ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
Battle59 「新会長」
第七回世界大会が終わり数か月が経った。
季節は夏から秋へと変わり、冬が近づいている。
世界大会準決勝時の大型アリスタ暴走事件により大型アリスタが破壊された事で、PPSE社は全世界にプラフスキー粒子の供給はすでに生成してあった備蓄分でやりくりするしかない状況に置かれていた。
更に大会期間中に会長のマシタ及び秘書のベイカーが行方不明となっている為、状況は最悪だ。
プラフスキー粒子を再び安定供給しようにも、PPSE社の内部でも粒子の関する情報は一部にのみか知らないトップシークレットとなっている為、難航している。
そんな中、PPSE社の重役達は本社の会議室に召集されていた。
重役達も呼び出された理由については誰も聞かされていないらしく、ざわついている。
重役達が集まって、少しすると一人の人物が入って来た。
ざわついていた重役達もその人物を見て静まり返る。
「やぁ諸君。こうして直接会うのは初めましてだね」
重役達も面識こそないが、その人物を知っていた。
きっちりとスーツを着込んだ人物こそがマシロ・クロガミ、今年の世界大会の覇者だ。
マシロは重役達を気にする事無く空いていた席に座る。
「ここに皆を集めたのは他でもない。今日から俺がPPSEの会長になったから」
マシロは普段と変わらない口調だが、とんでもない事を口にした。
世界大会の時にマシタが行方を暗ませてから会長の席は空白だった。
それよりもプラフスキー粒子の供給が出来ない事の方が重要だったからだ。
そこにPPSEとは無関係なマシロが会長になったと言ってもすぐに理解できる訳もない。
「マシタ前会長は歳のせいで田舎に帰って隠居する事になったから。ついでに秘書も付き添いで」
マシタの行方もPPSEは探していたが、未だに行方が分からず最悪警察の方に届け出る用意もしていた。
だが、マシロの言っている事は無茶苦茶だった。
マシタは若いとは言えないが、隠居する程の歳ではない。
更にわざわざ秘書であるベイカーが付き添う理由もない。
隠居するならするで事前に重役達は聞いている筈だ。
「俺が会長になるって事はいろんなところにも話しは通してあるから」
マシロが会長になると言って簡単になれる物でもない。
マシロがここまで自信満々に言っているところから察するにすでに双方に根回しは済んでいるのだろう。
そして、これが意味する事は一つしかない。
クロガミグループによるPPSE社の乗っ取りだ。
マシロ自身に会長としての職務が全うできるとは思えない。
それでもマシロを会長としておいたのはクロガミグループからの指示で動くからだろう。
「文句があるなら聞くけど? お宅らも良い大人なんだからさ。ここでどういう態度を取ればいいか分かるでしょ?」
それは遠回しの脅しでもあった。
マシロのバックにクロガミグループがある以上、下手に抵抗すれば今まで培って来た地位が一瞬で崩れ去る事になる。
場合によってはクロガミグループがマシタに対して何かをした可能性もあるが、そこに踏み込んだところで自分達に利益がある訳でも無く、そこまでマシタに忠誠を誓っている訳でもない。
寧ろ、ここはマシロに対して下手に出て気に入られた方がクロガミグループに引き抜かれる可能性もある。
PPSE社も世界的な企業だが、プラフスキー粒子の生成できなり後のないPPSE社よりも様々な分野で功績を上げているクロガミグループに引き抜かれた方が良い思いが出来る。
重役達はマシロに反発するよりも大人しく従った方が得だと考えると誰もがマシロを新会長と認めていく。
「よろしい。まずはワークスチームのアダムス主任」
「何でしょうか?」
アランはマシロが新会長になると言う事は納得はしていないが、周りがマシロを認める空気となっている為、大人しくしていた。
「君のところのメイジン、クビ」
「は?」
マシロは親指で首を切る仕草をする。
余りにも軽く言う為、アランはすぐには理解出来なかった。
「だからクビだって言ってんの。前から思ってたんだよね。メイジンをファイターとして看板にするのは良くないってさ。だって初代はファイターじゃなくてビルダーじゃん。ファイターとも今年の世界大会で結果を出せなかったし」
