ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
半月以上もかけて行われて来た世界大会も残ったファイターは4人となっている。
ここまで圧倒的な実力で勝ち上がって来た前回優勝者のマシロ・クロガミ。
PPSE社のワークスチームと共に参戦し、マシロの対抗馬として勝ち進んで来た三代目メイジンカワグチ。
チームネメシスのナンバー2としてフィンランド予選でカルロス・カイザーを破って来たアイラ・ユルキアイネン。
大会最年少でありながら、プラフスキー粒子を応用する事の出来るガンプラで勝ち残ったイオリ・セイ、レイジ組。
「まさか、東京で君が戦った少年達がここまで勝ち上がって来るのは正直予想外だったよ」
「そうか? トーナメント表を見た時から私はこうなる運命を感じていたよ」
ベスト4を決めるセイ、レイジ組とニルスとのバトルが終わってすでに日も落ちている。
メイジンの次の相手はセイ、レイジ組と決まった。
アランも直接的な面識はないが、二人の事は知っていた。
タツヤがメイジンの名を継ぐ前に、ユウキ・タツヤとして地区予選に出ていたころの話だ。
タツヤがメイジンの名を継ぐ為に地区大会を辞退したが、その前に東京でやり残した事があると、東京に戻った事がある。
アランもタツヤのやり残したことが気になり、こっそりと様子を見に行った。
その時にタツヤは自身の通う聖鳳学園でセイとレイジとバトルしていた。
そのバトルからアランもタツヤが興味を持つ事は理解は出来た。
だが、そんな二人がここまで勝ち進んできたことは正直なところ予想外だ。
「マシロと戦う為に乗り越えなければならない最大の壁は彼らこそ相応しい。だが、ここまでの成長は僕の予想を遥かに上回る。それこそ彼らの拳はマシロに届くとすら思える程にね」
タツヤはそう感じていた。
元々高い制作技術を持っていたセイだが、世界大会を前にビルダーとしての壁を乗り越えて大きく成長した。
それにより生まれたスタービルドストライクとそれを完璧に扱うレイジ。
レイジもバトルの度にその実力を高めている。
「だから僕は彼らに勝ちたい」
成長をし続ける彼らを見て、その強さはタツヤはマシロと対等に戦う為に越えねばならないと思っていたが、決勝トーナメントの戦いを見て考えを変えた。
純粋に一人のファイターとした二人と戦い勝利したいと思うようになっていた。
それはマシロに抱いていた気持ちと同じ互いに高め合うライバルとして二人を見るようになっていたのだろう。
「その気持ちはビルダーとしても理解は出来る。そして、君とアメイジングエクシアならそれが出来ると信じている」
アランはビルダーだが、タツヤの気持ちも理解しているつもりだ。
ここまではメイジンカワグチとしてのバトルに徹する必要があるが、決勝トーナメントに残ったファイターを相手にそうもいかない。
すでに初戦のジュリアンや二回戦のフェリーニとのバトルでメイジンとしてではない地の部分を出している。
多少のメイジンとしてのキャラが崩壊しても、バトルに負ける位ならと上もそこまで言って来てはいない。
次のバトルも上辺はメイジンとしてのバトルを装いながらも、実際はユウキ・タツヤとして戦わねば勝てないだろう。
「それだけじゃ足りないんだよね」
「マシタ会長?」
語り合う二人にマシタが割って入る。
その後ろには黒服の男たちが待機している。
流石に激励の類ではないと空気で感じて、二人は警戒している。
「次のバトルだけはどんなことをしても勝って貰わないと困るんだよ」
「お言葉ですが、ガンプラバトルは互いの敬意を持って正々堂々と戦う物です。だからこそ、皆に愛され誇りとされるメイジンになりたい」
「だからそんじゃ勝てないんだよ。君がライバル視してるマシロ君を見てごらんを勝つ為なら手段を選んでないじゃん」
タツヤにとってはガンプラバトルは勝ち負けも重要ではあるが、前提として互いに敬意を持って戦うと言う事がある。
だからこそ、勝っても負けても相手を恨む事は無く、負けても次に勝とうと努力出来る。
そんなタツヤの主張をマシタは鼻で笑う。
同時にマシロの事を例に出されるのは余り気分が良いとは言えない。
マシロの戦い方は一見、正々堂々とはかけ離れているように見える。
だが、マシロはマシロなりにガンプラバトルと向き合った結果のバトルスタイルだ。
それを共にタッグを組んでタツヤは知っている。
確かに最近のマシロのバトルは今までとは違うようにも見えるが、マシロなりにガンプラバトルと向き合っているとタツヤは信じている。
「まぁ君と議論する気は無いんだよ」
マシタがそう言うと控えていた黒服の男たちはタツヤとアランを取り囲む。
そして、その後ろからチームネメシスでアイラのセコンドをしていたナイン・バルトが出て来る。
タツヤもアランもバルトの事はアイラのセコンドと言う程度でなら知っている。
だが、何故PPSEの会長であるマシタと一緒にいるのかは分からない。
