ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle64 「8人目のファイター」

 

 

 序盤の二連勝からの三連敗。

 余裕のあった序盤からの一気に後がない状態へと追い込まれただけでなく、世界でもトップレベルのファイターの一人であるアイラが不安要素があったとはいえ、ありすにここまで簡単に敗北した事の衝撃は大きい。

 残る2戦はどちらかを落としただけで勝負が決まってしまう。

 

「行くぞ。セイ」

 

 最悪の状況の中、レイジがそう言う。

 残るファイターはレナード兄弟とセイ、レイジの2組だ。

 もう片方のレナード兄弟はまだ動く気がないように見える。

 レイジはニルスが敵側に回った事で頭に血が昇っていた事で、バトルを後回しにされていたが、もはや後回しに出来る程の余裕はない。

 

「ちょっ! レイジ!」

 

 レイジはセイの制止を聞く事無く、控室を出て行く。

 

「次は僕達が行って来ます!」

 

 セイもすぐにレイジの後を追いかける。

 すぐに追い駆けた為、セイはすぐにレイジに追いついた。

 

「レイジ、分かってると思うけど」

「……あの女、世界大会じゃ実力を隠してやがったんだな」

「多分ね。理由は分からないけど」

 

 ありすの実力は世界大会の時とは別人のようだった。

 使用するガンプラの性能もあったが、単純にファイターの実力も桁違いだった。

 あれから1月程が経っている為、それまでに実力を付けたと言う可能性もあるが、ありすの場合はそんなレベルではない。

 実力を意図的に隠すと言う事は決して珍しい事ではない。

 自身の情報を秘匿するのも策の内だ。

 しかし、秘匿した情報を最後まで見せないと言う事は殆どない。

 その場合は実力を見せる前に敗退するか、実力を全て出し尽くす必要がない時くらいで、大抵はタイミングを見計らって出すのが普通だ。

 

「俺たちが全力で戦って来た世界大会で最後まで実力を隠して負けて去ったってのが気に食わない」

 

 アイラとのバトルで見せた実力ならば、世界大会でフェリーニとバトルした際にももっと奮戦できたか、あるいはフェリーニに勝つ事も不可能ではない。

 だが、ありすは実力を隠したまま敗退している。

 理由は分からないが、実力を隠して負けたありすの行動は世界大会で優勝を目指して全力を尽くして来た他のファイターを馬鹿にしている。

 

「クロガミだか何だか知らねぇけど、ここまでガンプラバトルをコケにする奴らは俺たちでぶっ飛ばす!」

「言い方は少し物騒だけど、僕も賛成」

 

 世界大会はファイターならば誰もが憧れて目指す場所だ。

 セイもレイジと出会うまではファイターとして実力を伸ばす事が出来ずに毎年一回戦で敗退している。

 自分に世界大会まで勝ち進む実力がない事を自覚しながらも、負ける度に悔しい思いをして来た。

 そんな世界大会の決勝トーナメントで手を抜いて負けたと言うのはセイも良い気はしない。

 

「だけど、フェリーニさんが言ったように少し頭を冷やそう。僕達の次の相手は彼女じゃないんだからね」

 

 今回のルール上、同じファイターは2度はバトルする事は出来ない。

 その為、セイとレイジの相手がありすであると言う事は無い。

 

「あ……」

 

 会場に向かう途中で、セイとレイジは控室に戻るであろうアイラと遭遇する。

 二人を見つけたアイラは立ち止まり顔を背ける。

 レイジに大見得を切った手前、何も出来ずに負けて来て合わせる顔がない。

 セイもそんなアイラの心中を察してアイラを直視する事が出来ずに立ち止まるが、レイジは特に気にした様子も無く進んでいく。

 

「仇は取って来る」

 

 アイラとすれ違った時にレイジがそう言う。

 負けたと言う事実は変えられない。

 そして、負けたのは相手が卑怯な手を使った訳ではなく、単純に実力が足りなかったせいだ。

 だから、アイラに惜しかったや頑張ったと言っても慰めにはならない。

 今のレイジ達に出来る事はバトルに勝って次に繋げる事だ。

 繋ぐ事の出来なかったアイラの分まで。

 

「……お願い」

「ああ。俺達に任せろ」

 

 アイラの絞り出すような言葉をレイジは受け取る。

 レイジは振り向く事無く、進みセイはアイラの方をちらりと見ながらも声をかける事が出来ずにレイジの後を追いかけていく。 二人が会場に入るとすでに次の相手が待っていた。

 

 

「俺の相手は君たちか! 相手が子供とはいえ手加減はしないぞ!」

 

 バトルシステムから離れていても聞こえる程の声でハルキが二人を迎える。

 

「なぁ、セイ。あのおっさんの事、知ってるか?」

「ごめん。どこかで見た気はするんだけど……」

 

 セイもガンダムファンとしてはガンダムの舞台として使われる宇宙に興味がない訳ではない。

 

宇宙飛行士として活躍しているハルキの事はニュースか何かで見た事はあっても、宇宙飛行士自体にそこまで興味がある訳ではない為、記憶の片隅にしか残っていない。

 

「ガンプラバトルは練習以外でやるのは初めてだが可愛い弟の為にも勝たせて貰う!」

「こっちも譲れない物があんだよ」

 

 会話もそこそこにセイとレイジ、ハルキはバトルの準備を始める。

 互いにGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。

 

「スタービルドストライク!」

「行くぜ!」

 

 第6試合のバトルはランタオ島。

 地上ステージの中でも陸地と海があるステージだが、島の周囲にはリングバリアが展開されている為、島の外に出るにはリングバリアを何かしらの方法で破壊しなければならない。

 

「さぁ! バトルを始めよう!」

 

 開始早々ハルキのガンプラ、ガンダムマックスターはスタービルドストライクの前に降りて来てファイテングナックルを構える。

 

「何のつもりだ? 武器を持ってないぞ」

「あれで良いんだよ。Gガンダムのガンダムは拳その物が武器だから」

「そんな奴もあるのか」

 

 レイジは相手が武器を持っていない事を不審に思うが、ハルキの使用するガンダムマックスターはガンダムシリーズの中でも変わり種であるGガンダムに登場するガンダムだ。

 本来は腰に射撃装備のギガンティックマグナムを装備しているが、ハルキのマックスターはそれすらも持っていない。

 

「だから、距離を取って」

 

 セイが言い切る前にマックスターは距離を詰めると、スタービルドストライクの懐に飛び込むと拳を振り上げてアッパーを繰り出して来る。

 スタービルドストライクは後方に大きく飛んで、スタービームライフルを撃ちながら着地する。

 だが、マックスターは最小限の動きでビームを回避すると、再び距離を詰めようとする。

 

「やってくれるな!」

 

 距離を詰めようとするマックスターをスタービームライフルで迎え撃つが、やはり最小限の動きで回避する為、勢いを殺す事すら出来ない。

 

「コイツ!」

「目には自信があってね!」

 

 スタービームライフルだけでは手数が足りず、スタービームキャノンを使ってマックスターを止めようとするが、スタービームキャノンのビームをマックスターは拳で殴ってかき消す。

