ガンダムビルドファイターズ White&Black   作:ケンヤ

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Battle09 「ファイターとして」

 

「マシロ君!」

 

 準決勝を終えたマシロとタツヤだが、廊下でマシロが倒れ、タツヤは慌てて駆け寄る。

 起こしたマシロは意識はあるようだが、顔色が明らかに悪い。

 

「……悪い。少し寝不足」

「そんな訳ないじゃないですか」

 

 マシロの言い分を、シオンが一蹴する。

 バトル中の動きがおかしい事は観客席から見ていたシオンも気づいていた。

 そして、バトルが終わって問い質そうとしていたが、この現場に遭遇した。

 

「マシロ様ならガンプラを弄っていれば一週間くらいは不眠不休で活動できるでしょう。それがたった一日程度で寝不足で倒れる事などあり得ません」

「本当なのか?」

 

 マシロは明らかに視線を泳がせている。

 シオンの言う通り、マシロは基本的に運動をさせるとすぐにバテる程体力がないが、ガンプラを弄っている時はガンプラのみに集中している為、一週間程度は不眠不休でいる事も過去に何度もあった。

 故に寝不足で倒れると言う事は考え難い。

 

「体調面は私が管理しているので問題はないはずです。恐らくは肉体面……怪我と言ったところですね」

「……ワタシニホンゴワカリマセン」

「馬鹿な事を言っていないで失礼します」

 

 マシロの誤魔化しを無視してシオンはマシロを抱きかかえる。

 今朝の動きの違和感や普段からシオンが体調管理をしている事から、マシロは怪我をしていると睨んでいた。

 そして、通路のベンチに座り込ませるとマシロの体を調べる。

 

「これは……」

「やはりそうですか……何があったんですか?」

 

 マシロの体のいたるところに痣があり、タツヤも顔を顰める。

 特に右足は腫れて赤黒く変色している。

 

「転んだ」

「いくらマシロ様が反応速度意外に取り柄の無い運動音痴でも何もないのに転ぶと言う事はあり得ません」

「……誰かに突き落とされたんだよ」

 

 言い訳が通用しない為、観念してマシロは全て話した。

 

「一体誰が……こんな事を」

「恐らくは決勝の相手……」

「何か分かったのか?」

 

 マシロの話しを聞いてシオンは心当たりがあるようだった。

 その反応から、マシロも何となく検討が付いていた。

 

「どういう事?」

「決勝のレンヤの相方の事が気になってな。シオンに調べさせた」

「試合中に報告がありました。大会登録ネームはサエキ。こちらで調べた結果、彼はガンプラマフィアである事が分かりました」

 

 ガンプラマフィアとは普通にガンプラバトルを楽しむだけでは耳にする事のない名だ。

 タツヤも噂程度で聞いているが、マシロも知っていた。

 ガンプラマフィアとはガンプラ関係でバトルの妨害や闇取引などの違法行為を行う者達の総称で厄介なのはガンプラマフィアの中にはファイターやビルダーの倫理感に反していても各国の法に触れていないケースが多いと言う事だ。

 法に触れない限りは警察機関は動く事は無い為、同時の自警団的な組織が作られていると言う噂もある。

 

「彼の専門分野は希少価値の高いガンプラ、今回の大会の商品や、何かしらの記念で作られた非売品のガンプラを初めとしたガンプラを独占しネット上で高価でマニアに売りつけると言う物です。これ自体に違法性はありませんが、余り公になっていないだけで、強奪や窃盗、脅迫紛いの事も行っているみたいです」

 

 ガンプラマフィアにもいろいろな専門がある。

 希少価値の高いガンプラは高値で売れる。

 高い金を出してまで手に入れないマニアがいるからだ。

 中にはチームネメシスの会長のようにファイターを雇い正攻法で手に入れようとする場合と、金で解決するケースがある。

 サエキはガンプラを高価で売って儲けているタイプのガンプラマフィアと言う事だ。

 それ自体はシオンの言う通り、違法性はない。

 大会に景品を手に入れて売る事も目的に出場しようと大会規約に違反する事でもない。

 実力で勝ち取ってしまえば、その後をどうしようと手に入れたファイターの勝手だからだ。

 だが、サエキの場合、正面から手に入れようとするのと同時に法に触れかねない方法も取る。

 今回のマシロの件がそれに当たる。

 