今年はワークスチームから三代目のメイジンが出場し、準優勝を果たしている。
優勝は逃したが、準優勝と言う事で結果を出したと言う事になっていたが、マシロはそれでは結果として認めないらしい。
「しかし!」
「これは決定事項。すぐにでもメイジンには荷物をまとめて出て行くように通達しといて。もう、メイジンの時代は終わったんだよ」
抗議するアランだが、マシロは意見を聞く気が無いらしい。
「で、これからは新しい象徴が必要な訳」
マシロが指を鳴らすと新たな人物が入って来る。
フルフェイスの仮面に黒いマントをなびかせて入って来る。
「紹介するよ。彼はマイスター、俺が認めた最強のガンプラファイター。彼に今後のガンプラバトルを先導して貰う」
素顔はおろか名前すらも伏せたマイスターの登場に重役達も動揺を隠せない。
だが、マシロはそんな重役達の事を気にする事無く話しを進める。
「今後の事は負って通達する。んじゃ、解散」
有無を言わさずにマシロはこの場を解散させる。
重役達は混乱しているが、マシロが新たな会長となった事を様々な方面に通達する為に、仕方が無く出て行く。
「はぁ……終わった」
重役達が出て行き自分とマイスターの二人きりとなってネクタイを緩めてマシロは一息つく。
「ご苦労さま。しろりん」
マイスターがフルフェイスの仮面を脱ぐと中にはマシロの義理の母であるユキネが入っていた。
「だからその呼び方は……」
「頼まれていた通りにしたけど、これで良かった訳?」
「まぁ、上出来だよ」
マイスターの中身にはマシロがユキネに頼んで入って貰っていた。
マイスターの衣装はフルフェイスの仮面とマントである程度は中身を誤魔化せる。
「しろりんにしては回りくどい事してるわね。ユッキーに頼んでPPSEを乗っ取ったりまでしてさ」
「元々兄貴はそうするつもりで動いていたよ。それに俺の目的を果たす為にPPSEもマイスターも必要だからね。プロジェクトエデンにはさ」
マシロがPPSEの新会長となったのは、マシロがユキトに頼んだからだ。
世界大会でマシタが行方不明になった時からユキトはPPSEを手中に収める為に動いていた。
マシロを会長に据えたのも、単に会長を傀儡にするのにちょうどいいと言う理由だ。
そして、マシロもPPSEの会長になる事で目的の一つを果たせる。
「しろりんのやりたい事は大体予想出来るけどさ……分かってるよね? しろりんのやろうとしている事は下手をすれば膨大な死人が出かねないわ。しろりんはそうなった時に責任を負う覚悟はあるの?」
ユキネもマシロがやろうとしている事の全貌は聞いていない。
それでも、自分の聞いている範囲の情報からある程度の事は予想出来る。
そこから推測できるだけでも、下手をすれば死人が出かねない。
それも一人や二人と言うレベルの話しではない。
「覚悟なんてないよ。母さんの言う通り、下手をすれば人類の半分だって死ぬかも知れない。だけどさ……そんな責任は人の背負えるレベルじゃない。それにさ、俺はもう自分に嘘をつく事は止めたんだよ。だから、俺は完全無欠の大団円以外の結末は要らないし、認めない。それでも俺の望む結末を得られない世界なら一度滅んだ方が良い」
マシロも自分の行いの果てに起きうる可能性は分かっている。
だが、マシロは今まで自分に嘘をつき続けて来た。
だからこそ、自分に嘘をつく事は止めて自分のやりたいように生きる事を選んだ。
マシロにとって、その結末は望む物ではない。
「要は全てが上手く行けば良い。それだけの事だろ」
「成程……さっすが私のしろりん」
ユキネはマシロに自らの行いに対する責任を背負う覚悟を聞いたが、マシロはそんな覚悟ではなく、自分の望む結末を得る覚悟を決めているようで満足そうにしている。
「私に出来る事があればどんどん言っちゃってよ! もう、何だってしちゃうよ!」
「別に良いよ。これは俺の戦いだから。母さんは俺の言った事だけしてくれれば十分だから。後は余計な事をしないでくれれば良いから」
ユキネに頼めば楽にマシロの望む結果を得る事が出来るだろう。
それでは意味がなかった。
マシロが自分でやるからこそ意味がある。
マシロは緩めたネクタイを締めて出て行く。
「少し見ない間にずいぶんと成長したみたいだけど……もう、やってたりするんだよね。余計な事」
