そして水泳の授業は省略しています。
奉太郎では、私の頭ではオリジナル要素を入れるのは難しいのと、氷菓の強みである推理が出来ないので、断念しました。ご了承ください。
(オリジナルで水泳中に何か事件を越せばよかったのでしょうが、綺麗に構成を考えれる自信が無かったので、止めにしました)
生徒会室から出た俺たちは帰路についている。
隣を歩く千反田は少しむくれている。大体想像はつくが......。
「確かに折木さんが凄いのは分かってますけど、私の事完全にいないもの扱いしていましたよね?」
やっぱりそうだったか。やたらと生徒会長が俺の事を高く買うもんだから相手にされなかった千反田は嫉妬しているのだ。
「スペックは何処を取っても千反田の方が上だけどな」
これは紛れもなく事実。身体能力は性別が違う以上比較するのは難しいが、学力は圧倒的に千反田の方が上、もし性別が同じなら身体能力も完敗だったはずだ。
もしかしたら女子である千反田に男子である俺が負けている可能性も0ではない。
「そうですね。この学校が求める実力を持っているのは私の方ですもんね」
「否定はできないが、直接言われるとな......」
こんなにムキになっている千反田を見るのは初めてかもしれないな。
俺と千反田の付き合いは長い方だし、こうしてたまには千反田らしくない様子を見せる時くらいあるか。
そういえば俺と千反田は中学一年からの付き合いだったか......。
*
俺は
鏑矢中学校には『古典部』という他の中学には見ないような部活があった。
そして俺は姉貴の折木
中学から千反田は気になることを見つけては、俺に訊いてきた。
千反田は学業優秀で記憶能力や五感まで優れている。運動もそれなりに出来て料理もできて、人当たりも良く、千反田と親しくしている生徒は多かった。なんでも千反田は神山という地域の4名家の内の『豪農』千反田家の一人娘。所謂お嬢様なのである。
今、俺たちが通っている高度育成高等学校にも千反田家の事を知っている生徒はちらほらいるようで、Dクラスには勿論、他クラスにも千反田と関わりを持っている生徒は存在する。俺にはDクラスにすら関わる人は少ないというのに。
ちなみにDクラスでは千反田はよく
入学してからまだ二日というのに、どうしてここまで俺と差があるんだろうと一度考えはしたが、理由なんていくらでも思いついてしまうため、直ぐに考えることはやめた。
櫛田や平田はとっくにクラスという壁を壊し始めていて、学年内でも相当な人気を誇っている。千反田も学年内では有名な生徒にあたるため、その横にいる俺も知名度だけは密かに上がっているのだった。
とまあ、そんな感じで千反田と関わり始めて4年目になったが、いじけている千反田を見るのは新鮮だ。
*
「.........れきさん」
「......折木さん」
「!?」
「どうしました?真剣な表情をしていましたが」
どうやら回想に入っていた俺は周りの音を遮断するくらい集中していたらしい。
「すまん、ちょっと考え事だ」
「もしかして、生徒会長が堀北さんの所属しているクラスがDクラスということを知った途端、呆れたような表情をしたのが何故か考えたんですか?」
「え?」
適当にはぐらかすつもりだったが、また面倒なことになるかもしれない。
確かに千反田の言ったことは気にならなくもないが、知りたいとも思わない。
「私ずっと考えてたんですけど、Dクラスには良くない何かがあるんでしょうか?」
「さあ、見当もつかないが」
そう言って足を動かすスピードを早める。何故だか急激に寮に帰りたくなったからだ。
「待ってください」
「なんで」
「気になります」
「ならない」
「気になります」
「なってない」
「私、気になります」
「......はい」
さて、Dクラスに何かがあるのではないか、という疑問だが、その答えはすぐに出そうだ。
入学初日、コンビニの前で須藤が上級生に『不良品』と罵られていたと綾小路から聞いている。
入学初日なので須藤とその上級生が出会ったのはあの時が初めてなはず、と考えると、初対面なのに、『不良品』と言って須藤を貶したことになる。
確かに須藤の見た目の印象はお世辞にも良いとは言えないが、それだけで『不良品』という感想が出てくるかと言われればそうではない。
つまり一目見て『不良品』と判断できる材料があったことになる。
それが恐らく『Dクラス」だろう。
須藤はDクラスに所属していることを知って『不良品」と罵った。
今日の生徒会長の反応を見て何となくわかった。
「━━てことだ」
「なるほど、つまり私たちは不良品なんですね」
「ああ、だが疑問に残っていることがある」
「何でしょう?折木さん」
「千反田だ」
「え?」
「なぜ不良品のクラスに千反田がいる」
そう、今俺の隣を歩いている千反田が謎だ。
だから何となく分かっただけで確信に持っていくことは出来なかった。
中学で三年間見てきたが、千反田には欠点らしい欠点は見当たらない。
確かに人間である以上、至らない点はあってもおかしくないが、それだけで不良品扱いはされないはずだ。
もしそうなら俺なんて今頃廃棄処分されているに違いない。
「あ、そのことなんですが、恐らく私の父が学校に直接お願いしたんでしょう」
「どういうことだ?」
想像していた話と違いすぎて理解が追い付かない。
