ガンダムビルドファイターズ White&Black 作:ケンヤ
マシロとユキトの兄弟による第8戦目はマシロの勝利で終わった。
バトルに勝利した事でマシロの気が緩んだのか急にマシロの意識は朦朧とし始めた。
マシロがバトル中に起きたガンプラとの一体化現象、ユキネの言うアシムレイトの副作用だ。
マシロはアシムレイト中にも関わらず損傷を気にすること無く、被弾しても前に出ている為、被弾時のダメージはマシロ本人にも跳ね返っている。
バトル中は集中している為、気にする事は無かったが、バトルが終わって体力の限界を迎えて一気に体が重く感じている。
「何だこれ?」
体力の限界を迎えて、マシロは立っている事すら出来ずに倒れかける。
それをバトルが終わって控室から来たタツヤが支える。
「君って奴は……」
「言ったろ? 俺は最強だってさ」
立っているのもやっとな状態だが、マシロは強がって見せる。
「何言ってんのよ。滅茶苦茶ギリギリだったじゃない」
「流石のお前でも今回ばかりは負けるかと思ったぞ」
「だが、君は勝った。それでこそ、我が目指す価値があると言う物だ」
タツヤ以外のファイター達も最後のバトルに勝利したマシロを労いにやって来る。
そんな様子をユキトはバトルシステムを挟んで見ていた。
ガンプラバトルとはいえ、ユキトにとっては万全を尽くして勝つ為に戦った戦いで初めての敗北を味わう事になった為、少し茫然として自体を認識していた。
「俺は負けたのか……」
ふと、マシロを見るとマシロと父であるキヨタカが重なって見えた。
キヨタカの周りには常に多くの人が集まっていた。
今のユキトの周りにも多くの部下がいるが、それとは違いキヨタカの周りにはキヨタカを慕い心の底からキヨタカを信じて付いて来ていた。
「……そう言う事か」
その様子を見てユキトは理解した。
ユキトの周りにいる部下はユキトを慕う部下もユキトを信じている部下もいない。
いるのはクロカミ・キヨタカの後継者としてのユキトと、ユキトの能力を見て付いて来ている部下だけで、誰もユキト自身を見てはいない。
それはユキトが今まで兄弟にすらして来たことと同じだ。
だが、人の上に立つ上で本当に必要なのはずば抜けた能力ではなく、人を見る目、そして、人を活かす事。
キヨタカはそれを持っていたからこそ、ここまで大きなグループを維持し続けて来た。
「敵わないな」
それは今のユキトには無い物で、形は違えど人を見る目に関してはマシロの方が優秀だった。
だからこそ、ユキトはマシロに負けたのだろう。
そこに思い至ると不思議と負けた事に対して、清々しさすら感じた。
「俺の負けだ。マシロ、クロガミグループの全てはお前に渡そう」
ユキトがマシロに近づいてそう言う。
クロガミグループの総帥と言う立場から誰もがユキトの言動に警戒しているが、ユキトは気にした様子もない。
「そう言えば、そう言う話しだったっけな。けど、俺にはPPSEがあるからクロガミグループはいらね」
バトルの前にマシロはクロガミグループを賭けてバトルするように言っていた。
バトルに負けて、今の自分よりも父に近いマシロになら素直にグループを明け渡す気になっていたユキトはあっさりとそう言うマシロに呆気にとられている。
「大体、俺にクロガミグループの総帥とか常識的に考えて無理だって。3日で潰すね。だから、兄貴がやってよ」
「だが、玩具とはいえ、負けた俺の事など誰も総帥とは認める事は無いだろうな」
このバトルはネットやテレビを通じて全世界に生中継されている。
今まで常に勝つ事を強要して来たユキトがガンプラバトルで負けた様子を流されている以上は誰もユキトの事を総帥として認める事は無いだろう。
「ああ……これを全世界に中継してるって話しは嘘。だから兄貴が俺に負けたのは俺達しか知らない事だから大丈夫」
