エラがみ無双   作:融合好き

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だいぶ無茶苦茶やってるけど、主人公ならいいかなって…


vsキュワワー

 

 

事情聴取に関しては、キバナジムリーダーが随伴していたこともあってか、本当に最低限のことだけで抜けることができた。

 

とはいえ、言ってしまえば私がやったことは「野生のポケモン(ムゲンダイナ)を捕まえた」というだけなので、いずれにしろ然程時間を取られることはなかっただろう。ナックルシティが壊滅的な被害を受けたことでキバナジムリーダーは今もてんやわんやだそうなのだが、私は次の試合が控えていることに加え、他でもないキバナジムリーダー本人から「お前に手伝えることはねーよ」とマジレスされてしまい、まあ確かにその通りなので、その言葉に甘えさせてもらってるのが現状である。

 

時間を無駄にした、とは思わない。むしろ胸の支えが取れたというか、積年の悩みが解消されてとても爽やかな気分だ。なんだかんだとブラックナイトの案件については私もずっと気掛かりであった。なにせ後の世にまで伝説として語り継がれる災厄だ。全てがゲームの通りに行く、などと楽観視するわけにはいかず、アニメや映画における伝説のポケモンの出鱈目っぷりを鑑みれば、どんなイレギュラーが襲ってくるのかと実のところ気が気でなかったのだ。

 

だから、というのか。事情聴取からも解放されて、全てが終わったのだと改めて認識した時、不覚にも私は近くの公園にてそのまま熟睡してしまっていた。それは側から見れば異様な光景だっただろう──ノラを先頭に騎馬を見立て、その後ろをピッタリと浮遊するジバコイルに腰掛けた、キュワワー(実物)の冠を被るそこそこ名が知れた少女が、うつらうつらと船を漕ぎながら街中をスィーっとゆっくり移動しているのだから。

 

しかも野生のポケモンもノラがよほど怖かったのか、ワイルドエリアをほぼ素通りして、気づいた時にはブラッシータウンに居てびっくり仰天した。いやどんだけ油断してたんだ私。ノラもノラではしゃぎ過ぎ。そんなに散歩が嬉しかったの? 確かに最近散歩どころじゃなかったけど。

 

まあ別にタクシー無料だからいいか……と、そんなお馬鹿な理由で見慣れない(ゲームならともかく、ジムもなくターフタウン出身の私にブラッシータウンは縁が無かった)街の中央で寝ぼけ眼を擦っていた私なのだが、そこでふと視線の先に、ある種信じ難い光景が舞い降りて目が冴える。

 

「あっ……」

「え?」

 

それは見覚えのある顔。これから登山にでも向かうつもりなのか、妙にゴテゴテした仰々しい服装に身を包んでいるものの、その整った顔の上に乗っている緑のベレー帽は忘れられるはずもない。

 

登録名をユウリ。現在トレーナーランキング暫定7位の超大型新人が一人にして、ゲーム本編において“主人公”であった女性。まあこのランキングは私がチャンピオンであるダンデさんを倒したことによる影響が大きいのだが、彼女に限ればその評価が過剰だとはとても思えない。

 

「…………」

「…………」

 

しばらく無言で見つめ合う。何故こんなところに、とは多分お互いに思ってる。というか私自身がどうしてこんなところにいるのか分からないくらいなのに、そんな場所にユウリ選手がいる理由がもっと分からない。里帰りだろうか。いやでもなんでこんな中途半端なところに?

 

「その……」

「──おめでとうございます」

 

私が言葉を選んでいると、ちょうどそのタイミングで彼女から声を掛けられる。賛辞から入り社交辞令にちょっとした挨拶と、露骨にちょっと距離を感じる内容。以前ラテラルタウンで出会った時はもっとぐいぐい来る人だったと思うのだが、どうも短い期間で相当に心境の変化があったらしい。

 

 

というのも、ある意味では当然とも言えるだろう。まず大前提として、ポケモン本編では基本的に“チャンピオンになる”ことをひとまずの区切りとしている。図鑑云々は難易度からあくまでやり込み要素でしかなく、大多数のプレイヤーから見た場合、ゲームクリアとは即ちチャンピオンのこと。

 

──それを私は、一足先に達成してしまった。それもおそらくは、小さい頃から憧れだった近所の最強パーフェクトイケメンお兄ちゃんをよく分からない怪獣で踏み躙って。彼女も彼女で年頃の少女、彼に対して淡い感情なりを有していたと考えると、その心中は察するに余りある。

 

「その、どうしてここに……?」

 

お前が言うな、と突っ込まれることは百も承知で、とりあえず真っ先に気になったことを問いかける。崩壊したスタジアムの都合で確かにそれなりに時間は空いているが、それにしたってこの土壇場で。

 

「──勧められて。カンムリ雪原、という所に向かおうと」

「かんむりせつげん……?」

 

かんむり雪原……カンムリ雪原……冠の雪原???

