「本日の掘り出し物は『するどいツメ』だな……3000円だが、買ってくかい?」
「…………」
何度か聞いたその台詞に、私はいいえを選んで丁重にその場を離れる。提示されたモノも貴重と言えば貴重な道具ではあるが、流石に一月も通い詰めていれば幾つかは被る物も出てくる。
当然ながらこの世界ではある意味では神の所業であるワットバグなんて裏技があるはずもなく、もっと言えばダイマックスの巣穴もあんな分かりやすい感じに沢山設置されてるわけではないため、日付変更を行って粘るなんてことは出来ない。
付け加えて、ここからナックルシティまで往復で1日かかるので仮に出来たとてそんなこと無意味である。いずれにしても、結局はこうして地道に粘る以外に方法はないのだ。
「いや、居過ぎでしょ私……」
それはそうと、思わずそんなことを愚痴る私。なんだかんだとルリナさんの誘いも断ってラテラルタウンに滞在すること早ひと月。もうすっかりと怪しい出店を吟味することに慣れてしまった私だが、未だ当初の目的であったぼうごパットが見つからないから仕方ない。
とはいえ、実のところぼうごパットにそこまでの執着があるわけでもなく、見つからないなら見つからないでも構わないのだけど、なんだろう。狭いところが落ち着くとかそういう感じの謎の居心地の良さがこの街にはあるというか、正直な話、私自身にも何故これほどにこの街に滞在しているのかよく分かっていないのだ。
「……それは。もしかして、僕と、同じ理由……?」
「……?」
不意に投げかけられた声。それに反応して後ろを振り返ると、それを発したであろう見覚えのある少年の姿に驚く。
見紛うはずもない、あまりに特徴的過ぎる顔全体を覆う不気味な仮面。すなわち、ここラテラルタウンのジムリーダーであるオニオンその人である。
「あ、その……いきなり、ごめんなさい。でも、貴女からは、僕が好きな気配がするから……」
「好きな……気配?」
彼の素顔を知ってるからか、今世では父親以外の異性に言われたこともない「好き」というその単語に思わずぴくっと反応してしまうものの、その後に続く不穏な言葉に問い返す。
「……このラテラルタウンの下には、かつて有力な王が無数の人柱と共にその身を鎮めたという伝説があります」
「…………」
「ディグダ像や壁画、遺跡なんかはその名残で、付近にゴーストポケモンが出没するのもそれが理由なんじゃないかって──根拠は無いらしいけど」
「無い……
「………。……僕は昔から、自分でも不思議なほど、
「…………」
納得は出来ないが、彼の言いたいことはなんとか理解はできる。この土地にそんな曰くがあったのは初耳だけど、ゴーストポケモンとの親和性が高い彼が半ば確信しているのなら否定する理由もない。ただ、
(だから、私がこの街に惹かれている……?)
考えもしなかったことだ。なまじ不思議な現象がない世界の出身だからか、私は当然のようにその手のファジーな力など持たないと思っていた。
けれど、違った。そうだ、違うのだ。改めて考えるまでもなく、ある意味で私はこの世界の誰よりも死に造詣が深いと言える。なればこそ、オニオンジムリーダーがこの街に惹かれるというのであれば、私も影響を受けて不思議はないのだ。
(でもそれって、下手しないでも亡者が仲間を求めてるとかそんなのじゃ……)
まあ理屈はわかった。とりあえずは。でもあんまり考えない方が良さそうだ。とにかく居心地が良かったはずのこの街が、急に得体の知れない雰囲気を発し出したように錯覚する。しかしそもそも錯覚と言えばその居心地さえも錯覚ではあるのだ。
「あ、と……違って、ええと。──貴女、ジム戦の時から、どうにも話しかけやすくて、つい……」
「…………」
待って。貴方ゲームよりもほんの若干口数が多かったのってまさかそれが理由なの? 分かるかそんなもの。好意を示すなら仮面の中でじゃなくて素顔で赤ら顔でも見せなさいな。
彼の話を受けて、私が微妙な目で彼を見つめていると、理由はともかく好意は本物のようで、彼はおずおずとしながらも離れはせず私の発言を待っているように見える。だけどなんだろう、正直あんまり嬉しくない……。
「……え? ジムですか? 今日は祝日なので……その、昨日、負けちゃったから……ちょっと息抜きに……」
「……負けた?」
もうそんな時期か。あるいはやっとそんな時期なのか。──いや待って。負けたからと息抜きにこんな入り組んだとこにある怪しい出店を見にくるってどうなの? 私も人のこととやかく言えないけれど、お姉さんちょっと心配です。多分あっちのが年齢は上かあるいは同じくらいだと思うけど。