「マシロ様は昨日の予選で無駄に目立っていましたからね。それで目を付けられたんでしょう。準決勝の前に仕掛けたのは差し向けたのが準決勝の相手かも知れないと思わせる為でしょうね」

 

 出場者の中でマシロが狙われた理由として考えられるのが、大会の予選での結果だ。

 マシロは一人だけ撃墜数が圧倒的に多く、その実力を目障りだと思われても不思議ではない。

 その上で準決勝の前に怪我をさせれば、運営に告発したところで次の対戦相手が疑われるだろう。

 そうなれば、対戦相手のブルーノとアンナは大会運営から失格にされかねない。

 元イタリアチャンプを濡れ衣で失格にさせる事が出来れば、次は手負いのマシロを相手にすれば良いだけの事だ。

 

「幾らなんでもやり過ぎだ! これは大会運営に抗議すべきだ! いや、もう警察沙汰じゃないか!」

 

 賞品を手に入れる為に、他のチームを負傷させてまで勝とうとする事にタツヤも怒りを隠せない。

 階段から突き落とされれば下手をすればマシロは死にかねなかった。

 これはもはや、大会の運営に抗議するだけの問題ではなく、警察に通報しても良いレベルの事だ。

 

「少し落ち着けよ。もう、右足だって痛くない」

 

 そう言ってマシロは右足を振って見せるが、当然の事ながら怪我が良くなって痛みが引いたと思う訳がない。

 

「大会の運営や警察に通報して報いを受けさせても意味がない。それは負けと同じだろう」

「今はそんな事を言っている場合ではないよ。運営や警察は後回しでも良い。大会は棄権してすぐに病院に行くべきだ」

 

 階段から落ちたと言う事は頭を打っている可能性が高い。

 シオンの触診で頭に目立った外傷はなかったが、打っている可能性がある以上は病院で精密検査を受けるべきだ。

 そうなれば、大会は棄権せざる負えないが、マシロの命に係わる事だタツヤも決勝と天秤にかけるまでもなかった。

 

「ふざけんな。試合に棄権するくらいなら死んだ方がマシだ。それにユウキ……お前許せんのかよ?」

 

 そう言うマシロの顔はいつもと明らかに様子が違った。

 いつものいい加減な感じはまるでない。

 

「俺は勝つ為なら何だってする。バトルや制作の練習や勉強だって強くなる為ならどこまでもやるし、必要であれば対戦相手の事を研究して策を講じる。けどな、相手を負傷させて弱らせるなんて事はしない。弱った相手に勝っても意味がないから。けど、アイツはそれをやった。許せるのかよ。ファイターとして!」

「それは……」

 

 タツヤは言葉に詰まる。

 確かに、サエキのやった事はファイターとして許す事が出来ない行為だ。

 ファイターは皆、考えこそは違えど勝つ為に最大限の努力をしている。

 サエキの好意はそんなファイター達の努力を無為にしている。

 それはファイターとして許す事は出来ない。

 

「なら、俺達ファイターがすべき事は決まってんだろ? バトルでケリを付ける。それ以外にあり得ない」

「無茶です。こんな体で……」

「ごめん。シオン君。僕もマシロ君に同感だ」

「ユウキ様まで何を……」

 

 素直に言ってしまえば、マシロを止める事が出来ない。

 だからこそ、タツヤは答えに詰まった。

 しかし、覚悟を決めた。

 最後までマシロと共にファイターとして戦うと言う事を。

 その結果としてマシロの命を危機に晒すと言う事も理解している。

 だが、当事者のマシロはそんな事は些細な事でファイターとしての意地を通そうとしている。

 相手がファイターの努力を無為にするのであれば、マシロはファイターとして意地を通す事がマシロなりの報復となる。

 ここで、大会運営や警察の手を借りてしまえば、サエキのやり方に屈したも同然で、大会に優勝したところで意味はないのだろう。

 

「そう言う事だ。それにシオン。分家とはいえ身内の恥をこれ以上晒す訳にもいかんだろう。この辺りで兄貴に借りを作っとくのも悪くはないしな」

「身内? どういう事だい? マシロ君」

「言ってなかったっけ? 対戦相手のクロガミ・レンヤは俺んちの分家の人間だよ」

「マシロ様は、クロガミの名を嫌い名乗ってませんでしたよ」

 

 シオンは先ほどまでとは違い、毒気を抜かれて呆れた。

 マシロはタツヤと初めて会った時に、ファミリーネームは嫌いだと言って名乗っていない。

 マシロはその辺りの事は大して興味はなかったのか完全に忘れていた。

 

