エラがみ無双   作:融合好き

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vsカジリガメ

 

ポケモンがいる世界とは言っても、結局のところ人々の生活は元の世界とあまり変わらない。

 

かつてネットの考察では、ポケモンの世界とはマイルドなフォールアウトと相違ないのでは、なんて言っていた人もいたが、はっきり言ってそんなことはない。マジでそんなことはない。その点、流石は全年齢対象のゲームだと感心したから間違いない。

 

「…………」

 

中には、一体どうして、あれだけ多種多様なポケモンが、バンギラスのような暴れん坊も含めてひしめき合っているのに──なんて思う人もいるだろう。しかし、そもそもの話。人が街中で暮らしていて、そうそう野生動物に出会うことがあるだろうか? 人が獣を恐れるように、ポケモンが人間を恐れないなんてことがあるだろうか?

 

賢い獣は天敵を作らない。人とポケモンは、互いが互いに天敵となり得るものの、それを互いが理解しているが故に共生関係にある。

 

無論、人もポケモンも総体ではなく、個々が互いに憎み合うこともあるだろう。しかし、度が過ぎてしまえば取り返しが付かなくなる──だからこそ、人とポケモンの事故は滅多に起こることはない。

 

私が今歩いている5番道路で堂々と育て屋が経営されているのも、人が作った建造物に近寄ってはならないと、野生のポケモン側も重々承知しているからだ。

 

(逆に、人間側も、あまり自然を荒らすことがないように、街を作るときは元々荒れ果てた土地か、あるいは自然がふんだんに取り込まれた街づくりをしているのよね)

 

ここガラルだと、アラベスクタウンがその代表だろう。まさしく幻想的という呼び名が相応しいあの目に痛い街は、他の街とは段違いにポケモンが自然と姿を見せている。

 

(だけど、それ故にこうして街同士がどうしても離れてしまう──それが面倒と言えば面倒だけど、次の街まで何日も旅をしていたアニメと違って街同士はそれほど遠い位置にないし、バウタウンにさえ着けば駅もある。それまでは、我慢、我慢……)

 

ただし、それほど遠くない(約半日)である。ガラルの縮尺を実際のイングランドと重ねるとそれくらいの距離にはなるかもだが、10歳児には辛いなんてものじゃない。

 

正直、こうして色々と考えて気を逸らすのも限界に近い。しかしながら、当然のように都合よく宿泊施設が存在しているはずもない。お得な掲示板によればあと数十キロ……4時間もあればバウタウンに着くけれど、やはり、ここでキャンプをするしかないのだろうか──

 

「…………ん?」

 

それでもせめて、この橋だけでも渡り切りたい──と考えて更に30分。疲労からぼやけた視界に、何やら巨大な綿毛らしきものが見える。

 

「…………ワタシラガ?」

 

否、綿毛らしき、ではなく、それはターフタウンでも闘った綿毛そのもののポケモン、ワタシラガ。そして更に奥を見ると、ようやっと橋の終わりが見えて来たところ。

 

(そういえばゲームでは橋の右端でなんかシンボルエンカウントしたような……いや、多分単なる偶然だろうけど)

 

ところがどっこいこれが意外や意外。橋のこの位置にワタシラガが現れるのは単なる偶然ではなく、生息地と気流の関係からなんだそうな。

 

こういうどうでもいい知識ほど、何故か記憶に刻まれる。翌日、バウタウンに到着した私が、初めてのキャンプや無駄に辛い道のりよりも思い出として残ったのは、そんな旅路の一幕のことだった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「ようこそチャレンジャー! 貴女のことは、ヤローからよーく聞いているわよ!」

 

ゲームよりも遥かに複雑で面倒臭いギミックをびしょ濡れになりながら疲労困憊状態で切り抜けた私に、ルリナと名乗ったその女性──バウタウンのジムリーダーである彼女は開口一番にそう告げる。

 

しかし、発言の意味が分からない。ヤローさんから聞いている? 何のことだろう。やはりウオノラゴンの見た目のヤバさについてだろうか。ゲームでは誰一人として使用していなかったし、カセキメラの存在自体が主人公の特権に近いものだろうことは間違いない。

 

なら、よく聞いているとはすなわち、そんな見るからにキメラなポケモンを使うことで、新種のポケモンを生み出そうと合成実験か何かをしてるやべーやつとでも思われていたのだろうか。まずい、何一つとして否定できない。だってやべーものノラちゃん見た目。断面とか見えてるし。

 

「どうも貴女、みずタイプの使い手で──その上、あのヤローに圧勝したそうじゃない!」

「…………」

 

あ、そっちですか。そういえば貴女、ヤローさんを一方的に敵視してるとかそんな設定ありましたね……。

 

後どうでもいいけど「あのヤロー」とか言うと口汚く聞こえるので控えた方がいいと思います。いや、流石にヤローが固有名詞だってのはわかるんだけどね? 文脈からでは判断できないし。

 

「これは、同じみずタイプの使い手として、貴女の力を全力で試してあげる!」

 