そこでふと気になることがあり、自然とスマホを取り出そうとして、目の前に彼がいることからそれを検める。話している最中に調べ物は流石に失礼だ。ましてそれが当事者ともなれば尚更のこと。ちょっと恥ずかしいけど、ここは素直に聞いて──
「……その人の名前、ですか? ええと──確か、『ユウリ』と」
「──!」
一瞬、聞き覚えがないようで、しかしてある意味では最重要とも言えるその名前に瞠目する。何故ならその名前は、他でもないこの世界──ポケットモンスターソード・シールドにおける『主人公』の公式名なのだから。
☆☆☆
1154:名無しのトレーナー ID:FVDdFi8PR
ついに「エラガミって何だよ」の答えが出たか。
1156:名無しのトレーナー ID:9cd5PVi9Y
予想外の経路だったな。まさかチャンピオンが知っていたなんて誰が想像出来たか。
1159:名無しのトレーナー ID:mrGkM31dX
え? なに、何の話? インタビューか何かの情報?
1160:名無しのトレーナー ID:ujkJeKNZL
エラガミって例のあの子のこと? あの子行方知れずって話じゃなかったっけ。
1163:名無しのトレーナー ID:L5ztUfTov
一応、期間中のフリーパスを利用してどっかの島に旅行しに行った話は既に流れてたぞ。でも今回はそうじゃなくて昼の番組の話。
1165:名無しのトレーナー ID:I2h0L3Bke
そもそもその旅行云々が初耳なんですが……。
1166:名無しのトレーナー ID:4vMOO7wvh
俺も知らんかったけど、それが本当ならなんたる余裕か。流石は歴代最速。やることが常人とは一味も二味も違うな。
1169:名無しのトレーナー ID:j9nYUzFFU
ってか昼の番組? エラガミちゃんの話題なのに? 駆けチャレって確か夜だよね?
1170:名無しのトレーナー ID:oDd1u/NaV
>1169
番組自体はエラガミちゃんとほぼ無関係ゾ。ソースは昼にあったチャンピオンのエキシビションでのインタビュー。
1171:名無しのトレーナー ID:Hodx6RroD
「今注目してるチャレンジャーは?」って質問にリンゴ選手って答えたんだよな。いつもはキバナジムリーダーって答えてお茶を濁すのに。
1174:名無しのトレーナー ID:0RYEf78q0
リンゴ選手? あー、エラガミちゃんね。そういえばそんな名前だったなあの子。
1176:名無しのトレーナー ID:ShWp5EJYe
そんでそっからインタビュアーがエラガミちゃんとの交友について突っ込んだら、出るわ出るわ新情報の嵐。
1177:名無しのトレーナー ID:o9K3gpvBW
あの子がチャンピオンの推薦だってのはキバナジムリーダーの追っ掛け経由で割と知られていたけど、個人的な交友も深いのはかなり意外だった。オニオンくんに並ぶくらい排他的な雰囲気出してたし。
1179:名無しのトレーナー ID:EZJlrCb4G
>キバナジムリーダーの追っ掛け
あいつら怖いよな……あんな歓声の中でも雑談とか全部拾って話題にしてんだもん。
1182:名無しのトレーナー ID:VaBpJvV/R
俺もキバナジムリーダーには憧れているけど、あいつらはそんな次元じゃなく崇拝の域に達してるからな。技の傾向がどうのとか指示を出す時の癖が云々とかお前らトレーナーになれよっての。
1184:名無しのトレーナー ID:uz9A2vpKF
草。癖まで見破るとか相手ピッチャーを研究する野球コーチかな? まあ実際には見破ったところで1秒2秒の差でしかないだろうけど。
1186:名無しのトレーナー ID:WKSwGcrKg
2秒稼げれば十分だろ。それこそエラガミちゃんなら2秒もあればダイマックスすら潰せる。
1187:名無しのトレーナー ID:ykk/kOMNb
申し訳ないが例外中の例外を出すのはNG。チャンピオンでも無理でしょそんなの。
1190:名無しのトレーナー ID:h/68Wi7lE
それ以前にあの子にとっては労力に見合う価値があるのかと言うと……一手分遅れたからとそんなもん軽く覆してくるからな。
1192:名無しのトレーナー ID:idThf7x5+
キバナジムリーダーに対してならそうだろうけど、あの子に限ればその価値があるんじゃないか? ほら、チャンピオンの話が本当なら……。
1194:名無しのトレーナー ID:FYmVcRmh2
ああ、アレね……いやいやアレってマジな話なのか? 確かにそれくらいのタネがないと頑なにダイマックスを使わない理由にはならないかもだけど。
1195:名無しのトレーナー ID:NLNdNjGvr
アレ?