今度はユキトだけでなく、その話しを聞いた皆が驚いた。
誰もがこのバトルの様子を全世界に中継していると思い込んでいた。
わざわざ、キララを事務所を通して起用して実況をしていると言う事になっていたが、実際のところどこにも中継等されてはいなかった。
バトルの最中に反響を確認される事を想定して、ユキネがスタジアム内からバトルの中継を見ようとした時はキララの実況と合わせてバトルの様子があだかも本当に全世界に中継されているかのように思わせるように頼んでおいた。
バトルが終わればいずれはバレる事だが、その時には全てが終わった後で、マシロの思うような結果にならなければバレたところでどうでも良い事だった。
「俺はただ、兄貴と正面切って兄弟喧嘩をしたかっただけだから。そんなの世界に中継する意味はないし」
もはや呆れるしかない。
マシロはただ兄弟喧嘩をしたいが為にこれだけの事をやっている。
「なぁ、兄貴。知ってるか? 一緒にガンプラを作ればそれだけで友達になれるらしい。だから、俺らも一緒にガンプラを作れば本当の兄弟になれるんじゃないか? ついでに他の奴らも誘って皆でさ」
それはかつて、マシロが初めてガンプラを作った時にイオリ・タケシに言われた事でもあった。
ガンプラを一緒に作れば、人種も国籍、年齢、性別も関係なしに友達になれると。
マシロにそう言われて、ユキトは今までは気にも留めていなかったが、幼少期に良くキヨタカがガンプラを持って来た事を思い出した。
昔は良く、キヨタカと一緒にガンプラを作っていた。
いつしかガンプラに対する興味を失って一緒にガンプラを作ると言う事もなかったが、アレは仕事で忙しいキヨタカなりに親子のスキンシップを取ろうとしていたのだろう。
「そうだな。家族皆で作ろう」
「手始めにデンドロかネオジオングだな。当然、一人一個はノルマで」
マシロが兄弟喧嘩の為に周囲を巻き込んでこれだけの事をしたことも、どうでも良いような空気になりかけたが、爆発音と振動が場の空気を破壊する。
「何だ? マシロ、これもお前の仕掛けか?」
「いやいや。流石に爆発オチは用意してないって。俺の筋書きでは兄貴と和解して感動的なエンディングを迎えた後に、皆でガンプラを作って、その流れからガンプラバトルで俺が皆をボコってのハッピーエンドの予定だって!」
マシロの筋書きではこんな爆発は用意していない。
流石に爆発物を使うのは危険で、後から言い訳するのも難しい。
だが、実際に爆発は起きている。
「常に勝利者たれ。それがクロガミ一族の家訓。だから負けたクロガミ一族は滅ぶのがルール」
マシロの筋書き外の事態が起き、スタジアムのメインモニターにはありすが写し出される。
いつものような愛くるしい姿からは想像も出来ない冷たい目でマシロ達をモニター越しから見下ろしている。
「だからさ……皆、死ねばいいのに」
ありすはそれだけ言うとメインモニターが切れる。
同時に至るところで爆発が起こる。
「俺の計画が滅茶苦茶だ! あの馬鹿!」
「落ち着け。マシロ。こういう時の為に、この人工島にはクロガミグループが抱えているレスキュー隊を待機させている」
爆発が起こる中、ユキトは冷静にそう言う。
元々、勝つ気ではいたが、自分達が勝った時に負けを認めずに暴挙に出て来た時の事を想定して、ユキトはレスキュー隊等の救助部隊を事前に用意させていた。
用意した救助部隊は末端に至るまで優秀な人材を集めている為、この状況化ですぐに救助に入るだろう。
「流石兄貴、抜かりがない」
「そんな体で何処に行くのよ!」
マシロはタツヤに支えられていたが、タツヤから離れて歩き出すが、それをアイラがマシロの腕を掴んで止める。
身体能力ではマシロはアイラよりも劣るが、今のアイラはそこまで力を入れていないが、すでにマシロはアイラを振りほどくだけの力すら残されてはいない。
