波瀾万丈のチャンピオンリーグを制覇し、遂に私は正式なチャンピオンとして認められた。
当然の如くその序列は1位。しかし私以下のランクは扱いがややこしく、元チャンピオンであるダンデさんを上回る成績でトーナメントを終えた新人のユウリさんが2位。メロンさんが繰り上がって3位、そしてダンデさんが新たに4位という序列になる。
訳が分からない。そういう人もいるだろう。私にも分からない。どうも聞くだに前世における野球のリーグ戦のようなランクの推移をしているそうなのだが、そもそも私は野球の順位変動の基準なんて知らない。なんでも新人以外は直近の試合での順位とシーズン全体での勝利数によって変動するとか聞かされたが、本気で意味が分からないのでやめて欲しい。
というかトーナメントでのジャイアントキリングが新人の頃の一度きりってとことん才能無いやつに厳しいルール過ぎる。こんなルールがまかり通っているのも、それだけこの世界では才能の壁が厳しいという表れだろう。
まあ尤も、今大会であれだけ奮闘してトーナメント2位だったサイトウさんが、本人すら覚えていないような過去の戦績が理由で序列8位とか流石に意味不明過ぎて抗議が殺到したらしいので、今後はその辺りも見直されるだろう。というか私が見直させました。私1位、サイトウさん2位、ユウリさん3位、メロンさん4位で我ら女四天王! 半年ごとに行われるリーグでベスト8まで勝ち残った人がそれぞれ勝利順に挑戦権を得て、本気四天王に勝てば来シーズンから序列変動!私に勝てば面倒な手続き全部すっ飛ばして即チャンピオン!……余計ハードルが高くなった? 知らん、それは私の管轄外だ。
まあ多少理不尽だろうと、新人が一回戦からチャンピオンとかち合ってボロ負けするのに比べたら納得が行くだろう。機会が増えると必然頂点である私が引き摺り下ろされやすくなるとも言えるが、負けてうだうだとその座に居座るつもりもないからそれでいい。
それで、チャンピオンになって何がどうなったかと言うと、まずはメディア露出が増えた。何だかんだと私も小市民。どっさりと資金を提供しに来たスポンサー候補のお偉方に、謙って是非ともと煽てられたら悪い気はしない。写真を撮ったりCMに出たりちょっとした討論番組に出演したり──あとマグノリア博士を筆頭に結構な頻度で研究所に招待されたりもした。ムゲンダイナを預けたらノラと一緒に研究所の隅っこで寝てるかお菓子でも食べて待機! チャンピオンの姿か?これが……まあ万が一ムゲンダイナが暴れたらシャレにならないから仕方ないね。
そうそう、ムゲンダイナと言えば。あの日ユウリさんが初手に繰り出したレジエレキというポケモン。あのポケモンが普段から生成している電気エネルギーをほんの少しお借りするだけで、ガラルのエネルギー問題が解決出来そうというとんでもない研究結果が出たそうな。
当時拘留中だったローズ元委員長もこの話にはニッコリで、今では保釈時に支払った膨大な保釈金を数日で取り戻す勢いで成果を上げているのだとか。彼も変人ではあるけど決して悪い人ではないし、どうか気の済むまで頑張ってください。なお保釈金はそのままナックルシティ復興費用に充てられてる。
マクロコスモスグループ名物、レジエレキ饅頭はマクロコスモスライフから大好評発売中! ちなみに冗談ではなくめっちゃ売れていてユウリさんの主な収入源になっている。地味にノラも饅頭とかクッキーとかいろんな商品が発売されてたりするが、全部合わせてもキュワワーの人気グッズ一つの売り上げに届かなくて私は密かに泣いた。
「バイバニラ、『サイドチェンジ』だ!」
そして当然の結果として、ガラル全土でサイドチェンジが流行りに流行った。かえんほうしゃをサイドチェンジで避けようとして、そのまま炎に飲み込まれるバイバニラをあちゃーと眺める。だからサイドチェンジは相手のポケモンに使うわざじゃないとあれほど…!まあ冗談はともかくぶっちゃけキュワワーの真似とか私レベルの異能者か相当な達人か極まったサイキッカーでもないと無理だと思う。
でもサイトウさんが魅せたように一発芸としてはとても優秀で、大火力持ちの隙が大きいアタッカーを止めようと近づいたら見失って攻撃を受けて──なんて流れはガラルでよく見る光景になってしまった。今ではサイドチェンジのわざレコードが去年の10倍の値段に! それに伴ってオバヒなんかの範囲わざもじわじわ高騰している。この世界でもそういうのあるのね…。あと大会の後にカマスジョーを連れたルリナさんにエラがみ伝授するよう頼まれたりもしたけど、それは無理なので丁重にお断りしておいた。