同輩の有望株ということで興奮しているのか、ややテンションが高いルリナさんがボールを構える。なんかキャラがおかしい気もするし、そもそもこんな人だったような気もする。いずれにせよ、こんな短時間のやり取りでその人の全てはわからない。それでもわかり合おうとするのなら──それは、ポケモン勝負でしかあり得ない。

 

「任せるわ、ノラえもん」

「お願い、トサキント!」

 

私の初手はいつものウオノラゴン。対するルリナさんはなんか思いっきり魚であるトサキントを普通にフィールドに出してきたが、それ以前にあまりにも隙だらけだったのでとりあえずエラがみで沈める。

 

私の目の錯覚じゃなければなんか当たり前のように空中を泳いでいたようにも見えたのだが、環境によらず対等に勝負できるためのそういうフィールドか何かでもあるんだろうか?

 

「あ、え──? お、お願い、サシカマス! 『インファ──」

「『エラがみ』」

 

新たに出てきたお魚さんをぱくりと一撃で屠る。しかし、鋼鉄をも砕くエラで噛み砕いているはずなのに、サシカマスは多大なダメージを受けて気絶するものの、『なんかダメージを受けている』だけで攻撃を受けた部位の欠損などは見られない。ぶっちゃけ割と謎である。やはりポケモンは真っ当な生き物とは違う、何か別の法則が適応されているのだろうか? 

 

「──」

 

首を傾げる私を、否、正確にはそのポケモンをルリナさんは呆然と見つめる。大切な相棒があまりにもあっさりと当たり前のように行動さえも許されず二匹殺られたから動揺しているんだろう。

 

だがしかし。読み違えで二縦を食らうなどランクマではよくある話。トレーナー戦ではありふれた話。如何に敗色濃厚であろうと、諦めるまでは負けではない。か細い可能性を掴み取ってこそのトレーナー。なればこそ、脳が現状を処理したのか、再起動を果たしたルリナさんは咆哮する。

 

「これは、最後の一匹じゃないわ。隠し玉のポケモンなのよ!」

 

割と有名なその台詞とともに、ルリナさんが呼び出したのはかみつきポケモン、カジリガメ。

 

かみつきポケモンの名に恥じず、私の相棒ウオノラゴンと同じ「がんじょうあご」という特性を持ち、専用技である『くらいつく』によって獲物を逃さず、その身が朽ちるまでどこまでも追い詰めるのだとか。普通に怖い。ただし前世のランクマでは専用技とかキョダイマックスとかはぶっちゃけ無視されて専らすいすいダイストリームをしてる。むしろ専用技の存在を知らない人が多数と思われる。だってそっちのが強いからね、仕方ないね。

 

「スタジアムを、海に変えましょう! カジリガメ、ダイマックスなさい!」

 

一度出したカジリガメがボールに戻され、それがガラル粒子と願い星のエネルギーに呼応して肥大化する。

 

これこそガラル地方からの新要素、ダイマックス。ポケモンが巨大化してしまうという自然災害に近い謎の現象を人の手で制御したものであり、その巨体は体格相応の暴力を引き起こす。

 

水鉄砲が洪水に。波乗りは津波に。まさにスケールが違う攻撃は、この広いスタジアムすらも、宣言通りに海へと変える力を秘めている。

 

「…………」

 

故にこそ、本来その暴力に対抗するためには、こちらも同じ舞台に立つ必要がある。しかしながら、実は私は、ダイマックスバンドや願い星なんて保有していない。そして、その必要もない。

 

ダイマックスに等しい暴力ならば、私は既に保有している。これはハンデでも何でもない。手心なんて優しいものじゃない。もっと単純に、わざわざそんなものを求める必要がないくらい、私はノラを信じているだけだ。

 

 

「──ノラえもん、『エラがみ』!」

 

 

指示の直後、凄まじい断末魔が響き渡る。

 

ただの悲鳴でさえも、思わず身構えるほどの音圧。まさに段違いの迫力がスタジアムを震わせる。でも──それも、断末魔の悲鳴であるのなら、何の意味もない。仮にこの音圧によって私が気絶しても、ノラの一撃を受けた時点で、勝負はもう決しているのだから。

 

「なっ……!? なんて、こと……!!?」

 

ヤローさんと私の闘いの結末を聞いていないのか、その光景にルリナさんはあからさまに狼狽する。

 

普通であれば、こんなことは起こり得ない。あれだけの巨体が、足先を齧られた程度で気絶するなど絶対におかしい。となるとやはり、ポケモンへのダメージはそういう原理が働いているのだと考えて良さそうだ。尤も、ウチのノラであれば、100mの巨人の小指の先を齧って無理やり転倒させるとかも普通に出来そうで怖いが。

 

「私の勝ち、ですね」

「あ──え、ええ、おめで、とう──」

 

もはや露骨に脳の処理が追いついていないルリナさんからバッジを受け取り、私は逃げるようにスタジアムを後にする。

 

そんなおざなりとも取れる対応を楽だと思っている私がいて、やはり私はこの期に及んで、この子を使うことをまだ完全には割り切れていないのだと改めて実感するのだった。

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