省エネ主義者は実力至上主義の教室へ入学する   作:姫宮結弦

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実力至上主義の世界
2.省エネ男子は推理する


「皆、少し話を聞いて貰っても良いかな?」

 

入学式までの待ち時間、ガヤガヤしていた教室で皆に声を掛けたのは如何にも好青年といった雰囲気に生徒だった。the・優等生と一目見ただけで分かってしまう。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

おぉ......つい俺は敬意を表する拍手を送るところだった。

初めて顔を合わせる人たちの前でこうして堂々と話せるのは天性の才能としか思えない。

俺なんて3年間通った中学校でも皆の前で話すことなんて出来なかったというのに。

このさわやか好青年が今後このクラスを引っ張っていく存在になるんだなと思った。

 

「賛成ー!あたしたち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」

 

口火を切ったのは金髪の長めのポニーテールの如何にもギャルって感じの女子生徒。

その女子生徒に続いて、迷っていた生徒たが賛成を表明した。

大多数の生徒が賛成したことにより、発案者である平田から自己紹介が行われた━━━━

 

 

自己紹介で印象に残った生徒は何人かいた。まず発案者である好青年は平田洋介。整った容姿に柔らかい口調、おまけにサッカーまでやっているというイケメン要素とりあえず詰め込んでみました感満載で、女子からの人気は凄いことになるだろうと安易に想像できた。そして池と山内。二人は如何にもお調子者といった感じだった。平田とは反対で女子からはあまり好かれなさそうな印象だ。俺が言えたことではないが。次に櫛田桔梗。彼女は可愛らしいルックスをしていてスタイルも良い。そして全員と仲良くなりたいなんて目標を掲げていた。男を勘違いさせまくりそうな誰にでも優しい系女子。彼女は男女からの人気が凄そうな印象。いや既に人気が出始めていた。

櫛田の次は唯我独尊という言葉がぴったりとあてはまるような長めの金髪の男子生徒、高円寺六助。大企業の御曹司らしく、自分が正しい、自分が世界の中心と信じている個の塊の生徒。まともに会話が出来そうにない。

次はさっき平田の案にいち早く賛成したギャル、軽井沢恵。本当にギャル。可愛いギャル。

そして篠原さつき、佐藤麻耶、松下千秋と続いていった。

途中赤髪の不良にしか見えない男子生徒が自己紹介に文句を言って教室を出て行った。

それに同調するように自己紹介を放棄して教室を出ていく生徒は数人見受けられた。

その中にさっきみた黒髪ロングヘアー美人も含まれていた。

ちなみに黒髪ロングヘアーの隣に座っていた生徒は綾小路清隆と名乗った。

自己紹介だけを聞けば極々平凡な生徒に見えるが、俺には底知れない何かを感じた。

ただそれが何かは見当はつかなかった。

俺と千反田も無事に自己紹介を終えて、入学式へと向かった。

自己紹介の時、俺と千反田の関係について色々聞かれたが、付き合ってないとしっかり否定した。

というよりは千反田にしっかり否定された。千反田に恋愛感情を抱いているわけではないが、ちょっぴり心に傷が入ったのは誰にも言うまい。

 

 

入学式は特に何も起こらず、入学式が終わった後は解散となり、それぞれ友達同士カフェに行くなり、カラオケに行くなり、ショッピングに行くなりした。この学校にはありとあらゆる施設が存在する。

ここって何街?と問いたくなるほど殆ど全てが揃っているこの学校は楽園と感じる生徒も少なくないだろう。この学校は学費が1円もかかっていない。おまけにいきなり無償で10万円支給してくれるんだ。

何故不思議に思わないのか。そこに俺は疑問が生じた。

そして俺は千反田と一緒にカフェでもなければ、カラオケでもない。コンビニに足を運んでいた。

 

「「......あ」」

 

俺と千反田はコンビニに入ると、そこには綾小路と黒髪ロングヘアーの女子生徒がいた。

俺たちと同じように二人で来たのかだろうか。

少し気まずい雰囲気になってしまったのでこちらから話してみることにした。

 

