ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle42 「スポーツバトル」

 世界大会2日目のバトルロイヤルが終わった時点で、100人の出場者の中でも決勝トーナメントに進める見込みがあるかないかが出始めている。

 第1、第2ピリオドの両方を勝ったファイターはまだ可能性はあるが、この時点で両方を落としたファイターは決勝トーナメントに進む事は絶望的となっている。

 片方を落としたファイターは今後の勝敗が運命を分ける事になる。

 第2ピリオドは全員参加と言う事もあって、終わる時間は早く、バトルが終了しても時間は遅くはならない。

 複数回行われるバトルなら自分の出番が終われば、他のファイターの情報収集に費やす事も出来るが、バトルロイヤルではそうもいかない。

 第2ピリオドを勝ち抜いたマシロは、選手村を歩いていた。

 その頬は赤く腫れている。

 運営に抗議仕掛けて、強制的に下がらされた後に、マシロはアイラにぶん殴られている。

 マシロに何度も振り回されて来て、ある程度は耐性が付いたものの、チーム内で何だかんだで一番信頼を置いているマシロに後ろから攻撃された怒りは相当な物だっただろう。

 尤も、マシロの方はアイラがそこまで切れている理由は見当も付かなかった。

 マシロからすれば、敵を背を向けて無防備になっているアイラが悪く、敵に無防備を晒すと言う失態を犯した自分に怒りを覚えるならともかく、隙を見せた敵を倒した自分に怒りを向けられる理由として考えられるのはやられた事に対する八つ当たりくらいしかない。

 今まで散々、アイラはマシロに負けている為、今更自分の致命的なミスによる敗北で八つ当たりをする事は考え難かった。

 

「訳が分からん」

 

 根本的な部分でズレている為、幾ら考えても答えが出る訳が無い。

 見当違いな事を考えていると、ありすとすれ違う。

 互いに見向きもしないが、すれ違い立ち止まる。

 

「何でお前がここにいる」

 

 互いに振り向く事は無い。

 

「ユキト兄さんの指示。それ以上は知らないわ」

「兄貴の?」

 

 ありすは普段とは違い高揚感のない淡々とした口調で話す。

 元々、ありすが世界大会に出場しているのはテレビのドキュメンタリーを撮影する為だ。

 だが、どうやら、その裏ではユキトが絡んでいるらしい。

 ユキトが何を考えているかは、マシロには想像もつかないが、自分の領域に勝手に入って来られるのは面白くはない。

 

「相変わらず兄貴の人形なんだな。お前」

「兄さんの犬に言われたくはないわ」

 

 振り向く事も無く、話しが進むにつれて二人の間に険悪な空気が漂う。

 

「自分がない人形よりかは犬の方がマシだ」

「こんな人形遊びしか能のない犬に何の価値があるのかしらね」

「それでも自分で操っているだけ、操られるしかない人形よりかはマシだ」

 

 次第に空気が悪化し、一触即発になりかけていく。

 

「マシロ、止めなさい。ありすも」

 

 そんな中、マシロを探しに来たレイコが仲裁に入る。

 だが、マシロもありすも簡単に引く気は無い。

 

「ありすも、こんなところを誰かに見られたらどうするの?」

 

 ありすは妹系アイドルとして世界的に人気となっている。

 表向きは甘えん坊で子供っぽいと言う事になっている為、誰かに見られでもしたら大問題となる。

 

「そんなに怒らないでよぉ」

 

 ありすはさっきまでとは一変して、アイドルの顔になる。

 そんなありすを見てマシロは心底、嫌そうな表情をするが、レイコは肘で突いてそっぽを向く。

 

「私も負けないからね。お兄ちゃん」

 

 ありすはそう言い残して去って行く。

 ありすが見えなくなって、レイコは一息つく。

 

「何やってんの! あの子を挑発して、本当に潰されるわよ!」

「レイコと言い、他の奴らと言い。そんなにアイツの事が怖いかね」

 