バルトはアイラのセコンドをしながらも、独自にPPSEと極秘裏に接触を図っていた。
ネメシスもフラナ機関に出資をしているが、機関の最高傑作であるアイラはあくまでもマシロの保険程度としか見ていない。
それはフラナ機関としては面白くはない。
その為、ネメシスよりもフラナ機関の研究を高く評価してくれそうな相手としてPPSEを選んだ。
「君には悪いが、我らの研究成果の礎となり、あの糞ガキを倒す為に協力して貰おう」
「その仮面は一体……」
取り押さえられたタツヤは身動きが殆ど取れない。
バルトは仮面のようなサングラスを持ってタツヤに近づく。
そして、タツヤの意識はそこで途切れた。
ベスト4が決まり、準決勝は一日空いて行われる。
ここまで勝ち抜いたファイターの休養も兼ねてバトルシステムの完全メンテナンスの為だ。
一日置いてマシロとアイラのバトルが行われ、翌日にメイジンとセイ、レイジ組のバトルと言う予定だ。
「お前達を呼んだ理由は分かっているな」
会場のVIPルームの一つにチームネメシスのオーナーであるヨセフはバルトとアイラを呼び出していた。
ベスト4にチームのファイターが残った事でヨセフも孫のルーカスを連れて観戦に来た。
この場にはマシロやルーカスがいない為、呼び出された事に対してバルトは気が気では無い。
昨日、本格的にPPSEと接触をした昨日の今日で呼び出されたのだ、PPSEと通じた事がばれたのではないかと疑ってしまう。
「明日のバトルの事だ」
ヨセフの用件はPPSEと通じた事ではなかったと知ると顔には出さないものの安堵する。
だが、直接呼び出している以上は余り楽観も出来ない。
「明日のバトルのお前達の役目は上手くマシロに負ける事だ」
「負けると言いますと?」
「ルーカスはマシロの大ファンでないつもマシロが圧倒的な力で相手を倒すところを楽しみにしている。決勝を前にマシロを消耗させる訳には行かないのだよ」
話しはある意味単純な話しでもあった。
ヨセフからすればマシロが優勝しようともアイラが優勝しようともチームネメシスのファイターが優勝すると言う事に代わりは無い。
その為、準決勝で潰し合って互いに消耗させるのは得策ではないと言うだけの話だ。
そして、ルーカスは圧倒的な力を持って相手を叩き潰して来たマシロが勝つ事を望んでいる。
だから、アイラには負けろと言う。
「余り露骨では面倒な事になる。だからある程度は善戦して負けるんだ。無論、決勝に響くようなことは避けろ」
同じチームで片方が余りにもやる気のないバトルをすれば八百長が疑われる。
そうなれば双方が共倒れになり兼ねない。
だからこそ、ある程度は善戦しなければならない。
だが、同時に決勝に影響がない程度にしなければならない。
「分かったな。アイラ」
「……分かりました」
アイラに拒否する権限はない。
アイラも理由は理解出来る。
しかし、理解は出来ても納得は出来なかった。
マシロには何度も負けているが、今まで全力で戦った事は一度もない。
いつの間にか、アイラもファイターの思考に染まって来たのか、全力のマシロと戦ってみたいとも思ってはいる。
だが、指示に従わ無ければ、指示通りに負けたとしてもフラナ機関に対するヨセフの評価が変わり、ひいては自分の進退にも関わって来る。
「分かったら明日に備えろ」
「分かりました。行くぞ。アイラ」
バルトも大人しく従いこそするが、内心は面白くはない。
マシロの実力は認めざる負えないが、実力以上にヨセフは孫のお気に入りだからマシロを優先している。
結局のところ、フラナ機関の研究成果など始めからマシロが駄目だった時の保険程度にしか見ていないと言う事を改めて突き付けられた。
大人しく指示を聞いて、部屋を出るとマシロが待ち構えていた。
ヨセフがフラナ機関の研究を軽視する元凶の登場に舌打ちをした衝動に駆られるが、PPSEと通じていると言う事がばれない為にも余り印象を悪くする行為をする訳には行かない。
マシロを軽く一瞥して、バルトはさっさと歩いて行く。
「ボスに余計な事でも吹き込まれたんだろ」
マシロがそう言いアイラが立ち止まる。
マシロもヨセフが二人を呼び出した理由についてはある程度は予測しているようだ。
「マシロには関係ない事よ」
アイラがマシロに初めて作ったガンプラを見せた日以来、マシロとアイラはまともに口を聞いていない。
マシロの方が明らかにアイラの事を避けているからだ。
その時の事が原因でアイラの方もマシロに余所余所しい態度を取る。
「関係あるね。勝つ気のないファイターがバトルシステムの前に立つな」
勝つ気がないと言う所にアイラが反応した為、用件が予想通りであるとマシロは確信する。
今までにも何人もの挑戦を受けて来たが、誰しもが大なり小なりマシロに勝つ気で挑んで来ている。
だからこそ、マシロもそれなりの対応をして来た。
弱くても勝とうと言う意思があるなら、興味を持つ事は無くても一応相手はする。
しかし、始めから勝つ気のない相手とのバトルに価値はない。
「こっちの事情も知らないで……」
