「知らないわよ」
マシロはアイラの横に座り込む。
アイラはあからさまにマシロとの距離を取る。
「後、俺のガンプラを持ったままだろ」
マシロにそう言われると、アイラは自分の持ち出して来た荷物を確認すると、確かにマシロから借りていたサザビー改が紛れ込んでいた。
「たく……もっと丁重に扱えって……よし、どこも壊れてないな」
マシロはアイラからサザビー改をひったくると、状態を確かめる。
幸いな事にサザビー改は無事で、一先ず安堵する。
その様子を横目で見ながら、アイラはまるで自分の事よりもガンプラの方を優先して来たみたいで面白くない。
「用が済んだらさっさとどっか行きなさいよ」
「だから、あの眼鏡がヒスってんだって。だから帰って来い」
「絶っ対、嫌!」
「ハァ……仕方が無い。ここは腹を割って話し合おう」
アイラは戻って来る気は無いが、マシロとしてもこれ以上の面倒事はごめんだ。
力づくで連れ戻そうにも、身体能力ではアイラに敵わない事はマシロも自覚している。
いつも通りにガンプラバトルの勝敗で決めようにも、今のアイラはバトルすらしてくれない。
そうなれば、説得する事が最も確率が高いと言える。
「アイラはガンプラが好きか?」
「嫌いよ」
「……だよな」
マシロの問いにアイラは即答で返す。
今までの事を考えると、アイラはガンプラが好きではないと言う事は明らかだが、目に見えて敵意や憎悪を見せるのは初めてだ。
「逆にさ、マシロは何でそこまでガンプラに熱中するのよ」
「そりゃ、楽しいからだよ」
「何で?」
「何でって……」
アイラの質問にマシロは答える事が出来なかった。
マシロは常日頃からガンプラバトルで勝つ事が好きだと公言している。
その為なら、ルールや法に触れない限りはあらゆることをして来た。
バトルで勝つ事が楽しいから好きだ。
特に強い相手に勝つのが好きだ。
だが、その根源である何故、好きだ、楽しいかとまで深く考えると答えが出なかった。
単純に勝てれば楽しいから好きだと言う物ではなく、楽しいと思える理由があると言う事は分かる。
だがそれ以上、考えようとすると頭痛がした。
まるで、マシロ自身がそこに辿りつく事を拒んでいるかのようだ。
「マシロ?」
「……俺の事はどうでも良いって。それよりもアイラは何でそこまで、ガンプラを嫌うんだよ。嫌うって事はそれなりの理由があるんだろ?」
普通に生きる上でガンダムやガンプラと関わらずに一生を終える人間は決して少なくない。
そんな人間のガンプラに対する感情は無関心だ。
アイラのように嫌うと言う事は嫌うだけの理由は必ずある筈だ。
自分の事は話さない癖に、アイラの事は深い部分まで聞いて来ると言う事は少しムカっとするも、アイラは仕方が無く話す事にする。
どの道、話さなければマシロは引く事は無いと諦めた。
「私はフラナ機関にスカウトされる前はいわゆるストリートチルドレンだったんだけど、その前は普通に孤児院で生活してたの。親の事は何も覚えてないけど、兄妹はいた。兄妹と言っても、孤児院の人がそう言っているだけで、本当に血が繋がっているかも分からない兄よ。大して何も出来ない癖に私の前でかっこつけようとして、いつも失敗ばかりする馬鹿な奴。そんなアイツはガンプラバトルに熱中してた。一度も勝ったところは見た事もないけど。そんな、アイツは私や孤児院を捨てたのよ。どっかのお金持ちのところに一人で引き取られて行った。その理由がガンプラを好きなだけやらせて貰えるって理由でよ」
アイラの声は震えていた。
アイラにとっては思い出したくはない過去なのだろう。
「信じられる? アイツにとってはたかが私達よりもたかが玩具の方を取ったのよ。孤児院に居たってガンプラは出来たのに……」
すでにアイラは兄の事は顔も名前もおぼろげな程、昔の事ではあったが、今でも自分達よりもガンプラを選んだ兄の事を憎んでいるのだろう。
同時に兄を奪ったガンプラの事も。
かつて、マシロはアイラに壊したい程、憎い物があるかと聞いた事があった。
その時にあると答えたが、それはガンプラの事なのだろう。
「ガンプラは私から全てを奪ったの……最も、そんなガンプラに生かされて来たんだからお笑いよね」
「……そっか」
マシロはその程度の事しか返す事が出来なかった。
アイラの過去はマシロの想像以上に重い物があった。
だが、それはマシロからすれば、そこまで重い話しとも言えない。
マシロを初めとしたマシロの今の兄弟たちも少なからず心に傷を負っている。
それ以上に、アイラの過去は似すぎていた。
自分の過去に。
(何でこんなことになったんだろうな……)
