エラがみ無双   作:融合好き

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vsグソクムシャ

チャンピオンカップともなると、流石に相手も一筋縄ではいられない。

 

「ノラ、『エラがみ』」

 

いつものように指示を出せば、その一撃で勝負が決まる。しかしながら、私はその結果にえもしれぬ不安を覚えている。

 

この不安がどこから来ているのか。薄々とは私も察してる。けれどそれが私の推測通りであれば、結局私にはどうすることも叶わない。

 

(流石にこのレベルにもなると、そろそろ確一に届かないかも……?)

 

その懸念はこれ。確一とは確定一発、廃人特有の言い回しであり、要するに一撃では倒せないということ。無論、相性不利ならば、という前提こそあれど、いよいよハチマキを取り外した弊害がそれなりに響いてるらしい。

 

「…………」

 

私の感覚が正しければ、ルンパッパ辺りにダイマックスをされたら削れるのは8割ほど。ハチマキ込みで辛うじて、といったところだろうか。

 

ならば素直にハチマキを巻くべき? けれどそれでは、ガッチリ対策を組んでいるだろうトーナメントでは致命となる可能性がある。実際、サイトウさんとの戦いは危なかった──キョダイマックス個体だから流石に削り切れはしなかったと思うけど(※能力上昇が無ければクロスチョップ急所でも確定4発なので先にクロスチョップのPPが切れる)、万一サイトウさんのカイリキーがグロパン持ってたら普通に負けていたかもしれない。

 

流石のノラも、同様のシチュエーションで『フリーズドライ』を何発も受けるのは拙いはず。しかしそうなるとやはり事前に備えるしか方法がないわけで。でもそれだと火力不足となる可能性があって──

 

「懐かしいわね……」

 

ぼそりと、対戦相手に聞こえないように呟く。既視感を抱くのは当然、半ば錆び付いた機構がギリギリと駆動する。

 

迂闊だった。そうとしか言えない。今回の対戦相手──ルリナさんのことを思えば、彼女が搦め手を厭うことなど明白だった。先発のペリッパーのことを見ずとも、ジム戦の時の手持ちからして『すいすい』による制圧を狙うしかないことは容易に予想できたはずだ。

 

考えなかったのは自分。それを怠ったのは自分。ならば私は、どうするべきか。決まっている。そんなもの、私自身の手で誤魔化す他はない。

 

「行きなさい、アズマオウ!」

 

ルリナさんが無駄にダイナミックなポーズから繰り出すのは、予想通りと言えば予想通りのアズマオウ(すいすい持ち)。だけど少しだけ意外だった。なんとなくカマスジョーの方が先に出ると思っていただけに。いや、勝手な思い込みだけれども。むしろ以前のジム戦を鑑みれば初手ペリッパーのがイレギュラーなんだけども。

 

(脚がほぼ180度……柔らかっ)

 

そんな私の考えはさておき、文字通り水を得た魚、やる気満々のアズマオウを見てそんなことを思う。……違う、そうじゃない。なんで私はいつも中途半端に呑気なのか。キュワワーに引っ張られでもしてるのだろうか? けど、まあ。

 

「アズマオウ、『メガホーン』!」

「……ノラ、『エラがみ』」

 

自信満々なその指示を、ノラが無慈悲な一撃で両断する。生憎と、無振りであればアズマオウ程度の速度を2倍にしたところでまだまだノラには及ばない。

 

「あ、え──」

「…………」

 

しかし当然、そんなことを知っているのは少なくともこの場には私だけで、流石に抜けると判断していたらしいルリナさんが硬直する。甘い、とは言わない。常識的に考えて、特性すいすいを素で上回るなど想像できる方がおかしい。

 

とはいえ、私同様に、その可能性を排除していたことは彼女の責任だ。ノラが常識とかけ離れているのは周知の事実。彼女がノラをどの程度と侮ろうと、ノラはその想像を遥か超えていく。

 

「…………行きなさい、ドヒドイデ!」

 

しばらく考えた後に、ルリナさんが出したのはヒトデナシポケモンのドヒドイデ。ということは、どうもカマスジョーでも抜けないだろうと彼女は判断したらしい。実際にはカマスジョー辺りまで行くとかなり怪しい……いや、多分普通に抜かれると思うのだが、それが分かるのもおそらくは私だけなのだろう。

 

(けど、ドヒドイデね……雨もあるし、エラがみで確一だろうけど……)

 

これまでの経験からして、ノラはおそらく『トーチカ』を貫通するのも容易だろう。あれは言ってしまえば対ダイマックスと同じ、実力差があり過ぎて守り切れないというだけの話なのだから。しかし、それ故に。