 

うわやっばいスゴイ聞き覚えある。前世では終ぞプレイすることが叶わなかったエキスパンションパスの第二弾。確かに海を隔てた先にそれっぽい地名はあるなと前々から気になってはいたのだが、まさか今になってそれが聞ける日が来るとは思わなかった。

 

「……えっと」

「貴女に勝つために、何でもするって決めたので」

 

ん? 今何でもって──じゃなくて、

 

(冠の雪原に向かう……?)

 

え、今? 今から行くの? 旅行に? 鎧の孤島と同等かそれ以上のボリュームと考えたら、いくら時間が空いたからってそれは厳しくないですかね主人公さん。そして偶然とはいえそんな光景を見せつけられた私はどうすれば。

 

思わず彼女の顔を見るも、その瞳に揺らぎはなく、強い決意で満ち溢れている。以前の勝負では間違いなく無かった気迫。理由も何となく察せるが、気付かないうちにここまで彼女を追い詰めてしまっていたことを誇ればいいのか、あるいはそこまで心挫かれて諦めない彼女に慄けばいいのか。

 

「…………」

 

冠の雪原。ぶっちゃけすっごく気になるし正直ついて行きたい。でも流石にリベンジに燃える彼女についていくほど厚顔にはなれない……私も私で、トーナメント再開までに仕上げておきたいこともあるし。

 

そんなこんなでお互いに軽く戦線布告?っぽいことだけをして、その背中を見送る。トーナメント再開までおよそ二週間。その間に彼女がどれだけ成長するのかは分からないが、きっと強敵として立ち塞がるだろう。

 

(でも、ヨロイ島で時間が掛かった理由は修行がメインだからってのもあるし……)

 

あの時、私(サイトウさん)が最後のセイボリーさん戦までにかかった時間にしておよそ三週間。本格的にダクマを譲り受けたサイトウさんに至ってはあの後更に追加で2ヶ月以上は島で研鑽を積んでいたと聞く。雪山となると移動時間だけで軽くひと月くらい潰れそうな気はするのだが、この数日で起きたムゲンダイナ関係のイベントを鑑みるに、出来なくはない……のだろうか?

 

少しだけ思考を巡らせて、つい先程、咄嗟に懐へ仕舞い込んだとある物体を弄ぶ。

 

(……結局。渡せなかったな、これ)

 

以前、道場で貰った“けいけんおまもり”を握りしめて、妙にみみっちい自分が少しだけ嫌になる。

 

自分には既に不要のモノ。そして今の彼女が何よりも欲しがっているだろうモノ。そもそも効果があるのかすら曖昧なモノ。どうせなら押し付けて仕舞えば、この出会いも彼女を彩る冒険(イベント)の一つになったのだろうに。

 

「…………」

 

おまもりを片すついでにボールを一つポーチから取り出し、天高く放る。中から飛び出したのは、先程定食屋に寄った際に仕舞っていた我が相棒ウオノラゴン──ではなく。ようやく違和感にも少しだけ慣れて来た、進化した我が子。コイルことジバコイル。

 

「改めて、大きくなったわね……」

 

ターフタウンと育て屋は目と鼻の先。当然ながら、私も過去に一時的に育て屋にこの子を預けたり、逆に生まれたばかりのポケモンをお借りしてみたりと、考え得る限りで色々と試行錯誤もした。

 

正直なところ、今も結局どうしてこの子が急成長を果たしたのかはよく分かっていない。それほどこの子とサイトウさんとの相性が良かったのか。ならば彼女にこの子を譲ることまで考えて──けれど。もはや私の貧弱な体格では支え切れないこの巨体で、それでも変わらずに慕ってくれる姿を見るとどうしてもそんな気は起きず、