 マックスターはそのまま、自身の拳が届く距離に到達すると、連続でジャブを撃ち込む。

 それをスタービルドストライクは後退しながら回避する。

 

「良い反応だ! だが!」

 

 スタービルドストライクを責め立てるマックスターは更に踏み込んで渾身のストレートを撃ち込む。

 背後には岩があった為、スタービルドストライクは空中に逃げるしかない。

 マックスターのストレートはスタービルドストライクを捕える事が出来なかったが、代わりに直撃した岩を一撃で粉砕する。

 

「なんて威力してんだよ。俺達のビルドナックルと同じくらいか?」

「流石にそんな事は無いけど……」

 

 マックスターの一撃を同じパンチであるビルドナックルと比べるが、マックスターの一撃はビルドナックルと比べても劣ってはいない。

 単純な威力ならスタービルドストライクのビルドナックルの方が上だが、ビルドナックルとは違い、マックスターのストレートは使用に制限がない。

 

「ガンプラの性能はこっちの方が上なのは確かなのに……」

「こんな戦い方をする奴は初めてだ」

 

 ハルキのマックスターはかなり丁寧に作り込まれているが、世界大会では平凡なレベルだ。

 セイのビルダーとしての技術とアイディアを注ぎ込んで制作したスタービルドストライクとは完成度は大きく差が付いている。

 だが、流れは完全に向こう側だ。

 最初の一撃で流れを持っていかれたのだろう。

 レイジ自身、近接戦闘に特化したガンプラやファイターとのバトルは何度も経験している。

 しかし、ハルキの場合は更に踏み込んで来る。

 そんな相手とのバトルの経験の少なさに加えて、ハルキはここまで踏み込んだ戦いになれている。

 初戦のマシロやフェリーニとバトルしたニルス、手を抜いて決勝トーナメントまで勝ち進んだありす、プラフスキージャマーを使ってバトルすらしなかったユキネを除いて、ルワンとバトルしたアレックスは実力はルワンを追い詰める程だったが、明らかに油断が見えていた。

 それは元々、ガンプラバトルとは無縁だが、自分の持つ能力にに絶対の自信を持って上で相手を見下していたのだろう。

 ハルキはガンプラバトルの世界では名が知られていない辺り、アレックスと同様に元々はガンプラバトルとは無縁だったと推測は出来る。

 アレックスはガンプラの性能と自分の能力を過信した戦いをしていたが、ハルキの動きはそれがない。

 自分の持つ能力からバトルスタイルを確立し、今日の為だけにそれを磨いて来ている。

 そして、相手が年端もいかない子供が相手だろうと決して手を抜く事も気を緩める事もしないで勝ちに来ている。

 

「けど……燃えて来た」

 

 レイジはありすの行動やアイラの仇討ちなどはどうでも良くなりつつあった。

 相手がありすのようにムカつく相手ならばそうはならなかったが、運が悪い事に目の前の相手は今まで世界大会で戦って来たファイターの様に本気でバトルしている。

 そんな相手を前に余計な事を考えてバトルする事など出来る訳が無い。

 スタービルドストライクは着地するとマックスターを対峙する。

 

「ビームを幾ら撃っても当たる気がしねぇ。それに相手が拳一つで来るならこっちも……構わないな! セイ!」

「そうだね。本来なら、止めて有効な策を考えるのが僕の役目なんだけど……このバトルステージで火器は無粋だ。思いっきり行け! レイジ!」

「おうよ!」

 

 スタービルドストライクは持っていたスタービームライフルを捨てると左腕のアブソーブシールドをパージする。

 バックパックのユニバースブースターも少しでも軽くなる為にパージすると拳を握り締めて構える。

 そして、RGシステムが起動するとスタービルドストライクの内部フレームは青白く発光する。

 RGシステムの光が次第に右手に集まって行き、右手の光が強くなる。

 

「面白い! 真っ向勝負で来るか!」

 

 対するマックスターも金色に輝きハイパーモードとなって拳を構える。

 

「ビルドナックル!」

 

 2機はほぼ同時に地を蹴り渾身の一撃を繰り出す。

 スタービルドストライクとマックスターの拳がぶつかり合って、その余波で周囲を吹き飛ばす。

 

「大した威力だ! だが、踏み込みが甘い!」

 

 ビルドナックルと渾身のストレートの勝負はマックスターのストレートに軍配が上がり、スタービルドストライクは大きく吹き飛ばされる。

 

「ちくしょう!」

「そんな……ビルドナックルが正面から破れるなんて!」

 

 地面に叩き付けられたスタービルドストライクの所々にヒビが入り、そのダメージの大きさを物語っている。

 今まで必殺の一撃だったビルドナックルが正面から破られた事で、スタービルドストライクを制作したセイの精神的なダメージは大きい。

 二人は気づかなかったが、純粋な威力でビルドナックルが破られた訳ではなかった。

 マックスターはぶつかる直前にスタービルドストライクよりも更に一歩踏み出す事で、スタービルドストライクがビルドナックルを振り切る前にストレートをぶつけてビルドナックルの威力が最大になる前に勝負している。

 

「まだだ! まだ俺達は負けてねぇ!」

 

 損傷しながらもスタービルドストライクは立ち上がる。

 ビルドナックルを破られたものの、スタービルドストライクは戦闘不能となった訳ではない。

 立ち上がったスタービルドストライクは拳を構える。

 

「レイジ……確かに僕達はまだ負けてない。それに負けられない理由もある」

「そう言うこった」

「さっきは競り負けたけど……」

 

 セイの方からRGシステムを起動させてスタービルドストライクの内部フレームは再び青白く光始める。

 そして、ビルドナックルを使う為に右手に光が集まって行く。

 通常のビルドナックルを使う時は全ての粒子を右手に集中させる事で威力を一点に集めているが、今度は全ての粒子を回していない。

 その為、通常時よりも右手の光は小さく、内部フレームが微かに光を帯びている。

 

「これなら威力は少し落ちるけど、踏ん張りは効くよ」

 

 セイがわざわざ、全ての粒子を使わなかったのは、RGシステムを少しで全体で維持させる事で正面からぶつかった時に少しでも踏ん張りを効かせるようにする為だ。

 これなら、ビルドナックル自体の威力は多少落ちるものの、機体性能を上げている為、正面からぶつかった時に踏ん張りが利いて競り負けないようになる。

 

「成程な……なら、俺も負けてられないな」

 

 レイジがそう言って、操縦桿を操作するとスタービルドストライクの右手の拳が腕との付け根から回転を始める。

 セイがRGシステムの粒子の操作を工夫したようにレイジもビルドナックルの威力を上げる工夫をした。

 世界大会でアイラとバトルした際にはディスチャージシステムのスピードモードと併用する事でビルドナックルの威力を上げたが、今回は相手がビームを使わないと言う事でアブソーブシステムが使えず、ディスチャージシステムを使うだけの粒子はまだ集まっていない。