始めて会った時から薄々は気づいていた。
だが、マシロはそれを偶然として否定し続けた。
妹と同じ名前なのは大して珍しい事ではない為、ただの偶然だと。
妹の面影を感じたのは、ただ過去に未練と罪悪感があるからだと。
全て、偶然なのだと。
しかし、これ以上否定する事は出来ないだろう。
「……俺とお前は似てるな」
それが精一杯だった。
今更名乗り出る事はしない。
これ程までに恨んでいるのにこの半年の間に何もないと言う事はアイラは何も気づいていないのだろう。
自分達の関係に。
ならば、今更話す必要もない。
話したところで、いい方向に何かが変わると言う事もない。
なら話す必要も知る必要もない。
どの道、マシロは元通りに戻る気は無い。
自分の意図した事ではないにしろ、自分の選んだ行動で破壊してしまったからだ。
「どこがよ」
「俺もお前もガンプラによって世界が変わった。俺は全てを得て、アイラは全てを失ったと言う違いはあるけどな。だけど、俺が全てを得たようにアイラもさ、ガンプラバトルを続けていれば、何かが変わるかも知れないし、何かを得られるかも知れない。その為にもう少し真剣に続けて見てたらどうだ? 少なくともお前は変わる事が許されてるんだ。俺とは違ってな」
マシロはガンプラと出会った世界が変わった。
元々、何も出来なかったが、ガンプラバトルをしていた事で自身の中の才能を見出された。
結果として失った物もあるが、同時に多くの物を得た。
もしも、ガンプラと出会う事が無ければ、マシロは今でも何も出来ない役立たずのままだっただろう。
だからこそ、アイラもガンプラバトルを続けていれば得られる物も、変われることも出来るかも知れない。
少なくとも、マシロは今更変わる事は出来ないし、変わる気もない。
全てを捨ててまで、今の道を選んだ以上、マシロにはこの道を突き進むしかない。
それがマシロが望んだ事でもあるからだ。
「ガンプラバトルを続けても変われる保証も何かを得られる保証もないじゃない」
「俺がそうだったからだ」
マシロがそう言い切る。
マシロにとってはそれだけで十分だ。
自分が変わる事も得る事も出来た以上、アイラだって同じように変わる事も得る事も出来ると。
「それに案外、簡単に変わるかもよ。女ってのは男に惚れるだけで変わるって都市伝説を聞いた事あるし」
「絶対にあり得ないわ。ガンプラに熱中している男なんて碌でもないに決まってるわ」
アイラは鼻で笑う。
アイラからすれば、ガンプラに熱中している人間など碌でもないように見える。
尤も、その基準はガンプラに熱中している人間の中での最も多くの時間を過ごしているマシロではある。
「でも……マシロがどーして持って言うならもう少し続けても良いわよ。だけど、本当に少しだけだからね! その気がなくなったらすぐに止めるから」
恐らくはアイラは自分で思っている程、ガンプラを憎んではいないのだろう。
本当に心の底から憎んでいれば、そもそも生活の為とは言え、フラナ機関でガンプラバトルをする事もなければ、マシロの説得に応じる事もなかっただろう。
これなら、出会い一つでガンプラに対する感情も変わるかも知れない。
だが、それはマシロの役目ではない。
ここまで、ガンプラを嫌うようになったのはそもそも、マシロの過去の行いが原因だ。
その上、今のマシロは自身の根源にあるガンプラの楽しさを思い出せずにいる。
そんなマシロにアイラを変える事は出来ない。
「ご自由に」
「尤も世界大会に出る事も出来なくなったから、フラナ機関にもネメシスにも居られないけど」
「それなら問題ない。次のフィンランド予選で勝ち抜けばね」
「は?」
アイラはすぐには理解出来なかった。
アイラはすでにオーストラリア予選で敗北している。
その為、すでに世界大会への道が絶たれていた。
だが、マシロは次と言う。
「お前、オーストラリア予選とは別にフィンランド予選にもエントリーしてあるから」
地区予選のエントリーはマシロに任せてあった。
だから、ネメシスの地元であるフィンランドではなく、オーストラリアの地区予選に出場する事になった。
だが、マシロはフィンランド予選にもアイラをエントリーさせていた。
大会規約では複数の地区予選にエントリーする事は禁止されていない。
それでも、複数の地区にエントリーするファイターはまずいない。
それにはいくつもの理由があった。
1つ目は地区予選は日本は開催国でガンダムを作った国と言う事もあって5つのブロックに分けられているが、大抵の国は参加枠が1つしか与えられていない。
その為、複数の地区予選に出場する為には国を超える必要があるからだ。