 クロガミ一族の兄弟の中でマシロだけが、ありすと険悪な関係で他は良好な関係だと言うのが表向きの兄弟たちの関係だ。

 だが、実際のところ大半の兄弟たちはありすの事を恐れていた。

 恐れるが故に可愛がって、ありすの機嫌を取っているに過ぎない。

 

「マシロだって知っているでしょ? あの子は……」

「母さんに何度も自慢されたから俺が一番知ってる。サチコがスーパーコーディネイターを超える究極のコーディネイターって事はさ。けど、それが何だよ」

 

 ありすの出生の秘密、それはマシロ達の母であるユキネが自分とキヨタカの遺伝子を使って人工的に生み出された命であると言う事だ。

 更にはユキネがその際に遺伝子を徹底的に弄っている。

 その結果として、ありすはあらゆる分野で天才を超える才能を持っている。

 見た目は可愛らしい少女だが、その気になれば数日で武術の達人になる事も天才科学者となる事も出来る。

 だからこそ、兄弟たちはありすを恐れていた。

 ありすがアイドルをしているのは一族の中でも芸能関係、特にアイドル方面で活躍が少ない為、ユキトの指示で年齢や容姿がアイドルをやるのに丁度良い事もあってアイドル活動をやらされているに過ぎない。

 その為、下手にありすの機嫌を損ねると、自分の分野で自分以上の成果を出して潰されると言う事を恐れている。

 兄弟でユキトとありす以外はキヨタカとユキネの血を引いていない為、結果を残し続ける事でしか、クロガミ一族の名を名乗る事が出来ない。

 一族の名を名乗る事が出来る限りは、一族から様々な恩恵を受けられる為、それ手放したくないと言うのは当然だ。

 

「けど、コーディネイターつっても人間だろ? ガンプラバトルなら俺は誰にも負けない」

 

 兄弟たちがありすを恐れているが、マシロからすれば気にする程ではない。

 他の分野なら並以下だが、ガンプラバトルにおいてマシロは自分が最強だと一切の疑いを持ってはいない。

 そこに根拠がある訳ではない。

 ただ、自分が最強だと確信している。

 

「とにかく、あの子の事を下手に刺激しない事! 良いわね!」

「約束は出来ない。俺、アイツの事嫌いだし。けど、俺の前に立ちはだかるなら誰であろうと倒す」

 

 レイコはありすを刺激して、本気でマシロを潰しに来る事を恐れている。

 今年の世界大会で優勝させなければ、ユキトからどんな制裁を受けるか分からない。

 その為には、ありすと正面切ってぶつかる事は絶対に避けたい。

 

「あんな自分すら持ってない奴に俺は負けない」

 

 ありすは常にユキトの指示で動いている。

 一族の長であるユキトの指示は絶対だが、マシロを含む兄弟たちとは決定的に違う事が一つだけあった。

 マシロ達は自分達の意志で今の分野に進み才能を開花させて活躍している。

 しかし、ありすに限り、自分でアイドルと言う道を選んだ訳でも無く、ユキトの指示でアイドルをしている。

 そこにマシロがありすを嫌う原因もあった。

 マシロにはファイターとしての素質の他には並以下の能力しかない。

 その為、自分の意志ではあったが、ファイターとしても道にしか進む事が出来なかった。

 だが、ありすは望めばどんな分野でも才能を発揮して、活躍する事が出来る。

 にも関わらず、ありすは自分で望む事も無く、ユキトの意志と指示で動くまさに人形に甘んじている。

 何にでもなれる才能を持ちながら、自分では何にもならないからこそ、マシロはありすを嫌っていた。

 

「……好きにしなさい。場合によってはユキト兄さんに何とかして貰うから」

「勝手にしろ。それで俺に用があって探してたんだろ?」

「さっき、次の第3ピリオドの種目が公表されたわ。これからミーティングよ」

「……アイラの奴は?」

 

 第3ピリオドの種目も気になるが、アイラの機嫌も問題だった。

 アイラが自分に対して怒る理由が見当たらない以上、アイラの怒りを抑えるのは難しい。

 謝るとしても、謝る理由に心当たりが無い為、謝りようがない。

 