 ディスチャージシステムが使えない為、別の方法で威力を上げようと右手を回転させた。

 これならば、右手が回転している分、ビルドナックルの威力も上がる。

 

「こいつで!」

「ただの遊びだと思っていたが、成程! マシロが熱を上げるのも分かる!」

 

 ハイパーモードのマックスターの拳が炎を上げる。

 そして、2機のガンプラは再び一気に加速して距離を詰める。

 

「スピニング!」

「ビルドナックル!」

 

 スタービルドストライクの拳を回転させたビルドナックルと炎を纏うハイパーモードのマックスターの拳がぶつかり合う。

 最初の激突よりも更に激しい余波が起こる。

 

「ぶち抜け!」

 

 RGシステムで機体強化を行っている為、スタービルドストライクも前のように競り負けると言う事は無いが、競り勝つと言う事も容易ではない。

 

「いっけぇ!」

 

 ぶつかり合う2機のガンプラだが、遂にはマックスターの拳にヒビが入って行く。

 回転するビルドナックルがマックスターの拳を打ち砕き、その胴体にビルドナックルを打ち込んだ。

 ビルドナックルを撃ち込まれたマックスターは島を覆うリングバリアまで吹き飛ばされると機能を停止する。

 マックスターとの勝負に競り勝ったスタービルドストライクだが、受けたダメージも相当でRGシステムが解除されて膝をつく。

 リングバリアまで吹き飛ばされたマックスターは完全に沈黙し、バトルシステムがバトルの終了を告げた。

 

「負けた! 負けた! 油断していたつもりはなかったんだがな!」

「おっさんも結構、強かったぜ」

 

 バトルが終わったが、ハルキは余り負けた事を気にしていない様子だった。

 一方のレイジの方もバトル前までは頭に血が昇っていたが、正面からぶつかり合った事で相手を認めるだけの冷静さは取り戻している。

 

「次が最後か! 健闘を祈る!」

 

 ハルキはそう言って戻って行く。

 そんなハルキを見てセイとレイジは呆気にとられて顔を見合わせて苦笑いする。

 だが、これで3勝3敗で次の7戦目の勝敗で勝負の行く末が決まる。

 バトルに勝利したセイとレイジは控室に戻る。

 

「勝って来たぞ」

「あれだけ大きい事を言ったんだから当然じゃない」

 

 控室に戻ってすぐにレイジはアイラにそう言うが、アイラは素っ気なく返す。

 それによって売り言葉に買い言葉でレイジとアイラは口論を始めるが、世界大会後のイオリ模型店では日常的に行われている為、セイは苦笑いをするだけで止める気は無い。

 

「何とか勝つ事が出来ました」

「遂に真打登場ってか」

 

 今までバトルに行く気が全くなかったレナード兄弟が立ち上がる。

 レナード兄弟の実力は世界大会でマシロを相手に十分に戦える程だが、この場面で全面的に信頼できるかと言えば否だ。

 だが、ルール上7戦目のファイターはレナード兄弟意外に出る事が出来ない。

 

「まっ、俺達がサクッと勝って来てやるから安心して見てろよな」

 

 弟のフリオが捨て台詞を吐いてレナード兄弟は控室を出て行く。

 

「フリオ、手筈通りにやるぞ」

「分かってるって。兄貴」

「最後が貴方達なら私の勝ちは揺るがないわね」

 

 レナード兄弟の対戦相手は世界大会でマシロのセコンドを務めていたレイコだった。

 レナード兄弟にとっては世界大会で策を強引な策で潰した因縁の相手でもあった。

 

「はっ! 頭でっかちに俺達兄弟が負けるかよ」

 

 フリオが軽く挑発し、バトルが開始される。

 今回のバトルフィールドはコロニーレーザー内だ。

 要塞内のように閉鎖空間だが、外には宇宙が広がり一定時間でコロニーレーザーが発射される為、場所によってはコロニーレーザーの発射時は危険となるバトルフィールドだ。

 

「俺達に有利なフィールドになったな」

 

 ジムスナイパーK9はコロニーレーザー内の通路を進む。

 今回は通常装備に加えて、ブルバップマシンガンとシールドを装備して、狙撃だけでなく通常戦闘でも十分に対応できるようになっている。

 すでにバックパックを分離させて別行動をさせている。

 コロニーレーザー内は閉鎖空間である為、狙撃はやり辛いがトラップを設置するには適している。

 通路を進むジムスナイパーK9の前にビームキャノンを装備したビルゴⅡがビームキャノンを構えていた。

 すぐにブルバップマシンガンを連射するが、ビルゴⅡのプラネイトディフェンサーが弾丸を弾く。

 

「ちっ!」

 

 ビルゴⅡがビームキャノンを放ち、ジムスナイパーK9は別の通路に逃げ込む。

 それをビルゴⅡが追いかける。

 

「釣れたぞ。兄貴」

「そのままだ」

 

 後ろを取られているが、ビームキャノンをチャージしているビルゴⅡとジムスナイパーK9との距離が次第に離れていく。

 

「そこだ」

 

 ジムスナイパーK9を追うビルゴⅡの近くが突然、爆発を起こしてビルゴⅡは爆発に巻き込まれた。

 

「やったか?」

「この程度で終わる訳が無い。次のポイントへ向かうぞ」

「了解だ」

 

 爆発の中からプラネイトディフェンサーを展開したビルゴⅡが出て来る。

 

「相変わらず芸のないトラップね」

 

 レイコがパネルを操作すると、コロニーレーザー内のマップが映し出される。

 そこにはジムスナイパーK9の現在位置が映し出されている。

 

「成程ね。次は……」

 

 レイコはパネルを操作すると、ビルゴⅡは動き出す。

 本来ならばファイターが操縦桿でガンプラを動かすが、レイコは自分ではなく予め用意したプログラムによって自動操作でバトルを行っている。

 レイコ自身は一切の操作をする事無く、状況に合わせてプログラムを切り替えるだけだ。

 

「さて……借りの始まりよ」

 

 移動するジムスナイパーK9の現在位置を見てレイコはほくそ笑んでいた。

 

「ついて来ないな」

「油断するなよ」

 

 ビルゴⅡを撒いたジムスナイパーK9は次のポイントを目指して通路を進んでいた。

 すると、前方からビルゴがビームライフルを構えて出て来る。

 ジムスナイパーK9はすぐさまブルバップマシンガンを連射してプラネイトディフェンサーを展開する前にビルドを撃破した。

 

「モビルドールか」

「向こうも俺達みたいな事をしてるって事か」

 

 ビルゴを撃墜したが、バトルシステムはレナード兄弟の勝利を告げない。

 ルール上は各ファイターが使用できるガンプラは1機のみだが、中にはビットモビルスーツやモビルドール等、複数のガンプラを使用する事が出来る。

 その際にはファイターが操作しているガンプラが撃墜されない限りは幾ら、撃墜しても意味はない。

 逆に支援機扱いではない為、ファイターが操作しているガンプラが撃墜された時点でそのバトルには敗北となる。

 レイコは自分の操作するビルゴⅡ以外にも複数のビルゴをモビルドールとして配置しているのだろう。

 ジムスナイパーK9が通路を進んでいると、ビルゴが飛び出して来て、そのつどブルバップマシンガンで撃墜して通路を変えるざる負えない。

 

