ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
幕間3
ただのマシロからマシロ・クロガミとなり数か月。
その間、マシロは自分の才能を知り、活かす為の術を教え込まれた。
そして、マシロはキヨタカに連れ出されていた。
目的はガンプラを買う事だ。
マシロはクロガミ一族に引き取られる際に今まで使っていたガンプラを孤児院に残して来ている為、今はガンプラを持っていない。
その為、マシロのガンプラを買う為にキヨタカと二人で買いに来た。
二人を乗せた車は東京郊外の住宅地で止まる。
「ここ?」
「そうだよ。ここは私の行きつけの店でね」
車を降りたマシロは目的地の店を見る。
看板にはイオリ模型店と書かれている。
立地が悪いのか、お世辞にも繁盛しているとは思えない模型店だ。
だが、キヨタカの行きつけと言う事もあり、マシロはキヨタカに続いて模型店の中に入る。
「いらっしゃいま……キヨさんじゃないですか!」
「おお! タケシ君、今日は店にいたのか」
店に入ると店の店主であるイオリ・タケシが出迎える。
両者は顔見知りと言うよりも友人に近いように見える。
方や対して繁盛していないしがない模型店の店主で、方や世界有数のクロガミグループの総帥と言う社会的な立場から見れば生涯関わる事もなさそうな二人だが、どちらもガンプラ好きと言う事でどこかで知り合いとなり、対等な友人になっているらしい。
最も、キヨタカは簡単に休みを取る事が出来ず、タケシもガンプラを広める為に世界を旅して店にいない事も多い為、直接会うには何年振りかにはなる。
「それで今日は何をお探しで?」
「ウチの末の息子が使うガンプラを買いにね」
二人には目もくれず店内を見ていたマシロをタケシに紹介する。
「君は……」
「あの時の変なおっさん」
だが、二人はすでに知り合いでもあった。
マシロがガンプラに出会うきっかけとなったのがタケシだからだ。
タケシも世界を回り、多くの人達にガンプラを広めているが、それでガンプラに興味を持った相手の事は忘れてはいない。
「知り合いなのか?」
「ええ、以前に彼にガンプラを教えた事がありまして」
「それは凄い巡り合せとしか言いようがないな」
かつて、タケシがガンプラを教えた子供が、タケシの友人のキヨタカに引き取られて、店の客となる。
早々ある物でもない巡り合せだった。
「確かに、それでマシロ君。マシロ君はどんなガンプラが良いんだい?」
「強い奴」
マシロの答えに、タケシもキヨタカも苦笑いをする。
ガンプラバトルにおいて、明確に強いガンプラは存在しない。
なぜなら、ガンプラバトルではガンプラの出来が性能に比例しているからだ。
同じ出来と想定しても、ファイターの求める強さによって強いガンプラは変わって来る。
「強いガンプラか……具体的には?」
「何だって良いよ。どんなガンプラだろうと結局は俺の実力で勝負は決まるんだし」
マシロの言い分も分からない事ではない。
どんなに性能の良いガンプラを作ったところでファイターがそれを扱う事や活かす事が出来なければ、せっかくの性能も宝の持ち腐れだ。
逆にガンプラの性能はそこそこでもファイターの腕で補うと言う事も十分出来る。
だが、ガンプラ選びと言う状況において、何でも良いと言うのが一番困る。
何せ、ガンプラの種類は1000を超えている。
その中から選ぶ為には何かしらの基準が必要となって来る。
「マシロ、だったら私に選ばせはくれないか?」
「好きにしたら」
マシロは使うガンプラに拘りはないようなので、キヨタカが申し出る。
そして、キヨタカは迷う事無く店内のブースに向かう。
大抵の模型店でもそうしているようにイオリ模型店でも目的のガンプラが見つけやすいようにシリーズごとに分けて商品が陳列してある。
キヨタカはすぐにガンプラを持って戻って来た。
「ガンダムAGE-1……成程、そう来ましたか」
