エラがみ無双   作:融合好き

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vsドサイドン

私とウオノラゴンとの出会いは、実に8年と1月前まで遡る。

 

「何言ってるの。トレーナーも何も、貴女もうポケモン持ってるじゃない」

「え?」

 

母にそう言われ、狼狽える私。実のところ、この身体に『私』としての意識が浮上したのはごく最近のことで、その影響なのか、その時点でそれまでの記憶は霞のように曖昧になっていた。

 

そして当然、そのことを母に告げる勇気もなく、どうにかこうにか記憶を掘り起こしてたどり着いたその先。

 

「なんで神棚……?」

 

そこには3つのボールがあった。右からそれぞれクイックボール、モンスターボール、スピードボール。

 

どうしてそれが神棚に飾ってあったのか。残念ながら私はそれを覚えては居ないけど、私自身が手を伸ばして届くような高さでもないので、定期的に両親の手を借りていたのは間違いない。

 

それでもどうして神棚に、という疑問はある。そもそも当たり前のように神棚が設置されているが、一体何の神様を祀っているのだろう。尤も、神棚に限らず、この世界には随所で日本被れの変な文化がチラホラしてるので、あまり深く考えない方がいいのかもしれない。

 

それはさておき。

 

「キュワワーに、ウオノラゴンに、それに、卵……?」

 

初対面の反応はこんな感じ。なんとも言えない、というのが正直なところである。

 

無論、何でボールに卵が入ってるんだとかどういうラインナップだこれはとかリアルウオノラゴンって結構ヤバいんじゃないだろうかとか色々な疑問は浮かんだが、まずは困惑が先立ったのを覚えてる。ただ、わざわざ神棚に飾ってあっただけあって随分と丁寧に彼らは扱われていたようで、無邪気にこちらに擦り寄ってくる始末。

 

しばらく考えて、どうもポケモン剣盾をプレイしていた時の手持ちがそのまま反映されているんじゃないかと思い至り軽く自己嫌悪。とはいえ意図してたわけでもないからもはやどうしようもない事態であり、せめてこの子達は幸せにしたい、と考えるようになったのは、我ながら自然な流れだったように思う。

 

「えっと……キュワワー、ウオノラゴン。……ウオノラゴン? どうしたの、ウオノラゴン……いや、そうだ。確か名前が……何か……あれ……」

 

余談だが。実は最初の数時間、具体的には母が食事の号令と共にノラの名を呼ぶその時まで、ノラのニックネームを思い出せなかったのは内緒である。

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「ノラ、『エラがみ』」

 

その言葉の直後、目の前の岩が消えた。いや、比喩じゃなしに、砕けたとかそういう次元じゃなく、ウオノラゴンの攻撃範囲にあったはずの大岩が、攻撃が通過しただけで霧散したのである。いやマジで湯気か何かを散らしたように。

 

「………やっば」

 

あまりの威力に絶句する私。よく漫画とかで「この一撃でチリとなるがいい」みたいなこと言ってる悪役とかいるけど、実際にやられると恐怖でしかない。何だこの威力。ゼロ距離でロケランぶっ放してもこんなことにはなりませんよ?

 

「………」

 

「どう、スゴイ?」みたいな顔をして振り返るノラに笑顔で返す。しかし当然、内心では冷や汗ダラダラである。

 

幸いにも、この時点でそれまでの触れ合いから、少なくともノラに私を害する意思はないと分かっていたので、私としてもどうにか気丈に振る舞うことが出来たが、好奇心が先立って真っ先に検証に出てた場合、私がどんな反応を示していたのか考えたくもない。

 

「うわー……どうしよ」

 

必然、私は思う。この力、果たしてどうしたものかと。だってどう考えても過剰戦力だ。しかもダメ計がこの世界でも正確だとしたら、ノラはザシアンザマゼンタと言った伝説のポケモンさえ一撃で屠れるほどの力を持っている。うん。私じゃ絶対に持て余す(確信)

