ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
世界大会準決勝第二試合のメイジンカワグチVSセイ、レイジ組のバトル中に起きた大型アリスタ暴走事件はスタービルドストライクが大型アリスタを破壊した事で集結した。
大型アリスタが破壊された事で、周囲のプラフスキー粒子が舞っていた。
「結局、しろりんは来なかったわね」
大型アリスタを破壊してバトルしていたファイター達は一息つく中、ユキネは一人つまらなそうにしていた。
元々、大型アリスタが暴走したのはユキネが細工したからだ。
全てを知ってバトルから離れたマシロをガンプラバトルに引き戻す為だ。
大型アリスタが破壊されたところでマシロが戻って来なければ意味はない。
「まぁ、興味深い物も見れたから別に良いけど」
ユキネの見立てでは、戦力差が1万倍と言う絶望的な状況下でファイター達が勝つ事は不可能ではないが、限りなく不可能に近かった。
だが、彼らは勝った。
「後は好きにしたら良いわ」
マシロが戻らない以上、ユキネに取ってはガンプラバトルは何の価値もない。
ユキトが好きに使っても別に構わない。
「私はもう少し向こうでやりたい事もあるしね」
ユキネはそう言って、誰に気づかれる事無く姿を消した。
ユキネが消えた事に誰一人気づく事は無かった。
バトルが終わって落ち着いた頃に、マシタが悲鳴を上げて、一同の視線がマシタに向く。
大型アリスタの暴走の後でさほど驚く事ではないが、マシタが次第に透けていた。
「いっ嫌だ! せっかくこっちの世界で成り上がれたのに! ユキネちゃん! 何とか!」
マシタは自分の体が透けている意味に気づいていた。
元々、アリスタはアリスタ同士共鳴し合う事が出来る。
大型アリスタが暴走し、破壊された事でマシタが持っていたアリスタも壊れてしまった。
アリスタによってアリアンからこちらの世界に転移している為、アリスタが壊れてしまった事もあって、マシタはアリアンに戻されるのだろう。
マシタにとってはアリアンに戻れば罪人として捕まり罰を受ける事になり兼ねない。
王家の宝物庫からアリスタを持ち出した事は重罪だ。
下手をすれば死罪もあり得る。
その上、こちらの世界では世界的企業のPPSE社の会長と言う社会的な地位も獲得している。
それを失いたくはないが為に最後の望みであるユキネに頼ろうとするも、すでにユキネの姿はない。
「会長!」
騒動が収まってベイカーがマシタと合流しに来たが、マシタの姿が消えていく最中だった。
ベイカーはとっさにマシタに手を伸ばした。
そして、ベイカーの手がマシタに届いた瞬間にマシタはベイカーと共に姿を消した。
目の前で人が姿を消した事は流石に皆も驚いているが、レイジだけは驚く事もなかった。
軽く自分の腕輪に視線を向けるとタツヤの方を向く。
「まだ、俺達のバトルの決着はついてないぜ」
「アンタはこんな時に何言ってんのよ!」
アイラの言葉を無視して、レイジはタツヤの前に立つ。
「まさか、このままお流れって事はないよな?」
「……確かに。このまま有耶無耶にするのは気が進まないな」
大型アリスタを破壊した今、誰も口にしないがガンプラバトルに必要なプラフスキー粒子を生成する事が出来なくなった。
そうなれば、いずれガンプラバトルが出来なくなる。
そうなる前に、準決勝の決着を付けたかった。
「だけど、レイジ……僕達のガンプラは」
セイはレイジにスタービルドストライクを見せる。
大型アリスタを破壊するまでにスタービルドストライクは大破している。
とてもすぐに修理出来るレベルではない。
「たく……なら俺のフェニーチェのパーツを貸してやるよ」
フェリーニは自分のガンダムフェニーチェリナーシタの両腕をセイに渡す。
「フェリーニさん」
「なら、僕の戦国アストレイの足も使って下さい」
今後はニルスが、戦国アストレイの両足を差し出す。
「なら、ワイからはハイパーサテライトキャノンをお貸しします」
「流石にそれは……」
「冗談ですって。流石にそう簡単にワイのガンダムX魔王のハイパーサテライトキャノンは扱いこなせませんからね」
マオがセイにシールドバスターライフルを渡す。
「全く……これで少しは身を守る事が出来るでしょ」
