エラがみ無双   作:融合好き

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新作でポケモン熱が久々に再燃したので今更ながら投稿


vsムゲンダイナ

 

 

 

ナックルスタジアムが消滅した、と聞いて、先ずは真っ先に己が正気を疑った私を、果たして誰が責められるだろうか。

 

「お昼、食べようかな…」

 

思えば、その日はどこか夢見心地だった。直前に見ていた試合が、あまりに現実離れしていたからだろう。呆然として明らかに様子がおかしい友人を放って、どうして彼との試合が中止になったのか、その疑問さえも抱かずにふらふらと控え室を後にした。

 

それは単純に「あの惨状を見れば分かる」という理由ではなくて、その思考を放棄した、というのが真実だろう。実際、後にフードコートにあった備え付けのテレビで、工事が入る旨のニュースをぼんやりと「あ、そうなんだ」などと他人事のように聞いていたからだ。

 

「………」

 

移動中、及び食事中に、私が何を思っていたのかはわからない。ふと気付いた時にはフードコートにいたようなスカスカ具合で、考えるのが怖いが、そのまま郊外の草むらで微睡()んでても違和感を覚えなかったのではなかろうか。それくらいに私は、自然とその場所で食事を取ることにした。

 

シュートシティは他の街と比べても広大な方ではあるが、日夜ダイマックスポケモンが暴れる仕様上、そのスタジアムは商業施設からポツリと距離を置かれてる。分かりやすく言えば、手近な飲食店はスタジアム内のフードコートくらいしかない。故にこそ、我々を探しに来たソニアが私を見つけるのは容易で、それ故に控え室にいたホップより先にそのニュースを聞いたのは、ある意味では不幸とも言える。

 

即ち、ナックルスタジアムの消滅と、それに伴って上空に現れた謎の黒い嵐の話。加えてそれは恐ろしいことに現在進行形の話題であり、ナックルシティでは今でも怪我人が出てないのが不思議なほどの惨状とのことで、

 

しかし。

 

「………」

(……いや、でも。それを言われてどうしろと……)

 

冷めた、とまでは言わないが、それを聞いた私の反応は何というか微妙なもの。ナックルシティに一切の思い入れが無いとは流石に言わないが、私がナックルシティに抱く感情は達成感とかそんな感じで、既に通り過ぎた門にそこまで未練があるかと言えば、ぶっちゃけそんなにあるはずがない。

 

でも。

 

「そして、ダンデくんがそこに居たって──」

「──!」

 

目を見開く。どこか他人事のような気分が即座に霧散する。確かにナックルシティに対する思い入れはない。だからそこが災害に見舞われようと結局のところ対岸の火事。しかし、そこに知人が巻き込まれているとなれば別である。我ながら現金なことだと思う。

 

(ダンデさんが──なら、直ぐにでも……)

 

いや、待て。落ち着いて。さっきソニアは言ってたじゃないか。「怪我人は出ていない」と。まさか彼女が「行方不明者や死人は怪我人にカウントしていません」みたいな趣味の悪いトンチを利かせるわけはなし、ならばその発言は言葉通りに、本当に犠牲者なんかは出ていないのだろう。

 

「……とりあえず、ホップを連れて来ます」

 

大丈夫、まだ慌てる必要はない。そう認識したはいいものの、しかしそこからの出来事はまさに激動と言っていいものだった。

 

まずは上の空だったホップを引っ叩いて『きつけ』し、スタジアムから出た直後から空全体に立ち込める赤黒い暗雲に驚いて、野生のダイマックスポケモンがあちこちで暴れているのを行き摺りにどうにかこうにか鎮圧。

 

この時点で大概大ごとなのだが実は本番はこれからで、どうもガラル全土でダイマックスが出来るようになっていると発覚してからはキョダイマックスしたアーマーガアでガラルの端から端まで飛び回る羽目になったり、かと思えば突然エネルギーが吸い取られたかのようにダイマックスが使えなくなって上空200メートルから放り出されて死に掛けたり、こんな時分であるのにも関わらず伝説のポケモン関係で悠長にも変な謎解きを強要されたり──

 

「………」

 

かれこれ出発から2時間弱。自分は何をしているのだろうと、道中で何度自問したことか。

 

