ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle58 「マシロの決意」

 第7回ガンプラバトル世界大会は前回の王者、マシロ・クロガミの二連覇で幕を下ろした。

 最後の表彰式に上位3組がサボってガンプラバトルをしていたと言う異例の事態こそあったが、大会は多少のトラブルこそあったが、大きな問題が無く終わりを向けた。

 閉会式が終わった会場は今までのお祭り騒ぎが嘘のように静まり返っている。

 すでに大会の運営が会場の撤収作業に入っている。

 

「これがアンタからの依頼のブツだ」

「ご苦労だった。ルーカスも喜ぶ」

 

 マシロは今年の優勝トロフィーと賞品をチームのオーナーであるヨセフに渡す。

 元々、マシロがチームネメシスに在籍していたのは、プラフスキー粒子発見から10年目と言う節目の年である今年の世界大会は例年とは違い、賞品が多いと言う事でそれをヨセフが孫のルーカスにプレゼントする為だ。

 マシロにとっては優勝トロフィーも賞品にも興味は元からない。

 今回の大会ではそんな物よりも価値のある物をすでに得ている為、ヨセフに契約通り渡しても構わない。

 

「これで任務完了な訳だが、ボスに言いたい事がある」

「契約を果たしたんだ。話しくらいは聞いてやる」

「これ以上、アイラに関わるな」

 

 マシロはそう言って、ヨセフに資料を渡す。

 その資料に目を通したヨセフは顔を顰める。

 

「これがどういう物なのか分かるよな。アイツがチームに戻らない以上、アイツに関わって見ろ。それを兄貴に教える。そうなればボスがどうなるかも分からない訳ないよな?」

 

 マシロが見せた資料はマシロがレイコに言って作らせた物だ。

 レイコも準決勝で色々やっている為、その事をネタにされた。

 資料にはフラナ機関が開発したエンボディシステムに関する情報が記されている。

 専門的な知識が無い為、ヨセフは全てを理解出来る訳ではないが、これが大会の規約に違反している事や、場合によっては違法行為と見なされると言う事は分かった。

 今こそは友好的な関係を築いているクロガミグループだが、隙を見せれば一気に飲み込まれるだろう。

 マシロがユキトにこの事実を知らせると言う事はその隙を作る事になる。

 

「俺としてもそんな事はしたくはない。少なからずチームに愛着はあるしな」

「……良いだろう」

 

 ヨセフはそう答えるしかない。

 マシロからすれば、約束させて守らせると言う事には相応のリスクを伴う行為だ。

 所詮は口約束でしかなく、この場を乗り切る事が出来れば、幾らでも誤魔化す事が出来るかも知れないからだ。

 そんな事をしなくても、クロガミグループの力を使って潰した方が確実である為、マシロがチームに愛着があると言う事はあながち間違いではない。

 チームのエースであるマシロが抜けて、アイラまで手放すのは惜しいが、チームには二人の影に隠れているが十分に世界に通用するレベルのガウェインも居る。

 ここでマシロ、その後ろに居るクロガミグループと事を構える必要もない。

 

「だが、聞かせて欲しい。何故、そこまでアイラに」

「ボス……世の中には知らない方が良いって事があるくらい分かるだろ」

 

 ヨセフも今まで犯罪とまではいかずとも褒められたやり方ではない事を何度もやって来た。

 その中で知ってはいけないと言う事が多い事も知っている。

 不用意に好奇心で踏み入ってしまえば、その対価は己の命で払う必要があるかも知れない。

 尤も、マシロはそれらしいことを言っているだけで、話す気がないだけだが、ヨセフもそこまでして知りたいとも思わない。

 

「それじゃ俺も暇じゃないんだ。そろそろ行くわ」

 

 マシロの用事はヨセフにトロフィーと賞品を渡す事をアイラの事を釘を指しておく事だ。

 それが終わった以上は、のんびりとしている訳にもいかない。

 ヨセフもマシロが契約を果たしている為、マシロを無理に引き止めると言う事はしない。

 無理に引き止めてへそでも曲げられたら大変だからだ。

 チームを抜けても、孫のルーカスがマシロのファンである事には変わらない。

 今後もマシロがガンプラバトルの世界で活躍すれば、それだけルーカスが喜ぶ。

 ヨセフはマシロを見送り、今年の世界大会の優勝を持ってマシロはチームネメシスを抜けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チームネメシスを抜けたマシロはその足で会場内の公園に来ていた。

 そこにはすでに呼び出していたイオリ・タケシがマシロを待っていた。

 

