ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
世界大会ベスト4が決まり、決勝を賭けた準決勝の第一試合の当日となる。
第一試合は前回の優勝者のマシロとフィンランド代表のアイラのバトルだ。
どちらもここまで殆ど順当に勝ち上がって来ただけあり、注目されている。
バトルシステムの前に両者が揃うが、双方は対象的だった。
マシロ側はマシロの方は相手に特に興味を示すこともなく、ガンプラの最終確認を行いながら、レイコと軽く確認をしている。
一方のアイラ側はヘルメットで顔を隠してはいるが、アイラはどこか落ち着かないように見える。
セコンドに付いているバルトもどこか居心地が悪そうにしている。
アイラは昨夜にレイコに言われた事で未だに自分の中で整理が付いていない。
バルトもバルトでマシロにPPSEと繋がって来た事が知られている。
今のところ告げ口はされていないが、いつ暴露されるか気が気ではない。
だからと言って、アイラのセコンドとして来ないとヨセフに怪しまれかねない。
両者の準備が終わったところでバトルが開始される。
準決勝第一試合のバトルフィールドは廃コロニー内だ。
コロニー内ではあるが廃棄されたと言う設定がある為、無重力空間となっている。
だが、コロニー内と言う事もあってコロニーの外壁である程度の広さはある物の行動範囲が通常のバトルよりも制限されている。
「どこに居る」
バトルフィールドに入るとすぐに相手の位置を探る。
アイラのキュベレイパピヨンはファンネルを多数持っている。
重力の無いバトルステージなら重力下よりもファンネルは使い易い。
その上、ファンネルはガンプラよりも圧倒的に小さい為、普段よりも注意しなければならない。
「正面か」
相手の位置が分からない為、ファンネルによる奇襲を警戒していたが、キュベレイパピヨンは正面から仕掛けて来る。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルで牽制の射撃を行うが、キュベレイパピヨンは最低限の動きで回避する。
ある程度、距離を詰めたところでキュベレイパピヨンも左手のビームガンを撃ちながらランスビットを構えて突撃して来る。
それをガンダム∀GE-1 セブンスソードはCソードで受け止める。
「ただの突貫か?」
キュベレイパピヨンの周囲を警戒するが、周囲にファンネルの類は見られない。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンを蹴り飛ばしてショートドッズライフルを連射する。
キュベレイパピヨンは何とか回避しながらビームガンを撃つ。
「どうした? アイラ!」
「何でも……」
(どういう事だ。数値は安定していると言うのに……)
今日のアイラは明らかにいつもと違うとバルトも感じていた。
昨日、負けろと言われた事が原因なのか、マシロとのバトルが原因なのかは分からないが、動きがバルトですらも分かる程におかしい。
だが、精神的な事ならば、エンボディシステムの数値に異常が出る筈だが、数値は正常だと表示されている。
「とにかく、このままでは露骨に負けたと思われるぞ」
「……分かってます」
キュベレイパピヨンはファンネルを数基射出する。
ファンネルはビームを撃ちながらガンダム∀GE-1 セブンスソードに向かって行く。
「この程度なら」
ガンダム∀GE-1 セブンスソードは十分にファンネルと距離を取って胸部のビームバルカンで軽く弾幕を張って対処した。
射出されたファンネルの数が少なかった事もあって、出されたファンネルを掃討するのに時間はかからなかった。
だが、それはアイラも分かっていた事だ。
マシロを相手に幾らファンネルを出しても意味はない。
なら、マシロの注意を一瞬でも逸らせる最低限のファンネルを使って、その隙に距離を詰める事が狙いだ。
キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近すると、ランスビットを突き出す。
しかし、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕のシールドで受け止める。
ランスビットを受け止められたが、この程度の事は分かっていた事だ。
キュベレイパピヨンは掌をガンダム∀GE-1 セブンスソードに押し付ける。
その状態からビームガンを放つ。
完全にゼロ距離の攻撃だが、掌を押し付けてからビームを撃つ僅かな間に体を反らしてビームはかわされた。
「馬鹿な!」
ガンダム∀GE-1 セブンスソードは体を反らした反動で、キュベレイパピヨンを蹴り飛ばす。