2つ目はスケジュールの問題だ。
地区予選は国によって始まる時期が違う。
場合によってはバトルの日が重なる事もある為、重ならないように調整しなければならない。
3つ目は開催時期は違ってもエントリーの締切は同時期と言う事だ。
複数の地区にエントリーすると言う事はどこかで負ける事を前提にしている。
程度の差はあるが、誰も始めから負ける気で出場する事は無い。
そして、複数の地区に参加し、本命の地区で勝ち上がり、保険としてエントリーしていた地区のバトルに出なかったり、複数の地区の代表になったりと言う事があれば、大会の運営から悪質な大会の荒らし行為と見なされて出場停止処分になり兼ねない。
これらのリスクを背負ってまで保険をかけるよりも本命一本で行った方が安全と言う事や、そもそもそんなリスクを背負ってまで世界大会に出る程の執念を持ったファイターは保険をかける必要すらない。
アイラの場合は、マシロは始めからオーストラリア予選は捨てていた。
オーストラリア予選を選んだのも、ガウェインがチームの地元のフィンランドを避けて出場しようとしていたからだ。
ガウェインは世界レベルの実力を持ち、アイラに対する対抗意識が強く、アイラが一度勝ったことで油断していると、アイラを負かす条件としてはこれ以上もない適任者だった。
マシロにとっての最も幸運だったのは、一回戦でガウェインと当たった事だ。
流石のマシロも対戦カードまでは操作出来ない。
クロガミグループは世界大会のスポンサーの一つである為、その気になれば対戦カードの操作や世界大会でのルールの漏洩などは簡単に行えるが、それは明らかに不正行為だ。
当然、勝つ為に出来る事は全てするマシロだが、不正行為をする気は無い。
ガウェインといつ当たるかは完全に運任せだった。
一回戦で負けた事でフィンランド予選までは時間が十分に残されている上に後で大会の運営から出場停止処分を受ける事もないだろう。
後はアイラ次第だ。
「フィンランド予選には去年、俺が決勝で秒殺した元キング・オブ・カイザーも出場して来る。そいつはガウェインよりも強いぞ。残った時間を真面目にやればアイラなら問題なく当てる筈だ」
フィンランド予選にはカルロス・カイザーも出場して来る。
カイザーと言えば、去年の第6回大会の決勝戦でマシロに僅か1秒と言う時間で敗北し、大会のバトル最短レコードを更新した事でも有名だ。
そんな不名誉なレコードを残した事で、今年のカイザーは例年よりも気合が入っていると情報が入っている。
元より現役最強とまで言われたカイザーの実力はガウェインの比ではない。
その上、全くの無名だったマシロに秒殺されている以上、相手が無名だろうと油断も容赦もないだろう。
「俺と同じステージでバトルしたいんなら。カイザー程度はこいつで軽く倒して来い」
マシロはアイラにサザビー改を差し出す。
サザビー改はライフルの欠陥など、性能は大して高いとは言い難く、カイザーの作るガンプラには確実に及ばない。
それで、カイザーに勝とうとすれば後はアイラが何とかするしかない。
「そんで、這い上がって来たらお前も俺と同じファイターだ」
「別にそこまでは目指してないけど、どの道、使えるガンプラはそれしかないから仕方が無いけど、使ってあげるわよ」
アイラはそう言いながらも、サザビー改を受け取る。
取りあえず、アイラは少しは真面目にバトルをする気になり、一先ずは問題は解決したと言っても良いだろう。
「そんじゃ、後は任せる。俺は一足先に日本に向かうから。どの道、世界大会に出場すれが俺達は敵同士だ」
このまま、アイラが行方を暗ませると言う事は、今のところなさそうである為、マシロは先に日本に向かう事にした。
戻ってバルトに小言を言われるのが面倒だからと言う事もある。
そして、いつまでもマシロがアイラに師事する事も出来ない。
世界大会が始まり、アイラも出る事になれば、同じチーム同士だろうと優勝と言うたった一つの席を巡って戦う敵同士となる。
ある程度はともかく、今まで通りとはいかない。
フィンランド予選くらいは自分達の力で勝ち進まなければ、どの道、世界大会で勝ち続ける事は出来ない。
「分かったわよ。精々、残り少ない天下を満喫する事ね!」
「聞き飽きたよ。その手のリアクション」
アイラの宣言をマシロは軽く流す。
マシロに対して倒すと言う宣言はエリカを初めとして、何度も言われている。
一々、気にすることでもない。
マシロはその足で日本へと向かう。
その数か月後、カルロス・カイザーがフィンランド予選で敗退すると言うニュースが世界中のファイターを震撼させた。