正直なところ、私はブラックナイトとかダイマックスの秘密だとかそういう話には全くと言っていいほど興味がなく、そんなことに感けてる暇があるなら鍛錬なり図鑑埋めなりを頑張りたいと考える自己的な人間だ。

 

しかし如何だろう。そんな私が、こんな薄情な私が。えも知れぬ不安感から、いつしかそれまでは半ば聞き流していたソニアの英雄伝説とやらに聞き入るように──否、縋るような状態になっていたのは。

 

「………」

 

不安とは即ち予感。かつてそれまで何度か体感した感覚。理屈ではなく『とにかくヤバい』と、本能のような何かが私の中を暴れ続けている。

 

(……覚えがある。この感覚は、きっと。初めて私が()のリザードンを、いや、あのポケモン(ウオノラゴン)と対峙したその時と同じ──)

 

「まどろみの森に……そんなポケモンが……」

 

気付けばどうしてか辿り着いた自宅付近。もはやソニア辺りは当初の目的を半ば忘れてそうである。

 

天を仰ぐ。まだ時間帯は夕方であるのに、不自然に暗い空模様。どこかその色が赤黒く見えるのは、それがただ雲が厚いだけではないという証左か。

 

何かが起きている。それは明らかなのに、その理由が分からない。だからこそ怖い。情報は力、それは絶対の真理。しかし今の私は、その最低限の取っ掛かりすら掴めていない。己の行動すら理解できない。正直言って、不愉快極まりない。

 

「………」

 

それでも。

 

『たくさん外国の本を調べて、ようやく見つけたの……! 伝説のポケモン、ザシアンにザマゼンタ……!』

 

(………)

 

そんな与太話を。有りもしない伝説とやらを。目を輝かせて語る彼女を見て、何も感じなかったかと言えば嘘になる。

 

というより、今の私が彼女に付き従う理由の大半がそれであり、言ってしまえば単純にこれは、私にとって“人付き合い”の範疇のモノでしかないのだろう。

 

しかし、だからといって、その“経験”が無意味とは限らない。ふと付き合いで体験したスポーツにどハマりしてそれに生涯を費やすなど、歴史を見ればありふれた出来事ではある。冷めた私は流石にそこまで何かに熱をあげることはないと思うけど、それでも感じ入るモノがなかったかと言えばそれは否である。

 

私にだって、憧れるものはある。チャンピオンなんてその最たる例だ。ましてポケモンと近しいこの世界、“伝説”などと聞かされて心躍らない者は少ないだろう。

 

ただ問題は、私自身がその数少ない例外の部類であり──それでも私は間違いなく、この体験を得難いモノだと、確かにそう感じていた。

 

 

『ウルォォ────ド!!』

 

 

(………!)

 

やがて、遂に──我々の前に“伝説”が現れる。

 

全体的に蒼の意匠が強い四つ足の獣で、体躯はそれほど大きくはない。いやそれはウールーなんかと比較すれば二回り以上も大きいが、私でも容易く撫でられる位置に頭がある。見た目だけならギャラドス辺りの方がよっぽど強そうに見える。

 

しかし、その風格はギャラドスの何万倍、何億倍にも及ぶ。ただそこに佇んでいるだけで全身が震えるほどの威圧感。否、威圧という表現は適切ではない。そのポケモンに、我らを害する意思はない。荘厳さ──とでも呼べばいいのだろうか。兎にも角にも畏れ多い。

 

(これが、伝説と呼ばれるポケモン──)

 

ただそこに在るだけで、たったそれだけで今現在も怪現象として空を染め上げるあの黒い渦の存在さえも一時的に忘却する。どうしてこのポケモンが我々の前に姿を現したのか、そんな当然の疑問すら吹き飛ばす圧倒的な格の違い。察する。このポケモンの協力があれば、問答無用であの黒い渦をどうにか出来るだろう、と。

 

『ウルォォ───ド……』

「え…?」

 

かと思えば、不意にそのポケモンが姿を消した。次の瞬間には、まるで全てが幻であったかのように其処には何も無く──必然、私は空に渦巻くそれよりも膨大な混乱の渦に叩き込まれることになる。

 

(え? 何、幻覚……? いや、でも、あの存在感は確かに……)

 

しばらく呆然とし、混乱する。何がなんだかわからない。ホップは何か勝手に納得してたけど、私はなんかここ最近ずっと困惑ばかりしてる気がする。そして悲しいかな、そのことはホップに気付かれる様子はなく、勝手に彼の話は進んでいく。……私の理解力が低いのが原因だろうか。

 

(まあ、あんなのがいると分かれば、最悪ガラルが滅びる事態にはならなさそうではあるけど………あれ?)

