異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

1 / 27
導かれし太陽
天変地異


「馬鹿な!?」

 

 異世界転移当日も夜が来ると同時に、異変を自分自身の目で確かめる人々が増え始めた。

 

「は、春の大三角は.........どこだ」

 

 ふと夜空を見上げたアマチュア天文家から、JAXAや国防宇宙軍の研究員までが、衝撃に打ちひしがれ、愕然とした。子どもの頃から見慣れた不変の星空が、まったく違うなにかに変わっていた。

 

「落ち着けよ、.........星図が変わるはずが.........」

 

「落ち着いていられるか!だいたい北極星は?北極星がないじゃないか!」

 

 有史以前から人類を導いてきた北極星がない。

 春の大三角や夏の大三角、へびやおとめといった著名な星座がない。

 星図がまったく違ったものに変わっている。

 それどころか...........

 

「月が、違う」

 

「そう言われれば、確かに大きさも模様も.......」

 

「晴れの海も静かの海も、コペルニクスのクレーターもない!」

 

 能面のようにのっぺりとした凹凸のない月が、爛々と日本の夜空に輝いていた。そのさまは、まるで鏡。何の面白味もなく、太陽の光をそのまま反射するだけの、不気味な衛星。それを見たとき、天文学者から一般市民まで、自分が全く異なる世界に迷いこんでしまったような不安に襲われた。

 他に人工衛星の機能不全。インターネット通信の不調。国際電話回線の断絶。消息不明となる国際便。一向に現れない入港予定の外国籍の船舶。

———————————————————————————————————

「以上が、日本国内で現在起きている異常事態の概要になります」

 

 この非常識的事態の連続に対して、日本政府は災害対策基本法第二八条二に基づく形で、緊急災害対策本部を内閣府に設置した。今回の非常識的事態が自然災害にあたるかは異論が残るところだが、現在進行中の異常事態が、第二八条二にて明文化されている“著しく異常かつ激甚な非常災害”に該当すること

は、間違いない。

 

「現場からの報告では—」

 

 ――樺太島(ロシア・サハリン州)が確認できず。

 ――釜山市街(韓国・釜山広域市)方面の灯火が肉眼で確認できず、韓国方面に航空機の反応なし。

 ――既存の地形と一致しない。

 

「—とのことです」

 

 国防軍総隊司令白井が佐山総理に向かって報告する。

 

「.........どういうことだ?」

 

 宇治和外相が理解できずに問い返す。

 

「わかりやすく言うと、『中国、ロシア、韓国、南洋諸島国家が一切確認できず、確認できている大陸の地形が一致しない』ということです」

 

「つまりロシアと言った諸外国が確認できない代わりに、未知の大陸が確認できると?」

 

「はい、そうなります」

 

「じゃあどこに行ったんだ?」

 

「いや待て、大陸ほどの質量がすぐに消えるわけがない」

 

 誰かが適当に出した言葉だが的を射てる。

 

「じゃあどう説明するんだ?」

 

「それは.........転移?とか......」

 

 官僚らが口々に「ありえない」と言うが、

 

「........いや、十分にあり得るだろう。科学的根拠は一切ないが」

 

 肯定したのは、佐山総理であった。

 

「証拠はどうする?」

 

 宇治和外相が聞いたが、佐山は笑みを浮かべ、

 

「直接見てくればいい」

 

 と答えた。

 

「わかりました。日帰り任務を通達しときます」

 

 「市ヶ谷に連絡」と広瀬国防相がいい、「了解」と白井が答えた。

 

「さて、原因は置いといて、ぶっちゃけ無補給で何年もつ?」

 

 新山経産相は、

 

「無補給なら、5年は持ちます。総力戦体制に移行すれば、8年は持ちます」

 

 「経済的損失を全て無視すればですが......」と付け加えた。

 

「まぁ、損失はいい、人さえ守れば問題ない」

 

 佐山総理の考えとしては、「守るべきなのは、モノではなくヒトである」と考えている。

 

「さてと、一時か恒久的かで運命が決まるな」

 

 佐山の言葉は、誰にも聞こえなかった。

———————————————————————————————————

 市ヶ谷 地下防衛総隊司令部統合会議室

 

 

「広瀬大臣からだ。『西方、南西方面の大陸を偵察せよ。手段は問わない』とのことだ」

 

「空軍による航空偵察が一番手っ取り早いですが........」

 

「まぁそれしかないが、()()()()とは言ってないんだろ?」

 