1196:名無しのトレーナー ID:8P0GqQA6y
昼の番組の話かな? 流石にまだ夕方だからニュースとかも更新されてないしわからん。
1198:名無しのトレーナー ID:kzDkrTQnA
察しがいいな。そう、チャンピオンが言ってたんだよ。例の「エラガミ」って技の詳細を。普通に。
1199:名無しのトレーナー ID:ZgEbO+j8D
こういうのって言っちゃっていいものなのかどうか迷うけど、あの人結構天然入ってるからな……悪意とかはないだろ。エラガミちゃんにはとっては溜まったものじゃないかもだが。
1202:名無しのトレーナー ID:3u1gM47JQ
『リンゴ選手が言うには』って前置きしてたし、あっちもその辺は織り込み済みなんじゃないか? 知らんけど。
1203:名無しのトレーナー ID:19eIGzVXl
まあ、いずれにしろ言ってしまったものは仕方ない。でも、それがすぐさま拡散されてしまうのは現代社会の怖いところだな。
1204:名無しのトレーナー ID:ckWIR+jSH
えっと、あの……そろそろ私も話に混ぜて欲しいのですが。
1205:名無しのトレーナー ID:3KGAySZfI
マジか。エキシビションなんてあちこちで頻繁にやってるから見逃してたわ。一応休憩時間に見れるんだけどいやーキツいっす。
1207:名無しのトレーナー ID:WxY88CmwJ
休憩時間? 今日って祝日じゃ……あっ(察し)
1209:名無しのトレーナー ID:rUbs0IYdK
>1205の社畜っぷりはさておき、その肝心の性能ってのはどんななんだ?
1212:名無しのトレーナー ID:+5dFtQb3W
>1209
水タイプの物理技。基礎威力そのものはアクアブレイクとほぼ互角、らしい。
1215:名無しのトレーナー ID:fZrgcR6Qt
は? それだけ? そんなんでジュラルドン一撃とかあり得んだろ。
1218:名無しのトレーナー ID:KiYDoi6jb
これだけ聞くとそうだが、無論それだけじゃないぞ。その性能だが、なんでもその技、先制攻撃できると威力が倍化するそうだ。
1220:名無しのトレーナー ID:IMHSqFhks
先制攻撃で威力倍化……? 確かアクアブレイクって相当火力ある技だったよな……?