 

無責任な安堵と、不意に抱いた猛烈な既視感。一足遅くソニアがやって来てホップと何か会話をするが、その内容がまるで入ってこない。

 

拭えない違和感。それでも、と、これまでの道中と同様、流されるように其処にあった盾(勝手に持ってっていいのだろうか)を手に森を後にして、今更のようにナックルシティへと全速力で向かって──

 

 

 

 

 

「何だ、あれ……」

 

 

 

 

──あまりに非常識なその光景に、ホップがそんな声を漏らす。

 

これはホップが直情的だとかそういうのとは無関係に、おそらくそれは我々全員が同じ感情を抱いたことだろう。

 

「手……?」

 

巨大な手が、ガラル上空に浮かんでいる。客観的にはそう見える。

 

しかしそれは本当『手』と呼んでいいものなのか。手と表現するには形状も些か歪ではあるが、何よりそのあまりの大きさにおったまげる。

 

とぐろを巻いたナニカに手が付いている、とでも言えばいいのだろうか。なにせソレが手の形状をしているのはその先端だけであって、私にはその全容は距離の関係で輪郭さえ把握し切れない。しかしそれは、尚且つ先端も先端である手首のその先、爪先一つでさえ、ガラルが空の覇者たるアーマーガアの体躯を悠に上回る大きさを誇っている。

 

「──」

 

これが果たして本当にポケモンなのか。私達の頭がおかしくなっただけではないのかと。けれども現実としてその脅威はここに在り、そしてアレが仮に幻覚だったとして、それはそれで十分に異常事態、対処案件であろう。

 

 

「! あれは──」

 

 

故に。

 

()()の眼前──もはや比較すると矮小とも言えるような巨塔の一つ。察するに崩れ落ちたというナックルスタジアムの()()の上だろうか。『あまごい』の影響なのか、そこだけ不自然に雨の降り注ぐ建物の上に佇む異形のポケモンは──まるでアレに()()するかのようで、改めて客観的に見ると、あまりに外観がチグハグで不恰好な姿に、しかし私は何故か息を呑む。

 

よくよく見れば、そのポケモンの周辺には例の少女もいて、更にこの塔の管理人であるキバナジムリーダー及びそのポケモンだろうヌメルゴンの姿もある。けれど周囲の残骸や空の薬品類などの状況を鑑みれば、彼女らが塔の崩壊に巻き込まれていないのが奇跡のような惨状であり、いまいち事情こそ掴めないが、彼女らが危険な状況に陥っているのはすぐさま見てとれた。

 

「マズっ、助け──」

「ノラ」

 

早く助けないと。そんな当たり前の結論は、直後に耳に届いたその鋭い一言に遮られる。

 

「ッ──」

 

ただの一言。たったそれだけで、背筋から全身に戦慄が走る。声量の割に不思議と通る声は、このような非常識な状況下にあってなお、かつて彼女と対峙したその時と同様の鋭さを有している。

 

そして、

 

『■■■■ ──!!』

 

異形が。例のポケモンが咆哮する。今やガラル全土の話題を一手に担う、あまりに見慣れた異形の姿。少女の倍近く、2メートルはあるだろうその巨体は、しかし対面する『手』と比較するとあまりに頼りなく、その指先の、おそらくは数百分の一にしか満たない程度でしかない。

 

「何、を──」

 

アレは()()だ。何をしようと無駄だ。そんな意図の込められたソニアの呟きは、誰のもとにも届かない。いや、仮に届いたとて、状況的に彼女の行動を止めることなど出来なかっただろう。

 

しかし、忘れてはならない。あのポケモンは、ウオノラゴンと呼ばれる太古の覇者は。伝承さえ曖昧な“伝説”よりも遥かに確実な方法で、既にここガラルに“最強”の証を刻んでいることを──

