それは旧世界上の平和の象徴だった。
西暦2050年 某日 都内
室内に机を指で叩くような音が響く。
その音源を発している主は艦娘青葉であった。
「............戸籍国籍その他諸々の証明書。何も穴がない............」
青葉が調べていたのは、『白井 圭』の公式情報。そして一般人が得られる情報。コネを利用した調査を行なったが何一つ不審な点は見られない。
ただ、何も収穫がなかった訳ではない。
しかしその収穫したものが問題だった。
『白井圭の情報は全て偽装されたものである可能性が高い』
戸籍、国籍などの証明書に青葉が言った通り一切穴はない。
ただ、作られた書類の感じがするのだ。
もしその収穫—仮説—が本当だとしたら『白井 圭』は誰なのか。
「やばいもの引いちゃったかもしれないです」
しかしここまできて青葉に『止める」という選択肢は無かった。
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同日 日本国 国防省 統合幕僚会議室
「............レーガンか」
望月海上—宇宙海軍—幕僚長が自身の端末に表示されている情報を見て呟いた。
「後半年程でオーバーホールに入ります。BW社によれば、『どんなに短くしたとしても、3年はかかる』とのことです。ですが米国のオーバーホールと同等のものを行う必要があるので、4年はかかると見ていいでしょう」
「4年も空母が不在になるのか.............」
ニミッツ級原子力航空母艦の艦載機は旧世界の中進国の空軍力に匹敵すると言われている。この世界においては無敵を誇る戦力になるが...........その打撃力を保有する空母が4年も不在というのは流石にまずい。
「国連軍の友人も嘆いていましたよ」
「空母という外洋遠征部隊の代わりが務まるとしたら.............やはりあの部隊か」
「
ロングレンジ部隊。
正式部隊名は、長距離戦略打撃群(Long Range Strategic Strike Group, LRSSG)。その名の如く、敵地へ浸透し、攻撃を加える事を主任務とする。その部隊のためだけに
AWACSを基幹とし、各軍の協力を得て世界中どこでも72時間以内に攻撃を加えることができると言われている。
そして近々、新たな無人機運用母機がそこに加わると言われている。
しかしそのロングレンジは、空域を周回している無人給油機、MQK-979の援助があってこそのロングレンジである。
「やはり軍事的だけではなく政治的にもかなりまずい状況だろうな。俺から上に挙げておく」
「ありがとうございます」
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望月らがロナルド・レーガンのオーバーホール問題を話している頃。別の場所で全く同じ事を話している人物がいた。
「レーガンの代わりが務まるとしたら...........やはり『アメリカ』しかいないな」
そう話したのはジェームズアジア方面軍司令官であった。
「やはりクルーが遊び駒化するのは流石に不味いか............」
ジェームズの対面に座る白井がニヤつきながら話す。
「ニミッツ級と同等規模の空母が欲しいか?」
「そんな魔法みたいなこと言うなよ..............ニミッツ級の代わり、合っているかは分からないが、やはりロングレンジ部隊しか務まらないな。『アメリカ』は搭載機数たったの20数機。この世界に於いては最強だが、数が少ない」
「また拠出しなきゃならんのか............」
「そっちの事情もわかるが、なんとかならんか?」
「.................金さえあれば」
「は〜。じゃあこうしよう.............んん、上官として命ずる。『なんとかしろ』、以上」
「ひどい。差別だ。クズだ。ゴミだ」
「それ、元アメリカ陸軍特殊部隊司令官に言う言葉か?」
「自分でも元だって言ってるじゃないか」
「もう一度言う。『なんとかしろ』」
「無理」
「.............」
しばしの沈黙の後、ジェームズが立ち上がり、棚の引き出しからあるものを取り出す。
「それでどうするつもりだ?」
ジェームズが手にしたのはM1911コルトガバメントであった。
「脅す」
そう言いながらジェームズは白井の眉間を狙う。
「殺人罪になるぞ?」
「それで空母が得られるならお釣りが来る。YES?or NO?」
「NO」
引き金を引く。
ガチン!!
金属音と共にスライドロックがかかる。
「冗談だよ」
「知ってた」
笑いながら話す2人。
銃を引き出しの中に戻しながらジェームズは話す。
「白井。頼むぞ」
「最善を尽くします」
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静岡県 御殿場市 東富士演習場
ムー共和国視察団の姿はここ、御殿場市にある国防軍東富士演習場にあった。
「ついに陸軍か..........」
「.............もう嫌な予感しかしない」
そんなこんなで演習が始まる。
最初は国防陸軍の主要装備の演出が行われる。
80迫と120迫、
そして38式自走200mm榴弾砲も射撃準備に入る。
今回は、展示が入るとはいえ通常の訓練の為、アナウンスなどは一切ない。
「あれデカくないか!?」
「200mm級...........巡洋艦レベルの主砲を搭載しているのか!?」
視察団の注目は38式に映る。
「しかも無限軌道!我が国ではようやく開発が開始されたものだ!」
「だがあの主砲のデカさと車体だ。相当大きな重量なはずだ...........それだけの重量を支えられる無限軌道、そしてエンジン............一体どれだけの出力が必要なんだ?」
すると、各砲の旗が緑から赤に変わる。
ズドォーン!!!!