 

『………?』

 

一人で百面相をしていた私に、「どうしたの?」と首を傾げるウオノラゴン……じゃない、ノラえもん。ぶっちゃけ割とキモい見た目だけど、それでも可愛い。でもキュワワーのがもっともっと可愛い。だけど貴女、気付けば頭の上で寝てるのは何なの? はっきり言って寝辛くない? いや、いいけど。

 

「あー……でもなあー」

 

最近卵から産まれたコイルをぺたぺた撫でる。今更だけど、こんな機械部品みたいなのが卵から産まれるとかマジでわけわかんないなこの世界。だけどわけわかんないのは私の転生?とかもそうだし、あんまり考えない方がいいのかな。

 

別に、もっと単純に考えてもいいのかも。力がどうこうとか、別に……でも、うーん。勿体ないなぁ……。

 

「よし、決めた」

 

腰掛けていた岩から立ち上がると、我が愛する手持ち3匹が一斉に私を見る。

 

コイルはともかく、明らかに私の実力と釣り合ってない2匹を含めた愛しき子どもたち。存在自体がなやみのタネになること間違いなしなこの子たちに、私は軽い気持ちで告げる。

 

「ごめんね。こんなところに連れて来ちゃって。だけど、せめて私が、貴方達を相応しい舞台に立てるよう、立派に育ててあげるからね」

 

言葉の意味を理解してるのかしてないのか。いつもの調子で戯れてくる3匹を纏めてあやす。この先に何があっても、この子たちがいれば大丈夫だと、そう確信して。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「………ふふ」

 

始まりは、小さな笑い声だった。

 

それが目の前の少女から発せられたものだと気付くのに、俺は数瞬の時を要した。あれほどの執着を抱いているポケモンを倒されて、よもや「笑う」という反応が返ってくるとは想定していなかったのだ。

 

「ふ、ふふふ。あは。あははは」

 

少女は笑う。感情を感じさせない、渇き切った笑声を響かせる。ただそれだけの筈なのに。何故、これほどの戦慄が心身を駆け巡るのか。

 

「………っ」

 

確かに。確かに、彼女がこのように笑う理由に心当たりがない以上、俺がその行為を不可解かつ不気味に感じるのは当然かもしれない。だが、違う。そうではない。これは断じて、そのように平穏無事な言葉で済ませるべき問題ではない。

 

「あははは……あはは。ははははは──……はぁ」

 

小さなため息と共に、ふつり、と不自然な唐突さで笑い声が止む。直後、少女は顔面を覆い隠していた手を降ろし、濁り切った漆黒の瞳を露にする。

 

その瞳は普遍的な風貌の彼女が持つ、唯一にして一際目を惹く特徴。見る者に深淵を感じさせる死人のような瞳。オニオンとかが好みそうだな、などと関係ない思考が過ったのは、現実逃避の一種だろうか。

 

「……存外、何も言えないものね」

「え?」

 

ボソリと少女は呟く。その感情は、やはり窺い知れない。思わず疑問の声が漏れるが、彼女はそれに答えるように、

 

「もしも、この時が来たら──毎日のように考えて。でも、いざその時が訪れたら頭ぐちゃぐちゃで。嬉しい?悲しい?何に対して?悔しい?そうでもない?……なんかもう、よくわからない」

「………」

 

異様な雰囲気を纏う彼女に口を挟めない。普段は口数が少ないあの少女が、こうして饒舌に語り出す時点で警戒するに余り有る。

 

「けど──ひとつ。ノラを打倒した貴方に。最強を踏み越えた貴方に。一つだけ、絶対に聞きたかったことがあるの」

 

件のウオノラゴンを労いながらボールに戻し、少女はにっこりと微笑む。

 

これまでは基本顰めっ面だった少女が見せる不意打ち気味の笑顔に動揺するも、纏う雰囲気がそれを覆す。笑顔とは本来攻撃的なモノであると言うが、彼女の笑顔はそれと同じだ。なまじ視線から意図を読み取れない分、こちらの方が恐怖を感じる者もいるだろう。

 

「やっぱり、ポケモンって、才能が全てだと思う?」

「……?」

 

さて何を言い出すか、と身構えていたところに、予想していた方向とは違う問い掛けを受けて首を傾げる。それは果たしてどういう意味合いの問いか。どうにも質問の意図が掴めないが……これは素直に答えた方が良さそうか?

