「一年前から、この舞台を求めていた」
燃えるような瞳に射抜かれる。個人のモノとは思えない、スタジアムの大観衆の声援すら凌駕する熱量を秘めた意思が、彼の中に迸っているのが見える。
「まさしく一日千秋だ。あの日、ターフタウンでこの上ない無様を晒してから、俺はずっと、この機会を待ち望んでいたんだ」
「………」
トレーナー同士であれば、視線の交錯は挨拶に過ぎない。けれど、彼の持つそれの熱量は、今までにない昂りを私に抱かせる。
それが彼の持つ肩書によるものか、彼自身が持つ力量によるものかはまだ分からない。だから、私は、いつかのように、いつものように。それを、この手で確かめたい。
正直に言えば。……ガラにもなく、ワクワクしてる自分がいる。後悔ばかりな旅路だけど、かつて私がこの舞台に憧れたのは嘘ではないから。
「私も……」
「む?」
「……いえ、なんでもありません」
「なんだ、いいのか? 勝敗に関わらず、挑戦者としての君は今しかいない。だったら一言くらい、何か好きに言ってもいいんじゃないか?」
「……。……確かに、そうですね」
彼に対して思うところはある。というか、ある種の妄執を抱いていると言って過言じゃない。もしも私が負けるとしたら──そんな有りもしない妄想に、いつも決まって現れる“誰か”こそ、他でもない目の前の彼なのだから。
(………)
(……挑発でもした方がいいのかしら)
なるべくなら、死力を尽くして欲しい。でも彼の場合、変に挑発して冷静さを欠いた方が弱くなるような気もする。だけど危機感を煽らないとターフタウンの時みたいに変に油断されるかもしれないし……じゃあ、適当に。
「……多くは言いません」
ボールを取り出す。赤と白の味気ないモンスターボール。システム的に仕方がないとはいえ、ゴージャスボール辺りに入れられなかったのが口惜しい。
呼び出すは我が最強の相棒、ウオノラゴン。対する彼はギルガルド。いつかの対面と同じ。けれど、結果はいつかとは異なるのだろう。それは、あの燃えるような瞳を見ればわかる。可能性があるのなら、初手だろうか。いや、それは今考えることでもないか──
「では、
ゆっくりと告げる。いつかとは違う立場で、しかして対等のこの舞台で。
来い、
否。違う、そうじゃない。もっと分かりやすく、誰が聞いても、必死になって貰うような台詞を──
「──抗いなさい。さもないと、殺しますよ」
「………っ」
あれ。なんか違うような。……まあいいか。別に。
☆☆☆
「──ノラえもん、『エラがみ』」
意識をせねば、恐怖から目を逸らしそうになる。
無理をしなくては、対峙すら叶わない──そんな絶望的な一撃が、鎌首をもたげてギルガルドに迫る。
ウオノラゴンと呼ばれる異形のポケモン。曰く、復元に失敗した化石がそのまま動いているとまで称される存在。タイプやその他の情報が明かされた今でも、デスバーンやギルガルドのようなゴーストポケモンではないのかと噂されているらしい。
「っ……」
強烈な既視感。いつかの光景が脳裏に走る。おそらくは意図して似せているのだろう──咄嗟に『キングシールド』を指示しそうになるが、それが通用しないことは十二分に理解している。
(………)
『──可能性があるとしたら、初手です。そこで覆せなければ、もう実力で抗うしか無くなります』
助言と言うにはあまりに不親切な、酷く具体性に欠けたその言葉。とはいえ、無理もない。正しい道が分かったとて、俺のポケモンがそこに辿り着けるのかを知ってるのは俺以外にはいない。だからこそ、彼女も深くは語ることもなかったのだ。
「ギルガルド!!」
その名を呼ぶ。些か味気ない種族名そのままの呼び名。俺は目の前にいる最強のチャレンジャーとは違い、ポケモンにニックネームを付けたりなどはしていない。しかし、それで俺たちの信頼が歪むことなどあり得ない。だからこそ、かつて自身を一撃で仕留めた攻撃を前にしても、俺にその身を委ねてくれるのだから──
──ぱぁん!