そんなユキネの呟きがマシロに届く事は無かった。
マシロがPPSEの会長に就任してから数日、マシロはPPSEの研究施設を訪れている。
現在のPPSEが生き残るにはプラフスキー粒子の再製造が急務となっている。
マシロは外部からプラフスキー粒子を再製造する為に必要な人員を大量に引き抜いて研究させている。
その甲斐もあって、すでにある程度の目途が立ちつつあった。
後はそれを出来るだけ早急に安定供給を可能にさせる必要がある。
「流石は会長です」
「当然の事だよ。優秀な人材をわざわざ引っ張って来たんだ。成果が出なければ意味はない」
マシロに研究者が現在の進捗状況に付いて説明している。
マシロが引っ張って来た研究者が入って来た事で、粒子製造に関する研究は一気に進んでいる。
「そもそも、情報を秘匿し過ぎたせいでいざと言う時に対応できないからこうなった」
今まで研究が上手く行かなかった最大の要因は粒子生成に関しては社内でもトップシークレットだった事にある。
そのせいで、情報が殆ど無く、行き成り粒子を生成するように言われてもすぐには出来ずにいた。
「とにかく、順調で何よりだ。プロフェッサーにはこの調子で研究を続けるようにと伝えて置いてくれ」
「了解しました」
現在の粒子生成の研究はマシロが外部から連れて来た学者を中心となって行われている。
マシロがプロフェッサーと呼ぶ科学者が加わった事で一気に研究が進んでいる。
「俺は少し忙しいから後は任せる」
粒子製造の方が順調であると確認できればマシロがここに来た目的は果たされている。
粒子の製造に関しては専門外である為、これ以上ここにいたところでマシロに出来る事は何もない。
マシロは後の事は研究施設の職員に任せる。
そのままマシロは待たせて置いた車で静岡にあるホワイトファングを訪れていた。
元々はマシロが静岡の日本第一地区から世界大会に出る際に地区のファイターの情報を集める為に作った場所ではあるが、用が無くなったと言ってすぐに撤去出来る規模の物でも無い為、未だに営業は続けている。
すでに営業時間が終わっている為、店内は営業時間の時のような賑わいは無くガラリとしている。
「で、何でお前が居る訳?」
マシロがここに来たのは視察と言った類の物でも客として来た訳でも無い。
「騙すようで悪いと思ったけどな」
マシロを呼び出したエリカは少しバツが悪そうにしている。
マシロの前には呼び出したエリカだけではなくシオンの姿もある。
「私が彼女に頼んだのよ。私が呼び出しても無視しそうだから」
「確かに」
呼び出したのはエリカではあるが、シオンがエリカに頼んだらしい。
シオンもエリカ同様にマシロの連絡先は知っているが、シオンが呼び出してもマシロは無視しそうだから、自分よりも呼び出しに応じそうなエリカに頼んだ。
エリカがこの場に居るのは自分の名を使って呼び出して置いて、自分がいないのは流石にまずいと思ったからだ。
「で、エリカを使ってまで俺を呼び出したのは何で? 俺は色々と忙しいんだけど」
「クロガミグループ内に居ると色々な情報が入って来るわ。その中に少し気になる話しが耳に入ったのよ」
「情報ね……」
「グループがピンポイントでガンプラバトルに関わって来るようだけど」
シオンはマシロの世話係を止めたとはいえ、優秀さは買われている為、クロガミグループ内で働いている。
そんなシオンの耳にクロガミグループがガンプラバトルに本格的に参入すると言う話しを耳にしたらしい。
「事実だけど、シオンには関係のない話しだろ」
「そうね。ただ、余り良くない噂も聞いているのよ。わざわざPPSEを乗っ取った事とかね」
「それも事実だ(情報が洩れてる? レイコの奴がこんなミスをするとは考え難い……成程、余計な事をするなって言っておいたんだがな。手遅れだったか)
クロガミグループがガンプラバトルに参入する事は少し調べれば分かる事だ。
だが、PPSEを乗っ取ったと言う事はマシロが会長になってからまだ数日の事で、マシロが会長になったと言う事も公にされていない。
当然、情報管理はレイコによって徹底されている為、幾らシオンでもそこまで調べる事は不可能だ。
そうなれば、内部から情報が意図的に漏れていると考えられる。
レイコがそんな事をすればどんな制裁を受けるか分かっている為、情報を漏らした事による制裁を恐れず、レイコの目を誤魔化して情報を流せる人物は限られている。