1222:名無しのトレーナー ID:waKJy3XYu
リベンジやしっぺがえしの逆……? それでも先手が条件の技なんて聞いたことないけど。
1223:名無しのトレーナー ID:LvJY4+590
……言われてみればこれまではほぼ全部先手取ってるな。例外はミミッキュくらいで。明確に躱したコオリッポと違って一応は技が当たったのに、ギリギリ生き残ったのにもちゃんと理由があったわけか。
1225:名無しのトレーナー ID:YE7K64KTS
それが本当ならあれか。高火力の技のデメリットを誤魔化してるわけじゃなく、低威力の技の威力を引き上げて使っていたわけか。アクアブレイクが低威力ってのはなんかおかしいけど。
1228:名無しのトレーナー ID:yB7LLY9jj
なんというか……意外と普通だな、そう聞くと。いや、聞くだにおっそろしい性能はしてんだが。
1229:名無しのトレーナー ID:R+ls/1MEp
いやいや、先制で威力倍ってとんでもないぞ。要は2回殴るのと同じだからな。タイプ相性で半減しても等倍並みの威力を出せる。
1232:名無しのトレーナー ID:JKKEvroAl
>1212
ついでに言えば、エラガミマシーンことウオノラゴンについても追加で情報が出てる。タイプは以前から知られていた通りみずとドラゴン。その特性は「がんじょうあご」でエラガミも当然のように適用されるそうだ。
1235:名無しのトレーナー ID:WaN5vgQnQ
>1232
頑丈顎か。まあエラで噛むってことなんだろうから適用されてもおかしくないわな。ああ、だから「エラ噛み」なんだな。今更気づいたわ。
1238:名無しのトレーナー ID:4u/GoQlcY
>1232
エラって顎なの?ってツッコミはこの際どうでもいいとして、頑丈顎って確かタイプ一致並みの火力増加が見込めたと思うからすげぇシナジーだな。
1241:名無しのトレーナー ID:VwEbunQWz
>1212
>1218
何その性能超羨ましい。ワテの相棒のカマスジョーにぴったりの性能やん。エラガミちゃんに土下座したら教えてくれへんかな?
1244:名無しのトレーナー ID:OEYoU6m80
>1241
残念ながら専用技だそうだぞ。例のウオノラゴンと、論文にあった4匹のうちもう1匹、ウオチルドンってポケモンだけが使える技らしい。
1247:名無しのトレーナー ID:za4xPn6XC
ウオチルドン? そんなのいたっけ? パッチルドンとパッチラゴンってのは見た目やばいから覚えてるんだけど。
1250:名無しのトレーナー ID:S2+i77U8N
あのぱっと見まともそうに見えて実は一番やばいポケモンでは? あのポケモンこそ一番生命を愚弄してると思うわ。
1253:名無しのトレーナー ID:2NiJqSoaZ
あー、アレね。他のポケモンも大概だけど、1250の気持ちはわかる。俺もエラガミちゃん関連であの論文読んだけど、パッチルドンとそいつはマジふざけんなって思ったもん。
1256:名無しのトレーナー ID:BYk79ISTF
>1250
横からだけど改めて論文見てきた。……いやー、なんなのアレ。マジできつい。昔読んだ奇形児の記事とかを思い出して普通に辛い。つーか闇が深すぎない?
1258:名無しのトレーナー ID: za4xPn6XC
1247です。なんかスレの反応がおかしいからもっかいよく見てきた。……見てきました。いやほんとマジふざけんなよ。なんなんだよアレマジやばいよあの博士。
1259:名無しのトレーナー ID:yyxAfbTV6
だけど正直、「なんでそうなるんだ……」ってより「なんで生きてんだ……」ってのが大きい。ポケモンってマジで訳わからん生物よな。
1262:名無しのトレーナー ID:+OjeKzrCk
どう見ても全身岩や鉄なのに目とか付いてるやつめっちゃ居るからな。気絶したら縮むわダイマックスで巨大化するわどう見ても致命傷なのによく見たら無傷だわと、身体構造については考えるだけ無駄感ある。
1264:名無しのトレーナー ID:F6VrKrJ1G
思いっきし話逸れてるけど、これを無視はできないよなぁ。化石復元の技術がそれだけやべーってことだもん。復元って言えば聞こえはいいけど、やってることは死体の冒涜だからな。