「息子にガンプラを買ってやるときはまずはこれだと決めていたからね」
キヨタカがマシロの為に持って来たガンプラはガンダムAGE-1 ノーマルだった。
それを見て、タケシもその意図に気が付いた。
ガンダムAGE-1は作中でフリット・アスノが自分の息子であるアセム・アスノに渡した機体でもある。
それに見立ててキヨタカも自分の息子に送るガンプラとしてガンダムAGE-1を選んだと言う事なのだろう。
「ふーん。まぁ良いか」
「向こうに制作スペースがあるから使うと良いよ。道具も一通り揃ってるしね」
タケシは店の奥を指さす。
店の奥にはガンプラの制作スペースがある。
本来は自分がガンプラを作る為の場所だが、友人の息子に使わす分には問題はない。
マシロはすぐに購入したガンダムAGE-1の制作に取り掛かる。
「AGE-1を選んだと言う事は後でAGE-2も用意してあげないといけませんね。それでマシロ君の息子にAGE-3もですね」
「確かに」
マシロがガンプラを制作している間、二人は他愛もない話しで時間を潰した。
「それにしてもあの時の子供がキヨさんのところに引き取られて驚きましたよ」
「ウチの長男が最近ではめっきりガンプラを作らなくなってね」
そうこうしている間に一時間程が経過していた。
「出来た!」
マシロが完成したガンダムAGE-1を持って制作スペースから出て来る。
「ほう、中々の出来じゃないか」
「当然」
「確かに」
マシロの作ったガンプラを見てキヨタカもタケシも関心していた。
完全に素組で色々と直す事の出来る点は多いが、マシロの歳を考えると十分に良い出来と言える。
「おっさん。俺とバトルしろ!」
「僕とかい?」
ガンプラが完成して、マシロがタケシにそう言う。
タケシはちらりとキヨタカの方を見る。
それに気が付いたキヨタカはコクリと頷く。
「分かった。すぐにガンプラを持って来るからバトルシステムのところで待っていてくれ」
タケシは店の奥に向かい、自分のガンプラを取りに向かう。
マシロは店内にあるバトル専用の部屋でタケシを待つ。
「待たせたね」
「早く始めようぜ」
マシロは早くバトルがしたくてウズウズしている。
そして、互いにガンプラをバトルシステムに置く。
マシロのガンプラは先ほど作ったばかりのガンダムAGE-1 ノーマルで、タケシのガンプラはガンダムだ。
そして、バトルが開始される。
バトルフィールドはコロニー内(サイド7)
ファーストガンダムにおいてガンダムが初めて起動したコロニーでもある。
「見せて貰うとするよ」
まずは、マシロの実力を見る為にタケシは先制攻撃のビームを放つ。
その攻撃をガンダムAGE-1は易々と回避して見せた。
次にビームを連射するも、ガンダムAGE-1は回避する。
「成程、良い反応速度だ。キヨさんが見出した事はあるな」
「この程度の攻撃は余裕だね!」
タケシはマシロの実力に素直に関心していた。
こちらの攻撃に対する反応速度が尋常ではない。
単純な反応速度だけを見るなら、自分以上だとも思える。
だが、反応速度だけで動きに無駄が多い。
「ならこれはどうかな?」
ガンダムは機体を少し動かしながら距離を詰めようとする。
並のファイターならば、気づかない程の僅かな動きでも、マシロの目には見えていた。
その為、その動きにマシロは惑わされてしまう。
自身の才能を理解し、活かす術を見に付けたと言っても、瞬時にフェイントを見抜くにはマシロはまだまだ、経験と知識が足りない。
ガンダムは加速し、頭部のバルカンを連射して突っ込む。
ガンダムAGE-1はシールドで防ぐが、バルカンの弾丸は次々とシールドに穴をあけていく。
「たかがバルカンの癖に!」
「バルカンを甘く見ない方が良いな」
ガンダムはビームライフルを捨てて、ビームサーベルを抜いた。
ガンダムAGE-1はドッズライフルを向けるが、ビームサーベルによって破壊される。
「糞!」