 

「……ノラえもん」

 

再度、少女が相棒の名前を呼ぶ。

 

既に、耳に慣れ親しんだ次の台詞は──彼女の唇から続けて紡がれた『その技』の名前は。

 

もはや『その先』の結末を断ずるが如き鋭さで、酷く苛烈に、この上なく劇的なものであった。

 

 

 

「『エラがみ』」

 

 

 

 

──以上が、ナックルシティを中心とした騒動……『大災厄(ブラックナイト)』の全容……私が体験した、事の顛末の全てである。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

(あれに、勝つ。どうやったら勝てる……?)

 

真昼間から、ホテルのベッドに潜り込んで思考する。

 

つい先日ガラル全土を襲った災害。ブラックナイトと呼ばれた伝説のポケモン、ムゲンダイナの残した爪痕は大きく、地方各地、特に半壊したナックルシティの被害は甚大で、管理者であるキバナさんはあれから丸一日が経過した深夜の今まさにこの瞬間にも復旧に力を入れているらしい。

 

対する今の私はどうだ。たった1日。されど1日。それでも私は、これまで決して欠かさず積み重ねてきた訓練も、勝率を積み上げるための思考さえも放棄して、こうしてホテルの一室で布団に包まり悩み続けている。

 

それはどうしてなのか。もはや言う必要もないだろう。延期されたとはいえ、やがて必ず訪れる大会に際し、如何にして例のポケモン(ウオノラゴン)に勝つか。そればかりを、それだけを延々と考え続けている。

 

『エラがみ』

 

脳内にリフレインする、たった一つのわざの名前。如何に戦闘用アイテム(ドーピング)ありきの結果だとして、あの巨体を一撃で屠った規格外の火力は、未だ網膜に鮮烈に焼き付いて離れない。

 

冷静になって考えるなら、当時の状況を鑑みるにあの結果は周辺に転がっていた戦闘用アイテム(ドーピング)やキバナさんのサポートが前提。ならば私たちが戦うセミファイナルで同じことはできないはず──そんなこと、理性ではそんなこと分かっている。分かっているつもりでいる。だけど身体が言う事を聞かない。今や懐かしくもあるかつてのメッソン(レオン)のように、いつまでもいつまでも内心が落ち着かない。

 

 

「…………」

 

 

──“才能がある”と、言われ続けて来た。

 

友人から。母から。博士から。知人から。敵対者(ライバル)から。この地方における頂点に位置する人物に至るまで。私を称賛する声は数え上げればキリが無く、また私自身既にそのことを疑わなかった。

 

事実、おそらく私には、彼らがそう認めるだけの才能があったのだろう。思えば幼少期から特に誰に教わるでもなく当然のように無数のポケモンに懐かれて──いつしか私は必然に、これまた当然の流れとして、やがてそれが“当たり前じゃない”ことなのだと自覚した。

 

『レオン、「ねらいうち」!』

 

わざ名を発すると、その意図を正確に読み取ったインテレオンが、その眼光以上に鋭い水流で敵の急所を見事に射抜く。

 

かつて私は、これを当然のことだと思っていた。無論、そうするように伝えたのだから、ポケモンが言葉通りに動くと認識するのは間違いというわけでもない。けれど私も、数ヶ月も新人トレーナーなんてモノをやっていると、ポケモンが言葉通りに、指示通りにわざを正確に目標に“当てて”、それで初めて一人前だなんて話をたまに耳にすることがある。

 

それが一人前だと。それで一人前であると。……そう、()()()()のことで、一人前なのだと聞いて──たった一度。一度だけ、私はその事実に酷く失望を覚えた。

 

『やったね、レオン!』

 

だってそんなの、“出来ない方が可笑しい”じゃないか。トレーナーの存在はあくまで道標で、『当てる』ことは究極的にはポケモンの役目だ。そして、ポケモンは極一部を除いて基本的に人と同レベルかそれ以上の知能を有している。故に褒めるべくはポケモンであって、そこにトレーナーの意思が介入する余地はない。

 