 財前副統幕長に聞かれた海野統合運用官は、

 

「はい、どこまでともなんとも言われていません。ですが、コースを逸脱するのは、国民による突き上げを食らう危険がありますが」

 

 と、考えられる危険を含めながら答えた。

 財前副統幕長が口を開こうとしたとき、

 

「いやーすまんすまん。渋滞に引っかかってたから遅れたわ」

 

 と、呑気な声を出しながら会議室に入ってきたのは、雲野副防衛総隊司令だ。

 幕僚ら全員が起立し、礼をする。

 雲野副司令が着席するのと同時に、全員が着席する。

 

「中断して悪かったね。続けていいよ」

 

「では........国民の突き上げは気にしなくていい。とりあえず、西方、南西方面大陸の偵察は、空軍による、強硬偵察を敢行させるしかない」

 

 そこで財前副統幕長は、霧島航空幕僚長を見る。

 

「了解です。速やかに、戦略偵察機JS-2を2機偵察にあたらせます」

 

「内神田空間幕僚長—」

 

「—アンドロメダ、および、ドレッドノート数隻を惑星偵察に当てます」

 

「頼む」

 

 その後、作戦内容をまとめ、官邸に送信した。

———————————————————————————————————

 

 同日 総理執務室

 

 

 国防軍の作戦計画を読んでいる、佐山総理の姿があった。

 

「..........」

 

「西方、南西方面に戦略偵察機JS-2を、それぞれの大陸を偵察させます。そして、惑星の調査を、アンドロメダ、およびドレッドノートを充てます」

 

「............この星が、どのようなものなのかはっきりさせよう」

 

「了解」

———————————————————————————————————

 

 2日後 

 

 

 当時の作戦計画は、白井の手によって、当初より大幅に増強された。

 偵察作戦に従事する部隊は下記の通り

 

 国防宇宙海軍 

 

 アンドロメダ級一番艦『アンドロメダ』

 ドレッドノート級 5隻

 

 国防空軍

 

 第1戦略偵察団-奥尻-JS-2 10機

 第6航空団-小松-E-000 2機

 同      -F-4A 20機

 第8航空団-築地-E-000 2機

 

 国防宇宙海軍

 

 第1護衛艦隊-舞鶴

 『いずも』『めいおう』『みょうこう』『なち』『あきづき』『てるづき』『かげろう』『しらぬい』『伊-01』『伊-02」『伊-03』

 

 第2護衛艦隊-大湊

 

 『ひりゅう』『せいおう』『あしがら』『はぐろ』『すづつき』『はつづき』『くろしお』『おやしお』『伊-04』『伊-05』『伊-06』

 

 第6機動部隊-呉

 『かが』『ひらぎ』『まや』『ちょうかい』『ふううん』『ながなみ』『むつき』『きさらぎ』『伊-404』『伊-405』『伊-406』

 

 音響観測隊-左から、横須賀、大湊、呉、それぞれの艦隊に随伴する。

 

 『ひびき』『はりま』『あき』

 

 と、艦艇42隻、航空機34機(海軍航空隊は含まない)、が参加するという、国防軍史上最大の偵察任務従事部隊数となった。

 なお、そのうち、大陸の偵察を行うのは、JS-2、10機の内、2機のみであるが.......。

———————————————————————————————————

 2日後 奥尻基地 

 

 

 空が明るくなり始める頃、蒼天に2機の鋼鉄の鳥が飛び立った。

 その2機は、離脱地点を迎えると、翼を振り、離れていく。

 

 その後.........

 

 国防空軍戦略偵察機JS-2、2機は、ロデニウス大陸、フィルアデス大陸を偵察、異世界国家の存在を確認した。

———————————————————————————————————

 2日後 首相官邸 総理執務室

 

 

「—以上、南西方面大陸、西方方面大陸に国家の存在を確認しました」

 

 白井が、各閣僚に報告する。

 白井が一人一人の目を見るが、例外なく全員暗い。

 

「.........中国、ロシア、韓国、フィリピンが消えた........いや..........前世界からすると、我々が消えたように思うだろうな.......」

 

 橋立特命担当大臣が、ポツリと呟いた。

 

「前世界のことを考えても仕方ない。今をどうするかだ」

 

 佐山総理が言った通り、現状切り抜けるかどうかにかかってる。

 

「というか惑星の直径が、単純計算で約2.5倍とか.........ふざけてるだろ.........」

 