「そだっけ? まあいいや。マシロ・クロガミってのが俺のフルネーム。ちなみに現在のクロガミ家の当主は俺の兄貴。最悪だろ? 黒が神ってまるで黒が凄いみたいじゃん」

 

 マシロはあっさりとそう言うが、タツヤは衝撃の余り言葉が出なかった。

 クロガミグループの事は以前に話した事があるが、その現在の当主がマシロの兄、即ち、世界トップクラスの企業のトップの弟がマシロと言う事になる。

 タツヤ自身、自分が普通の家の子供でないと言う事は自覚しているが、マシロの家はタツヤの家以上だ。

 とてもではないが、そんな家の人間だと言う事は信じられない。

 だが、以前にシオンにマシロの事を聞いた時に後、10年もすれば分かると言う事を考えばあながち嘘とも言い切れない。

 10年も経てばタツヤは親の会社で働いているだろう。

 次期社長としてだ。

 そうなれば、父のパイプを引き継ぐ為に繋がりのある企業の人間と会う機会も増える。

 当然、その中にクロガミグループの人間もいる。

 そこから、マシロの事を知る機会もあると言う事なのだろう。

 

「で、身内の恥って件は分家とはいえガンプラマフィアに利用されてるって事。どうせ、適当に数合わせのつもりなんだろうけど、完全に利用されているぜ。アイツ」

 

 クロガミ・レンヤ自身は自分が大会に出る為の数合わせのつもりでサエキと組んだのだろうが、マシロの見立てではレンヤはサエキに利用されているのだろう。

 クロガミ家の人間であればそれだけで目立つ。

 そうなれば、自分への注意が削がれて、最悪の場合はクロガミ家の力を利用できると言う算段なのだろう。

 

「うちはさ、色々と黒い噂があるけど、実際にはガセなんだよな。何代も前から違法行為からは足を洗ったって父さんから聞いた事がある。今の警察はどこの国もやたらと優秀だからな。だから下手な犯罪はリスクが高いんだよ。一過性の稼ぎはあっても恒久的な稼ぎは得られないから違法行為はしないってのがうちの方針。まぁ、違法じゃなければ大抵の事はしてるみたいだけど、その辺りの事は流石に俺も知らん」

 

 クロガミグループの黒い噂はタツヤも聞いた事はある。

 だが、クロガミ一族で当主に近い位置にいるマシロからすれば噂は噂でしかない。

 

「なのにさ。アイツはガンプラマフィアに利用されてさ。双方が利用するならともかく、ただ利用されるのはね。面識はなくともクロガミ一族の名を背負っている以上は、常に勝利者であれがうちの兄貴の口癖」

 

 マシロはレンヤの事を知っている訳ではなかった。

 クロガミ一族と言っても分家の数は非常に多く、一々末端まで知る訳もなく、一方のマシロも基本的に引き籠っている為、一族の中でも本家の兄弟以外にマシロの存在を知る者は殆どいない。

 そして、レンヤはサエキの事を利用している訳ではなく、一方的に利用されているだけだろう。

 一族の事を余り好きではないマシロだが、一族の恥となる行為を見て気分の良いものではない。

 

「それにアイツにもいい経験になるだろうさ。本家と分家の差って奴をさ」

 

 その言葉にタツヤは一瞬、寒気を覚えた。

 マシロの言う本家と分家の差。

 クロガミ一族は基本的に優秀な人材の家系だ。

 それは一族の家訓として常に強者であれと言う物がある。

 常に強者の側で居続ける事が求められている為、優秀な人材を育て続けている。

 分家の人間はあらゆる分野に精通したオールラウンダーの秀才だが、一方の本家はその真逆に一つの分野を極める事の出来る天才である事を求められていた。

 世界で活躍する「天才」と呼ばれているクロガミ一族は本家の人間で、一つの分野に限り人並外れた能力を持っている。

 マシロもまた、クロガミ一族においてガンプラと言う分野における天才である。

 故に優秀だろうと秀才どまりのレンヤに天才であるマシロの力を見せつける事は今後の彼の人生において役に立つだろう。

 

「まぁ、そう言うのは建前で人の領分に許可なく入って来た事に対するお仕置きなんだけどね」

 