「向こうも誘っているな」

 

 ビルゴが出て来るのは決まって進路を変更できる場所のみだ。

 恐らくは向こうもレナード兄弟を誘導しているのだろう。

 

「どうする兄貴?」

「誘っていると言う事はその先に切り札を用意していると言う事。ならば、そいつを潰してしまえば万策も尽きるだろう」

「違いない」

 

 相手が直接戦闘を避けて誘っていると言う事はその先で確実に仕留める事が出来るだけの物を用意していると言う事だ。

 それが分かっていれば、それを避けると言う手段も取れるが、兄、マリオは敢えて相手の術中に飛び込むと言う選択をした。

 相手にとって必勝の策ならば、それを打ち破れば相手の万策も尽きる。

 ジムスナイパーK9はビルゴを破壊しながら先へと進む。

 一方のレイコのプログラムで動いているビルゴⅡもレナード兄弟が設置したトラップを破壊しながら進んでいる。

 

「この短時間で良くやるわね」

 

 以前世界大会でマシロがバトルした際には敢えてトラップを設置する時間を与えた上でバトルしているが、今回はそんな時間を与えてはいない。

 だが、接触するまでの短時間でレナード兄弟は多数のトラップを設置していた。

 

「成程。カラクリはあれね」

 

 モニターの片隅にはトラップを設置するジオン兵の姿が映されている。

 レナード兄弟はマシロとのバトルで設置したトラップを全て破壊されると言う対策を取られた事から、相手の関節部に爆弾を仕掛ける役目のジオン兵に新たな役目としてバトル中に独自に動いてトラップを仕掛けさせた。

 これなら、時間の経過と共にトラップの位置が増える事で、安全確認をしても意味を成さなくなる。

 トラップを設置しているジオン兵をビルゴⅡはビームサーベルで破壊する。

 

「これも想定内よ」

 

 ジオン兵を破壊したビルドⅡはジムスナイパーK9を追って通路を進む。

 ビルゴに誘導されながらも、ジムスナイパーK9は開けた空間へと出る。

 すでにK9ドックパックと合流し、バックパックに装備している。

 

「おいおい。マジかよ」

「戦いは数とは良く言った物だな」

 

 ジムスナイパーK9の前には多数のビルゴⅡが待ち構えていた。

 狭い通路ならば、数が多くても大した問題ではないが、ジムスナイパーK9は開けた空間に居る。

 今まで通って来た通路に戻って迎え撃とうにも、すでに完全に包囲されている為、後退する事もままならない。

 無数のビルゴⅡは一斉にビームライフルでジムスナイパーK9を攻撃する。

 ジムスナイパーK9はビームを回避しながらブルバップマシンガンを連射して対応する。

 密集している為、ビルゴⅡはプラネイトディフェンサーを展開する事も、殆ど動く事も無く撃墜されて行くが、数が多い事もあって余り意味がない。

 

「ちっ! どうすんだよ! 兄貴!」

「落ち着け。今は少しでも数を減らして耐えろ。まだその時ではない」

 

 圧倒的な数に焦りを見せている弟のフリオだが、兄のマリオはまだ余裕を残している。

 ブルバップマシンガンを連射していたが、ここに来るまでに何機かのビルゴを撃墜していた事もあってすぐに残弾が尽きてしまう。

 残弾の尽きたブルバップマシンガンをビルゴⅡに投げつけると、大腿部のホルスターからビームガンを抜いてビルゴⅡを撃ち抜く。

 ビームガンはブルバップマシンガンと比べると威力も連射速度も低い為、ビルゴⅡを一機撃墜するのにも時間がかかってしまう。

 火器をビームガンに持ち替えた事で、ビルゴⅡを1機撃墜する時間が増えた為、ジムスナイパーK9への集中砲火が激しくなり、かわし切れないビームはシールドで防いでいたが、遂にはシールドが攻撃に耐え切れずに破壊されてしまう。

 シールドが破壊されてすぐに、流れ弾が背部に直撃し、バックパックのK9ドックパックをパージする。

 幸いにも爆発で、K9ドックパックに装着していたビームスナイパーライフルが外れて破壊されずに済んだが、この状況では回収する余裕もなければ連射速度の低いビームスナイパーライフルは使い辛い。

 

「くそ!」

 

 ジムスナイパーK9は空いた左手にビームサーベルを抜いてビルゴⅡを破壊する。

 

「兄貴! このままじゃやばい!」

 

 ビルゴⅡの数はかなり減らしたが、減らした事で今度はある程度のスペースが生まれた。

 それによって今まではまともに動く事の出来なかったビルゴⅡが動けるようになり、プラネイトディフェンサーを使っているビルゴⅡも出て来ている。

 ビームガンではビルゴⅡのプラネイトディフェンサーを突破する事は出来ない。

 

「仕方が無い。EXAMを使う」

 

 マリオがそう言うとジムスナイパーK9の頭部のセンサーが赤くなる。

 ジムスナイパーK9の切り札であるEXAMシステムが起動したからだ。

 EXAMを起動させた事でジムスナイパーK9の性能が上がり、プラネイトディフェンサーを展開しているビルゴⅡの懐に飛び込むとビームサーベルを突き刺して、至近距離からビームガンを撃ち込んで破壊する。

 

「次はどうすんだ? 兄貴」

「このままモビルドールを潰しても意味はない。ファイターが操作している1機を叩く」

 

 多数のモビルドールに圧倒されているが、レイコが操作している1機さえ仕留めてしまえば、モビルドールが何機残っていようとも意味はない。

 

「けどよ! あの女のガンプラはどこにいるんだよ!」

「恐らくはこの中にいるだろう。モビルドールの動きは最低限の事しか出来ていない。俺達が疲れ切ってミスを犯した瞬間の千載一遇のチャンスを狙う為にな」

 

 ここに誘うまではビルゴだったのに対してここに配置されているのはビルゴⅡだ。

 単純にビルゴとビルゴⅡの間には装備の違いの他に外見の違いがある。

 今までは一目で違うと分かるようにビルゴを配置していたのにも関わらずここにビルゴⅡを配置した理由はここにレイコが操作するビルゴⅡが紛れる為だとマリオは推測していた。

 ここに配置されているビルゴⅡの動きは単純でビームライフルをジムスナイパーK9に撃つか、軽く回避行動を取る、プラネイトディフェンサーを展開してビームライフルを撃つと単純だ。

 だからこそ、千載一遇のチャンスを逃さない為に、本体がここに潜んでいる可能性は高い。

 恐らくはすでに武器をビームキャノンから他のビルゴかビルゴⅡからビームライフルを受け取って装備での違いを悟らせないようにしている。

 

「成程な。けど、そいつを見つけてもこれだけ数がいたらどうしようもないぜ」

 