「この学校には理事長がいるんですけど、知っていますか?」
「知ってるわけないだろう、今知った」
「その理事長が『坂柳』さんと言うんですけど、その理事長と私の父が親しくしているみたいで、折木さんと同じクラスになれるようにしてほしいと頼んだんです」
「そんなことってありなのかよ......」
もしそんなことが表に出たらまずいんじゃないかと思う。がこのままでは話は終わらなさそうだ。
千反田は話を続ける。
「折木くんはDクラスへの配属が決まっていたみたいですし、Dクラスなら可能ということで許可を得ました」
なるほど、何故千反田が俺と同じクラスになりたかったかはこの際置いといて、不良品が集まるクラスだからこそ、なんとか許可を得たというのか。これで確信を得たな。この学校ではDクラスは落ちこぼれ、それ以外のクラスはDクラスよりも優秀ということ。もしかしたら実力順になっているとも考えられる。そう考えると、Aクラスが一番実力のあるクラスと考えるのが妥当か。
その仮説で話を進めてみるが、もしも、いや絶対にありえない話だが、仮に俺がAクラスだったとしたら、理事長に頼み込んでも不可能だったのだろう。頼み込みで優秀なクラスに配属されるなど、理不尽極まりないからな。
......違うな。仮に俺がAクラスだったとしても千反田なら実力だけでAクラスだっただろう。
なんて勿体ないことをしたんだ、今隣で歩いている千反田える!
というか、父のコネを使って所属するクラスを変えるなんて流石は名家だ。
俺の家庭じゃそんな話は非現実的すぎて、想像すらしたことがない。
ともかくこれで疑問は晴れてスッキリした。早く部屋に帰って本でも読もう。
あれからは何事も起きることなく、平和な日常を過ごしていた。
ただはっきりしたことがある。それは俺の周りには誰もいないということ。
つまり孤独組だ。いや、友達が欲しかったわけじゃないが、一人だと反って目立つ。
女子の中ではDクラスのアイドル的ポジション、櫛田桔梗。
Dクラスのリーダー的ポジション、軽井沢恵。
Dクラスのお嬢様ポジション、千反田える。
とまあ女子の中では各生徒のポジションやグループが確立していた。
勿論女子の中にも一人でいることの多い生徒は存在する。
特に堀北なんかは、孤独というより、誰一人寄せ付けない。近寄れないオーラは半端なかった。
唯一話していたのは綾小路と千反田くらいか。俺も千反田と一緒にいる時はたまに言葉を交わすが、決して親密と言える関係ではない。
勿論男子もグループが形成され、確立してきた中で、俺と綾小路と高円寺を筆頭に孤独組も出てきた。
俺と綾小路はたまに一緒にいる時はあったが、基本的には一人だ。高円寺は他人には興味がなさそうで、誰が話してもまともに会話が成立しない。しかし高円寺は以前あった水泳の授業では見事クラス1の記録を叩き出し、驚愕したのを覚えている。他にも須藤や平田も速かったし、堀北や櫛田、千反田も速い部類に入った。あとは名前は忘れたが、水泳部に入っているらしい女子生徒もいた気がする。
ちなみに俺はほぼ平均的な速度であった。綾小路も似たようなタイムだった。
そして水泳の授業が終わる際に、平田から授業態度を改めようという声かけが行われた。
何故そんなことが行われたかというと、それはもう授業態度があまりにもひどいからである。
遅刻や無断欠席に睡眠に私語に携帯やゲーム。全て咎められるものばかりであるが、先生は何一つ注意しないのだ。
まさに放任主義もいい所。全て監視カメラで監視しているから問題ないと言いたいのか。
ともかく、この調子でいって、俺の推測が当たっていれば、来月支給されるポイントは限りなく0に近いかもしれない。いや、0になる可能性だって大いにある。平田はSシステムの仕組みに気づいているかは分からないが、少なくともこのままではまずいと思っての行動だろう。
しかし結果はほとんど変わらず。このまま引きずってついに4月の末まで来てしまった。
5月になるまでの頃あと僅か。
*
「ちょっと静かにしろー。今日はちょっと真面目に授業を受けて貰うぞ」
残り数日で5月を迎える日の三時間目。日本史の授業だ。
茶柱先生は教室に入ってくるなりそう言った。
「どういうことですか、佐枝ちゃんセンセー」
いつの間にか一部の生徒からはそんな愛称で呼ばれていた。
愛称は可愛らしいが実際の茶柱先生は生徒に対して何の興味も示していないように見える。
本当に教師をやっていて楽しいのかと疑問に思う程だ。
「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」
そう言った茶柱先生は小テストのプリントを一番前の席に座っている生徒に配っていく。
周囲からは「えぇ~聞いてないよ~。ずる~い」などと文句を垂れる声が聞こえてくる。
「そう言うな。今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表
成績に関わらないことを聞いた生徒たちは安堵したようで、茶柱先生の合図に合わせて、小テストが行われた。
問題の内容は一科目4問、全20問の100点満点。各5点という配点だ。
皆が問題に目を通し始め、俺も同じようにする。
(なんだこれ......)
