異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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混乱

 前回の日本に対する軍事支援の要請をアルタラス王国が出す前、1週間ほど前に遡る。

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 アルタラス王国 アテノール城

 

 

 ここ、アルタラス王国は世界有数の魔石産出国であり、それを輸出することで発展してきた国である。その為、第三文明圏外国家としては珍しく文明圏に匹敵するレベルを保持している。

 そんなアルタラス王国の王の間でアルタラス王国国王、ターラ14世が従者(外交官)からの報告を受けていた。

 

「それは..........誠か?」

 

 ターラ14世が信じられないという表情になる。

 

「は。誠に御座います」

 

 ターラ14世は手元にある文書を読み直す。

 

 『シルウトラス鉱山割譲要求』

 

 と、題されていた文書であった。

 

『アルタラス王国はシルウトラス鉱山を皇国に献上すべし。実行期限は文書到着時より1ヶ月以内に履行するものとする』

 

 王国の中でも三本指の中に入る程の魔石産出鉱山の献上を皇国は要求している。まだこれは分かる。問題は次であった。

 

 『アルタラス国王王女ルミエスを奴隷として献上すべし』

 

「一国の王女を奴隷として献上だと!?」

 

 パーパルディア皇国の非道な行いはアルタラス王国でも有名であったが、一国の王女を奴隷として献上するようなことは一度も無かったという。

 

「これは..........やはり皇国は我が王国を狙っていたのか..........」

 

 ターラ14世はしばらくの間思索に耽ると玉座から立ち上がる。

 

「文書の真意を確かめに行く。付いてこい」

 

「は!」

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 ターラ14世と外交官はパーパルディア皇国在外公館に到着する。しばらく待った後部屋に通される。

 

「なんの用だ。ターラ14世」

 

 在外大使カストが手を背もたれに掛け、足を机の上に置くという無礼の極みで応対する。

 

「文書の真意を確認しに来ました」

 

 無礼には無礼で返すため、挨拶抜きで話に入るターラ14世。

 

「そのままの通りだが?」

 

 カストはさも当然のように答える。

 

「シルウトラス鉱山は我が国有数の魔石産出地です。なんとかなりませんでしょうか?」

 

「無理だな」

 

 ターラ14世の願いを一刀両断するカスト。

 

「..........わかりました。では我が娘、ルミエスを奴隷として献上というのは?」

 

「あ? それは俺が味見をする為だ。まぁ飽きたら市場へ売るがな」

 

 カストは舌なめずりをしながら答える。

 

「「は?」」

 

 カストの予想外の答えに間抜けな声を出してしまう両名。

 

「...........それを1ヶ月以内に履行せよと?」

 

「そうだ」

 

 もはやその会話に国家と国家の対等な関係はなく、搾取する側とされる側がはっきりと分かれていた。

 

「あまりにも—」

 

「無茶だろ? だから1ヶ月の猶予を与えている。必ずやれ、いいな?」

 

 それ以上の会談は無駄だと言わんばかりに部屋から追い払うカスト。

 

 

 

「くそがっ!!!!!!」

 

 王城に戻るなり騒ぎまくるターラ14世。周りにいる大臣らはおどおどしながらその様子を見守る。

 

「奴らは自分達以外を人間とは見ていない! もはや家畜以下の扱いだ!!」

 

 一頻り騒いだ後、大きく息を吐き気持ちを落ち着かせるターラ14世。

 

「戦争の準備だ! 1ヶ月後の戦争を見据え、すぐに準備をせよ! そして外務卿!」

 

「は!」

 

「日本国に軍事支援を要請せよ! 彼の国の実力が本物なら、列強であるパーパルディア皇国の脅威を跳ね除けてくれるだろう」

 

「恐れながら陛下。我が国と日本国との間に国交はありませんし、何よりルミエス様の亡命受け入れ国家策定は.........」

 

「うむ、分かっておる。できれば日本国に我が娘を保護してもらいたいところであるが、国交すら締結していないのだ。受け入れてくれる可能性は低いであろう..........そして、隣国のシオス王国は日本と関係があった筈だ」

 

「..........分かりました。すぐに取り掛かります」

 

 外務卿は早速仕事に取り掛かる。

 

「シオス王国に駐在している大使に日本国大使と会談を設けて貰うように伝えろ」

 

「分かりました」

 

 外務卿の命令は迅速にシオス王国に駐在している大使に届けられる。

 

 

 

「—そして今に至ると.........」

 

 シオス王国駐在日本大使がアルタラス王国大使の説明を聞き終える。

 

「はい。最初に申し上げた通り、アルタラス王国は貴国の軍事支援を希望します」

 

 アルタラス王国大使の希望に日本大使は難しい顔を浮かべる。

 

「貴国の気持ちはわかりました、本国に伝えておきます。.............ただ現行法の解釈では貴国の支援のために派兵するというのはかなり難しいと言わざるを得ません」

 

「な、何故ですか? ロウリア王国戦では派兵したと聞きましたが?」

 

「ロウリア王国戦の際は、集団的自衛権の行使であり、何より我が国から多数の日本邦人がクワ・トイネ公国、クイラ王国に滞在していた為です」

 

