ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
タツヤとの間に亀裂が出来てしまった事に気づく事のないマシロはシオンと合流してホテルへの帰路についていた。
車を使わず、ホテルまでは歩いて帰っている。
これは、帰路でシオンが集めた情報を聞く為で、車と言う閉鎖空間ではどんなに慎重になっても盗聴器を仕掛けられる危険性があるとマシロが判断したからだ。
シオンは流石にこの規模の大会で相手チームの情報を得る為に盗聴はしないとも思ったが、引きこもりで普段から運動をしないマシロには良い運動になるだろうと敢えて歩いて変えることにした。
「予想通りの展開で次の対戦相手は……」
「それは明日、ユウキと一緒に聞けば良い。それよりも大至急調べて欲しい事がある」
次の対戦相手の事よりもマシロは気がかりな事が出来ていた。
それこそ、次の対戦相手の情報よりもだ。
「レンヤのチームのもう片方の奴だ」
マシロは決勝戦で当たると思われるクロガミ・レンヤのチームブラックゴッドのレンヤの相方の事が少し気になっていた。
特にこれと言って理由がある訳ではない。
ただ、漠然と何かあると感じた。
「一回戦の試合では余り活躍してなかったと思いますが……」
「それでもだ。理由は俺の感」
「分かりました。早急に調べさせます。ですが、場合によっては明日になるかも知れません」
「構わない。バトルが始まる前までに頼む」
流石にタツヤの素性を調べた時は親が有名なだけあって時間はかからなかったが、今度は少し時間がかかる。
それでも翌日で分かる辺り、彼らの持つ情報網がそれだけの力があると言う事だ。
「やはり、マシロ君ではないか!」
「……ラルさん?」
マシロが呼び止められて立ち止まるとそこにはランバ・ラルに良く似た人物、ラルさんが息を切らしていた。
「まさかとは思って追いかけて見たが、やはり君だったか……」
大会の観戦に来ていたラルさんはマシロを見かけてもしやと思って追いかけて来たようだ。
多少、時間がかかった事が息を切らしている理由だ。
「そっちは……シオン君か! 君の方はずいぶんと様変わりをしたようだね」
「……まぁ、色々とありまして」
ラルさんは息を整えて、シオンは少し遠い目をする。
マシロもシオンもラルさんと会うのは数年ぶりだ。
そんなラルさんの目から見ればシオンはかなり様変わりをしている。
「マシロ君の方は相変わらずのようだね。その白いマフラーを見てピンと来たよ」
「これは昔、大切な奴に貰った大切な物だからな」
マシロはそう言って懐かしそうにマフラーに触れる。
前に会ったのは数年前だが、その時も季節外れのマフラーをしていた事が印象に強く、それを見てラルさんもすぐにマシロだと言う事に気が付いた。
「ラルさんは相変わらずラルさんだけど、なんでいんの? 今日は平日じゃん」
「……ユウキ少年が出ると聞いてな。彼は実績こそは公では余り知られてはいないが、実力は同年代の中では飛び抜けていて、次世代のガンプラバトルを担う一人と言っても過言ではないからね。そんな彼が大会に出ると聞いては見るしかないだろう。だが、見に来てみれば相方が君だったことは驚いたよ。いつ日本に?」
「先週。俺も大会に用があってね」
「申し訳ありませんが、私が用があるのでこの辺りで失礼しても宜しいでしょうか?」
話しが長くなると踏んだシオンはそう言う。
用とはマシロに頼まれた事だ。
少しでも早く動き出した方が集められる情報も多く正確となる。
「おっと、済まんな」
「いえ、用は私一人で大丈夫ですので、マシロ様はラルさんと積もる話しもあるでしょうし」
「任せる」
情報収集をシオンに任せて、マシロはラルさんと近くの喫茶店に入る。
注文を終えると二人は一息つく。
「中佐の事は残念だった。まさか、あの人が事故であっさりと亡くなってしまうとはね……」
「結局、父さんも人間だったって事でしょ」
ラルさんの言う中佐とはマシロの父親の事だ。
ラルさんとは父を通じての知り合いで、その父親とは古い友人であった。
そのマシロの父も数年前に事故で死んでいた。
当時はその事は大きなニュースとなり、ラルさんもニュースでマシロの父の訃報を知る事となった。
