エラがみ無双   作:融合好き

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vsミミッキュ

ワイルドエリアから抜け出せない、というフレーズは、ポケモン剣盾をプレイした人にはよく分かることだと思う。

 

「…………」

 

まず広い。とにかく広い。隅から隅まで駆け回るだけで一時間とか余裕で持っていかれる。

 

そして何よりレイドバトル──マックスレイドバトルの仕様と報酬こそが、ワイルドエリアが時間泥棒と言われる由縁であろう。

 

私の場合、珍しいポケモン云々よりも、高個体値のポケモンが手に入ることに惹かれて、ストーリー攻略後は専らワイルドエリアを彷徨っていた。

 

もちろん、単純なワット集めや夢特性の厳選であればバグ技によって簡単にできる。しかし、それでは味気ない──ぶっちゃけ作業感が半端なく、遊んでいる感じがしないのだ。疲れるし。

 

故に、私にとってワイルドエリアとは庭に等しい存在であり、加えて廃人気味だった私にはどのポケモンがどの巣穴にいるのか大まかには分かるくらい剣盾をやり込んでいた。

 

だからこそ、チャレンジャーであればワイルドエリアを抜けるのが伝統だという話にも特に疑問は抱かなかったし、何ならその日のうちに抜けてやるなんて意気込んでいた。……バウタウンからエンジンシティまでの道のりで電車を使った理由をすっかり忘れていた馬鹿な私である。

 

「お腹、減ったね、キュワワー……」

『キュワワ。キューワワ!』

 

遭難5日目。ワイルドエリア、巨人の鏡池にて、今日も今日とて、無意味なコミュニケーションを試みる。

 

この時ばかりは、この世界でのトレーナーバッグが、モンスターボール及びボックスシステムを応用した四次元仕様であることに、心の底から安堵する私なのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

逃げるようにエンジンシティを後にして、ワイルドエリアを彷徨い続けること一週間。どうにかナックルシティに到着した私は、それでも私が攻略ペースではダントツであることをリーグスタッフの人に聞いて、改めてポケモン世界の厳しさを実感する。

 

「どうせレベル上がらないんだから、いっそ先にキバナさんに挑めないかな……」

 

天高く聳え立つナックルスタジアムを眺めながら独り言ちる。流石にそれは無理だと理解しているが、しかし皮肉なことに、その発言自体は何も私だけに当て嵌まることじゃない。

 

通常、生き物が進化するためには長い時間を伴う。もちろんポケモンが真っ当な生き物かと聞かれるとそれは否だが、それでも一週間やそこらで赤子から成体まで進化するような生き物はむしポケモンくらいであろう。

 

更にそれに、戦闘経験と言った要素を加えると尚更進化には時間が掛かる。ゲームでは図鑑埋めのためだけに飴で進化させてはボックスに放り捨てたポケモンも、本来であれば何年も何十年もの間愛情を込めて育て続け、それでようやくポケモンが応えてくれるかどうかという話なのだ。

 

だからぶっちゃけ、ゲーム本編において初心者である主人公及び各種ライバル達の成長速度は非常識だと言っていい。でも、そんな彼ら彼女らでさえ、一週間やそこらでカブさんという関門は越えられない。

 

まあ、どうせ決勝トーナメントは同時期に実施されるのだし、早ければいいと言う話でもないのだけど、やっぱりトップに相応しいのはノラであろう。常識的に考えて。……自分でも、理由になっていないのは自覚している。そして、私自身がノラに執われすぎていることも。

 

「あ──」

「ん……?」

 

それでも、せっかくナックルシティまで来たのだからと、観光名所でもある宝物庫へと足を運び、タペストリーが数枚しか飾られてなかったゲームと違って博物館さながらの内装に圧倒され、今日くらいはいいだろうと本格的に見学を開始してしばらく。なんかどこかで見覚えのある人物とばったり遭遇する。

 

「貴女は確か、ジムチャレンジの──」

「…………」

 

その人物──ソニア博士らしき女性になんか当たり前のように話しかけられたが、絡まれるのが億劫だったので無視してすれ違うことにする。

 

「あ、ちょ、待っ──」

 

すれ違いざまに肩を掴まれた。……いや待ってちょっと強引すぎない? チャンピオンとのことで聞きたいことがあるのかも知れないけど、初対面の相手の肩を掴む普通? 少なくとも私にはそんな真似はできない。前世ではそれだけでも不審者として扱われてしょっ引かれる可能性が有るからだ。

 

(……まあ尤も、そうでもしなければ逃げ出す気満々だったから、あっちの気持ちもわからないではないけど)

 

というかそもそも彼女はソニア博士であっているのだろうか。ダンデさんは服装ですぐに分かったけれど、三次元になると顔だけじゃ判らないし、もしもエール団の女性が変装した姿とかだったらどうしよう。

 

「…………」

 

まずい、迂闊だった。流石の私も、この体勢から成人女性を相手に逃げるなんてできない。あまりにペースが早いからか、今の今までエール団に遭遇したことはなかったけれど、ペースが早く独走状態だからこそ特別扱いされる可能性を見落としていた。