(だが、この事実は使えるか)
「PPSEが乗っ取られたとかどういう事だよ!」
エリカは事情を知らない部外者である為、驚いている。
「言葉通りの意味。PPSEはクロガミグループが乗っ取った。で、俺が新しいPPSEの会長って訳」
「マシロが? 一体総帥は何をしようとしているの?」
マシロが新しい会長になったと言う事はシオンも知らない事だが、驚きを隠しながら問いかける。
「ガンプラバトルの支配。PPSEを乗っ取ってやる事はそのくらいでしょ」
ある程度は誤魔化すかとも思われたが、マシロはあっさりと話す。
PPSEは世界的な企業ではあるが、あくまでもプラフスキー粒子関連の技術を独占する事で成り立っている。
その為、ガンプラバトル関連の方面にしか強みは無い。
だが、粒子関連の技術を秘匿し独占しているが、故にガンプラバトル関連においてはクロガミグループですら抑えている。
「支配って本気かよ!」
「でなければ、PPSEを乗っ取る意味はない」
「あのバトルを見て少しは変わったと思ったけど……堕ちるところまで堕ちたようね」
世界大会の決勝戦でのタツヤとのバトル。
あの時のバトルはシオンの見て来たマシロとは違っていた。
キヨタカの死からガンプラバトルに執着して、人との関わりに興味を無くしていたが、初めて会った時のように純粋にバトルを楽しんでいた。
だからこそ、PPSEに関する噂を耳にして、エリカに頼んでまでマシロと接触した。
「酷い言われようだな。聞きたい事がそれだけなら俺は帰る。これでも多忙の身何でな」
マシロは帰ろうとするが、その前にシオンが立ちふさがる。
「悪いけど、そうも言ってられないわ」
「ふーん。で、俺に言う事を聞かせないって言うなら、どうするか分かってここに呼び出したんだよな」
シオンがここにマシロを呼び出したのには理由がある。
マシロが話し合いに応じる気がない時の事も想定して、ここを選んだ。
状況は少し変わったが、やる事は変わらない。
「ええ。私が勝ってマシロを止める」
「そいつは無理だな」
ホワイトファングにマシロを呼び出した理由はここにバトルシステムがあるからだ。
ここのバトルシステムなら確実にバトルするだけの粒子がある。
話し合いに応じなかった時はマシロにバトルを挑んで勝って話し合いに持ち込むか、話しをさせるつもりだった。
マシロの性格上、話し合いに応じる事は無くてもバトルを拒否する事はあり得ない。
そして、バトルに勝てばマシロはその決定に従うだろう。
「ちょっと待った。悪いけど、アタシも戦わせて貰う」
「俺は構わないけど」
今まで蚊帳の外だったエリカも黙って見ている訳にもいかなかった。
マシロとしてはシオンとエリカを同時に相手にするくらい訳ない。
そして、マシロとシオン、エリカは店内の大型バトルに移動する。
「始めるか」
マシロはGPベースをバトルシステムにセットするとガンプラを置いた。
そのガンプラを見てエリカとシオンは少なからず驚いた。
今までのマシロのガンプラは白で塗装されていた。
だが、マシロが使おうとしているガンプラは今までのガンプラとは正反対に黒を基調としていた。
マシロが新たに使用するガンプラはガンダムAGE-3をベースとしたガンダム∀GE-3だ。
ガンダムAGE-3をベースにしながらも頭部はガンダムタイプ特有のツインアイではなく、ガンダムAGEにおける敵対組織であるヴェイガンのモビルスーツの特徴でもあるスリット状のセンサーをなり、掌にはビームサーベルと兼用のビームバルカンが内蔵され、サイドアーマーには推進ユニットも兼ねているヴェイガン系のモビルスーツ特有の翼のような形状となっている等、ヴェイガンのモビルスーツの特徴を持っている。
肩にはガンダムAGE-2を思わせる4枚の推進ユニットが取り付けられている。
頭部には2門の小型バルカンに両腕にはシグマシスドッズキャノンが装備されている。
「ガンダム∀GE-3。目標を殲滅する」
マシロが似つかわしくない黒いガンプラを使う事に対する動揺を隠しながら、バトルが開始される。
今回のバトルフィールドは海上ステージだ。
バトルステージに陸地は無く、水中と空中の二つで攻勢されている。