 

(『どく』を避けるのは流石に無理……さて、どうしよう)

 

『キングシールド』や『ブロッキング』とは違い、無数の棘を起てる『トーチカ』を殴れば突き刺さるのは道理。かと言って躊躇すれば、その隙にもっと厄介な『どくどく』を付与されてしまう可能性もある。

 

『ねむる』があるし、受けてもいいという考えもある。でも後でリカバリー出来るからと甘んじて受けるのは違う気がする。なら、ここは……。

 

「ドヒドイデ、『トーチカ』!」

「ノラ、『まもる』」

 

まずは様子見一択。『どくどく』でも『トーチカ』でも、見てから選択が出来るのが『まもる』という技の強み。

 

無論、この技にだって弱点はある。例えばドヒドイデだったら『どくびし』なんかを撒かれると交代しないでも激しく動き回れば毒に侵されてしまうし、万一『てっぺき』を積まれたら逆に突破手段を失ってしまう。

 

「…………え?」

「ノラ。待機。ちょっと待ってて」

 

ならば何故、私がそれを選ぶことが出来たのか。それは、この世界がゲームとは一味も二味も違う、まさに現実であるからに他ならない。

 

「──」

「…………」

 

戸惑うルリナさんと視線を重ねる。僅かな動作、思考の動きさえも見逃さないために。

 

──()()()()()()()、ただ外殻に立て篭もるだけの『トーチカ』に時間制限などあるはずがない。また同時に、当然ながらその状態では相手に一切の影響を与えられない。

 

ゲームにおいて、ドヒドイデの戦闘モーションを見たことがあるだろうか。そうだ。言ってしまえばドヒドイデというポケモンは、いつか戦ったギルガルドに似ているのだ。故に、いくら『てっぺき』を積まれようとも関係はない。元より、防御体勢のドヒドイデを殴る気なんてさらさら無い。

 

つまりは単純な読み合いになるわけだが、実力(レベル)差があるということは、即ちこちら側にそれだけ余裕があるということ。ただでさえ読み負けて『トーチカ』の上からぶん殴っても一撃で倒せるのだ。負ける要素を探す方が難しい。

 

「…………。…………。…………」

「…………」

 

しばし無言で睨み合い、そのまま一分、二分と時間が過ぎていく。トーナメントもチャンピオンカップとなると会場全体を使用するため、異様な事態に気付いた観客の歓声も徐々に細々となっていく。

 

「…………ど、」

「ノラ」

 

口を動かしたルリナさんに被せるようにノラを呼ぶと、そこでルリナさんはびくんと震えてそれきり口を噤んでしまう。……ここで我慢できるとは流石である。私の予想では、この辺りで仕留められるはずだったのだけど。たっぷり二分もあのノラの前で沈黙を保ったことといい、凄まじい度胸だと感服する。伊達にジムリーダーを名乗ってはいない。

 

『………?』

「ノラは良い子ね。これが終わったら、一緒に公園で遊びましょうか」

『………!!』

「…………っ」

 

呑気でバトルとは無関係な掛け合い。こちら側に振り返り飛び跳ねて喜ぶノラを含め、あまりに隙だらけな光景であるが、それでもルリナさんは動かない。

 

一見すると互角に見える読み合い。しかし、事実として、先に痺れを切らしたのはルリナさんであり、私にはノラと掛け合ってのその上でルリナさんの反応を伺う余裕がある。

 

加えて、彼女のペリッパーが降らせた雨のこともある。これも当然、現実では一度降り出した雨が一分や二分そこらで止むことはないけれど、既にペリッパーを倒している以上、雨の再展開は実質不可能であり──時間を掛ければ掛けるだけ彼女は不利になる。勿論、私だって雨が鬱陶しいとかそういう問題はないこともないけど、たかだかその程度で──

 

「ノラ、『エラがみ』」

「あ──」

 

ドヒドイデの動作に合わせ、本体が露出したタイミングで指示を出す。小足見てから昇龍拳余裕でした──などと巫山戯たことは言わない。そもそも根本的な問題として、ドヒドイデなんて緩慢極まるポケモン、よく見れば誰だって予備動作から反応して対応できる。

 

しかし、サイトウさん曰く、それが出来るのもまた才能らしい。──馬鹿か、と思う。こんなもの、才能でもなんでもなく度胸か経験か運のいずれかが優れていれば初心者にだって出来る。真に才能なんかがあるとすれば、それは努力では決して覆せない総合的なナニカを指すのだ。何でもかんでも才能で誤魔化すな、殺すぞ──実のところ、彼女のことは友人だと思っているが、こんな感じで殺意が湧くことは割とあったりする。