(何でだろうな……何で、今日のバトルは……)
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルでキュベレイパピヨンを牽制する。
(こんなにつまならいんだよ)
マシロはバトルをしながらそう考えていた。
実力差のある相手の場合は実際のバトルの中でいかにミスをしないかと言う練習の一環程度だが、一度もつまらないと感じた事は無い。
だが、このバトルははっきりと思ってしまった。
つまらないと。
(俺はこんなバトルがしたがったんじゃない……俺がしたかったのは……)
完全にマシロはバトルに集中せずに別の事を考えていた。
それでもキュベレイパピヨンの動きに対応して攻撃しているのは、長年に培って来た経験が故なのだろう。
だが、明らかに普段の動きとは違うが、アイラも戦う事に迷いを感じている為、動きがいつもとは違う事もあって、踏み込んで来る事も出来ない。
(俺が本当に欲しかったのは……)
バトルの中でマシロは思い出していた。
初めてガンプラに触れた日の事を。
あの時のガンプラは今ではアイラの手に渡り、改造されて自分の前に敵として立ちふさがっている。
イオリ・タケシと出会いガンプラを知り、やがてプラフスキー粒子の発見によりガンプラバトルが始まった。
それを知ったマシロもガンプラバトルの道に足を踏み入れる事になった。
その時の事を思い出していて、あの時の同じ気持ちが蘇って来る。
そして、それこそがマシロが今まで心の奥底で望んでいた事でもあった。
「なんだよ……そう言う事だったのかよ……俺はただ……」
初めてガンプラバトルをした日の事を思い出した事で、マシロは知ってしまった。
自分の本当の望みに。
(俺はただ……アイラにカッコいいところを見せたかっただけだ)
それがマシロがガンプラバトルを始めたきっかけだ。
ガンプラバトルだけじゃない。
マシロが何かを始めるきっかけは大抵は同じだった。
ただ、アイラの前で恰好を付けたかっただけだ。
何も取りえのないマシロはいつもアイラの前で情けない姿しか見せた事は無かった。
当時のアイラもマシロの事は兄でありながら、完全に舐めきっていた。
だからこそ、兄の威厳を見せる為に何かを始めようとした。
しかし、何をやっても駄目だと分かるとすぐに止めてしまった。
不思議とガンプラバトルは長続きしたが、一度も勝つ事は出来なかった。
それでも、自分に才能があると言って貰えたことで、ガンプラバトルならアイラの前でカッコいい兄でいられると思い、キヨタカの養子となった。
今までのバトルで感じていた虚無感はバトルに勝ってもアイラが見ていないと意味がなかったからだ。
二代目メイジンのバトルは今年の予選ピリオドで感じなかったのはアイラが見ていたからだ。
(けど……それはもう……叶わないじゃないか)
マシロはただアイラの前で恰好を付けたかっただけだ。
だが、それは叶わない事だ。
すでにマシロは自分から捨ててしまったからだ。
どんなに望んでももう戻る事は無い。
(なら……俺はもう、戦えない)
自分の望みを自覚した事で、マシロは無意識の内に孤児院を出る際にアイラから貰った白いマフラーに手をかけていた。
そして、自分の望みはもう叶わない事に気づき、マフラーから手が離れる。
その際に、マフラーがずれてやがて、マフラーはマシロの首から落ちた。
「マシロ!」
レイコが叫び、バトルシステムを挟んだアイラとバルト、そして、会場の観客達は目を疑った。
マシロは完全にバトルシステムの操縦桿から両手を話していた。
これでは、ガンプラを操作する事が出来ない。
先ほどまで攻撃していたガンダム∀GE-1 セブンスソードもまるでパイロットが乗っていないかのように漂っている。
全てを気づいた今、マシロには戦う理由もなければ意志すらも残されてはいなかった。
「何やってるの!」
完全に戦意を失ったマシロは虚ろな目をして、レイコの言葉にも反応しない。
そんな状態で、アイラも思わず手を止めている。
距離もあり、バトルシステムを挟んでいる事もあって、アイラにはマシロの状況は完全には把握できない。
だが、マシロに戦う意志がないと言う事は分かった。
それに気づいた時に湧き上がったのは憎悪だった。
バトル中に戦う事を放棄した事に対する憎悪、何も本当の言わずに孤児院から去った憎悪、今まで知りながらも黙っていた憎悪。
様々な憎悪がアイラの感情を支配して行く。
「何よ……偉そうな事を言っておいて!」
キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近するとランスビットで殴りかかる。