ガンダムがビームサーベルを振るい、ガンダムAGE-1は一度下がり、ビームサーベルを持つと前に出る。
ガンダムはシールドでガンダムAGE-1のビームサーベルを受け止める。
「今後が楽しみだ」
ガンダムAGE-1はガンダムのシールドを弾こうとするも、ガンダムはびくともしない。
すでにガンプラの性能差は歴然となっている。
「終わらせる!」
ガンダムはシールドでガンダムAGE-1を弾き飛ばして体制を崩す。
そして、ビームサーベルを突き出した。
ガンダムAGE-1はとっさにシールドで守ろうとするが、すでにシールドはバルカンでボロボロになっている。
ガンダムのビームサーベルはシールドを貫通し、ガンダムAGE-1の胸部に突き刺さる。
それが致命傷となり、バトルは終了した。
「もっと、練習すれはいずれは……」
バトルの内容だけ見れば、タケシの圧勝だった。
だが、尋常ではない反応速度など、磨けば光る物があった事は事実だ。
「ふん……いい歳した大人が子供相手に全力かよ! 大人げないんだよ!」
負けたマシロは涙目になりながら叫ぶ。
タケシとしては手を抜いたつもりはないが、全力を出したとは言えない。
「ばーか! ばーか! 次は俺がおっさんをけちょんけちょんにしてやるからな! 覚えとけ!」
マシロはタケシにそう言い残して、ガンプラを回収し、店の前に止めてある車に駆け込む。
「少しやり過ぎましたかね?」
「いや、あれで良いんだよ」
タケシとしても子供であるマシロを泣かせた事に少し罪悪感を覚えるが、キヨタカとしてはこれで良かった。
「天才とは才能を持つが故に対等に立てる者がいなくなる。それが己の能力に対する自身にも繋がるが、逆に過信となる事もあり得る」
キヨタカの子供たちは一般的には天才に分類される。
同年代はおろか、年上だろうとその分野では誰にも負けない才能を持っている。
キヨタカはそんな子供たちに才能を最大限に活かせる場を与える事は出来るが、天才は時に自身の才能に溺れる事がある。
才能を持つが故に、自身の能力に自信を持つ。
それ自体は必要な事だが、自身も行き過ぎれば過信へと変わる。
その過信は時にミスを起こしたり、格下を相手に足元を掬われると言う事は決して珍しい事ではない。
「今日の敗北でマシロは負ける悔しさを身を持って知った事になる。これからマシロはタケシ君に勝つ為に更に腕を磨く事になるだろう。そして、それはタケシ君に勝つまで続く事になる」
「彼はいずれは世界を代表するファイターになるでしょうね。その時にバトルする事が今から楽しみですよ」
マシロは敗北を知った。
今までの敗北とは違う完全に実力での敗北だ。
ガンプラの完成度、操作技術、戦術眼、マシロがタケシに勝てる要素は一つもない完璧な敗北だ。
この敗北はマシロが成長する上で欠かせない。
タケシは世界大会で準優勝するほどの腕前を持つファイターである為、簡単に勝てる相手ではないが、マシロにとってはそんな事は関係ない。
これは天才が誰もが体験できる事ではなく、キヨタカにも与える事が出来ない事だ。
敗北を知る事で、天才は驕る事無く、自身を高め続ける事が出来る。
それだけで、負けた価値はある。
「その時はウチのマシロが勝つだろうけどね」
「僕も若い世代には負ける気はありませんよ」
キヨタカがマシロが勝つと言うのに明確な根拠はない。
強いて根拠を上げるなら自分の息子と言う事くらいだ。
一方のタケシもいずれは再戦するだろうマシロとのバトルで負けるつもりは毛頭ない。
「さて、マシロの機嫌を取らないといけないから今日のところは」
「またいつでも来て下さい」
今回の用事はマシロにガンプラを買い与える事だ。
そのままバトルになる事は予想外だったが、マシロに敗北の悔しさを知る良い機会となった。
キヨタカはマシロが先に戻った車に戻る。
この日、マシロは本当の敗北の悔しさを知り、それから世界チャンピオンになるまでただの一度も敗北する事は無かった。