その為、水中適正か飛行能力や海上移動の方法を持たないガンプラの能力は著しく低下するステージだ。
エリカのセイバーガンダム・エペイストはベース機から飛行能力を持っている為、水中に入らなければ問題はない。
マシロのガンダム∀GE-3も肩と腰の推進ユニットは光波推進システムとリアアーマーとバックパックの高出力スラスターのお陰で、その見た目からは想像も出来ない機動力を発揮できる。
「シオンの奴は海か……」
エリカのガンプラは目視できたが、相手は1機だけだ。
空中にいないとなると、シオンの用意して来たガンプラは海の中と言う事だ。
「ガンプラの選択をミスったか? まぁ良い。先にそっちから落とす」
ガンダム∀GE-3は両腕のシグマシスドッズキャノンをセイバーガンダム・エペイストに向けて放つ。
シグマシスドッズキャノンはその名の示す通り、ドッズ系の武器同様にビームを回転させて貫通力を高めている。
その上で大火力である為、距離が離れていても十分な威力を発揮できる。
「この距離でこの威力かよ!」
セイバーガンダム・エペイストは回避して、アムフォルタスで反撃するも距離が離れている為、ガンダム∀GE-3に当たる事は無い。
「近づきさえできれば!」
「その必要はないわ。彼は私が何とかするから援護をお願い」
今まで波すら殆どなかった海上に突如、水柱が上がるとそこから三本の爪の付いた巨大な手が出て来る。
ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンを向けるが、ガンダム∀GE-3の下に巨大な影が出ていた。
マシロがそれに気づくが、すでに遅かった。
巨大な影からもう一つの手がガンダム∀GE-3を捕えた。
普段のマシロなら反応出来たが、水中の巨大な影によって手の影が隠れていた為、反応が少し遅れてしまった。
巨大な手に捕まったガンダム∀GE-3は水中へと引きずり込まれて行く。
「成程……ずいぶんと手の込んだ事をするな」
「このくらいはしないとマシロには勝てない事は分かり切っているわ。だけど、まだ終わりじゃないわよ」
シオンのガンプラは水陸両用の大型モビルアーマー、シャンブロだ。
そして、ガンダム∀GE-3を捕えているのは改造を施してワイヤーで遠距離まで飛ばせるようになったアイアンクローだ。
普通にバトルしてもシオンではマシロに勝てない事は十分に分かっている事だ。
だからこそ、策を弄して来た。
その一つがバトルフィールドだ。
マシロが得意としている高速での白兵戦において、水中でのバトルではぞんぶんに戦う事が出来ない。
それを見越して、多少は不公平にはなるが、バトルシステムを事前に設定でバトル時にランダムで選択されるフィールドは水中ステージに限定させている。
水中に引き込めばそれだけでマシロの能力は一気に低下する。
ガンダム∀GE-3は強引にシャンブロのアイアンクローから抜け出すとシグマシスドッズキャノンを向ける。
だが、ガンダム∀GE-3が撃つ前にシャンブロは大量の魚雷を撃ちだす。
「そう来たか」
水中で機動力を落としてもマシロの反応速度と技術なら攻撃に対処する事は予想出来る。
だからこそ、大量の魚雷を使って点ではなく面で責める。
ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンで迎撃する。
水中である為、ビーム兵器の威力は大きく減退させられている為、シグマシスドッズキャノンの出力を上げざる負えない。
出力を上げる事で水中でも使えるが、威力を上げている分、連射速度が落ちている事もあって魚雷の迎撃は追いつかない。
ある程度は迎撃が出来ている為、迎撃した穴をすり抜けながら魚雷を回避するが、回避しても魚雷は追尾して来る為、かわし切れずにシグマシスドッズキャノンでガードする。
「けど、その程度の攻撃じゃ効果はないけどな」
ガンダム∀GE-3はガンダム∀GE-2同様に特殊プラスチックでできている為、装甲の強度は高い。
魚雷を撃ち込まれた程度では傷を負う事は無かった。
「それも想定内よ」
シャンブロはアイアンクローを射出する。
2基のアイアンクローはガンダム∀GE-3の砲撃をかわしながら、2方向からガンダム∀GE-3を襲う。
シグマシスドッズキャノンで応戦しているが、水中で機動力の出せないガンダム∀GE-3は海上に出ようと浮上する。