「知るかよ。だが、始めから勝つ意志がないなら消えろ。目障りだ」
アイラにはアイラの事情がある。
バトルに勝ったところで、ヨセフが納得するかと言えば納得はしないだろう。
ネメシスが優勝するのも重要だが、ルーカスがファンであるマシロが優勝する事も重要なのだから。
常に勝つ為にバトルしているマシロからすれば、負けなければならない事情など理解は出来ないだろう。
用件はそれだけなのかアイラの返事を聞く事無くマシロは部屋に帰って行く。
部屋に戻ったマシロはガンプラの調整に入る。
新型のガンプラは明日の準決勝には間に合わないが、部分的に部品は届いている為、ある程度は組み上がっていた。
現在の完成度は5割程度だがバトルで使う事も出来る。
尤も、完全ではない為、明日の準決勝はガンダム∀GE-1を使うつもりだ。
新型のガンプラの調整をしていると、電話がなる。
「俺だ」
電話を取りマシロは黙って聞いていると電話を切る。
「全く……流石に俺も堪忍袋の緒が切れたぞ」
マシロは調整途中の新型のガンプラを持って出かける。
ヨセフに呼び出されたバルトだが、その後はマシタと合流して実験に立ち会っていた。
実験の結果にマシタも大満足だ。
「圧倒的じゃないか!」
「ご満足いただけてないよりです」
マシタの視線の先にはメイジンカワグチが先ほどまでバトルをしていた。
相手はPPSEが抱えるファイターが数人で、かつては三代目のメイジンの候補とされていた実力者たちだ。
だが、メイジンはそんなファイター達を圧倒的な力で倒した。
対戦相手のガンプラは無残にも破壊され、一機のガンプラが残されている。
PPSEが総力を挙げて開発したアメイジングエクシアをフラナ機関が更に改造を加えたガンプラ、ガンダムエクシアダークマターだ。
改造に一日もかけていない為、元々のアメイジングエクシアから大幅な改造は出来なかったが、その禍々しさや性能は圧倒敵だった。
そして、メイジンの様子もおかしかった。
今までのバトルではここまで相手のガンプラを破壊する事のなかったメイジンだが、このバトルでは相手のガンプラを徹底的に破壊している。
「まさかアリスタにこんな効果もあったとはね」
「PPSE科学班の研究の成果です。プラフスキー粒子の結晶体であるアリスタは人の意識を増大させる」
「それを我らフラナ機関が研究したエンボディシステムを通すことで人の意識を支配する」
メイジンが付けられた仮面はアイラが普段のバトルで使用しているエンボディシステムを応用した物だった。
そして、マシタが持つプラフスキー粒子を結晶化した石、アリスタでマシタの意識を拡大させたうえでエンボディシステムを利用すれば人の意識を支配する事が出来る。
今のメイジンは完全にマシタの制御化にある状態だ。
「これなら明後日のバトルも……」
「何か面白い事やってるじゃん」
そう言って、メイジンの前にサングラスをかけたマシロが来る。
顔はサングラスで隠しているが、普段から身に着けている白いマフラーを付けている辺り素性を隠す気は無いらしい。
マシロは決勝トーナメントの組み合わせが明らかに意図的に仕組まれていると疑い探りを入れていた。
そして、探りを入れていたクロガミグループの手の者から情報が届いた。
レースの時のような関節的な妨害なら、力で捻じ伏せれば良いだけの事で一々気にも留めないが、今回の場合は無視は出来なかった。
マシロの登場にマシタやベイカー以上にバルトが動揺していた。
流石に裏切りを隠したまま、この場に居る事を説明する事は出来ない。
「俺の相手もしてくれない?」
マシロはサングラスを取って、挑戦的にメイジンを見る。
だが、メイジンはマシロに対して全く反応を見せない。
「何で彼がここに居るの!」
「それが……警備の者はクロガミグループから派遣されているらしく……」
マシロが出て来た時点でベイカーは警備の方に連絡を入れていた。
警備の人間もクロガミグループ系列の会社から来ている為、現総帥の弟には逆らえないらしく、マシロが正面から来ても黙って通して、その事を伝える事も口止めされていたようだ。
「良いではないですか、奴もバトルをする気のようですから、ここで叩きのめしてしまっても。そうすれば大人しくなるでしょう」
動揺していたバルトだが、同時にチャンスでもあった。
バルトにとってはマシロは色々と予定を狂わされた元凶でもある。
その相手をここで倒すことが出来れば憂さも晴れる。
「それしかないでしょう。この事は公になれば私達は破滅です」
ベイカーもバルトの意見に賛同する。
流石にメイジンを洗脳までしてバトルに勝とうとしていた事が公になれば、PPSEを追われるだけでは済まない。
完全に警察沙汰にされる。
だが、マシロにバトルで勝ってこの事を口止めすればまだ、何とか出来るかも知れない。
「早いところ始めようぜ。俺は明日もバトルがあるんだ」
マシロはバトルシステムの前に立つとガンプラを置いた。
今まで使っていたガンプラではなく、今年の世界大会用に新しく用意した新型のガンプラだ。