 

「ポケモンバトルの勝敗に、()()が関わらないとは言えない。だが、決して。ポケモンとはそれが全てではないはずだ」

 

そのために俺たちがいる。パートナーであるポケモンと絆を深め、相性による有利不利や、あるいは単純な実力差なんかを戦略や立ち回りによって覆し、か細く険しい勝利への細道を導く案内人。

 

単に強さを誇るのであれば、強靭なポケモンなどいくらでもいる。しかしそれでは、本当に強いトレーナーには敵わないことを誰もが知っている。だからこそ俺たちは持て囃され、多くの少年少女の憧れに至るのだ。

 

「戯言ね。それなら私はどうしてここにいるの? ただ強いポケモンは淘汰されると言うのなら、私は最初のジムで挫かれて然るべきでしょう?」

「だから、多少なりとも関係しないとは言わないさ。だが、何もその素晴らしさは、強さに限った話でもない。俺なんて所詮、一匹のポケモンすら人並みに構ってやれない薄情者だ。絆の深さで言うのなら、ソニアとワンパチの方がよっぽどだ」

「………」

 

返事は無かった。その代わりと言わんばかりに、少女は腰にあるポーチからクイックボールを取り出すと、その中のポケモンをフィールドに呼び出す。

 

それはいつかターフタウンで見たポケモン、キュワワー。花冠の如き愛らしいその姿は、とてもじゃないが戦闘に向いているようには思えない。

 

だが、俺は知っている。元はと言えばあのキュワワーこそ、かつて俺が彼女に声を掛けた理由であり、つまりは相応の実力を誇るということでもある。

 

「……それは強さに限らない、か」

「?」

「いえ、何でもありません。……確かに、それも道理ではあるなと。でも、私はそんな綺麗事は御免です。私はポケモンバトルが好きなんです。私は、ポケモンバトルが、途方もない()()を覆し得ることをみんなに知って貰いたいんです」

「……んん?」

 

意外な発言だ。まさしく()()を振り翳してここまでのし上がってきた少女の台詞とは思えない。

 

しかし、少女は俺の疑問符に回答することはなく、むしろ誰に聞かせるつもりもなく一方的に捲したてる。

 

「でも、私にはそれを成せる才能が無かった。私如きがどう足掻いても、ノラを超えるだけの実力なんてまるで身に付かなかった。いや、ノラに相応しいトレーナーなんて、もしやこの世界に誰一人として存在しないのかもしれない。否、そんな人間がいたとして、それが私じゃないと全く意味がない。だから、だから」

 

少女は語り続ける。堰を切ったような言葉の奔流。ウオノラゴンという巨大なダムに並々と貯められていた大量の水(彼女自身)が、ゴリランダーが穿ったアイアントの一穴により崩壊せんとしている。

 

「考えた。ずっとずっと。なら、どうする? この世界の何処かであるいは存在する()()()()()()じゃなくて、他でもないこの私が、私だけがノラのパートナーに相応しい人間になるにはどうしたらいい?」

 

ノラが最強であるならそれでいい。そうであれば、あの子が築いた虚像は暴かれないから。でも、もしも。もしもノラを打破するトレーナーが現れたら。チャンピオンでも英雄でも誰でも、それが絶対ではないのだと示せるのであれば。

 

「なら、それを私が出来ない道理はない。それを成して、初めて私達は対等になれる」

 

全力のノラが勝てなかったトレーナーを、誰でもできるやり方で、誰が見ても分かりやすく。

 

「だから──」

 