「今だ──え?」
故にこそ。
乾坤一擲の策を仕掛けるその瞬間──まさに策が決まるか否かの直前に、不意に鳴り響いた小気味いい音と、それに反応してか土煙を上げて急ブレーキを掛けたウオノラゴンに瞠目する。
視線を少しだけ上に向ければ、そこには両手を合掌させた姿勢の少女が居て──先の音が、彼女によって鳴らされたものであるのは明白だった。
(馬鹿な、何故──!?)
この際、あそこから急制動をかけられるウオノラゴンの並外れた身体能力のことはいい。問題は、何を根拠に彼女はそれをさせたのか。
疑われる余地はなかったはすだ。もしや所作に違和感を覚えた? それこそあり得ない。俺はこれ一本で食ってる連中の頂点に君臨する存在。そう易々と意図を読まれるようならそれこそお終いだ。なのに。
「………」
鋭い眼差しに射抜かれる。俺の全てを見透かすような、これまでにあまり感じたことのない類の視線。それに乗せられた感情を見抜けないのは、単に俺が未熟故か。
合掌した状態で固まる彼女と、それに合わせてかギルガルドの真正面1メートルの位置から動かないウオノラゴン。視線を逸らせない。なまじ不可解な動作だったから余計に心臓に悪い。策を見破られたのかどうかすら分からない。
(いや、それが分からないのは、俺の経験不足故か)
ネズさんなら分かっただろう。どころかこの隙に、第二第三の布石を仕込んで優位に立ち回ったかもしれない。いざ困った時にはダイマックスで誤魔化してきたツケがここに来てる。
彼女が相手では、安易なダイマックスなど足枷でしかない。だからこそこうして俺は、付け焼き刃の奇策に縋っていたのだから。
「……『みちづれ』?」
小さな呟きが耳に届く。直後に口元を両手で塞いだので、おそらくは失言だったのだろう。読まれていた、しかしそれ以上に。彼女も人間らしいミスをすることに僅かばかりの安堵を抱く。
(……そう甘くはない、か)
元より失敗が前提の作戦。一年前と同じ結果にならなかっただけ良しとしなければ。そも、この手がなければこうして膠着状態を作り出すことさえ叶わなかったろう。
「………っ」
口元から手を解き、少女は何かを言い掛ける。が、そのまま十秒ほど経っても仕掛ける様子は見られない。また同時に、こちらも迂闊には仕掛けることが出来ない。
考える。初手の『みちづれ』を読まれた以上、おそらくギルガルドではウオノラゴンの突破は叶わないだろう。ルリナとの読み合いを制した彼女のこと、ギルガルドの緩慢な動作ではどう足掻いても出鼻を見切られて挫かれるのがオチだ。
(しかし──)
「ギルガルド! 『シャドーボール』だ!」
「ノラ、『まもる』」
ギルガルドが剣を取る。ギルガルドの特性「バトルスイッチ」は、攻撃時と防御時に能力が切り替わるという極めて珍しい性質を有する。如何にもな隙だが、少女は動かない。動けないのか、それとも別の理由か。
一見、無謀に見えるこの一撃。しかし、此処で攻めの姿勢を見せることに意味がある。
(この対面、一番されて困ることは何か──)
それはギルガルドが倒されることじゃない。ダメージを与えられないことでもない。──『みがわり』を使われて、それを次に繋げられることだ。
『──ウオノラゴンというポケモンは、いわゆる「積み技」を全く使えません。「つるぎのまい」はおろか、殆どのポケモンが覚える「ふるいたてる」さえも、です』