そんな状況でマシロは一人、どこかに向かおうとしていた。
「アンタには色々と聞きたい事があるのよ!」
「俺にはまだやらないといけない事が出来たんだよ。だから、離してくれ」
「こんな状況で何をするってのよ!」
アイラがマシロを離す事は無かった。
漠然とこの手を離してしまうと二度とマシロと話す機会は無くなると感じている。
「あの馬鹿の事は大っ嫌いだけどさ……やっぱり、俺はあいつの兄貴なんだよ。兄貴として妹が間違いを犯しそうになった時には殴ってでも止めるのが兄貴の……家族の役目だからな。俺は今、アイツの事を無性にぶん殴りたい」
「だからって死ぬ気?」
「俺は死なないさ。兄貴に何かで勝つなんて不可能に近い事だってのに、俺は勝った。不可能を可能にしたんだよ。全てを終わらせたら会いに行ってやる。勝利と共にな」
マシロはありすの元に向かおうとしているのだろう。
ありすの居場所はさっきの映像から大体は想像がつく。
だが、今も爆発は続く中でさっきのバトルで体力が限界であるマシロが一人で行くのは自殺行為だ。
「何やってんだ? さっさと避難するぞ!」
そうこうしている間にユキトが先導して、避難の準備に入っていた。
安全なところまで避難して救助を待つ為だ。
「レイジ。男と見込んだ。このじゃじゃ馬を頼む」
「……分かった」
「ちょっと!」
二人を呼びに来たレイジにマシロはそう言う。
レイジはアイラをマシロから引き離して皆のところまで、引っ張って行く。
アイラは抵抗するが、レイジはアイラを離す事は無い。
「これは男同士の問題だ。アイツは覚悟を決めたんだ。お前が口を出して良い事でも無ければ俺達が何か出来る事もないんだよ」
レイジはマシロが何かを覚悟した事を感じていた。
恐らくは何を言っても、その覚悟を変える事は無い。
今出来る事はマシロに頼まれたアイラを無事に外まで連れて行くことだけだ。
「悪いな。こんな役目を押し付けて。アイラ……俺達はもう、ファイターとしてしか関わり合う事は無いんだよ。だから、お前はお前の人生を生きてくれ」
マシロは誰に聞こえる事もないが、そう呟く。
それは決別の言葉でもあり、決意の言葉でもある。
アイラが何を話したいと言うのかは何となく分かっていた。
だが、マシロはそれに関して今更話す事は無い。
すでに、マシロとアイラの道は違えている。
もはやファイターとしてでしか同じ道を進む事は出来ない。
マシロは振り返る事も無く、ありすの元へと向かう。
映像を流し終えたありすは映像を送ったVIPルームで椅子に座ってくつろいでいた。
このVIPルームは世界大会中にPPSEの前会長のマシタも使っていた部屋だ。
ありすが仕掛けた爆弾が爆発している音が聞こえる中、ありすは逃げる事も無くただくつろいでいた。
「何もかも消えれば良いのよ。これで全てから解放される」
「勝手に、終わろうと、してんなよ」
後は全てが破壊されて終わるのを待つだけだと思っていたところにマシロがVIPルームに入って来る。
映像の背景からマシロはありすがメインスタジアム内のVIPルームにいると予想して、VIPルームを片っ端から確認してここに辿り付いた。
ユキトとのバトルで体力を使い果たした上にここまで来るのに急いで来たのか、すでに息も絶え絶えだ。
マシロがここまで来るとは思っていなかったのか、ありすは一瞬驚くがすぐに表情を隠す。
「何しに来たの?」
「ガンプラバトルだ」
「は?」
「俺とガンプラバトルで勝負だ。俺が勝ったら一緒に帰るぞ。億が一にもお前が勝てばアクシズでもユニウスセブンでも好きなだけ落とせば良い」
流石にありすもマシロの正気を疑わざる負えない。
ここに来た理由はいくつも考えられるが、この状況でガンプラバトルをする意味が分からない。