 尤も、それは建前でしかなかった。

 マシロは一族の中の天才として相応しいだけの実力を持っている。

 だが、一族の中では所詮はガンプラもガンプラバトルもお遊びなのだと言う目で見られている。

 だからこそ、気に入らなかった。

 

「これは内輪の問題だからユウキは気にすんな。俺達の目的はサエキの野郎をバトルでぶっ倒す。それだけだ」

「分かってるよ」

「全く……どうして、いつもこう……」

 

 もはや止める事が出来ない事を悟り、シオンはため息をつく。

 こうなってしまえば、マシロは意地でも譲る事は無い。

 理屈ではなく単に譲りたくないとだけな為、説得は不可能に近い。

 

「分かりました。お気をつけて」

「ああ、後は任した」

「承知しています」

 

 シオンは頭を下げて別行動に入る。

 そして、午後の決勝戦に挑む。

 

 

 

 

 

 決勝戦の時間となり、二人はバトル開始ギリギリに会場に入る。

 すでに対戦相手は到着していた。

 

「遅かったじゃないか。逃げ出したと思ったよ」

「逃げる理由はないんでね」

 

 マシロは怪我をしている事を隠し、余裕を見せつける。

 そして、マシロとタツヤはGPベースをセットしてガンプラをバトルシステムに置く。

 今回は∀GE-1はビームサーベル以外の装備を持っていない。

 歩道橋から落ちた際に∀GE-1は無事でも予備パーツの殆どが駄目になっていた。

 前の試合で使ったスタングルライフルは前日に今日の準決勝で使う予定の装備でガンプラと共に特殊ケースにしまっておいて無事だったが、決勝戦で使う装備はまだ決めていなかった。

 その為、今回は最低限の装備しかない。

 その上、時間がギリギリだったのは準決勝での∀GE-1の損傷の修理に時間を使ってからだ。

 予備パーツは無い為、タツヤが持って来ていた工具等を使って急ピッチで補修作業を行い、ギリギリまで直していた。

 二人が間に合った事でレンヤは気づいていないが、レンヤの少し後ろでサエキは舌打ちをしている。

 流石に歩道橋から突き落とせば、そんなにバトルを出来る状態ではないと踏んでいたのだろう。

 

「マシロ君。勝つよ」

「当然だ」

 

 卑怯な手を使われた事でタツヤもいつも以上に気合が入っていた。

 一方のマシロは自分の状態を相手に悟らせないようにするだけで、精一杯だった。

 そして、バトルが開始された。

 

「様子見をしている余裕は僕達にはない。一気に戦局を動かす!」

 

 ザクアメイジングはロングライフルを構える。

 長期戦は負傷しているマシロにはキツイ。

 マシロが全力で戦える時間は余り長くはない。

 先制攻撃を仕掛けようとするが、相手の後方からビームが飛んで来て散開する。

 

「クロスボーンのバスターランチャーか!」

「来るぞ!」

 

 後方からサエキのクロスボーンガンダムX2のバスターランチャーが放たれて、回避している隙に高速飛行形態、ストライダーフォームのダークハウンドがビームバルカンとドッズガンで弾幕を張って突っ込んで来る。

 

「さて、どっちから仕留めようかな!」

「まずはお前からだろ」

 

 ∀GE-1はビームサーベルを抜いてダークハウンドに切りかかる。

 ダークハウンドはモビルスーツ形態に変形すると、リアアーマーのビームサーベルで受け止めた。

 

「ビームサーベルしか持たないガンプラで! クロガミ一族も舐められたものだね!」

「教えてやるよ。所詮は子は親には勝てないと言う事をな!」

 

 ザクアメイジングがロングライフルを放ち、ダークハウンドは距離を取るが∀GE-1は追撃してビームサーベルを振るう。

 

「ちっ……サエキ!」

「分かってますよ」

 

 ∀GE-1のビームサーベルをかわすダークハウンドを援護する為に、クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーで援護射撃を行う。

 それを回避した∀GE-1にダークハウンドがドッズガンを連射し、腕部の装甲で守る。

 

「マシロ君!」

 

 ザクアメイジングがロケットランチャーを放ち、ダークハウンドは肩のバインダーからアンカーショットを手に持ちワイヤーを射出して振り回してロケットランチャーを防ぐ。

 そして、ビームサーベルを腰に戻した∀GE-1が突っ込み振り回しているアンカーショットのワイヤーを掴んで一気に引き寄せる。

 ダークハウンドは∀GE-1の方に引き寄せられて、∀GE-1は腕部の装甲からビームサーべルを突き出す。

 

