エラがみ無双   作:融合好き

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vsエースバーン

 

今期のジムチャレンジにおいて、凄まじいトレーナーがいるとの噂は聞いていた。

 

かつてキバナジムリーダーが打ち立てたジムチャレンジ全制覇記録を半分未満の期間で更新し、全てのジムを初見で突破。異形のポケモンを自在に操り、あらゆるポケモンを一撃の下に屠る。

 

エースポケモンが使用する技に肖り、誰が呼んだかエラガミ監査官。ジムチャレンジそのものを、己がポケモンの試金石とする少女。チャンピオンを含む今期トーナメントにおいて、最強のトレーナーとも評される存在であると。

 

とはいえ、そういうこともあるのだろう。無敵の現チャンピオンである兄も、元は有象無象のチャレンジャーが一人でしかなかったのだ。これまでにも平均して年に一度は特出したトレーナーが輩出され、ジムリーダーやそれに準じた役職を得て成り上がる。

 

ごく最近の例で言えば、ラテラルタウンにおいて二人の神童と謳われた少年少女がその街のジムリーダー争いを繰り広げていた。かと思えばその前後数年間に渡って不作であったりと、才能がモノを言うこの世界、いつでもそれらは唐突に現れ、そしていつしか消えていく。消える理由は分かっている。何故ならそれは、大なり小なり全てのトレーナーが必ず直面する問題なのだから。

 

「結局、ポケモンバトルはそれが全て……分かっていたつもりだったんだけどなー……」

 

底知れない無力感と脱力感から、思わず膝を突きそうになるのをどうにか堪える。

 

その邂逅は突然だった。一切のドラマもなく、何の特別感もない、トレーナーであればありふれたごく当たり前の光景。そこに不幸があるとすれば、その偶然の邂逅とそれが齎すであろう結果に、直前まで気付かなかった己が察しの悪さだけだ。

 

『ノラ、「エラがみ」』

 

どのポケモンも、どんな技も、如何なる戦略も、そのたった一言で潰される。抵抗も何もあったものじゃない。あの戦いとも呼べない蹂躙で俺ができたのは、処刑台を前に己がポケモンを差し出すことのみ。

 

「…………」

 

トレーナー戦において、「逃げたい」なんて思ったのは初めてだった。あれほど苦戦したルリナジムリーダーの時でさえ、せめて最後まで抵抗する意思は、なけなしの意地くらいは持っていた。

 

しかしあれは、アレは何なのだ。足りないなどというレベルじゃない。あまりに隔絶した実力差。ただそこで佇んでいるだけなのに、いつかスタジアムで見たダイマックスした兄貴のリザードンの咆哮を凌駕しかねない存在感。

 

兄貴は言っていた。チャンピオンである自分の推薦は安くないと。そして事実、身内だからと彼は俺を贔屓などしなかった。それは何故か、決まっている。アレが基準であるならば、俺なんてもう未熟者にも程がある。

 

「あれ? どうしたのホップ? スナヘビの真似?」

「ん──ユウリ?」

 

顔を上げると、いつの間にそこにいたのか、すぐ隣には見慣れた幼なじみの姿。どうして彼女がここに。

 

「どうしてって、ホップこそ何だってこんな橋のど真ん中で。キルクスに向かってるんじゃなかったの?」

「…………」

 

純粋な疑問。何一つ悪意のない問い掛け。自分が今キルクスに向かっているのだから、俺も当然キルクスのジムリーダーを倒すべく進んでいるはずだと信じて疑わない目。

 

迷いの無いその瞳に射抜かれる。時々、それを恐ろしく思うことがある。今はどうにか追い縋っていられるものの、彼女はいつか当たり前のように俺を置いて行ってしまうのではないかと。

 

「………? まあ、いいや。それで、やる?」

 

あからさまに疑問符を浮かべながらも、それを追及することはなく彼女は懐からボールを取り出す。いつにも増して好戦的に見えてこれは彼女にはだいぶ珍しい。普段なら俺から勝負を挑んでいたのに、何かあったのだろうか。