完全にマシロの手を離れたガンダム∀GE-1 セブンスソードはランスビットで殴られるままだ。
「馬鹿にして!」
「これは……システムが暴走しているのか!」
幾らなんでもアイラの様子がおかしいとバルトは感じ、その原因に心当たりがあった。
エンボディシステムの暴走だ。
エンボディシステムは使い方次第ではマシタがタツヤに対して行ったように人の精神に作用する。
タツヤに使った時同様にここには大量のプラフスキー粒子がある。
それによりアイラの感情は遥かに増幅した事で、アイラは自分の感情を抑える事が出来ずに暴走したのだろう。
「だが……数値上は問題は……」
明らかにアイラはシステムを暴走させているが、数値上は問題はない。
暴走の危険性がある為、システムの状況はバルトの方で監視して、暴走しないように調整している。
だが、数値上は異常はないのは当然だ。
レイコがそうなるようにすでに細工しているからだ。
アイラの事を探る過程で素性よりも先にフラナ機関の研究成果であるエンボディシステムの存在に辿りついていた。
エンボディシステムの事を大会運営にリークすれば一発でアイラを不正行為を行ったとして失格にする事は出来た。
しかし、それではマシロは納得しない為、リークは出来なかった。
その変わりにエンボディシステムを調べていくうちに暴走の危険性にも気づいていた。
レイコは隙を見計らいエンボディシステムに細工して、バトル中に徐々にシステムの出力を上げて暴走するように仕組んだ。
バルトが気づかないように数値の上では常に正常だと表示する細工も同時に行った。
暴走の他にもレイコはエンボディシステムの危険性として、暴走すればアイラが精神崩壊する危険性も知った上で暴走させた。
これは後になって気づいたマシロとアイラの関係をアイラに暴露した時に後で、自分から情報が漏れたと言う事をマシロが知らないようにアイラの口を封じる事に一役買っている。
このバトルの後にアイラがどうなろうとも、レイコには関係なく、アイラが精神崩壊しようともその罪はバルト達フラナ機関が被ってくれる。
「何で……何でアンタが!」
キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードをランスビットで滅多打ちにする。
ただ殴っているだけが幸か不幸かガンダム∀GE-1 セブンスソードは中々壊れはしない。
やがて、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはコロニーの外壁まで殴られながらも移動し、壁に到達しても殴られるづける。
余りにも一方的な暴力を前に観客達も静まり返っている。
「アイ……ラ?」
今まで完全に戦意を喪失していたマシロもアイラの異変に気が付いたようだ。
「何が……どうなって」
「分からないわ」
レイコはアイラが暴走したのだと気付いていたが、知らない振りをする。
「今のアイラはシステムに乗り込まれて暴走している!」
「システムに……機体に飲み込まれたのか」
完全に暴走したアイラをバルトの方からは止める事が出来ず、マシロの方に助けを求める事にした。
このままでは全世界にフラナ機関の行いが明るみになりかねない。
そうなれば、完全に身の破滅だからだ。
この際、マシロだろうと頼れるなら頼るしかない。
「どうすれば彼女を止められるの?」
「キュベレイパピヨンがシステムと連動している。キュベレイパピヨンを破壊すればあるいは……」
ある程度の事はレイコも分かっていたが、何から何まで分かっていると、流石に後から疑われかねない為、バルトに説明させた。
「聞いての通りよ。マシロ。彼女を止める為にはあのガンプラを破壊するしかないわ」
「あのキュベレイを俺が……」
変わり果てた姿になっても、あのキュベレイはマシロにとっては初めてのガンプラだ。
それを自らの手で破壊する事には抵抗がある。
自分で操作するなら多少は壊れる事も気にしないが、流石に自分自身の手で練習用に組み立てたガンプラ以外を破壊する事は初めてだ。
「……分かった。俺がやる」
自分の望みを知った事で、戦う意味を無くしたマシロだが、最後にやる事が残されていたようだ。
ここでキュベレイパピヨンを破壊してアイラを助ける事がマシロに残された最後の戦う理由だ。
(俺の最後に初めて作ったガンプラを自分で破壊するか……俺に似合いの最後じゃないか)
マシロは一度は手放した操縦桿を握る。
(これが俺のラストバトルだ)
キュベレイパピヨンがランスビットを振り下ろすが、マシロが再び操縦桿を握った事でガンダム∀GE-1 セブンスソードが息を取り戻して受け止める。