ガンダム∀GE-1のベースとなったガンダムAGE-1の後継機であるガンダムAGE-2をベースとしている。
胴体部はガンダムAGE-2 ノーマルの物を使用しているが、両腕と手持ちの武器はガンダムAGE-2 ダークハウンドの物で下半身はガンダムAGE-2 ダブルバレットの物となっているが、まだ未完成である為、仮の部品で組み立ててある。
見た目にこそ出ていないが、マシロが独自に作らせた金属粒子が練り込まれた特殊プラスチックでできている。
内部にはリュックが設計した内部フレームを使用しより格闘戦に特化し、ベースであるガンダムAGE-2の変形も差し替え無しで再現されている。
そして、マシロのパーソナルカラーである白で塗装されているのがマシロの新しいガンプラであるガンダム∀GE-2だ。
「さぁ……行くぞ。ガンダム∀GE-2」
マシロの準備が出来たところで、準決勝を前にベスト4の二人のバトルが始まる。
ガンダム∀GE-2がバトルフィールドに出た瞬間に真上からダークマターが蹴りかかる。
通常はある程度の距離が離れたところからバトルは始まるが、事前にバトルシステムの設定が変更されて、ダークマターは始めから真上と取れるようになっていた。
開始早々の攻撃をガンダム∀GE-2はドッズランサーで受け流す。
「悪いけど、それは前に俺がやってる事なんだよ」
ダークマターを受け流したガンダム∀GE-2はドッズランサーのドッズガンを連射する。
ダークマターはビームを回避しながらダークマターライフルで応戦する。
ガンダム∀GE-2はストライダー形態に変形して変わると、ビームバルカンとドッズガンで弾幕を張りながら突撃する。
モビルスーツ形態に変形して、ドッズランサーを突き出して、ダークマターは腰のブライクニルブレイドで受け止める。
「で、ずいぶんとキャラ変わりしたみたいだけど?」
マシロがメイジンに話しかけるもメイジンは何も返さない。
互いに押し合っていたが、ブライクニルブレイドを鍔迫り合いをしていたドッズランサーが凍り出す。
「だんまりかよ」
強引にダークマターを弾き飛ばしてドッズランサーを振って表面の氷を取る。
「相手を凍らせる剣か……ならもう片方の剣にも何かしらの能力を持ってるって事か」
ガンダム∀GE-2はドッズガンを連射しながら、ダークマターに接近する。
ドッズランサーの突きとブライクニルブレイドで受け止めると、もう片方の剣、プロミネンスブレイドを抜きながら振るう。
その一撃を回避するも、プロミネンスブレイドから炎が発生して、斬撃をかわしたガンダム∀GE-2を襲う。
「そっちは炎の剣か」
炎から飛び出て来たガンダム∀GE-2は全くの無傷だった。
普通のガンプラならかなりの損傷を受ける炎だが、特殊プラスチックで出来ているガンダム∀GE-2にとっては大したダメージを受ける事は無い。
「ならこっちは電気の鞭だ」
ガンダム∀GE-2は肩のアンカーショットを取ると発射する。
ダークマターはブライクニルブレイドで弾くとGNバルカンを連射しながら距離を詰めてプロミネンスブレイドを振るう。
ダークマターの攻撃を回避しながら、ガンダム∀GE-2はドッズランサーを突き出して、ダークマターはブライクニルブレイドで受け止めると、ドッズランサーを凍らせようとする。
「以外と厄介な武器を持ってるな」
プロミネンスブレイドは炎によって剣よりも間合いが広い為、回避しづらい。
ブライクニルブレイドは凍らせる為、ドッズランサーで長時間の鍔迫り合いが出来ない。
炎と氷の剣は接近戦ではかなり厄介な武器だった。
そして、ダークマターはプライクニルブレイドとプロミネンスブレイドを構えてガンダム∀GE-2に向かう。
2本の実体剣を巧みに操りダークマターは攻撃する。
「関節狙いか」
ガンプラにおいて最も脆い場所は関節部分だ。
だからこそ、メイジンは関節部分を徹底的に狙う。
「そんなに関節を狙いたいなら」
ダークマターの攻撃を回避していたガンダム∀GE-2だったが、プライクニルブレイドの左ひじ関節への攻撃を避ける事は無かった。
関節は最も脆いところである上に格闘戦を重視しているガンダム∀GE-2にとっては最も負荷のかかる部分と言う事もあって、関節部に使用されている特殊プラスチックは最も硬い物を使っている為、関節部へのブライクニルブレイドの攻撃は傷をつける事すら出来なかった。
攻撃をかわさずに受けた事でガンダム∀GE-2はドッズランサーを突き出す。
ダークマターは頭部ギリギリのところで回避するが、至近距離からドッズガンを頭部に撃ち込んだ。
「案外と硬い」
至近距離からの攻撃ではあったが、ドッズガン自体の威力は低く、ダークマターも並のガンプラよりも頑丈である為、頭部を破壊しきれなかった。
だが、ダークマターの頭部のマスクに皹が入る。
「なぁ。タツヤ……ずいぶんとつまらないバトルをするようになったな。俺の真似でもしてんのか?」
マシロは語りかけるもタツヤは反応しない。
