エラがみ無双   作:融合好き

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やっとマスターランクに復帰したので投稿します。


vsカポエラー

道場に足を一歩踏み入れると、中からどよめきが起こったのを自覚する。

 

しかしそれも当然だろうと。新人が来る予定だとは聞いていても、その予定されていた人物とはかけ離れた少女が訪ねれば驚きもするだろう。

 

中には私を知っている者もいたのか、時折私の名前や「ガラル空手」やら「スイーツマニア」だかの単語が聞こえてくる。待て最後の誰だ。何故それを知っている。私は一度トーナメントに出たきりで、それほど有名じゃないはずなのに。

 

(ここが、マスター道場……)

 

それはそうと、こうしてざっと中の面子を見る限りでも、この道場のレベルの高さを窺える。一人一人が私と同等かそれ以上、そして奥に佇む御老公は……正直、よく分からない。得体の知れない、という意味ではリンゴさんと同じく、しかし彼はリンゴさんとはまた違った意味で実力を掴みづらい人物であるように感じた。

 

「たのもう。……ここって入門受付とかやっていますか?」

 

そして、件のリンゴさんはと言えば、他人事だからか、緊張する私を他所に遠慮なく近くの人にそのように問いかける。

 

「え? あ、いや、俺にはちょっと判断しかね……ってかアンタ、もしかして」

 

戸惑う近くの人。否、近くの人ではなく、よく見れば知り合いだった。特に親しい間柄でもなかったが、流石に元同門の顔くらいは記憶してる。名前は確か、ユウタだったか? まあ、間違っているかも知れないし彼の名前なんて今はどうでもいい。それよりも今は、その質問内容こそが先決だ。

 

「あら、もしかしてあんた、セイボリーくんの言っていた新人ちゃん?」

「っ……!?」

 

瞬間、至近から掛けられた声に身構える。害意を感じたわけでないが、それ故にか、まるで気配が掴めなかった。しかし、この距離で気配を感じさせないとは、どうもこの女性、相当できる人なのかもしれない。

 

「あれ? でも、セイボリーくんからはその新人には会えなかったって……」

「ああ、いえ。彼とは駅で出会いましたが、おそらく彼の言は正しいです。私はその新人さんとはまた別に、飛び入りで修業を希望している者。ご迷惑であるならば、今すぐに立ち去ります」

「あらあら! 迷惑だなんてそんな。むしろ嬉しいわ。せっかく家族が増えるんだもの。飛び入りでも大歓迎よ」

 

朗らかに笑う女性。それを即決で決められるということは、この道場でも相当立場が高い人物なのか。まあ、門下生らしきユウタさん他多数とは違い、胴着ではなく緑色のセーターを着てるので、少なくとも門下生ではないことは明白である。

 

「それで、あんた名前は?」

「サイトウ、と申します」

「そう、じゃあサイトウちゃんね。──みんな、注目! これからみんなと一緒に修業に励むサイトウちゃんよ! よろしくね!」

 

直後、中にいる門下生全員から「よろしくお願いしまッス!」などと挨拶されて圧倒されてしまう。なんというカリスマか。かつて私がいた空手道場でも、ここまでの一体感は感じなかった。この一幕を見るだけでも、家族という発言に違わぬ通り、彼女が門下生を大切に扱っていることがわかる。

 

「それで、そっちの子は妹さんかい? ごめんねー、妹ちゃん。汗臭くて悪いけど、良ければ見学していく? 大したもんはないけれど、サイコソーダくらいなら出せるわよー」

「サイコソーダ……飲みたいです」

「あ……」

 

そうこうしてる間に、リンゴさんはその女性と共に左側の別室へと姿を消してしまう。会話の内容からしても別に何ら不自然ではないのに、どこか心細く思ってしまうのは、良くも悪くもリンゴさんが私の今後にかかる鍵となる存在だと、私自身がそう感じているからだろう。

 

(……あれ?)