そして、ショートドッズライフルの銃身でキュベレイパピヨンを殴って、怯んだところを足で押し返す。
多少の距離が出来たところで胸部のビームバルカンで牽制する。
キュベレイパピヨンは両腕で防ぐ。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはショートドッズライフルを放って接近する。
Cソードを展開して振いキュベレイパピヨンはランスビットで受け止める。
「アイラ! これ以上は止めろ! 今のお前はガンプラに飲み込まれてる!」
「うるさい! 今更!」
キュベレイパピヨンは強引にガンダム∀GE-1 セブンスソードを弾き飛ばすとビームガンを連射する。
「勝手にいなくなって! なのに!」
キュベレイパピヨンはファンネルをありったけ出すと、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに差し向ける。
「何でアンタが!」
全方位からの攻撃をガンダム∀GE-1 セブンスソードは全て紙一重でかわしながらCソードを振るってファンネルを切り裂く。
「何でなのよ!」
「こいつは……」
大量のファンネルを相手にしていたガンダム∀GE-1 セブンスソードだが、スラスターを使って強引にファンネルの群れから抜け出すとショートドッズライフルを放つ。
その射線には何もない筈だが、爆発が起こる。
「こんな物まで仕込んでいたのか」
キュベレイパピヨンのファンネルはベースとなったキュベレイと同じタイプ以外にもう一つ持っていた。
クリアパーツで作る事で肉眼では殆ど見えないクリアファンネルだ。
そのクリアファンネルを通常のファンネルと同時に使用する事で存在を誤魔化していたが、ギリギリのところでマシロは気づいた。
だが、その間にキュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードに接近してランスビットで攻撃して来る。
大量のファンネルと同時にクリアファンネルを使った事で、マシロの注意は殆どがファンネルに向いていた為、反応が一瞬遅れた。
それでも、マシロは対応して何とか胸部の装甲で受ける事は出来た。
しかし、今まで殴られ続けていたと言う事もあって、胸部装甲がランスビットに貫かれた。
幸い、本体までは貫通しなかったが、胸部装甲は使い物にならない為パージする。
「アイラ!」
「うるさい! アンタが全て悪いんじゃない! アンタが!」
キュベレイパピヨンは出鱈目にランスビットを振るう。
それを確実に防ぐ。
「ああ……そうだな。全部、俺が悪いんだろうな。今更どうする事も出来ない。お前が俺を恨むのも当然だ。恨みを晴らしたいなら好きにすればいいさ……けどな。ガンプラをそんな事には使うな!」
「こんな物が無ければ! 私が全てを失う事もなかった! こんな物が!」
キュベレイパピヨンがファンネルの全方位攻撃とビームガンによる同時攻撃を行う。
流石にガンダム∀GE-1 セブンスソードもかわし切れずに被弾して行く。
「そうだな。俺もお前もガンプラで何もかも失った。だけど、ガンプラがあったからこそ得た物だってある筈だ! 俺がそうだったみたいに!」
マシロもアイラもガンプラがきっかけでいろんな物を失った。
だが、マシロはガンプラがあったからこそ、キヨタカと出会う事が出来た。
血は繋がらずとも、息子として可愛がられて来たからこそ、今を捨てきれずにいた。
それはガンプラが無ければ決して得ることが出来なかった物だ。
「そんな物ない!」
全方位からの攻撃でガンダム∀GE-1 セブンスソードは次第に損傷が目立ち始めている。
「こんな物があるから!」
(何だ……この声……)
「何……何で……こんな時にアイツの声が……」
暴れるように攻撃していたキュベレイパピヨンの動きが止まる。
そして、急にアイラは観客席の方を見渡す。
大勢の観客達で個人の区別は殆ど出来ないが、アイラにははっきりとレイジの姿が確認できた。
同時に頭の中にレイジの声が響いていた。
(お前……)
(レイジ……)
アイラ自身何故このような事態になったのか理解は出来ないが、レイジの方もアイラの声を聴いているようだ。
以前、マシロはユキネからユキネ曰く異世界から持ち帰ったと言う石をアイラにあげていた。
その石こそがプラフスキー粒子の結晶体であるアリスタで、レイジもまたアリスタを持っていた。
そして、アイラの暴走やタツヤの洗脳時のように人の精神に反応して、石同士が共鳴して意識が繋がった。
(お前がアイラ・ユルキアイネンだったのか)
(何が起きてるのよ……何でアイツの声が!)
