そして地球連邦構想は私の夢だ。
西暦2021年 国連事務局長との談話より引用。
この話は日本国が大東洋諸国会議に参加する少し前に遡る。
中央歴1636年 6月7日 グラ・バルカス帝国 ラックル島 ラグニュー海軍基地 グレード・アトラスター 艦隊司令官室
ここ、グラ・バルカス帝国のラックル島にあるラグニュー海軍基地に、帝国史上最大最強の戦艦が停泊していた。
名は『グレード・アトラスター』。
既存の戦艦の戦訓を基にして、帝国の技術の結晶体である戦艦だ。そんな艦の艦隊司令官室に2人の男がいた。
ぱっと見年齢60歳の男が資料を黙々と読んでいた。
「............またやられたのか」
その男が持っている資料の題名は、『撃沈報告』であった。
「既に10隻近くが喰われています。既に各秘密基地から増援要請が入ってきています」
「どことも戦争していないのに、なぜこんなにもやられているのだ?」
「それは小官にも分かりません。カイザル閣下」
「...............全て極東か」
「極東..............まさか」
そこでカイザルは後ろを見る。
「やはり
ラクスタル、このグレード・アトラスターの艦長が頭を掻きながら答える。
「ボロが出てしまいましたが、まさか閣下も
カイザルは天井を見上げる。
「敗戦へと確実に進んだであろう祖国を、再び同じ目に合わせてはいけないと思い行動したのだがなぁ」
「再び同じ道を進み始めていると............」
「しかし、微妙な差異がある。本来ならこの世界の中央歴1638年に転移したはずだが、1630年に転移、そしてどこも侵略する動向は無かったが、ここ最近きな臭い」
「では.........」
「あぁ、後1年ほどでパカンダ事件が起こるだろう」
「祖国が道を踏み外す原因となった事件ですな..............」
「あぁ、だが残念な事に、私の力ではそれを止めることができないが—」
カイザルは天井から資料に視線を移す。
「方法は一つある」
ラクスタルは考える。
政治的工作は不可能、かと言って武力で脅すことは...........
「まさかクーデターを!?」
「落ち着け。流石にそこまではやらんが...........最終手段として検討しておく。もう下がっていいぞ」
ラクスタルはカイザルの背中を暫し見つめた後、退室する。
「あぁ、なんと恐ろしい...........」
カイザルの脳裏に浮かんだのは、グレード・アトラスター艦橋に迫り来る、日本国の誘導噴進弾であった。
あの時、手も足も出なかった。つまり祖国は確実に敗戦の道を歩んだのが目に見えてくる。
その悲劇を繰り返す訳にはいかない。
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中央歴1636年 6月28日 クワ・トイネ公国
この日、大東洋諸国会議にて各国政府の結論が話された。
結果は............
「各国の意見は、賛成多数、になりました」
結果は賛成多数で、地域共同体の設立がほぼ決まった。
「では、発案者である日本国が盟主を務めるということで、よろしいでしょうか?」
全員が頷く。
「では日本国を盟主とします」
それから暫く拍手が続く。
「ありがとうございます。では早速、発表をさせて頂きます」
そう言いながらプロジェクターを操作する。
前文
この条約の締約国は、すべての国民及び政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認する。
締約国は、民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配の上に築かれたその国民の自由、共同の遺産及び文明を擁護する決意を有する。
締約国は、大東洋地域における安定及び福祉の助長に努力する。
締約国は、集団的防衛並びに平和及び安全の維持のためにその努力を結集する決意を有する。
よつて、締約国は、この大東洋条約を協定する。
第一条
締約国は、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びに、それぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる方法によるものも慎むことを約束する。
第二条
締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策における食違いを除くことに努め、また、いずれかの又はすべての締約国の間の経済的協力を促進する。
第三条
締約国は、この条約の目的を一層有効に達成するために、単独に及び共同して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗する個別的の及び集団的の能力を維持し発展させる。