そのあと、数発立て続けに射撃が行われる。
「すごい!全弾命中しているぞ!」
「それに発射速度も速い!」
『全車陣地転換!』
離れた場所で見学している視察団の耳に、微かに怒号が聞こえてきた。
迫撃砲、FH-70が車両に接続されて移動を開始する。38式もそれに続く。
陣地転換を終えた各砲が再び射撃に入る。
ここでも数発撃つ。
そして陣地転換を行い、撤退する。
次は“狙撃”に入る。
その時、ムー陸軍の士官があることに気付く。
「ん?...........あの兵士、何かおかしくないか?」
その兵士をよく見ると、さながら“幽霊”のようであった。
「なんだあれは?」
「あれは環境追従型迷彩2型と呼ばれる、旧世界のアメリカが開発したものをライセンス生産したものになります」
解説役の隊員が答える。
「環境追従型迷彩?」
「えぇ。その名前の通り、周囲の背景の情景を特殊な装置を使い、迷彩化します。それによって完全までとはいかなくても、あのように同化できます」
「「「...............」」」
そんなものがあれば—実際にあるのだが—ムーは敵を発見することができないだろう。
「...............なぁ、あの距離を狙うのか?」
ざっと1000m以上は離れていそうである。
「ん?撃ったのか?」
緑の旗から赤に変えられたことでようやく気付く。
するとおよそ1200m離れた赤い風船に命中する。
「おぉ!すごい!」
「あの距離で当てたのか!」
「すごいなあの銃は............ライフルだというのは分かるが............」
ここでも解説が入る。
「先程の隊員が使用したのは、米国製のM24A2をライセンス生産したM24J1と呼ばれる狙撃銃です」
開発国の性能を上回るという、ここでも日本のお家芸が起こっている。
ちなみに、先程話した環境追従型迷彩2型はカモフラージュパターンが日本仕様に変更されているだけで何も変わっていない。
隊員が撤収する。
それと入れ替わりで17式装輪装甲車2台と
「今度は22式軽対戦車誘導弾の射撃に移ります」
22式軽対戦車誘導弾とは、01式対戦車誘導弾を魔改造したものになっている。
1番の改造点は01式が赤外線画像誘導なのに対して、22式はASM-3のシーカー技術を応用した、赤外線画像、アクティブレーダーの複合方式を採用している。
これにより、戦車などから放たれる発煙弾などにも騙されることなく命中することができる..............ただ、旧世界でロシアが戦車でも運用可能なCIWSを搭載したせいで命中数が少なくなると予想されている。
「最初はダイブモードの射撃です」
「ダイブモード?」
「まぁ見ててください」
緑の旗から赤に変わる。
パシューーー!!!
間抜けな音が発生するが、その音源は間抜けではなく殺戮の槍である。
「あのように上昇し、目標に向けて降下します」
ドォォーーン!!!
「............なんのためにそうする必要があるんだ?」
なぜ一旦上昇するのか理解出来ずに士官が聞く。
「戦車という兵器があるのですが、貴国にもありますよね?」
「..............なんだそれは?」
まさかの返事に解説役の隊員は軽く驚く。WW1のイギリスレベルなら戦車—といっても菱形戦車だが—を保有していてもおかしくないと考えていたからだ。
しかしここで軽く認識の差が発生している。
確かにムー共和国の技術レベルはWW1のイギリスレベルだが、一部技術はそれを突出している。
例えば『マリン』などがそうである。
そして一部WW1より前の技術がある。
ムー共和国内で、ある意味、パラダイムシフトが起こっているのである。
「そうですか.........後程登場しますので説明を省略します。その戦車というのは、基本的に上の部分が弱点となっています。正面からの射撃では装甲に防がれる可能性があるため、より撃破の可能性が高い部分を狙うために、ああいう方式を採用しています」
ラッサンはここで確証を得た。
『日本軍は誘導弾を基礎とした戦術を採用している』と。
パシュー!!!
今度は低伸弾道モードで発射される。
「...............あれでは避けようがないではないか」
もちろん命中だ。
17式とLAVはすぐさま撤収を開始する。
それと入れ替わりで16式B型MCV2台と25式偵察警戒車2台が侵入してくる。
「そ、装輪だと!?しかもあの砲、100mmはあるぞ!?」
ぱっと見で大体の能力を把握するムー共和国陸軍士官。
「8輪駆動式..........機構が複雑になるだろうに...........」
そしてあることに気付く。
「あの砲身、ずっと何かを追尾していないか?」
そう言われて全員が砲身を見る。
士官の言った通り、砲身がどこか一点を狙っているようで、揺れなどに合わせて追尾しているようだ。
ドン!!!!!
120mm滑腔砲が放たれる。
16式の主砲は105mmライフル砲、つまり、旧自衛隊が使用していた74式戦車と互換性があるが、105mmライフル砲専用の弾の劣化が問題となり、16式の改良案が出た。
16式を大型化、そしてエンジンも全て新型に換装し、主砲も10式戦車などの弾と互換性を持てるよう120mm滑腔砲に変更された。
16式最大のメリットは、『展開速度』と『重量』である。
その利点を殺さない程度の、能力の向上が望まれた。
C-2輸送機で搭載可能な重量を、そして高速道路、一般道路の荷重制限を守りつつ、攻撃力と防御力の上昇と、かなりの無茶振りであったが、苦労に苦労を重ねて開発に成功したのがB型なのだ。
それが16式B型である。
そして砲弾が5cm×5cmの正方形の的を撃ち抜く。
「すごい!あんな小さな的に正確に当てたぞ!」
そしてスラローム射撃も披露する。
「あんな蛇行をしながら............よっぽど良い砲なんだな」
「忘れてはいけませんよ。我が国と日本の差は150年近くもあるんですよ」
マイラスのたったの一言で場が凍りつく。
そう、150年も離れているのだ。その差は計り知れない。
ババババババババ!!!!!