 

「いやね。ちょっと偶然、最近噂のヤバいポケモンと闘う機会があって。あれ、本当にヤバいね。どう見ても一番ヤバいのはあの外見の方なのに、今じゃそんなこと些事でしかないと思ってる」

「…………」

「去り際にね、ダメ元で聞いてみたの。『何故私は勝てなかったのか』って。そしたらあの子、なんて言ったと思う?」

 

それを即座に聞いてしまえるのが、彼女のすごいところだと思う。自分であれば気が引けるような質問も、彼女はその好奇心を満たすためならズケズケと言い放つ。かと思えば妙なところで遠慮したりと、どうも彼女の中では彼女なりに判断基準があるらしいのだが、それが逆に落ち着かない要因ではある。

 

でも、確かにそれは彼女じゃなくても気になるだろう質問だ。とはいえ、それは誰もが薄々と察している暗黙の事実でもある。だからこそ、彼女が続け様に告げたその言葉は、俺にとってもかなり衝撃的なものだった。

 

「──『時間』って、彼女はそう言ったの。ホップ、信じられる?」

「………!」

 

時間。彼女の敗因はそれであると、他でもないあの少女はそう告げたらしい。

 

ならば、それはつまり、あれだけの才能を持った少女が、この幼なじみの彼女に対し、()()()()()()()()()()()()()()と言ったに等しいのだ。

 

「まー、そりゃ多少は燃えるよねって。トレーナーなら。普通、ソレ(・・)って見て分かるようなものじゃないらしいけど? まあ尋常な手合いじゃなかったし……話半分くらいなら、信じてもいいかなって」

「……そっか」

 

そこで無条件にその言葉を信じないところが、実にらしく(・・・)て笑ってしまう。気分が晴れたとかそういうわけでなく、負けても何も気にしていない様子の彼女を見ていると、何となく落ち込んでるのが馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

しかし、そうだ、そうなのだ。よく考えなくても普通は、1年やそこらで頂点に迫れるほどチャンピオンの座は軽くない。たとえ兄貴がその例外だとして、俺がそうである必要なんてない。現状でほぼ互角の彼女があの少女に迫れる可能性があるのなら、俺はそれに負けないよう努力するだけだ。

 

「じゃあ、行くぞユウリ! 頼むぞ、オーロット!」

「………。──行っておいで、ジジーロン(ロンじぃ)!」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

ポケモン世界の食肉事情については、結構謎が多い。

 

設定が固まっていなかった初代はともかくとして、XY辺りまで頑なに肉を扱った食品を出さなかったり、当然のようにメニューにある牛フィレのステーキでやっぱり普通の牛もいるのかと思わせたり、かと思えばヤドンの尻尾が家庭の味であったり、剣盾では尻尾は勝手に抜けるだのと謎のフォローをしたりと、結局のところ良く分かっていないのが現状であったりする。

 

とはいえ、はっきり言ってしまえばポケモンも人も普通にお互い食べて食べられて生きている。ゲームではどうあれクイタランはアイアントの天敵であるとはっきり描写されてるし、キャタピーは他のあらゆる生命体の餌と認識される。ならば人間だけが例外なんて都合の良い話は無く、そもそもバスラオなんかは食卓にのぼったと図鑑ではっきり明言されている。また逆に、サメハダーやギャラドスなんかに人間が襲われるなんて例も珍しくない。

 

故に。

 

「……もしかして、食欲ない?」

「…………いえ」

 

心配そうに声を掛けてくるソニアさんに、私はなるべく平静を装って返答する。目の前にあるのは一切れのステーキ。大した量でもない。100gに届くかどうかとかそんなレベルの肉だ。けれど私は、未だそれに手を付けられずにいる。

 

「…………」

 

ナイフを持つ手が震えている。数年ぶりの肉料理を前に何故だか視点が定まらない。人の体格は幼少期の食生活がモロに反映されると聞くが、ならば私が同年代よりも相当に体格で劣るのは、やはりこの偏食が影響しているのだろうか。