「大気圧、公転速度は、ほぼ誤差の範囲内、月が2個あるとか.........何食ったらこんなになるんだ?惑星のデカさが2倍近くあるのに..........」

 

 皆本環境相が、気象庁や国防軍の天測などの報告書を見て、ぼやく。

 

「「「「は〜」」」」

 

 執務室にいる何人かの大臣がため息をつく。

 

「非日常に突入か.........」

 

 その後、

 気象庁の職員が、大気中の未知の成分、物質を確認したこと。

 国防省の職員が、軌道基地から、未知の人工衛星を発見したこと。

 を、報告した。...........他にも多々あるが、インパクトが大きかったのは、その2つだ。

 

「今のところ、国民は落ち着いていますが、いつパニックに状態になるか.........」

 

「研音、国民は俺たちを信じてるんだ。俺たちが国民を信じないでどうする」

 

 研音官房長官は少したじろぎながらも答える。

 

「そういうわけじゃ.........」

 

「まぁいい」

 

 佐山総理はそこで、偵察機が撮影した国旗を.........画像処理した、異世界国家の国旗を叩いた。

 

「接触してみよう」

 

「..........それしかありませんね」

 

 だらだら言っても、なにも始まらない。

 行動を起こすのみ。

 

「............外交団護衛には、海軍部隊を充てよう」

 

 さらっと、とんでもないこと言う佐山総理。

 

「.............」

 

 本来なら、誰か何かを言うのだが、誰もなにも言えない。

 この世界の国際条約、意識が一切不明だからだ。なので、ほぼ手探り状態での接触となる。

 しかし、佐山総理の突拍子もない意見は、全員が納得した。そう、なにが起こるか分からないからだ。

 佐山総理は、椅子をくるりと回転させ、窓の外を見た。

 いつのまにか、雨が降っていた。

 佐山総理は、徐に切り出す。

 

「例え、この世界の常識が外れていようとも。例え、この手が血に濡れようと..........守り切る」

 

 瀬和田私設秘書が、一瞬だけ総理の横顔を見れたが、その顔は、世界を敵に回しかけた国連演説の時と、同じ表情を浮かべていた。

 全員が静かに礼をする。

 佐山総理の覚悟は、全員が承知している。

 全員が静かに動き出す。

———————————————————————————————————

 1時間後 国防省 大臣執務室

 

 

「—と言うことだ。日本海沖に展開してる、第6機動部隊と第2護衛艦隊に外交官を搭乗させ、異世界国家に接触しろ........はぁ〜」

 

 自分でも自覚できるほどの、デカいため息をついた。

 

『疲れてるのか?』

 

「んなわけあるか。世界を敵に回しかけた時よりは、はるかにマシだよ」

 

『....;確かにそうだな。米国が宣戦布告しかけた時よりは遥かにマシだな』

 

「昔のことはもういい。任務を遂行してくれ」

 

『Yes sir』

 

「アメリカの気持ち?は抜けたんじゃない—ブチッ!!」

 

 ......,,.切れた。

 

「は〜、明後日は178日振りの休みだっていうのに......」

 

 広瀬は、ふと写真を見る。

 その写真は、2038年、コンゴ共和国人道支援復興隊設立5周年の時、視察も兼ねて手伝い(超極秘)に、白井のみを連れていった時の写真だった。

 そこに映っているのは、コンゴタワーを背景に、現地住民と、近くにいた国防軍隊員と撮影した写真だった。

 1枚目は、復興隊隊長、現地住民、族長代表、コンゴ共和国政府関係者が並んだ写真。これは、一般公開用。

 2枚目は、後列に、国防軍隊員が並んだ写真。

 3枚目には、最前列に、広瀬と白井が、しゃがみこんだ姿があった。

 その写真は決して表に出ることのないものだ。

 現地復興隊隊長の話だと、今も尚、大切に保管しているとのことだった。

 

「あの時は良かったな〜」

 

 広瀬は、その日を振り替えながら仕事をする。

———————————————————————————————————

 同時刻 外務省 アジア太平洋州局オフィス

 

 

「—ということで、君には島崎君と一緒に海軍艦隊に搭乗し、異世界国家と接触してきてもらいたい」

 

 課長が、仙崎浩二に説明する。

 

「わかりましたけど.......なぜ僕と島崎に?他にも適任者がいると思いますけど」

 

「ああ、そうなんだがな.......まず、異世界国家の大陸配置状況から、この大陸(ロデニウス)を、南アジア、この大陸(フィルアデス)を東アジアと、据え置いたから、我が局の担当になったんだがな.......」