 

どこか、今の一連の流れに違和感を覚える。いや、そうだ。最初に入門希望を言い出したのはリンゴさんなのに、私はその後ろにいただけなのに、どうして当たり前のように私が修業を受けることになっているのだろう。

 

それは単純に先程の女性が、セイボリー氏のように、私の服装が空手の道着だからと勘違いをしただけなのか。または私との会話から冷静に判断しただけなのか。はたまた何か違う理由でもあるのか。

 

そしてそんな扱いに疑問を抱くこともなく、てこてこと素直に台所へ向かったリンゴさんも気にかかる。けれども色々な意味で彼女は常識には当て嵌まらないので、そういった扱いに不満を抱かないのもなんとなく分からなくはない。

 

「じゃあ、私はこの子を持て成してるから。ダーリン、後は任せたよ!」

 

去り際に、女性は御老公に向けてそのようなことを言い残す──ダーリン? 巫山戯て言ってるようにも見えないし、彼女と御老公は夫婦なのだろうか? 結構な歳の差にも思えるが、女性に年齢を聞くのもまして年齢で愛を否定するのも憚られる。気にしないのが一番だろう。

 

「…………」

 

御老公は、無言でこちらを振り向く。門下生も含め、その一挙一動に全員が注目する。……ダボっとしたジャージを羽織ってるせいでわかりづらいが、それでも分かる。この御仁、相当な達人だ。年齢による衰えなどを抜きにしても、今の私では逆立ちしても敵わないだろう。

 

そんな人物が、私と視線が合うや否や、ニカっと笑って口を開く。

 

「ようこそ、マスター道場へ! ワシちゃんはマスタード! ポケモン、めっちゃ強いよん? これからよろぴくねー!」

 

呆気に取られる。それまでに抱いていた厳格なイメージが、音を立てて崩れ落ちる錯覚を抱く。否、あくまで初対面だ。そこまで勝手な幻想を抱いていたわけでもないが、道場の雰囲気がいいだけにこの落差には驚いてしまう。

 

「よ、よろぴく……?」

「うふふ。優しくていい子だねー。じゃあとりあえずチミの実力も見てみたいし、早速だけど、ワシちゃんとポケモン勝負、してみるー?」

「………。……喜んで」

 

挨拶があまりにも無体で、一瞬、考え込んでしまったものの、それが功を弄したのか、理想的な展開に頬を緩ませる。

 

とはいえ油断などしていられないと気を引き締めると、既に道場の中央にあったバトルスペースからは人が立ち退いており、改めてこの道場のレベルの高さを窺えた。

 

「じゃあ、始めちゃおー! チミのこと、いっぱい教えてねー!」

「──参ります!」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「ッ、は。はぁ、ハッ──」

「ワッハハ、負けちった! チミ、強いねー!」

 

息も絶え絶えに、私はそんな称賛を受ける。しかしながら、今の私はそれを素直に受けられる状態ではない。……ギリギリの勝利だった。何もかもを、持てる全てを発揮して、運にも助けられてそれでようやく掴み取った勝利。

 

はっきり言って、もう一度戦ったらおそらく私は敗北するだろう。しかも彼は、明らかにまだ余力を残している。彼の操るポケモンが初見のものであるというのを差し引いても、彼が私を遥かに凌駕する実力者であるのは明らかだった。

 

(………でも)

 

「本気の師匠ではないとはいえ、あの新人、勝った……!?」

「いったい、何者ッス……?」

「俺、あいつ知ってるぞ、ガラル空手の……!」

 

それでも私が勝利を掴むことが出来たのは、ひとえにリンゴさんとの戦闘経験があってのこと。あの異常な一撃が身に染みてるからこそ、初撃──コジョフーと呼ばれたポケモンの「とびひざげり」を、咄嗟に「みきり」で躱すことが出来たのだ。

 

(おそらくは彼でも、彼女には敵わない……ならば、こんなところで躓いてはいられない)

 

血潮が沸き立つ。血流が怒張する。巡る脳内物質が、緊張や疲労さえも押し除ける。あの日、道場を去ってから、久しく感じていなかった感覚、強者を打ち破るこの瞬間。高揚する。唇が軽く吊り上がる。

 

ああ、やはり一人で鍛錬など間違っていた。ゴリ押ししか出来なかった私は、それを何処までも押し通すために、こうして対人の経験を積むべきだったのだ。

 