アイラとレイジは度々、顔を合わせていたが、互いに名乗る事は一度もなかった。
アイラの方はレイジの事を知っていたが、レイジの方は名前やアイラがガンプラバトルをしている事など全く知らなかった。
多少は前向きにガンプラバトルをやるようにはなったものの、根本的な部分でガンプラに対しての憎しみを持っていた事もあって、レイジには自分がガンプラバトルをやっている事を知られてたくは無かった。
(見ないで!)
(何で……お前)
(見ないで!)
(そんなに辛そうにバトルしてんだよ!)
決して知られてたくは無かった秘密を知られた事でアイラは半狂乱になる。
そして、その矛先は今、バトルしているマシロに向けられた。
キュベレイパピヨンのランスビットの乱打を受け止めていたCソードはやがて耐え切れなくなりヒビが入って行く。
「さっきから何が起きてんだよ」
「何で! 何でなのよ! アイツもアンタも! こんな物に!」
キュベレイパピヨンの一撃がCソードを破壊して、ガンダム∀GE-1 セブンスソードの胸部に突き刺さる。
胴体を貫通したランスビットはガンダム∀GE-1 セブンスソードの背中まで貫通する。
「アイツ?」
マシロはアイラが半狂乱になる前に、観客席を見渡していた為、観客席を見る。
常人よりも優れた目を持つマシロはすぐに気づく事が出来た。
レイジがセイや仲間と共にこのバトルを見ている事に。
そして、レイジはこっちに向けて何かを叫んでいるようにも見える。
流石に読唇術までは使えない為、レイジが何を言っているか分からないが、単純な応援と言う訳ではないと言う事は分かった。
「良くわからんが……」
胴体を貫かれたガンダム∀GE-1 セブンスソードはランスビットを握って引き抜かれないようにする。
「アイラ、お前にだってあっただろ? ガンプラで得た物が」
「違う! 私は全てを!」
「それでも! 得た物はある! それに目を向けろよ! 過去に囚われたまま戦ったって何も戻りはしない!」
「うるさい!」
キュベレイパピヨンはガンダム∀GE-1 セブンスソードを串刺しにしたまま、外壁に叩き付ける。
「失った物は二度と戻らない! だからお前は過去も捨てて全部忘れてやり直せ! もう、あの日は二度と戻って来ないんだよ。そんな可能性は捨てちまえ!」
アイラがガンプラに全てを奪われたと憎みながらも、マシロから貰ったキュベレイを捨てずに持っていたのは、マシロが過去に未練を持っていたと同じように未練があったのだろう。
だが、どんなに待っていたところで、あの日が戻って来る事は無い。
マシロ自身がそれを一番、良く知っている。
すでに孤児院は無く、院長もこの世にはいない。
共に暮らした仲間も散り散りで、一部はテロを企てて掴まっている。
マシロも、クロガミの名を捨てる事はキヨタカの息子である事を捨てなければならない為、捨てる事が出来ない。
アイラが望む、あの日は二度と戻って来る事は絶対になかった。
「それが捨てられないから苦しいんじゃない! アンタが私の前に現れなかったら、アイツと出会わなかったら……憎むだけでいられたのに!」
今まではガンプラと憎んで、自分達を捨てた兄を憎んでいれば良かった。
だが、今となっては今までのように憎めずにいた。
「憎むんなら俺だけにしろ! 俺がお前の憎しみを全て受け止める! だから、その憎しみを全て吐き出せ!」
ガンダム∀GE-1 セブンスソードは左腕のシールドでキュベレイパピヨンを殴り飛ばす。
ランスビットはガンダム∀GE-1 セブンスソードを貫いたままで、ガンダム∀GE-1 セブンスソードが握っている為、刺さったまま手放すことになる。
「うっ……ああああああああ!」
アイラは叫びながらファンネルで集中砲火を浴びせる。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードは被弾し、装甲がボロボロになって行く。
だが、胸部を貫いていたランスビットを自ら引き抜いた。
「そのキュベレイがお前を縛る過去の未練なら俺が破壊する!」
腰のビームサーベルを抜いて、近くのファンネルを切り裂く。
ファンネルをビームサーベルで切り裂きながら、ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンに向かって行く。
