エラがみ無双   作:融合好き

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vsカラマネロ

スパイクタウンの閉鎖について、流石に半年も入り口を閉鎖し続けるのは不可能だろうと思っていた。

 

それも当然。ゲームであるならいざ知らず、中の住人にも生活がある。まさかポケモンの世界だからと霞を食べているわけでも無し、兵糧には限界があり、籠城そのものも問題にしかならない。

 

ましてジムチャレンジの妨害とは、ひいてはトレーナーという文化の否定に等しく、彼らがジムトレーナーである以上、トレーナー全てを敵に回すことは自殺行為だ。

 

故にこそ、それが可能であるのはジムチャレンジ期限ギリギリのそれも短時間。駆け込みで入ってくる層を妨害し、難関となる二つのジムへの対策に時間を取らせない。

 

ダイマックスを使えないジム戦に、ダブル天候パなんてキワモノ。普通であれば初見で突破できるわけないし、それまでが順調であったなら立ち直るのにも時間がいる。その時間さえも理不尽に削られたら、当然突破できる可能性は低くなる。

 

なればこそ、開会式から二週間も経っていない今であれば、わざわざ裏道なんて使う必要もないと思っていた。事実、その考えは正しく、私は悠々とスパイクタウンへと足を踏み入れる。

 

「……死にそう」

 

嘘である。悠々なんてことはなく、息も絶え絶えにポケモンセンターに駆け込みました。ポケセン前で屯っている人達が、肩を支えてくれたのが本当にありがたかったです。やっぱ根は優しいんだねエール団。

 

というか薄々思っていたけども、やっぱり11歳には過酷だよこの旅! 徒歩でイギリス横断とかそりゃあ半年も掛かるわ! そしてそれを妨害とか鬼か! マリィさんがキレるのも当然ですねクォレは……。

 

しかも私の場合、最近移動についてはもっぱらキュワワーによる空中散歩である。自転車? いやあんな高いの都合よく譲ってくれる人なんていませんから。そうでなくても海上を自転車で渡るとか心折れる。主人公ってすごい。

 

「…………」

 

それはそうと、結局エール団の妨害は無かったな。そもそも私の知る範囲ではエール団なんてまだ話題にもなっていなかったし、やはり本質は応援団ということか、極力マリィさんから離れたくなかったのかもしれない。

 

ちなみにだが、最近になってホップくんがヤローさんを突破したとダンデさんに聞いた。なんだそんなものか、と思うかもしれないが、初心者から2週間でレベル20とか普通に化け物である。

 

ただ、ホップくんに関してはまだタイプ相性に助けられた面もあったのかもしれない。けれども、どうやらメッソンを選んだらしい主人公くんもほぼ同時期にジムを突破しているっぽいので、やはり主人公組、特に主人公くんは常識とかけ離れていると見ていい。

 

とはいえ、そんな彼らでも、ヤローさんを倒すにはそれだけの時間がかかる。事前にそれなりのポケモンを有し、歴代で最短の突破記録を持つキバナさんも最終的に2ヶ月は掛けているし、それにマリィ選手やビート選手のペースが合っているのなら、私が彼ら彼女らと接する機会がないのは当然である。

 

「…………」

 

ただまあ、そのことについて「良かった」などと考える私は、やっぱり傲慢な人間なのだろう。彼らの可能性の芽を摘まなくて良かった。彼らに影響を及ぼさなくて良かったと。馬鹿馬鹿しい。これまでさんざ道行くトレーナーを蹂躙しておいて何様のつもりだ。辛い。苦しい。心が痛い。でも、今更やめられない。

 

「──おれさ。勝手なんだけど、アンタには結構親近感湧いてるんだよね」

「…………」

 

立ち塞がる敵を蹂躙し、遂には私は街の最奥まで足を踏み入れる。

 

ジムと言うには明らかに異質。けれどもそれはスタジアムが統一されているガラル地方においてだけで、カミツレさんやホミカさんのように過去作を含めるなら、ライブ会場がジムというのも珍しい話ではない。

 

「ダイマックスが使えないジムスタジアムだからさ──ダイマックスを使わずに勝ち進む君みたいなのが増えれば、この街ももっと栄えるんじゃないかって……」

 

だらりと手足を垂らした脱力した姿勢で、スパイクタウンのジムリーダー、ネズさんが私に語り掛ける。

 