「大丈夫よ。彼女は出かけたみたい。帰りはいつになるか分からないわ」

「分かった。さっさと済ませよう」

 

 取りあえずはアイラが出かけている様だ。

 ミーティングと言っても、チーム全体でやる必要もない。

 先にミーティングを済ませても問題はない。

 アイラがいないと知り、マシロはすぐに明日に備える為のミーティングに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3ピリオドのバトル内容はスポーツ対決だ。

 第1、第2ピリオドと規模は違えど乱戦系のバトルだった為、第3ピリオドはバトル系ではなく競技系の種目が選ばれた。

 バトル内容は各ファイターがそれぞれ、ランダムに対戦相手と競技スポーツが選ばれる。

 ガンプラに制限はないが、固定武装でパーツ単位で交換しなければならない場合を除き、武装の装備は禁止で固定装備の使用も禁止されている。

 

「お前の不敗神話も今日限りで終わりだ。マシロ!」

「お前も運がないな。ガウェイン」

 

 第3ピリオドにおいて、マシロとガウェインは対峙していた。

 互いが第3ピリオドの対戦相手となっていた。

 マシロはここまで2つとも勝って来たが、ガウェインは第1ピリオドでありすに負けている。

 第2ピリオドは危なげなく勝ちぬいているが、1つ落としている為、後1つ落としてしまうと決勝トーナメントが一気に遠のいてしまう。

 そんな中、マシロと当たるのは運がないとしか言いようがないが、ガウェインにはマシロに勝つだけの自信があった。

 

「幾ら、お前がバトルの腕が化物だろうと攻撃が禁止されているこの状況で、俺の鉄壁の守りを貫く事など物理的に不可能!」

 

 二人の種目はPKであった。

 PKのように攻撃を守り別れて戦う競技の場合は、運営側がランダムに指定した方のみで行われる。

 競技によっては確実に有利不利が出て来る為、一部からは攻守の交代がない事を疑問視する声が挙げられたが、運営側はそれも含めてファイターの腕の見せ所だとしている。

 そして、マシロがキッカーでガウェインがキーパーだ。

 その為、マシロの方が有利ではあるが、ガウェインの絶対的な自信は自分の使っているガンプラにある。

 ガウェインの愛機であるデビルガンダムは通常のガンプラよりも大型で、ゴールは通常サイズのガンプラの大きさに合わせてある。

 それにより、デビルガンダムが完全にゴールを塞ぐ形となり、どうやっても、ボールをゴールに入れるのは物理的に不可能だ。

 

「どんな通り、俺の必殺シュートでこじ開けるさ」

 

 巨体のデビルガンダムを前に、マシロはいつも通り自分の勝利を確信していた。

 今回の装備は身軽に動けるセブンスソードだ。

 ガンダム∀GE-1 セブンスソードはボールを垂直に蹴り上げた。

 そして、自身のスラスターを最大出力で使って蹴り上げたボールを追いかける。

 ボールを追い越して、十分に勢いをつけてガンダム∀GE-1 セブンスソードはデビルガンダムが守るゴールを目がけて思い切り蹴った。

 ボールはとんでもない勢いのまま、デビルガンダムに一直線に飛んでいく。

 完全にゴールを塞いでいる為、ガウェインは余裕の表情を崩さないが、ボールがデビルガンダムに当たるとそれは起きた。

 勢いよく回転が加えられたボールはデビルガンダムを抉り、そして、デビルガンダムを貫いてゴールのネットを揺らした。

 

「そんなのアリかよ!」

「アリに決まってんだろ。大体、俺がガンプラでサッカーをするんだ。それが普通の次元な訳が無い。いわば、新たな次元のサッカー、超次元サッカーとでも言っておこうか。そして、超次元サッカーにおいてキーパーをぶっ飛ばしてゴールを決めるなんて事は当たり前の事だ」

 