尤も、メッソンやインテレオン、あるいはこの手の話題でよく挙げられるバンギラスのような、気性が荒い・性格が気難しいポケモンをフィールドに立たせること自体が難題──という話であれば話は別だが、それは一人前がどうこうより“トレーナーとしての最低限”云々を問う問題であって、そこに技術的な要素を挟む余地はない。だから私は、本当の才能とはきっと()()()()()()を言うのだと、彼女の戦いを見て思い知ったのだ。

 

もはや笑い話だ。なんて事もない、かつて起きた伝説のポケモンによる災害──ブラックナイトを治めるのに、伝説のポケモンなんて必要なかった。微かな手掛かりを頼りにガラル全土を駆けずり回って、凄そうなポケモンと意味ありげな邂逅をして、それっぽい道具を手にしてまで、そうして出来たことがただの見学とは、それは無様に逃げ惑っていた人々と一体何が違うというのか。

 

伝説なんて言葉遊び。極端な話、ダンデさんの連勝記録だってある種一つの“伝説”だ。しかし彼は強者ではあるものの、その来歴は私も知るように平々凡々極まりなく、“本物”はそのような肩書に縛られることもなく、故に例のあの少女もまた、冠する称号はあくまで私と同じ、『新人トレーナー』の一人でしかないのである。

 

(勝てない……)

 

ごちゃごちゃと考えても結局のところ、最後に頭に残るのはこの一言。才能とか伝説とか、そんなもの自分に関係無ければ他人事だ。しかし、事実としてその伝説を凌駕した圧倒的強者は確かに実在し、よりにもよってその人物は、その実力が健在なままに、他でもないこの私の前に、避けては通れない強大な壁として立ち塞がっている。

 

震えが止まらない。あるいは止められない己を自覚する。そも、無謀な挑戦だったのだ。ついこの前までポケモンを一匹も有していなかった()()()()()()()が、どうして彼女に勝てると思ったのか──

 

「うん……?」

 

瞬間、ふと何かが引っ掛かった。いや、そんなの何もない。こんなのは単なる言葉遊びだ。確かに私も新人トレーナーだけど、それで同じはあまりに烏滸がましいのでは──

 

(──いや、そうじゃない、か)

 

新人という肩書きに、見合うも相応しいもクソもない。どちらかと言うと蔑称……とまでは流石に行かないだろうが、少なくともその響きは多分に侮られる響きを含むもので、誇れるものでもまして恐れるものでも何でもない。

 

肩書きだけを見て、それを比べて、それに何の意味があるのだろう。

 

「動か、ないと……」

 

だからどうした。それも分かっている。けれど、そもそも呼び名がどうこうなんて考えても何も始まらない。

 

咄嗟に飛び起き、ジムチャレンジのユニフォームに着替える。時間的には深夜故に外出するつもりはないが、気持ちを切り替える意味でもこの格好は丁度いい。

 

「………先ずは情報収集かな」

 

思考は一択。駆け足で突き進んだジムチャレンジ。幸か不幸か、休息は十分過ぎるくらい取れた。

 

躓いた溝は未だ先が見えないほどに大きいけれど、踏み出さなければ何も始まらないのだから。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「あれ……?」

 

それに気づいたのは、もはや何度目かも分からない試合映像を見返していた時だった。

 

対戦相手はルリナジムリーダー。彼女はこのジムチャレンジにおいてヤローさんと並び、例の少女と公式戦で2度対戦している人物でもある。試合自体はどちらも少女の圧勝であり、例の如くあらゆる全てをあの『エラがみ』だけで突破しているため見直すだけで辟易とするが、しかし意外なことに2戦目の彼女達の戦いは、理由こそ明白であれダンデさんとの死闘より試合時間が長い。

 

今回疑問に思ったのもそれ、というか、ふとあることが引っ掛かったのだ。そもそも当たり前のことで、しかし無視してはならない当然のことに。

 

()()()()()()()()()()()()……」

 

それは当然過ぎて疑問にすら思わないこと。舞台が違う。気迫が違う。そもそも手持ちの数や質すらまるで異なる。だから相応に対応するのは必然で、誰もそれに異を唱えない。けれどよくよく考えてみると、これは本来ならおかしなことなのではなかろうか?