「荒れ狂え、進化した勇姿よ! スタジアムごと奴を吹き飛ばせ!!」
そんなこんなであっという間に半年が経過し、今日は新制度になって初めてのリーグ戦。
今回、挑戦権を得たのはヤローさん、キバナさん、カブさん、オニオンさん、ルリナさん、ビートさん、マリィさん、そしてダンデさんと錚々たる面子。ちなみに四天王は挑戦権切らないと手加減面子なので突破率も非常に高く、それとは別に四天王の3人も個別に挑戦権があるのでこれから11連戦の地獄が待ち受けています。誰だこの制度考えたお馬鹿さんは。私ですねごめんなさい。
現在対峙しているのは、相棒のジュラルドンをブリジュラスに進化させたことで、今回でようやく本気のメロンさんに勝てたと勢いに乗るキバナジムリーダー。ちなみに彼が相棒を進化させるまで、これでもかとユウリさんに粘着したりキョダイマックス個体だから進化出来ないことを嘆いたりダイスープ使ってどうにかしたりとそれはもう色々なドラマがあった訳だが、この試合には無関係なので割愛する。
「ノラ、『エラがみ』」
痛恨の一撃。しかし流石はあのブリジュラスと言うべきか。ノラの渾身のエラがみでもそのダメージは7割に満たず、まだまだ全然動ける範囲。おかしいな、そう簡単に受けられる火力じゃないはずなんだけど…。
クリア後の世界もそうだったが、身近にレベルの高いポケモンがいると周囲もそれに引っ張られるのか、最近は普通にエラがみを耐えてくるポケモンが出てきて困る。しかし、それは先程のヤローさん戦でのカミツオロチで読めていたこと。今回は事前にキュワワーでミストフィールドを設置しておいたので、忘れがちなドラゴン半減効果で反撃も──
「ブリジュラス、『てっぺき』だ!」
「………」
【悲報】補助わざが上位界隈で流行る【残当】
なんだよもぉぉまたかよぉぉお。ちなみにキバナさんのブリジュラスはユウリさんの個体とは違って『じきゅうりょく』持ちらしい。それ推定600族に配っていい特性なのかと慄いたのも過去のこと、事前に予測出来てたらどうにでもなる。
「ノラ、『だいちのちから』!」
多少相性で対抗できたとて、ノラの
「なんだと……?!」
これで二人目。次からは事前に壁張りしてきたり耐久を底上げしてきたりするんだろうなぁと今の時点から気が滅入る。こんな感じで、明らかに私──というかサイトウさんを意識した立ち回りのトレーナーが増え始めてきた。上位陣であればあるほどサイトウさんの底というか明らかに実力不足なのに喰らい付いてることのヤバさが分かるからね。カブさんなんて感化され過ぎてジム戦では意図してフルアタ構成にしないと突破者が出ないような有様になってるんだとか。あんまり挑戦者を虐めてると降格させるぞこら。
「これだけ対策されているのに、何だかんだと勝てているのは貴女の実力だと思いますけどね」
「そうなのかな……?」
これは主人公ことユウリさんの言葉。彼女はいつまで経っても私に対する敬語が抜けないが、流石に長い付き合いなのでだんだんと遠慮が無くなって来た気がする。
そして貴女は貴女で唐突に新ポケ繰り出してくるのいい加減やめません? イダイトウ? ノココッチ? ドドゲザン? どいつもこいつも見覚えあるのに全部知らねぇ! ちなみに例のバドレックスは下に違う馬を連れてリベンジしてきた。ううんどういうことだ。平然とオーダイルをメガシンカしてダイマックスとか新技術披露してくるし奴は化け物か? 主人公ってすごい(白目)
しかも彼女に影響されてか、サイトウさんまでオコリザルの進化形を引っ提げてきたり、メロンさんがバドレックスの前の馬を引き継いでいたりとやりたい放題。やだ、私以外の四天王仲良過ぎ…? 人は共通の敵がいると団結すると聞くが、この子だけやってる事が別ゲーである。というかマリィさんにマフィティフとかいうポケモン渡したの絶対お前だろ騙されんぞ。おかげで初手にノラが倒されるし、マリィさんがあくタイプ使いじゃなかったら普通に負けてたわ。
「ういなー私、最強わたし。よくやった私。これでこの先もスクールに中指立てる生活が続けられる……!」
「私も多少は思うところもありますが、スクールの教官も善かれと思ってのことでしょうから、流石にそれは止めませんか?」
は? アイツらはチャンピオンたる私に「お前才能ないからトレーナー諦めなよ(意訳)」とか言ってくる節穴なんだぞ。中指立てて何が悪い。それにいつでも文句は受け付けてるのにノラが怖いからか挨拶にも来ない。仮にも教え子だぞ私は。生徒がトップになったら普通は学校全体で祝うものじゃないのか。なおチャンピオンは当然スクールを免除されるため私の最終学歴は小学校中退である。二度と行くかばーかばーか。