 

「お願い、カマスジョー!」

 

ざわめき出すスタジアムの中で、それでも気丈にルリナさんは咆える。しかし。

 

「カマスジョー、『ドリルライナー』!」

「ノラ、『エラがみ』」

 

弾丸を彷彿させる速度で懐に突撃するカマスジョーを、ノラは丁寧に受け止めて迎撃する。

 

最大打点の『インファイト』ではなく『ドリルライナー』なのは、急所狙いか耐えることを期待してか。いずれにしろ、雨による恩恵を受けられるのは何も相手に限った話ではない。先の例に挙げたダイマックスルンパッパにしたって、ハチマキがあれば辛うじて倒せるということは、すなわち雨が降っていればその程度の耐久はブチ抜けるという意味なのだから。

 

(やっぱり、流石にカマスジョーは抜けないか………)

 

大したダメージではないにしろ、このレベル差で抜かれるという事実は私にとって割と重い。実際、これが雨じゃなくて霰で、ゆきかきタイプ一致『フリーズドライ』なんて受けたらどうなるか。そうじゃなくても、相手がカマスジョーではなくキングドラだったのなら。

 

「…………」

 

正直、こうしてあれこれ考えるのは嫌いじゃない。ただ、普段は考える必要が全くないので変に深読みし過ぎてドツボにハマりそうではある。……その上で、私は、彼女相手であればまず読み負けることはないだろう。現時点では、であるが。ならば、私がすべきことは。

 

(──徹底的に、擦り潰してあげる)

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ぽつぽつと、それまで降り注いでいた雨が止んでいく。

 

それに合わせて、雨で程よく冷えた身体が、内から発せられる熱によって再び火照り出す。

 

奥底より浮かぶその感情は、焦燥。諦められない意地と、諦めかけている精神。それがどうにもならない葛藤を生み出して、時間が経つごとに焦りとなって私を蝕んでいく。

 

「グソクムシャ、『であいがしら』!」

「ノラ、『まもる』」

 

グソクムシャの渾身の一撃をあっさりと凌がれて、更に焦りが加速する。これでも駄目ならどうすれば──という思考を捻じ伏せ、ひたすらに勝ち筋を模索する。

 

(これならあの時、『どくびし』でも撒いていれば──)

 

いけない。後悔なんて後でいくらでも出来る。それが戦闘中に浮かぶなんてことあってはならない。どんなに心が折れようと、そんなものが原因で中途半端に終わるなど、頑張ってくれているポケモン達に申し訳が立たない。

 

全てを出し切る。それで負けるのならそれでもいい。だけど可能性を捨てるのは違う。だって私は、まだこの舞台(ステージ)に立つ資格を持っているのだから。

 

「グソクムシャ、『ふいうち』!」

「ノラ、『エラがみ』」

 

流石にあのポケモンも2連続での『まもる』は出来ないのか、次の一撃は命中する……ものの、まるで痛苦を感じていないように見える。しかし、全く意味がないと言えばそれもまた違うようで、ここに来てようやく、私は事前に噂になっていた『エラガミ』という技の仕様を実感することになる。

 

「え? 耐え……た?」

「…………」

 

特性、『ききかいひ』によってボールに戻ったグソクムシャを呆然と見つめ、それを親の仇のように睨み付ける彼女の視線で正気に帰る。

 

これまで、ありとあらゆるポケモン──あのキバナのジュラルドンすら一撃で屠った攻撃を、ただ先制で攻撃しただけでダイマックスもしていないグソクムシャが耐え切った。如何にグソクムシャの耐久が優れていても、あの状況のジュラルドンより上だったとは到底思えない。ならばこの結果は、おそらくは初めて、()()()()()()()()()()という『エラガミ』の仕様が如実に現れた結果なのではないか。

 

(でも、それでも特性が発動したということは、半減してなお半分以上削られているということ──雨下でカマスジョーが耐え切れなかったのも道理。なら、そもそも半減できないカジリガメも当然……)

 

しかし、ようやく見えたか細い希望も、他ならぬ己の思考によって掻き消される。

 

結局、ポケモンバトルはそれが全て。そう嘆く人達の気持ちも、それだけの理由があることも分かってる。ならば凡庸なジムリーダーたるこの私は、何処までも異常な彼女には勝てないのだろうか──

 

(……でも、それで『はいそうですか』って諦めるのもまた違う。そうでしょう、ルリナ──)

 

燃え盛る闘志を胸に、最後のポケモンを呼び覚ます。かみつきポケモン、カジリガメ。いつかジムチャレンジで使用した個体とは違う、正真正銘私の切り札にして隠し球。

 