「で、そんな昔話しをする為に俺を呼び止めた訳じゃないんでしょ?」
「せっかくの再会なんだ。もう少し昔話しに花を咲かせても良かったんだがね。本題に入るが、マシロ君はチームネメシスの事は知っているかね?」
「メタンハイドレートの発掘王が少し前に作ったガンプラチームの事だろ? ネットでニュースになってた」
ラルさんの言うチームネメシスはマシロの言う通りメタンハイドレートの発掘王ヨセフ・カンカーンシュルヤが設立したガンプラチームだ。
ガンプラチーム自体は多いが、その大半は個人が友人たちと作った物が多く、企業などがスポンサーに付くケースはほとんどない。
オーナーであるヨセフが自身の資金をフルに投入して設備やファイターを充実させている事で話題を呼んでいる。
「そのネメシスのエースと言えばガウェイン・オークリーではあるが、未だに表舞台に現れることのない幻のエースが存在していると言う噂を耳にしてな。その幻のエースは白いガンプラを使ったビームサーベルによる二刀流を駆使して圧倒的な実力を持つと言われている。マシロ君は何か知らないかね?」
「ラルさん……それって、質問? それとも確認?」
ラルさんの言い方は広い情報網を持つマシロにネメシスの幻のエースの事を聞いているようにも見える。
だが、マシロはその事を質問していると言うとよりも、何か確信を持って言っているように聞こえた。
「だとしたら、答えはYESだよ」
「やはり君だったのか」
ラルさんは大して驚いた様子は見られなかった。
寧ろ、納得している様子だ。
「てか、俺はネメシスのファイターとしてバトルした事はないんだけど、なんで知ってんのかなぁ……」
「人の口には戸は立てられないと言う事だな。それにしても以外だな。マシロ君はそう言うのには興味がないと思っていたが……何か心境の変化はあったのかな?」
マシロはある事情から表だってネメシスのファイターとしてのバトルを行った事は無い。
それでも、本気で情報を秘匿した訳ではない為、情報が完全に秘匿できずに噂レベルで流れてしまう事は仕方がない事だった。
ラルさんの知るマシロはチームに属するタイプではなかった。
だが、今はチームに属している。
この数年で何かしらの心境の変化があったと考えるのも自然な事だ。
「別に……兄貴の命令だから」
「お兄さんと言うと……ユキト君の事か?」
「そっ、今はその兄貴が家を仕切ってんの。んで、うちのボスの孫がガンプラに興味を持ったからボスはネメシスを作って、兄貴はボスとの関係を良好にする為のご機嫌取りとして俺をネメシスに入れたって訳。無意味に敵を作る事は三流のする事だってのが死んだ父さんの口癖だからね」
チームネメシスの設立に当たり、不可解な事があった。
企業などがガンプラチームのスポンサーになる場合は何かしらのメリットがある場合が大抵だ。
それがない場合は、企業の社長が単にガンプラ好きと言うケースもあるが、ヨセフに関してはそのどちらでもない。
チームに金を使ったとしても、ヨセフにはメリットがなく、彼自身がガンプラやガンダムに興味を持っていると言う話しは聞かない。
だが、彼の孫がガンプラに興味を持っていたのであればそれも頷ける。
そして、父の死後家を取り仕切っているマシロの兄の命令でマシロはチームネメシスに所属させられていると言う訳だ。
「そんで、今はボスの孫の為に限定モデルのガンプラを手に入れる為にこんなところまで来てるって訳。つまんねーお使いだよ」
マシロが大会に参加する理由は優勝賞品のガンプラだが、それ自体にマシロは興味はないのだが、ヨセフが孫の為に手に入れて来いと言う事でマシロはここまで来たと言う事だ。
「マシロ君はそれで良いのか?」
「俺としても特別、やる事に代わりはないから気にする事もないよ。家の中で家の金でガンプラをやるか、チームでボスの金でガンプラをやるかの違いしかないし、ボスからはボスの命令さえ守れば好きに動いて良いって言われているし、チームの金も好きに使って良いって言われてるから家にいる時と結局のところ環境はそんなに変わらないし」
「そうか……」
マシロにとっては今までの家に引きこもる生活と今の生活に大した違いはない。
ただ、面倒な事が少し増えるくらいの差でしかない。