「おめでとー! 実力も十分に見せてもらったし、チミの闘い方にはポケモンに対する思いやりを感じるよん。飛び入りだろうと学ぶ気があるのなら、当道場はいつでもウェルカム! ってなわけで。みんなと同じ!この道着セットをプレゼントしちゃう」

「き、恐縮です」

 

やはり慣れない口調ながらも、発言の内容そのものは素直に嬉しく思う。いつだってどこでだって、目上の者から認められるのは良いものだ。

 

「……さて! サイトウちんが来てくれて道場の定員も揃ったし、これからみんなには3つの修業をしてもらうよん」

「3つの修業、ですか……?」

 

説明もなく、あまりにも突然に。しかも当たり前のように言うものだから、てっきり恒例のものかと思って周囲を見渡すも、他の門下生の方々も知らない……どころか定員の有無すら理解してなかった様子。これでは助けなど望むべくもない。

 

というかサイトウちんって。もう少し呼び方は何とかならなかったのだろうか。文句なんて言える立場じゃないけれど。

 

そうして御老公から語られる修業内容は、彼が育てた「素早いヤドン」を捕獲せよというもの。素早いとはこれ如何に、と私が思えば、テッカニンを彷彿させるほどの逃げ足で件のヤドンが逃げていくではないか。

 

(なるほど、これは確かに素早いヤドン……)

 

ヤドンというポケモンについては詳しく知らない。けれども、この速さが明らかに異様なことはすぐ分かる。追いつくか、追い込むか、罠でも張るか、はたまた別の方法か。修業の数に因んでか、3日と定められた期間の中で、私はその手段を編み出さなければならないのだ。

 

 

 

 

……………………

 

 

 

………………

 

 

 

…………

 

 

 

 

「ポケモンバトルにおいて、速さはそれだけでも武器になる。攻撃が当たらなければ、必然ダメージを負うこともない。であれば当然、負けるはずもない。上から行動できることはとてつもないアドバンテージとなり、対応出来なければ成す術がなくなる」

 

良い匂いのする鍋をかき混ぜながら、どっぷりと沈み行く夕陽を背景にリンゴさんは語る。彼女自身は毎度毎度「役に立たないかもしれない」と律儀に前置きを入れるものの、彼女の話は興味深い内容が多く、与太話だとしても飽きない。

 

ならばこそ、私は割とこの時間が好きだった。厳しい修業の気晴らしにもなるからだろうか。夕飯時にその日、その日の成果をただ語り合うだけの時間でも、一人で鍛錬している時とは違う、独特の満足感のようなものが生まれるのだ。

 

「何を隠そう、それを突き詰めた存在こそ、貴女も良く知るノラということになる」

「え?」

 

だから、だろうか。突如語られたその言葉に、リラックスしていたはずの全身が強張る。

 

ノラと言えば、彼女が持つあのポケモンのことだ。竜の尾に魚の頭部を貼り付けたような異形のポケモンで、私のポケモン達を全て一撃の元葬った力の権化。存在すら知らなかったそのポケモンの秘密を、まさかこんなところで聞くことになるなんて。

 

「実はノラの攻撃力は、同条件ならカポエラーにも劣る」

「………はい?」

 

のっけからあり得ない言葉。でも、馬鹿みたいな声を出したことさえも無理はないと自信を持って言える。だってその言葉が真実なら、あの異常な火力は何なのだ。彼女のジムチャレンジの映像は全て確認している。彼女のポケモンが私の二倍の実力だと言うのなら、かつて私がジムチャレンジの際、私のカイリキーがダイマックスしたジュラルドンを一撃で倒せなかったのは筋が通らないじゃないか。

 

脳内が疑問符で埋め尽くされる私に、リンゴさんも当然その疑問を想定していたのか、「だけど」と続けて、

 

「ノラの専用技である『エラがみ』は、ノラの特性である『がんじょうあご』が適用される物理技で、最大の特徴として、先制攻撃で威力が倍化する性質を持つ」

「先制攻撃で、威力が倍化する……?」

 