「私を止めに来たなら力づくか説得したら?」
「やめろよな。俺がお前と喧嘩したら俺がお前に勝てる訳がないだろ」
マシロは臆面もなく言い切る。
確かに、ありすは見た目こそ少女だが腕っぷしでマシロに負ける気は無い。
マシロもそれを知っているから自分が唯一自信を持っているガンプラバトルで勝負をしようと言う気なのだろう。
「あっそ。じゃぁガンプラバトルでも叩き潰してあげるわ」
このまま時間が来れば全てが終わりを迎える。
マシロ一人なら相手をする必要もないが、全てを終わらせる前にマシロを絶対の自信を持つガンプラバトルで負かしておくのも一興だとありすはバトルを受ける。
VIPルームにはバトルシステムも完備されており、プラフスキー粒子も残っている。
(ノリでバトルに持ち込んだは良いが……)
バトルシステムを挟んでありすと対峙するマシロだが表情には出さずに苦笑いしていた。
勢いでありすにバトルを挑んだものの、マシロの手元には来る前に回収したガンダム∀GE-FXしかない。
そのガンダム∀GE-FXもユキトとのバトルで受けた損傷を修理する時間は無い為、バトルで受けた損傷はそのままだ。
(全く……いつもボロボロだな俺達)
思い返して見れば、今までのバトルの中でここぞと言う一戦ではマシロが万全の状態で戦えた試しが殆どない。
タツヤとのタッグバトル大会の決勝戦では階段から突き落とされた怪我をしたままでバトルし、世界大会の決勝では何とか持ち直したものの精神的にはボロボロでガンプラも手直ししたガンダムAGE-1を使った。
今回もすでに体力は限界でガンダム∀GE-FXもボロボロでバックパックはコアファイターから使い物にならず、両肩の装甲も壊れたままで武装は両腕のビームサーベルくらいしか使えそうには無い。
(ビームサーベルが使えるだけマシか。逆にそれしかないから腹を括って開き直る事も出来ると考えるか)
今更、修理をする時間は無い。
出来ない事を考えるよりも、出来る事を考えた方が建設的だ。
元々、マシロが最も得意とする戦い方は二本のビームサーベルを使った高速白兵戦だ。
ガンダム∀GE-FXに残されている装備はビームサーベルが二本とその戦い方は可能だ。
(何度目になるか分からないけど……これがラストバトルだ)
マシロはボロボロのガンダム∀GE-FXをバトルシステムに置く。
ありすもガンプラをバトルシステムにおいてバトルが開始される。
「長期戦になればこっちが不利。速攻で決める」
マシロは軽く深呼吸をする。
同時にユキトとのバトルでの感覚を思い出す。
それによってガンプラとの一体化現象、アシムレイトに入った。
今回のバトルフィールドはオーソドックスな宇宙空間でのバトルだ。
障害物やギミックが無い為、奇襲や奇策は使い辛い。
ただでさえ、ガンダム∀GE-FXの状態は最悪である為、バトルが長引けば圧倒的に不利となる。
バトルが開始されるとすぐに高出力のビームがバトルフィールドを横切る。
ガンダム∀GE-FXはビームを回避する。
「ダークマターを更に改造して来たか」
ありすのガンプラはアイラとのバトルでも使用していたガンダムエクシアダークマターを更に改造したガンダムアヴァランチダークマターだ。
ガンダムエクシアダークマターにガンダムエクシアの高機動オプションのアヴァランチとダッシュユニットを装備して改造している。
右腕にはダークマターライフルをベースにブライクニルブレイドの刀身にバックラーを追加し、エクシアのGNソードに近い形状となったDMソード、左腕にはGNフィールドの展開機能を持つ、DMシールドが追加されている。
バックパックのダークマターブースターは簡略化し分離機能がオミットされて純粋な推力強化となり、DMブレイドの刀身が脇の下から前方に突き出す形となっている。