30式偵察警戒車が25mm機関砲による、16式撤退援護射撃が行われる。
「.............なんて連射速度だ」
30式偵察警戒車とは、『侵攻阻止』にて登場した、30式指揮通信車と
16式が撤収したのを確認すると、30式RCVも撤収する。
「次は戦車火力です」
隊員がそう言うのと同時に40式戦車が侵入してくる。
「あれも120mmくらいか............」
ドン!!!!!
砲弾が放たれる。
「やはり当てるか.............」
100発100中という現実離れしている性能に視察団の何人かが気絶する。
しかし気絶していることに他のメンバーは気づけなかった。
「やはり思想が違いすぎるな.............」
ラッサンがようやく口を開く。
「やはりあの誘導弾か?」
「あぁ。あの誘導弾を使えば、戦争の常識が根底から覆る。そしてお前が痛めつけられたロウリア王国戦でその一端が行われたのか...............」
“ロウリア王国”と聞いて、マイラスの背筋に悪寒が走る。
「やめてくれ。今でも嫌なんだから............」
「すまんすまん。だが我々の、兵器の進むべき方向性がこれでハッキリした。まず、誘導弾を前提とした戦術構築。航空機のJET化、とかまぁそんなとこだろう。時間はかかるだろうけど、この国と長く付き合えば、いずれはミシリアルも越えれるだろうぜ」
目をキラキラさせながら話すラッサンに、大きくため息を吐くマイラス。
「いいか?そこまでの道のりは途方もないぞ?プロペラ複葉機からいきなりJET機にできるわけじゃない。そこまでの過程が必要なんだ。技術レベルがある程度近ければ、無視することもできるが..............まぁ150年近くの差があるから無理だな」
技術は過程が必要である。
なぜそれができるのか?それを理解しながら技術を発展させていくためである。
「輸入という—」
「無理だ」
「なぜ?」
「『技術流出防止法』があるだろ?」
「...............そうだった。なんとかして緩和などしてくれないかなぁ〜」
ドン!!!!!
40式戦車の砲撃で、強制的に話が打ち切られる。
「戦車を作ろうとしたら、あんなものは100年かかっても不可能だよ.............実際100年以上離れているけどな」
40式1台による展示を終え、シチュエーションを開始される。
新たな40式戦車が5台侵入する。3台はすでに侵入している40式の元へ着き、他の2台は日本戦車の『伝家の宝刀』とでも言うべき、“油気圧サスペンション”による姿勢制御で前傾姿勢を取り、稜線射撃態勢に入る。
そしてこの姿勢制御がマイラスの目に止まった。
「おい!あれ見ろ!!!」
ラッサンの肩を掴みガンガンと揺らすマイラス。
「なんだよ..............前傾姿勢?」
ラッサンの目には戦車がお辞儀しているようにしか見えなかった。
「そうなんだがそうじゃない!あれは自力で姿勢を制御しているんだ!」
「姿勢制御............あれなら地形に関係なく射線を確保できるのか」
「仮にあれを我が国の戦車に導入したらかなり役に立たないか?」
ラッサンが手を口に添えてしばらく熟考した後に口を開く。
「確かに役立つが.............我が国は
ムー共和国軍の、特に陸、空軍の戦闘教義《ドクトリン》は内戦戦略という、本土に侵攻されることを前提とした戦力構成となっている..............海軍はWW1のロイヤルネイビー並みを誇っているが、それはカウントしない。
「そして、日本の戦術は、全て
技術面の望みを戦術面で打ち砕き、戦術面の望みを技術面で打ち砕かれるというのを何度も繰り返す。
「新しいのが来たな............」
その呟きによって2人は議論をやめる。
「
新たな戦車、10式戦車が2台侵入してくる。
しかしここで40式戦車のスペックを提示する必要がある。
40式戦車
・全長9.80m
・全幅3.41m
・全高2.35m
・重量48t
・最高速度80km
武装
・40式55口径120mm滑腔砲
・12.7mm重機関銃
・24式7.62mm機関銃
と、至って普通であるが、ある装置が40式戦車に搭載されている。
それは、
ADS
『アクティブディフェンスシステム』と、
GK
『ゴールキーパー』である。
ADSは自衛隊時代から開発が続けられてたものが使用されているが、『GK』はドイツ製のものが採用されている。
ADSの機能は皆様が予想されている通りの性能なので省略させていただく。
そして気になるであろう『GK』は、正式名称『戦車搭載型近接防御システム』である。
それは戦車と一体化するようになっている。
戦車の天板から突き出る小型ドップラーレーダーが目標を探知すると、その情報を元にレーザー照準装置がM2機関銃と連動し、迎撃するというシステムだ。
しかしデメリットがある。
電力が足りない、である。
ある意味、国産戦車の宿命でもあった。
しかし、自衛隊時代からの開発の賜物である、『リチウムイオン超小型電動モーター』である。
自衛隊は、戦車の居住力不足—空調とか—をなんとかしたいと考えていた。しかし、予算の制約がある中で、それは実現不可能であった。
しかし、国防軍へと改組されたことで、予算の制約は
そして『リチウムイオン超小型電動モーター』の開発に成功したのである。
なお、上述した装置は戦車と一体化されるように収納されているため、実際のスペックとは差異が生じている。
(説明になりませんでしたすいません)
「あの戦車も姿勢を制御できるのか...........」
ドン!!!!!