しかし、その内容は切実だが──私みたいなのが増えることはないだろう。私は異端だ。私のような例外が現れることはおそらく無く、そんな奇跡に頼るようでは、いずれにしろこの街に未来はない。結局のところ、この街を愛する誰かの手で、地道に復興していくより他はないのだ。

 

流石は哀愁を名乗るだけあってか、その語りにどこか感じ入ってしまった私が口下手ながらにそう話すと、

 

「だよね──ほんとうはおれも、分かってはいるんだ。けどさ、おれはダメなやつだから……こうしてマイクを握るくらいしか、できることはないんだよね」

「…………」

「だけど、それしかないからこそ──目の前の観客を楽しませるのは、全力でありたい。あんたには慣れっこかもしれないけど……ダイマックスを使わない闘い方ってやつ。おれがちょっとは魅せてやりますよ」

 

雰囲気が変わる。空気が緊張する。妖しげな空間を醸し出すライブ会場が、その瞬間からスタジアムに変貌する。

 

「ふぅ……」

「…………」

 

スパイクタウンジムリーダー、人呼んで哀愁のネズ。ダイマックスが嫌いなのか、単にポリシーの問題なのか、ダイマックスを使わずしてガラル地方有数の実力者であるということで、信奉者に近い熱狂的なファンがいるとの噂もある。

 

「おれは! スパイクタウンジムリーダー! あくタイプの天才、人呼んで哀愁のネズ!」

 

そして、その噂は真実だろう──この街のジムトレーナーの、エール団の人達を見ればわかる。彼が本気になるや否や、それまで彼の前で騒いでいたのが嘘のように観客に徹している。

 

(つまり、それほど人を魅了するトレーナー……。でも、そんな彼も、ノラの前では、きっと──)

 

「行って、ノラ!」

「さぁ、みんなも名前を呼んでくれ! 行くぜズルズキン、『いかく』だ!」

 

ズルズキンが吠えると、これほど小さなステージなのに、観客の埋まったスタジアムにすら匹敵する歓声が巻き起こる。周り全てがネズさんの味方というアウェー感。まともな人間なら、この空気に呑まれないなど不可能だろう。

 

「ノラ、『エラがみ──」

「『ねこだまし 』!」

 

ぱぁん! と小気味いい音が鳴り響き、音が反響するステージなのもあってか思わず耳を塞いでしまう。拙いと思うも既に遅し、その僅かな空白の間に、彼のズルズキンは行動を起こしていた。

 

「ズルズキン、『すなかけ』だ!」

「! ──しまっ、…………『エラがみ』!」

 

まんまとしてやられ、このままでは為すがままになると、多少強引にでもノラへ指示を出す。すなかけと呼ぶには大分派手な、煙幕のような砂塵が舞い散る中であっても、ノラなら攻撃を当ててくれると信じて。

 

「ならば、セカンドシングルだ! みんな、臭うけどいいよな! 『ふいうち』『どくどく』だ! スカタンク!」

 

その判断が功を奏したのか、砂埃舞う視界で、ネズさんが新たなポケモンを呼び出す。もはや順番なんてどうでもいい。宣言通りにここで毒を喰らうのだけはまずいと、ノラを信じてその指示を出す。

 

「──ノラえもん、『エラがみ』!」

 

直後、突如発生した爆風が砂埃を取り払う。しかしそれよりも先に猛烈な悪臭に顔を顰める。

 

(──仕留めた? 多分、これはスカタンクの『ゆうばく』……って、あまりうかうかしてられない──)

 

「バシバシ行くぜ、カラマネロ!」

「っ──」

 

砂と悪臭により涙で歪む視界。無理やりこじ開けるも、敵の姿が視認できない。それは立ち位置の関係だろうか? ノラに隠れて見えないのか、少なくとも、タネも仕掛けもあるだろうことは間違いない。

 

しかし、私にはそのタネを見破れない。気配を悟ることも今は難しい。やはり私の才能は、どこまでも後付け(チート)のものでしかないのか。どれほどスペックが並外れていても、使い手が未熟だとこうも無様なのか。

 

「噂通り、すげぇ攻撃力だなぁ、ああ!? その力、利用させてもらうぜ!