昨日の夕方の出来事を、改めて思い返す。あれはホテルの休憩室で、観戦に来ていたソニアと歓談していた時だったろうか。今になって考えれば、あんな無茶苦茶な要求に乗ったのが自分でも信じられないが、その価値はあったと実感する。
「──もう一回、『エラがみ』」
そして、
否、今はそれを考える時じゃない。目の前のことに集中しなければ、その未来を掴むことさえ出来やしない。彼女の言が正しければ、真に恐ろしいのはこれから先。ウオノラゴンという
『あの人は、誰よりも
今を以て信じ難いその言葉。けれど少女を知れば知るほど、否定する材料は失われていく。リフレインする度に心が折れそうになるそれを、闘志を燃やして捩じ伏せる。
才能が何だ。最強がどうした。これまで俺は、そう自称した数多のトレーナーを踏み台にしてここにいる。少女が如何に理不尽の化身であっても、俺がすべきことは変わらない。全霊を尽くして、最強の座を示す。それはなんと、やり甲斐のあることだろうか──
「頼んだ、ドラパルト!」
無限の闘志をボールに乗せる。そんな俺に、少女は僅かに眉を顰めた。
☆☆☆
「やはり、勝ち上がって来たか……」
齧り付くように見つめていた画面から目を離し、ダンデくんはそのように呟く。
言葉の意は、ある種の諦観。既にそうなることを確信していたような、ため息を吐くかのような台詞。複雑な感情を抱く気持ちも分からなくはない。何故なら彼は誰よりもそれを待ち望み、また同時に、誰よりもそれを恐れてきた人間なのだから。
「予想はしていたんでしょ?」
「……そうだな。むしろ俺は、それを期待していた。彼女にリベンジしたかったのは、何もネズさんに限った話じゃない。俺も、キバナも……今回のトーナメントで彼女と戦わなかった全員が、似たような思いを抱えているはずだ」
「……そうでしょうね」
彼女のこれまでの戦いを思い返す。いや、あれはもはや戦いと呼んで良いのだろうか。ガラルの頂点に立つようなトレーナーが揃いも揃って「エラがみ」一発に斃れているというのは、もはや脅威を通り越して戦慄の域にある。
結局、ルリナに関してもリベンジは叶わず、ヤローさんとの戦いに至っては笑うしかないという状況だった。その上、ヤローさんを上からブチ抜くという離れ業を為してなお、彼女自身もネズさんとの駆け引きで互角以上に渡り合うという有様である。改めて見ると何て理不尽な存在だろうか。
「マクワ、ルリナ、ヤローさん、ネズさん……誰も彼もが、俺の尊敬する素晴らしいトレーナーだ。特にネズさんに関しては、同条件なら俺も勝率は5割を切る」
「……確かに同条件ではあるけど、あの子の場合、使わないって言うか、使う必要がないってカンジよね」
いつかどこかのインタビューで、ダイマックスを足枷と言い放った彼女の姿が忘れられない。何の冗談だと突っ込みたくても、あの子は行動でそれを証明している。
しかも実際に、ヤローさんをあれだけ一方的に打ち負かすことができたのは、ダイマックスを使わなかったからこそ、らしい。もはや理解が追い付かないが、何のタネもなく相性最悪の相手を真正面から打ち倒せるとも思えないので、きっとそれは真実なのだろう。……彼女なら小細工抜きでもやりかねないけど。
いつだったか、おばあさまが呟いた何気ない一言が脳裏に過ぎる。
『