 完全に塞いだゴールにボールを決める為にキーパーに風穴を開けるなど、聞いた事は無いが、運営側から何も言わない以上、バトルは成立している。

 第3ピリオドのルールでも武器を使う事は禁止されているが、ボールを使う競技で相手のボールをぶつける行為そのものは攻撃とは見なされないとある。

 つまりは、ガウェインが何を言おうとも、マシロの勝利を覆す事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 第3ピリオドを難なく勝ち抜いたマシロはチームのトレーラーに戻って来た。

 トレーラーには大型のテレビがある為、他のファイターのバトルを観戦する為だ。

 トレーラーに入るとすでにアイラがバトルを終えて戻って来ていた。

 マシロはソファーに座るとアイラはマシロとの距離を取って座る。

 

「今日のバトルはどうだったんだよ」

 

 明らかに避けられているが、マシロはアイラの結果を聞いた。

 アイラとは開始時間が近い為、バトルの様子はリアルタイムで見る事は出来なかった。

 

「誰かさんのせいで負ける事が出来なくなりましたから、勝ちましたとも。それも速攻で」

 

 アイラはマシロと視線を合わせる事無く、明らかに棘の含んだ言い方をする。

 アイラの種目はテニスで最初のリターンで相手にボールをぶつけて戦闘不能にして勝って来ている。

 

「ハァ……取りあえず機嫌を直せって」

「別に機嫌が悪いと言う事はありませんが?」

「……分かった。俺が悪かった。今度、メシでも奢ってやる。それもこの国の名物でもある寿司をだ」

 

 アイラが怒った理由は分からないが、取りあえず謝る事にした。

 そして、アイラが寿司を奢ると言った時に微妙に反応した事をマシロの人並外れた目は見逃さなかった。

 

「それもただの寿司じゃなくて回転寿司とやらだ」

「……普通のとどう違うのよ?」

 

 アイラが多少なりとも食いついて来た為、この話題なら行けるとマシロは確信した。

 

「俺も食べる時は回ってない奴しか食べた事は無いが、ドッズライフルもビームを螺旋状に回転させる事で貫通力を高めているからな。寿司も回転させる事で何か上手くなるんだろう」

 

 マシロが寿司を食べる時は板前を呼び寄せている為、回転寿司を食べた事が無い。

 故に自分の中の知識として、そう考えるが実際はマシロが普段から食べている寿司は10年以上も修行を行って店を構えている一流の職人による物で、マシロが言う回転寿司が一般家庭でも気軽に食べられる物だと言う事はアイラは気づいていない。

 

「……しょうがないわね。マシロがどーしてもって言うなら、許してあげるわよ。でも、次に同じ事をしたら絶対に許さないから。後、回転寿司とやらにも連れてって貰うから」

「分かった。分かった。時間があるときにな」

 

 一先ず、アイラの機嫌は直ったようだ。

 そして、マシロは約束を時間がある時としておいた。

 

「次はメイジンか……」

 

 モニターにはメイジンのバトルの様だ。

 メイジンの種目は水泳で対戦相手のガンプラはズゴック。

 ズゴックは水陸両用モビルスーツである為、水中では有利に思われた。

 だが、メイジンのケンプファーアメイジングは水中とは思えないスピードでズゴックを振り切って勝利した。

 

「水中でケンプファーに負けるとかジオン水泳部も形無しだな」

 

 口では軽口を言う物の、作中設定において水中戦に対応していないガンプラでは水中ステージでの機動力は大きく低下する。

 だが、ケンプファーアメイジングは水中でも以前に戦った時と大して変わらない機動力を発揮している。

 これはケンプファーアメイジングが水中でも十分に戦えると言う事だ。

 ステージの特性上、どうしても動きが鈍る水中はマシロが最も苦手とするステージでもある。

 

「次はアイツらか……それにしても運ないな」

 

 テレビにはセイとレイジが映されている。

 横でアイラが心配そうに見ている事にマシロは気が付いていない。

 対峙しているファイターはタイ代表のルワン・ダラーラで種目は野球。

 ルワンのアビゴルバインが刺付きのバットを構え、セイとレイジのスタービルドストライクがグローブとボール型のボールを持っている。

 スタービルドストライクがボールを投げると、アビゴルバインはあっさりと打ち返した。

 ボールはファールだったが、勢いが付き過ぎてバトルシステムを飛び出して観客席まで届いていた。

 