 

(だって──)

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それは残酷で純然たる事実。あのウオノラゴンと呼ばれるポケモンは全体的にスペックがズバ抜けている。チャンピオンが有するゴリランダーの『キョダイコランダ』を無防備な状態で耐え退けた頑強さがあれば、あの場面でわざわざドヒドイデとの心臓に悪い駆け引きなどせずとも、その毒が全身に回る前に試合を畳み掛けることが可能だったのは誰の目にも明白で。

 

「………」

 

私も今更、そこいらでふわふわ浮かんでる程度(レベル)のワタシラガを相手に、タイプ相性云々を考えてわざわざレオン(エース)を退けたりはしない。それは慎重さを超えた手間でしかなく、あくまでスペックでのゴリ押しが効くのなら、それが一番楽な道なのだから。

 

でも、少女はそうはしなかった。とはいえ、流石に私もレオン一匹だけでフルメンバーを相手にするとなると、スクールの初心者が相手でも状態異常は受けないよう最大限警戒するかもしれない。

 

何にせよ、攻略の『てだすけ』くらいにはなるだろう。他でもないあのポケモンの持ち主が、それが警戒をするに足るのだと示しているのだから。

 

 

──そして、もう一つ。

 

 

「ウオノラゴン、か……」

 

かせきポケモン、ウオノラゴン。

 

タイプはみず・ドラゴンの複合。有する特性は頑丈顎。巨大な尾先の先端に魚の頭をそのままま乗っけたような異様な姿をしており、あの見た目で時速60キロを越えるスピードを出せるだの、明らかに陸生なのに水中でしか呼吸出来ないだのと冗談みたいなデマさえ今や出回っている今期一番ホットなポケモンだ。みずタイプだけど。……いやそういう話でもないけど。

 

冗談はさておき、今やガラルで知らない人がいないポケモン。しかしながら、やはりというかジムチャレンジ序盤とトーナメントの時とではこれまた明らかに異なることまた一つある。それは、

 

()()()()()()()()……」

 

カブさんの時までは、正しく蹂躙だった。オニオンくんでようやくわざを繰り出せて、メロンさんやネズさんは成果はさておき、やりたい事を貫き通した。ダンデさんに至っては、ついにあのポケモンを打破せしめた──

 

(………)

 

無敗のチャンピオン。無敵のダンデ──ほんの少し前まで実しやかに囁かれていた彼の評価だが、あの一戦によりその価値観全体が揺るがされた。

 

しかし同時に、例のポケモンに関する評価も大幅に塗り替えられた。加えて先のブラックナイトでそのスケールが補完された。即ち、死力を尽くしたダンデさんと同等か一回りは上で、けれど素の状態では伝説に語られる災害には流石に及ばない程度。そんなポケモン。

 

(もし──)

 

もし、もしも。そう、もしも最初から──それこそジムチャレンジが始まった当初から、あのポケモンの、ウオノラゴンの真の実力がガラルに知れ渡っていたとしたら、何かどこかで結果が変わっていたのだろうか?

 

意味のない過程、既に無意味と化した考察だ。人に過去は変えることは叶わず、起こったことは覆せない。かの伝説に語られる時間を操るポケモンが居たらどうなのか。そんな仮定はどこまでも不毛で、己が惨めさを誤魔化すための自慰行為でしかない。

 

けれど思わずにはいられないのだ。そんなにもジムチャレンジは容易いものだったか? それほどに彼らは弱かったのか? そこまで彼らは試練足り得なかったのか? 違う、そんなはずはない。運が悪かった──とも違う、まず間違いなく、あの少女はそれを成せるだけの、十分過ぎる力を有していた。

 

しかし、しかしだ。あくまでそれを助成したのは──

 

「………よし」

 

見切り発車感は否めないが、とりあえず方針が一つ固まった。その可能性に縋るしかない、言ってしまえばそれだけだが、このまま無為に時間を費やすよりは断然良いに決まってる。

 

そのまま立ち上が──ろうとして止める。空は白んできたが未だ日も昇っていない。一応、大きめのポケモンセンターは緊急外来用に深夜も対応しているけれど、不要不急な用件でもないのに日頃お世話になりっぱなしなジョーイさんの手を煩わせるのは流石に気が引ける。