10式と40式が同時に砲撃する。
40式が超信地旋回で向きを変え、砲撃を行いながら撤収を開始する。10式がそれに支援砲撃を行う。
40式戦車の撤収を確認すると、10式も姿勢を元に戻し、撤収する。
「これで前段演習は終了です。この後、一部の車両が展示されますのでしばらくお待ちください」
しばらくして、装備品の展示準備が完了する。
「どうぞお入りください」
隊員の指示に従い、ロープを超えて演習場敷地に入る。
マイラスとラッサンは真っ先に40式戦車の元へと向かった。
「...............やはり力強いな」
「120mmの主砲も魅力的だな............」
マイラスが戦車の側に立っている隊員に近づく。
「すいません。先程の姿勢制御を見せて頂けませんか?」
隊員は2つ返事で了承する。
前後左右、斜め、車高の制御を見せて実演を終了する。
「.............やっぱり役に立つよな?」
「役に立つが、その場面が問題だ」
役に立つ事がないという意味では無く、使用するタイミングがわからないという意味である。
「言えてるな」
2人は横に展示されている38式の前に移動する。
「これが155mm.........」
「さっき聞いたが、最高時速60kmだそうだぞ」
「時速60kmか...........」
展開スピードもムーとは桁が違う。
「我が国のカノン砲にも応用できそうだな」
「だが、あれは命中精度に難があるぞ?そこはどうするつもりだ?」
「命中精度に関しては、ある程度妥協するにして、問題はその展開速度だ。中央軍に配備すれば、その展開速度を活かせるだろう」
「..............まぁ理解はできる。だがな..............」
「日本と長く付き合えば、いずれはできると思うよ」
「だけど、どうやってあれほどの命中精度を.............考えるより聞いた方がいいな。すいません」
「はい、なんでしょうか?」
「この砲の射撃管制はどういうものなのですか?」
「そうですね............. 近年の砲兵戦では、対砲迫レーダー、火光標定、音源標定、無人偵察機などの各種観測装置を戦術データリンクによって情報を共有し、その情報をもとに射撃を行います」
無人偵察機は海軍視察の時に知ったので驚きはなかったが.............
「「対砲迫レーダー?」」
「対砲迫レーダーとは、レーダー装置で弾道を解析することにより、砲弾の発射地点を特定するためのものです。現在採用されているのは、対砲レーダ装置 JTPS-F10、32式対砲迫レーダー車が採用されています」
「.............確かに、砲撃陣地は敵に見つかったらいい的だからな。だから“自走砲”が生まれたわけだ」
「しかしレーダー技術がここまで役に立つとはな...........」
電探技術も発展すればここまでいけるという事だ。
「帰ったら上申書を提出するか............」
レーダー技術の恩恵は計り知れない。導入して日本からのノウハウと独自のノウハウを蓄積していければ成熟するだろう。
2人はレーダーの重要性を再び理解し、横に展示されている17式装輪装甲車の前に移動する。
「“装輪装甲車”か............展開スピードを重視した設計だな」
「しかし8輪か。その分機構も複雑になるはずだが、やはりそこは時代か...........」
「うちに配備するとしたら中央軍配備だな............」
「だな」
「あれを見に行くか...........」
30式RCVの元に向かう。
「なんか愛着が湧くな」
「..............しっかし、25mmぽっちの豆鉄砲じゃ役に立たないんじゃ?歩兵制圧には使えるだろうが...............すいません」
「はい」
「なぜこんな豆鉄砲を使っているのですか?」
「確かに砲口径は25mmと豆鉄砲です。ですが、この車両の目的は、先程の16式MCVと連携した威力偵察、単体での偵察、情報収集などを目的としているため、大口径砲は不要なのです」
「................装甲化された戦力を倒すことはできないのか」
一応、APFSDSがあるので不可能では無い。
「あれを見に行くか..............」
2人は17式装輪装甲車の元へと移動する。
「................8輪駆動か。機構も複雑になるだろうに.............改めて感嘆するよ」
約100年先の兵器を目の前で見られることに感嘆のため息を吐きながら話すラッサン。
「やはり展開スピードを重視した設計だな」
「装輪のメリットはここまであるのか..............」
2人はその隣へ移動する。
そこに展示されていたのは、16式MCVB型であった。
「さっきのひとななしきと同じ車体を使っているのか?」
17式装輪装甲車は98式装輪装甲車は96式装輪装甲車の後継として開発された。しかし、あくまで16式の車体を流用しただけであり、中身は大幅に変更が加えられている。
「みたいだな」
「.....................120mm、駆逐艦並みの主砲が搭載されていることに驚きだ」
「何度も驚いているだろ?」
「そうなんだがな.............約100年の差がこんなにも大きいとは、流石に予想外だったよ」
世紀換算で、約1.5世紀は離れているが、純粋な科学のみでここまで発展させてきた日本に驚く。
「我々も、あなた方の技術に関して予想外のものがありました」
後ろから声をかけられて、2人が後ろを向くと、そこには旧陸上自衛隊の迷彩服三型に、ノンフレーム眼鏡を着用し、防衛装備庁の人員であることを示すロゴが描かれた帽子を着用した人物が立っていた。
「初めまして。私は国防軍防衛技官の米内2尉と申します。いや〜、なんとか間に合いました」
「はぁ?」
腑抜けた声を出しながらマイラスは握手に応じる。
「本来なら私が付きっきりで解説をするはずだったのですが、突然の仕事が入り、そしてその連絡も代理の者に連絡がいかず、こうなってしまいました.............まぁそれはともかく、分からない事があったらじゃんじゃん聞いてください」
「では.............この“ひとろくしき”が開発された経緯を教えてください」