だが、空中で待機していたセイバーガンダム・エペイストがアムフォルタスで攻撃する。
「こういうのは柄じゃないけど、悪く思うなよ」
空中からの攻撃を回避していると、シャンブロのアイアンクローがガンダム∀GE-3を再び水中に引きずり込む。
「やってくれるな」
「今日はどんな手段を使ってでもマシロに勝たないといけないのよ」
シャンブロの大量の魚雷がガンダム∀GE-3を襲う。
「これ以上、マシロに馬鹿な事をさせない為にも!」
魚雷をガードしたガンダム∀GE-3をアイアンクローで追撃する。
だが、特殊プラスチックで出来ているガンダム∀GE-3はこれだけの攻撃を受けてもダメージを受けているようには見えない。
シャンブロのアイアンクローはガンダム∀GE-3を攻撃しながらも本体を繋いでいるワイヤーでガンダム∀GE-3の動きを拘束した。
そして、先端部が開閉するとそこにはハイパーメガ粒子砲が内蔵されている。
「ここで止めて見せる!」
ワイヤーで動きを封じられているガンダム∀GE-3に対してシャンブロはハイパーメガ粒子砲を撃ち込む。
水中とはいえ、圧倒的な火力のハイパーメガ粒子砲が身動きの取れないガンダム∀GE-3を飲み込む。
「流石にマシロのガンプラでも……こいつは」
水中ではなく空中に居るエリカにもハイパーメガ粒子砲のビームが海面を突き破って見ている。
「……言いたい事はそれだけか?」
ハイパーメガ粒子砲の掃射を終えるとそこにはワイヤーで拘束された状態のガンダム∀GE-3が残されていた。
水中で多少の威力は落ちていたが、まともに回避も防御も出来ずにガンダム∀GE-3に直撃したが、ガンダム∀GE-3は目に見えた損傷はしていなかった。
「あの一撃を殆ど無傷で……」
「ずいぶんを好き勝手に言ってくれて」
ガンダム∀GE-3はハイパーメガ粒子砲により脆くなっていたワイヤーを強引に引きちぎる。
「あの日、俺と向き合う事を止めた癖に虫の良い事ばかり言って……」
ワイヤーの拘束を逃れたガンダム∀GE-3はシャンブロに一直線に向かって行く。
「だからこそよ。あの時、私がきちんとマシロと向き合っていればマシロは一人で戦い続ける事もなかったかも知れない!」
シャンブロは魚雷でガンダム∀GE-3を迎撃する。
「これは俺の戦いなんだよ。俺と向き合う事を止めたアンタが出る幕はないんだよ」
ガンダム∀GE-3は魚雷を無視して突っ込む。
魚雷がガンダム∀GE-3に直撃するが、ガンダム∀GE-3にダメージは無い。
「だからさ……」
魚雷を突破したガンダム∀GE-3はシャンブロに取りついた。
そして、両腕のシグマシスドッズキャノンをシャンブロに押し付けるとガンダム∀GE-3は青白く発光を始め、スリット状のセンサーがスライドし、ツインアイが露出する。。
「っ! マシロ!」
「邪魔すんなよ」
バーストモードを起動させたガンダム∀GE-3がゼロ距離からシャンブロにシグマシスドッズキャノンを撃ち込む。
バーストモードで強化された上にゼロ距離である為、シャンブロは表面に対ビームコーティング処理をしているのにも関わらずビームに撃ち抜かれた。
ガンダム∀GE-3に撃ち抜かれたシャンブロは戦闘不能とまではいかないが、海底へと沈んでいく。
そんなシャンブロを気にする事無く、ガンダム∀GE-3は海面へと浮上して行く。
そのままガンダム∀GE-3は勢いよく海上へと飛び出した。
「さて……次はお前の番だ」
「何だってんだよ」
ガンダム∀GE-3はシグマシスドッズキャノンを連射する。
セイバーガンダム・エペイストは回避するが、回避しきれずにバスターソードを抜いて盾の代わりにするが、一撃でバスターソードは破壊された。
「なんて威力してんだよ!」
セイバーガンダム・エペイストはソードライフルを連射し、ガンダム∀GE-3は両腕のシグマシスドッズキャノンをパージすると一気に加速する。
それに対してセイバーガンダム・エペイストはソードライフルをソードモードに切り替えて前に出る。
ガンダム∀GE-3は掌からビームサーベルを出して振い、セイバーガンダム・エペイストもソードライフルを振るう。
「世界大会での借りもついでに返させて貰う!」
「必要はないね」
2機はぶつかり合うも、ガンダム∀GE-3がセイバーガンダム・エペイストのソードライフルを押し退けると左手の掌からもビームサーベルを出して振るう。