今までのタツヤのバトルは一言でいえば正攻法だった。
常に相手を正面から受け止めた上で勝つ戦い方をしていた。
だが、今は意図的に最も脆い関節を狙って来たりとあの時の面影はない。
関節部を狙う事をマシロは否定しない。
マシロも必要があれば迷う事無く関節狙いをする。
しかし、それはタツヤのやって来たガンプラバトルではない。
「そんなやり方で本気で俺に勝てるとでも思ってんのか? 邪道な戦い方なら俺は絶対に負ける気はしないぞ」
タツヤの戦い方が正攻法の王道ならば、マシロの戦い方は正反対の邪道だ。
相手の弱点を探しては徹底的につく事も相手が実力を発揮させない方法があるのならマシロは勝つ為に迷わずやる。
ルールや一般的な倫理さえ守ればどんな手を使っても勝ちに行くマシロは同じ土俵でなら相手が誰であろうと負ける気はしない。
「けど、違うだろ? お前のバトルは馬鹿みたいに優等生だったよ。とても俺には真似出来ないバトルだ」
マシロからすれば相手を正面から相手をするのはそれが勝つ為に最善と判断した時だけだ。
だが、タツヤは常に正面から相手を受け止めている。
それはマシロには到底真似のできない戦いだ。
「こんな戦いで満足か? お前が欲しかった力はこれか? やりたかったバトルはこんなバトルかよ!」
タツヤがメイジンカワグチの名を継いでまで欲しかった力もやりたかったバトルもマシロは知らない。
タツヤの考えは分からないが実際に戦ったから分かる。
これがタツヤが望んだバトルではないと言う事はだ。
「っ!」
今まで、マシロの言葉に対して無反応だったタツヤだが、遂にマシロの言葉に反応した。
「相手のガンプラを一方的に蹂躙して破壊する! そんなバトルの中にお前の大義があるのかよ! お前のバトルはそんなんじゃないだろ! 」
「っ……!」
マシロの言葉に明らかにタツヤは動揺を見せていた。
だが、ダークマターはトランザムを起動して一気に加速する。
「答えろ!」
ダークマターの攻撃をガンダム∀GE-2はドッズランサーを使って確実に弾く。
「タツヤ……分かった。俺がお前を止めてやる!」
ダークマターの攻撃を防いでいたガンダム∀GE-2だったが、青白く光り始める。
「プラフスキーバースト!」
ガンダム∀GE-1の時から搭載されてはいたが、その出力からガンプラへの負荷が強すぎて動くだけで自壊して行く欠陥システムだった、バーストモードだが、武器に集中させる事で一初限りの使用は可能となった。
ガンダム∀GE-2は全身が特殊プラスチックとなっている為、バーストモードを全身で使っても負荷に耐えるだけの強度を確保していた。
バーストモードを起動したガンダム∀GE-2はトランザムを使っているダークマターに肉薄する。
ガンダム∀GE-2の槍とダークマターの剣がぶつかり合う。
「お前を歪ませているのがそのガンプラなら俺が破壊してやるよ! 俺の新しい力で!」
ガンダム∀GE-2がダークマターを蹴り飛ばす。
ダークマターはダークマターライフルで反撃するが、ガンダム∀GE-2はリアアーマーのビームサーベルを貫くと投擲する。
ビームサーベルはダークマターの右腕に突き刺さる。
ダークマターライフルごと右腕を失ったダークマターは左腕のGNバルカンで牽制するが、ガンダム∀GE-2は構わず突っ込む。
ドッズランサーの突撃でダークマターの左腕は肩から破壊されると、ガンダム∀GE-2は肩のアンカーショットを手に持たせると、ダークマターの頭部に引っ掛けてワイヤーを使って背後に回り込むとビームサーベルでバックパックのダークマターブースターごとダークマターの腹部に突き刺した。
流れるような鮮やかな手際にメイジンは抵抗すら出来なかった。
だが、マシロの攻撃はこれで終わらない。
ストライダー形態に変形すると、頭部にアンカーショットがダークマターに引っかかっているのにも関わらず一気に加速する。
アンカーショットのワイヤーが限界まで伸びきるとダークマターも引っ張られて行く。
そして、モビルスーツ形態に変形すると、アンカーショットのワイヤーを一気に引き戻す。
ダークマターは抵抗できずに勢いよくガンダム∀GE-2の方に向かって行く。
ガンダム∀GE-2もワイヤーを引き戻しながら引き寄せられるダークマターに突っ込む。
「この……馬鹿野郎!」
バーストモードを使っているガンダム∀GE-2は全身から今までのようにドッズランサーの先端に粒子を集める。
そして、引き寄せられるダークマターに向けてドッズランサーを突き出した。
ワイヤーに引き寄せられる勢いと、ガンダム∀GE-2が突っ込む勢いの二つが合わさった一撃がダークマターの胴体にぶつけられる。
もはやボロボロだったダークマターはその一撃を耐える事は出来る訳もない。
ガンダム∀GE-2の一撃でダークマターは胴体から粉砕された。
最後、ガンダム∀GE-2がダークマターを破壊するまでにかかった時間は1分にも満たない約55秒と言う短い時間での決着と言う事もあってバトルを見ていたマシタ達は唖然とするしかない。