 

(まあ、私の体格は偏食のせいでもあるけど……)

 

今も時々ふと意識すると反射的に戻してしまいそうになることもあるが、これでも食生活の改善については努力しているのだ。だからきっとこれからはぐんと成長して、それこそユウリ選手にも負けないくらいグラマラスな身体に成長すると信じてる(幼少期の食事が成長に影響するとかそんな戯言は知らない)。

 

話を戻そう。なにはともあれ結果として、確かにこの子は成長した姿で此処にいる。ならば私のするべきことは。いつかのように、かつてのように。あるいはそれがお前の宿命と言わんばかりに。限られたリソースを、極限まで引き上げることだけ。

 

「──じゃあ、まずはワイルドエリアの踏破から始めましょうか」

 

何もかもが想定外の状況。私という異物もそうだし、主人公という未知も同様。しかし不思議と、高揚する心を抑えられない自分がいる。

 

私のポケモンバトルは、良くも悪くも最初から完成されていた。感覚としては、レンタルポケモンを扱う感覚に近いだろうか。持てる札、使える手段。限られた範囲の全てを用いて、あらゆる“想定外”に先読みし延々と穴を埋める作業。

 

先日ダンデさんが行った“先攻イバンみちづれ大作戦(仮)”なんかも、その手の施設では稀によくある爪零度のように、とうの昔に考慮していたパターンの一つだった。というか、ノラを倒し得る可能性がある技については、アレに限らずその対策をこれでもかと仕込んでいたりもする。(試す機会に乏しいため大半は机上の空論に等しかったが)

 

とはいえ用意した万の策も、やはり一戦の実戦に勝るものではなく、特にこの子に限っては本気で試合に出すことになるとは思っていなかったので、まだまだ依然としてこれでもかと、少し考えただけでも磨けるところは沢山ある。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

新たに鞄から出した研磨布でひとり、光沢でピカピカになるまでコイルを磨きながら、私は独りほくそ笑む。

 

結局、私もまた多くのトレーナーと同様に、どうしようもなくポケモンバトルに魅了されているのだろう。縛りプレイもまた一興。かつての私も、バトルファクトリー復活を願う有象無象の一人だった。……まあ、流石に人生を賭けてまでやることになるのは“想定外”だったけど。

 

──とはいえ、“想定外”が必ずしも悪いことではない。ゲームだから出来たことも、現実だと出来ないこともある。またその逆も然りで、サイドチェンジに関するあれこれも、私のそういった検証の一つだった。

 

流石にレベル1のままでは火力的に厳しくても、これだけ成長したならばどうとでもなる。あまり時間はないけれど、また一つ一つ粗を潰して、最終的にはキュワワーと同じように、()()()()()()()()()()()には仕上げたい。

 

(──間に合うかどうかは……まあ、私のひらめき次第ね)

 

前世でも、動画サイトやら何やらでレベル1での攻略なんてありふれていた。ならばある程度ゲームに則した世界で、あるいはゲームと異なる手段を使えるこの世界で、たかだか倍程度の差に何を慄くことがあるというのか。

 

頑張れば絶対にできる。最後は気持ちの問題だ──みたいなことを前世で言っていたのは誰だったか。まあ、そんななけなしのアドバンテージすら忘れてしまわないうちに、私は私の出来ることをしよう。

 

 

 

……………………………………

 

 

 

…………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

そうして、あれよあれよと時間は過ぎ──

 

「──よろしくお願いします」

 

大歓声が響く中、さほど声を張り上げているとは言えないのに、それでもそんな言葉がいやに突き刺さる。

 

彼女にどんなドラマがあったのか。それで何が変わったのか。ホップ選手との戦いで何を思ったのか。それらの内容については計り知れない。ただ、間違いなく言えることは、彼女がここにいる事実──つまり、彼女は私を、ノラを殺し得る“何か”を有しているということ。

 

ならばこそ、油断なんて出来ようもない。流石にカケラ連打によるゾンビ戦法に関してはゲームとルールが異なるので考慮していないが、それくらい突拍子もない戦術も事によってはあり得るのが、この理不尽の押し付け合い(ポケモンバトル)という競技なのだから。

 

「……来て、ノラ!」

 