とっさにシールドで防ぐも、シールドは易々と切り裂かれる。
シールドの爆発からガンダム∀GE-3が飛び出し、手を伸ばすとソードライフルを鷲掴みにする。
その状態からビームサーベルを出してソードライフルがビームサーベルに貫かれた。
「っ! こんの!」
セイバーガンダム・エペイストは足のグリフォンビームブレイドを展開して蹴るが、ガンダム∀GE-3は蹴りを頭部スレスレのところで回避する。
それと同時にタイミングを合わせて頭部のビームバルカンでセイバーガンダム・エペイストの足を破壊した。
「実力差もガンプラの性能差も圧倒的だ。悪い事は言わない。諦めろ」
「お前がガンプラバトルを支配するとか馬鹿な事言い出してんだ。退けるかよ!」
両肩のビームブーメランをガンダム∀GE-3に投げつけるが、ガンダム∀GE-3は両手のビームバルカンで撃ち落す。
その間に腰のビームサーベルを両方とも抜いたセイバーガンダム・エペイストは一気に距離を詰める。
「無駄な足掻きだな」
「うるせぇ!」
バルカンを連射しながら突っ込みセイバーガンダム・エペイストはビームサーベルを突き出す。
だが、ガンダム∀GE-3はセイバーガンダム・エペイストの腕を掴んだ。
片腕を掴まれるが、すぐにもう片方のビームサーベルを突き出すが、その腕も掴まれて止められる。
「ガンプラバトルは変わろうとしている。その変革は誰にも止める事は出来はしない」
セイバーガンダム・エペイストはガンダム∀GE-3を振り払おうと動くがガンダム∀GE-3を振り払う事は出来ず、距離が近い為、アムフォルタスは使えない。
この距離で使えるバルカンを至近距離から撃ち込むがガンダム∀GE-3の装甲に傷をつける事すら出来ない。
「だから支配するってのかよ! んなバトルに何の意味があるんだよ!」
「言いたい事はそれだけか?」
セイバーガンダム・エペイストの腕を掴んでいたガンダム∀GE-3は腕に力を入れて引く。
やがて、セイバーガンダム・エペイストの両肩のジョイント部分が限界を迎えてセイバーガンダム・エペイストの両腕が肩からもがれる。
「終わりだ」
両腕がもがれたセイバーガンダム・エペイストは最後の武器であるバックパックのアムフォルタスを前方に向ける。
しかし、ガンダム∀GE-3はビームを撃つよりも早く懐に入り込むと頭部を鷲掴みにする。
その状態でセイバーガンダム・エペイストを振り回すと首のポリキャップが外れて首より下が勢いよく吹き飛ばされる。
ボロボロなセイバーガンダム・エペイストでは体勢を立て直すだけの余力は残されていない。
そのまま、バトルフィールドの場外までセイバーガンダム・エペイストは飛ばされた。
ガンプラがバトルフィールドの外に出た為、その時点でエリカは敗北となる。
海底に沈んだシオンのシャンブロは戦闘不能と判定されていない為、まだバトルは継続中だ。
「これで分かっただろう。お前達が何をしても無駄だって事がさ」
エリカのセイバーガンダム・エペイストが場外、シオンのシャンブロは海底に沈んでいる。
バトル自体は終わっていないが、明らかに勝ち目はない状況だ。
マシロは二人の回答を待つ事無く、バトルを中断してガンダム∀GE-3を回収する。
「だから変革する世界を黙って見てろ」
マシロはそう言い残して帰ろうとする。
バトルに勝ってマシロを止める気だったシオンも結局、マシロに勝つ事が出来ずに何も言えない。
「待てよ! お前は良いのかよ! それで!」
だが、エリカはマシロの前に立ちふさがる。
そして、マシロの襟を掴む。
「離せよ」
「本当に正しいと思ってんのかよ! こんなこと!」
「正しいかどうかは関係ない。必要な事だ」
マシロとエリカは正面から睨みあう。
「ちっ……そうかよ」
マシロの言っている事に納得は出来ないが、エリカは掴んでいたマシロの襟を離す。
解放されたマシロは襟を正すと、エリカの横を通り過ぎる。
「……見損なった」
「だろうな。けど、俺はもう前に進むしかないんだよ」
エリカとすれ違いざまにマシロはエリカに聞こえるかどうかと言うくらいの声で呟く。
そして、マシロは振り返る事も無く店から出て行く。
マシロは立ち止まる事も戻る事も出来はしない。
すでに賽は投げられているのだから。