「……僕は一体……」
ダークマターが破壊され、タツヤにつけられていた仮面が連鎖的に破壊された事でタツヤも正気に戻ったようだ。
「また、俺に負けただけだ」
「……そうか。君に助けられたようだね」
「別に……俺はただこういうやり方は気に入らないだけだ」
タツヤは記憶のある最後の状況と今のこの状況から何となく状況を察する事が出来た。
「さて……」
タツヤが正気に戻り、マシロはマシタ達の方を向く。
このバトルにさえ勝てればどうにかなると踏んでいたが、結果はマシロの勝利に終わった。
明らかに三人はマシロに対してビビッている。
「今日のところは見逃してやる。次に同じことをやって見ろ。殺すぞ」
マシロの脅しにマシタはただ頷く。
マシロの目はそれも辞さないと語っていた。
実際のところ、ここでマシタを殺しても構わないとマシロは思っている。
マシロにとっては後2回が全うなガンプラバトルが出来る機会だ。
それをこんな形で汚して来たのであれば、殺すだけの理由になる。
例え、それがこの国の法を破る事になっても構わなかった。
殺したところでクロガミグループの力を使えば殺人を隠ぺいする事など容易だ。
だが、大会期間中にPPSEの会長が行方を暗ませると大会の進行に支障を来しかねない。
だからこそ、今回限りは見逃すことにする。
「マシロ。その辺にしておくんだ。余り穏やかな話しでもないし」
タツヤがマシロを制止した事で、マシタ達も安堵するが、タツヤもいつもの温和な表情よりもメイジンとしての厳しい表情のままだ。
「マシタ会長。貴方の思惑はどうあれ、私は必ず勝ちます。余計な真似はこれ以上は止めて頂きたい。これ以上やると言うの出ればこちらも相応な対処をさせて貰う」
「分かった! 分かったから! もう余計な事はしないから、二人してそんな怖い顔をしないでさ!」
マシタは二人に必死で頭を下げる。
その勢いは次に土下座をしそうな勢いだ。
マシタからすれば、マシロを敵に回したくはない。
マシロを敵に回すと言う事はひいてはクロガミグループを敵に回すと言う事だ。
PPSEがガンプラバトルやプラフスキー粒子関連の技術を独占している大企業と言ってもクロガミグループが本気で牙を向けば数日で潰されてしまう。
それだけは避けたい。
「それとナイン・バルト。何でお前がここにいんの?」
「いや……それはだな……」
今まで二人の怒りの矛先はマシタに向かっていたので、隙を見つけて逃げようとしていたバルトだが、マシロの矛先が遂に自分の方を向いた。
この状況では何を言っても誤魔化すことは出来ない。
「まぁ良いや……お前も俺の邪魔すんなよ」
だが、マシロはバルトがここに居る理由に興味はない。
ただ、自分のバトルの邪魔をしなければ別にバルトの思惑はどうでも良かった。
「んじゃ俺は帰る。用も済んだし」
「ああ……今日は助かったよ」
「だから俺は気に入らないからぶちのめしただけだ」
「そう言う事にしておくよ。先に決勝で待っていて欲しい。僕も君に続くから」
あくまでもマシロは自分がやりたかったからやったと言う事と言い張る。
タツヤもマシロがそう言うなら、そう言う事にしておく。
結果的にマシロに助けられたが、マシロがそう言い張るならタツヤは礼を言わない。
言葉での礼などマシロは望んでいないからだ。
この事で礼が出来るのであれば、それは次の準決勝で全力でセイとレイジと戦う事だ。
そのバトルでどちらが勝ったとしてもマシロの決勝戦は最強のファイターとのバトルとなる。
それが何よりのマシロへの礼だからだ。
マシロがタツヤとバトルしている頃、レイコはアイラの部屋を訪れていた。
アイラはマシロとのバトル経験が豊富ですでにガンダム∀GE-1の隠し玉は使い切っている為、決勝トーナメントで最も厄介な相手とも言えた。
すでにヨセフの方からアイラとバルトに負けるように指示を出した事は伝わっており、それとは別に一つ手を打ったもののより確実に勝つ為の切り札が必要と感じていた。
その為、勝つ為に少しでも有利となる情報を得る為に、徹底的にアイラの身辺情報を集めた。
最近の同行からフラナ機関での事、それ以前の情報に至るまでアイラの過去を徹底的に調べ尽くした。
そこでフラナ機関にスカウトされる前にアイラが孤児院に居た事を掴んだ。
それ自体はどうでも良い情報かと思ったが、その孤児院にレイコは注目した。
アイラが過去にいた孤児院は今でこそは潰れているが、その孤児院はマシロがクロガミグループの養子になる前にいた孤児院と同じだと気付いた。
時期的にマシロとアイラが同じ孤児院で生活したいた事はすぐに分かると流石にその関係性を調べずにいられなかった。
結果、二人は実際のところはともかく、孤児院では兄妹と言う事に辿り付いた。
今までを見る限りではマシロはともかく、アイラの方はその事実には気づいていないように見えた。
その情報をマシロが引き取られた時の状況を合わせると、単なる過去がレイコにとっては切り札をなった。