左手にはプロミネンスブレイド、肩と腰にはGNビームサーベルと全体的に攻撃力、防御力、機動力と万遍なく強化されている。
「だからと言って俺のやる事は変わらない。バトルに勝つだけだ」
ガンダム∀GE-FXは両腕からビームサーベルを展開して、アヴァランチダークマターへと向かう。
アヴァランチダークマターは背部から伸びているMDブレイドの刀身の間から収束した高出力の粒子ビームで応戦する。
それをガンダム∀GE-FXはギリギリのところで回避して、接近するとビームサーベルを振るう。
「そんなボロボロなガンプラで」
「関係ないね。俺は相手が誰であろうと勝つだけだ」
アヴァランチダークマターはDMソードで受け止めるが、ボロボロとはいえRGフレームで常時RGシステムを使っているガンダム∀GE-FXの方がパワーは勝るようで簡単に後方に弾き飛ばされる。
だが、アヴァランチダークマターはプロミネンスブレイドを振るい、炎の壁を作る。
しかし、ガンダム∀GE-FXは気にすること無く炎の壁に突っ込んで強引に壁を突き破る。
「兄貴に従順な人形が何してんだよ。お陰で俺の筋書きが台無しだ!」
「うるさい。アンタに何が分かるのよ」
ガンダム∀GE-FXのビームサーベルをDMソードでいなして距離を取ったアヴァランチダークマターは収束粒子砲を威力を絞って連射する。
ガンダム∀GE-FXはビームサーベルの出力を上げて粒子ビームを切り裂いていくが、片足が吹き飛ぶ。
「っ! 足の一つや二つ!」
足が吹き飛んだ事で、マシロの足にも激痛が走るが気にせずに突っ込む。
「好き勝手にやりたいように生きてるアンタなんかに」
ビームサーベルをDMシールドにGNフィールドを展開して受け止める。
「あの人の言われるままに生きて、言われるままのキャラを演じて……何をやっても頂点を取れてしまうから、何をやってもつまらない。だからあの人の言う通りに生きる事が私の正しい生き方だと思って生きて、なのに何なのよ。あの人も結局はアンタに負けてさ!」
アヴァランチダークマターはガンダム∀GE-FXを蹴り飛ばすと収束粒子砲を至近距離から撃ち込む。
ガンダム∀GE-FXは両腕のビームサーベルを重ねる事で簡易的なビームシールドとして使って粒子ビームを防ぐが、勢いを完全に防ぎ切れずに弾かれる。
「左腕のサーベルの出力が上がらない……」
「だから、一族の掟通りに全部壊すのよ!」
「そうかよ!」
至近距離からの粒子ビームを受けた事で左腕のビームサーベルの出力が思ったように上がらないが、バトルに大きな支障はまだ出る程ではない。
「俺はお前の事が大嫌いだった! 俺とは違ってお前は何にでもなれるのに何にもなろうともしない。だからムカついた。けど、今のお前は多少は好きになれそうだ」
「は? 何言ってんのよ! 馬鹿じゃないの!」
バトル中にも関わらず、ありすは呆気に取られていた。
ありすは自分のやっている事を自覚している。
それを否定するのではなくマシロは肯定している。
「今のお前は兄貴に反抗してる。だから、俺の大嫌いだった兄貴の人形だったお前じゃない」
マシロにとっては望めば何にでもなれるのにも関わらず自分は何も望まず、自分の意志で何にもならないありすの事を嫌っていた。
だが、今は自分の意志で全てを破壊しようとしている。
「私はアンタも兄さんも全部破壊しようとしてんのよ!」
「知ってる。お前が自分のやりたい事を見つけたのは、兄として喜ぶべき事だが、クロガミを破壊するのは見過ごせないんでね。だから……サチコ、俺がお前を止める!」
アヴァランチダークマターがDMソードのライフルモードを連射する。
それをガンダム∀GE-FXはビームサーベルで弾きながら接近しようとする。