アイラはサザビー改で唯一、まともに使えそうなビームナギナタの付いたシールドを渡した。
仲間たちから受け取ったパーツをスタービルドストライクにつけていく。
それによって不格好ならがもバトルが出来そうだ。
「イオリ君! これも使って!」
「委員長!」
息を切らしながら、チナが自分のベアッガイⅢに付いているリボンストライカーをセイに手渡す。
「なら、最後は俺のビギニングだな」
レイジは初めて自分で作ったビギニングガンダムの頭部をスタービルドストライクに取りつけた。
最終的に大型アリスタを破壊する際に破損した部分は仲間のガンプラによって補う事が出来た。
「こっちのガンプラの準備は出来たぜ」
「僕の方も問題はないよ」
タツヤの準備が終わり、セイとレイジはバトルシステムを挟んでタツヤと対峙する。
タツヤはバトルフィールドにケンプファーアメイジングを置いた。
先の戦闘ではアメイジングエクシアの損傷はすぐに直せる程度だ。
それでも、タツヤは準決勝はケンプファーアメイジングで臨むと決めていた。
ここで、ガンプラをアメイジングエクシアに変更しても、セイもレイジも文句は言わないだろう。
だが、あのバトルで大型アリスタが暴走しなければ、バトルに負けていたかも知れない。
そんな状況でガンプラを変えないのはタツヤなりのケジメなのだろう。
ケンプファーアメイジングは準決勝での損傷を最低限の修理と両腕にトランザムGNブレイドを装備させているだけだ。
「行くよ。イオリ君! レイジ君!」
「行くぜ!」
バトルフィールドはフォレストでバトルが開始された。
「なぁ……セイ、溜まんないよな! ガンプラバトルはよ!」
「そうだね」
ケンプファーアメイジングが見えて来たところで、スタービルドストライクはマオから借りたシールドバスターライフルで先制攻撃を行う。
それをケンプファーアメイジングは最低限の動きで回避する。
「でも、多分、それはお前と一緒だからだろうな」
「レイジ?」
セイはレイジの様子が少しおかしいと感じた。
まるで、このバトルがレイジとの最後のバトルかのようだ。
「うん。僕もレイジに会えたから今、ここに居る」
「そいつは違うな。俺もガンプラを作って見たから分かる。お前の作るガンプラは本当に凄いぜ。こんなガンプラが作れる奴はガンプラが好きで好きで堪らないから出来るんだろうな。そんなお前ならいつかは俺やユウキと同じところまで来れる」
「僕にはそんな事は……」
「ガンプラが好きなら諦めんなよ」
ケンプファーアメイジングがトランザムGNブレイドを振るい、スタービルドストライクはシールドバスターライフルを捨ててビームナギナタで受け止める。
「そんでさ……いつかバトルしようぜ。俺とお前で」
ケンプファーアメイジングに押し切られて、スタービルドストライクは後方に飛び退きながらもビームバルカンで牽制する。
「レイジ……」
「約束だぞ。絶対にいつか一緒に……」
バトルが進む中、レイジの姿も次第に薄くなって行く。
マシタのアリスタが壊れたようにレイジが持っていたアリスタも壊れていた。
それによりこちらの世界に留まれなくなったようだ。
同様にセイやアイラが持っているアリスタも壊れている。
自分の持っているアリスタが壊れたと気付いたからこそ、レイジはタツヤとの決着をこの場でつけようとしていた。
「うん! 約束する! だから!」
「来るぞ!」
ケンプファーアメイジングは距離を詰めてトランザムGNブレイドを振るい、スタービルドストライクはシールドで受け止めるが、シールドが弾き飛ばされてしまう。
「僕は君たちが羨ましかった。共にバトルをして勝利を分かち合い、苦難を支え合う。そんな関係が」
ケンプファーアメイジングのトランザムGNブレイドをビームナギナタで受け止める。
タツヤは今まで多くのファイターと出会って来た。
その中でバトルを通じて、絆を紡いできた。
だが、そんな彼らもタツヤと共に戦う道に進む事は無かった。
だからこそ、常に二人で戦って来たセイとレイジの事を羨ましくも思った。
「だから、僕は君たちに勝つ! そして、僕は彼と同じ高見に立って戦う!」
「上等だ! 俺達のも負けられないんだよ!」
ケンプファーアメイジングとスタービルドストライクは戦略も何も無く切り合う。
「レイジと出会えたから!」
「セイと出会ったから!」