「はい。当時、島嶼部に対する侵略事態やゲリラ・特殊部隊による攻撃などの多様な事態に対処するため、優れた空輸性および路上機動性などの機動展開力、敵装甲戦闘車両などを撃破可能な火力を有する機動戦闘車を開発する計画が立てられました。陸上自衛隊の戦闘部隊が装備し、普通科部隊に対する前進掩護および建物への突入支援などを担うことを想定されました。陸上自衛隊の当時の現有装備である74式戦車および89式装甲戦闘車は、被空輸性や路上機動性が不足するため、戦闘地域へ迅速に展開することが不可能でした。一方、87式偵察警戒車や軽装甲機動車などの装輪装甲車では、軽戦車などを撃破する火力や目標発見後速やかに射撃する能力が不足するため、普通科部隊への火力支援が困難でした。ほかの代替手段については、アメリカなどにおいて同様の戦闘車両を装備していましたが、いずれも要求性能を満たすものはありませんでした。また、将来装輪戦闘車両の研究成果を反映する可能性を考慮すると諸外国からの導入は非効率であることから、本装備の開発が決定されたました..........................要約すると、空輸できて高速道路一般道路を走れて戦車並みの火力を保有する装輪戦闘車を開発した、ということです」
「なるほど...............」
「聞いてたんかい!」
おそらく半分も聞いていなかったと思っていた米内が思わず突っ込みを入れる。
「ゴホン。それで、この16式はB型と呼ばれる、初期16式の改良型です。主な変更点は—」
・エンジンを新型に換装。
・主砲を105mmライフル砲から120mm滑腔砲に変更。
・車体の大型化による装甲圧の増加。
「—になります」
「105mmでさえ強力なのに、さらに大口径に換装するとは.............」
「滑腔砲というのは?」
「滑腔砲とは、砲身内にライフリングが無い砲のことを言います。ライフリングがある砲は滑腔砲に比べて、弾道の安定性が増加するというメリットがありますが、装弾筒付翼安定徹甲弾と呼ばれる、砲弾を運用するには不都合でした..............あ〜小俣2曹、実物頼めるか?」
「了解です」
弾薬庫出入口を開き、タッチパネルを操作し、装弾筒付翼安定徹甲弾を取り出す。
「こちらになります」
「あれ?これ訓練仕様?」
本来の装弾筒付翼安定徹甲弾との違いに気づき質問する。
「いや、あなた技官でしょ?」
小俣2曹が突っ込みを入れる。
「あ、そっか............やっぱ内地だと限界があるか..........まぁ仕様はほぼ一緒だし大丈夫か.............。これを見て何か気付く事がありますか?」
2人はその砲弾を眺める。
「................先端が槍のようになっている?」
「that's right。今は覆われて見えませんが、この中にタングステン製の槍が入っています。それがあなた方の徹甲弾に当たります。この槍の速度は.............確か1,615m/secだったはず............うん合ってる」
「1,615m/sec................もしかしたら我が国のラ・カサミの装甲すら貫けるのか?」
「理論上は可能でしょう。しかしこの砲は直射のみで曲射を想定していないため、射程が約3kmと短いのです。それに、常識的に考えて戦艦と戦車が撃ち合うような状況はあり得ないでしょう」
「いずれ、脅威が水上艦だけではなく、陸までに増えるのか..............」
「他は—」
米内が『他にあるか』と聞こうと口を開いた時、小俣がそれを遮る。
「まもなく後段演習に入ります。車両を転回させますので席に戻ってください」
「ありゃ、もうそんな時間か............演習を見ながら解説でもさせてもらいましょう」
しばらくして後段演習が開始される。
「最初は水際防衛線を想定した訓練ですね」
すると、オートバイが猛スピードで侵入してくる。
それに続いて軽機動装甲車2台が侵入する。その後、12式改地対艦誘導弾と19式自走装輪155mm榴弾砲が侵入する。
「まぁこれに関しては展開訓練の方が強いですね。こんなの日本じゃ撃てませんので」
国防軍となった現在でも、長射程兵器、実弾をフルに使用した訓練はアメリカの演習場で行っていた。
しかし転移によってそれも不可能となったため、ロデニウス連邦政府と協議し、クイラ州の砂漠地帯を借用し、大規模な演習場制作を決定している。
「陸軍も艦船に攻撃が可能なのか..............」
今まで艦船への攻撃は、同じ艦船でしか—この世界では『航空機では戦艦を沈められない』が常識—対応できないとされている。
しかしこの誘導弾を使えば、陸地に接近できずに艦船が沈められるだろう。
「戦術の幅が広がるな.............あの装輪車も同じ155mm榴弾砲なのか............」
「19式に関しては、155mm榴弾砲をトラックに乗せたものと思ってください。そしてあの箱のような物を搭載しているのが、12式改対艦誘導弾と呼ばれる兵器です。射程は約300kmです」
「300km!?」
さらっと言われた12式の射程距離に驚愕するマイラス。
対してラッサンは冷静そのものだった。
「300か...............」
しかしそのラッサンの冷静さを失わせる言葉が米内の口から出る。
「あの12式の最大の特徴は『地形追随機能』です」
「「地形追随機能?」」
「簡単に言えば、山の斜面や起伏に沿って、低空で飛行できるのです」
「なるほど。電探に捕捉されないようにするためですね」
「その通りです。陸地から発射して、可能な限り発見を遅らせて海上に突入します」
「艦砲の射程にすら入れず撃沈されると............」
「しかし、あいつの出番は、最後の最後、水際防衛戦の時です」
そして12式が敵水上艦に攻撃を加え、敵艦船から発射された反撃のミサイルを03式改中距離地対空誘導弾が撃破したというシナリオが達成されたと解説される。
そして順次撤収を開始する。
今度は敵部隊が上陸したという設定で戦闘に入る。
最初に侵入したのは、16式を中核とする即応機動火力部隊が侵入する。
「最初は中距離多目的誘導弾による攻撃です」
茂みに紛れているトラックを見つけた。
「あれか...............」
「中距離多目的誘導弾とは、対舟艇、対戦車誘導弾システムです。誘導方式は、2種類の光波ホーミング誘導、及びセミアクティブ・レーザー・ホーミングの併用による第3世代方式で、照準は赤外線画像またはNEC製ミリ波レーダーで行ないます。1秒間隔の連続射撃で同時多目標への対処能力と撃ち放し能力を有しており、また、発射後のロックオンが可能です。市街戦や対ゲリラコマンド任務を考慮して、舟艇、装甲・非装甲、人員、構造物などに対して対処可能です」
「自己完結型ということか............」
「その通りです」
マイラスの想像以上の理解力の高さに驚く米内。
パシューーー!!!