──カラマネロ、『イカサマ』だ!」

「あ──………」

 

初めて──そう、本来(ゲーム)であれば絶対に有り得ない行動順により放たれた攻撃が、初めてノラの身体に傷を刻む。

 

いくらノラが最強のポケモンであっても、それを操るのはあくまでも私であり、ならばこの結果は私の不徳で、本来であればヤローさん相手に晒すべき姿だったはずだ。

 

「ノラ──」

 

ただ、よりにもよってこの場面で、相手の力を利用する『イカサマ』になってしまったのは、どう考えても私のせいで、それがノラを苦しめることになったのなら──

 

(……何をやってるの、私)

 

視界が切り替わったような錯覚を覚える。ふつふつと湧き上がる無力感がその身を焦がす。かつて廃人であった私の意識が、腑抜けた私に活を入れる。

 

(──何をこうも油断している。余計なプライドは捨てろ。闘っているのはノラだ。私じゃない。敵の姿が見えないからなに。まともな指示ができないからなに。本来ならそんなもの、私にはハンデにすらならないはずでしょう?)

 

躊躇わず。容赦なく。遠慮なく。淡々と。それを望めば、ノラは必ず成し遂げる。

 

最強のポケモンであれ──それを体現した存在とはすなわち、普通にやれば負けることはないということ。それが普通にできないのは私の所為だ。私の存在が、ノラのストッパーになってるからだ。

 

あの子は私を親だと慕ってくれている。だからこそ指示を受け、それに従う。分かりやすい足枷だ。ならばネズさんにそこを狙われるのは当然の話、流石はあくタイプ使いの天才だと感心する。だからこそ、

 

(………)

「ノラ、自分で狙って『エラがみ』、お願い」

 

溢れ出す感情を押し殺して、私は一旦()()()()()()()。最低限の方針を示して、戦闘全てをノラに託す。私に無理なら、出来るこの子にお願いする。私が望むなら、ノラはそれを叶えてくれるから。

 

「ナイスファイトだ、カラマネロ! さぁ、次こそ真打ちだ! みんな、存分に自慢してくれよな!」

「…………」

 

そして目論見通り、望み通りにノラが何処かに隠れていたはずのカラマネロを自慢のエラで迎撃し、遂にはラスト一匹との勝負になる。

 

その事実に、どうもやり切れない思いを抱くものの、ノラの負担には代えられないと飲み込んで、

 

「とっておきのナンバーだ! 甲高い唸り声が自慢のタチフサグマ!!」

「ノラえもん、全力で『エラがみ』!!」

 

最後は絶対に間違えないタイミングで指示を出す。最初からそうしていれば、無駄にノラを傷つけることがなかったその一言。受けたダメージの多寡の問題ではなく、よもやそれを招いてしまう可能性を、ほんの僅かであっても減らすために。

 

「──『ブロッキング』だ、タチフサグマ!」

 

ノラのその一撃に対し、ネズさんがタチフサグマにした指示は実に堅実なもの。それは如何なる理由なのか。才能がない私には、どうにも彼の意図は掴めない──でも。

 

 

「『ブロッキング』……? それは──」

 

 

(………それは、それだけは絶対に駄目でしょう。ネズさん。私のノラを前に、その行動は悪手でしかない──)

 

 

どのような意図があったとしても、何をするつもりだったにせよ、絶対に選んではならない選択肢を選んだネズさんに呆れ果てる。

 

ノラを相手にするつもりなら、間違っても攻撃を受けようとしてはならない。攻撃そのものを避けるか身代わりを立てるか──いずれにせよ、ノラを前に防御態勢なんて、どうぞ破壊してくださいと宣言するに等しいのだから。

 

「──な!?」

 

いつかとは違い、鬩ぎ合うなんてことさえもなく──あまりにあっさりと、ネズさんのタチフサグマはその一撃に沈黙する。

 

これが当然の結果。でも、それを初めから押し通せなかったのは、ひとえに私が未熟なせいだ。()()()()()()()()()()()()

 

「ダイマックスせずとも、これだけの闘いができる。それを見れただけで満足です。ではこちら、あくバッジです。また、いつかお会いしましょう」

「………どうも」

 

しかし、そんな私を、こんなにも無様な私を、彼らは褒め称えてくれる。その事実が、その齟齬が、私の心を締め付けるのだった。

 

 







ネズさんのタチフサグマはのんきHB252で防御特化だったりしますが、それでもダイマを切ろうが確定一発です。対戦ありがとうございます。
また、ウオノラゴンの火力は特性と技だよりで種族値は防御よりなのでイカサマも大したダメージにはなりません。
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