エラがみ無双   作:融合好き

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ようやっとまともな休みが取れたので投稿します。遅れて申し訳ありません。


vsヤドラン

 

 

 

 

「思ってたより、時間がかかったな……」

 

ハニカム島の中心部。ボスを倒して占領した大樹の頂点にて、私は夕陽を眺めながら独り言ちる。

 

心地よい潮風が随分と伸びてきた髪を揺らし、夕陽に照らされ鮮やかな血の色にコーティングされる。旅に出てから丁度2ヶ月。本土ではこの染まった髪にも負けないほどの血反吐を撒き散らしながら、それでもカブさんを突破できずに喘いでるチャレンジャーが続出し始める頃だろう。

 

いや、何なら未だにヤローさんすら突破出来ずにいて、トレーナーとしての道を挫折した人も間違いなくいるはずだ。毎年このくらいの時期にはそれらしいトレーナーが自然公園に現れて、それを自身と重ね合わせるのが常だったから。

 

「ダイキノコが割と簡単に集まったから甘く見てた……どうしよう」

 

それはそうと、割と本気で焦る私。道場を後にして早2日、『これを自転車で行き来とかウッソだろお前www』と真顔で突っ込みたくなる距離をタクシーのおじさんに頼み込んで横断し、更に半日ほど歩き通してようやく見つけ出した大樹のボスに、それまでの旅程の怒りをぶつけたはいいものの、これほどのロスは流石に予想外だ。

 

これだともう、下手をしたら塔まで試練が終わっているかもしれない。とはいえ育成に関しては、私が出来ることなんて何もないのだけど。

 

『リンゴは相変わらず軽いなぁ。野菜やきのみばかりじゃなくてもっと肉も食べなきゃ駄目だぞー?』

「…………」

 

嫌なことを思い出した。せっかく気分を晴らしていたのに、これじゃ台無しだ──って違うそうじゃない。何を考えてるんだ私。呑気か私。私の食事事情なんてどうでもいいじゃん私。みんなぼかすから何の肉かよく分からなくてウチでは肉を食べたくないとか今ここで考えるような話題じゃないでしょ。ほら、そこはもっとシリアスな話題を、そう、例えば──

 

『しかも、()()()()()()()()()()()()──』

「………っ、」

 

これもそうだけど、これは違う。あそこでハッキリと言ってもらわないと、私はいつまでも前には進めなかった。あの経験があったからこそ、私の迷いは消え失せた。……トレーナーとしての道を、諦めることができたから。

 

「…………」

 

私はポケモントレーナーになりたかった。それもただのポケモントレーナーじゃない。ノラと並ぶに相応しい、ポケモンマスターと呼べる存在に。

 

どうしてノラを最強と定めたのか。それは私が最強でありたかったからに他ならない。

 

あの子達を相応しい舞台に連れていく。その約束に、その意思に、その言葉に嘘はない。でも、それは私の実力によるものであるのが大前提だった。だからこそ、いつまでも諦めきれずにいた。

 

しかし事実として、私は最強ではなかった。私には才能がなかった。私にはトレーナーの素質そのものが備わっていなかった。どうしてだろう。ノラは、あの子は最初から最強であったのに。どうして私をこの世界に連れてきた誰かは、私にはその最低限の素質すらも与えてくれなかったんだろう。

 

「…………」

 

夕陽が完全に顔を隠すと、合わせて鮮やかに染まっていた髪が、徐々に元の色褪せた赤色に戻る。けれどそれを嘆くことはない。血の色なんて、泥臭いくらいで丁度いい。私が背負うものは、どこまで行っても華やかなそれではないのだから。

 

 

 

……………………

 

 

………………

 

 

…………

 

 

 

「リンゴさん。起きてください、リンゴさん」

「ん……?」

 

その言葉に目を開ける。つい最近にも経験した感覚。実家にいた頃には良く体験した、優しく揺り起こされる感覚がする。

 

そこには見慣れた顔がいた。ここ1ヶ月ですっかり着慣れた道着に身を包んだ、私にとってもよく分からない関係を築くことになった一人の女性。

 

かつて私の記憶では、ポケットモンスターソードにおいてラテラルタウンのジムリーダーだったはずの人物、サイトウ。おそらくは私とは対極に位置するだろう、才能に溢れるトレーナーの一人。……それはそうと、どうして彼女がここにいるのだろう。