第四条
締約国は、いずれかの締約国の領土保全、政治的独立又は安全が脅かされているといずれかの締約国が認めたときはいつでも、協議する。
第五条
締約国は、大東洋における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
第六条
第五条の規定の適用上、一又は二以上の締約国に対する武力攻撃とは、次のものに対する武力攻撃を含むものとみなす。
(i)第3文明圏におけるいずれかの締約国の領域、大東洋条約機構加盟国におけるいずれかの締約国の管轄下にある島
(ii)いずれかの締約国の軍隊、船舶又は航空機で、前記の地域、いずれかの締約国の占領軍が条約の効力発生の日に駐屯していた他の地域でも適用される。
第七条
この条約は、大東洋条約機構加盟国たる締約国の憲章に基づく権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する、国際連合安全保障理事会の主要な責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条
各締約国は、自国と他のいずれかの締約国又はいずれかの第三国との間の現行のいかなる国際約束もこの条約の規定に抵触しないことを宣言し、及びこの条約の規定に抵触するいかなる国際約束をも締結しないことを約束する。
第九条
締約国は、この条約の実施に関する事項を審議するため、各締約国の代表が参加する理事会を設置する。理事会は、いつでもすみやかに会合することができるように組織されなければならない。理事会は、必要な補助機関を設置し、特に、第三条及び第五条の規定の実施に関する措置を勧告する防衛委員会を直ちに設置する。
第十条
締約国は、この条約の原則を促進し、かつ、大東洋地域の安全に貢献する地位にある他の第3文明圏の国に対し、この条約に加入するよう全員一致の合意により招請することができる。このようにして招請された国は、その加入書を日本国政府に寄託することによつてこの条約の締約国となることができる。日本国政府は、その加入書の寄託を各締約国に通報する。
第十一条
締約国は、各自の憲法上の手続に従つて、この条約を批准し、その規定を実施しなければならない。批准書は、できる限りすみやかに日本国政府に寄託するものとし、同政府は、その寄託を他のすべての署名国に通告する。この条約は、署名国の過半数の批准書が寄託された時に、この条約を批准した国の間で効力を生じ、その他の国については、その批准書の寄託の日に効力を生ずる。
第十二条
締約国は、この条約が十年間効力を存続した後に又はその後いつでも、いずれかの締約国の要請があつたときは、その時に大東洋地域の平和及び安全に影響を及ぼしている諸要素を考慮して、この条約を再検討するために協議するものとする。
第十三条
締約国は、この条約が二十年間効力を存続した後は、日本国政府に対し廃棄通告を行つてから一年後に締約国であることを終止することができる。日本国は、各廃棄通告の寄託を他の締約国政府に通知する。
第十四条
この条約は、世界共通語及び日本語の本文をともに正文とし、日本国政府の記録に寄託する。この条約の認証謄本は、同政府により他の署名国政府に送付される。
「以上が私共が考えた『大東洋憲章』であります」
大東洋憲章などと言っているが、NATOの憲章を魔改造したものになっている。
(なんだこれは.............)
既知のどの条約よりも、相互防衛を考えた条約。
「ここに記載されている通り、参加国家の半数の署名、批准を得られたら、その時点でこの条約が発効されます」
「確かに、魅力的な案であるが...........我々文明圏外が固まってパーパルディア皇国、いや、文明圏内国家に向かっても、歯が立たないぞ。そこはどうするつもりだ?」
「初期は我々が各国の防衛を担当しますが、いずれは自分たちだけでも防衛できるように、我々も力を貸します」
旧式装備品の押し付けである。
「ふむ..............」
確かに、初期は日本軍の駐留を許すかもしれない。だが将来的には日本の兵器を手に入れられる可能性がある。目先のは不利だが、将来は旨味がある。
「なるほど。ですがその費用もタダではありませんな?」
「えぇ、それに見合う代金をお支払いしていただく必要がありますが、これを批准し、参加すればなんらかの配当はあると思います」
なんらかの配当。もしそれが日本の兵器の格安提供だったら............。各国大使は思いを巡らせる。
「そしてこの条項は軍事に関することのみ記述していますが、経済に関する協定も後ほど説明いたします」
(軍事に関することだけではなく、経済も...........)