「怪我でもしてんのか?」

 

 スタービルドストライクの一投目を見た感想がそれだ。

 今の一投はこの手の競技に慣れていないと言う事以上にいつものキレがなかった。

 動きからガンプラの方に問題がある訳ではないとしたら、ファイターの方の問題だろう。

 マシロの怪我と言う言葉にアイラは反応するも、マシロは気づいていない。

 

「勝てるの?」

「さぁな。怪我している上に競技と相手が悪い」

「そんなに凄いの?」

「ルワンは元プロの野球選手だからな。競技は相手の方が熟知しているからな」

 

 世界大会に出場しているファイターの大半は興味が無く、バトルする時にデータを把握すれば良い程度の相手だが、一部はそうもいかない。

 ルワンもその中の一人だ。

 去年の世界大会においても決勝トーナメントでマシロはルワンと当たっている。

 単純なファイターとしての実力は世界大会常連と言われているだけあって戦った。

 アビゴルバインのパワーは世界トップクラスである為、バトルした際に正面からぶつかり合うのは勝算が低いと判断して、徹底的にアビゴルバインのパワーを封じて完封した。

 その際にルワンの情報は頭に入っている。

 ルワンは元タイ代表の野球選手である為、野球に関しては二人よりも経験豊富と言うアドバンテージを持つ事になる。

 

「それに野球ってのは圧倒的に打者が有利なスポーツだからな。投手は一度投げてしまえば、ボールをコントロールする術はないが、打者は投手が投げてから捕手が取るまでにボールの回転や球種、軌道とかを把握する時間があるから、後はタイミングを合わせてバットを振るえば確実に打つ事が出来る。その上、投手は投げる場所は制限されている上に打者は最低でも2回はボールを見る機会がある」

 

 アイラもそこまで野球に詳しくない為、納得する。

 尤も、誰もがそんな事が出来る訳でも無い。

 投手が投げて捕手が取るまでの時間にそこまで見れるのは早々出来ない。

 それでも出来ると思っているのは自分が出来るからだ。

 常人離れしたマシロの目ならプロの選手が投げたボールを瞬時に見切り、タイミングを合わせる事は容易に出来る。

 だが、出来るのもそこまでだ。

 幾ら見切ったとしても、マシロの身体能力ではタイミングが分かっていようともバットを当てる事は出来ず、仮に奇跡的に当たったとしても前に飛ばす事も出来ないだろう。

 

「アイツ等に勝機があるとすれば、ルワンの打率が9割程度と大した事がないと言う事か……」

 

 マシロからすれば、野球は打者の方が圧倒的に有利なスポーツだ。

 それでもルワンの生涯打率は約9割となっている。

 10回に1回は打てないと言う事で、大したことはないと思っているが、実際のところプロの選手の平均的な打率が約3割だと言う事を考えるとルワンの打率は化物じみている。

 そして、スタービルドストライクの二投目をアビゴルバインは軽々と打ち返した。

 今度は観客席まで飛ばず、スタービルドストライクの正面だった。

 打球をスタービルドストライクはグローブで取るも、ボールごとスタービルドストライクの左腕が引き取んだ。

 これでボールを落としていれば、ルワンの勝利で取っていればセイとレイジの勝利となるも、ボールは衝撃で跡形もない。

 その為、試合は継続するようだ。

 

「怪我に対戦相手と種目に恵まれない……何者かの意志すら感じる。まるで、俺と同じステージに立つ為の試練の様だ」

 

 レイジの怪我に元プロ野球選手を相手に野球で勝負。

 二人に偶然で片付けるには余りある不運が連続している。

 それは、この窮地を乗り切る事がセイとレイジが自分の前に立つだけの資格があるかを試しているようだ。

 

「俺の前に立つに相応しいファイターであるなら勝って見せろ」

 