 

「……!……!……!」

「わっ、ちょ。待って、何もしないから暴れないで……!」

 

最悪の事態を想像して抵抗していると、件の女性が何もしないとかほざきながら私の身体をヒョイと抱え上げる。何をする。やめろ、私の体格を遠回しに馬鹿にするな。平均身長よりも20センチ以上低いからって憐れむな。殺すぞ。

 

「……何か用ですか」

「あ、えっと……その、ちょっとお話ししたいことがあって……」

「何を?」

「え? あの。その、えーと」

「…………」

 

この感じ、もしかしてあちらも衝動的に呼び止めてしまったのだろうか。私が逃げようとしたから。それなら大した用事でもないだろうし、今からでも抜け出せないかと思うものの、非力な私では現在の抱き竦められた体勢から、相手に怪我をさせずに抜け出す自信がない。

 

「あ──………そう! ジムチャレンジ中の貴女が、どうしてこんなところにいるのか気になっちゃって……」

「…………」

 

いや、そう!じゃないよ。今考えついたでしょそれ明らかに。しかもこんな場所って。逆にナックルシティで他に観光地なんてある? いやあるんだけども。無駄に広いしナックルシティ。

 

「…………観光です」

「観光──そ、そうよね! 実は私もそうなのよ、あははは……」

「…………」

 

なんだこの怪しい人物……事前知識がなかったら通報していたかもしれない。というかいつまで抱えてるんだ。お母さんみたいに「お米2袋分だね」とでも言いたいのか。やめろ。それをしていいのは農家である両親だけだ。

 

「そうだ! 観光だってなら私、ここ詳しいし、良ければ案内とかしてあげるよ?」

「…………」

 

観光したかったのは事実だし、抵抗するのも億劫だったので、何故かそのまま彼女に抱えられた状態で宝物庫を巡る私。

 

途中、何度も意味不明な現状を嘆くものの、流石に詳しいと自称するだけはあり、彼女の解説は適切で普通に興味深い。だから、だろうか。いよいよ出口付近、例のタペストリーに関する解説にも聞き入ってしまった私は、その問いかけに、ついうっかり返答してしまう。

 

「ねえ、若きジムチャレンジャーさん。何か気になることはないかしら?」

「……こうまで都合良く行くのかどうかは気になる」

「え?」

「例えば、英雄の素質を持つ誰かが病気で死んでしまったら? ザシアンとザマゼンタが災厄の存在を察知できなかったら? 今のリーグ委員長みたいに、第三者の手によってムゲンダイナの出現時期を歪められたら?」

「──」

 

無論、こんなものは無用な心配だろう。この広いガラルで素質のある人物が二人だけというのも考えづらいし、そもそも彼らが事故で死ぬなんて考えたくもない。それに、ムゲンダイナの突然の出現にもザシアンザマゼンタは対応してみせた。故に。

 

「多分、こんな心配は杞憂なんだと思う。でも、私はガラルが好きだから、いざとなったら、ノラがいれば──………あ」

「………………」

 

気づいた時には手遅れだった。無言なのが逆に恐ろしい。しかし、私を抱えていた両手には力が入り、絶対に逃がさないという意思がひしひしと伝わってくる。

 

「……キュワワー、『サイドチェンジ』!」

『キュー、ワワワワ!』

 

頭に被っていたままだったキュワワーを頭を振って窓の近くへ放り捨て、そのキュワワーと位置関係を交換する。それからすかさずキュワワーをボールへ戻し、コイルの磁石を掴んで窓から飛び降りる。私のコイルはレベル1だが、それでも10まんボルトを打てるくらいの出力はある。……私の体重が軽いからできる芸当である。

 

「あっ──ねぇ、お願い待ってー! その話、もっと詳しく聞かせてぇー!」

 

そんな悲鳴をBGMに、私はナックルシティを後にする。また、それから空中でキュワワーを浮き輪に見立てて座り込みながらラテラルタウンまで向かい──帽子だったり浮き輪だったりアクセサリー感覚だったり、なんかこんな扱いばっかりなキュワワーに対して、この子が私をどう思っているのか本気で気になる今日この頃だった。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

ラテラルタウンのジムリーダー、オニオンは内気な少年として知られている。

 

「……僕はここのジムリーダー、オニオンです。……いっ、いきます」

 

不気味な仮面、鬱屈とした態度とあまりに端的な自己紹介。自己紹介に至ってはこれでもゲームの時より情報量が多かったりする。

 

「…………」

 

とはいえ私も、口数については人のことを言えない。今現在乗り物酔いで気分が悪いにせよ、これまでのジムチャレンジ中でもほぼ無言であったし、バトルでは本当にエラがみ以外の指示をした覚えがない。

 

「……デスマス、お願い」

「頑張って、ノラ!」

 

そして、今回もそうなるだろう。まだバッジも半分やそこら。このレベル帯でノラの攻撃に耐えられるポケモンなどいるはずがない──と。

 

「ノラ、『エラがみ』」

 