「僕はここに居る!」
「俺はここまで来た!」
ケンプファーアメイジングを弾き飛ばすとビームナギナタを突き出す。
それをケンプファーアメイジングがトランザムGNブレイドの刃で受け流す。
「そんな君たちを僕は超える!」
ビームナギナタを流しながら、もう片方のトランザムGNブレイドを振るうが、フェリーニから借りたガンダムフェニーチェリナーシタのビームマントがケンプファーアメイジングの刃を止める。
「アンタに勝つ為に俺達はここまで来たんだ!」
「ユウキ会長に勝ってマシロさんにも!」
攻撃を受け止めるスタービルドストライクは膝蹴りでケンプファーアメイジングを吹き飛ばすが、ケンプファーアメイジングは空中で一回転して着地する。
「その覚悟を僕の覚悟で撃ち破る!」
「アンタを超えてその先に!」
「僕達は行くんだ!」
ケンプファーアメイジングとスタービルドストライクは一気に距離を詰める。
そして、同時にトランザムGNブレイドとビームナギナタを振るう。
だが、どちらの斬撃が相手を切り裂く事は無かった。
2機のガンプラはバトルシステムの上で止まっていた。
最後の一撃がどちらかに決まる事も無く、大型アリスタの破壊によって舞っていたプラフスキー粒子が切れたことでガンプラはただのプラモデルとなってしまった。
「くっそ……相変わらず強ぇな……」
「うん。後、少しで届いたんだけどな」
プラフスキー粒子が無くなった事で、またバトルが中断された。
レイジはセイの方に振り返る。
「悪りぃ。また、負けた」
レイジはセイにそう言う。
バトル自体は粒子が切れたことで中断された。
しかし、止まったガンプラを見て、レイジは自分達の負けだと悟った。
スタービルドストライクのビームナギナタをケンプファーアメイジングは片腕で止めようとしている。
対するケンプファーアメイジングのトランザムGNブレイドはスタービルドストライクの腰に触れている。
もしも、あのままバトルが続行していた場合、スタービルドストライクの攻撃は止められて、ケンプファーアメイジングの刃がスタービルドストライクを切り裂いていただろう。
「大型アリスタが暴走しなければ、負けていたのは僕の方かも知れない」
「どうだろうな」
確かに大型アリスタが暴走する前のバトルではセイとレイジが優勢だった。
だが、明確に勝敗が付いていた訳ではない。
タツヤ程のファイターなら最後の最後まで諦めずに戦って、状況が変わったかも知れない。
尤も、過ぎてしまった事でもしもと言っても意味はない。
「セイ……またな」
「次に会う時は強くなってるから!」
「楽しみにしてるぜ」
涙を堪えながらセイはレイジを笑顔で見送る。
そして、遂にレイジは完全に消えた。
マシタに続いてレイジが消えたと言う事態だが、誰もその事に付いては触れようとしない。
理由はどうあれ、セイとレイジのコンビはここに解消されたと言う事実があるだけだ。
「実に素晴らしいバトルだったよ」
そんな空気を読まずにユキトが拍手しながら入って来る。
ユキトにもレイジやマシタが消えた理由は分からないが、そんな事は今はどうでも良い。
何とか大型アリスタの暴走を事故ではなく、演出としてやり過ごす事が出来た。
セイとレイジの最後のバトルも全世界に中継した為、結果的にユキトの思惑は成功している。
「相方を失ったところで、申し訳ないが、君は3位決定戦をする気はあるかな? こちらとしてはやって貰いたいのだけどね。場合によっては新しい相方を見つけて来ても構わない」
セイ、レイジ組とタツヤのバトルはタツヤの勝利に終わって、レイジはアリアンに帰ったが、世界大会はまだ終わっていない。
後は準決勝で勝利したマシロとタツヤの決勝戦とその前に、準決勝で敗れたアイラとセイ、レイジ組との3位決定戦が残されている。
決勝までは前夜祭を挟んで1週間後である為、セイが相方の不在で3位決定戦を辞退したところで幾らでも埋め合わせは出来る。
だが、出来れば予定を変える事は避けたい。
大型アリスタは破壊されたが、事前に生成していた粒子を使えば、3位決定戦と決勝戦を行う事は出来る。
「やります! だけど、新しい相方は必要ありません。僕がファイターとして出ます」
ユキトはレイジの代わりを立てる事を良しとしているが、セイにはその気は無かった。