 

「おはよう。どうして、ここに……」

「おはようございます。どうしても何も──まさかここで一晩過ごしていたんですか?」

 

そうなのだろうか。今、私がいるのはハニカーム島の大樹の上だ。でも、昨日、あれから記憶がないのでおそらくはそうなのだろう。何やってるんだ私。ちょっと尋常じゃないくらいデカい木の上なので落ちたりとかはなかっただろうけど──疲れていたんだろうか。昨日はほぼ丸一日散策だったし。

 

「なんというか……相変わらず、無茶をしますね。貴女にとっては、無謀ではないのでしょうが」

「相変わらず……?」

「そうですが……もしや、自覚がなかったのですか?」

「…………」

 

ない、と言えば嘘になる。無理をしていないなんて、そんなはずはないだろう。だって、そうしなければ、私は──

 

「それです、リンゴさん。……一人の時、よく啜り泣いているの、知っていますから」

「…………っ」

 

咄嗟に目を擦る。が、ブラフだったらしく、そこには涙の後など見られない。どころか昨晩食事も取らずに寝ていたせいか、汗一つかいてないし喉がカラカラでちょっと気持ち悪い。

 

「貴女が何を思うのか、私はそれを知りません。ですが、別に才能があるからと、それを無理に誇示する必要なんてないと私は思うんです」

「…………」

「ポケモンを傷つけるの、苦手なんですよね? 幸い、バトルそのものに苦手意識はないみたいですが、かつて私がいたガラル空手の道場でも、似たような人はたくさんいました」

「………そう」

 

違う──ような、そうでもないような。しかし、しっかりと本質はついているのではっきり違うとも言い難い。なんだろうこの微妙な気持ち。才能云々については明確に否定できるけど。

 

色々な意味で私が答えあぐねていると、その沈黙を彼女はどう受け取ったのか、さっきまでの私にも負けないほど深妙な顔で、

 

「確かに私は、貴女の才能が羨ましい──私にそれだけの力があればと、この1ヶ月で何度思ったことでしょうか」

「…………」

「でも」

 

彼女は告げる。その才能に縛られる必要はないのだと。たとえ誰かに望まれたとしても、たとえ誰に期待されているにしても、それで貴女が苦しむようなら、それは貴女のためにならないのだと。

 

「この世界はポケモンを中心に据えていますが、だからと言ってポケモンが全てというわけでもありません。私の父は道場の師範。母は元々その近くにあった定食屋の娘で今は専業主婦をやっていますし、兄に関してはチャレンジを挫折して大学で考古学の方を学んでいます」

「……お兄さん、いるの?」

「いますよ。何なら弟も2人います。2人揃って父ではなく、何故か私を師匠呼ばわりするのがやや困りものですが……」

「…………」

 

これは……困ったな。そもそもからして事情なんて話していないので当然だけど、何か妙な勘違いをされてるっぽい。そしてなまじ問題なのは、方向性が真逆なだけであって、内容自体はそう的外れでもないということ。つまり、私としても回答に支障は無いということでもある。

 

(…………)

 

才能に縛られる、か。……あまり深く考えたことはなかったけど、おそらく私はそうなのだろう。ただ、皮肉なのが、私が考える才能と、彼女が私に幻想として抱くその才能とやらは、きっと真逆の意味であるということだ。

 

「……ですが、その上で、勝手ながら、私は貴女に挑みたいとも思ってます。ですので私としては、この選択肢は提示はしますが推奨はしません。貴女の強さは、我々トレーナーにとって、それだけ目を惹く力がある──」

「……だからこそ、私は」

「え?」

「いや、なんでもない。それとその推察は間違ってる。私は別に、ポケモンを傷つけるのが苦手なわけじゃない」

「そうなんですか? ああ、でしたらこれはまた失礼を──」

 

実際、私はポケモンバトルは大好きだ。それが自分の実力じゃないのがモヤモヤするだけで、勝つこと自体は本当に嬉しい。とはいえ、それ以上に罪悪感がやばくて死にたくなるので、結局は似たようなもので、そう勘違いされるのも無理はない。

 

妙な雰囲気になったので、先程から気になっていたことをあからさまに安堵している彼女にどう切り出すか迷ったものの、話題を逸らす意味も込めて、敢えて素直に訊ねることにする。