どの道、自分の好きなだけ、ガンプラを作りバトルする事が出来る。
「まぁ、家にいた時は基本CPU戦ばかりだったから、対戦相手が多く揃ってるってのはいいかな。ガウェインなんて練習相手には丁度良いし」
家にいた時のバトルの相手はマシロが自分で制作したガンプラを相手にCPU戦が殆どでたまにガンプラを買いに外出して適当な相手をバトルしている。
ガンプラを買いに行く国はその時々で違う為、対戦相手の実力にムラが大きい。
だが、ネメシスのファイターは実力者を集められていると言う事もあり、ある程度の実力者が揃っている。
その大半は相手にもならないが、チームのエースと目されているガウェインは世界レベルの実力者でマシロにとっては練習相手を務めることが出来る。
CUP戦とは違い生きた相手とバトル出来ることは、家にいる時よりも練習としては意味がある。
CPUはプログラム通りのバトルしか出来ない事に対して、生きた人間は独自で考えて行動して来るからだ。
そんな、マシロの事をラルさんは少し複雑そうな表情で見ている。
「用件はそれだけ? これでも明日のバトルに備える必要があるから暇じゃないから。帰るわ。会計はよろしく」
「忙しいところを済まんな」
「別に」
マシロはそう言って店を出て行く。
「中佐、貴方が危惧していた通りの事になっているようです。マシロ君は純粋でいて歪んでしまったようだ」
ラルさんはマシロの後ろ姿を見て呟いた。
マシロの父が生前にラルさんに話していた事がある。
それは、マシロがこのままでは純粋が故に歪んでしまうと言う事だ。
その当時は意味が分からなかったが、今の会話でそれを確信した。
「このままでは彼は破滅の道しかなくなるだろう。だが、ワシにはどうする事も出来んようです」
そして、マシロの父はそれによってマシロが将来的に破滅するかも知れないと言う事も危惧していた。
それを何とかしたいと思っていたようだが、間が悪く事故によってこの世を去っている。
友人の忘れ形見であるマシロを破滅の道から救いたいと願ったところで父の友人と言う関係でしかないラルさんにはどうする事も出来はしない。
「だが、家から外に出た事で何かきっかけがあれば良いのだが……」
ラルさん自身に出来ることは限られている。
だが、希望は残されている。
今までは家の中にいたマシロが理由はどうあれ外の世界に出て他人を関わりを持つようになっている。
本人が望まずとも、それは否応なく、マシロに影響を及ぼすだろう。
それによってマシロが破滅の道から外れて行くことを願うしかなかった。
大会を勝ち抜きベスト4まで残る事が出来たが、帰宅したタツヤの表情は暗い。
バトルの中で高機動型ザクⅡ改の完成系が見えて最後の改良をしているが、それ以上にマシロとの事が大きかった。
ガンプラの補修を行いつつも、上の空だった。
「負けた訳でも無いのに、出て行く時とは全然違いますけど、どうかしたんですか?」
「いや……何でもないよ。ヤナ」
タツヤは後ろでコーヒーを入れて来たメイドのヤナにそう言うが、タツヤとの付き合いの長い彼女には単に強がっているだけにしか見えなかった。
「私で良かったら話して見てはいかがですか? タツヤさんの事ですから、一人で考え過ぎて頭がハツカネズミにでもなってそうですし」
「そう……だね」
確かに、一人で考えたところで同じことをグルグルと考えるだけでどうしようもない。
タツヤはそこから抜けだす為にもヤナに今日の出来事を相談する事にした。
「成程成程……つまり、そのマシロ君が二代目メイジンと同じ考えなのではないかとタツヤさんは思っていると」
「要約すればね」
タツヤから事情を聴いたヤナは一息つく。
「それで、マシロ君は何って言ってました?」
「だから……」
「そうではなくてですね。勝つ事が全て発言に対してですよ。まさか、それしか聞いてないとか聞いていないと言う事はないでしょうね?」
タツヤは無言で返す。
それは明らかな肯定を示している。
「はぁ……駄目じゃないですか! ちゃんと話しをしないと! 対話は重要なんですよ! もしも、それが不幸な食い違いによる誤解だったらどうするんですか? その誤解から不和を呼んで分かり合えなくなっちゃいますよ」