それはつまり、『リベンジ』の逆、ということだろうか。何と奇異な条件による火力増強か。そんな馬鹿な、とは思うものの、『ハサミギロチン』なんかは当たればどんな不利な状況をも覆す。あり得ないとは言い切れない。

 

「先制攻撃で2倍。タイプ一致で1.5倍。特性で更に1.5倍。単純に実力差で2倍。あといくつかタネはあるけど、この冗談みたいな倍々ゲームが正しく反映されてしまうのがポケモンという生物。聞いたことがあるはず。ポケモンとは、不思議な不思議な生き物なんだって」

「………それは」

 

そのフレーズは、トレーナーであれば誰もが聞き覚えのあるはずの言葉だ。この世界には、ポケモンと呼ばれる不思議な生き物が棲んでいる──その不思議が、いわゆる生物学的な意味でも不可解であることは、ポケモンを深く知る者にとっては周知の事実である。

 

「でも、そんなの、どうしたら……」

「方法としては主に4つ。技か道具か特性かプレイングか。順に説明する……貴女はもう、私とネズさんとの試合は見た?」

「見ました。あれは……」

「そう。単純な速度と、行動としての素早さは似て非なる。ポケモンバトルがよーいドンでスタートする競技である以上、トップスピードが負けていてもやり方次第で一歩二歩先に進むことができる」

「先制技、ですね──これは確かに、参考になります」

 

『ねこだまし』であれば、最近覚えさせたポケモンがいる。それこそネズさんと彼女の戦いに影響されて思い出させたその技は、果たして実際に通用するのかどうかは興味がある。

 

「なんなら一度、試してみる?」

「……いいのですか?」

「構わない。互いに指示は一度きり。結果の是非を問わず追撃は不可とする。それでいいなら」

「では──お願いします、カポエラー!」

 

呼び出すは、私が先手として好んでいるカポエラー。このポケモンは耐久力こそ高いもののスピードは遅い。しかしながら、彼女の言葉を借りればこのカポエラーの素早さは、決してリンゴさんのウオノラゴンにも負けてはいない!

 

「ノラ、『エラがみ』」

「『ねこだまし』です、カポエラー!」

 

その指示は、ほぼ同時に。しかし──その初動はどういうわけか、実力が劣るはずのカポエラーが明らかに凌駕していた。

 

「──ッ」

「…………ぅ」

 

ぱぁん! と高らかに鳴り響く音。それが届く前に即座に耳を押さえ、引けそうな腰に喝を入れる。その効果は覿面であり、予想してたであろうリンゴさんも顔を顰め、初期位置から一歩分後退する。

 

──しかし。

 

「……ゆ、油断、たいてき──」

「──な!?」

 

逃げ腰で呟いたリンゴさんに疑問を抱いて状況をよく見れば、肝心のウオノラゴンは何故か『ねこだまし』によって怯むことはなく──その冗談のような火力で、私のカポエラーを蹂躙する。

 

いや、彼女の言が正しいのであれば、これでも普段より火力が半減しているのか。されど、結果が同じであるならその過程に意味などない。

 

「な、何故……?」

「これが、二つ目……私は、ノラには事前に、『メンタルハーブ』という道具を持たせていた。この道具は短時間しか保たないけれど、この香りが漂う限り、ノラは動揺し難くなる」

 

そんな馬鹿な。駄目元だったとはいえ、一番有効そうに見えたこの手がまさか通用しないなんて。

 

否。彼女だって、そうされたら困ることは理解しているのだ。ならば彼女がそれを対策してこないなどと、それは単なる甘えでしかない。しかし、それなら、どうしたら──と思うものの、それは私自身がどうにかするのが筋だと思い直す。

 

少なくとも、彼女としても対策が必要なほど、この手が有効だと分かったのだ。手段があるなら、対抗はできる。まずはそれからだ。時間はある。ゆっくりとそれを見つけていけばそれでいい。

 

「……耳が痛い。途中だけど、今日はここまでにする。スープ、飲む?」

「ありがたく頂きます」

 

カポエラーを介抱し、地平線と同化する夕陽を眺めながら、私は決意を新たにする。身に付けた手段の一つ一つを、自らの成長の糧とするために。

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