 

「それで、そのポケモンは……?」

「ああ、この子の挨拶が遅れてしまいましたね。ですが、それより先にこちらをお返しします」

「ん? ああ……」

 

私とは違い、手渡しで丁寧に渡されたそれを受け取る。あまりに馴染み深い感触。離れていたのはたった数日だけど、それだけで落ち込んでいた精神が回復するのを実感する。

 

だからこそ、それを彼女が渡す時、バツの悪そうな顔をしていたのが印象的で、嫌な予感が拭えずに冷や汗が流れ出す。一縷の望みに賭けて、彼女ならば無体なことにはなるまいと預けていたのだけど、やっぱり流石に無謀な試みだったのかな……?

 

「って、え……?」

「その──ですね。すみません、元の姿でお返しすることが出来ず……」

「──」

 

絶句する。頭の中が真っ白になる。そんな馬鹿なことがあるのか。可能性を考えなかったと言えば嘘になるけど、あくまでこれは思いつきで、まさかたった一回のバトルで、これほどまでに変わり果てるなんて──

 

「……一度預けた以上、文句は言わない」

「で、ですが……」

「くどい。それよりも、その子の紹介をしてくれるって話は?」

「そ、そうでした」

 

ハッキリ言って面食らったし、正直割と絶望したけど、結果そのものに不満はない。むしろ結果だけを見れば感謝したいくらいだ。とはいえ。こうなると、やはり私にトレーナーとしての素質は全くないのだなと実感するばかりである。そして同時に、それは才能があればどうとでもなるのだと。

 

才能、才能、才能。あまりに聞き飽きたその言葉。スクールではサジを投げられた私が、今ではその権化のように扱われているのはもはやギャグでしかない。既にリーグトレーナーの資格を得た以上、もうスクールに戻る必要もそのつもりもないけれど、こんなにもあっさり解決するとか、スクールの先生も浮かばれないだろうに。……まあ、いいけど。

 

「紹介します。こちらが道場より譲り受けた、秘伝のヨロイことダクマです」

 

そのポケモン……ダクマは、どことなく外観が彼女に酷似していた。灰色に近い肌色と、頭にある鉢巻のような白色の体毛が特徴な、見るからに格闘タイプ。

 

いや、わざわざ遠回しに解説する必要などあるまい。私はそのポケモンを知っている。それは、ソードシールドにおける追加コンテンツで登場した伝説のポケモン、ウーラオス。その進化前となる、一体どこがヨロイなのかさっぱりなポケモンである。

 

「……よく勝てたわね」

「……そうですね。ギリギリの勝利でした。──というより、正直なところガチガチに対策を固めていたヤドランよりも、ギャロップやココロモリの方が個人的には辛かったですね……」

「まあ、そうね。特にギャロップなんて、カポエラーとゴロンダの『バレットパンチ』くらいしか有効打がなさそうだったし」

 

ノラが例外中の例外なだけで、普通はタイプ相性が悪ければロクなダメージも与えられない。それは一度でもポケモンバトルを経験したことがあるならば自明のこと。だからこそ、その差をどうやって彼女は覆したのだろうか。

 

「覆せなかったので、ギャロップはカポエラーのねこだましにバレットパンチと、ネギガナイトのであいがしらでどうにか。ココロモリは……正攻法では無理そうだったので、ゴロンダをダイマックスさせて無理矢理乗り切りました……」

「………そう」

 

些か以上に強引な突破法だった。というかこの人、カイリキー以外もダイマックスできたんですねやっぱり。それは当然そうなんだろうけど、彼女がその手段を取ったこと自体がかなり意外である。

 

恐る恐る近寄ってくるダクマを撫でる。予想以上にもふもふとした感触が心地いい。良くも悪くも私の持つポケモンは体毛を持たないので、この感触は新鮮でもある。

 

「よろしく、ダクマ。……ニックネームは付けない派?」

「そうですね。私は特に……とはいえリンゴさんも、あのポケモン以外には付けていないのでは」

「キュワワーとコイルはそれ以外の名前が浮かばなくて……縮めると言い辛いし」

 