 

ならばと私はスマホロトムを呼び出すと、図鑑機能を画面に展開する。流れるまま流されるままに突き進んできた私が、それでも地道に積み上げてきたこの旅の軌跡の一つがコレだ。

 

現時点でおよそ300匹分のポケモンのデータ。私はこの手の作業の平均値とかをまるで知らないけれど、たかだか半年の成果としては相当のモノであると我ながら自負している。

 

とはいえ、この中に記されているのはそのポケモンの生態や嗜好といった一般的な内容が主で、その中で僅かにでも“戦闘”に役立ちそうな情報を有しているのは半分にも満たない。その中でも更に私の所見、即ち実戦に担ぎ出したメンバーともなると更にその半分以下に絞られる。

 

それでも、例え数値上は4分の1だとしても、母数が大きければそれは結構な数になる。いずれはあのブラックナイトの元となったポケモンも──そういえば、あのポケモンは今どこにいるのだろう? というか本当に今更だが、図鑑完成を目指す目的があったとはいえ、ジムチャレンジ中にこれだけのポケモンを実戦レベルまで鍛え上げるとか、実は私って結構凄いんじゃないだろうか。

 

『……もし、もっと貴女に時間があったら、結果は変わっていたかもしれない』

 

いつか少女が呟いた言葉。それは如何なる心境で紡がれたものなのか。

 

はっきり言って、あの時の私は惨敗だった。本当に無様に、実は当時ちょっと思っていた「色々対策を練ったし、一撃くらいならどうにかなるかな?」なんて甘い思惑ごと、例の『エラがみ』によって悉く粉砕された。

 

けれど、それでも少女はそう言い放った。あの時は何も分からなかった。いや、今でも真意は分からない。でも、その手の“才能”に関して、もはや少女を疑うものはガラルにいない。

 

だから、こうは考えられないだろうか。時間さえあれば、例の少女さえ凌駕しかねない素質。即ち、私の持つ“才能”とは──

 

「……とりあえず。やるだけやってみよう」

 

決意を胸に、居ても立っても居られずにホテルから夜の街に飛び出す。先程まで電子機器の画面を凝視していたせいか、僅かに白んできた空を照らす陽の光が、今はより一層輝いて見えた。

 

 

 

…………………

 

 

…………

 

 

………

 

 

 

「……さて、どうしようかな」

 

心機一転、意気揚々と街を飛び出した私だが、そこから数時間もしないうちに行き詰まってしまい思わずこう呟く。

 

しかし、まあ。これも当然だろう。そも何かしらの解決策があるのなら、もうとっくにそれを試している。極端な話、今の心境だって突き詰めれば現実逃避に近いものだ。あれこれちょっと考えた程度でそうそう強くなどなれるものか。

 

とはいえ、たかだか数時間の迷走ではあるが、何となく方向性は間違っていないように感じる。何もかも曖昧で、まるで雲を掴むような道のり。でも、“伝説”を相手にするのなら闇雲なくらいが相応しい。どうせ(しるべ)も何もない。なら、進む距離は少しでも多ければ多いほどに良い。

 

「一週間で6匹……5匹。いや、4匹」

 

今から新たに6匹の戦力を、否、レオンを除いて5匹ものポケモン戦力足り得るよう準備する──なんだ、余裕過ぎて欠伸が出る。なら、もっと重要なのは、選出するメンバーの中身について。

 

まずレオンは外せないだろう。実力的にも心情的にも。そして予てより試したかった2匹についても、実のところもう既に最終段階まで仕上げている。こちらも決定。となると残るは3匹──候補はそれなりに居るが、可能であればそれ以上を目指したい。

 

具体的には、例のウオノラゴン同様に、なるべくインパクトが強いポケモンが良い。度肝を抜く、までは行かないにせよ、多少なりとも困惑してくれれば取れる手段が格段に増える。

 

(と、言っても……)

 

言うは易し。全ては机上論。そう簡単に出来るようならば苦労しない。

 

初手からゴリランダーを出していれば──そんな考察は穴が空くほど見た。勝負とは得てしてこう言うもの。チャンピオンカップはトーナメント戦である以上、どうしても常勝という言葉からは離れがちになる。

 