1267:名無しのトレーナー ID:SPVFYdUvE
あの子、いつかのインタビューで「なんか持ってた」って言ってたけど、そんなはずはないよな。奇異の目で見られるのは明白なのにあれだけ全面に押し出すってことは、つまりそういうことなんだろうな。
1270:名無しのトレーナー ID:8h2fC2m8I
トレーナーとは言うけど、それってつまり「親」だからな……最近はそれを分かってないトレーナーが多いこと多いこと。
1272:名無しのトレーナー ID:qTcSXI1Pj
まあ、良くも悪くもあの子のおかげであの姿を憐むような奴はもういないだろうね……。もしや最初からそれが目的だったのかな。
1275:名無しのトレーナー ID:dO+C2ADig
分からん。でも確かになんか事情がありそうには見えたな。つーか普通のスクールガールはあんな眼でジムチャレンジなんてしねえ。
1278:名無しのトレーナー ID:/5BKkIxlS
……なんか妙な空気になっちゃったな。エラガミやべぇで語り明かすつもりだったけど、今日はもう離れるわ。時間おいた方がいいだろ互いに。
1281:名無しのトレーナー ID:wU+qHNwEJ
せやな……俺も頭冷やしてくるわ。誹謗中傷の書き込みはなるべく避けたい。今の精神状態だと何書くか分からんくて怖い。
1284:名無しのトレーナー ID:Oiw/PnHFq
同意。詮索するのも野暮だし、有りもしない妄想を語るのも失礼だしな。乙。
1286:名無しのトレーナー ID:ivzm/DAhh
例の化石ポケモンについて語るスレpart8
ttp//pokeshelter.com/poke105/3596656
リンク貼っとく。まだ語りたい人はこっちで。
1289:名無しのトレーナー ID:ytADYGyNd
>1286
サンクス。移動します。乙です。
1291:名無しのトレーナー ID:dkYpYdCeF
ついでだから「エラガミについて語るスレ」とかも立てようぜ。ちょっとこれじゃ不完全燃焼だわ。一旦お開きにしたい理由は分かるからここでは語らんけど。
1292:名無しのトレーナー ID:d9W1ajGQQ
いいなそれ。ワイは立て方わからんけど、誰か立てたら参加するわ。誰か頼む。
1295:名無しのトレーナー ID:a4IG5Qy8K
【最強技】エラガミについて語るスレ【詳細判明】
ttp//pokeshelter.com/pome147589
立てました。タイトルは適当です。一旦乙。
1297:名無しのトレーナー ID:WKidgz2ps
乙ー。
1299:名無しのトレーナー ID:6K6/k5MbZ
スレ立て感謝。お疲れ様でした。
1302:名無しのトレーナー ID:vcmBMuNZg
乙。また後で。
1305:名無しのトレーナー ID:SHW6yEJeb
乙!
1307:名無しのトレーナー ID:X8lXCbkRF
おつ。
………………………
………………
…………
情報とは力である。
特に、ポケモンバトルにおいて最も重要なものがそれである──などと言っても、あまり同意は得られることはない。
何故だろうと、私は思う。だってそうだろう。スクールにおけるバトルの講座で一番最初に習うのはタイプ相性についてだ。まずはそれを覚えないと、ボールに触らせてすらもらえない。
次いで覚えるのが状態異常。その次に技。次にポケモンの名前。特性。気性や性質。これ以降は前後することはあれど、ここに来てようやく実際の戦い方についての話になる。
必然、それが疎かになれば勝ち上がるなんてことは出来やしない。だけど皆はそれらの知識より、ポケモンとの相性を優先している。
馬鹿げている、とは言わない。トレーナーとポケモンの相性もまた知識の一つ、進化のためには大なり小なりそれが必要なのは理解している。
けれどそれでも、皆はそれを些か盲信し過ぎているように思う。絶対に勝てない対面であっても、ポケモンとの絆があればどうにでもなると考えている。そんなはずはないのに。少なくとも、我々がチャレンジャーであるうちは。
スマホロトムの画面から目を離し天を仰ぐ。リセットされた視界全体に照り付ける太陽が眩く、身体が浄化されるような錯覚を抱く。