「確か、綾小路だったか?」

「ああ、そっちは折木だったな。それと千反田か」

「覚えてくれてたんですね綾小路さん、改めて千反田えるです。よろしくお願いしますね」

「ああ、よろしくな、千反田、折木」

「よろしく、それでそこの人は?」

 

一通り挨拶を終え、俺は綾小路の隣にいる黒髪ロングヘアーに名前を尋ねてみることにした。

さっきの自己紹介にはいなかったため、本当に名前が分からない。

そろそろ黒髪ロングヘアーと呼ぶのは疲れてきたしな。

 

「あなたに教える必要は無いと思うけれど」

 

冷たく返されてしまった。

というよりこんなにクールを極めた女子とよく話せるようになったな綾小路。

 

「私千反田えると申します。あなたのお名前は?私に教えてくれませんか?」

 

千反田が目をキラキラと輝かせ、黒髪ロングヘアーの顔を覗き込んだ。

そういえば千反田も黒髪ロングヘアーではないか。紛らわしいから早く名前を教えてくれ。

 

「堀北よ。堀北鈴音」

 

おぉ、千反田が頼むと以外にもあっさり教えてくれた。

堀北と名乗る少女は男が苦手なのか。それにしては綾小路と一緒にいるしな。

 

「堀北か。よろしくな」

「あなたとよろしくするつもりはないけれど」

 

おい!どうやって綾小路はこんな女と仲良くなったんだ!

せっかく省エネ主義者の俺が残り少ない気力を振り絞ったというのに悉くあしらわれてしまう。

 

「なあ、綾小路はどうやって堀北と仲良くなったんだ?」

 

後で千反田が気になりそうな疑問を先に潰しておくことにした。

こんなにも人を寄せ付けない人間が一人の男と共に行動してるのは疑問として残ってもおかしくない。

引きずるよりも今解決して方が結果的に消費する労力は減る。

 

「オレと堀北は......仲いいのか?」

「私はあなたと仲良くなった覚えは無いしこれからも仲良くするつもりは無いわ。ここでっ会ったのも偶然、隣の席も偶然。本当嫌な偶然よね」

「......同感だ」

 

流石にこれは綾小路に同情せざるを得ないかった。仲が良いわけではなく、偶々居合わせたというわけか。

綾小路と堀北は既に買い物は済んでいるそうで先にコンビニから出て行った。

 

「俺たちも買うか」

「そうですね。色々必要なものはありますし」

 

コンビニには多くの日用品が揃っている。千反田は女子なため、男子の俺よりも買うものは必然的に多くなるだろう。二人とも短時間で買うものを買い物かごに入れていく。少しの間物色していると、ふとある場所に目が留まった。

 

「これは無料コーナーですか?」

「そうみたいだな」

 

俺たちの目の前にあるのは無料と書かれたかごにいくつか商品が入っていた。

かごには『一か月三点まで』と注意書きされている。

制限されているのにもかかわらず、随分と売れてるんだな。殆ど商品は残っていなかった。

 

「10万ポイントを全て使い果たした人の為の救済措置と言ったところでしょうか?」

「10万もの大金を全て吐き出せる人間がこの学校には多いみたいだな」

「......何か違和感を感じます。折木さん、おかしくないですか?」

「どこかおかしい所はあるのか?」

 

とりあえず俺は初めの一回は惚けることにしている。

省エネ主義者の俺にとっては千反田の疑問解消には関わらない方が良いからな。

だがそんなことで千反田は折れるわけがない。

千反田は感じ取った違和感は俺も感じている。

そしてそれは朝茶柱先生が説明したSシステムについて大きく関わっているかもしれない。

......そうか。何となくわかった気がする。

 

「折木さん、何か分かったみたいですね」

「ああ、後で説明する」

 

俺は先に買い物を済ませ、後ろにいる千反田が会計を行っているのをコンビニの外で待つことにした。

自動ドアをくぐると、コンビニの前にあったゴミ箱がひっくり返えっており、そのゴミ箱を綾小路が一人で直していた。近くには苛立った様子の赤髪の不良が背中を向け、何処かへ歩いて行った。

確か一番初めに教室から出て行った生徒だったか。

見て見ぬふりは出来ないため、俺も手伝うことにした。

 