中多の発射と同時に16式が主砲を発射する。
もちろん、全て命中だ。
「次は普通科による携行対戦車火器による敵装甲戦力の撃破です」
「携行対戦車火器?」
「歩兵が持てるロケット砲と考えてください」
84とLAMが発射される。
「普通科の撤退支援に17式の12.7mm機関銃と、96式40mm自動てき銃による制圧射撃を行います」
バババババ!!!!!
17式による軽火器制圧を行なっているその間、普通科の隊員が17式の後部ドアから乗り込む。
全員が乗り込んだのを確認し、17式が撤収する。
「先程の攻撃で敵が侵攻を停止しました。そしてここにはいませんが海自*1による艦砲、SSMによるミサイル攻撃。そして空自による空爆の統合火力による敵戦力の撃破を行ったという設定です。その後増強火力部隊による敵戦力の撃滅を狙います」
AH-64J2機が最初に侵入し30mmとヘルファイアを発射する。その間にCH-472機とUH-60J2機がヘリボーンを行うため侵入する。そして40式、10式がそれぞれ4両ずつ侵入し砲撃を行いながら接近する。
そしてお決まりの発煙筒を発射し、訓練は終了する。
「すごい...........」
日本軍の演習はマイラスが言った通り、『すごい』の一言に尽きる。圧倒的な火力投射量、展開スピード。既に分かっていたことであるが、視察団全員が軍事力の差を五感で感じ取った。
「如何でしたでしょうか?」
「「「......................」」」
「すごい、の一言に尽きます」
統括軍参謀が代表して答える。
「でしょうね。では装備品の展示に移ります」
〜以下省略〜
装備品見学を終えた視察団は各自車両に分乗して移動していた。
「しかし、これにて日本軍の見学は終了ですか。もう少し色々見たかったですな〜」
「あ。忘れてた。そのことですが、使節団団長のアベル氏から滞在期間の延長が申請されました。よってあなた方は我々の調査を継続することができますよ」
米内が助手席から後ろに座っている視察団員に伝える。
「え? じゃあ............」
「はい。まだ
「おぉ!流石アベルだ!」
大はしゃぎの視察団員に対して、マイラスとラッサンは静かであった。
「今度はどんなものを見せてくれるんだろうな?」
「さぁな」
マイラスは窓の外の遠くにある富士山の影を光のない瞳で見つめていた。
マイラスはC-2改に搭乗した後、すぐに眠ってしまうのだった。
———————————————————————————————————
???
『う..............ん?』
マイラスが目を開けるとそこは大海原であった。
『ここは..............どこだ?』
辺りを見渡そうと後ろを見たら、そこには約50mもあろう艦橋があった。
『高い!50mはあるか?』
そして更に周囲を見渡すと、巨大な主砲と副砲が合わせて3基があった。
『でかい』
マイラスはそれに近づく。
『副砲は15cmくらいか...........口径は50〜60か.........そしてこっちか...........』
マイラスは副砲よりも明らかに巨大な砲塔に近づく。
『口径はざっと40〜50か..........大きさは...........48cm位か?それが3連装とは.............』
マイラスは改めて艦橋を見上げる。
高く聳え立つ艦橋はムーにある高層ビルに匹敵する大きさでありながらも、一種の感動を覚える。
『................それにしてもここはどこだ?』
マイラスが再び当たりを見回すと、舳先の近くに置かれたテーブルセットに座る人影を見つけた。
現状、人がそのテーブルセットに座っている人物しかいないのでマイラスは話しかけることにした。
『あの...............すいません』
『..................』
『すいません』
なんの反応もない。
『マイラス・ルクレールね?』
『はい。え?』
突然話始めた上、自分の名前を1発で当てたことに驚くマイラス。しかし彼方の水平線を眺めながら話しているため、どのような人物なのかは分からない。
『イティリスの民がここに来るのは初めてかしらね..............』
『イティリス?なんのことですか?それにここはどこですか?』
『ここは私の
『戦艦............』
『その戦艦の名前は、大日本帝国海軍戦艦『大和』よ.....................そして私の名前は—』
———————————————————————————————————
「—らす。マイラス!」
「んん?」
マイラスはラッサンに揺すられて起こされた。
「もうすぐ着くぞ」
「あれ?................」
「浮かない顔をしてけど、大丈夫か?」
「...............」
「体調に気をつけろよ」
「あぁ」
それからマイラスは何も話さなかった。
視察団を乗せたC-2改は百里基地へと到着した。コスモシーガルへと乗り換える為だ。
速やかに乗り換えた後、シーガルは洋上へと飛ぶ。
「米内さん。今度は何を見せてくれるのかね?」
「今度は機動艦隊の各種訓練を見ていただきます」
「おぉ。あの時の空母が見れるのか」
日本に向かう際に乗船した、あの超巨大空母をじっくりと見れると知り、俄かにざわつく。
しばらく飛行していると、米内が声を上げる。
「見えて来ました。左前方を見てください」
「おい、何が見える?」
右側に座っていた者が左側に座っていた者に様子を聞く。
「な!」
「嘘だろ!?」