(……結局、『エラガミ』の情報で有力なのはダンデさんの発言だけ。いくつかの板では議論もされてたけど、多分あの中に実際のトレーナーは2割も居れば良い方。最終的な結論は『どうにもならない』だし、それじゃあ困る)
腰掛けていたベンチから立ち上がり、伸びをしながら考えるは一つのこと。なまじある程度実力が身に付いてきたからか、特に最近はずっとこのことばかり考えている気がする。
「相性は半減でもレオンくんじゃ絶対に耐えないよねぇ……。効果が正しいなら『ふいうち』すれば一回は耐えるかもだけど、かと言って『ふいうち』程度じゃ十発当てても厳しいだろうし……どうしたものかな」
首をこきこきと回していると、そこでふと裏路地の方が騒がしいことに気づく。否、実際に騒音があるわけじゃなく、ざわついているというか、人の動きに違和感を覚える。
(『珍しいな』『いつもなら』『あいつは』『あの子って』…………)
集う人達に聞き耳を立て、単語から状況を推測する。──有名人でもいるのだろうか。この街の有名人というとまずオニオンさんが思い浮かぶが、あの子がとか聞こえるしおそらくは確定だろう。
(あっちには……露店? なんか怪しいけど……まあ、大丈夫かな)
念のため事前に調べておいたマップから当たりをつけ、結局は好奇心に負けて騒ぎの中心へと足を運ぶ。するとそこには予想通りお面を被った少年ことオニオンさんと──何故かもう一人、専ら最近の『なやみのタネ』であった赤毛のスクールガールの姿。
「……は? え? なんで?」
声が出る。付近にいた数人がこちらを振り返るが気にしない。いやだって、なんであの子がこの街にいるの? しかし彼女の服装は一般的なスクールの制服そのままで、流石にこれは人違いかと思うものの、その特徴的な髪飾りことキュワワーというポケモンの存在がそれを否定する。
だって、少なくともこのガラルにおいて。その子と同じことができるスクールガールなんて、他に誰一人としていないだろうから。
(………。……よし)
「あの、すみません──!」
「…………ん?」
「あれ、貴女は……」
逡巡は一瞬、一時の羞恥よりも千載一遇の好機こそ優先して私は騒ぎの渦中に飛び込む。突き刺さる視線が思った以上に辛い。けれども今後はそれに常時晒される可能性があるのだと覚悟を決めて、今の私が成し得る情報収集の手段が一つ──チャレンジャーであるが故の、確実なその方法を提案する。
「リンゴ選手、噂はかねがね。初めまして。私、ユウリって言います! 早速ですが、宜しければ、一手お手合わせを!」
「………。──ええ……?」
結論から言えば、その要望はあまりに無謀だった。確かにトレーナー同士であれば誰でもその権利を行使できるとはいえ、客観的な実力差を考慮すれば彼女の反応はこれ以上なく常識的で正しい。
けれど、それが無意味であったとは思わない。だって、こうして会話をしているだけで彼女の反応が見える。彼女の思考が読める。彼女の戦法が分かる。だから、これは無駄でも徒労でもない。これさえも、私にとっては、立派な
☆☆☆
「ありがとう、レオン。ゆっくり休んでね」
「…………」
なんだこのトレーナーは。
彼女と戦う中で、私が最初に抱いた印象はそれだった。言葉の意は、驚愕ではなく疑問。実力や才能がどうのという話でなく、そのトレーナーはあまりにも、トレーナーとしての常識からかけ離れていた。
「行っておいで、ブルル!」
「…………」
初手に出てきたインテレオンを撃破した後の2体目。彼女が告げたその名前に反射的に反応してしまうものの、現れたのはみず・ゴーストタイプのポケモンであるブルンゲル。彼女が使用するにしてはかなり意外なそのポケモンに驚くものの、ブルンゲルだからブルルは名付けとして妥当であり、それを紛らわしいなどと感じるのは、私の勝手なエゴでしかない。
「ノラ、『エラがみ』」
「ブルル、『みちづれ』!」
え、と声が漏れるものの、時既に遅く、またその声とブルンゲルの予備動作開始はほぼ同時であり──しかし誰が行動に移るよりも早く、ノラの自慢の一撃は、指示に違わずブルンゲルの脳天に直撃する。
その直後、
『ブ、ッ!? ブル、ブルルルッッ……!?』
攻撃を受けたブルンゲルが突如として震え出すと、全身から大量の水を放出してロケットのように空へと吹き飛んでいく。
(…………?)