故に、私の初手はノラ一択だと決めている。ポケモンバトルは才能が全て──奇策で多少のカバーは出来ても、結局はレベルが高い方が強い。どうもレベル補正も割と働いているようで、どれくらい正確かはわからないが、となるとレベル100のノラがレベル80のポケモンに放つ攻撃は無条件で1.5倍もの補正が掛かる事になる。素早さなんて言うに及ばず、だ。

 

「お願い、エレちゃん!」

 

ならば。それを覆すとなると、それこそ()()()()()()()()()でもないと──

 

目の前の少女がボールを開くと、そこから全身で『僕はでんきタイプです!』と主張しているようなポケモンが現れる。

 

“……じじ、じじじ……”

 

擦過音のような鳴き声を放つ、電球に束ねた雷光で手足を拵えたようなポケモン。見た目だけならロトムDXみたいな感じで独特ながらかなり愛らしいデザインをしているが、時折周囲へ爆ぜる紫電と()()()()()()()()()()がその印象を不気味なモノとしている。

 

(………???)

 

客観的な説明からも分かるように、そのポケモンは、私にも見覚えがない姿だった。いや、私もこんな世界に来たからには、この世界では日々新種のポケモンが発見されているのも知ってるし、何ならライチュウがメガシンカするという風の噂を聞いておったまげたりもした。

 

けれど、それでも。

 

「………まさか」

 

(レジ系の、新種──!??!)

 

今ほど、彼女がご丁寧にも全てのポケモンにニックネームを付ける心優しいトレーナーであることを恨んだことはない。けれど、これまで散々未知のポケモン(ウオノラゴン)を振り翳して優位を取ってきたのは他ならぬ私だ。

 

また、このトーナメントでも徹底してインテレオン一匹で勝ち進んで来たような、情報アドバンテージを重要視している彼女は、如何なる問答を行おうとも、決してこのポケモンの情報を漏らすことはしないだろう。

 

(…………。………確か、インテレオンが『レオン』でブルンゲルが『ブルル』。マラカッチが『チッチちゃん』、エレザードが『レザーくん』、テッカニンが『シノビ』、ダゲキが『アオキ』──)

 

以前戦った際に聞いた名前の傾向から、彼女が名前の一部を捩るか、外見的な特徴からポケモンのニックネームを付けているのは明白。進化の時に名前を更新しているのかは未知数であるが──チッチ“ちゃん”とレザー“くん”で区別してるってことは、つまりあのポケモンはメス? いけない、余計なノイズが……。

 

「──ノラ、『エラがみ』!」

 

試合開始の合図と共に、殆ど反射的にいつもの指示を出す。空気を伝って僅かに遅れて聞こえてきた向こうの指示はおそらく『でんじは』。まずは足を奪うつもりか──などと推察したのは一瞬、その後の展開は、刹那の間に行われた。

 

“じじ、じじじ“

 

ばち、と周囲に細い稲光が瞬く。それはまさに、雷が電位差によって引き起こす先行放電(ストリーマー)。その道標に沿うように()()()()()雷光のポケモンは、悠々とノラの一撃を躱し、その懐に潜り込んだ。

 

「速度特化──」

「ご明察、です!

──レジエレキ、そのまま“サンダープリズン”!!」

 

まずい、という思考すらも置き去りに、天空から降り注ぐ雷の鳥籠がノラの全身を覆う。名前から察するに拘束技──瞬きの間に場所がコロコロと入れ替わる清々しい速度特化のポケモンに、専用のバインドまであるとは始末が悪い。

 

(なるほど、レジエレキ──まだ呼び慣れてないのかしら? あるいは私みたいに、普段は略称で、興奮するとフルネームで呼んじゃうとか。何にせよ……)

 

嗚呼。確かにこれは、まさしく最適解のポケモンだ。如何な必殺の一撃も、当たらなければどうということはない──私のキュワワーの育成コンセプトにも似た、()()()()()()()()()()という一つの回答。

 

但し、

 

「……()()()()で、ウチのノラをどうにか出来ると思わないで」

 

懐からあるモノを取り出す。それは一種のホイッスル。息を吹き入れることもなく、ボタンを押すとピロピロと少し間の抜けた音が響き渡る安っぽいおもちゃ。ちなみにお値段1300円也。

 

込められし意思は、笛が持つ役割の通り。そのまま“この場に集合せよ”である。

 

「なっ……!!?」

 