左側に座っていた者がざわつき出した。
「おい、何が見える?」
だが何も答えず、埒があかないため直接見ることにした。
その窓から見た光景は................。
「浮かんでる!!?」
「いや、空を飛んでいるのか?」
「米内さん。あれは一体..........」
すると、米内は笑みを浮かべながら答える。
「日本国国防宇宙海軍、第5機動部隊旗艦、あかぎ型護衛宙母『ずいかく』..............日本で最強の空母の最終艦です」
「最終艦..............」
視察団を乗せたシーガルは、大気圏内航行する『ずいかく』へと着艦する。
「本当に飛んでいる..........」
艦が空を飛ぶということが信じられず、顔面蒼白になる視察団。
視察団は艦橋へと案内される。
「こんにちは。当艦『ずいかく』の副長です」
ずいかく副長妖精が敬礼しながら挨拶する。
一通りの挨拶が終わった後、マイラスが一番最初に質問をする。
「すいません。この艦はどうやって飛んでいるのですか?」
誰もが一番聞きたいことを聞くマイラス。
「メインとなるのは次元波動エンジンの莫大なエネルギーを使用したエンジンを使います。そして空中を航行する際は慣性制御をすることにより艦を維持しています」
「か、慣性制御?」
慣性制御という聞き慣れない言葉を鸚鵡返しするマイラス。
「艦の中の重力を操作したり、艦の周囲の力場を変えたりすることです」
「..............つまり、その慣性制御というのは重力を操作できると?」
「簡単に言えばそうなります」
ざわめく視察団。
どうやって自然の一部である重力を操作できるのか。それが一番気になることではあったが、到底理解できない物だと判断し、マイラスはそれ以上追求しなかった。
「本日ここに来ていただいたのは、本艦の本来の力をお見せするためです」
(空母だけが空を飛ぶ?.................いや、それだけではないはず。護衛艦も浮かせる必要があるはず...........嫌な予感がする)
空母だけではなく、その護衛艦も随伴させる必要があると推測したラッサンは手を大きく上げる。
「なんでしょうか?」
「日本軍の艦艇は............全て空を飛ぶのですか?」
しばらくの沈黙の後にでた答えは............。
「全てではありませんが、戦闘艦は全て飛びます」
大は空母や戦艦、小は駆逐艦まで、全て空を飛ぶということに絶句する視察団。
「そ、速度は?」
嫌な予感を感じつつも質問をするムー共和国海軍将校。
「..............貴国の戦闘機より速い、そう思っていただいて結構です」
何人かが泡を吹いて倒れる。
ムーの戦闘機、つまりマリンよりも速いということなのだ。
「おまけに戦闘機との殴り合いは想定していても、空中にいる戦闘艦を攻撃することは想定していないぞ.............」
むしろそんなことを想定している変態がいてたまるか。
「まぁ普通はそうです」
その後、『ずいかく』の詳しい説明を受けた後、実演を見せてもらった視察団。
「あははは。まさかこれほどまでとは..............」
そう言いながら統括軍参謀が倒れる。
倒れた参謀を隊員妖精が担架に乗せて運ぶ。
最後まで立っていたのはマイラスとラッサンだった。
「.................戦い方が根本的に違うとは思ったが、戦う場所が違うね」
「だけど、これほどの艦を浮かばせる技術は魅力的じゃないか?」
「確かにそうだ。軍艦のデメリットである展開速度も補えるしな」
「ただ...........」
「ただ?」
「日本と我々の時代が違いすぎる」
「うん。それは仕方ない」
単純な計算でも150年近く離れているのである。これまで見てきた兵器だけでもその差は窺える。
「そして精神的にも違う」
これまで何人もの隊員と出会い、それを肌で感じ取っていた。
ムー共和国の軍人は、やはり列強という驕り、そして自国主義を取る軍人もいる。
しかし日本軍は簡単に言うと、己の立場を弁えていた。
マイラスが試しに政府のことを聞くと、『私は武官です。政治に関与してなりませんが、それは無関心ということではありません。逆に厳しい目で政府を見ています』。と答えた。
そしてマイラスはそこにもう一つ質問をした。
『自国が一番だとは思わないのですか?』と。
そして隊員はそれに笑顔で答えた。
『自国が一番だと思ったら奢ってしまいます。そうなったら国として終わり、いや世界の終わりです』と。
「技術だけではなく、人としても差があったな..............」
その後、視察団は飛行甲板へと移動し、コスモシーガルへと分乗する。
マイラスがシーガルへと乗る前に『ずいかく』の艦橋を見上げる。
「立派な
視線を下に戻すと一人の人物が近づいてくる。
「ん?」
どうやら女性のようだ。帽子を目深に被っているためどのような顔なのかは分からないが。
「“灯台”、私も行きたかったわ」
それだけを言い残すと、その女性は艦橋に戻って行った。
「?」
困惑するマイラス。
「急いでください!予定時刻が迫ってます!」
そう急かされマイラスはシーガルに乗る。
シーガルはカタパルトによって大空に打ち上げられる。
飛行するシーガルの中でマイラスは先程の言葉を思案していた。
(“灯台”とはどういうことだ? これから行く先と何か関係があるのか?。それに今まで見てきた全ての艦艇の名前と艦長の名前が一緒ということが気になる。何か訳があるのだろうが.............)