疑問符が浮かぶ。──なんだ今のは。『みちづれ』が間に合わなかったのはいいとして、戦闘不能にしても反応が色々とおかしかったぞ。少なくとも、ノラのエラがみを受けて今のような反応を示すポケモンは、これまでに1匹も存在しなかった。
しかし、そんな私の疑問を他所に、対戦相手である彼女は「あー、なるほど……」と言いながら手慣れた様子で空に吹き飛んだブルンゲルを回収すると、今度はサボテンポケモンのマラカッチをフィールドに呼び出す。
(御三家はともかく……ブルンゲルに、マラカッチ?)
変わった面子だなと、素直にそう思う。いや当然私は人のパーティーをとやかく言う資格はないけど、ぱっと見結構統一感のない面子に見える。
そもそも初手にエースの時点でトレーナーとしてかなり珍しい。無論順番なんてそんなものは個人の自由だけれども、私のような事情もなくそれをしている人がいるとは想像もしてなかった。なまじジムリーダーがトリを飾るタイプばかりだからか、どこもエースは大将に回すことが多いんだけど。
とりあえずマラカッチもエラがみで沈めると、彼女はぶつぶつと何かしら呟いてから次いでエレザード、テッカニンと繰り出す。けれどやっぱり実力差は大き過ぎて、それらのポケモンもエラがみ一発で倒されてしまう。
「むぅ……なら、これで最後! 行っておいで、アオキ!」
最後に繰り出して来たのはダゲキ。ここまで露骨だと流石に狙いは分かる。いわゆる頑丈カウンターを狙うつもりだろう。
しかし、しかしである。この世界において、頑丈カウンターなど机上の空論でしかない。技の効果がゲーム通りだとしても、そもそもからして仕様上どうしても
当然だ。だって、この世界はゲームではないのだ。いつかコイルで例えたように、耐えたとしても自身を数度殺し得る技を受けて、怯まず的確に技を繰り出せる生物がいるだろうか?
「ノラ。『エラがみ』」
「アオキ、『カウンター』!」
結論から言えば、その試みはあまりに無謀だった。そもそも耐えるなんてことは出来ず、技を受けたダゲキはそのまま苦しそうに呻いて大地に沈み込む。必然、ノラは無傷で勝利の雄叫びを上げる。なんとかしたかったのは認めるが、やはり流石の主人公と言えど、正真正銘のインチキ相手に挑むのは時期が早過ぎると言わざるを得ない。
「あー……負けた! あの、対戦ありがとうございました!」
「……ありがとうございました」
けれど、そんなことは分かっていたとばかりに、満面の笑顔でそう告げた彼女。それにどこか恐ろしいものを感じて。また、直前のオニオンジムリーダーの言葉もあってか、逃げるようにその街を後にする私だった。
ようやくマスターランクまで上がれました。鉢巻アマージョが一番刺さってた気がする。何故って? 通常の火力なんて知られてないから鉢巻バレずに弱保警戒されてびっくりするくらい弱点技撃たれないからです。でもやっぱりゴリラの劣化感は否めない。先制技が効かないのはいいんだけどゴリラと違って先制技がダイマ頼りなのが辛い。
ただ氷技を使えるのが今の環境ではかなり便利。ダイジェット事前に積んどけばダイアイスで無振りダイマオンバーンを確殺できる。これはゴリラにはまずできない芸当かな。そもそも禁止制限がなければ誰もオンバーンを使わないなんて言ってはいけない。あとアシレーヌに対して鬼のように強いのもポイント。冷ビ搭載の個体とかいないからね。いても珠ダイアイス程度じゃ沈まないし、つぶらなひとみが無効なのもいい。
ダブル? そうね……パッチラファイアローの並びが多かった印象かな。ルガルガンとマタドガスで対抗してるけどあっちも当然警戒してるから中々殺せない。逆に言えばおいかぜ使ってくるのだいたいファイヤローしかいないから事前に潰せば割と勝負が決まる。しかしやっぱりゴリラが死んだのはかなり痛い。あ、でもマタドガス組み込んだことでよびみずで安心してるぽわぐちょをエラがみで蹂躙するの超楽しいです。