 

 そこで、課長が言いづらそうにしていたが、すぐに話す。

 

「まず、外交官が、この馬鹿げた事態で深刻な人手不足になってしまったんだ」

 

 外務省で働く人間(大使館勤務など含めて)は、約3500人だが、転移によって失われた人材は約1000人。しかも、ほとんどがベテランという.......。日本で勤務する外務省関係者は、約2500人。そのうち、国と国とのやり取りをする人間(予備)は、約500名しかいない。

 転移によって失われた人員が、在外公使館(ベテラン)の人間という、非常事態であった。

 

「なるほど。で、予備の中で役立つのが、うちらなどしかいないと.......」

 

「メタいこと言うが、そういうことだ。君たちの他にも、宇都宮と宝生君も派遣されるから。2日後に、築地基地へ向かってくれ。拾ってくれるから」

 

「了解です」

———————————————————————————————————

 2日後 築地基地 午前9:10

 

 

「はえ〜、まさかシーガルで行くとは.........」

 

 2人の目の前には、MV-10シーガルが、離陸準備を進めていた。

 2人のもとに緑色の飛行服を着た隊員が近づいてくる。

 

「おはようございます!本日エスコートさせていただきます、大野2等宙佐です」

 

「おはようございます。お世話になります」

 

「では、どうぞ」

 

 仙崎らが、シーガルに乗り込む。

 島崎がシートを少し倒す。

 

「シーガルはよく見ますけど、乗るのは初めてでしたけど、とても軍用機とは思えませんね」

 

 しばらく話し込んでいると、栗林1等宙尉が近づいて、概要を説明する。

 

「おはようございます。事前にも説明しましたが、フライトは1時間を予定しています。可能性は低いですが、万が一トラブルが発生した場合は、事前レクチャー通りにお願いします」

 

「はい、本日はよろしくお願いします」

 

 5分後

 

 シーガルは母艦である、『かが』に向かって飛び立つ。

———————————————————————————————————

 ?分後

 

 

「........?」

 

 島崎が、何かに気付く。

 

「何か航行してますね。あの艦は........」

 

「あれは『ひびき』『はりま』『あき』ですね。海底調査中でしょう」

 

 島崎の疑問に、近くにいた栗林1等宙尉が答えた。

 

「あれが国防軍の中で、2番目に謎に包まれている艦........」

 

 無論、一番は波動砲艦隊である。

 

「それにしても........」

 

 島崎は、本省からの書類を読んでいた。

 

「想定される事態が多すぎてこっちが困るんですけど........」

 

「仕方ないさ。むしろ少ない方かもしれないな」

 

 外務省だけではなく、各省庁も、想定される事態を書面に起こし、それを現場へ通知していた。

 

「「は〜」」

 

 2人してため息を吐く。

 

「お二人さん、そんなにため息を吐くと老けますよ」

 

 後ろに座っている、深谷補佐が言った。

 

「違いない」

 

 仙崎は笑いながら答えた。

 

「見えてきましたよ。そこからじゃ見えないでしょうから、こちらまで」

 

 仙崎らは、大野2等宙佐が手招きする。

 コクピットから見えた景色—

 

「デカッ!」

 

 島崎が思わず口に出してしまうほどのデカさだった。

 

 あかぎ型護衛航宙母艦2番艦『かが』

 

 全長 444m

 全幅 114m

 全高 56m

 

 『かが』もそうだが、周りの護衛艦の大きさも大概だ。

 ぱっと見、全長250mはありそうである。

 実際そうなのだが。

 

「10分後に着陸します。シートベルトを締めてください」

 

「sea gull01,this is KAGA Control tower.着艦を許可します。以後は信号士官の誘導に従ってください」

 

「sea gull01,roger」

 

 どれだけ時代が進み、機械化、自動化が進んでも、結局最後は人間がするのである。

 

『進路速度そのまま!4番ワイヤーに架けろ!』

 

「了解」

 

 シーガルの車輪が、飛行甲板に接地する。

 着艦フックが4番ワイヤーに引っかかり、ワイヤーが伸びきる。

 

『よし!』

 

 信号士官が、ワイヤーの巻き取りの合図を送る。

 

 シーガルは、専用の誘導車に車輪を引っ掛けられ、そのまま牽引する。

 昇降エレベーターの手前で停止する。

 

「お疲れ様でした。こちらから降りてください」

 

 案内に従って、シーガルから降りる。

 降りた直後、風が吹きつけてくる。

 