 

(……これは、抜け落ちた尻尾の肉。だから大丈夫、大丈夫。だいじょうぶ……)

 

そう必死に己に言い聞かせて、どうにか切り分けた肉を口に運ぶ。──やっぱり美味しい。掛け値なしに。久しぶりかどうかなど無関係に、それこそ異次元レベルの味がする。()()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

言うて単なるステーキでも、焼き方一つで味が変わるというのはよくある話。けれどこれは違う。グラム100円の豚肉をどう加工したところで、それが鰻に変わるわけはない。肉の例で鰻を出すあたり喩えとしてもおかしいが、これはそんなレベルの話なのである。

 

何故、この肉はこんなにも美味しいのか──果たして、その答えとは。

 

(…………………)

 

あ。やっぱ無理。もう色々と想像しちゃって気持ち悪い。吐きそう。

 

「…………っ、……ぅ、」

「え? ちょ、え。何!? 待っ、やっぱり無理って……嘘でしょ!?」

 

誇りとか尊厳とか、その他色々なものを守るために、私は必死にソニアさんに縋り付く。それ自体が尊厳をかなぐり捨てているものの、それでも床を汚すよりかはよほどマシだと信じたい私なのだった。

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………

 

 

 

………

 

 

 

 

「お騒がせしました……」

「あ、いえ、うん……別にいいけど……その、大丈夫?」

 

あれからキュワワーに1時間くらい『フラワーヒール』を掛けてもらって、どうにかこうにか回復した私。とはいえ未だ気分は晴れず、ぶっちゃけ大丈夫じゃないしせっかくの再会も既に台無しになっている。

 

けれども、良くも悪くもそこは流石のソニア博士。破天荒な幼なじみに振り回されていただけのことはあり、私の奇行をさほど気にした様子もなく、むしろ私を心配する始末。いい加減克服しなければといらぬ見栄を張った私が全面的に悪いのだから、もっと責めてくれてもいいのに。

 

ともあれ。

 

「まさかヴィーガンだったなんてね……軽い気持ちで誘っちゃったけど、悪いことをしたわ」

「…………」

 

だからそれは気にするなと。こんな理不尽も素直に反省できるのは彼女の利点だが、正直あまり話題として突っ込んで欲しくない。付け加えるなら、おいしんボブが名店なのは私も知ってるし外は気候からして長話に向いていないので、最初から言ってるように、彼女の判断に何一つとして間違いはないのだ。

 

「それよりも、用件は世間話? それくらいなら、多少は付き合うけど……」

 

話題を変える意味も込めて、改めて確認する。どうせキルクスまで来たのには慰安と観光以上の目的があったわけでもない。謝罪の意味も込めて、彼女の話に付き合うくらいは別にいいだろうと。

 

「まあ、そうね……」

「…………?」

 

話を振ると、途端に彼女は歯切れが悪そうにする。なんだろう。そんなに話し辛い内容なのだろうか。もしや、ついにチャンピオンから告白されたとか? いや、そうだったらもっと悩みそうだし、チャンピオンってそういった色恋とか無縁そうだけど。

 

「……昨日、ついにチャンピオンカップが始まったわけだけど」

「…………」

 

切り出したのは彼女。なお、彼女がここで言うチャンピオンカップとは、我々初回のジムチャレンジャーが無条件で出場できる本戦ではなく、現ジムリーダーを含めない本戦出場を賭けたトーナメント………マイナーリーグ予選での話である。

 

意外に思われるかもしれないが、ガラルのジムリーダーは変動が激しい。とはいえ流石に頻度は抑えられていて、実際5年に一度あるか無いかのそんなレベルだけど、世代交代による襲名制なんかも珍しくない他の地方にはない特徴だったりする。

 

この辺りは、ジムチャレンジを競技のように扱っている弊害だろう。その方が効率的であるのはそうだが、かねてのポケモンシリーズを知る身としては少しだけ寂しい。

 