 見つけるだけなら、ここまで来る途中で少なからずレナード兄弟が設置して来たトラップで損傷しているビルゴⅡを見つければ良い。

 だが、相手もそのビルゴⅡが落とされると負けると言う事は分かっている為、撃墜されやすいジムスナイパーK9の近くには来ないだろう。

 遠距離での攻撃ではビームガンでは威力も射程も殆ど無い為、見つけて狙ってもプラネイトディフェンサーで防がれてしまう。

 それ以前にパッと見で分かるようなヘマをする相手でもない。

 何機かは同じように外装に損傷を付けて簡単には見分けがつかないようにされている。

 

「俺に考えがある。まずはスナイパーライフルを回収して来い」

「了解だ!」

 

 ジムスナイパーK9はEXAMシステムで底上げされた性能でビルゴⅡを接近戦で仕留めては、先ほど落としたビームスナイパーライフルの回収に向かう。

 その最中に何発かは被弾したが、ビームスナイパーライフルは無事に回収する事は出来た。

 

「次はどうする?」

「俺の指定したポイントを狙撃しろ」

 

 フリオの側にマリオからの狙撃位置のポイントが転送されて来る。

 ジムスナイパーK9はビームスナイパーライフルを構えて指定されたポイントを狙う。

 

「隙だらけよ」

 

 ジムスナイパーK9がビームスナイパーライフルを構えているが、それを本体のビルゴⅡからビームキャノンを受け取ったモビルドールのビルゴⅡが狙っていた。

 ジムスナイパーK9とビルゴⅡが同時にビームを放つ。

 ビームスナイパーライフルのビームが指定されたポイントを撃ち抜き、ビルゴⅡのビームがジムスナイパーK9の下半身を吹き飛ばす。

 

「兄貴!」

「これで良い」

 

 下半身を吹き飛ばされたジムスナイパーK9は地面に落ちる。

 メインスラスターは無事だが、下半身を失った事でまともに動く事が出来なくなる。

 その上で周囲にはまだビルゴⅡが残っている。

 ビルゴⅡがビームライフルを動けないジムスナイパーK9に向ける。

 まともに回避行動の取れないジムスナイパーK9にとっては絶対絶命の状態だが、先ほどのジムスナイパーK9の狙撃により撃ち抜かれた場所が爆発を起こす。

 ジムスナイパーK9が撃ち抜いた場所には事前にジオン兵を使って爆弾が仕掛けてあり、ビームを撃ち込んだ事で爆弾を爆発させた。

 それによって閉鎖空間に大きな穴が開き、外に空気が漏れだす。

 空気が漏れだした事で、ビルゴⅡ達は次々と外に放りだされて行く。

 抵抗しようにも空気の流れが激しく抵抗も空しく外に放り出される。

 ジムスナイパーK9も例外ではない為、外に放り出された。

 外は宇宙空間だが、ちょうどコロニーレーザーの発射口となっている。

 

「時間通りだ」

 

 このバトルフィールドは一定時間でバトルフィールドのギミックとしてコロニーレーザーが発射される。

 本来は宇宙でバトルしている時に気を付けるギミックで、コロニーレーザー内でバトルしている時はそこまで気を付ける必要もない。

 しかし、ジムスナイパーK9とビルゴⅡのいる場所はコロニーレーザーの射線上に位置する。

 そして、コロニーレーザーは今にでも発射しようである。

 

「本物が分からないなら纏めて始末すれば問題はない」

「だからってな! このままじゃ俺達だって!」

 

 多数のビルゴⅡをコロニーレーザーの射線に出す事でコロニーレーザーを使って一掃すると言う策は良いが、射線上にはジムスナイパーK9もいる。

 このままコロニーレーザーが発射されればビルゴⅡもろともジムスナイパーK9もコロニーレーザーで消し炭となる。

 

「相手もそう考えるだろう。フリオ。アレが本体だ」

 

 フリオ側のモニターの映像が切り替えられる。

 そこには多数のビルゴⅡの中で1機だけが、射線上から退避しようとしている姿が映される。

 

「ずいぶんと慌てているようだな。フリオ」

「任せな!」

 

 逃げようとするビルゴⅡの動きは素人も良いところだ。

 捨て身の策はレイコの方でも想定外らしく、手動に切り替えて逃げようとしているのだろう。

 他のビルドⅡは単調な動きしか出来ない為、無理に助けるのではなく全て切り捨てて本体だけが逃げろようとしている。

 ここで多数のビルゴⅡが一掃されても、ジムスナイパーK9がコロニーレーザーに巻き込まれてしまえば勝ちとなる。

 その為、自分だけが生き延びれば良いと言う事だ。

 下半身を失っているがメインスラスターは生きている為、ジムスナイパーK9は逃げようとしているビルゴⅡを追撃する。

 その最中にモビルドールのビルゴⅡの攻撃を受けて損傷するが、ジムスナイパーK9はビルゴⅡを羽交い絞めにして拘束する。

 

「離しなさい!」

 

 ビルゴⅡは懸命にジムスナイパーK9を振り払おうとするが、ジムスナイパーK9は決してビルゴⅡを離す事は無い。

 

「貴方達を心中する気は無いのよ!」

「兄貴!」

「フリオ、意地でも離すな。現状で負けない為に出来る事はそれだけだ」

 

 それがマリオからフリオへの最後の指示だった。

 すでにマリオはこのバトルにおいて勝つ事を放棄して負けない方法を取ると決めていた。

 ビルゴⅡが何とかジムスナイパーK9を振り払おうとするも、ジムスナイパーK9はビルゴⅡを捕まえて離す事は無い。

 最後の抵抗でプラネイトディフェンサーを展開する。

 そして、遂にコロニーレーザーが発射されて、多数のビルゴⅡと共にジムスナイパーK9とビルゴⅡはコロニーレーザーに飲み込まれた。

 ビルゴⅡがプラネイトディフェンサーを展開していたが、コロニーレーザーの威力は並のガンプラの防御力では防げないレベルに設定されている為、意味を成さない。

 レナード兄弟とレイコのガンプラがコロニーレーザーに飲み込まれた事でバトルシステムはバトルの終了を告げる。

 ルール上、どちらのガンプラが定められた時間を経過しても決着が付かない場合はサドンデスであるVアタック方式で決着を付けられるが、同時に戦闘不能となった場合はサドンデスを行わずに引き分けとなる。

 その為、このバトルの結果も引き分けで終了した。

 バトルが終わってレナード兄弟が控室に戻るが、兄のマリオは気にした様子はないが、弟のフリオは少し機嫌が悪い。

 散々、大口を叩いて勝てなかった為だ。

 

「気にするな。俺達は負ける事は無かった」

 

 マリオがそう言うが、フリオの機嫌が直る事は無い。

 

「これで勝敗は3勝3敗1引き分け……どうなるんだ?」

「その質問には私が答えよう」

 

 7回のバトルの結果がどちらも勝ち数が同じとなった。

 その為、勝ち数が多い方が勝利と言う前提が成り立たない。

 そんな疑問にいつの間にかレイコと入れ替わりにバトルシステムの前に立っているユキトが答える。

 

「おいおい……総帥自ら出て来たのかよ」

 