「……何か用ですか?」
アイラは少し警戒していた。
レイコとはチームの参謀でマシロの姉と言う認識はある物のそれ以上の関わりはない。
ヨセフから負けるように言われた後で、レイコが自分の部屋を訪ねて来る理由に見当はつかないが、良い理由でない事は確かだ。
「少し話しがあるのだけども、良いかしら?」
「ええ……まぁ」
怪しいが流石にバトルを明日に控えて変な事はしないだろうと、警戒を解く事は無いが、アイラはレイコを部屋に入れる。
「それで……私に何か?」
「会長から話しを聞いているわね」
「負けろと言う事ですか? 会長の指示ですから従います」
負けろと言う指示の確認でアイラはうんざりする。
つまりは確認を取る程、自分は信用されていないのだろう。
「良かったわ。万が一の事があっては困るわ。貴女にとっても。貴女もお兄さんを殺したくは無いものね」
「……え」
アイラは一瞬、レイコの言葉が理解出来なかった。
「何を……」
「知らなかったの? 私はてっきり……余りにも仲が良かったからマシロも本当の事を貴女に話しているのばかり……」
レイコはてっきり、マシロから聞いて全てを知っていると思っていたと装ってその事実を話す。
「そんな訳が……マシロが……だって」
アイラは更に混乱する。
アイラにとっての兄は自分達よりもガンプラを選んだ憎むべき相手だった。
対するマシロは今でこそは距離を取られているが、何だかんだで慕っていた。
その対極に居る二人が同一人物であるととても信じられない。
「だって……あの人は私達を捨てて……」
「そんな事は無いわ!」
レイコはアイラの言葉を否定する。
マシロがクロガミ一族に引き取られた経緯や孤児院が潰れた経緯などを知れば、ある程度は予想できた事だ。
「マシロは貴女達を捨てた訳じゃないわ。寧ろ貴方たちの為に……」
「どんな理由があったって……」
「当時のクロガミグループはガンプラバトルが世界的にヒットする事を予想してガンプラバトルの才能を持った子供を探していた。そこで目を付けられたのが貴女のお兄さんのマシロなの。それで私達の父はマシロをお金で買ったの。マシロも孤児院の為に自ら……」
「そんなの……嘘よ」
今まで自分達を捨てたとして恨んでいただけあって、すぐに信じる事が出来なかった。
だが、考えてみれば、マシロが引き取られてから孤児院は金に余裕が出来たのか孤児院の改築や勉強道具や遊び道具が充実した。
それがマシロが自分を売った事による物だとすれば納得が良く。
尤も、レイコの言った事は起きた事を都合よく言ったに過ぎない。
「だって……お兄ちゃんは……」
混乱するアイラを余所にレイコは目的を果たした為、部屋を出て行く。
(これで明日の仕込みは万全)
わざわざレイコが真実を軽く捻じ曲げてアイラに伝えた事でアイラは明日のバトルは精神的にはボロボロだろう。
後は自分が真実をアイラに伝えたと言う事がマシロの耳に入るかどうかだ。
少なくとも明日のバトルまでにアイラが落ち着くと言う事は考え難い。
バトルさえ始まってしまえば後はもう一つの仕込みでどうにでもなる。
(後、二つ……後二つ勝てばこんな面倒な事からも解放される)
世界大会は後2回のバトルで終わる。
だからこそ、レイコもここで強引な策を取れる。
残り少ないなら、強引な事をしても大会が終わるまでに面倒な事になり難い。
準決勝を確実に勝つ為の最後の仕込みを終えたが、ここで油断してしまっては元も子もない。
レイコはギリギリまでアイラの過去の戦闘データから対策を用意する為に自分の部屋へと戻って行く。
マシロが帰ってから、タツヤもマシロに破壊されたガンプラを修理する為に解放されたアランと共に作業に戻った。
バルトも流石に居辛い為、チームの方に戻ったのかそこ場にはいない。
マシタもベイカーと共に自分用に用意した部屋に逃げ帰った。
「全くもう! 何で邪魔が入るかな!」
「流石に彼の介入は予想外でした」
ベイカーも邪魔が入らないように警備を厳重にしていたが、その警備が全く意味を成さないマシロが出て来る事は正直予想外だ。
「ほんとだよ! 最近の若者は何を考えてるか分かった物じゃないね!」
マシロやタツヤがいなくなったところで、マシタの怒りは爆発している。
「ご安心を。次なる手はすでに考えてあります」
「ベイカーちゃんは本当にそればっかり! 本当に本当に大丈夫なんだよね! 次は余計な邪魔が入らない完璧な策なんだよね!」
「ええ。もちろんです。今までのは相手の出方を窺う威力偵察に過ぎません。次の作戦こそ本命……」
「何か面白そうな話しをしてんじゃん」
今まで二人切りだと思っていたが、突如、第三者が話しに割り込んで来る。
話しが話しだけに警備だけではなく部屋にロックをかけて部外者が簡単に入って来れる事もないはずだった。
「ななななななんで!」
「うわ……流石にそこまで驚かれるとこっちもびっくり」
マシタは第三者、クロガミ・ユキネを見た瞬間に顔を青ざめてトランザムを使ったの如くベイカーの後ろに隠れる。