接近しようとするガンダム∀GE-FXとそれを拒むアバランチダークマターの間でいくつもの攻防が繰り広げられていく。
「何で……」
攻防して行く中、次第にアヴァランチダークマターが押されて行き、ありすは焦り始めていく。
純粋な反応速度は若干ながら自分の方が上回っている。
マシロのガンダム∀GE-FXが動いた瞬間に動きを予測し、それに対する対策を導き出して行動に移している。
それまでの時間は一瞬で、そこに間違いはないはずだ。
だが、それでもガンダム∀GE-FXを止める事が出来ない。
「サチコの反応を超えろ! FX!」
相手の動きを瞬時に把握し、そこから対策を導いて行動に移すと言うのはマシロの得意分野でもある。
反応速度ではありすに劣るマシロだが、それでもありすの動きを上回っている理由は大きく分けて二つある。
一つ目はアシムレイトだ。
ガンプラを操作する上で、操縦桿に操作を入力してからガンプラが動くまでにはわずかながらのタイムラグが生じている。
それはガンプラバトルを行う上で、誰もが同じである為、通常はどちらの不利になると言う物でもないが、ガンプラと一体化するアシムレイトはそのタイムラグを限りなくゼロに近づけている。
二つ目は動きを判断し、最も適した行動を判断する時間だ。
ありすは動きを判断して、そこからあり得る動きの全てを予測し、そこから相手の動きを導き出して、それに対する自分の動きを何パターンも考えた上で、相手の対応も含めて行動を決めている。
一方のマシロはその辺りを全て省略して、動いている。
そして、省略する際にありすが行っている段階を全て自身のカンで行っている。
マシロはガンプラバトルを始めてから普通の生活を犠牲にしてまでガンプラバトルをやり続けていた。
その間に行って来たバトルの回数はありすの比ではない。
膨大な数のバトルの中で、得た経験則を元にマシロは行動を決めている。
どちらも一瞬の出来事とはいえ、何段階にも分けて判断するありすに対して、それらを全てカンで省略しているマシロの方が早く、アシムレイトを合わせる事で少しの差が積み重なって、ありすを圧倒し始めていた。
「動きが……読めない」
遂にはありすもマシロの動きを読めなくなっていた。
マシロは動きの中に敢えて、被弾する事で常に合理的に判断しているありすの思考をかき乱した。
「確かにお前は母さんによってお前はスーパーコーティネイターすら超えた才能を持ってるかも知れない。けどな、コーティネイターが生まれた時からなんでも出来る訳でも無いと同じようにお前も同じなんだよ!」
ありすはユキネによって圧倒的な才能を持って生まれて来た。
並の相手なら才能だけで圧倒する事も出来たが今回ばかりは相手が悪い。
元より天才的な才能を持ちながら、膨大な実戦経験と挫折を初めとして様々な経験を経てここまで来たマシロと、今まで言われた事しかやって来ていないありすではガンプラバトルにおいてはまだマシロに追いつく程の力はない。
その上、マシロは相手をかき乱すのは得意としている。
ここまでの戦闘からすでにありすのバトルの傾向は把握している。
傾向を把握してしまえば、ありすをかき乱す事は簡単に出来る。
かき乱すだけなら、世界大会で戦って来たファイター達よりも簡単に思える程だ。
「お前は何でも頂点を取れるからつまらないとか言っていたな。ならファイターになれば良い! ガンプラバトルなら頂点を取る事は絶対にあり得ないからな」
ガンダム∀GE-FXは遂にアヴァランチダークマターに取りついた。
そして、両腕のビームサーベルを突き刺す。
「最強ってのは最も強い奴だけが名乗り続けることが出来る称号だ!」
腕部のビームサーベルを突き刺したまま、ビームサーベルを内蔵している装甲だけとパージするとガンダム∀GE-FXはアヴァランチダークマターの肩のビームサーベルを奪って突き刺す。