既知のどの条約よりも、相互防衛を意識した同盟だ。
その後、経済関連の条項が説明される。
「ううむ」
最初の負担は大きい。だが将来はその負担分のを超える利益が戻ってくるのは間違いない。
「では再び、1週間—」
「その必要はない」
菅原が1週間後にその批准書を提出してもらうよう口を開けた時、それを誰かが遮る。
ロデニウス連邦大使であった。
「既に各国の答えは出ている。そうではありませんか?」
「その通りです。それに我々は全員が全権委任大使です。この場で署名をすることができる」
うんうんと、各国大使が頷く。
「................分かりました。では早速」
その後、すべての国家が署名し、日本を盟主とする大東洋条約機構が設立された。
この同盟、経済協定によって各国は発展を遂げていく事になる。
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日本国 呉市
ムー共和国軍視察団の姿は呉にあった。
「これが...............日本国の最新鋭戦艦」
海軍関係者が唸る。
ドックにいたのは、
本日はミズーリの自衛艦旗授与式である。
「それにしても」
「ん?」
「最新鋭戦艦の就役を間近で見れるなんて最高だな!」
「そうだな」
視察団は海軍艦船の視察を終えた後、V-22に乗り、呉市まで来ていた。
その日がちょうどミズーリの自衛艦旗授与式だった為である。
「引渡式」
司会が宣言すると、ミズーリを
『護衛艦『ミズーリ』をお引渡し致します。令和32年6月28日。ブラックウォッチ横須賀工廠長』
引渡書を受け取る広瀬国防大臣。そして受領書を取り、読み上げる。
『護衛艦『ミズーリ』を受領致しました。令和32年6月28日。国防大臣『広瀬 治』』
受領書を工廠長に渡す。
『社旗降下』
国防宇宙海軍呉音楽隊が奏でる演奏と共に、マストに掲げていた社旗、国連の旗にある、オリーブの間に弾丸と銃が描かれた社旗、国連の一機関であることを示す社旗が降下される。
『自衛艦旗授与』
艦長が授与台まで歩き、広瀬に対して敬礼する。
三角形に折り畳まれた自衛艦旗を渡す。
艦長は受け取り、折りたたむと、左手に持ち替えて頭より高く上げる。
敬礼しながら元の位置に戻り、副長に渡す。
『乗組員乗艦』
司会がそう言うと、『軍艦行進曲』が奏でられる。
「前へ〜進め!」
タラップを伝い、艦に乗り込む。
全員が乗艦を終えたところで、次の行程に入る。
『艦長乗艦』
ピー!
1士隊員が号笛を鳴らす。
艦長乗艦を終えると、国防大臣による艦内視察を行う。
そして自衛艦旗掲揚に入る。
『敬礼!!!」
艦長が号令をかけるのと同時に乗組員が敬礼し、2士妖精がポールに自衛艦旗を君が代の演奏に合わせてゆっくりと上げていく。
掲揚が終わり、国防大臣の訓示が始まる。
『本日、ここに護衛艦『ミズーリ』就役を迎え、自衛艦旗を授与し、その最初の掲揚を威風堂々と行えたことは、隊員職員と喜びたいと思います。本艦は、将来、国連海軍の強力な打撃力としての担い手を期待されており、1日も早く任務に即応しえるよう、日々の訓練に精練してください』
訓示を終えると、拍手が起こる。
そして艦長が下艦し、花束を受け取る。
その後、幕僚幹部や大臣の前で艦長挨拶を行う。
「国民の生命、財産、名誉を守るために、一刻も早く任務に即応しえるよう練成して参ります」
短いが、それだけでも十分意志が籠もっている。
「護衛艦ミズーリ、任務の為、出港致します!」
敬礼すると、それに答礼する。
音楽隊が奏でる音楽とともに、乗組員が『帽ふれ』で挨拶をする。
沖合に出たところで、汽笛が3回短く鳴らされる。
ミズーリは国防宇宙海軍第2戦隊の所属となるが、しばらくの訓練を終えたのち、国連海軍第7艦隊に
『以上を持ちまして、護衛艦ミズーリの自衛艦旗授与式を終了致します』
式が終了した。
自衛艦旗授与式を見ていたマイラスは、あることが気になっていた。
(今まで見てきた日本国の軍艦はすべて
「あの、すいません」
案内役の日本国外交官に質問をする。
「あのミズーリという艦なんですが、何か貴国の軍艦と違うような感じがするのですが.............」
「おぉ、よく分かりましたね。仰る通りです。あのミズーリは、原因は未だに不明なのですが、突如浦賀水道に出現したのです」
「突如出現...........」
「これはまだ発表していない事案なので内密に、政府はミズーリが通ってきたとされる回廊の逆探知を、国防軍に調査を命じ、その結果...........祖国、地球へと繋がっていることが確認されました」
「ッ!!」
「政府は艦を改修し、就役させ、国連軍へと編入することに決めました」