驚愕の声は、当然にユウリ選手から。ノラのスペックを存分に知る私は、その結果に驚くことはない。

 

今も記憶に新しい、あの『キョダイコランダ』の巨木の檻からも膂力のみで抜け出したノラだ。電気の檻など何のその。何なら私の想定すら実際のスペックとは天と地ほどの差がある可能性がある。

 

まるで暖簾を潜るように、楽しげに事もなく、まさに彼の性格が示す通り『むじゃき』に。あらゆる障害を乗り越え、次に投げられるボールを待つ犬のように馳せ参じると、

 

「……ノラえもん。『じしん』」

 

ぐわん、と。

 

指示の直後。彼を中心にスタジアム全体が撓むほどの衝撃が巻き起こる。無論、これは現実に地震が起きているわけではなく、実際は錯覚に近いモノ。ポケモンの現実改変能力は、世界に一時的な爪痕しか残せない。

 

けれど、それでも。フィールド内の何処かを飛び回っていたレジエレキに与えるダメージとしては十分だったらしく──

 

“じじ、じ……じ……、……じ”

 

「……ありがとう、エレちゃん」

 

スタジアムの中央からユウリ選手を結んだ線の延長線上のちょうど中間あたり。つい先程までノラの側で忙しなく動いていた筈、なのだが。倒れ伏したレジエレキは、どういうわけか衝撃で目を瞑る一瞬前とは、まるで正反対の場所に居た。

 

(なんて速さ……)

 

空恐ろしい、とでも言うべきだろうか。それは当然、あのような未知のポケモンがいることに──ではなく。初手からあれほど癖の強いポケモンを従えて、平然と運用することができている彼女に、である。

 

言うまでもないが、私がノラを十全に運用できているのは、ノラの生態を見知っている以上に、彼が今の私と生涯を共にしてきた家族だからという面が大きい。ノラだけでも勝てる、とは、すなわちノラ以外で勝つのは難しいことを意味する。

 

対するあちらはどうだろう。切り札であるインテレオンですらおそらく出会って半年未満。先程のレジエレキに至っては下手したら捕まえて一週間も経っていないんじゃなかろうか。それでいてあの練度──“主人公とはそういうもの”だと割り切ってしまうのは簡単だが、ちょっと常軌を逸している。

 

ポケモンは、単なるペット感覚で気軽に飼える生き物じゃない。大前提として()()()()()()必要があるのだ。ただバンギラスを暴れ回らせるだけのトレーナーだとしても、そこに至るまでには想像を絶する苦労があるはず。なのに──

 

「出番よ、ドラちゃん!」

(これが、未来のチャンピオン──)

 

立て続けに現れる二匹目。龍の顎を模した両腕が特徴的な球体のポケモンで、見た目や名前の傾向から察するに、ドラゴンタイプのレジ系ポケモン。それが、顎に酷似した腕を上下に配置し、まるでブレスを吐く前兆のように、中央の玉に光を集めている。

 

(あー……はい、そうですか火力特化……)

 

察するに、世代が変わって威力の落ちた『りゅうせいぐん』の代わりとして、ドラゴン版の『サイコブースト』でも放つのだろうか。あるいはこの溜め動作から『スターアサルト』の亜種か──何にせよ、このままでは危険だ。お相手のポケモンの名前的にも。いやユウリ選手は元ネタを絶対に知らないけどね?

 

(舐めるな)

 

でんじはで足を奪い、高火力の一撃で仕留める──そんな分かりやすく付け焼き刃の戦術が、本気でノラに通じると思っているだろうか?

 

ノラは腐ってもレベル100の準速。たとえ半減してようと、そんじょそこらのポケモンには負けない。これだけスタジアムが広ければ尚更。仮に放つ一撃が光速だったとして、照準を合わせるだけの時間があれば十分だ。

 

「──ノラ、『ダイビング』!」

『……⬛︎⬛︎!?!』

 

空気が張り裂ける咆哮と共に、ノラの姿がフィールドから消える。視界を遮りそうな電気の檻は消えたものの、まだ震源地であるノラの周囲には軽い砂埃が舞っていた。指示した私ですら行方が危ういというのに、距離のあるユウリ選手からは、まるでノラが消えたように映ることだろう──

 

「──読めていましたよ」

「え?」

 