「おい。何をずっと考えているんだ?」
ラッサンがマイラスの事を小突きながら聞く。
「いや................なんで艦の名前と艦長の名前が一緒なのかが気になってな...........」
「言われてみればそうだな」
ラッサンが腕を組みながら答える。
「艦長の名前が艦艇の名前になるとか?」
「いや。この国の命名基準がわからないからなんとも言えないが..............それはないと思う」
「じゃあ一体なんなんだ?」
マイラスは外を見ようと窓に目を向けた時、差し込んできた夕日に目を眩ませる。
「うっ」
思わず手を翳したマイラス。
すると夕日の中に一本の線が見えた。
「線?」
「どうした?」
「いや。夕日の中に線が見えたような............」
ラッサンが身を乗り出し夕日の中を見ようと目を細める。
「...........確かに何か見えるな。おい、あそこ」
「ん?」
ラッサンが指さした方向を見る。
黒い点が5つあった。
「鳥か?」
その影が徐々に大きくなり、やがてその正体が明らかになる。
「! 戦闘機か!?」
その影の正体は、マイラスの言った通り戦闘機であった。
5機の戦闘機はコスモシーガルを中心に編隊を組む。
マイラスがその戦闘機をじっくりと観察していると、あることに気づく。
「..............窓が無い?」
そう。窓が無いのだ。
「じゃあ操縦者はどうやって..............」
ラッサンが機上整備員の横に座っている米内に近づく。
「すいません。ちょっと来ていただけないですか?」
米内は2つ返事で了承する。
「あの戦闘機は?」
「あぁ。あれですか。あれは国連空軍所属の無人戦闘機ですね。CAPを終えて帰還するついでの護衛でしょう」
「む、無人戦闘機!?」
「はい。読んで字の如く、無人の戦闘機です」
「では、どうやって操縦を?」
米内が無人機に視線を向けた後、再びマイラス達に視線を戻す。
「そうですね.............あれは自立状態、つまり、“機械が自分で考えて飛ぶ”ということです」
「自分で考えて飛ぶ?」
「はい。少し語弊がありますが、そう考えてください」
無人戦闘機であれば、パイロットを育成するのに必要な、何年もかけて訓練を行う必要がない。
それに撃墜されても、その分のリソースが失われるだけで、貴重な人材を失うことはない。
「しかしどうやって自立飛行をさせるんだ? 自身の安定性も考慮しなければならないのに..............」
マイラスが自分だけの世界に入ったことを確認したラッサンは、大きくため息を付くと米内に質問をする。
「あの無人戦闘機。所属が国連軍だと言いましたが、これから向かう場所は
「その通りです。旧世界上、世界で一番高い建造物でした」
「はぁ? どの位の高さなんでしょうか?」
「今は延伸されましたが、大体10万kmでしょうか? もっと長かったかな.......... *2」
「は?」
10万?10万?10万?10万?10万?10万?
「10万?」
何かの聞き間違いかと思い、もう一度聞くラッサン。
「10万kmです」
「嘘だろ? そこまで行ったら宇宙だぞ............」
ラッサンは天井を見る。
「あの空の先、宇宙までたどり着いていると?」
「えぇ。まぁ、建設されたのはつい最近ですけどね。我が国と複数の国との国際プロジェクトで建設されました*3
「国際プロジェクト..............それだけ平和な世界だったのか...........」
「まぁ語弊がありますが、一応平和でした」※ライバルだらけの平和な世界☆
(そして日本国はそのプロジェクトに入るだけの実力を保有している...........旧世界上の列強だったのか.............)
「見えてきました。あれが旧世界上に於ける、世界の希望とも言うべき建造物。“灯台”です」
全員が窓の外を見る。
「あれが“灯台”...........」
太陽が水平線の彼方に沈み、当たりがダークブルーに包まれる中、その建造物はその色に溶け込まず存在感を解き放っていた。
“灯台”
それは旧世界上の平和の象徴の為に建造された。
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
前回の投稿から約2ヶ月、皆さま大変お待たせいたしました。
まず投稿が遅れた理由ですが.............自分でも信じられないほどの執筆ペースの遅さでした。演習での作成に時間のほとんどを費やしてしまいました。
お陰でwiki内のコメ欄でエター扱い.............反省せねば。
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16式の解説、https://ja.m.wikipedia.org/wiki/16式機動戦闘車より引用。
中距離多目的誘導弾の解説、https://ja.m.wikipedia.org/wiki/中距離多目的誘導弾より引用。
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山鳩様、晶彦様、誤字報告ありがとうございます。
評価してくださいました、主様、老害おじさん様、earthmoon様、ありがとうございます。
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次回 『灯台』
パラレルワールドその2 フェン王国に関する分岐点
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①
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②
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③
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④