セイにとっては自分の相方はレイジしかいないからだ。
その為、例えバトルの実力は無くてもセイは自分でバトルする事を選んだ。
ユキトとしては実力のないセイよりも誰か実力のあるファイターとレイジの代わりに出して欲しいがセイにその気がない以上は強制は出来ない。
これが決勝戦ならどんな手を使ってでも代理を立てさせたが、3位決定戦は所詮は決勝戦の前座に過ぎない。
「分かった。1週間後の3位決定戦と決勝戦に期待するよ」
ユキトは爽やかにそう言うが、マシタが消えた理由はともかく、PPSE社の会長及び会長秘書が行方を暗ませたと言う事はユキトにとってはチャンスだった。
大型アリスタ暴走事件はクロガミグループの手によって、闇に葬られ、1週間後にはセイとアイラによる3位決定戦とマシロとタツヤによる決勝戦が行われる事となった。
大型アリスタ破壊から一晩が明けた。
大型アリスタの暴走でメインスタジアムに被害が出たが、すでに修復作業に取り掛かっている。
一晩が明けてセイはマオとニルスと共にフリーバトルルームにいた。
大型アリスタが破壊された事で、プラフスキー粒子の生成が出来なくなり、粒子はすでに生成してある備蓄分しか残されていない。
その為、会場のバトルシステムには制限がかけられている。
今日から1週間は決勝戦の前夜際として、会場では出店や毎日何かしらのイベントが行われる予定だ。
本来ならば、前夜祭を楽しみたいところだが、セイはマオとニルスに頼んでバトルの練習をしていた。
まずはビルドガンダムMk-Ⅱでマオとバトルするが、あっさりとセイは負けてしまった。
「何と言いますか……」
「思った以上やな」
マオもニルスもセイのビルダーとしての実力は言うまでもないが、ファイターとしての実力は正直なところそこまでは無いと思っていた。
だが、実際にマオがバトルしてみた結果、二人の予想以上に弱かった。
ビルドガンダムMk-Ⅱはビルドストライクやスタービルドストライクと比べると機動力が落ちる分、扱い易い。
それでも、マオのガンダムX魔王と序盤こそはそこそこ戦えていたが、最後はあっさりと負けた。
「ですが、とっさの判断やマオ君の動きの予測は大した物です」
「せやな。射撃精度が良ければヒヤリとしましたわ」
実力だけを見ると良くて並と言う所だが、それでもバトルの中でセイはとっさの判断や相手の動きの予測に関しては光る物があった。
レイジと共に世界大会を戦う中で、セイもまたセコンドとして戦って来た。
世界も猛者を相手に戦って来た事はセイにとっても決して無駄ではなかった。
だが、致命的に操作技術が足りてはいない。
幾ら、相手の動きを予測して攻撃しても射撃の精度が低ければ意味はない。
「後、一週間であのアイラはんと戦えるだけの実力を身に着けるとなると……」
アイラの実力は世界でも上位に入るだろう。
そんなアイラと1週間でセイが対等に戦えるだけの腕を身に着けるのは難しい。
「分かってるよ。だけど、出来ないからって何もしなかったら、もっと何も出来ない。それに僕は1週間でそこまでの実力を身に着けれるとは思ってないよ」
セイは家にバトルシステムがある為、普通のファイターよりも練習時間が多い。
それでも何年も実力を付ける事が出来なかった。
今更、1週間やそこらでアイラと戦えるだけの実力を身に着ける事が出来ないと言う事はセイ自身が一番良く分かっている事だ。
「でも、そこで諦めたくはないんだ。レイジとの約束もあるし、何より僕達の世界大会を何もしないで終わらせる訳には行かないから」
レイジがアリアンに帰る時に約束した。
ファイターとビルダーとしてではない、互いにファイターとしてバトルすると言う事を。
だからこそ、セイは諦めたくはなかった。
レイジは常に諦めなかった。
後で聞いた話しだが、地区予選の前にレイジはフェリーニと相手に200回近くのバトルを行って練習していた。
フェリーニは当然、愛機であるウイングガンダムフェニーチェを使い、レイジはセイのガンプラを使わずにバトルしていた。
200回もバトルして負け続ければ普通は諦めるかも知れない。
しかし、レイジは元々の性格もあって諦める事なくフェリーニに挑んだ。
マシロと初めてバトルした時も圧倒的な実力差を見せつけられて勝機が無くとも、レイジは勝つ事を諦めずに向かって行った。