「しまっ!」

 

 振り回していたアンカーショットを掴まれた事で驚いた事で致命的な隙が生まれ、∀GE-1の攻撃を回避する事が出来なかった。

 ∀GE-1のビームサーベルがダークハウンドを貫くかと、思った瞬間に∀GE-1は攻撃を中断して、ダークハウンドを蹴り飛ばす。

 すると、ダークハウンドにビームが直撃してダークハウンドは撃墜される。

 

「やってくれたな」

 

 マシロがダークハウンドを蹴り飛ばして盾にしなければ、ビームは∀GE-1に直撃していた。

 それに気づいたからこそ、マシロはダークハウンドを盾に使った。

 そして、攻撃を行ったのはクロスボーンガンダムX2、つまりはサエキだ。

 

「味方ごとマシロ君を倒すつもりだったのか……」

「前のバトルでユウキも似たような事をしてたけどな」

 

 攻撃はダークハウンドごと∀GE-1を倒そうとしていた。

 前のバトルでタツヤも同じような攻撃を行っていたが、タツヤはこの程度ではマシロは大丈夫だと言う信頼の元での攻撃だが、今の攻撃はダークハウンドが破壊されても構わないと言う攻撃で同じ行動でも意味合いは違ってくる。

 

「ちっ……役に立たない坊ちゃんだ。まぁ良い。どの道、手負いと良いとこのボンボンだ。俺一人でも十分だ」

 

「それが本性って訳ね」

 

 ∀GE-1はクロスボーンガンダムX2へと向かい、ザクアメイジングもそれに続く。

 クロスボーンガンダムX2はバスターランチャーを放つ。

 

「ちっ……意外とやる!」

 

 クロスボーンガンダムX2の砲撃は正確で∀GE-1とザクアメイジングは中々距離を詰める事が出来ない。

 ザクアメイジングがロングライフルで対応するも、クロスボーンガンダムX2は中々、隙を見せない。

 

「はっ! 所詮は温い環境で育って来たボンボンはこの程度かよ!」

「ユウキ。今の俺は虫の居所が悪い。少し暴れさせて貰うから、後は任せた」

「マシロ君?」

 

 マシロはそう言って武装スロットを操作して「SP」と表示されているスロットに合わせる。

 

「行くぞ……限界を超えるぞ! ∀GE!」

 

 それを選択すると∀GE-1は青白く光る。

 

「この光は……」

「ガンプラの内部に圧縮した高濃度のプラフスキー粒子を全面に解放する事でガンプラの性能を向上させる」

「それってト……」

「違う! 名付けてプラフスキーバーストモード! 断じてトランザムではない!」

 

 ∀GE-1の切り札の「プラフスキーバーストモード」

 マシロの言うようにプラフスキー粒子を一気に使う事で発動する機能だ。

 一気に粒子を解放した事でガンプラが粒子によって青白く発光する。

 昨日の原理自体はマシロが自分で否定したガンダムOOに出て来るトランザムシステムと解放する粒子が違うだけだが、青白く光るところからベースとなったガンダムAGE-1の最終進化形態であるガンダムAGE-FXのバーストモードからプラフスキーバーストモードを名付けた。

 

「こけおどしを!」

「それはどうかな?」

 

 クロスボーンガンダムX2がバスターランチャーを放つが、一瞬にして∀GE-1はその場から消えた。

 

「速い!」

 

 そして、クロスボーンガンダムX2との距離を一気に縮めた。

 腕部の装甲からビームサーベルを出して振るう。

 その一閃はクロスボーンガンダムX2のスタスターを一本切り落とした。

 

「反応できねぇ!」

「少しそれたか」

 

 それと同時に∀GE-1の右腕のビームサーベルが消えて装甲が吹き飛ぶ。

 プラフスキーバーストモードはまだ未完成の機能だ。

 機能自体はバトルで使う事が出来るレベルで完成しているが、使うと動かすだけでガンプラへの負担がすぐに限界を超えてしまう。

 今の一撃で腕部装甲が限界を迎えてしまった事で装甲が吹き飛んだのだ。

 その為、プラフスキーバーストモードは使うだけで、負担で自身をも傷つける未完成の機能だ。

 その上で、扱いが非常に難しく、今の一撃も勝負を決めに行くつもりだったが、少しそれてスラスターの一つを破壊するだけになった。

 