「だから俺は勝ち続ける!」
次に腰のビームサーベルを奪ってアヴァランチダークマターに突き刺す。
「ガンプラと共に!」
6本のビームサーベルが突き刺さりながらも、アヴァランチダークマターは辛うじて動く事が出来た。
何とか左手のプロミネンスブレイドを振り上げるが、ガンダム∀GE-FXはアヴァランチダークマターの左手を掴んで手を握り潰すとプロミネンスブレイドを奪い取る。
「俺が……俺達が最強だ!」
プロミネンスブレイドを奪い取ったガンダム∀GE-FXはプロミネンスブレイドをアヴァランチダークマター目掛けて振り下した。
すでにまともに動けず、ダークマターブースターの分離機能をオミットしている為、アヴァランチダークマターはプロミネンスブレイドの一撃をまともに直撃する。
その一撃が致命傷となって、アヴァランチアダークマターは爆散した。
爆発が収まると、そこにはアヴァランチダークマターの残骸と爆発で右腕を失ったガンダム∀GE-FXが残されていた。
アヴァランチダークマターが戦闘不能と見なされてバトルシステムがバトルの終了を告げる。
「そんな……」
「お前がどんなに強くても俺はその先を行く。誰よりも強くないと最強を名乗る事は出来ないからな」
バトルが終わり、マシロはゆっくりとありすの元まで来る。
すでに体力は限界で、今のバトルの影響か、マシロの右腕は力なくうな垂れている。
マシロは左腕を上げるとコツリとありすに拳骨を落とす。
マシロの拳骨には力が無く、ありすは全く痛くもかゆくもない。
「今回の事は俺からはこれで勘弁してやる。後は兄貴にちゃんと謝れよ。この国の流儀でハラキリまではいかなくても頭丸めて土下座でもすれば兄貴も許してくれるだろ」
マシロはありすを一発殴った事で、ありすの行いをこれ以上追及する気はない。
一方のありすは軽くマシロを倒しておくつもりが、結果を見れば手も足も出せずに完敗した事やバトルの中のマシロの言葉を自分の中で整理できずにへたりと座り込んでいる。
「ほら、行くぞ。約束は約束だ。こんなところでお前を死なす訳にもいかないからな」
バトルに集中していたが、メインスタジアムはありすが所々爆破した事で早く非難しなければ不味い。
座り込んで動かないありすをマシロは引っ張ろうとするが、マシロの力ではありすを引っ張る事も出来ない。
どうした物かと考えていると、ありすの真上の天上が崩れて来たと言うのをマシロは視界の端に見えていた。
それを見た瞬間にマシロはとっさに自分の左腕が引きちぎれるかと思う程の力でありすを自分の方に引き寄せた。
ありすは一瞬の事で、自分に何が起きたのか分からなかった。
気が付くと地面に倒れていた。
「っ……」
「生きてんな」
周囲には土煙が舞っているが、ありすはマシロの声を頼りにマシロの方に向かう。
「マシ……」
「アイドルの癖になんて顔してんだよ」
マシロを見つけたありすは立ち竦む。
爆発で落ちた瓦礫にマシロの右腕は完全に押しつぶされており、小さい瓦礫がマシロの体を半分程埋めている。
「それにしても……流石に今回は不味いかな」
マシロは軽く笑っているが、マシロの顔色は明らかに悪い。
「くっそ……イオリのおっさんとかアイラに言った事は完全に死亡フラグじゃねぇかよ……」
口調こそはいつも通りではあるが、言葉の端々に力が感じられない。
そんなマシロの状態にありすはどうする事も出来ずに座り込む。
「まだ、死にたくないな……死ぬなら死ぬほどガンプラバトルをやって、バトルの中で死にたい……俺はまだバトルし足りないんだよ」
次第にマシロの声が小さくなるのと同時にマシロの意識は遠のいて行く。
ぼんやりとする視界の中で、ありすが何かを叫んでいるようだが、マシロに届く事は無い。
そして、遂にマシロは完全に意識を失った。