それは、あまりに理解の浅い言葉だった。しかし、それ故に、その恐ろしさが明白になる。
本人も言うように、おばあさまはポケモンバトルに詳しくない。否、殆ど興味がないと言っていい。孫がやっていたから、その友人がチャンピオンだから──ただそれだけの動機でチャンピオンカップを横目に見るような人だ。
彼女には、ダンデくんが成した偉業も、積み重ねた強さも、築いた栄光も理解していない。しかし彼女は、それをあの少女が脅かす可能性を示唆している。
(それはつまり、傍目には
その程度の認識の人間が、当たり前のように彼の敗北を予感している。それは、なんと恐ろしいことか。
言っては何だが、ダンデくんに敗北という単語を結びつけるのは難しい。
無論、彼だって人間だ。どうしても体調が悪い時もあれば、条件や相性が悪くて膝をつくこともある。チャンピオンともなれば、公平性なんてものを求められてのハンディキャップなんてしょっちゅうだ。先に言ったネズさんとの試合もそれに当たる。
しかしそれでも。それでも彼は、無敗のチャンピオンとして人々に謳われる。それは何故か──簡単だ。彼は、
(今回の相手は、その認識を容易く凌駕する強敵。誰もが待ち望み、けれどその到来を恐れていたとびっきりの台風)
「いつか、アローラの風が吹く──」
「………!」
聞き慣れない単語。時間帯のこともあってほぼ貸切状態だった休憩室の入り口の方から、人影と共にそんな言葉が舞い降りる。けれどどうしてだろう。そのフレーズは不思議と、すとんと腑に落ちる何かを感じた。
「とある地方の諺だと、彼女はそう言っていました。ああいえ失敬。何分聴覚には些かの自信がありまして、少々、お話を聞かせて頂きました」
スラっとした体躯に凛とした声。黄色の道着に身を包んだ、未だ幼さの残る少女。突然現れた謎の人物に私が戸惑っていると、意外なことに、その少女に対してダンデくんが反応を示す。
「君は、Bブロックの……それに、その服。やはり君は、マスター道場の?」
「………。………ええ。急な訪問、申し訳ありません。ですが、このタイミングを除いて他はないと、居ても立っても居られずに」
マスター道場? 聞き覚えがあるような、ないような……いや、思い出した。確か、ダンデくんの前のチャンピオンだった人が開いてる道場で、一時期ダンデくんも通っていたはずだ。以前、水だか悪だかの塔の場所が分からないって連絡があったような気がする。
しかし、そのマスター道場の人がどうして? いや、それ以前に、よくよく見れば彼女は今回のチャンピオンカップ参加者の一人じゃないか。そうなると、ますます彼女はどうしてここに来たのだろう?
抱いたそんな疑問は、しかし彼女が切り出した話に、困惑と共に返される。
「無茶を承知で提案します──一手、手合わせ願えませんか?」
「はい──?」
間の抜けた声は、私の口から。それは、彼女の言うその提案が、あまりに予想外なものだったが故に。
「チャンピオンカップ出場者同士にあっては、互いの同意が無ければ試合を行えない──正確には、何方共に、試合の申し入れを拒否することが出来ます。
しかし、それは逆に、
そして、その規則は、チャンピオンカップ終了時まで有効──つまり、トーナメント期間中であっても例外ではありません」
だから、試合を申し入れると。よりにもよってこのタイミングで、ここまで勝ち抜いた出場者同士が。……何故?