「ふざけやがって!」

 

 バスターランチャーを放つも、∀GE-1の機動力に追いつけずに当たらない。

 攻撃こそ当たらないが、負荷のせいで∀GE-1の一部が外れて行く。

 反転して左腕のビームサーベルでバスターランチャーを切り落とすが、∀GE-1の左腕の装甲も吹き飛んだ。

 クロスボーンガンダムX2は腰のビーコックスマッシャーを取って∀GE-1を攻撃する。

 だが、∀GE-1は機体を左右に振って回避しながら、再びクロスボーンガンダムX2に向かって行く。

 

「何なんだよ! お前は!」

「俺は……最強のファイター……マシロ・クロガミだ! 覚えとけ!」

 

 ∀GE-1は腰のビームサーベルを両手に持ち、ビーコックスマッシャーごとクロスボーンガンダムX2の両腕を切り落とした。

 それと同時に∀GE-1の両腕も負荷に耐え切れずに粉砕し、プラフスキーバーストモードが解除された。

 

「慌てさせやがって……所詮は負け犬の足掻きなんだよ!」

 

 プラフスキーバーストモードが切れた事をこれ幸いとクロスボーンガンダムX2は頭部のバルカンを撃ち込む。

 

「死にぞこないは死にぞこないらしく死なないと駄目だろ!」

 

 プラフスキーバーストモードの負荷のせいで装甲も限界に近かった∀GE-1はバルカンでも十分に致命傷となり得る。

 バルカンを至近距離で直撃させられて、∀GE-1の装甲は次々と破壊されていく。

 

「こいつはタッグバトルなんだぜ? なぁ……タツヤ」

「そう言う事。後は任せて貰うよ。マシロ」

 

 サエキは頭に血が昇っていた為に完全に失念していた。

 これは一体一のバトルではなく、二対二のタッグバトルだ。

 だからこそ、マシロは使えば相手以上に自分を破滅させる未完成のプラフスキーバーストモードを使った。

 それにより、∀GE-1が破壊されようとも、相方のタツヤが居れば負ける事は無いからだ。

 一方のサエキは相方を切り捨てていた。

 ∀GE-1の後方からザクアメイジングがロングライフルを構えていた。

 

「くそがぁぁぁぁ!」

 

 ザクアメイジングの攻撃を回避しようとするも、最初の一撃でスタスターの1本が破壊されていた事で上手く動けずにロングライフルの直撃を受けてクロスボーンガンダムX2は破壊された。

 それにより、バトルは終了しマシロとタツヤの優勝が確定した。

 

「まさか……あいつが本家で引きこもっている奴なのか」

 

 レンヤも噂程度で聞いた事があった。

 本家の中で社会に貢献する事なく、家に引きこもり玩具で遊んでいるだけの当主の弟がいると言う事を。

 それがマシロで玩具と言うのがガンプラだと言う事に何となく思った。

 本家の人間は皆、それぞれの分野で特異な才能を発揮しているのであれば、マシロの強さも納得が行く。

 バトルが終了し、タツヤはマシロに向かって手を上げるとマシロもそれに合わせてハイタッチを行った。

 マシロはタツヤの行動に対して無意識の内に動いていた為、ハイタッチ後に自分の手を不思議そうに見つけていた。

 

 

 

 大会の決勝戦も終わり、会場が湧き上がる中、閉会式と同時に優勝賞品の授与が行われようとしているが、バトルで敗北したサエキは会場から出て来ていた。

 その手には携帯が握られており、どこかに連絡をしようとしていた。

 

「ちっ……まぁ良い。多少強引になるが……」

「どこに行くつもりですか?」

 

 連絡をしようとするサエキの前にシオンが立ちはだかる。

 マシロがバトル前に頼むと言っていたのはバトル後の事だ。

 バトルが終わって勝ったところでマシロの怒りは収まらない。

 その後に報いを受けさせてようやく、報復は完了する。

 

「誰だてめぇ?」

「見ての通りの執事です。私も少々、苛立っていますので手加減は出来そうにありませんよ」

 

 シオンがそう言った瞬間にサエキの視界からシオンは消えて、消えたと認識した瞬間には視界が反転していた。

 状況が理解する間もなく、サエキはシオンに組み敷かれていた。

 

「くそ! 離しやがれ!」

 