にたり、と少女は笑う。まるで、最初からそれが狙いだったと言わんばかりに。

 

「貴女のその“ダイビング(わざ)”の使い方は、端末が熱で壊れるほど見ました。こうして足を奪い、あからさまに狙いを定めれば、それを回避に使うだろうことも──」

 

スパイクタウンの一戦がネットに出回ってるのは知っていた。ただそれはネズさんが挑戦者を遠ざけていた都合上画質も粗く、お世辞にも研究には向かないと思う、のに──

 

ぐおんぐおん、と空気が震撼する。光が徐々に増していく龍玉。よもや爆発するのでは、と心配になるタイミングで、遂にその光が解き放たれた。

 

「レジドラゴ、『ドラゴンエナジー』!!」

 

ちゅいん、と迸る閃光。スタジアムの大地全体をぐるっと覆うように放たれた紫電の輝きが、地表全体に爆発を巻き起こす。お部屋にGが隠れたならバルサン炊けば良いじゃない──を地で行く無差別破壊。元よりここまでするつもりだったなら、なるほど確かに『ダイビング』なんて意味がない。

 

「ノラ!!……なんてね」

 

そんな地獄絵図を眼下に、私は天を軽く仰ぐ。ダイマックスを活用する前提の会場であるからか、すっぽりと開かれた天井のドームからは、やや厚めな雲に遮られた太陽と──その光景を背に、天高く跳躍していたノラの姿があった。

 

「──そんな、どうして……!?」

 

釣られて視線を上に向けたユウリ選手から漏れる、ある種当然の疑問。全てが計算済みだったならば、尚更彼女には今の光景の意味が、どうして空からノラが現れたのか、まるで理解できないことだろう。

 

「……貴女は知る由もないでしょうけど」

 

けれど、私にしてみれば、この結果は必然だった。回答は二択。しかし、相手の判断次第では十分に勝てる勝負。勝敗を分けたのは、自らの相棒への理解度。

 

「ノラは()()()()()()()()を適当に指示すると、とりあえず()()()()()()()()()()()()()()()()のよ」

「ッ──!!」

 

正直なところ。

 

ゲーム的な都合ではなく、どうしてこの世界でも、わざが4つしか使用できないのかまるで理解できない。けれど、確かにそのルールはこれでもかと強固に設定されているようで、これだけ使い倒している『エラがみ』ですら、忘れさせようと思ったらノラはあっさり忘れる。コワイ!

 

けれどややこしいことに、どうも使()()()()()()()()()()()()()()()()()らしく、彼らはそれを何故か使えないことに首を傾げながら、それっぽく指示に従うのである。多分コレなんか変なバグとかだと思う。

 

今回、ノラが覚えているわざの中で、身を隠す要素が含まれるわざは一つ。天高く跳躍し、凄まじい殺気と共に対象に突撃するわざ、『ドラゴンダイブ』──を、彼は慌てふためきながら、中途半端なカタチで使用して、今まさにレジドラゴへと接近した、というわけだ。

 

そして、ノラの射程距離に敵がいるなら、やるべきことは決まっている。

 

 

「──ノラ、『エラがみ』」

 

 

結果はもう、見るまでもない。タイプ相性で半減? 特性で無効? ──その程度で止まるほど、ノラの火力はヤワじゃない。過信ではない。これは真実。レベルとは、才能とは、それほどまでに重く理不尽なものなのだ。

 

 

 

 

「──次は、どんな手品を見せてくれるの?」

 

奇妙な断末魔と共に地に臥したレジドラゴを見据えて、私は挑発するように告げる。

 

願わくばこの煽りが、彼女が持つ空恐ろしい素質(さいのう)に、僅かな隙を生み出してくれることを期待して。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(落ち着け私──『でんじは』は健在。これはきっと、私が思う以上に大きいはず)

 

ばくばくする心臓を必死に押さえ付けながら、私は次なる作戦に向けて頭をフル回転させる。

 

まずは試合を成立させる大前提。これは成功と言っていいだろう。あの『エラガミ』の情報がどこまで正確なのかは不明であるが、少なくともリンゴ選手本人の言い分では先制攻撃時に付随効果があるのは間違いない。いずれにしろ当たればアウトの認識であるが、いざという時に真っ向から耐える選択肢があると無いとでは大違いだ。

 