 ユキトの顔はレイジを除き誰もが知っていた。

 クロガミグループの若き総帥として大々的にメディアに取り上げられた事は何度もある。

 その世界でもトップクラスのグループをまとめている総帥がこんなところに自ら来ているのだ驚くのも無理はない。

 

「事前に配布したルールにあるように勝敗が同じだった場合は延長戦を行う」

 

 ユキトがそう言うとすぐにバトルの前に渡されたルールを確認する。

 

「ほんまや! 決着が付かんかった場合は8戦目を行うてあります!」

 

 ルールの中には確かに決着が付かなかった時の事は書かれていた。

 だが、誰もその事を知る事は無かった。

 ルールはやたらと細かく書かれているが、大半は直接的には関係のないどうでも良い事ばかりで重要な要項は始めの方に纏められている。

 だからこそ、誰もがルールを見た時に重要な部分のみを把握して後は適当に流し読みしていた。

 延長戦はその中のどうでも良いルールの中に紛れてひっそりと書かれていた。

 

「さて、ルールを理解したところで次のファイターは誰かな?」

 

 決着が付かなかった時の延長戦が行われると言う事は理解出来たが、同時に重大な事実にも気が付いた。

 今回のルールでは公平を期す為に同じ一人一度しかバトルに出る事が出来ない。

 セイやマリオと言ったセコンドも同様にだ。

 そして、ここに居るのは7組で皆がすでに一度はバトルを行っている。

 つまり、ここには8戦目に出る事の出来るファイターがいないと言う事だ。

 

「分かっていると思うが、10分以内に次のファイターが出て来ない場合は不戦敗となる。こちらの8人目は私だ。そちらは誰が出て来る?」

 

 今までは気にしていなかったが、次にバトルするファイターを選ぶのにも時間制限が設けられている。

 その時間は10分で揉める事が無ければ簡単にクリアできたが、その10分が今はとてつもなく短く思える。

 

「始めからそのつもりだったのかよ!」

「卑怯よ!」

「だが、ルールに書かれている以上はこちらの落ち度と言われればそこまでだ」

 

 引き分けとなった場合の延長戦は決着をきちんとつける為にあるが、実際は引き分けとなった時点でクロガミサイドの勝利となるように仕組まれているも同然だ。

 だが、そのルールは多くのルールの中に隠すようにされているが、確かに書かれている為、文句を言ったところで自分達がきちんとルールを見てないと言われればそこまでだ。

 そして、ルール上はこの7組のファイター以外の助っ人の参加も認められていた。

 しかし、誰もが世界レベルのファイターで、バトルは7回、ファイターも7組と不測に事態によって誰からバトルに出られないようにならなければ助っ人を呼ぶ事は誰も考えてはいなかった。

 今から誰かを呼んだところで10分以内にここに到着するのは不可能だ。

 唯一、バトルに出られるとしたら実況で来ているキララくらいだが、キララもクロガミグループに仕事の依頼を受けて来ている以上、すぐには当てに出来ない。

 始めから引き分となった時点で敗北したも同然だったのだ。

 もはや打つ手もなく、時間ばかりが過ぎていくだけだ。

 バトルすら出来ずに後は敗北を待つだけとなって誰もが諦めかけたその時、控室のドアが開いた。

 

「8人目ならここにいる」

「君は……」

 

 突然の来訪者は誰もがこのタイミングで出て来るとは予測すらしていなかったこのバトルを開催した張本人であるマシロであった。

 マシロはマイスターの恰好でも無ければ気取ったスーツでもない。

 白いマフラーこそしていないが、世界大会で来ていたような適当な恰好だ。

 

「俺が来たからには勝利しかあり得ない。何故ならば俺が最強だからだ」

 

 突然のマシロの来訪に誰もが唖然としていたが、アイラがマシロに詰め寄る。

 

「アンタは始めに負けたじゃない!」

「負けた? 俺が? ずいぶんと会わない間に頭の中がお花畑にでもなったんじゃないのか? 俺がいつ負けったって? 何時何分何秒? 地球が何回回った時だ?」

 

 いきなり出て来て子供じみた事を言うマシロに、アイラが掴みかかりそうになるが、セイとレイジが抑える。

 

「だって俺こそ、マシロ・クロガミはこのバトルにおいて一度も出ていないからな」

 

 その言葉でマシロの言いたい事は皆にも伝わった。

 マシロが初戦に出てタツヤとバトルした事は今更誰もが分かっている事実だ。

 だが、マシロはマシロ・クロガミとしてではなく、謎の仮面ファイターであるマイスターとしてバトルをしている。

 つまりはルール上、マシロは一度もバトルに出ていない。

 

「しかし、問題は向こうがそれを認めるかだ。向こうのやっている事は卑怯だが、こちらの落ち度を狙って来ている。だが、君のやろうとしている事は少し強引すぎる」

 

 ルワンの指摘も尤もだ。

 あくまでも違う名前で出ているだけで、マシロ自身はすでにバトルに出ている。

 当然、マイスターの中身を向こうが知っている以上はマシロが8人目として出ると言う事を認めないと言う事も考えられる。

 

「その点は大丈夫だって、だってさ、マイスターが俺だって証明するって事は謎の仮面ファイターの正体を暴いてまで俺とバトルする事を避けたいって言っている訳だ。全世界に生中継されているこの場面でそんな事は出来る訳が無い。まぁ、俺がマイスターだって事は絶対にあり得ないけどな」

 

 マシロがあくまでもマイスターの中の人ではないと言う事を認めないと言う事は置いておいても、正体不明の実力者と言う肩書であるマイスターの正体を全世界に明らかにしてまでもい、マシロが8戦目に出る事を許可しないと言う事は実質的にマシロには勝てないと言っているようなものだ。

 そんな事をユキトはするとは考え難い。

 

「つまり、兄貴は俺が出る事を認めざる負えないって訳。尤もマイスターの正体を明かしたところで俺じゃないから問題はないんだけどな」

 

 相手は分かっていても、マシロがバトルする事を認めざる負えない。

 マシロの実力は誰よりも分かっている以上、マシロを出すのが最も勝率が高い。

 そんな事は頭では理解出来ている。

 

「お前を信用出来るって確証は? お前は向こう側の人間だ。そんな奴が都合良く出て来て、それが罠だと言う可能性は十分にあり得る」

 

 マシロの実力は誰もが知っている。

 だが、マシロの立場を考えれば素直に信用して任せて良いのか分からない。

 誰もがそんな疑念を持つ中、フェリーニがそれをマシロに問う。

 マシロはクロガミグループの回し者で8戦目を成立させた上でわざと負けてより確実にクロガミサイドが勝利する為の罠だと言う可能性も考えられた。

 その可能性があるからこそ、素直にマシロに任せるとは誰も言えない。

 

「そんなもんはないな。だけど、この場で次のバトルには俺しか出れない。で、時間はもう半分を過ぎてる。どう考えても俺意外のファイターが出る事は不可能だ。つまりは俺を信用するしかないって事だ」

 