「国連軍............」
聞いた限りだと、どの国家でも国連軍へと部隊を拠出できそうである。
「その国連軍という軍に我が国も拠出することはできるのですか?」
「いえ。国際連合に加盟していないと不可能です」
「じゃあその国際連合の加盟することは—」
「現時点で、国際総会は、異世界国家の加盟を認めるつもりはないようです」
総会がこの世界の国家の加盟を認めない理由。それはこの世界の思想が根本的に国連憲章と相容れないからである。
この世界の常識は、武力を持って相手の優位に立つ。
あからさまな武力の誇示、行使が日常茶飯事である異世界が国連に加盟したところで、その和の空気が乱されるのは確実視されていた。
それが例え列強であろうと............。
「そうですか............」
その後、再びV-22に乗り、岐阜航空基地へと向かった一行だった。
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1時間後
視察団は岐阜基地へと降り立った。
「3000mは有にありますね」
「しかも3本あったぞ。それに昼間であってもよく見える誘導灯まで.............」
ムーにも初歩的ではあるが、誘導灯が空港にも、軍用限定であるが、誘導灯が備えられているが、日本と比べてはいけない。
「ではこの車に乗ってください。ここから先はお願いします」
外交官が隊員に後の案内を頼む。
「了解しました」
隊員が敬礼しながら答える。
視察団が車に乗り込んだのを確認し、車を発進させる。
「おお、色々な機体があるな」
駐機場に大小様々な機体が駐機されている。
「今一番手前にある4発機は、C-3という輸送機です。我が国にあったC-2を元に大型、改良した機体となっています。積載量は90tです」
「90t!!?」
もはやムーの爆撃機すら凌駕する積載量だ。
「あのエンジンがそれを可能としているのか............」
積載量90tと、あの機体を飛ばすだけの重量を空に浮かばせる出力。想像できない。
「面白い航空機だな〜」
しばらくして臨時の観客席に到着する。
「今回はデモ飛行を見てもらいます。最初は我が国の主力戦闘機、F-4Aの飛行です」
そう言うと、轟音とともに滑走路スレスレを飛行してくる。
(推奨BGM TOPGUNより Danger zone)
「すごい!まるで稲妻だ!!」
凄まじい加速で遥か上空へと飛び去っていく。
すると、視界の端から新たなF-4Aが2機現れる。
1機がまっすぐ飛び、その周りをぐるぐる回る、コークスクリューを行う。
そしてその機体は
「あんなことマリンでは不可能だ!!」
空軍将校が興奮気味に叫ぶ。
「すごい!」
今度は、2機が相対しながら真っ直ぐ突っ込んでいく。
「ぶ、ぶつかる!!」
だが予想に反し、衝突しなかった。
「今2機は1mの距離で通過しました」
「1m!!あの速度で!!」
お互いの信頼がないとできない芸当だ。
「..............」
第1独立飛行団のアクロバット飛行を終えた後、定期便の国連空軍のC-17が滑走路に向かってアプローチする。
「あれもでかい.............」
C-17が着陸すると、逆噴射を行う。
「ん?ノズルの部分が開いた?」
C-17は、約400m滑走路を進んで着陸をする。
「あんな短距離で着陸したのか............」
すると、尾翼に描かれている国籍章に気付く。
「あれも国連軍という軍の所属なのか.............」
国連軍に関しては謎が多すぎる。
後で詳しく聴こうと決めるマイラスであった。
その後、岐阜基地名物の異機種編隊飛行を行い、デモ飛行は終了した。
は終了した。
(この日は岐阜基地航空祭ではありません)
そして今度は対地射撃に移る。
ただし、クワ・トイネ公国使節団と同じ反応をしたため、割愛させて頂く。
「次は、試作機展示となります」
「試作機?」
どうやら日本の次期主力戦闘機の試作機が見られるようである。
「あそこです」
隊員が格納庫を指さす。
格納庫から出てきたのは.............プロペラ機であった。
「???。なぜレシプロ機を?日本の戦闘機ならあのジェットエンジンで良くないか?」
「確かに、ジェットエンジンタイプの研究も進んでいますが.............機体寿命の問題があります」
「................あ」
ここで空軍将校、海軍将校、技術員が気付く。
「この世界において、我が軍は他の国家と隔絶、いや、隔絶しすぎています」
そう。この世界の文明圏外国家の戦闘機はワイバーンとかいうトカゲが主力だ。そして列強の戦闘機は、ミシリアルとムーを除くと、ワイバーンロードとかいうワイバーンの改良種らしいが、相手ではない。