「うおっ!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、はい。それにしても風が強いですね」

 

 そこで大野が、視線を右端に向けて、またすぐに戻す。

 

「現在東から4ノットの風ですね」

 

「強いですね」

 

「合成風が形成されてますからね........さ、こちらへ」

 

 〜貴賓室〜

 

「こんにちは。護衛宙母「かが」艦長のかがです」

 

「外務省太平洋州局の仙崎です」

 

「同じく島崎です」

 

 他の4人も挨拶をする。

 

「どうぞ座ってください。紅茶でもどうぞ」

 

「............では、いただきます」

 

 仙崎が1口だけ飲む。

 

「!?、これ砂糖とか入っていませんよね?」

 

 苦味すら一切感じない、かすかに甘い味がする。

 

「入っていませんよ」

 

 かがが、笑いながら答える。

 他の外務省関係者も驚きの声を上げる。

 

「どうやったらこんな味を出せるんですか?」

 

 深谷の質問に、かがは、

 

「ある方からの直伝です。まぁ、本家には及びませんがね」

 

「“ある方”とは?」

 

「おそらく、国防宇宙海軍の中で、一番紅茶の入れ方にうるさい人間から教えていただきました」

 

 仙崎ら、外務省関係者一同は、ピンときた。

 

「こんごうさん........ですか」

 

「えぇ」

 

「なるほどね〜」

 

 深谷は、ここで咳払いをし、話を戻す。

 

「んん、かが艦長。今日からよろしくお願いします」

 

「はい。身の安全は保証しますよ」

 

 不意に警報がなる。

 

 バタン!!

 

 扉が乱暴に開かれ、士官妖精が入ってくる。

 

「攻撃を受けています!!至急お戻りください!」

 

「は〜、こっちが外交官を乗せてるのに、問答無用で撃ってくるのか.........」

 

「あの〜大丈夫ですか?」

 

 たまりかねず、仙崎が聞いた。

 

「心配いりません。護衛艦が守ってくれます。士官妖精!」

 

「はっ!」

 

「外交官の保護をお願い」

 

「了解!ついてきてください」

 

 士官妖精が、外交官を伴って貴賓室から出て行く。

 かがは、走りながら、別の士官妖精からインカムを受け取る。

 

「砲雷長!状況は!」

 

 すぐに返事が来る。

 

『艦隊前衛『かざぐも』のレーダーが、大陸間対艦ミサイルを探知しました!目標は本艦です!」

 

「砲雷長」

 

『はい』

 

「武器使用判断は、『法律と現場の状況によって、逐次許可される』でしたね?」

 

『はい、そうです』

 

「わかりました。武器等防護法を適用されるとし、艦隊旗艦艦長権限で認可します。全兵装使用自由!」

 

 

 かざぐも CIC

 

 

「かがより入電。『全兵装使用自由』とのことです」

 

「BMD強化艦の実力を舐めて貰っちゃ困るね〜総隊司令」

 

 かざぐもが笑みを浮かべながら言う。

 

「システムをBMDモードに、1〜3番までのSM-2、攻撃用意!」

 

「敵ミサイル、『かが』への突入進路に入りました!」

 

「SM-2攻撃はじめ!」

 

「recommend fire!っ撃!」

 

「インターセプトまで10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、マークインターセプト」

 

「全弾迎撃成功」

 

「了解。引き続き警戒を」

 

「了解」

———————————————————————————————————

 

 かがは、迷路のような通路を走り抜け、艦橋に入る。

 

「お疲れ様です。現在、『かざぐも』『むつき』が迎撃中です」

 

「..........6発だけ?」

 

 “かが”がレーダースクリーンを見るなり、口に出した。

 

「安田司令、入られます」

 

 艦橋士官妖精が声を上げる。

 

「そのままで。かが、状況は?」

 

 安田はインカムをつけながら、かがに状況を聞く。

 

「大陸間対艦ミサイル6発の接近を探知。『かざぐも』及び『むつき』が迎撃に当たっています」

 

「“彼ら”にしては数が少ないな」

 

「はい。自分もそう思いました」

 

「..........どう思う?」

 

「はい..........おそらく潜水艦による第2次攻撃。または、大陸間対艦ミサイルの第2射をしてくると思います」

 

「普通ならそうだが、“彼ら”のことだ.........無人攻撃機あたりを仕掛けてくる」

 

『かがブリッジ!excel01!レーダーに反応あり!無人攻撃機です!!数12!!』

 