「すまない折木」

「気にしなくていい。それよりあの赤髪がやったのか?」

「よくわかったな。須藤っていうんだ。その須藤がゴミ箱を倒したんだが、見てたのか?」

「いや、後ろから見ても須藤は苛立ってる様子だしな。それにゴミ箱の近くには綾小路と須藤しかいない。考えなくても須藤がやったってわかる」

「そうか、オレも全部は見てないんだけどな。須藤が上級生に煽られてたんだ。『不良品』て罵られてたな」

「それで、か」

「そんなところだ」

 

 

 

千反田がコンビニから出てきて、俺たちと綾小路は別れた。

そして今、最低限の家具が置かれている僅か8畳ほどの俺のワンルームに俺と千反田がいる。

あまり人に聞かれたくないというのと、男が女子の部屋に入るわけにもいかないので、仕方なく俺の部屋に千反田を招くことになった。

床は痛く、椅子も無いため、2人ともベッドに座っている形なのだが、どうにも居心地が悪い。

 

「折木さん、なんだかカップルみたいですね」

 

平気でこういうことを言ってくるから余計に居心地が悪いんだよ!

俺はわざとらしく咳払いをして、本題を切り出すことにした。

 

「まずお前の疑問はなんだ」

「気になったのは茶柱先生の説明なんですけど、そうです、何故毎月1日にポイントが振り込まれるのに、明確な支給額を教えてくれなかったのでしょうか?」

「あくまで推論だが、恐らく、毎月に貰える支給額は増減するからだ」

「だから明確に何ポイント振り込まれるか伝えられてなかったんですね。もしかして、コンビニの無料コーナーもこれに関わってるということですか?」

「多分そうだろう。今日は㋃の初めだ、つまりポイントが支給されていて潤沢な資金を得ているはず。それなのに無料コーナーの商品は殆どなくなっていた。それはポイントを使い果たした人が買ったのではなく、ポイントを()()()()()()()()が買ったんだろう」

 

正確にはポイントの支給額が少ない生徒、だがわざわざ訂正しなくていいだろう。

そして数量限定にも関わらず、あそこまで商品が減っているということは、無料コーナーにお世話になっている生徒は少なくない。ということも推測できる。

 

「では、そのポイントの増減はどうやって決まるんでしょうか」

「それに関しては先生も言ってただろ。この学校は実力で生徒は測る、と。そしてこの学校に入学できた俺たちはその評価として、10万もの大金を得た。つまり俺たちの実力が細かく評価され、その評価に見合ったポイントが支給される」

「確かに茶柱先生はそう仰ってましたね。ではその実力というのは?その言い方をしているということは学力だけではないということですよね?」

 

千反田もなかなか鋭い。俺に比べて学力は高いし当然とも言えることだが。

 

「お前の言う通りこの学校の定義する実力は何も学力に限った話じゃないだろう。だがその実力の明確な定義は俺にも分からん、あまりに抽象的すぎる。だが一つだけ実力に一部に数えられてもおかしくないものはあるかもしれない」

「それは一体何ですか!?気になります!」

「そんなに慌てるな。千反田、教室にあった監視カメラには気づいてたか?」

「はい、教室までの廊下やコンビニの前にもありましたね」

 

千反田は嗅覚、聴覚のなどの五感が犬並みに優れている。

人ではない視線にもすぐに気づいたか。

 

「あの監視カメラは生徒の行動を監視するためにある」

「監視というのは、暴力行為などでしょうか?」

「勿論それもあるだろうが、教室だけに限った話をすれば監視カメラの一番の目的は()()()()の監視だろう」

 

千反田の言う暴力行為などが起こらないよう監視するだけが目的なら教室にわざわざあんな大量の監視カメラを設置する必要は無い。にもかかわらず無駄に大量に設置されていると思われる監視カメラの目的は生徒の授業態度の監視、先生からは見えないところまで、全て上から監視するというわけだ。

 

「その授業態度が悪かった場合は......」

「来月に支給されるポイントが減らされるかもしれないな」

 

決定的な根拠があるわけではないが、筋は通る。そして授業態度は良いのが当たり前。すなわち実力の基礎にあたる。その基礎ができていなかった場合は実力が低いとみなされ、低い評価をされ、後にポイントに響くことだろう。