レイジは元々、ファイターとして天才的なセンスを持っていたが、ここまでの実力を付けたのも諦めずに向かって行ったからだろう。
セイはレイジと出会った時に、レイジなら自分のガンプラを完全に使いこなして、世界を相手に戦えると確信した。
それと同時に心の奥底で諦めていた。
自分が自分のガンプラで世界を目指すと言う事をだ。
その事は後悔はしていない。
だが、アイラとのバトルで何も出来ずに負けると言う事はしたくは無かった。
すでに優勝する事は叶わないが、レイジと二人で臨んだ世界大会の最後のバトルをそんな形で終わらせる事はここまで共に戦って来たレイジの戦いをも無駄にしてしまう。
「それに、ファイターの実力がバトルの勝敗を決める絶対条件じゃないからね」
セイは今更、自分がガンダムの主人公たちがそうだったようにバトルの中で才能を開花させると言う奇跡を信じてはいない。
信じているのはレイジが最後に自分に言った言葉だ。
諦めなければ、いずれは自分達と同じくらいに強くなれると言う言葉だ。
その言葉を嘘にしない為にも、セイは諦める訳には行かなかった。
実力差はあるが、セイには勝算がない訳ではない。
その勝算を少しでも高める為に、少しでも腕を磨く必要があった。
セイにはセイなりの考えがあると知り、マオもニルスも最後までセイの練習に付き合うことを決めた。
前夜祭の半分が過ぎた頃、静岡県内の旅館でアイラは自身のガンプラの改造を進めていた。
準決勝でマシロに敗北してから、セイとレイジの部屋に厄介になっていたアイラだが、後から3位決定戦が終わるまではホテルの自分の部屋を使えると言う事を知ったが、荷物をまとめて出て来た手前、戻る気にはなれなかった。
色々と吹っ切れてネメシスにもフラナ機関にも戻る気は無い。
今まで使っていた部屋でガンプラを制作するとチームやフラナ機関の人間に接触される事を避けて落ち着いてガンプラ制作に取り掛かる為にも戻る事は出来ない。
始めはそのまま、セイとレイジの部屋で寝泊まりをして、セイからガンプラ作りを本格的に習おうとしたが、セイも自分の準備で忙しいと断られた。
そして、最終的には静岡県内のセイの母親であるリン子が泊まっている旅館に厄介になる事が決まった。
それだけではなく、アイラの身の上を聞いて行く当てのないアイラを暫くイオリ家で預かると言う話しまで出ていた。
本来はセイに教わる予定だったガンプラ作りは、セイの代わりにラルさんからアドバイスを受けながら制作している。
「ほう……元の出来が良かったとはいえ、筋が良い」
ラルさんは制作途中のガンプラをそう評価する。
アイラが自分のガンプラの素材として使用していたのは、マシロから借りていたサザビー改だ。
それを大型アリスタ戦で大破させている為、サザビーのキッドを買って来て修理してから改造している。
「足にビームサーベルを内蔵し、ファンネルを隠したか。メインの武器に注意を向けて不意を突くと言うのが基本的な戦いからだな。マシロ君と同じ戦法か」
軽く見ただけでアイラが制作し、ミスサザビーと名付けたガンプラの特性をラルさんは見抜いていた。
マシロは様々な戦い方が出来るが、最も得意としていた戦い方が相手の注意を何かに釘つけた上で相手の知らない新しいカードを切って来ると言う物だ。
今のアイラには多くの隠しギミックを付けるだけの技術は無い為、足の先端にビームサーベルを内蔵するのと、ファンネルを従来の物からキュベレイなどが装備している小型の物にした上で外からは見えない部分に装備させる事でファンネルを付けていないように思わせる事だ。
それにより格闘戦をしながら相手の不意を突く事をメインの戦い方としている。
「残りの時間でもう少し作り込んで見ます」
「油断はないようだな」
ラルさんがひいき目で見てもファイターとしての実力には圧倒的にアイラに分があった。
だが、アイラにはセイとバトルする上で油断はないようだ。
3位決定戦はアイラにとっては世界大会の最後のバトルだが、自分のガンプラで戦う最初のバトルでもある。
今まではマシロから借りたサザビー改を使い、キュベレイパピヨンもマシロから押し付けられた物だが、改造はフラナ機関によって行われている。
ミスサザビーの素体に使ったサザビーもマシロからの借りものだが、キュベレイパピヨンの時とは違い自分で考えて改造している。