これは本音だ。私はポケモンに名前を付ける場合、その種族名を捩った名前を好む。そして、一度浮かんだ名前を否定するのは好まない。故に、可憐なキュワワーにキュワちゃんと名付けるのはターミネーターを連想して躊躇ったし、コイルに至ってはコイル以外の呼び名なんてあるの?ってレベル。だから私は進化してもコイルはコイルで通します。

 

まあ、それはともかく。

 

「この子はその、免許皆伝の証的な……?」

「違う──と思います。少なくとも、私はあの道場の全てを学んだとは言えません。それに、一応ですが、課題らしきものは残されています。曰く、ダクマとこの島を巡って来い、と」

「……ふぅん」

 

いやまあ、知っているんだけど、ここまでゲームと同じだといわゆる主人公だけが例外というわけでも無さそうで安心した。つまるところ、少なくともマスタード師範は、課題を熟すだけの力を認めれば同じだけの姿勢を見せてくれるということ。なればこそ、彼女であれば、あの塔も乗り越えるはずだと。

 

「…………」

 

(……馬鹿だなぁ、私)

 

いつの間に、ここまで彼女に入れ込んでしまっていたのか。応援したい? そんなわけがあるものか。私はそんな殊勝な人物じゃない。きっとこれは、ただの代償行為だろう。

 

才能がない私。才能がある私。いずれにせよ、私は私が出来なかったことを彼女に投影して、それで満足して悦に浸っているだけなのだ。

 

(……まあ、いいか。そんなこと。今更自覚したところで何も変わらないし)

 

「話を戻しますが、リンゴさんは、どうしてここに?」

「……嫌がらせ?」

「はい?」

「いや、なんでもない。そろそろ島を出ようと考えてたから、それまでに用事を作っておこうと思っただけ」

「作る……ですか?」

 

まあ、目的から考えれば、これは嫌がらせで相違ない。自分から会うのは気が引けるからと、向こうから会うように仕向けるなんて、捻くれてるとしか言えない。でも。

 

側に置いていたリュックを背負い、ボールからキュワワーを取り出して立ち上がる。その際、ダクマの視線があからさまにリュックの方を向いていたが、もしや気づいているのだろうか。そういえば無抵抗で撫でられていたし、本能とやらは侮れない。

 

「そろそろ、私がターフタウンを後にして2か月になる。まだ2か月とも言えるし、もう2か月とも言えるけど、どちらにせよ、一度くらいは実家に顔を出したい」

「名残惜しくはありますが、そういう事情ならば賛同するほかありませんね。しかし、そうなると、寂しくなりますね……」

「──貴女にはもう、その子がいるのでしょう? それで貴女がどうなるのか、貴女が何を選ぶのかは、チャンピオンカップまでに聞くことにする」

 

キュワワーを横にして、その輪の上に座り込む。今更だが、結構な無茶をしてるのに、キュワワーはまるで痛苦を感じていないのが流石である。伊達にレベル60なわけではない。……決して、私が軽過ぎるからとかではない。

 

「……そういえば、貴女は自転車でここに来たの?」

「はい? ええ、そうですが。……大体、4時間くらい要したでしょうか」

「…………そう」

 

最後にそんな会話をして、彼女が持つ素質の凄さに別の意味で戦慄する。4時間も不安定な海の上をあんな自転車で横断とか正気だろうか。でも、ポケモンの世界って色々な意味でまともじゃないし、私自身も別にまともだとは思っていないので、やがて考えるのを止める私なのだった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

何故か駅で出会ったセイボリーさんを流れでボコボコにして、タクシーや電車を乗り継ぐこと丸2日。ついに戻ってきた我が故郷ことターフタウン。

 

ここは農業が盛んな地域であり、住民の実に8割もが第一次産業に携わるという農業地区でもあり、ガラルの自給率が100%を未だ保っているのは、この街があってこその成果だと言われている。

 

これは結構凄いことで、この世界の人口が少ないことを抜きにしても、ポケモンという農家にとっては普通に害獣な奴らがわんさか蔓延ってる中で前世のイギリスよりも高いのだから、これは誇っていいことだと私個人は思う。

 

「……さて、どうしよっかな」

 

用件であった挨拶は既に済んだ。拍子抜けするほどあっさり終わった。というか私の両親に限らないけど、ターフタウンにはポケモンバトルにあまり興味を抱かない人が多いような気がする。

 