そこで少女は一度言葉を区切り、再びその表情を険しくする。しかし、心境の変化は明らかのようで、その視線に、それまで感じていたヒリヒリと粘つくような何かは感じられない。

 

「………」

 

俺はと言えば、彼女の言葉に圧倒され、ロクに声も出せずにいる。口を挟みにくい雰囲気に加え、バークアウトもかくやという発言の嵐。その意味は俺にはほぼ理解できないものだったが、それが初対面での……いや、それまでの思い詰めた態度に繋がるのだろうか。

 

誰にだって、それぞれの事情がある。彼女の場合、それがトレーナーとしての彼女の、根幹にも等しい非常に多くを占めていたということだけだ。

 

「だから、私は求めていた。チャンピオンでも英雄でも誰でも。間違いなく最強のノラを乗り越えた相手を、私の手で叩き潰すこの瞬間を。あの日、貴方がノラじゃなく、この私を見出してくれたその時から、ずっと──」

 

背筋が泡立つ。根拠のない感情が、彼女ならそれをやりかねないという不安と、一手誤れば当然のように彼女はそれを成し遂げるだろうという期待がそれまでの実績に重なり、足元が崩れ行く錯覚を抱く。いや、錯覚でもなんでもなく、俺の選択次第では、それは即座に現実のものへと変貌することだろう。

 

「……だが、しかし」

「ええ。そんな()()()()()こと(事情)なんて、貴方には関係ない話。でも、それでいい。それでこそ、それこそがポケモンバトル。互いの事情も、戦う理由も全て飲み込んで潰し合う」

 

──そして、その力が及ばなければ、如何なる理由も無に帰する。

 

敢えてその部分を強調し、嫌悪感丸出しで少女は告げる。それをくだらないの一言で切り捨てざるを得ない事実を憎むように。

 

しかし、その上で。

 

(………それこそがポケモンバトル、か)

 

ガラルにおけるポケモンバトルは、見方によっては非常に残酷なものに映る。勝者に栄光を。敗者には屈辱を。簡潔明瞭で、それ故に避け得ぬ宿痾。

 

しかし、少女はそれを嫌悪しつつも、それ自体を否定はしていない。否、彼女がそれを認めようが認めまいが現実は何も変わらない。トーナメントの本質がジムリーダーの座という数少ないパイを奪い合う場である以上、どうしたって落伍者は大量に現れる。

 

「でも、だからって、諦められるはずはない。……ですよね?」

「そうだな、その通りだ。だったら、君はどうするんだ?」

「非常に不愉快なので、私の持ち得る知識(さいのう)の全てを費やしても潰します。駄目なら……まあ、その時に考えます」

 

物騒な台詞だが、冗談には聞こえない。いや絶対に冗談じゃない。少なくとも彼女は、この状況で俺に勝つつもりでいる。……否。

 

(見縊っているのは、おそらく俺の方だろうな……)

 

彼女が呼び出した二匹目のポケモンであるキュワワーに視線を移す。そう、二匹目である。つい忘れそうになってしまうが、あのポケモンはまだ次鋒……俺のポケモンで例えるならば、ようやくギルガルドを倒したという段階でしかない。

 

流石にあのウオノラゴンほどではないだろう──という見立ては単なる俺の願望で、彼女の実力は未だ分厚いヴェールに覆われたままなのだ。

 

「………」

 

それきり彼女は口を閉ざし、自然体のままこちらを見つめる。フィールド全体でも己がポケモンでもなく相手のことを注視するそれは、おそらく彼女特有のバトルスタイル。例のウオノラゴンがその場にいない分、絵面としては随分と華やかになったが、だからと言って油断など出来るはずがない。

 

ゴリランダーと一瞬のアイコンタクトを交わし、こちらも身構えて相手の反応を伺う。流石にあの錯乱した様子ではあり得ないだろうが、会話中に試合が中断されるなんて都合の良いルールもないことから、あの隙に何か仕掛けられた可能性も否定できないのが恐ろしい。