可能性が低いからなんなのだ。私はそんな道理に従ってポケモンバトルをしてきたわけじゃない。いつだって全身全霊、持ち得る力全てを解放し続けたからこそ、私はここに立つのだから。

 

「カジリガメ、キョダイマックス! このスタジアムを、貴女の勇姿で湧かせましょう!」

 

宣言と共に、我が相棒が巨大化する。カジリガメのキョダイマックス。それは天高く聳え立つ岩山。その昔、山を悠々と噛み崩し、洪水を身一つで受け止めたという──

 

「…………」

 

けれど、何とも恐ろしいことに、そんなカジリガメであっても、対峙するウオノラゴンに比べたら見劣りしてしまう。相棒に酷なことを言うようだけど、いや、最愛の相棒だからこそ。そんなこの子をダイマックスもせずに圧倒するあのポケモンが、私は恐ろしくて堪らない。

 

「カジリガメ、『ダイロック──」

 

そして、それ以上に。

 

「…………」

「──っ」

 

ぞくり、と背筋が泡立つ。

 

技を放つその直前、ウオノラゴンのパートナーたる少女、理不尽を具現化したようなその子と目が合う。鋭すぎる視線。凍てつくような眼差し。私の全てを見透すような瞳を瞬かせることもなく、冷徹に彼女はそれを言い放った。

 

「ノラ、『みがわり』」

「………は?」

 

ぽてん、と。

 

実際にそのような音が聞こえたわけじゃない。あくまで比喩表現として──カジリガメの『ダイロック』がウオノラゴンに命中する直前、文字通り身代わりとしてフィールドに置かれた人形に瞠目する。

 

「ど、どうして──?」

「……なんとなく、耐えられそうだった、ので──念のため?」

 

なんだその理由は──と、吐き捨てそうになった台詞を飲み込む。明らかにまともな理由になっていないのだが、それを決めるのはあくまで彼女自身であり、その彼女がそうしたいと願ったのなら、私にそれを咎める資格はない。

 

けれど、その発言は果たしてどういう意味だろうか。()()()()()耐えそう? そんな馬鹿な。相手の技を耐えるということは、つまりこちらも技を出す猶予が与えられるということ。それを『なんとなく』で覆されたら、こちらとしても堪ったものじゃない。

 

困惑する私を他所に、砂舞うフィールドを鬱陶しそうに、それでも視線は逸らさずに彼女は告げる。

 

「多分、雨になれば速度では負ける……かもしれない。けれど、流石に4分の1の『ダイストリーム』じゃあ、ノラの『みがわり』は壊せない。いや、そもそもキョダイ個体では元より天候を塗り替えるなんて不可能」

 

だから、これで詰み──そう言われて、それでも闘志は絶やさずに盤面を睨み付ける。例に挙げていた『ダイストリーム』ではなく、等倍の『ダイロック』でさえ彼女の『みがわり』を破壊出来なかった事実も、私の足を止める理由には至らない。

 

「カジリガメ、『ダイロック』!」

「……ノラ、『エラがみ』」

 

無慈悲な一撃がカジリガメを襲う。その衝撃は見上げるほどの巨躯のバランスを大きく崩し──けれども、それでもまだ、カジリガメは倒れない。身体は今にも倒れそうな状態でも、私同様その瞳だけは熱い闘志で燃え盛っている。

 

故に、奇しくもこの状況は彼女の懸念が的中した形であり──なればこそ、トレーナーである私ですら半ば切り捨てていたこの可能性を予期した彼女は、果たして何者なのだろうか。

 

「もう一度、『エラがみ』」

 

返しの『ダイロック』を身代わりを盾に躱し、ウオノラゴンがただでさえフラフラのカジリガメを蹂躙する。

 

それは紛れもなく彼女の勝利を決定付ける一撃であり──倒れ行くカジリガメを見届けながら、私はゆっくりと目蓋を閉じるのだった。

 

 

 

 




ルリナさんのカジリガメによる『ダイロック』(元技「がんせきふうじ」:威力110)ではH4振りウオノラゴンに最大乱数で2割前後のダメージなので残念ながら『みがわり』さえも壊せません。対戦ありがとうございました。なお、さりげなく生き残ったグソクムシャは後攻エラがみで6割弱のダメージ。流石グズマさんの切り札。

また、ルリナさん視点だったので明言はしませんでしたが、カジリガメが耐えたのはいわゆる根性耐えによるものです。『悲しませまいと持ち堪えた』ってあれです。つまりは、それが出来なくもない程度に差が詰まってるということでもありますね。(本来なら140〜170%ほどで確一)
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