「………」
当然、彼も似たような疑問を抱いたのか、難しい顔をして黙り込むダンデくん。けれどその表情には困惑よりも疑問の色が濃く、非常識さに呆れているよりかは目的そのものを探っている様子。
意外に思われるかもしれないが、ダンデくんはこう見えて相当な理論家だ。如何にも熱血! って性格をしてるのに、バトルでは思いの外クレバーに立ち回る。二面性、というのだろうか。前に、頭の中に冷静な自分を残していると言っていた。私にはよく分からないけど、そういうものなんだろうか。
「……それで、君に何の得がある?」
その呟きは、回答ではなく質問。かなり身勝手な提案なのに「自分に」ではなく「君に」と問いてるのは、彼の人格の顕れだろうか。
彼女の方も、その質問は想定していたのだろう。少女は懐からモンスターボールを取り出すと、中のポケモンを呼び出して、
「……
「え?」
そんな、よく分からない問いかけをする。呼び出す際、少女が「ウーラオス」と呼んだそのポケモンは、知らない種族だとかそれ以上に、何か厳かなオーラのようなモノを感じる。
「
「………!」
「………」
まさかの発言に動揺する。その言葉は、トレーナーの間では半ばタブーとして扱われるものであり、彼女の側から切り出してくるとは微塵も思っていなかったからだ。
「得、と言う話でしたね──ええ、私に得はありません。貴方にそれがあるかも分かりません。
ですが、損だけはさせません。それは保証します。……尤も、こうしてお時間を頂いてる時点で損と言えばそうなのですが」
「………。………このホテルの屋上にあるフィールドで構わないか?」
「ダンデくん!?」
そこを言い出したらキリがない。第一、ここで燻っていても時間の浪費には変わらない──そう告げて、まんまとその誘いに乗るダンデくん。何だかんだとチャンピオンとしての自覚は高い彼が(任意とはいえ)規則に反する行動をしたのは、やはりそれだけ思うところがあるということか。
(まあ、このタイミングでってことは、十中八九あの子絡みだしね……)
段々と思い出してきたが、目の前の少女は確か少し前に、あの子との交流で話題になっていたような気がする。目敏いダンデくんのこと、その辺りも踏まえて提案を受けた可能性が高い。
(あるいは、
なお、意外に思われるかもしれないが、おばあさま曰く、私は楽天家の気質がある……らしい。
☆☆☆
「頼んだ、ドラパルト!」
二匹目に現れたポケモンに、遂に来たかと身構える。
ドラゴンと戦闘機が融合したようなポケモン、ドラパルト。ガラル唯一のいわゆる600族と呼ばれるポケモンで、その中でも最速の名を冠する最強のポケモンが一体である。
(こうして見ると、ぱっと見はノラとあまり大きさが変わらないわね……)
ウオノラゴンとドラパルト。最速スカーフでも抜けない142という異様な種族値。ゲームであればあからさまな不利対面である……が、事この場合に至ってはそうでもない。何故ならば。
(ノラの素早さは準速の249──その数値は、ダンデさんのドラパルトを僅かに上回る)
実数値にして219。トーナメント周回の際、キョダイマックスニャースの素早さを、それを指標に調整したからよく覚えている。無論、あのドラパルトがゲームの通りだとは思わないけれど、こうして
ただ、問題は──
(なんかスカーフ巻いてない……?)
実数値では勝ってる。それはおそらく間違いない。問題なのは、ドラパルトの首元に巻いてある青い布。それなりに対戦を嗜む者であれば馴染み深いその道具に、流石の私も動揺を隠せない。
「……ノラ」
ノラを呼び、少し考える。あの布が私の知識にあるそれとよく似た別物である可能性は否定できないが、初手の推定イバンみちづれからして楽観視も出来ない。
しかしそれも、結局あの対応が正解だったのか。イバンなんてガラルに無かったはずのものを、それを使ったからとギルガルド程度がノラの速度に追い付いていたかどうか。分からないけど、警戒するに越したことはない、はず。
(さて……)
懐からボールを取り出し──思い止まってそれを仕舞う。これがネット対戦であれば即バックが安定だが、今更信条を曲げるのもどうかと思う。半ば意地で貫いてきた行動。しかしここまで来たからには最後まで成し遂げたい。
それに、キルクスタウンでの会話を鑑みるに、ドラパルトが使ってくる技は、おそらく──