「まずは優勝おめでとう。素晴らしいバトルだったよ」

「俺がバトルしたんだから当然だって。それに優勝は2回目だし。それよりも本題」

 

 マシロにとっては世界大会での成績自体はどうでも良い事だ。

 そんな話しをする為に、わざわざタケシを呼び出した訳ではない。

 

「アイラの事だけど、アイツを暫くおっさんのところで面倒見てくんない?」

 

 身よりのないアイラはチームやフラナ機関を抜けると行く当てはおろかまともな生活を送る事もままならない。

 流石にクロガミ一族に連れて来る訳にもいかず、だからこそ、マシロはタケシにアイラを任せる事を頼む為にタケシを呼び出した。

 

「行き成りだね」

「分かってる。けど、頼める相手はそんなにいないんだよ。俺、友達少ないし」

 

 マシロは冗談半分でそう言う。

 実際のところ、マシロの交友関係はクロガミ一族の中が大半を占めている。

 それ以外の関係も無くはないが、アイラを任せられるだけの信用関係はない。

 唯一、タツヤは信用出来るが、決勝戦を経てライバルとなった以上は直接頼みごとをしたくはないと言う意地がある。

 そうなって来るとタケシくらいしかマシロが信用してアイラを任せられる相手はいない。

 

「取りあえず、アイツの生活費は渡しておく。中にカードとかが入ってる」

 

 マシロは封筒を取り出す。

 アイラを預かる以上は何かとお金がかかって来る。

 マシロの個人的な口座には膨大な額の貯金がある為、人ひとりが一生遊んで暮らす事も出来る程にだ。

 

「悪いけど、それは受け取れないな。まぁ、アイラちゃんをウチで預かる件に関してはリンちゃんが乗り気だから断る気は無い。だけど、僕はね。君の事はキヨさんの息子であると同時に共にガンプラを愛する友人だとも思っている。友人からの頼みを無下にはしないし、そこに金銭を要求する事はしないさ」

 

 タケシも子供を持つ親だから、子供を育てるのにお金がかかって来ると言う事はマシロ以上に理解している。

 だが、マシロの事は親子程年が離れているが、ガンプラを愛する者同士友人だとも思っている。

 そんなマシロからの頼みなら断る理由もなければ、金銭を要求する気もない。

 

「そっちがそれで良いなら、無理にとは言わないけどさ」

「君が何故、彼女の事を気にかけるかと言う事は詮索はしない。だけど、僕も君に聞きたい事がある。君のお兄さんのユキト君に関しての」

「兄貴の?」

「クロガミグループは強大が故に動けば噂になり易い。幾ら、情報統制を敷いても人の口はどうにも出来ない部分があるからね。それで最近、色々と噂が入って来てるんだ」

 

 タケシは国際ガンプラバトル公式審判員として活動している関係上、ガンプラに関する様々な情報が入って来る。

 その中に不確定情報として、クロガミグループがガンプラバトルに対して何かしらの動きがあると言う物があった。

 流石にクロガミグループの情報統制の中から正確な情報を得る事が出来ない為、クロガミグループでも総帥に近い位置に居るマシロに直接聞く事にした。

 

「噂ね……生憎と俺もグループ全体の事は聞かされないし、聞かされたところで小難しい事は分かんない」

 

 マシロは現在のグループ総帥の弟と言う立場にあるが、実際ユキトと話しをする機会も限られている。

 グループ全体の話しなど、ユキトからある訳でも無く、話しをされたとしてもマシロには理解出来ないだろう。

 

「だけど……兄貴は変わったよ。昔から選民的な考えを持ってたけど、ここまでじゃなかった」

 

 マシロも以前のユキトは今のユキトは違うと感じていた。

 以前のユキトは生まれた立場から自分は特別な人間としてそれに相応しい言動をしようとしていたように見えた。

 

「多分、父さんが殺されてから兄貴は変わったよ。他人を能力でしか見なくなって本当の意味で誰も信用してないだと思う」

「殺された? 確か、キヨさんは事故で亡くなったと聞いているけど?」

 

 タケシの記憶の中ではキヨタカは事故死したとある。

 当時はクロガミグループの総帥の死と言う事もあって色々と憶測が流れた。

 それでも最終的には事故と言う事になっているはずだ。

 

「事故だったよ。普通の交通事故。父さんを乗せた車が信号で止まっているところにトラックが突っ込んで来るって結構ありふれた事故。事が事だけに警察だけじゃなくて、ウチの方でも様々な観点や可能性から事故の事を探った。その結果は運転手の居眠り運転って事を動かす事は出来なかった」

 