「来た.........」

 

『『かざぐも』『むつき』大陸間対艦ミサイルを全弾迎撃』

 

 警報がなる。レーダー照射の警報だ。

 

「撃って来る..........」

 

『敵無人機!72発の対艦ミサイルを発射!!』

 

 

 まや CIC

 

 

「72発のミサイルを確認」

 

「おし、割り振りに従い迎撃する」

 

 まやが右の手を握る。

 艦内は、すでに戦闘配置済みである。

 

「ECM戦用意!!」

 

「パッシブからアクティブへ変更!妨害電波照射!!」

 

 電子戦士官妖精が、ECMシステムをパッシブからアクティブへ切り替える。

 

「敵ミサイル、本艦との距離、70km!」

 

「『ひらぎ』『ちょうかい』『ながなみ』も妨害電波を照射中!」

 

 72個の輝点が50個に減る。

 

「敵ミサイル残存数、50発!」

 

「本艦との距離60km!!」

 

「トラックナンバー2001から2009、CIC指示の目標!前甲板VLS、1〜10番までのSM-2[(34式多目的ミサイル)SM-6的な]、データ入力!」

 

「諸元入力よし!!」

 

「発射!!」

 

 ハッチが開き、10発のSM-2が飛び出していく。

 『ひらぎ』『ちょうかい』『ながなみ』『きさらぎ』、からも、それぞれ10発のSM-2が飛び出す。

 やがて輝点が重なる。

 

「!、敵ミサイル、3発残存!!『かが』に向かっています!!」

 

「右舷CIWS!open control!!」

 

 分速5000発の、CIWS、パルスレーザー10門が起動し、まやの横をすり抜けようとするミサイルを撃ち落とす。

 

「全弾迎撃」

 

「対空目標なし!」

 

「母さん(旧海上自衛隊まや型護衛艦まや)に叱責されるのは防いだな」

 

 かが CIC

 

 

「次は何が来る..........」

 

 安田は思案していると、通信妖精の声がインカム越しに聞こえてくる。

 

「モールスを受信しました。『状況終了』です」

 

 安田は、帽子とインカムを取り頭を掻きながら、

 

「精神が削られる.........」

 

 と言った。

———————————————————————————————————

 クワ・トイネ公国 政治部会

 

「—ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに新興国家が出現し、付近の国家を配下に置き、暴れ回っているとの報告があります。かれらは、自らを第八帝国と名乗り、第2文明圏の大陸国家群連合に対して、宣戦を布告したと、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」

 

 ここで、ロウリア王国対策の会議が行われていた。

 

「しかし、第八帝国は、ムーから遙か西にあるとの事、ムーまでの距離でさえ、我が国から2万km以上離れていますので、直接的な脅威はないと判断します」

 

「ロウリア王国についてですが、ここ最近演習活動が活発になっていると間諜から報告が入っています」

 

「国境にはいないのだな?」

 

「はい」

 

「しばらくの侵攻はないと見ます」

 

 バタン!!!

 

 その時、政治部会に、外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。

 通常は考えられない。明らかに緊急時であった。

 

「何事か!!!」

 

 外務卿が声を張り上げる。

 

「報告します!!」

 

 若手幹部が報告を始める。要約すると、下記の内容になる。

 

 本日朝、クワトイネ公国の北側海上に、長さ444mクラスの超巨大船が現れた。

 海軍により、臨検を行ったところ、日本という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨伝えてきた。

 その後の臨検を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。

 

 ○ 日本という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

 ○ 偵察をしたところ、貴国の位置する大陸を見つけた。

 ○ クワトイネ公国と会談を行いたい。

 

 突拍子もない話、政治部会の誰もが、信じられない思いでいた。

 しかし、444mという考えられないほどの大きさの船も、報告に上がってきている。

 国ごと転移などは、神話には登場することはあるが、現実にはありえないと思っている。

 だがそれよりも........

 

「444mの巨大船だと!!?何かの間違いではないか!?」

 

「いえ、間違いありません」

 

 一体どうやったら400m越えの船を作れるのか........。

 

「どうします?カナタ首相」

 

 問いかけられたカナタは、

 

「ひとまず会ってみましょう、今の我が国の状況では新たな敵対国を増やす余力はありませんからね」

 

「わかりました」

 

 

 




え?接触がほんの少ししかない?君、タイトルを読もう。『天変地異』と書いてるだけだよ。接触するとは言ってないぞ。

 次回

『接触』

パラレルワールド その1


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。