キュベレイパピヨンは両手にビームサーベルを持って迎え撃つ。
「過去を清算してお前は前に進め」
キュベレイパピヨンがビームサーベルを突き出すが、ギリギリのところでガンダム∀GE-1 セブンスソードはかわしてビームサーベルでキュベレイパピヨンの腕の肘の関節部から切り落とす。
「進めない俺の変わりに!」
ファンネルのビームからシールドで身を守るが、シールドも限界を迎えて破壊される。
「お前は俺のようにはなるな!」
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはキュベレイパピヨンに向かうが、ファンネルに阻まれる。
ファンネルのビームがガンダム∀GE-1 セブンスソードの片足を吹き飛ばすが、同時にファンネルをランスビットで潰す。
「今まで一人で耐えて来たんだ。お前はもう……一人じゃない!」
キュベレイパピヨンに迫ろうとするが、ファンネルが数基、行く手を遮る。
ガンダム∀GE-1 セブンスソードはバーストモードを起動する。
ガンダム∀GE-1ではその負荷に耐え切れない為、部分的に集中させていたが、今回はガンダム∀GE-2の時同様に全身に使っている。
機動力を上げて強引にファンネルを突破するが、ファンネルを突破する際にファンネルと接触した。
それによってファンネルを破壊するもガンダム∀GE-1 セブンスソードの装甲が一部吹き飛んだ。
「ああああああああああ!」
キュベレイパピヨンはビームガンを連射する。
そのビームが何発か、ガンダム∀GE-1 セブンスソードに直撃し、腰から下が吹き飛び、頭部も半分が抉れる。
それでも尚、ガンダム∀GE-1 セブンスソードは止まらない。
胴体への直撃コースを左腕で防いで左腕が吹き飛ぶ。
「もう……苦しまなくても、憎まなくても良いんだよ……だから、もう止めろ!」
ガンダム∀GE-1 セブンスソードは最後の力でキュベレイパピヨンにランスビットを突き刺す。
その反動でガンダム∀GE-1 セブンスソードも肘の関節が壊れて右腕はランスビットを持ったまま、本体から離れる。
だが、マシロの最後の一撃はキュベレイパピヨンを貫いていた。
(お兄ちゃんの……ガンプラが……)
そして、キュベレイパピヨンは爆発を起こした。
爆発をまともに受けたガンダム∀GE-1 セブンスソードは爆発が晴れると、残っているのは胴体だけだ。
そんな状態ではその辺りに漂っている残骸と何も変わらないが、キュベレイパピヨンは完全に破壊されている為、バトルシステムがマシロの勝利を告げた。
バトルが終了し、アイラは破壊されたキュベレイパピヨンの残骸を見ながら次第に意識が薄れていった。
そのまま、アイラはバトルシステムに覆いかぶさるように倒れた。
それを見て、会場のスタッフは慌ただしくアイラに駆け寄り救護班を出すように指示を出している様子をマシロは遠巻きに見ていた。
アイラが倒れた事で、会場中の注目はそっちに向いていた。
「終わったな。俺の最後のバトルが」
マシロは誰に気づかれる事も無く、そっとメインスタジアムを後した。
準決勝第一試合が終わり、日が傾き始めた頃にアイラは会場内の病院で目を覚ます。
窓からは夕日が見ている。
バトルは午前中だったと言う事を考えると、最低での数時間は寝ていた事になる。
「よっ。起きたか」
「……何でいるのよ」
病室にはレイジが座ってアイラが起きるのを待っていたようだ。
だが、バトル中に謎の現象によって自分がファイターだと言う事を知られてしまい顔を会わせ辛い。
「覚えてないのかよ。お前、マシロに負けた後にぶっ倒れたんだぞ」
アイラが聞きたい事はそう言う事ではないが、一々訂正する気力も無い為、そのままにしておく。
「それより。これ、どこで?」
レイジの手にはマシロから貰った石があった。
「マシロから。マシロはお母さんから貰ったけど、それが何なのよ」
「ふーん。まぁ良いか」
石自体は早々出回るような物でもないが、そこまで出所に興味がある訳でも、あの時の現象の事に興味がある訳ではない。
あの時、レイジ程ではないが、同じ石を持っていたセイも声を聴いたらしい。
一緒にいたマオやニルス達は聞こえなかった事から、レイジとセイが持っていたアリスタが原因らしいと言う事は分かるが、それ以上はニルスも分からないと言っていた。