 

(さて、どんな爆弾が飛び出してくるか……)

 

結論から言えば、その懸念は半分正解で、誤りだった。否、正確には、予想外の方向からそれは現れた、と言っていい。

 

何故なら俺は、この期に及んでなお、少女よりもキュワワーの動向にばかり注目していた。なまじあのウオノラゴンの脅威が身に染みていたからだろう。あのポケモンの実力は如何程か、という思考に凝り固まっていたのだ。

 

後で聞いた話だが、彼女が不愉快と称したのはまさにそれで、トレーナーという存在の重要性は理解していても、バトルにおいてはどうしてもポケモンの能力にばかり注目してしまう。

 

それは何も俺に限らず、トレーナー全体にその傾向がある。実際、ポケモンの能力さえ備わっていれば、それだけで()()()()()()()()()()のもまた事実ではあるからだ。

 

「ゴリランダー、『ドラムアタック』だ!」

 

だからこそ、この選択は迂闊だった。何かしら狙いがあると分かっていながら、安易に攻撃を仕掛けた事実そのものが。とはいえ、まさかこのまま何時間も睨み合いをしているわけにもいかず、いずれは行動を起こさなくてはならなかっただろう。

 

「キュワワー。『サイドチェンジ』」

 

故に、俺の選択は、決して間違いとは言えなかった。ただ単純に、当たり前のように、彼女はそれを凌駕してきたというだけの話である。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

「………」

 

位置関係を交換する技、と聞くと、パッと思いつくだけでも様々な悪用方法があるように思う。

 

位置、というとピンと来ない人も、立場を交換できると考えれば分かりやすいだろうか。例えば両人が牢獄の看守と囚人で、牢屋からその立ち位置を交換できればあっという間に立場が逆転する。

 

キメラアント戦で色々とインフレしたH×Hでも、未だゴレイヌさん最強説が頻繁に挙がるくらいなのだ。それがノーリスクで行えるとなれば、それをバトルに組み込めないか試してみるのも、まあ色々な創作を読み漁った人間なら無くはない、と言ったところだろう。

 

「………………」

 

しかしこれも、所詮はポケモンの技の一つ。見た目ほど万能でもなく、そもそも毎度毎度カタログスペック通りの動きが出来るはずもない。また、場所を入れ替えたところでどうしようも無い場面も存在する。

 

そして、一番問題なのは、この戦法はあまりにトレーナーへの依存度が高すぎるというもの。位置を交換することによる損得勘定は俯瞰視点にいるトレーナーの存在が必要不可欠であり、絶対的なレベル差をも覆しかねないからこそ、一つのミスが敗北に直結する諸刃の剣なのだ。

 

つまり、何が言いたいかというと。

 

「………………………」

 

(次、ドリルライナーに合わせればさっき仕掛けたくさむすびで殺…じゃなくて、仕留められるけど、やっぱり一発で殺せ…倒せなかったのは痛い。もう迂闊に飛び込んでもこないだろうし、そうなると地道に嬲…削るしかない。

結局は初見殺し、長引くと仇討ち…この戦法も通用しなくなるし、急いで潰、殺──とにかく、何とかしないと……)

 

──この戦法は、間違っても、茹だった頭のまま行って良い戦法ではないのである。

 

「ドサイドン、『ロックブラスト』!」

「キュワワー、『サイドチェンジ』」

 

ドサイドンの右手から放たれた砲撃に合わせ、タイミングよく立ち位置を交換する。それによりキュワワーに迫っていた石礫がそのままドサイドンへの凶刃に変化するも、地面複合かつ高々一発のロクブラではドサイドンの分厚い装甲に阻まれるのでダメージが通らない。

 

「……キュワワー、2歩分前進。10時の方向を向いて待機」

 

知恵熱が出そうな頭を更に回して指示を出す。既に有効打が『くさむすび』しかないことを察しているのか、ドサイドンというポケモンのイメージに似付かわしくない慎重過ぎる立ち回りに段々と苛立ちが募る。