 そう言われてしまえば、フェリーニも黙るしかない。

 マシロを信じるか否かは別としても、すでに残り時間は5分を切っている。

 マシロ以外に8戦目に出れるファイターがいないのも事実だ。

 このまま時間が来ればバトルすら出来ずに敗北が決まってしまう。

 

「マシロ。一つ聞かせて欲しい」

 

 そんな中、タツヤがマシロの前に出て来る。

 

「この状況は恐らく君が作り出した物だ。君は一体何がしたいんだ?」

 

 マシロが2回も出れる状況にありながら、マシロは1度しかバトルに出ていない。

 マシロが2回出ていれば勝ち数が並んで8戦目に持ち越す前に決着をつける事も出来た。

 それなのにこのタイミングで2回目のバトルに出ると言う事はマシロは始めからこちら側で2回目のバトルを行うつもりだったと言う事になる。

 

「俺がやったのはお膳立てだけだよ」

 

 今の状況はタツヤの推測通り、マシロの望んだ形だ。

 だが、マシロが行ったのはクロガミサイドの勝ち数の確保と引き分けを作り出した事だけだ。

 そうでもしなければ、クロガミサイドが負け越すと考えていたからだ。

 クロガミサイトの勝ち数を確保する為に、ユキネがどんな手段を使おうとも黙認し、嫌っていたありすを出した。

 そこで2勝を確保した上で、自分とニルスのどちらかで1勝を取って後は1回だけ引き分けにすればこの状況を作り出せる。

 その1回の引き分けも、事前にレナード兄弟の兄、マリオとの間で取引が成立させていた。

 弟のフリオと相手に選ばれたレイコはその事実を知らなかったのは、バトルを見ているユキトにばれないようにする為だ。

 事実を知らないフリオとレイコは状況が悪くなると、必死に勝とうとする。

 演技ならば見破られる可能性があった為、あえて伏せられていた。

 その上で、ユキネに頼んでレイコの当日の戦術等をマリオに流して意図的に引き分けとなった。

 レナード兄弟が最後まで動かなかったのは、引き分ける相手であるレイコが最後まで出て来なかったからだ。

 勝ち数を引き分ける上での3勝だが、下手に細工をすればユキトにバレる危険性を考慮して始めから勝つ気でバトルさせている為、そこはタツヤ達に自力で勝って貰うしかなかった。

 そうやってマシロなりにタツヤ達に任せた結果、マシロの期待通りに3勝してこの状況に持ち込んでくれたと言う訳だ。

 

「で、俺がしたい事ってのは端的に言えば兄弟喧嘩」

 

 流石にマシロの答えに唖然とした。

 ここまでの事をやっておきながら、マシロの目的は兄弟喧嘩だと言うから当然の反応だ。

 

「兄貴の事だから、この状況なら兄貴自ら出て来ると思ってね。兄貴は俺達の能力は信用はしてるけどさ、俺達の事は信頼してないから」

 

 ユキトはマシロを初めとした兄弟の事はそれぞれの分野や能力においては信用はしている。

 だが、勝つ事を前提のバトルで勝ち数が並んで引き分けと言う状態で他の誰かに任す程兄弟を信頼はしていない。

 だから、マシロはこの状況ならば、ユキトが自ら蹴りを付けに来ると考えた。

 その為に、それっぽい理由を付けてユキトをここまで連れて来てもいる。

 

「兄貴は俺の事なんて相手にもしてないからさ。こうでもしないといけなかった」

「ガンプラの支配云々は僕達をやる気にさせる為のブラフだったと?」

「それは本当。兄貴は本気でガンダムもガンプラもビジネスの為に食い物にしようとしてる。それは事実。俺はそれに至る過程をある程度は任されていたから便乗したに過ぎない」

 

 キララを通じてタツヤ達が知った事は事実だ。

 マシロはただ、それを利用したに過ぎない。

 

「だから、タツヤ達としても俺が出た方が良いって事には変わりはないんだよね」

「……正直。僕はマシロのやろうとしている事が本当にそうなのか信じる事が出来ない。だから、マシロ……僕に君を信じさせて欲しい」

「どうだろ。俺は結構いい加減なところがあるからな。信じて馬鹿を見ても俺は責任を持てない。だけど、これだけは言える。俺が最強だ」

「それが聞ければ十分だよ。マシロ」

 

 色々とマシロに振り回されている為、タツヤにはマシロが何をしたいのかは分からない。

 だから、マシロを本当に信じて良いかも分からない。

 しかし、タツヤがマシロの事で分かっている事は一つだけある。

 マシロは常に自身を最強のファイターと言い続けて、それを貫いている。

 少なくとも、マシロはわざと負ける為にバトルをする事は無い。

 それはマシロがファイターであり続ける限り信じる事が出来る事だ。

 

「僕はマシロのその言葉に賭けてみたい。どうだろうか?」

 

 タツヤは他のファイター達にそう言う。

 もはやここまでくればマシロに最後を託すしかない。

 どの道、今の状況でマシロ以外のファイターがバトルに出る事は出来ないのだから。

 だからこそ、信じるしかない。

 

「決まりだな」

 

 誰も反論しないと言う事は直接面と向かっては言わないが、マシロが8人目として出る事を黙認したと言う事だろう。

 

「それと俺を信じた以上は馬鹿を見る事はない」

 

 マシロはそう言い残して会場へと向かう。

 会場ではすでにユキトが来るかも分からない8人目を待っていた。

 

「どういう事だ?」

「どういうも何も俺が8人目だよ。兄貴」

 

 ユキトも土壇場で8人目のファイターが来る事は想定してはいたが、流石にマシロが出て来るとは予想外の事態であったが、それを顔に出すと言う事は無い。

 

「俺が8人目でも問題はないよな」

「好きにしろ」

 

 控室での説明はユキトには不要なようだ。

 

「なぁ、兄貴。ここは一つ賭けをしよう」

「賭けだと?」

「そう。このバトルで俺が勝ったらクロガミグループを俺にくれ」

 

 流石にこれにはユキトは眉を潜める。

 ユキトからみればたかが玩具の遊び程度の事でグループを賭けると言っているから当然の反応でもある。

 

「自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「分かってるつもりだけど。だって考えても見ろよ。このバトルは全世界の生中継されてんだぜ。例え、玩具の遊びとは言っても天下のクロガミグループの総帥が弟に負けたとあっては常に勝者たれってウチの家訓に背く事になるだろ? だから、俺に寄越せって事。いわばこのバトルは下剋上」

 

 ユキトは常に勝者である事を兄弟たちに求めて来た。

 ガンプラバトルとはいえ、マシロが勝てばユキトは敗者となる。

 例え兄弟であってもユキトは一度の敗北すらも認める事は無い。

 つまりは玩具の遊びであっても、公衆の面前で負けてしまえば、誰もユキトをクロガミグループの総帥としては認めないだろう。

 

「お前が何かで俺に勝った事があるのか?」

「ないよ。だけど、ガンプラバトルでだけは相手が兄貴だろうと負ける気はしない。だから、ガンプラバトルで兄貴と戦う事を選んだんだよ。ガンプラバトルなら俺だって兄貴に勝てるから」