故にこそ、そんな試合形式において10年もの間無敗と呼ばれていたダンデさんの異質さが際立つのだが、今回の相手はその彼すら打破した化け物だ。ただでさえ二度見の化身みたいな凄まじいポケモンを相棒として従えている少女を、そんな付け焼き刃でどうにかできるのだろうか。

 

(………いや、そうじゃない──)

 

動揺を誘うのは、あくまでどうにもならなかった場合のサブプラン。結局は実力で勝らなければ一時の硬直など一手で容易くひっくり返される。これまでの少女の試合を見る限り、彼女はその手の戦略眼が相当に高い。ざっくりとネズさんやメロンさんに匹敵、あるいは凌駕しているのだろうか? あくまで暫定だが、ひとまず互角程度にはあると見て良いだろう。

 

対する私はどうだ。少なくとも、今回のトーナメントに関してはレオン一匹の実力に頼ったゴリ押し力押しの極み。もちろん、レオンの実力(レベル)は例のウオノラゴンには遠く及ばない。当然、これは単なる少女の猿真似ではなく、私なりに相応の理由があってのことだ。具体的には、他のメンバーに関する情報を少しでも減らすため。

 

自慢じゃないが、私のトレーナーとしておそらく最も優れる点は、その統率力にあると思っている。指導力、と言い換えても良いだろう──どんなポケモンも、きっと他のトレーナーからしたら絶望するほどの速度で、最低限戦闘に必要な力を身に付けさせる能力。

 

それはブリーダーを専門にしていれば、間違いなく大成するであろうことが確信できるほどの才能。方向性は異なれど、同じく()()()という括りで見れば、それこそ例の少女と渡り合えるほどに。

 

「……そういえば」

 

ホップは……どうしているのだろう。尊敬する兄が、如何に新鋭のトレーナーとはいえ、誰とも知らない少女に敗れた。兄を人生の目標にしていた彼が、どれほどのショックを受けたのかは想像に難くない。実際、あの試合以降のホップはどこか様子がおかしかった。流石にあのブラックナイトの最中ではそれどころではなかったようだが、その騒動が治まった直後、特に何か言うでもなくフェードアウトするなどと、今にして思えばとても彼らしくない。

 

何か私からも……いや、それはやめておくべきか。ブラックナイトは状況が状況故にお互い協力してガラルを駆け巡ったが、トーナメントが終わるまで彼と私との馴れ合いは厳禁だ。私とて、下手に彼の事情を知って指示が鈍るようなことはしたくない。

 

「………」

 

駄目だ。考えていると思考がどんどん深みにハマる。ブラックナイトを解決できなかった自分が、だとか、そんなの考えても仕方ないことなのに。

 

「新しい発想──どこか、遠くに……」

 

ふと、ごちゃまぜになった思考の中からそんな発想が迷び出る。突飛なようなそうでもないような。兎にも角にも新しいもの、と考えて、それから彼女の経歴を思い出して、直近に彼女が何をしていたのかを思い出して、とかそんな感じ。

 

私が欲するモノ。求めるモノ。必要なモノは、きっと今のガラルには存在しない。それ故のある種単純な思考──そんなのでいいのだろうか。いや考えるな。そこまでしなければ、少なくとも今のままでは逆立ちしても彼女には敵わない。新しい出会い。新しい冒険。新しい発想──私の持つ“才能”を最大限に活かすなら、ひたすら貪欲に“其れ”を取り込んでいくのが()()()()

 

時間。時間──なるほど確かに、私には一番必要なのはそれかもしれない。手札の数がそのまま力量に直結するのであれば、私のようなトレーナーには、積み重ねこそが未知の脅威になり得る。

 

貪欲に、強欲に。ありとあらゆるものを使って勝利への道筋を掴む。私にはそれができる。私だけがそれを成せる。いざとなったら次もその次もあるわけで、ならば一度くらい、最初くらいは、ガラにもなく必死に真剣に。やれるだけ頑張ってみるのも悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 








ムゲンダイナのムゲンダイマックスはとんでもない種族値をしていますが、攻撃6段階上昇雨ハチマキエラがみであれば、147〜174%ほどのダメージで確定一発です。対戦ありがとうございました。
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