つまり敵がいない。
「はっきり言いますが、この世界の列強、例えあなた方やミシリアルが相手でも負けることはありません。交戦距離が違いますからね」
ミシリアルとは国交を締結していないのに、なぜある程度把握できているのかというと、日本の鷲の目がミシリアルを観察していたところ、ジェット戦闘機擬きが確認されたのだ...........ただ今のところ確認できている範囲では、時速500km未満らしいが.............。
「ロデニウス大陸統一戦争後、国防省はジェット戦闘機ではない機体の開発を開始しました。それから約1年で完成したのがあれです」
駐機場に牽引されたプロペラ機、TXF-5が機体の最終チェックを行っていた。
「ん?尾輪式ではなく、3点式なのか...........」
「何かレシプロエンジンの音とは違うような.............」
「8枚プロペラ!?それに単葉機.............すごい、数世代先は進んでいる」
自国の最新機『マリン』よりも先の世代の姿を見て興奮する。
やがてチェックを終えたTFX-5が滑走路へとタキシングする。
「離陸します」
TXF-5は離陸すると、あっという間に空の彼方へ飛び去った。
「は、はやい!!すごい上昇速度だ!!」
「時速700kmは出てるか?」
そして滑走路ギリギリを飛行する。
「............美しい」
マイラスがTFX-5を見てそう呟いた。
TXF-5が力強くそのプロペラを回し、空へ羽ばたく。
その後、TXF-5のデモ飛行が終了する。
「あれだけの出力...........レシプロエンジンでどれだけの出力を............」
マイラスが口に漏らした言葉に案内役の隊員が反応する。
「あの機体のエンジンはレシプロではありませんよ」
「え?」
「ターボフロップエンジンというのですが、そうですね............噴進発動機と言った方が分かりやすいでしょうか。先程見た輸送機のエンジンにプロペラを付けた物と思ってください」
「噴進発動機............」
「まぁアメリカのライセンス生産ですがね」
隊員の言った通り、エンジンはアメリカの物をライセンス生産したものである。しかしあくまで今回視察団が見たのは、試作機第1号に搭載されているだけであり、試作機第2号機では国産のエンジン、コスモターボフロップエンジンが搭載される予定である。
「...............あの噴進発動機、マリンに搭載できないかな?」
「無理だろ............」
マイラスの希望はラッサンによって簡単に打ち砕かれる。
「あれは全金属製だ。それはお前が一番わかっているだろう?」
「分かってるさ。だが.............」
マイラスの目は希望に満ちていた。
「あの機体のスペックを教えて頂けますか?」
「いいですよ。ええと、こちらになります」
隊員が懐から棒のようなものを取り出し、端末でそこに立体映像を映し出す。
速度
・最高速度 910km/h
・巡航速度 825km/h
航続距離
・戦闘行動半径
1000km
・フェリー飛行時 7020km
高度
・最大上昇可能高度 15000m
武装
固定武装
・25mm機銃2門
追加武装
・AAM-4 4発
・AAM-5 8発
・MK-82 4発
・AGM-114 6発
・ASM-4 2発
・70mmハイドラポット 4基
「わーお。こりゃ無理だ」
一部の士官が思考を放棄する。
アビオニクス
・ アクティブ・フェーズド・アレイレーダー
・ RWR(レーダー警報受信機)
・ FLIR(前方監視型赤外線)
「意味不明」
「訳分からん」
「つまり—」
「「「—絶対無理」」」
ついにほとんどの視察団員が思考を放棄する。
エンジンや機体構造は兎も角、何をどうやったらこのようなスペックを実現できるのか。それにマリンとの交戦距離が違うことが一目見て理解できる
「それほど強力なのかあのエンジンは..............」
TXF-5のデモ飛行とスペックの提示は視察団に深い影を落とし、空軍視察を終えた。
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日本国 首相官邸 総理執務室
「..............トーパ王国か」
総理執務室で佐山はトーパ王国の概要の内、地理的情報を見ていた。
トーパ王国は軍祭直後からの接触があったが、ほかの国家の使節団もほぼ同時に来ていたため、後回しにされていた。
「.................すごい地理的状況だな。この地峡に運河を作れば、トーパ王国にとって莫大な利益をもたらすだろうなぁ」