更に言うなら、彼女がエレちゃんを仕留める際に別のわざを使わせたのもデカい。一見するとあっさり対処されたようにも思えるが、これまで彼女が頑なに崩さなかった『エラガミ最強伝説』。それを覆したことは、きっと意味があるはずだ。

 

「お願い、ジュラくん!」

 

次なる一手。攻撃が躱されるのなら、真っ向から受け止めて更に火力を削ぐ。私もまさか少し前までキバナさんの切り札であるジュラルドンに進化形のポケモンがいるとは思わなかったけど、噂を信じてどうにか進化させ、またそれまで丁寧に鍛え上げたこの子なら、あるいは──

 

『え? ジュラルドン……じゃない、なに、進化形……え???』

「ジュラくん、『ワイドブレイカー』!」

 

微かに聞こえてくる彼女の指示に被せるように、いつかキバナさんから頂いたわざで攻め立てる。

 

横薙ぎに広く空間を蹂躙する一撃。さしものリンゴ選手と言えど、先の爆発の衝撃もあってか、その攻撃は見事にあのウオノラゴンを直撃する。それでも全然堪えた様子がないのは流石であるが、ならば二撃三撃と重ねるまで。

 

「もう一度──」

 

「ノラ、『エラがみ』」

 

ぞくっ、と。背筋を伝う冷たい汗。ただの一言。かつて刻まれたトラウマが脳を犯し、ほんの僅かに私の指示を遅らせる。

 

そして、その一瞬の隙を見過ごすほど、彼女のポケモンは甘くなく──その一撃は、私の耐久自慢のブリジュラスをも容易く粉砕し、て──……!?

 

『な──』

 

その驚愕は、どちらの口から漏れ出たものか。

 

今や紛れもなくガラル最強の名を欲しいままにしているポケモン、ウオノラゴン。その代名詞とも言える『エラガミ』と呼ばれるわざは、これまでごく僅かな例外を除き、あらゆるポケモンを蹂躙し尽くした。

 

しかし、どうだろう。確かにエラガミの直撃を受けたブリジュラスは大きく体勢を崩し──けれど、その足でしかと大地を踏み締めている。何故、どうして──そんな理屈よりも先に、私は反射的に言葉を紡ぐ。

 

「ブリジュラス、『メタルバースト』!」

 

煌めく剣尖。弾ける光沢。受けたダメージをそれ以上のモノとして跳ね返すわざ。『エラガミ』が比類なき一撃であればこそ、その反撃は、かつてない光を纏いウオノラゴンを蹂躙した。

 

 

 

 

…………………

 

 

……………

 

 

 

………

 

 

 

 

 

 

「ノラ。『ねむる』」

 

それは、絶望の一言。

 

「ッ──!?」

「冗談。残念だけど、今のノラは『ねむる』を使えない。だから……ここまで、かな」

 

少女は死ぬほど心臓に悪い冗談を告げると、そのまま当然のようにウオノラゴンをボールに仕舞って……え?

 

「……ワイドブレイカーが無かったら危なかった」

 

そう呟いた少女は、流れるように腰のポーチへとボールを突っ込み、代わりに水色と黄色のモンスターボール……クイックボールをそのボールと入れ替わりに取り出すと、ひょい、と軽く空中に放り投げる。

 

(何、が──)

 

何か。何かあってはならないことが起きている。それはトレーナーとして当たり前の権利。彼女が一流であればこそ、考慮して然るべき案件。なのに。なのにどうして、どうしてここまでそれが理不尽に思えるのか。

 

「──出番よ、キュワワー」

「………っ」

 

()()()()()()()()()()()()と、いっそ叫んでしまいたかった。でも、そうじゃない。そんなわけがない。それは誰もが平等に。等しくトレーナーに与えられる権利。

 

(温存──)

 

まるで意識の外だった。思考から完全に抜け落ちていた。あのポケモンを倒す──即ちあのポケモンを追い詰めるということは、不利を悟って退く選択肢を誘発する。お相手だって馬鹿じゃないのだから、そんなのほんのちょっと考えたら分かることなのに──

 

(ッ……、でも!)

 

何はともあれ、突破が絶望的だったあのポケモン(かいぶつ)を退けたのは事実。あのキュワワーの特異性も、事前に分かってさえいれば、いくらでも対策のしようがある!