「うーん、しかし早くも四天王交代とは……勝てば挑戦権復活とか余計なルール作らなければ良かった。これでは次にメロンさんが復帰した際、誰が四天王なのか分からなくなってしまう……」
「おいオレさまを勝手に負かすんじゃねぇ」
うるさい本気ユウリさんに挑んでから言え。メロンさんに勝てたからって何を日和っているんだ。スタジアムの何人がブリジュラスの件でユウリさんに難癖付けるキバナさんを期待したと思ってるんだ。当然私もした。キバナさんにはがっかりである。
そんなこんなでぎゃーぎゃー醜い争いをしていると、不意にその様子を眺めていたサイトウさんがクスクスと笑って、
「……何?」
「いえ、変わられたなと……前はこう、とても張り詰めていましたので」
人のこと言えるのかコイツは。貴女の方がよっぽど自殺でもしそうな雰囲気だった。だって私の場合は割り切ればそれでいいが、彼女の場合はそうは行かない。彼女はこの世界では役割を持ち得ない落伍者。それは相応の肩書を得た今でも変わらず、相変わらず彼女の
以前、好奇心からクララさんの行方を追ったが、彼女は今でも売れないアイドルをしていた。マクワさんもそうだ。彼もリーグに参加できる程度の実力はあったが、やはりメロンさんと比較すると一段落ちると評価せざるを得なかった。
そして、その評価はオニオンさんと比較したサイトウさんにも当て嵌まる。なるべくしてなった結果。ほんの少しの運命のかけ違い。この世界の残酷にして絶対の理。それでも諦めずにこの場にしがみ付いて、その上でこうして笑える彼女を、私はこっそり尊敬している。
たとえどんなに恵まれない素質でも、たとえどれほどの波乱に遭ったとしても、それを誰かに笑い飛ばせる人を、不幸だとはとても言えない。彼女の絶望なんてその程度だった。私の諦めなどそれ以下のものだった。忘れたわけじゃない。忘れられるはずもない。彼女は今でも苦しんでる。私はいつも後悔してる。でも、それも見方によっては人生を彩る“けいけんち”になり得る。当然、それを戯言だと吐き捨てる私のような捻くれ者もいるだろう。
「…………」
ポケモンバトルは才能だ。その持論は今でも変わることがない。むしろ上にしがみつく期間が長くなるほど、その差はどんどん浮き彫りになっていく。
どこまでも無情。どこまでも理不尽。どんな競技でもそうだ。上を見上げるとその先は果てしなく、頂点なんて砂上の楼閣に過ぎない。
私はきっと、この先もずっと無様に足掻き続け、果ての無い綱渡りを繰り返すのだろう。いつか地に堕ちるその時を怯え、涙も渇き切った顔で不敵に笑い、分かりきった結末から目を背ける。
誰かは言う。それは私の才能のおかげだと。なんと滑稽な話だろう。なんと愉快な話だろう。なんと痛快な話だろう。
でも、それでも私はポケモンバトルを愛している。理由なんてない。ただどうしようもなく惹かれた。いつだってこうなることを夢見てた。ならば、そんな私のすべきこと、それは──
『無駄なんだって、諦めろって囁く自分がいるんです』
『私は、貴女の才能が羨ましい──』
『貴女の強さは、我々トレーナーにとって、それだけ目を惹く力がある』
『どうしようもなく、惹きつけられたのです』
(………………)
「……憧れ、か」
「どうかしましたか?」
「いや──なんでもない。それも良いなって、ちょっと思っただけだから」
「……?」
キョトンと首を傾げる彼女に、なるべく格好良く見えるように言葉を濁す。似合わないけど、向いてないけど。それでも私が、こんな私が誰かの憧れになれるなら──そんな風に取り繕うのも、悪いことではないだろう。
これにて本作品は完結です。
『ポケモンのレベル』というゲーム内における謎要素に焦点を当てた本作。しかし、主題となる“レベルとは何か”という問いに対して「純粋な才能です。主人公は才能オバケなので雑に育ててもチャンピオンになれます。モブは才能が足りないのでジムリーダーすら無理です。絆⭐︎パワーとか誤差です」とばっさり切り捨てる捻くれた作品に、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
以降は番外編としてサイトウ戦の反応とか就任後の後日談とかを投下していく感じになると思うので、今後もお付き合いいただけると幸いです。
では、また機会がありましたらよろしくお願いします。