「──ドラパルト、『りゅうせいぐん』だ!」
きたわね。……冗談はさておき、この『りゅうせいぐん』という技であるが、来ると分かっていれば対処はそう難しくない。
「ノラ、タイミングは任せて」
なにせこの技、竜星群などと小洒落た言い方をしているが、その実態はオバヒや破壊光線と同類の、マダンテ系統の全エネルギーぶっぱ技なのだ。そして、そういう系統の必殺技の対処法は何処も同じ。如何なる方法であっても、それをマトモに受けないことである。
「──………7」
天から降り注ぐとてつもないエネルギーを見据える。晴天を闇夜に染め上げるその力。これを会得するために、彼はどれほどの努力を重ねたのだろうか。
「6、5、4」
けれど、だからこそ。だからこそ私は、それを全霊を以って挫かなければならない。一度やり遂げると決めたからには、梯子を外すなんて私には出来ない。今更決断が揺らぐようなら、私はここまで来ていない。
「さん、に。いち」
我が最愛にして最強のポケモン、ノラ。私には貴方が、私のせいで軽く見られるのが我慢ならない。こんなのはただの被害妄想だ。それは自覚している。でも、愛するこの子が僅かでも馬鹿にされる可能性を、それを看過できる親がいるだろうか。
蹴散らせ。殺せ。踏み滲れ。やるからには徹底的に。どこまでも苛烈に。ひたすら理不尽に。完膚なきまで、誰が見ても分かるように。貴方にはできる。私がそこへ導いてあげる。だって私は、貴方の親だから。
「──今。ノラ、『まもる』」
その指示のコンマ1秒差で、無数の隕石がフィールドに着弾する。衝撃の余波が辺りを覆っている。この世の終わりを彷彿とさせる地響きがスタジアムを震撼させる。よもや間に合わなかったのでは──そんな心配はノラには無用。だったら私は少しでもエネルギー波を受ける時間を短くした方がいい。
「次。『じならし』」
あらかたエネルギー波が過ぎ去った辺りでそう指示し、ただでさえあちこち隆起して覚束ない足元が立っていられないほどになる。これも当然ゲームとは違い、常に浮遊しているドラパルトには何ら意味のない行為だが、私の狙いはそこじゃない。
「ノラ、『エラがみ』」
震脚の衝撃に耐えられず転びそうになる──そのタイミングで必殺の一撃を放つ。
現在の私とチャンピオンの位置関係は、フィールドの中央にいるノラを挟んで殆ど変わらない。故に、私がノラの技の影響を受ければ、チャンピオンも同じだけの被害を被るということ。
ポケモンバトルで実力差を覆すには、多かれ少なかれトレーナーの存在が関わってくる。ならば、そこを妨害すればどうなる?
結果なんて分かり切っている。
何故なら、純然たる
──ノラを上回るポケモンなんて、この世にいないのだから。
☆☆☆
「──これさえも退けるか、チャレンジャー」
膝をついた体勢から立ち上がり、気絶したドラパルトを見つめながらチャンピオンは告げる。表情が険しいのは、意図せず体勢が見下したカタチになったが故だろうか。いや仕方ないんですよ。だってダンデさんが転ぶからどうしても──じゃなくて。
「………?」
どこか身体に違和感を覚える。いや、違う。なんだろう、この感覚は。彼から目を逸らすことが出来ない。彼の険しい表情が珍しいからとかではなく、もっと本能的に訴えかける何かが──
「行くぞ、ゴリランダー!」
「………っ」
全身に冷や汗が伝う。根拠のない感情が脳を震わせる。どうして。どうして。どうして。どうして私は──否、
「…………」
第六感。虫の知らせとしか呼べない何かが警鐘を鳴らす。けれど私は何も出来ない。する気もないし、してはならない。そも、理屈も何もないただの予感に、どうして私が従わなくてはならないのか。振り返る段階は、疾うに通り過ぎている。
「………!」
顔を上げると、私の予感を煽るように、これ以上なく肥大化した
無敗のチャンピオンは、それほどに容易くない。そんなことを、私は今更実感するのだった。
チャンピオン戦は流石に一話では終わりません。回想挟む予定なので次回でも決着してるか怪しいです。
あと、作中で明言はしませんでしたが、今回のギルガルドがやっていたのは、
きのみを忍ばせておくことは不可能に近い
↓
だったら最初から食べるしかねぇ!
というアレです。いわゆるイバンみちづれですね。反則スレスレですが、実は作中のルール的には問題なかったりします。他の道具と両立とかは流石に出来ませんが。