 

「ブリジュラス、連続で『ハードプレス』!!」

 

圧倒的な体格差を活かし、長い腕で挟むように周辺を薙ぎ払う。例の『サイドチェンジ』で場所を入れ替えても、二匹の距離が変化するわけじゃない。また当然のこと、サイドチェンジを使用中は他の行動を行えない。何をしようと、向こうがジリ貧になっていくだけだ。

 

「……………」

 

そして、その推測は正しかったらしく、少女のやたらと的確な『サイドチェンジ』によりキュワワーはしばらくの間『ハードプレス』の猛攻を凌ぐも、やはり徐々に差が縮まる距離に対応し切れず、遂には攻撃に被弾をしてしまう。

 

『ハードプレス』というわざは、相手が万全であればあるほど威力が増大するわざ。当然、手持ちから出たばかり、しかもフェアリータイプのキュワワーにその一撃が致命となる。

 

しかし、それでもまだ戦闘の意思を示しているキュワワーを見て、やがて少女は観念したように呟いた。

 

「──キュワワー、『アロマセラピー』」

 

そのわざは、まるきり未知のわざ……というわけではなく。この局面、つまりはポケモンバトルに重きを置くトレーナーにとって馴染みのないわざ。

 

知識としては知っている。心和らぐ香りを漂わせ、周囲の全てを癒すとか。確かな効果こそ認められているものの、印象の通り即効性は無く、実戦で扱うとなれば、せいぜいが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程度の──

 

(ま、ずいっ……!)

 

彼女がまるで意にも介さない様子だったので、ここまで実感が湧いていなかった。けれど実際には、私が思うよりも遥かにずっと麻痺(ソレ)は彼女の重しだった。

 

それこそ、それは彼女が日頃から愛し、身に付け、常に侍らせているキュワワーというポケモンを、あろうことか()()()()()()()()()()()()()ほどに。

 

「ジュラくん、『10まんボルト』!」

 

見るからに満身創痍なキュワワーを見て、ここでのブラフは絶対に無いと判断し、初速の最も早い一撃を指示する。それは読み通りに、あるいはそもそも掛け合いをする余裕もないのか見事キュワワーを直撃し、満身創痍だったキュワワーはたまらず地に伏せる。

 

が、

 

「良い仕事よ。……さて、行くわよノラ」

「ブリジュラス、『ワイドブレイカー』!!」

 

ぽん、と。

 

あまりに軽い音と共に、スタジアムに再び現れる絶望。微かに漂う香りが鼻腔をくすぐる。けれど私にそれを堪能している暇はない。最高速度で敵わないなら、初速を、着地直後のごく僅かな隙を狙えば或いは──

 

「遅い。───ノラえもん、『エラがみ』!」

 

空気を裂く音。流石にエレちゃんには及ばないまでも、到底そこらのポケモンでは追い付けない、その速度だけで武器になる神速の一撃。

 

だというのに、破壊力も随一という彼女の代名詞たる最強の一撃は、我が耐久自慢のブリジュラスをも容易く撃ち沈めるほどだった。

 

 

 

 

 

(なんて理不尽──)

 

これほどまでにメタを張って。ここまで上手く事が運んで。なおも正面から打ち砕かれる。

 

格の違い、実力の違い、才能の違い──あまりに重く、どうしようもないポケモンバトルの現実に、いっそ泣き出したい気分だった。

 

 

 








⚫︎作中のダメージ一覧

じしん→レジエレキ 146〜172% 確定1発

エラがみ→レジドラゴ 92〜108% 乱数1発(50%)

エラがみ→ブリジュラス(1回目) 40〜47% 確定3発

ハードプレス→キュワワー 120〜143% 確定1発(※きあいのタスキ所持)

エラがみ→ブリジュラス(2回目) 60〜71% 確定2発


被ダメ計算式
322-40-95-(115×1.5)=14

[ウオノラゴンの体力]ー[サンダープリズン(バインドダメージ1回分のみ)]ー[ワイドブレイカー]ー[メタルバースト]=[残り体力]


多分どっか間違ってるだろうけど今更修正も無理なので細かい部分は流してください。

流石にこのレベルになるとレベル100が一匹ではちょっと苦しいですね……(エタった原因)

作者が小説の書き方を忘れ気味なので、申し訳ないですが続くかどうかはちょっと分かりません

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