「何でここに居るかって言うとうちの子が勝ち進んでいるみたいだから応援に来たに決まってるわ」
ユキネがそう言うが、本当かどうかは怪しい。
去年もマシロは優勝しているが、ユキネは応援になど来ていない。
ユキネがその気になれば異世界からでもすぐに飛んで来る。
「そのついでに昔の知り合いに挨拶に来たのに……傷つくなぁ」
「それで……今日はどのようなご用件で?」
ユキネに付き合っていては完全にユキネのペースになり兼ねない為、ベイカーが決死の覚悟で用件を聞き出す。
「用もないと会いに来ちゃ駄目な訳でも無いじゃん。強いて言うなら確認かな? 私との約束はしっかりと守っているかのね」
その言葉にベイカーも青ざめる。
ユキネの言う約束とはプラフスキー粒子に関する事だ。
かつて、マシタとベイカーが出会い事業を始めようとした時にどこからともかく、ユキネが湧いて出て来た。
その時にマシタが持っていた石、アリスタを勝手に研究を始めた。
その後、アリスタを粒子化した物がプラスチックに反応すると言って来た。
情報と引き換えに、その粒子はある特定の目的以外に使わないと約束させた。
その粒子は今ではプラフスキー粒子と呼ばれ、特定の目的と言うのがガンプラバトルだ。
「あの人はいないけど、しろりんがガンプラバトルをやっている以上は約束は守って貰うわ」
自分の研究成果を自分だけの物にする事で有名なユキネだが、それを捻じ曲げてまで粒子を一般的に広げさせたのは、キヨタカの為でもあった。
キヨタカが昔からガンプラが好きと言う事もあって、ユキネがマシタの持っていたアリスタから作ったプラフスキー粒子はガンプラを実際に動かせることが分かった。
それだけの為に粒子をマシタに広げさせた。
今はキヨタカは死んでいるが、マシロがガンプラバトルをやっている限りはその約束は守らせる必要があった。
「もちろんだとも! 僕が約束を違える訳がないじゃないか! あはははは!」
「そうよね。変な事に粒子を利用しようだなんて思ってないわよね」
マシタはつい先ほどまで完全にユキネとの約束を破った使い方をしていた。
そんなタイミングでユキネが現れたと言う事はその事を知っての事だと生きた心地がしない。
「それを聞いて安心したわ。これで私はしろりんの応援に専念できるわ」
ユキネは嵐のように去って行く。
「……会長。次の策はメイジンを信じると言う物です。やはり不正な方法で彼らを排除する事は人道に反します」
「……うん。それが良い」
ユキネが大会が居る以上は下手に動けば、ユキネの逆鱗に触れかねない。
会場にはクロガミグループの現総帥であるユキトも来ていると言う以上、下手に動けば隠しておきたい事実が明るみになるだけではなく、完全に身の破滅もあり得る。
後は、次の準決勝で実力でセイ、レイジ組が負けるのを願いしかなかった。
タツヤとのバトルから帰ったマシロはベッドに倒れ込む。
普通に戦っていたように見えて、ガンダム∀GE-2はマシロが全力で扱う事を前提に作られている。
その為、マシロの反応速度に合わせてガンプラが反応する。
少しでも気を抜けば簡単に操作をミスしそうな程だった。
「こいつは凄いガンプラだ」
ガンダム∀GE-1に特別不満を持っていた訳ではないが、ガンダム∀GE-2は申し分ない性能を持っている。
それでもまだ未完成である為、完成系はそれ以上の物が出来上がる事になる。
「明日はアイラとのバトルか……初めてだな。アイツを本気でバトルするのは」
今までにもアイラとは何度もバトルをしている。
だが、アイラは自分が貸したガンプラを使い、マシロも練習である為本気を出していない。
明日のバトルは決勝行きがかかっている為、マシロも今までとは違い全力で勝ちに行くつもりだ。
考えてみればマシロは孤児院に居た時もアイラと本気でぶつかった事は一度もない。
当時から気の強かったアイラと喧嘩になる事は何度もあったが、本格的に喧嘩になる前にマシロが折れていた。
「俺もアイツも遠くまで来たもんだ」
ほんの10年程前はこんなことになるとは思ってもみなかった。
あの時は貧しくても、家族や友達がいる生活がずっと続くかと思っていた。
「最初はただ……」
過去を懐かしんでいたが、マシロはそこで止まった。
それ以上を考えようとしても何も出て来ない。
「俺は……何がしたかったんだっけな」
今となってはそれを思い出すことも出来ない。
考えようとすれば頭痛によって遮られる。
その内、考えないようにしていた。
最初はどうあれ、今の自分には昔の何も出来なかった頃とは違うと自分に言い聞かせてだ。
「明日のバトルで何か分かりそうな気もする」
漠然とだが、そう感じていた。
今までバトルの度に感じていた虚無感に今年の世界大会に限り、それが無かったが決勝トーナメントからは再発している事も全てがだ。
そして、自分が何がしたかったのか。
全ては明日のアイラとのバトルの中で分かる気がした。
そんなマシロとアイラの運命の一戦が遂に幕を開ける。