 

 ユキトはあらゆる分野で才能を発揮している。

 マシロには決して届く事は無い。

 しかし、ガンプラバトルだけはマシロでもユキトに届き得るからこそ、マシロはユキトとガンプラバトルで対峙する道を選んだ。

 

「俺が勝ってクロガミグループを手に入れて、ガンプラバトルも世界も俺色に染め上げる。それがプロジェクトエデン。俺による俺の為の俺の楽園を作り出す計画だ」

「馬鹿な。お前にそんな事が出来ると本気で思っているのか?」

 

 クロガミグループは様々な分野に根強く入り込んでいる。

 それを手に入れる事が出来れば、使い方では世界を手中に収めると言う事は決して夢物語と言う訳ではない。

 

「出来るさ。兄貴の言う通り、俺は馬鹿だからな。知ってるか? この世で最も面倒なのは力を持った馬鹿なんだぜ。馬鹿だから利口な奴は出来ないと思う事でも平気でやろうとする。そこにそれを実現できる力があれば、もう誰にも止める事は出来はしない。俺のようにな。俺は兄貴をガンプラバトルで倒してクロガミグループを手に入れる。クロガミグループの力があれば世界を手に入れる事など造作もないんだろ?」

「くだらない。お前のその思い上りを俺が自ら叩き潰してやる」

「やって見ろよ。今の俺は不可能を可能にだって出来る気がしてんだ。負ける気はしないね」

 

 あくまでもマシロもユキトも自分が勝つと言う事を信じて疑わない。

 そんな様子を控室ではタツヤ達が緊張した面持ちで見ている。

 マシロの実力は疑う事は無いが、クロガミグループを統べているユキトの実力は完全に未知数だ。

 この場面で出て来ると言う事は確実に勝つだけの自信があると見て間違いはない。

 その余裕はクロガミグループが抱えるガンプラバトルの天才であるマシロを前にしても揺るぐ事は無い。

 

「そう言えば、マシロの奴。ガンプラはどうすんだよ」

 

 レイジはふと思った事を口にする。

 マシロが自身満々で出て行ったため、誰もが失念していた事だ。

 マシロがタツヤとのバトルで使用していたガンダム∀GE-3はタツヤとのバトルで大破している。

 直すにしても時間的にまともに直しているとは考え難い。

 タツヤが使用したガンダム∀GE-2は未だにタツヤの手にあり、修理もしていない。

 考えられる事は世界大会で使用したガンダム∀GE-1だが、それを超えるガンプラを制作している以上はガンダム∀GE-1であそこまでの自信を持つとは考えられない。

 考えたくはないが、マシロはまともなガンプラすら持っていない状況でいつものように自信を持っているのかも知れないとまで思ってしまう。

 

「その心配は必要ない」

 

 レイジのふとした発言から場が氷つくがいつの間にか控室に居たアランとニルスの内アランがそう言う。

 

「アラン。君も一枚噛んでいたのか」

「済まないとは思っているよ。だけど、一人のビルダーとして最強のガンプラを作ると言われては手を貸さない訳にはいかなかったんだよ」

 

 アランはマシロから最強のガンプラを作るから手を貸して欲しいと頼まれていた。

 アラン自身、マシロが何をしでかすかとも思ったが、ビルダーとしては最強のガンプラを作ると言う魔力には勝てずにタツヤには黙ってマシロに協力していた。

 

「お前もそうなのか?」

「ええ。皆さんには悪いと思ったんですけどね。敵を騙すのはまずは味方からとも言いますし、マシロの全面的な協力でプラフスキー粒子の再生成の目途も経ちました」

 

 ニルスもまた、プラフスキー粒子を研究していたと言う事からクロガミグループの研究施設で粒子の生成方法を研究していた。

 表向きはクロガミグループの支援の元、粒子の研究を行っていたが、裏では研究と並行してマシロのガンプラ作りに手を貸していた。

 

「そして、ようやく完成しました」

「PPSEが今年の世界大会で得たガンプラの出たを元に技術班の技術の推移と彼の粒子関連の情報、マシロが今まで得て来た経験の全てを注ぎ込んで完成させた最強のガンプラ、ガンダム∀GE-FXがね」

「ガンダム∀GE-FX……それがマシロが完成させた最強のガンプラ」

 

 そんなやり取りが行われているとは知らないマシロは完成させたガンダム∀GE-FXをバトルシステムの上に置く。

 ガンダム∀GE-FXはその名の通りガンダムAGE-FXをベースに改造したガンプラだ。

 ガンダムAGE-FXの特徴でもあった全身のCファンネルは全て外された上で3種類の形状のCファンネルがバックパックの大型シールドに装備されている。

 手持ちの装備として、右手には分離可能なドッズガンの付いたバスタードッズライフルカスタム、左手にはブライクニルランスを持っている。

 べース機からの両腕のビームサーベルに両肩の装甲は大型化され、ビームバルカンが内蔵されている。

 バックパックのコアファイターにはガンダム∀GE-FXの装備の大半が集中し、プロミネンスバスターソード、大型シールド、フォトンブラスターキャノン、ハイパーバズーカ、ガトリング砲と多数の武器をてんこ盛りになっている。

 これらは全てPPSEが記録した今年の世界大会の決勝トーナメントで使われたガンプラを初めとしてPPSEに保管されているガンプラのデータを元にマシロ独自の物を取り入れている。

 更にはプラスチックにプラフスキー粒子を練り込んで常にRGシステムを使っている状態と同じにするRGフレームを採用している。

 RGシステムの欠点でもあった負荷による強度の問題も、マシロが独自に制作した金属粒子を練り込んだ特殊プラスチックを金属粒子とプラフスキー粒子の配合率を再計算して最適化させる事でクリアしている。 

 Cファンネルの代わりに全身にはプラフキー粒子の結晶体が付けられている。

 これはニルスの研究の中でプラフスキー粒子は結晶体の大きさならば、人の想いに反応する可能性があると分かり、マシロが取りあえず結晶体をいくつかつけて見たら何かが起こるかも知れないと言い出して結晶体が付けられている。

 今までのマシロのガンプラは白一色だが、このガンダム∀GE-FXは違った。

 胴体周りはベースとなったガンダムAGE-FXから大幅に変更はしていないが、今まで嫌っていた黒を追加した事で、青と白、黒の三色をメインにバックパックの装備等はベースとなったガンプラのイメージから変更してはいない。

 これは色々な色が混ざっても尚、自分が黒く染まらないと言うマシロなりの意志表示の為だ。

 そして、それは今まで多くのファイターとバトルを行い、それを自らの力を変えたマシロの今までの戦いの集大成とも言えるのがこのガンダム∀GE-FXとなる。

 

「行くぞ。ガンダム∀GE-FX。これがラストバトル。ガンプラの存亡を賭けた対話の始まり!」

 

 マシロとユキト。

 二人の兄弟のクロガミグループのガンプラバトルの命運を賭けた最後のバトルの火蓋が切って落とされた。

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