セイとのバトルを最後に世界大会は終わるが、世界大会が終わった後にはマシロと面と向かってバトルをする気でいた。
その為にも、セイとのバトルは全力を尽くさなければ胸を張ってマシロの前に立つ事は出来ない。
最後にマシロとまともに話した時に勝つ気のない奴はバトルシステムの前に立つ資格がないと言っていた。
レイジと別れても尚、戦う意志を持って自分と戦う事を選んだセイに対して、自分も持てる力の全てを出さなければマシロと対峙する資格はないと思っている。
すでに殆ど完成しているが、少しでもガンプラの性能を上げる為に、ラルさんの指導の下アイラはガンプラ作りを行う。
3位決定戦と決勝戦を明日に控えて、すでに日が落ちているがタツヤは会場内のPPSE社専用の制作スペースでガンプラの最終調整をしていた。
最後の決勝戦だけはタツヤはメイジンとしての責務を完全に捨ててワガママを通していた。
今まではPPSE社のワークスチームが用意したケンプファーアメイジングやアメイジングエクシアを使っていたが、次の決勝戦だけはタツヤが自分で作ったガンプラで戦うつもりだ。
セコンドのアランもマシロとの因縁は聞いている為、タツヤの気持ちを察して明日のバトルにはセコンドとしての参加はしない。
「ずいぶんと根を詰めているようだけど、明日の為にも休んだ方が良いんじゃないか?」
「分かってはいるんだけどね。ようやくこの日が来たとなるといても立っても居られないんだよ」
タツヤも決勝に備えて今日は早く休んだ方が良いとは理解している。
だが、遂に明日はあの時の約束を果たす日が来た。
去年は自分の至らなさから、約束を守れずにいた。
しかし、今年は違う。
2年前の約束を果たす事がようやくできた。
「アラン。僕は二代目の勝つ事を至上とするバトルを今でも認める事は出来ない。だけど、勝ちに拘るバトルは今なら分かる気がするんだ」
「今の君を見ていれば分かるよ」
タツヤは二代目メイジンカワグチのバトルを認める事は出来ないでいた。
だが、今は一定の理解が出来るようにはなっていた。
タツヤは心の底からマシロに勝ちたいと思っている。
この1週間でマシロに勝つ為にガンプラを作った。
空いた時間でマシロに勝つ為のシミュレーションを幾度もして来た。
この1週間でタツヤは常にマシロに勝つ事だけを考えて来た。
そして、その時間は堪らなく楽しかった。
自分がこうすれば、マシロはきっとこうする。
またはこう出るかも知れない。
はたまた自分では思いつかない手を打って来るかも知れない。
そう考えてはならば、自分は次にどうするかを考えた。
そうやって考えている間はずっとマシロとバトルしている錯覚すら覚えた。
それは、全ては勝つ為の行動だが、二代目の勝利のみを追求するガンプラバトルのような独りよがりのバトルではない。
相手の事を理解して、考えるからこそできる事だ。
互いに切磋琢磨し合い互いに高め合う。
それもまたガンプラバトルの有り方の一つだ。
「だから、僕は誓うよ。このガンプラ、アメイジングザク・ヴレイブでマシロのガンプラを倒すと言う事を」
タツヤはマシロに勝つ為のガンプラ、アメイジングザク・ヴレイブで決勝戦に臨む。
世界大会決勝戦の当日を迎え、マシロは東京にいた。
この1週間で何も考えずに日本を回って東京に流れ着いた。
東京に用があった訳ではない為、当てもなく適当に歩くだけだ。
「ここは……」
適当に歩いていると、見覚えのある場所に辿り付いた。
そこは数年前に、キヨタカと共に初めてガンプラを買って貰ったイオリ模型店だ。
今はセイが世界大会に出ている為か、店は閉まっている。
「ここに来たのも久しぶりだな」
マシロはあの日からここには一度も来てはいない。
次にイオリ・タケシと会う時は実力を付けて倒す時と決めていたからだ。
あれから数年が経ってずいぶんと懐かしく思えてくる。
「今の俺には関係ない事だけどな」
「悪いけど、今日は店はやってないんだよ」
イオリ模型店から立ち去ろうとすると、店主であるイオリ・タケシに呼び止められた。
「ずいぶんと久しぶりだけど……」
タケシと会うのは数年振りだ。
だが、マシロはさっさと歩き出そうとしていた。
「立ち話も何だから中に入ると良いよ」