 

「キュワワー、『ドレインキッス』」

 

幾度かの交錯の後、それでもどうにか隙を見て技を当てるも、回収できた体力はせいぜい一発分程度。なまじ一発目で致命傷を与えた分、黄色ゲージを赤にすら出来ない自分に吐き気がする。

 

(………)

 

はっきり言って、この状況は非常にまずいと言わざるを得ない。

 

これまで放たれた20発のうち着弾は3発。しかもそのうち2発は後半10発による物。幸いにもキュワワーは比較的耐久に優れたポケモンなので動きに支障が出ることはないが、自分でも分かるほど勘が鈍ってきている。

 

ダンデさんの方を見れば、傍目にも分かるほど集中しているのが見て取れる。明らかに実力の劣るキュワワーで()()()()()()()()()()()()()のがよほど堪えているのか。あの様子では、おそらく熱中症か何かで物理的に倒れるまで止まることはないだろう。

 

(……仕方ない、か)

 

「キュワワー、『ちょうはつ』」

「なっ……!」

 

腹を括り、4つ目の技を解禁する。トレーナーの方を殺、崩したかったのは山々だが、あの様子では多分おそらく私が先に根負けする。ならば多少のリスクを飲んでもポケモンの方を潰……落ち着け私。いい加減に思考を切り替えろ。これは何のためのバトルなんだ。ノラの犠牲すら、心の奥底では、折り込み済みだったはずでしょう?

 

「──………」

 

……いけない。少し惚けていた。早く動けこの愚図。傷つくのはお前じゃないんだぞ。急げ、急げ。

 

「………っ」

 

疲労で微睡みそうな目を限界まで見開き、唇を噛み締める。まんまと挑発に乗ったドサイドンが放つ……これは《いわなだれ》だろうか。まあ、なんであろうと私のやることに変わりはない。

 

「──キュワワー、()()()()()()

 

その一言は、いつかどこかの誰かのそれと同じ。

 

いわゆる一般的な『ポケモンの技』とは異なる、されど生態を鑑みれば出来て当然というその指示。これこそ、私が彼女を恐れる理由の一つであり、かつてのデータとしてのポケモンしか知らなかった私では、到底思いつかなかったであろう正真正銘の隠し玉である。

 

『キュワ、キュワワ!!』

 

あからさまに奇妙なその指示に、実は特別とか異端とかそういう言葉に憧れを抱くお年頃のキュワワーが嬉しそうに回転する。

 

かと思えば、身に纏っていた花冠だけを残してキュワワーの姿がその場から消える。隠す理由もないので種明かしをしてしまえば、やっていること自体はさっきから使っている『サイドチェンジ』による場所移動である。

 

ただし、その対象は当然ながら先程とは異なる。今更ドサイドンと位置を入れ替えたところで、いい加減効果も薄いだろうしそもそも謎の抵抗によるラグまで発生している。

 

(………)

 

なら、どうやって彼を出し抜くか。言葉にすれば簡単だ。彼の思う、その予想外の行動を取ればいい。しかし当然、それを成すのは容易くない。腐ってもチャンピオン、一度見せた手品如きで、彼を手玉に取れるはずがない。

 

選んだ回答は、彼が知らないことをする。そして私は、彼がキュワワーというポケモンについてあまり詳しくないことを知っている。だから私は、そこを突く。

 

「っ、ドサイドン、後ろだ!」

 

その存在に真っ先に気づいたのは、仕掛け人たる私ではなく、対戦相手であるチャンピオン。これは彼の持つ優れた観察力とは無関係に、立ち位置の関係上必然として訪れたもの。

 

チャンピオンの指し示す先──『後ろ』というよりは『足元』の方が正しいだろうか──その場所にいるのは、先程『いわなだれ』によって流砂に飲み込まれたはずのキュワワー。

 

「ドサイドン──」

「──そこ。『くさむすび』」

 