だけど、現実なんてそんなものだ。体力や視界すら衰えた老人や悪事を働くような者をいつまでもジムに居座らせるなんて現実的にあるはずはない。下手をすれば、いや下手をしなくてもネズさんはゲーム本編において自主的にジムリーダーを降りなくても、エール団の不祥事の責任やらでマイナーリーグ落ちしていても不思議じゃない。

 

とはいえ、所詮は全年齢対象商品の世界。たかだかその程度でネズさんがクビになるような羽目にはならず、勝つために命を削るような真似をする輩もいなければ、そのために弱者を蹴落とす邪悪も存在しない。マイナーリーグでも本戦においても勝敗は真っ当に適用され、如何にも有りそうな賭博の類もおそらく無く、少なくともこれまで一度も問題になっていない。

 

しかし、それ故に、敗者に与えられるものは何もない。マイナーリーグ落ちしてそれ以降も負け続ければいつしか存在を忘れられ、ズルが無いからこそ、その差を覆すのは普通では有り得ない。ポケモンバトルとは、才能が全てだ。だからこそ、この世界は優しくて残酷なのだ。

 

「……ダンデくん、最近は朝から晩まで鍛錬を繰り返してる。少し前まではこのキルクスにも通い詰めで、今は新しく覚えた技の精度を上げるんだって言ってた」

「…………」

 

(……要するに苦言、と。まあ、確かにこの時期に観光は不真面目に見えるかな……?)

 

それきり黙ったあたり、非難するつもりはないのだろう。しかし、でも、と言いたげな彼女に、私は素早く用件を察する。なんてことはない。彼女とチャンピオンが親しいならば、分からなくもない感情だ。けれどもそれも、残酷なことに、どこまで行っても才能に左右される一因でしかないのだ。

 

(……仕方ない、か)

 

「以前、この子──キュワワーを、スクールの子に貸してあげたことがあるんです」 

「………?」

 

突然の話に、彼女は怪訝な顔をする。けれど雰囲気からそれなりに重要そうな話だと察したのか、口を挟む様子はないので話を進めることにする。

 

とはいえ、大した話じゃない。キュワワーの見た目の華麗さに惹かれた同級生の子が、キュワワーを貸して欲しいと私にお願いしに来ただけだ。別にその子がキュワワーで何をするつもりだったわけでも、悪意の類が絡んだ話でもない。前世でも、犬猫を抱かせて欲しいと頼む人くらいいるだろう。その程度の話。ただ、問題だったのは──このキュワワーは決して犬猫の類ではなく、曲がりなりにも60レベルのポケモンだったということだ。

 

「──!」

 

そこまで話したところで、ソニアさんが息を呑む。彼女もこの世界に生きていたのなら、似たような話は聞いたことがあるのかもしれない。

 

そして結果についてはお察しの通り。キュワワーがのんきなのもあってかすぐ眠ってしまって暴れたりすることはなかったものの、こんなところばかりゲーム通りなのかとその日は散々悪態を吐いたものだ。

 

「言わないだけで、認めたくないだけで、本当はみんなきっと分かってる。その証拠に、これまでのマイナーリーグの覇者は毎年似通った面子しか存在しない。その例外はたった一つだけ。だからこそ、私たちは初回に限り、無条件で本戦に出場できるんでしょう?」

「…………」

 

例外──隠す必要もない。それ即ち、()()()()()()()のこと。

 

レベルこそが全てだとは敢えて言わない。けれど、ポケモンバトルにおいてその比重は隔絶するほどあまりに大きい、大き過ぎる。それこそレベル100のポケモンが1匹でもいれば、もはや勝負が成立しなくなるほどに。

 

そして、一番の問題は、その差が完全に個人の素質に左右されること。鍛錬などでは埋められない。引き上げるなんて絶対に出来ない。残酷なまでの才能の限界(レベル上限)。故にこそ、ポケモンバトルは才能こそが全てと謳われるのである。

 

「ただ──」

 