セイ曰く、この手の意識共有はガンダムでは珍しい事ではないらしいので、実際にも起こる時は起こると言う事にしておいた。
「で、疲労と寝不足だってよ」
アイラが倒れたのはエンボディシステムの暴走による物ではない。
それ以前にシステムは暴走はおろか起動すらしていなかった。
レイコは事前に細工して、暴走するように仕向けた後にユキネによって更に細工されて、システムが起動しているように見えても実際には全く起動していないように細工された。
バトル中に暴走して、アイラの精神が崩壊したり、死んだりした場合、それを目の当たりにしたマシロの心がそれを受け止めきれずに壊れると危惧しての事だ。
暴走しているように見えたのは、レイコの言葉で精神的に不安定となっている上に、その事で寝不足による疲れが更に精神的に追い詰めて、止めに勝つ気がないなら消えろとまで言っていたマシロがバトル中にバトルを放棄した事でアイラはブチ切れただけの事だった。
キュベレイパピヨンが破壊されてバトルが終わった事がきっかけで、アイラも心身共に限界だったことで倒れた。
だからこそ、数時間点滴を打って寝ただけで回復している。
「んな事よりも、本題だ。何でファイターだって事を隠してたんだよ」
レイジにとっては石の出所や、謎の現象などはどうでも良い事だ。
それ以上にアイラがファイターだと言う事を隠していた事の方が重要だ。
アイラが自分の名前を知っている時に大会に出ていたからだと言っていた。
レイジもファイターだと知りつつもアイラは隠していた。
その理由を知りたかった。
「……嫌いだったのよ。ガンプラが」
知られてしまった以上は、隠す必要もない。
アイラは事の始まりから全てレイジに話す。
長い話しになるが、レイジは普段の喧嘩越しの態度ではなく、黙ってアイラの話しに耳を傾けた。
「成程……要するにアレだ。アイラはその兄貴の事が大好きだって事だろ」
「は? 何言ってんのよ! 今の話しからなんでそう言う事になるのよ! ばっかじゃないの!」
孤児院に居た頃から話しを始めてようやく終わったが、レイジが感じた事はアイラが思っていたような事とは全く違った。
それをアイラは真っ赤になって否定する。
「だってそうだろ。大好きな兄貴が自分よりもガンプラを取ったから、自分から兄貴を奪ったガンプラの事を嫌ってたんだろ?」
レイジが聞いた話しを要約するとそうなった。
アイラがガンプラを嫌う理由はガンプラのせいで全てを失った訳ではなく、自分達よりも兄がガンプラを選んだからガンプラを嫌ったとレイジは感じた。
つまりは、アイラはガンプラよりも自分達を選んで欲しかったと言う訳だ。
「……そうかも知れない」
「それで兄貴の事もね……気持ちは分からん事もないけどよ。ちゃんと言ったのかよ。行かないで欲しいってさ」
アイラはレイジの言葉に返すことも出来なかった。
マシロが引き取られる日、皆でマシロを見送った。
マシロは周りと比べると勉強も運動も出来ず、それをからかう事もあったが、それでも孤児院の子供たちからは家族として思っていた。
孤児院の皆もこのまま孤児院に居るよりも、お金持ちの家に引き取られた方がマシロも幸せになれると思い笑顔で送り出した。
アイラも周りがそう言い、その方が良いと思っていた。
しかし、本心では一緒にいて欲しかった。
確かに勉強も運動も出来ないマシロだが、いろんなことに挑戦し、例え、勝てなくても必死にガンプラバトルで勝とうとする後ろ姿はアイラにとっては何よりもかっこよく見えた。
だからこそ、ガンプラバトルに興味が無くてもマシロに連れていかれた時も文句を言いながらもついて行った。
「何だ……そんな簡単な事で良かったんだ」
たった一言、「行かないで」と言うだけで良かった。
素直にその一言が言えれば全てが変わったかも知れない。
「そう言うこったな。いつか会った時にはきちんと話してガンプラバトルでもすれば仲直りは出来ると思うぞ」
「かもね」
マシロならそうだろう。
何も知らなかったとはいえ、アイラはマシロと行動を共にしていた。
その時に、マシロがどれだけガンプラバトルに打ち込んでいるかを嫌と言う程見て来た。
だから、正面から向き合いバトルをすれば少しは今までのわだかまりが解ける気がした。
「取りあえず、元気そうだから。俺は帰る。明日は俺もバトルだからな」