立ち去ろうとするマシロの意見を聞く事なく、タケシはマシロを店の中に連れて行く。
タケシは強引にマシロを居間まで連れて来た。
始めこそは軽く抵抗していたマシロもここまで連れて来られると諦めたのか黙って居間まで連れて来られて椅子に座る。
「まずは情報提供を感謝するよ」
「そんな事もあったな」
マシロは以前に世界大会で何者かが組み合わせなどに介入している可能性を疑って、国際ガンプラバトル公式審判員をしているタケシにメールで情報を提供していた。
その情報により、不正な方法でガンプラバトルに介入していたガンプラマフィアを捕える事が出来た。
だが、マシロにとっては遠い昔の事のように思える。
「テレビとかで見た印象とだいぶ違うようだけど、何かあった?」
「別に……ただ、色々と自分の事を見つめ直しただけ。そんで、分かったんだよ。俺はこんなにも何もないってさ」
日本を転々としていた1週間でマシロは改めて自分を見直す時間を得た。
その結果、幾ら考えたところで自分には何もないと言う結論に辿り付いた。
「俺はガンプラが好きでガンプラバトルが好き……そうやってずっと誤魔化し続けて来た。自分に嘘をついて。本当はガンプラが好きなんじゃない。なんでも良かったんだよ。俺は誰かよりも優位に立ちたかっただけなんだ」
自分を見つめ直したからこそ、マシロは気づいた。
マシロは常日頃から強い相手と戦う事を望んでいた。
それは強い相手に勝つ事が好きだからと公言していた。
だが、実際のところは強い相手に勝つ事で自分を相手よりも上だと思えるからだ。
それがたまたま、ガンプラバトルだったと言うだけの事だ。
「強い相手とのバトルは熱くなれる。それはそれが普通だからそう思い込もうとしただけで、本当はバトル自体はどうでも良かったんだよ。自分は最強だって強い言葉を使って自分を強く見せないと自分を保つ事すら出来ないでさ」
マシロは自分の事を最強のファイターなど常に言っていた。
人から見れば、それは自分の実力に自信を持って見えたりもしたが、実際は自分を強く見せてたいと言う見栄でしかなかった。
「実際、俺にはそれを嘘にしないだけの力があった。だけど、その力だって偶然の産物でしかない」
最強と自ら名乗っても負けてしまえば意味がない。
マシロには最強と名乗りづつけるだけの力を持っている。
だが、それもキヨタカが偶然にもマシロを見つけたからだ。
もしも、あの時、バトルをしていたのは自分ではなくアイラだったらキヨタカはマシロに気づく事もなかったのかも知れない。
アイラにはプラフスキー粒子を肉眼で見る事が出来る。
それはマシロよりもよっぽどガンプラバトルの為の才能だ。
そんな偶然の出会いが無ければ、マシロは何も出来ないマシロのままだった。
全ては偶然が重なった結果に過ぎない。
「どうして、俺はこんなに遠くまで来たんだろうな。俺はただ、カッコいい兄でいたかっただけなのに」
全てはそこから始まった筈だった。
何も出来ないからこそ、何か一つでも得意な事を見つけてアイラの前で良い恰好をしたかっただけだ。
それが、自分の変える場所を捨てて、家族を捨てて、戻る事の出来ないところまで来てしまった。
「そうか……」
そんなマシロの言葉をタケシはただ黙って聞いていた。
そして、タケシは店の方に行くと少しして戻って来る。
「確かに君は今まで自分に嘘をついていたのかも知れない。だけど、始めからそうだったわけじゃない筈だ。初めて会ったあの日、君はガンプラに心を奪われていた。それは嘘じゃない筈だ」
マシロがいつから自分に嘘をついたのかは分からない。
タケシとマシロが初めて会ったのはマシロが年端もいかない子供の頃だ。
あの頃のマシロは自分の気持ちに嘘をついて誤魔化していた訳ではない。
ただ、偶然見かけたガンプラに心を奪われていただけだ。
そこに嘘も誤魔化しもない。
「君はガンプラが好きなのもバトルが好きなのもそう思い込もうとした嘘だと言っていた。だけど、幾ら、才能があっても本当に好きでもない人間が強くなれる程、ガンプラバトルは甘くはないよ。ましてや世界の頂点になんてなれる訳が無い。君はとっくにガンプラもガンプラバトルの事も好きになってるんだよ。だからこそ、世界のファイター達が君を意識している」
才能があっても、本当に好きでなければ、熱中する事もない。