彼の言葉に反応し、振り返ろうと動かした足を狙って転ばせる。地響きを立ててすっ転ぶドサイドン。特性のおかげで一撃目は耐え切った彼も、流石に嵩んだダメージが重かったのか、この一撃によって戦闘不能となる。

 

(意趣返し……の、つもりは、別になかったけど……)

 

奇しくも互いにトレーナーが文字通りその足を引っ張る形による勝利。非常に苦しい展開だったが、ひとまずこの攻防を制した事実に安堵の息を吐く。

 

はなつみポケモン、キュワワー。一見にして花冠のように思えるこのポケモンだが、実はその本体は花を繋ぐツルと顔の部分だけで、花そのものは後付けのものでしかない。

 

しかしながら、たとえ後付けだろうとも、キュワワーにとって身体を飾るその花は己が半身に等しく、その重みは()()()()と比較して何ら遜色もないモノ。だから、『()()()()()()()()()()()()()()とそれを、『サイドチェンジ』によって交換することも不可能ではなかったというわけだ。

 

これぞ本当の隠し球。ゲームでは活かすことが叶わなかった、言うなればキュワワーの()()を補強するための戦術。どうして特性によって強化される『ギガドレイン』ではなく『くさむすび』をキュワワーの打点としていたのか。それは単にドサイドンに対する最大打点という理由ではなく、そういった意図もあったわけで、

 

「──見事だ、チャレンジャー!」

「──!」

 

突然の呼び掛けに、びくんと私の身体が跳ねる。よもや陰湿極まりないハメ殺しでラス1まで追い込んだ相手から、そんな爽やかな台詞が飛び出てくるとは思わなかったからだ。

 

「君のその力。このガラルの歴史を、この先の未来を染め上げることさえ出来るだろうキョダイな嵐!」

「………!」

「だが、そんな最強のチャレンジャーの強さを引き出した上で!

圧倒的に叩きつぶしてこそ、チャンピオンの強さが際立つというもの!

行くぜ、チャンピオンタイムだ! リザードン!!」

 

凄まじい熱量が私を襲う。それは物理的なものではなく、彼の闘気が齎す錯覚。それはノラの持つ圧倒的な力と同様に、それだけで勝負を決めかねないほど強大な力。

 

「………。っ………」

 

その膨大な熱量に充てられる。今更になって、これまで踏み潰した無数のトレーナーの顔が過ぎる。ノラの力を見てもなお、決して最後まで諦めなかった彼らの顔がチャンピオンに重なる。

 

「………キュワワー、『ドレインキッス』」

 

辛うじて絞り出したその台詞。それはおそらく最善の選択。私が真に勝利を目指すのであれば、ほんの僅かな隙であっても、それを逃さず冷静に機先を制しに動いたこの行動は、誰が見ても満点を下すもの。

 

しかし、忘れてはならないのは。私の戦術が、圧倒的な実力差さえ覆すものだとしても。

 

「リザードン、『ブラストバーン』だ!!」

「な──」

 

それはちょっとした機転で台無しにもなりかねない、敗北と隣り合わせのチキンレースなのである。







ダンデのリザードンのブラストバーンはこの微妙個体のキュワワーに対して火力増強アイテムがあっても74〜89%ほどで確二ですが、ドサイドンのロクブラのダメージを含めると一発で乱数、二発以上で確一です。対戦ありがとうございました。

次回でチャンピオン戦は決着する予定です。

ちなみに感想欄で「ウオノラゴンがもう一匹いるのでは」とか「エラがみ無双だからウオチルドンもいるんじゃ」みたいな感想がありましたが、この作品は作者がふと剣盾の手持ちの状況を確認した時に「なんだこの手持ち酷すぎ草。こんなんで転生とかしたら笑うわ」ってノリで始めた作品なので、リンゴの手持ちは作中で描写されてる3匹だけです。ですので実はもう一匹みたいな展開にはなりません。ご了承ください。
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