いつもの一言。これまでの道中、無数のポケモンを屠ってきたエラがデスマスを噛み砕く。当然、デスマスごときがその一撃に耐えられるなんてことはなく、またタスキを持っていたとしてその火力を前に立ち上がるなんてことは叶わず、そのままデスマスは戦闘不能になる──はずだった。

 

「な──」

 

突如、デスマスの身体から光が発せられ、それがノラの身体に纏わり付く。今までにないその光景に私が動揺していると、オニオンさんは、

 

「『さまようたましい』……祟りからは、逃げられない」

「っ………」

 

──さまようたましい。それはガラルデスマス系統固有の特性であり、接触技を受けると、そのポケモンと特性が入れ替わるというもの。

 

「……ミミッキュ、お願い」

 

そうだ。確かにデスマスにはそんな特性があった。しかし、迂闊だったと思う以上に先の現象の謎が解けて安堵する。これがもしも先制の爪おんねんの結果とかだったりしたら流石に笑えない。だけど、特性の分を削られたところで、それだけでノラを止められると思ったら大間違いだ。

 

「ノラ、『エラがみ』!」

 

対峙するのは、本来であれば圧倒的に不利な相手であるはずのミミッキュ。しかし現実的に考えて──ばけのかわという特性が、ゲームのごときインチキな特性としてこの世界で再現されているとは思えない。

 

「…………ミミッキュ、『────』」

 

結論から言えば、私の考察は正しい。この世界におけるばけのかわは、せいぜい急所を避けたり『みやぶる』が効かない程度の、そんなよくある特性でしかない。

 

「……そんな」

 

だからこそ、その光景は──ハリボテの首が転けて、それでもノラの一撃を耐え切ったミミッキュというポケモンの存在は、私の思考を停止させるには充分だった。

 

「『つぶらなひとみ』は、相手に攻撃を躊躇わせる……」

「………。………ノラ、『エラがみ』」

 

しかし、耐えたと言っても所詮は首の皮一枚。追撃の直前にもう一度『つぶらなひとみ』を受けるも、それでも充分すぎるダメージを前にミミッキュが倒れる。

 

「……行って、サニゴーン」

 

続いて現れたのは、さんごポケモンのサニゴーン。確かあのポケモンの特性は、ゲームだと『くだけるよろい』だっただろうか。

 

なるほど。デスマスとミミッキュで物理方面の火力を削ぎ、サニゴーンの特性で上から倒す。実に理に叶っている。流石は幼くてもジムリーダーであると感心する。

 

「…………ノラ」

 

しかし、しかしである。その程度の浅知恵が、ノラの前に通用するだろうか? しかもミミッキュとは違い、サニゴーンは耐久に優れているわけでもない。ならば、私の自慢のノラが、たかが二段階の火力軽減と特性打ち消し程度で止められるだろうか?

 

「『エラがみ』」

 

結果的に、その戦術は無意味に終わる。如何なる小細工も、ノラの前では児戯に等しい。だからこそ私はノラを信じ、その力を存分に奮っているのだから。

 

「っ………!」

 

一撃で沈んだサニゴーンに少しだけ動揺を示しながら、オニオンさんが最後のポケモンを呼び出す。

 

それはポケモン初代より愛され続けるゴーストタイプの代名詞、シャドーポケモンのゲンガー。暗闇で罠を仕掛けて道行く人の魂を奪うなんて物騒なそのポケモンも、明るいスタジアムの中ではあまり関係がない。

 

「ゲンガー、キョダイマックス……周りを、闇で包み込んで……!」

「………!」

 

そんなことを思っていると、不意に周囲が闇に囚われる。

 

ゲンガーのキョダイマックス。それは大地に根付く黄泉への門。呪いのエネルギーを撒き散らし、あらゆるものを冥府へと誘う。

 

「…………」

 

だが、それがどうした。その程度で、そんな程度で、それくらいの小細工で私のノラが止められるものか。止められてたまるか。

 

最強はノラだ。それは、ノラがそのままこの世界に生まれた時点で決まっている。なればこそ、私はそれを信じ崇め奉り、その力を以ってして、ノラの価値を示すのみ。

 

 

「ノラえもん、『エラがみ』!」

 

 

よもや、という懸念は杞憂であった。きっかりその一撃でゲンガーを仕留めたノラは、呪いが撒き散らしたエネルギーなどなんのその。いつものように私の元へ駆け寄ってくる。

 

「お疲れ、ノラ」

 

そして私は、そんなノラを背伸びして撫で付ける。……それでもノラが頭を低くしなくては撫でられないのは悲しいところである。

 

「つ、つよい……つよすぎる。………すごい」

 

そして例の如く、あまりの光景に絶句していたオニオンさんがそんなことを呟きながら私にバッジを渡す。いつもなら聞き流していたようなその言葉も、今回ばかりは同意せざるを得ないのだった。





残念ながら二段階下降特性なし程度ではゲンガー(キョダイマックス、LV36)が図太いHB特化でも140%〜160%ほどで確定一発です。ミミッキュも当然確一ですが、まあミミッキュなので……。
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