人工海峡、もとい運河。前世界ではパナマ運河やスエズ運河が有名だろう。天然の海峡とは何が違うのか?それは............通行料の徴収、だ。多大な労力を払い建設した運河は、その利権がその国家に与えられる。それをこのトーパ王国に建設すれば、利益率の一部を日本が貰える—ほぼ確実—だろうという魂胆だった。
「現状、第3文明圏南方を迂回、喜望峰を迂回する感じですね。そのルートしか存在していません」
「現状国交を有するのは第3文明圏国家のみとは言え、西方国家との距離の問題があるからなぁ」
この世界の比率は、
「ムーとの通商も確実視されていますからね..............その運輸能力が壊滅していますがね」
転移によって失われたタンカーなどは、政府主導の量産型タンカーの建造を民間企業に優先発注を掛けている。しかしそれでも今後も不足していくと予想されている。
「はぁ。ムーとの通商か..........頭が痛くなる」
「間違いなく向こうの産業を全て倒産させますからね」
日本の製品は既にバカ売れしてる、いや、しすぎている。
「黒字倒産は各企業がなんとか回避してくれているが、ムーとの関係が始まれば............」
「
先進国と後進国が通商条約を—平等かでないかは関係なく—締結すると、後進国の産業が軒並み倒産することは、我が国の
そうなるとその国の産業、そして労働者を敵に回すことになる。日本とムーの差を考えれば捻じ伏せることもできるが、日本はまだ新参者。ここで列強序列第二位のムー共和国を敵に回せばどうなるかは容易に想像できる。
「即ち、この世界における日本の立場消失、か。各省に伝えといて」
「承知しました。ではこれで」
補佐官が退室するのと入れ替えで広瀬と白井が入室してくる。
「乙です」
「それ、最高司令官に言う言葉か?」
「少なくとも上司とは思って無いんで」
「おい」
「冗談です」
佐山は白井の目を見る。
白井の瞳が、奥底で微かに青白く光ったのが見えた。
「この手の輩は扱いづらいと思ってません?」
「当たり前だ」
広瀬と白井が椅子にドカっと座る。
「で、何の用?」
広瀬が切り出す。
「............単刀直入に言おう。パーパルディア皇国と戦争になるかもしれん」
「「...............」」
戦争、と言われても2人は一切動じ無い。
「少なくとも3年後だと予想している............理由は分かるだろ?」
「我が国が第3文明圏外国家から求心力を集めているから」
「正解」
パーパルディア皇国の行動は原作通りなので割愛させていただく。
「それだけ?」
白井が佐山に聞き出す。
「...............実はな、今期で総裁選に立候補をするのをやめようと思う」
総裁選、即ち党首の選挙に参加しない、総理大臣にならない、と言うことである。
「ほぅ。どうして?」
「疲れたなんて言うなよ」
「当たり前だ。まぁ理由は、この長期政権にピリオドを付けようと思ってな。野党の政権獲得の動きが激しい、いや、激しすぎるからな。この際、総裁選に立候補しないことにした。少なくとも2〜3年は議員として活動してくよ。既に幹事長には話を付けてある」
佐山の長期政権、超長期政権は、6年2ヶ月、約2252日となる。長期政権TOP10入りを果たし、尚且つ、29歳という絶対にありえない且つ、伊藤博文の記録を圧倒的に破る記録となっている。
「だとしたら後6ヶ月くらいか」
「次の衆議院選挙は激戦になるだろうねぇ〜」
白井が他人事のように言う。
「お前は気楽でいいよな。俺らは議席取るために必死の活動だよ」
「シビリアン・コントロールの特権だよ」
白井がニヤつきながらそう言った。
「まぁいいや。そういうことだ.............あ、後白井」
佐山が椅子から立ち上がろうとした時に、ふと思い出したように話す。
「ん?」
「例の奴がお前のことを探ってるぞ」
「はは〜ん。辿り着けるものなら、な」
その後、3人の
佐山の総裁選不立候補は後の歴史に重大な鍵の一つになるのだが、誰にも予想は出来なかった。
えぇ、アンケートの選択肢の説明が無くて、投票を迷っていると思われます。
なので少しヒントを出します。ヒントは、『グラ・バルカス帝国の設定』です。私が考えたグラ・バルカス帝国の設定の2種類の内、皆様が選んだ方のグラ・バルカス帝国になります。この投票で物語が変わってきます。ほぼ勘になりますので、投票する場合は慎重に............。
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次回 『ムー共和国の調べ その3
パラレルワールド その1
-
①
-
②