(田舎だからなぁ……都会でちょっと有名になっても『りんご園の娘っ子』からジョブが変わらないというか……)

 

分かる人はいるのだろうか。分からないでも、なんとなく共感してくれたらそれでいい。でもお父さん、気取ってサスケェ!!の父親みたいなこと言わなくても、ポケモンバトルでは私貴方に育てられた覚えなんてないから。むしろ疑問に思うべき場面だからこれは。……まあ、面倒なことにならないので助かるけど。

 

でも本当にどうしよう。いちおう一度スクールの方にも顔を出してみたけど、私に成長の余地が本当にないことはあの島で十分に思い知ったし、元々腫れ物扱いだった私がこんな有様で先生も対応に困っていたから、いよいよ居場所が実家くらいしかない。あとついでにお察しの通り私に友達らしい友達はいない。故に転生なんて頭のおかしい話は、誰にも語らず墓場まで持っていくつもりである。

 

「はい、はい……分かりました。では、すぐに──む?」

「は──………?」

 

何となしに街中を歩いていると、スマホで通話しながら歩いていたある人物にばったりと出会い、そのまま思考が停止する。歩きながらのスマホは危ないとか、こんな街外れで奇遇だとかそういうのを抜きにして、彼がスマホを持っているという光景はそれだけで、私にそれなりの衝撃を与えるものだったのだ。

 

いや、そりゃあ彼はスマホくらい普通は持ってるだろうけども。

 

「おお、キミは。ジムチャレンジ以来でしょうか。久しぶりです、フジさんちの娘さん」

「……お久しぶりです、ヤローさん」

 

図体に似合わない柔和な声で、年下の私にも丁寧な口調を忘れない彼は、ターフタウンジムリーダーことヤローさん。そして彼は実のところ、ジムリーダーの中では唯一、元から私と面識があった人物でもある。でもだからってその呼び方はやめろ殺すぞ。……当然、彼相手にそれを面と向かって言う度胸なんて私にはありません。

 

「積もる話もあることなんで、ここはお茶でもしばきたいトコですが、生憎と今は用事が出来てしまってあまり時間がなく……」

「あー、その……お気になさらず」

「いや、そうだ。良ければキミも一緒に来ますか? チャレンジャーであれば、ライバルの様子は多少なりとも気になるでしょうし」

「ライバル……?」

 

よく分からなかったので詳しく話を聞いてみると、どうも遂に今期においても私に次ぐカブさんの突破者が現れたらしく、ヤローさんはその彼を激励するために今からエンジンシティまで向かうつもりだったとか。

 

「…………」

「カブさんのトコは、並大抵の実力じゃ突破できませんからね。対策を練るにせよ正面から打ち破るにせよ、それが出来るならトレーナーとして一人前なんですわ」

 

なるほど。まあ、それは分からなくはない。やけどなんて知識が無ければ対応は難しいし、あったとしてどう対応するかはトレーナーの腕に直結する。

 

故にこそ、対応できれば一人前という基準に否はなく、それを祝うのも不思議はない。毎度毎度そんなことやってたら大変じゃないの?という疑問はあるが、「僕の負担なんかよりトレーナーの門出を祝う方が大事」らしい。良い人だ。だからこそ最初のジムを任されるんだろうけど。

 

(それに、多分、言うほど大変でもないはず……この2か月で2人。私という例外を除いてやっと1人。この時期になると流石にヤローさんは突破しているか挫折してるかの二択だし、タイミングが被ってもジムを優先すれば問題があるわけでもない……)

 

いや、それでもやっぱり大変なことには変わりがない。結局のところ、ゲームでの激励は、そんな彼らの善意によって成り立っていたのだろう。

 

「え? そのトレーナーの名前ですか? 確か……」

 

ついて行くかどうかはさておき、一つだけ気になったのでそれだけは聞いてみる。それを聞いてどうという話でもない、単純な好奇心だ。

 

「ビート選手、でしたかねぇ?」

「…………」

 

そうして出て来た名前を咀嚼して、何とも言えない感情を抱いて押し黙る。そして、その名を聞いて彼に随伴することを決めた私にも、私自身疑問に思うのだった。








セイボリー「フッ、サイトウ氏にお聞きしました。よもや勝ち逃げなどと、このワタクシが許しませ──グェーーッ!?!!」
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