ちらりと、店内に備え付けられたテレビ画面を見る。そこにはちょうど件のトーナメントの映像が映っていて──そこに偶然映し出されたある人物の姿に、僅かばかりの笑みが漏れる。

 

「もし、もしも。もし、それでも、その差を覆すことが出来るなら──」

 

そう、もしも。万が一つ、あまりに隔絶したその差を埋められる人物がいるとするならば。

 

(…………)

 

テレビ画面で勝鬨を挙げる女性を見る。つい最近戦った不気味な女性に想いを馳せる。あの時にチャンピオンが見せた笑顔が脳裏に過ぎる。そして──どういうわけか、現在進行形でそれを陳腐化させているノラのボールに触れる。

 

「……その人物こそ、貴女の探し求める英雄なのかもしれない」

 

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

………

 

 

 

ソニアさんと別れて数日。私はシュートシティのスタジアムの前に佇んでいた。

 

初めて来たはずなのに、何故だかとっても馴染み深い。それは前世の記憶からか、あるいはシュートスタジアム自体がテレビなんかでよく取り上げられるからか。分からないけど、別にそれはどうでもいい。

 

「…………」

 

立ちっぱなしはアレだと、しばらく近くのベンチでぼーっとしていると、不意にスタジアムの中から人が溢れ出してくる。時間を見れば、既に時刻は夕方。シュートスタジアムはナイター中継なんかも頻繁に行われるけれど、それでもリーグ期間中はそちらが優先される。また、実力が互角なら選手のコンディションが結構試合を左右するため、まだ日も高い時間帯だろうと、公正を期すために余裕のあるスケジュールを組むのである。

 

(どことなく野球っぽいなぁ、なんて思ってたけど、そこらへんはやっぱり優しい世界よね……)

 

甲子園での投手の酷使が問題となっていた前世とは大違いだ。実際、故障が原因で引退するトレーナーなんてのは聞いたことがない。とはいえ、ポケモンバトルで何をどう故障するのだ、という話であるが、あれだけ派手にどんぱち繰り広げて、観客に怪我人が出ないのは流石ポケモンの世界だと思う。

 

「あの……すみません。もしかして、リンゴさんですか?」

 

更にしばらくぼんやりしてると、恐る恐る、と言った感じに声をかけられる。

 

顔を上げれば、そこにはあまりに見覚えのある姿。ここ数ヶ月で特に深い関係を築くことになった目的の女性、未だマスター道場の胴着に身を包む、ラテラルタウンのサイトウその人。

 

「……久しぶり」

 

声が震えていないことに、私自身驚いてしまう。いつか再会の時には羞恥が勝るだろうと自己分析していたのだが、意外や意外、案外そうでもなかったらしい。

 

「お祝いなんて、柄じゃないと思ってたけど──」

「………え?」

 

どうしてここに、と問い掛ける彼女を無視して、私はバッグからあるものを取り出す。丁寧に包装されたそれから途端に香る豊潤な匂い。それもそのはず、これは言うなればこの世界における究極が一つ……とある島で年に一、二回しか採れないとされる幻の食材なのだから。

 

「それは、まさか──」

 

驚愕しつつも、どこか納得したような顔を浮かべるサイトウさん。彼女は聡明だ。最後に別れる直前、どうして私があんな離れ小島に居たのか、その理由も半ば察していたのだろう。

 

「やはり、それはリンゴさんが持っていたのですね……ダイキノコの例から、もしやとは思いましたが」

「悪いとは思わない。今だからこそ、これは貴女にとって価値がある。でも、素直にこれを渡すのもつまらない。だから──」

 

チャンピオンカップまで、残り一月。ほんの僅かな、けれどその気になれば全ジムチャレンジすら突破可能なその間。

 

「──私が勝てば、これを上げる。だから貴女は、そんなものは必要ないと、余計なお世話だと突っ撥ねて欲しい」

 

彼女の()()として、それまでに。最後の課題を与えることも、それはそれで良いだろう。






次かその次くらいからチャンピオンカップになると思います。
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