 カウントではルワンを追い込んでいる物の、状況は圧倒的に二人の方が不利だ。

 この2球でルワンも球筋を把握している。

 普通に投げたところで勝ち目はない。

 すると、スタービルドストライクが青白く発光する。

 

「これは……あれか……いや粒子の放出量が違う。まだ隠し玉があったのか」

 

 始めは粒子を大量に放出するディスチャージシステムかと思ったが、粒子を放出していない。

 光はスタービルドストライクの右腕に集まって行く。

 

「何だ?」

「多分……粒子を中に向けてるんだと思うけど……」

「内部フレームに粒子を……(コイツ……粒子が見えているのか)」

 

 ディスチャージシステムのようにマシロでも肉眼で粒子が見える訳ではないが、元から粒子を肉眼で見えるアイラにはスタービルドストライクが粒子を内部に集めていると言うのが見えていた。

 同時にマシロはアイラが粒子を見えていると言う事にも気づいた。

 ディスチャージシステムが外部に粒子を放出するシステムなら、RGシステムは内部に粒子を浸透させる事で機体の性能を底上げさせるスタービルドストライク第三のシステムだ。

 

「恐らくは機体強化系のシステムだろうが、使う粒子量から推測しても強化されるのは大した事は無いか」

 

 圧倒的な粒子を放出する事で爆発的な威力を発揮するディスチャージシステムに対して、RGシステムは使う粒子量が少ない。

 その為、ディスチャージシステムのようにアブソーブシステムと併用する必要はないが、その分、爆発力に欠ける上に内部に粒子を浸透させている分、放出させているディスチャージシステムよりも内部フレームにかかる負荷は大きい。

 尤も、使う粒子量が少ない上に、放出せず内部に浸透させている為、ディスチャージシステムよりも長時間安定して使える。

 汎用性を重視し、高い基本性能に加えて、アブソーブシールドによるビームへの圧倒的な防御力、ディスチャージシステムによる圧倒的な攻撃にRGシステムによる基本性能の向上させると言うのがセイの考えたスタービルドストライクだった。

 ある分野に特化させたマシロのガンダム∀GE-1が究極の特化機であるなら、スタービルドストライクはあらゆる分野で圧倒的な力を発揮できる究極の汎用機だ。

 しかし、ギリギリの接戦で使えば、流れを変える事が出来るが、この場面で使ったところでそこまでの効果はない為、RGシステムを使ったのは少しでも勝率を上げる為の苦肉の策だろう。

 

「後は執念だ。どちらがより勝利を望むかと言うな。こういう真向勝負の場合、勝利への執念が意外と勝利に影響して来る事が多いからな」

 

 RGシステムを使ったところでルワンの有利に変わりはない。

 だが、勝利への執念は戦局を変えうる力を持っている。

 この場面で新たなシステムを見せてまで勝とうとしている二人はそれ程、勝利への執念が強い。

 そして、運命の三投目が投げられた。

 何の戦略性もないど真ん中のストレートに対して、ルワンはいとも簡単にバットで捉える事が出来た。

 後はそれを振り抜いてスタンドにボールを運ぶだけだった。

 しかし、ルワンのアビゴルバインはバットを振り抜く事が出来ずにいた。

 RGシステムを右腕に集中させての渾身の一投は今までの二球とは比べものにならない程の重みだ。

 その重みこそはセイとレイジの勝利に賭ける執念なのだろう。

 ボールをバットに当てた物の、振り切る事が出来ずにアビゴルバインは遂にボールの勢いに負けて後ろまで吹き飛ばされた。

 後方のフェンスにアビゴルバインは叩き付けられる。

 

「それでこそだ」

 

 それにより試合の勝敗はセイとレイジの勝利となる。

 劇的な勝利に観客たちの歓声が沸きあがる。

 圧倒的に不利な状況からの勝利にマシロも満足げで、隣のアイラも胸をなでおろしている。

 試合終了後はスポーツらしく、セイとレイジはルワンと熱い握手を交わして第3ピリオドを勝ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

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