この学校の門を見たときと同じ感想が出てしまった。
なぜなら小テストの内容は勉強が得意ではない俺でも簡単に解ける程難易度が低い問題ばかり。
しかしその簡単な問題が続いたのは17問目まで、残りの3問は桁違いに難易度が高かった。
というより全く見たことのない問題なので、難しいかもわからない。
とにかく、高校一年で習う範囲じゃないことだけは俺にも分かった。
俺は潔くお手あげ。机にペンを置いた。
17問までは難なく解けた。85点は取れているだろう。
大体の生徒は85点なんじゃないだろうか。
もしかしたら千反田なら90点以上もありえなくはないかもしれない。
俺は小テストのプリントを裏に返し、時間切れになるまでボーっとしていた。
*
「それは......『さらば愛しき女よ』ですか?」
小テストがあった日の放課後。図書館で本を読んでいると、後ろから声が掛けられた。
千反田ではない。何故なら千反田は今友達と遊んでいる。ということは必然的に俺一人で図書館にいることになる。
俺は恐る恐る振り返った。
「えっとー、誰だ?」
見たことのない顔だった。髪はロングでおしとやかな雰囲気を放つ女子生徒。
「すみません、申し遅れました。私1年Cクラスの椎名ひよりと申します」
同級生だというのに丁寧な敬語で自己紹介をしてきた。千反田と被るなこれ......。
「俺は同じ一年のDクラス、折木奉太郎、椎名だったか、よろしく」
「はい、よろしくお願いします。ところで折木さんの読まれている本は『さらば愛しき女よ』ですよね?お好きなんですか?」
「あ、ああ。今まで部屋で読んでいたんだが、読む本が尽きてきてな。ちょうど図書館にこれがあったから読んでたんだ」
そう言うと椎名はパアっと顔を明るくした。
「いつも本を読まれるんですね。ちなみにいつもはどういったジャンルを読まれるのですか?」
「ああ、最近はミステリー系が多いな」
「でしたら、ドロシー・L・セイヤーズのシリーズはもう読まれましたか?」
椎名は目をキラキラと輝かせながら、話を続ける。
「いや、気にはなっていたんだが、まだ手を付けてないな」
「であれば━━そうですね、是非『誰の死体?』をオススメします。ピーター卿シリーズの一作目で、一度読めばシリーズを読みたくなること必至です」
「えっと......」
少し気圧されていたら、椎名がハッ、っとして不安げな表情でこちらを見てくる。
「勝手に話を進めようとしたりして、迷惑だったでしょうか?」
「いや、そんなことは無い。読んでみるよ。椎名も本が好きなのか?」
そう言うと椎名はまた顔を明るくし始めた。
「はい。いつも図書館で本を読んでいます。ここの図書館は種類が豊富なので、飽きなくていいですよ」
確かにこの学校の図書館は俺が住んでいた地域の図書館に比べて規模が大きい。
呼んだことのない作品と沢山出会えそうだ。椎名は俺よりも本について詳しそうだから他にもオススメを聞いてもいいかもしれないな。
「確かにそうかもな。でもなんでわざわざ俺に声を掛けたんだ?」
少し話しただけで分かるが、椎名は決して喋りが下手ではない。そして外見にも恵まれていることから、友達は多そうに見えるが。
「私はただ、読書仲間が欲しくて声を掛けただけです。Cクラスには小説を好む人がいなくて、話し相手がいないんです」
そういうことか。椎名の言葉に嘘は無いように見える。それに俺なんかに他の目的があるとは思えないしな。
作品というのは良ければ良いほど、誰かに共有したくなるものだ。例え友達がいなかったとしても、この作品が良かった!と周りに布教したくなる気持ちはよくわかる。
「そうだったのか。俺でよければ話に付き合うぞ」
「本当ですか!ありがとうございます」
そう言って椎名両手を合わせてにこやかに微笑んだ。
露骨に嬉しそうにされるとこっちまで照れ臭くなるからやめて欲しいものだが、天然で出てしまってるんだよなぁ。
基本俺は一人の方が気楽でいいが、椎名の雰囲気ならたまにはいいだろう。
それに他クラスと偶然接点を持てたんだ。ここで疑問を一つぶけてみることにしよう。
「なあ椎名。今日小テストは行われたか?」
「はい、三時間目に行われました。残りの三問の難易度がとても高かったのを覚えています」
「もしかして、解けたりしたか?」
「一問だけですけどね。残りの二問はさすがに分かりませんでした」
平気な顔でそう言うが一問解けるだけでも相当学力が高いことが分かる。
そして同時にDクラス以外にも同じ小テストが行われていることも分かった。
こういうのは平等に行われているのだろうか。
それから俺と椎名は小説の話に花を咲かせ、日が暮れるまで図書館にいた。