問題はその評価というのは個人対なのか、クラス単位なのか、あるいは両方か......。

 

「あの、授業態度が悪い生徒たちがいたとして、来月振り込まれるポイントに影響するのはその授業態度が悪かった生徒だけなのでしょうか?」

 

千反田もその疑問に辿り着いたか。

しかしこれも少し考えれば何となく推測が立った。

 

「多分クラスに反映されるな」

「なにか根拠があるみたいですね」

「根拠とまではいかないが、茶柱先生が朝に説明してただろ?この学校にはクラス替えが存在しない、って。生徒個人の実力を測るなら、クラス替えを行っても何も問題はない。他人何て関係ないからな。だがクラス替えをしないということはクラスの生徒たちと協力し合わなければならない場面も出てくるかもしれない。つまり協調性という実力の一部が試される。恐らくクラスごとに成績みたいなのがあるんだろう。各クラスの生徒個人の実力を測り、その実力がクラスの成績に反映される。そしてそのクラスの成績に見合ったポイントが毎月1日に支給される」

 

となればこの学校にクラス替えが存在しないのも頷ける。この学校が定義する実力がなんなのかはまだ不明瞭ではあるが、協調性が求められるのは不思議じゃない。社会に出たら必要な能力の内の一つだしな。それにこの学校は意味のないことはしないと予想している、何事にも本質がある。だからこそこの学校のクラス替えが存在しないということはそれだけ団体に重きを置いているということになる。

クラスの評価によって市ポイントの支給額が変わる。実に俺に不向きな制度だ。

 

「なるほど......全て納得いきました。簡単にいうと生徒の実力を測り、クラスの成績に反映する。そしてクラスの成績によってポイントの支給額が変わる。実力は未確定ですが、授業態度は最低限入ってくる。こんな感じでしょうか?」

「今日で分かるところは概ねそんなところだな。もうおまえの気になってることは無くなったか?」

「そうですね。大体は」

「まだあるのか......」

「はい、どうして茶柱先生はこのことをしっかり教えてくれなかったのでしょう?折木さんの話を聞く限り、それにも何か意図あると思います」

「それは単純に試されたんじゃないのか?答えは告げられてなくてもヒントは沢山転がってた。それら一つ一つのピースを拾ってつなぎ合わせていき、一つのパズルが完成する。そのパズルを生徒たちの力で作り上げることができるのか、見極めてたかった。まるでそのくらいできないと後の学校生活に支障をきたすと言われているみたいだ」

「それなら折木さんは一人でパズルを完成させることが出来たということですね!さすがです折木さん!」

「いや、たまたま分かっただけだ。俺が凄いんじゃない」

「そう言って折木さんは毎回はぐらかしますけど、もうそんな言葉は信用しないですからね」

 

これ以上はぐらかしても聞く耳を持ってくれなさそうだな。

 

「それで折木さん、今日わかったことはクラスには共有するんですか?」

「少なくとも俺からするつもりは無いな」

「なら、私も何も言いません」

「いいのか?もし授業態度が最悪で来月の支給されるポイントが極端に少なくなる可能性もあるんだぞ」

「折木さんが言わないのには何か特別な意図があると思うので」

「なら、そういうことにしておく」

 

本当はただ面倒くさいだけだが、勝手に納得してくれたみたいなので何も言わない。

まだ一つ不明確な部分が無いことは無いが、そのことに関しては機会があれば調べることにしよう。

今、特別知りたいわけじゃないしな。

pptが大切なことは今日の説明を聞いて分かったが、別に貯めようとは思っていない。

クラスがどうなろうと俺にはあまり関係ないしな。極力静かに過ごしたいものだ。

 

「これからは省エネ生活は出来そうにありませんね」

「やらなければいけないことは手短に、だ。どの行動が結果的に一番省エネか、それを考えて生活するだけだ」

「ふふ、折木さんらしいですね」

「俺らしい......か」

「はい、折木さんらしいですっ」

 

そのあと千反田と他愛もない話をして、頃合いになったところで彼女は帰っていった。

1人残った俺はシャワーを浴び、ベッドにダイブした。

今日はいつもより何かと疲れたので、直ぐに眠りについた。

 

 

 

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