「ヤナ、怖いんだよ。僕は……本当に彼が二代目同様に勝利のみを追求しているのであれば……僕はマシロ君と戦えない」
それがタツヤの本音だった。
マシロに詳しく聞く事は出来たはずだ。
それなのにそれをしなかったのは怖かったからだ。
二代目メイジンのようにただ勝利のみを求めているのであれば、タツヤはもうマシロと組んで戦う事が出来ない。
そうなれば、二人の関係が終わってしまう。
「タツヤさんは物事を深く読み過ぎかもしれませんよ。案外コーヒーを一杯飲んでいる間に解決できる程度のことかも知れないですよ」
「そんな単純な問題とも思えないよ。僕には」
「でも、このままでは明日で終わりなんですよ」
ヤナの言葉にタツヤはハッとしてしまう。
今までは余り考えていなかったが、ヤナの言う通りだった。
どの道、明日のバトルで勝っても負けてもマシロとのコンビは終わりだ。
マシロが大会後にどうするかは知らないが、日本に住んでいる訳ではなく、大会の為に日本に来ているのであれば大会終了後には帰国する可能性が高い。
「どの道、終わりなら当たって砕けてもいいんじゃないんですか? 出会いがあれば別れもあるんですから……上手く行かなくても今回はちょっと悲しい別れだったと言う事ですよ。でも、必ずしも上手く行かないって決まった訳でも無いんですし……仮にタツヤさんの考え過ぎだったら……このまま誤解したままだといつか後悔しますよ」
マシロが勝利する事をバトルにおいて最重要視している事は否定の出来ない事実かも知れない。
だが、それ以上はタツヤの推測にすぎない。
その道、明日で終わりだと言うのであれば当たって砕けると言うも一つの手ではある。
「最悪、タツヤさんも男の子なんですから、河原で夕日をバックに殴り合えば分かり合えますよ」
「いつの時代の話しだよ……ヤナ。でも、確かにそうかも知れないな。僕もマシロ君もファイターなんだ。なら、バトルの中で分かり合えば良いだけの事か……後は実行するだけか」
タツヤの中で何かが開けた気がした。
結局のところ、人と人との問題で相手がいないところで考えたでも答えが出る訳もなかった。
タツヤもマシロもファイターで、マシロもバトルでは嘘はつけない筈だった。
想いを新たにタツヤはガンプラを最後の改良を行う。
決勝戦の当日、マシロはシオンより先にホテルを出ていた。
何だかんだと言っても、久しぶりにガウェイン以外の世界レベルのファイターとのバトルで、マシロは夕べは一睡もしていない。
その為、朝早くから会場に向かっていた。
その道中で信号が赤となってマシロは止まろうとするが、待つのが面倒になり近くの歩道橋の方に向かった。
歩道橋を上り道路を渡る際に人をすれ違うも、歩道橋の上ですれ違った人の事を気にしないのは当然の事だった。
そして、歩道橋の下りの階段に足を踏み出そうとしたが、マシロの足の先には階段は無く、明らかに階段を踏み外していた。
流石に階段を踏み外すと言うドジをする訳もなく、それ以上に踏み出そうとした瞬間に背中に圧迫感を感じた。
人並外れは反応速度を持つマシロはすぐに自分の状況を把握する事が出来た。
何者かに背中を押されて歩道橋の階段から落ちかけている。
それを把握すれば次の手を考えることが出来た。
階段の手すりを持てば無傷とまではいかないが、最悪の事態は回避できる。
マシロは体を反転させて、手すりに手を伸ばそうとする。
だが、そこまで考えるとある問題が生じた事に気が付いた。
マシロは人間離れした反応速度とそこから一瞬にして思考を回転させる事が出来る。
そこだけを聞くとマシロは超人のようにも聞こえるだろう。
しかし、マシロの身体能力は同年代の女子にすら劣る。
自分の身体能力では手すりに手を伸ばして掴む事も難しく、仮に掴めたとしても落下を阻止する事も難しい。
最悪の事態は掴んで、落下の衝撃に耐えきれずに落ちることだ。
そうなれば手すりを掴んだ腕を怪我しかねない。
腕を怪我すれば、今日のバトルで影響が確実に出て来る。
それは何としても避けねばならない事態だった。
それらを総合してのマシロの判断は手すりを掴まずに落下すると言う物だった。
(糞ったれ……こういう手で来やがったか!)
マシロは腕を庇い視界が反転する中で毒づいていた。