 キヨタカが事故死した事でクロガミグループはその情報の全てを駆使して真実を探った。

 その結果として運転手の居眠り運転だと言う事が動かしがたい真実として導き出された。

 そこには一切の事件性も陰謀もないただの事故でしかなかった。

 

「ただの凡ミス。だから兄貴は才能のない凡人を憎んでるんだと思う。結果から見ればただの事故。でもさ、事故だから仕方が無い事だって思える訳が無い。意図的じゃないにしても殺されたんだよ。父さんは殺された。だけど、この恨みをどこにぶつければ良い? 相手の運転手も一緒に死んでる。運転手の遺族に復讐しても運転手が死んでいる以上は意味なんてない」

 

 遺族からすれば、事故だとうと殺人と同義だ。

 恨みを晴らそうにも、晴らす相手もまたその事故で命を落としている。

 事故の真実を探る際に運転手の事を調べて家族が居ると言う事も分かっているが、家族に復讐したところで本人が死んでいる以上は無意味な事でしかない。

 だからと言って父親を殺された恨みが消える訳でもない。

 

「だから、俺はそんな事実から逃げる為にガンプラバトルにのめり込んで、自分だけの世界に閉じこもる事にしたんだと思う。で、兄貴は父さんを奪った世界を憎み、くだらないミスを犯すような人間を憎んだんだと思う」

 

 恨みを向けるべき相手がいないが故に恨みの矛先をどこかに向けなければならなかった。

 マシロはガンプラバトルにのめり込み、ユキトは世界を恨んだ。

 

「俺が分かるのはこのくらいだな」

「そうか……君はこれからどうするつもりだい? 君が望めば君も……」

「その必要はない。俺はマシロ・クロガミでそれ以上でも以下でもない」

 

 それは拒絶の言葉だった。

 キヨタカの望みはマシロが心の底から熱くなれるガンプラバトルが出来ればそれで構わなかった。

 クロガミ一族に居てはそのしがらみがマシロをこれからも縛る事になる。

 

「俺にはまだやる事がある」

「……それは君がやるべき事なのかい? それとも……」

「やりたい事だよ。俺が俺である為にも……もう才能とかを言い訳にして逃げるなんて恰好の悪い事したくない。ちゃんと世界を向き合わないと駄目だから」

 

 マシロは自身にはガンプラバトルの才能しかないと言い、他の事は才能がないからと無駄だとしてやらなかった。

 だが、無駄だからやらないのではなく、出来ない自分をみっともないと重いやる前から諦めて逃げて、確実に出来る事しかやって来なかった。

 

「マシロ君……君は一体、何を……」

 

 マシロの目は覚悟と決意を持った目だ。

 それこそ、自分の全てを賭けて何かをやろうとしている。

 

「イオリのおっさんが気にするような事じゃないさ。そんな事よりもだ。全てに決着をつけて来たらアンタを倒しに行くから。情けないガンプラに勝っても意味はないから、その時の為に最強のガンプラを用意しといてよ。俺はそれを超える究極のガンプラでアンタを倒すからさ」

「……分かった」

 

 マシロがキヨタカと共にイオリ模型店で始めてバトルした時に漠然と感じていた。

 マシロはやがて実力を付けて再びバトルする事になる日が来る事を。

 その日が遂に来た。

 

「だけど、約束して欲しい。僕は僕の持ちうる全ての技術と情熱を注ぎ込んで最高のガンプラを用意して待っている。君も何があっても僕の前に来てバトルをするんだ」

 

 マシロの覚悟を動かす事はタケシには出来ない。

 だからこその約束だ。

 そうでもしなければ、これがマシロと会う最後になりそうだと感じていた。

 

「それと最後に言わせて欲しい。マシロ君が覚悟を決めたと言う事は十分に分かった。だけど、君は自分で思っている程大人じゃないんだ。少しは周りを頼っても良いんだ」

「頼るか……悪いけど、今までに誰かに頼るって事はした事がないから分からないんだよな」

 

 マシロは今まで他者との関わりの大半は利害の一致や強制である事が多かった。

 大抵は金銭的なやり取りで相手の力を借りると言う事や、クロガミグループやユキトの威を借りて相手を従わせていた。

 その為、マシロは頼り方と言う物をイマイチ分からない。

 

「けど……覚えておく」

 

 これ以上、タケシはマシロに何も言う事は出来ない。

 マシロは自分で決めた。

 タケシに出来る事はマシロが次に自分の前に現れた時にバトルする為の最高のガンプラを用意する事だけだ。

 マシロはタケシに見送られながら新たな戦いへと赴く。

 

 

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