「レイジ……ありがとう」
アイラのお礼にレイジは一瞬固まった。
今まで、会った時は大抵は喧嘩をしていた。
今日はアイラが倒れたと言う事もあって、喧嘩をする気は無かったが、礼を言われるとは思ってなかった。
「おう……そう言えば、ここに医者が言ってたけど、起きたなら退院しても良いってよ」
元々、アイラは過労で倒れたような物だ。
点滴を打って寝たら退院しても問題はない。
「分かったけど……流石にこれじゃ行くところはないわね」
ヨセフの指示ではマシロとのバトルに負ける事だった。
その指示は果たすことが出来たが、前提条件とした決勝に影響がないようにだ。
だが、アイラはマシロのガンプラを思いっきり破壊している。
最後の方は記憶が曖昧だが、少なくともすぐに修理出来るレベルではない事は確かだ。
予備のガンプラを使ったとしても、全く同じように作っても、使い込んだガンプラとの違いは微妙に出て来る。
実力があればあるほど、その微妙な違いに敏感になる。
そこまで破壊してしまった以上は負けても意味はない。
「そうなのか? だったら俺のところに来るか?」
「は……?」
今度はアイラが固まった。
それを見て、レイジは首を傾げる。
「つっても、明日のバトルに負けちまったら出てかないといけないんだけどな。負ける気は無いけど」
そこでアイラは理解した。
レイジが来るかと誘ったのは自分達のホテルの事だ。
事情を知らないレイジからすれば、負けて今日中には荷物をまとめてホテルの部屋を開けないといけない。
すでに夕方となっている為、今から近くでホテルを取る事も難しいと思っていた。
だから、今晩くらいは自分達の部屋にアイラを泊める気だったらしい。
尤も、アイラはホテルに泊めて貰うと言う意味ではなく、大会後も含めて自分のところに来るかと思ってしまったらしい。
「……じゃあ今日だけ、お願いするわ」
誤解が解けたことで、アイラは深く考えてはいなかったが、レイジの部屋に泊めて貰うと言う事は今晩はレイジと共に一夜を過ごすことだとはこの時は気づいてはいなかった。
その後、ホテルの自分の部屋の荷物をまとめてアイラはレイジの部屋に厄介になる事になった。
日が落ちて会場の観客達も泊まっているホテルや家に帰り会場は昼間の賑やかさを失っている。
それでも屋台が出ている為、ある程度の人はいた。
そんな中、マシロは一人歩いていた。
帽子を深くかぶり伊達眼鏡をしているだけで、誰もマシロがいると言う事に気が付かない。
それにより、結局のところ、自分がいたのはその程度の場所だったと言う事に思い知らされる。
(悪いな。タツヤ。今度は俺が約束を破る事になる……だけど、俺にはもう戦う意味を理由も無いんだよ)
アイラとのバトルで自分の望んでいた事にマシロは気が付いた。
同時にそれが二度と得ることが出来ないと言う事にもだ。
それに気づいたマシロは完全に折れた。
もはや、ガンプラバトルの事はどうでも良い。
決勝戦に出なければクロガミ一族に居る事すらも出来ないだろうが、それでも構わなかった。
今まではクロガミ一族に居る事はクロガミ・キヨタカの息子である事だったが、それもアイラから貰ったマフラーと同様に過去に対する未練でしかない。
親の事を殆ど覚えていないマシロにとってはキヨタカだけが唯一の父だった。
そんな父の期待に応えようと思って強くなろうとした。
今となって思えば、心の奥底で自分の望みが叶わないと知った事で代わりに父の期待に応えたかったと思う。
それすらも、叶わない。
だから、ガンプラバトルもクロガミ一族の事もマシロにとっては何の価値もない物にしか見えなくなった。
(だから……俺はもう戦えない。そこに居る資格もない)
戦う意志を失ったマシロにこれ以上のバトルは出来ない。
アイラに言ったように勝つ意志が無ければ、世界大会の決勝と言う舞台に上がる資格もない。
ならば去る事しかない。
(さようならだ)
クロガミ一族を出たところでマシロに行く当てがある訳でも無い。
一応は最低限の準備はしていたが、それも長くは続かない。
いずれは資金も尽きれば、食糧の確保も出来なくなり野垂れ死ぬだけだが、それも今の自分に相応しい最後だとも思っている。
ここから去る事を誰にも告げては来なかった。
マシロは誰からも気づかれる事無く、世界大会の会場から行方を暗ませた。