熱中していたからこそ、マシロはここまで強くなれた。
本気でバトルに撃ち込んでいたからこそ、多くのファイターはマシロを目標として、倒すべき最強のファイターとして挑んできた。
そこにもまた、嘘はない紛れもない真実だ。
「クロガミグループの事は僕も多少なりとも知ってる。だけど、キヨさんはそんなしがらみとは関係のなく、マシロ君にはガンプラバトルをやって欲しいと願ってると思う」
「何でそんな事が分かるんだよ」
「分かるさ。これでも父親だからね。父親って言うのは子供に夢を託したい物だからね。ここだけの話し、キヨさんはファイターとして上を目指したかったんだよ」
タケシは少しおどけてそう言う。
マシロにとっては初耳だ。
キヨタカがファイターとして上を目指したいと思っていたが、ガンプラバトルが始まった頃にはすでにクロガミグループの総帥の地位にいた。
それ自体、自ら望んで進んだ道でもあり、その地位から退くには後継者であるユキトは若すぎた。
自分の身勝手で、地位を退く事も出来ない為、ガンプラバトルは趣味の範囲でしか出来なかった。
だからこそ、ガンプラバトルで上を目指すと言う夢はマシロに託した。
「だから、世界の頂点となった今のマシロ君はキヨさんにとっては自慢の息子だと思うよ」
タケシも息子を持つ父だからこそ、キヨタカの気持ちが分かった。
自分の成す事の出来なかった夢を代わりに息子が叶えたとなると、父親としてはこれ以上もない親孝行だ。
「俺が父さんの……」
「キヨさんから預かっている物がある。君が自分の行く道を見失った時に渡すように頼まれていた」
タケシは先ほど取りに行った物をマシロに差し出す。
それは一つのガンプラだった。
「このAGE-1……」
そのガンダムAGE-1にマシロは見覚えがあった。
キヨタカと共にイオリ模型店に来た時に勝って貰った初めてのガンプラだ。
あの時はタケシに負けて、自分で直した。
その後もバトルの練習で使い続けてやがては関節部の摩耗やバトルの損傷で新しく買い換えた。
買い換えてからは、無くしたと思っていたが、キヨタカによりタケシに預けられていたようだ。
渡されたガンダムAGE-1を見るとところどころが補修されており、多少の手直しを加えるだけでバトルにも使えそうだ。
「そっか……俺」
無意識の内にガンダムAGE-1を強く握りしめていた。
マシロはこのガンプラを使っていた時はアイラにカッコいいところを見せないや、キヨタカに認めて欲しいなどは考えずに純粋にバトルを楽しみ強くなろうと思っていた。
そこにはタケシの言うように嘘も誤魔化しもなかった。
「俺にも残された物があったんだな」
全てを知って、自分には何もないと思ったが、それは間違っていた。
少なくともガンプラバトルはアイラの事もキヨタカの事も関係なく、自分の意志でのめり込んでいた。
いつしか、それすらも忘れていたようだ。
マシロは勢いよく立ち上がり、イオリ模型店から出て行こうとする。
「マシロ君!」
「俺、行かないと。俺を待ってる奴がいるから!」
マシロはそう言い残して走り出す。
マシロは全てを失った訳ではない。
自分でアイラに言ったように、ガンプラバトルを通じて得た物があった。
だからこそ、走り出した。
間に合わないと本当に全てを無くしてしまうからだ。
マシロは静岡に戻る為に駅を目指すが、5分もしないうちに息が切れて、まともに走れずに千鳥足となっていた。
元々、ガンプラバトル以外に興味を示す事は殆ど無い為、運動などして来てはいない。
運動をしなくても移動は出来ていた。
「くそ……こんな時に」
今までは気にすることのなかった体力不足を今になって痛感させられることになった。
すると、後ろから車のクラクションがなって、マシロは振り向いた。
「マシロ君!」
「おっさん! 助かる!」
マシロがイオリ模型店を飛び出してすぐに、タケシは車を取りに行った。
マシロの行く場所は聞くまでも無い為、車でマシロを追いかけた。
車が路肩に止まってマシロは車に乗り込む。
マシロが車に乗るとすぐに、車は発進してマシロの目的地である静岡へと向かった。
幸いにも世界大会の決勝戦は3位決定戦の後に行われる為、時間的な余裕は十分にある。
再び、バトルの世界に戻る為、マシロはタツヤが待つ世界大会の会場へと急ぐのだった。