 サエキがそう言うとシオンは更にサエキを締め上げる。

 見た目は華奢なシオンだが、サエキの関節を完全に決めており、サエキは身動きを取る事が出来ない。

 

「本職が執事と言っても、主に怪我をさせたのは不覚でした。貴方にはその憂さを晴らさせて貰います」

 

 事前にある程度の情報を集めて、この辺りの治安は良いと判断してのマシロの怪我だ。

 事前情報で安全と確認したが、それでもマシロを一人で出歩かせていたのはシオンの怠慢と言わざる負えなかった。

 自分の失態から怒りをサエキにぶつけるかのように、シオンはサエキが意識を保てるギリギリのラインで締め上げる。

 意識を失う事も出来ずに、サエキは苦しむがやがて遠くからサイレンの音が近づいてくる。

 

「貴方は殺人未遂の現行犯で逮捕されます。ご安心をクロガミ一族には優秀な刑事や検事、弁護士が付いています。貴方にはそれ相応の報いを受ける事になります。良かったですね。この国が法治国家で……でなければ貴方マシロ様に殺されていましたよ」

 

 シオンの言葉は比喩にも聞こえるが、実際に起こり得た事だとシオンは思っている。

 日本は法治国家である為、マシロはバトル後にはこの国の法に委ねての報復を選んだ。

 尤も、クロガミ一族の息のかかった者達によって、サエキの過去に起こした犯罪ギリギリの事も全て明るみに出して裁判官から弁護士、検事に至るまでクロガミ一族の息がかかった出来レースの裁判で犯した罪の罰として最大限の刑が言い渡される事だろう。

 それだけの力をクロガミ一族は持っており。普段は好きではない一族の力をここまで行使するのはマシロのガンプラバトルに水を差したからだ。

 シオンも同情はしないが、ここまでやる必要はないと思いつつも、たかがガンプラバトルの為にここまでやってしまうのがマシロだ。

 だからこそ、場所によっては報復としてサエキを殺すと言う事もマシロは本気でやりかねない。

 それから数分後に到着した警察にシオンはサエキを引き渡した。 

 

 

 

 

 

 

 決勝戦が終わり閉会式の準備が進められている頃、タツヤはマシロを探していた。

 バトルが終わり、マシロを早く病院に連れていかなければならない。

 それなのに、マシロの姿が見えなかった。

 シオンもバトルの時から姿が見えなかった。

 何だかんだで連絡先を聞きそびれて来た為、今までは良かったがこういう時には非常に不便だと感じていた。

 会場内を探しているとマシロがベンチで座り込んでグッタリしていた。

 それを見つけたタツヤはマシロの元に駆け寄る。

 だが、マシロに近づいて最悪の事態では無かった為、取りあえずは安心する事が出来た。

 グッタリしている訳ではなく、マシロはベンチに座り寝ていただけだった。

 怪我をしているとは思えず、自分と同い年とは思えない寝顔で寝ている。

 

「全く……君って奴は……」

 

 余りにも穏やか過ぎて死んでいるようにも見えるが、息はしている事は見ただけでも分かる。

 流石に起こすのは悪い気がして、その場で救急車を呼んだ。

 

「流石にマシロをこのままにしておく事も出来そうにないな……閉会式に出なくても大丈夫だと思うけど……」

 

 起こす事も出来ず、かと言ってマシロをここに一人おいて行く訳にもいかない。

 タツヤはマシロの横に座り込んで救急車の到着を待っていた。

 

「本当に終わったんだな……」

 

 大会が終わった事を寂しく思うが、仕方がないことだ。

 大会が終わった後でマシロにザクアメイジングで再戦を挑む気だったが、この怪我では当分はバトルはお預けだろう。

 挑めばマシロの性格上、怪我を理由にする事なく受けるだろう。

 その様子を浮かべてタツヤは吹き出しそうになる。

 マシロと出会ってまだ一週間しか経っておらず、共にチームを組んでのバトルは二日だけだ。

 この二日のバトルはタツヤを初心に帰らせる事が出来た。

 それはタツヤにとってはファイターとして一歩前進する事が出来ただろう。

 それだけでもこの出会いは意味のある物だ。

 大会が終わり、寂しさを感じつつも、この二日間の事を思い出しながら、会場では優勝者不在のまま閉会式が進んでいた。

 こうして、大会はマシロとタツヤのチームアメイジングの優勝で幕を下ろした。

 

 

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