 後々の国会に於いても、『邦人保護出動』『集団的自衛権の行使』*1の観点から国防軍の出動は正当であると認められている。

 尚、必要最小限度の実力であったかどうかは今も論争が続いている。

 そしてクワ・トイネ公国からの要請を必要としたのは、免罪符の一つとするためであった。

 

「そ、そんな...........では集団的自衛権の行使は.........」

 

「はっきりと言わせて頂きますが、貴国、アルタラス王国とは国交を締結もしていない、邦人が滞在していると言うわけでもない。そして国際連合加盟国でもない。先程も言いました通り、本国に連絡はさせて頂きますがね」

 

 がっくりと項垂れるアルタラス王国大使。

 

「話はこれだけでしょうか?」

 

「はい........では失礼します」

 

 非情とも捉えかねない日本大使の対応ではあったが、国交すら無い国の要請を本国に伝えてくれるだけでも十分な成果であった。

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 そして時系列は前回の総理執務室での会議に戻る。

 

「—向こうも無茶振りであることは承知のようです」

 

 宇治和は淡々と言った。

 

「...........広瀬君。どうだ?」

 

 上野は広瀬に視線を送る。

 

「現行法、いや、今回の事態に関する法律があったとしても、国交を締結していないのです。クワ・トイネ公国の際は邦人保護出動、そして資源、食料の輸入が途絶えると死に絶えるという観点から集団的自衛権の行使に当たるからこそできたものです」

 

「つまり派遣は不可能ということか........」

 

「国交があるならばなんとかなりますが、我が国はこの世界での立場がまだ定まっていません。もしパーパルディア皇国を敵に回した場合........敵を無条件降伏まで追い詰める必要があるかも知れません。それに他の列強、神聖ミシリアル帝国はこの世界で最強と名高いのです。それと関係が悪化した場合、我が国やこの世界が望まない結果となるでしょう」

 

「........周りくどいが、派遣に反対だな?」

 

 上野は少し広瀬を睨みながら言った。

 

「はい」

 

「そうか.........」

 

「私も同じ意見です」

 

 次々に賛成意見が上がる。もはや結果は決まったも同然であった。

 

「.......宇治和君。要請を拒否する旨を伝えてくれ」

 

「.........分かりました」

 

 〜後日 シオス王国 日本大使館〜

 

「貴国の要請を拒否させて頂きます」

 

 日本大使は淡々とそう言った。アルタラス王国大使は今にも叫びたくなる衝動を抑えて声を震えさせながら答える。

 

「分かりました........」

 

 アルタラス王国大使はトボトボと自国の大使館へと戻り王国へ結果を伝えるのだった。

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 アルタラス王国 アテノール城

 

 

 

 外務卿からの報告に王の間に集まった官僚らの表情は暗くなる。ターラ14世も例外ではなかった。

 

「やはり国交がないというのが大きかったようです.........」

 

「.........で、あるか。分かりきってはおったが、そこまではっきりと断絶の意思を示されるとちと心にくるな.........」

 

「それで我が国の今後は?」

 

 官僚の1人がターラ14世に問う。

 

「............」

 

 長い、長い沈黙の後、ターラ14世は答える。

 

「もはや我が国はパーパルディア皇国にとって家畜以下の存在と化している。それはもはや国ではない! それに、一国の王女を奴隷として拠出するのを断じて認めん!! 徹底抗戦の準備だ!」

 

 王の間にいる全員が踵を鳴らし、王国式の敬礼をする。

 

「「「アルタラス王国万歳!! ターラ14世万歳!!!」」」

 

 アルタラス王国首脳の決定は国民にも広く知られることになり、その経緯を知った国民はターラ14世への支持を表明した。

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 パーパルディア皇国 パラディス城

 

 

 

「なるほど。そこまであからさまに反抗的な態度を見せてこようとは.........」

 

 皇帝ルディアスは従者からアルタラス王国の戦争準備行動に特段驚く様子はなかったが、それでも列強である皇国に対し、ここまで反応を見せてくれるとあって軽く驚く。

 

「猶予は後1週間だったな?」

 

「は。その後に再びアルタラス王国の意思を確認、命令を拒否するならば、即座に侵攻を開始致します」

 

「...........アルデよ」

 

 ルディアスがアルデの名を呼ぶと後ろに控えていた人物が一歩前に出る。

 

「は! 既に皇軍の出動準備は整ってございます。恐らくやつらは監察軍が出てくると思っているでしょうが、今回相手するのは栄光ある皇軍であります。奴らの度肝を抜いてやりましょう」

 

「頼もしいな。期待しておるぞ」

 

「ははっ!!」

 

 パーパルディア皇国が予想した通り、アルタラス王国は命令を拒否。皇国はその場でアルタラス王国に対して宣戦を布告するのであった。

 ルミエスの亡命に関する話はほぼ同じなので割愛させていただく。

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 アルタラス王国とパーパルディア皇国との戦争に、日本は護衛艦2隻、無人機を複数使用してこの戦争を見届けようとした。援助はできなくても、せめてその戦争を見て見ぬふりをせず、最後まで見届けようという意見が出たためであった。

 国防省は戦闘情報収集のため、西暦2051年に就役を果たした最新鋭艦、多目的情報収集艦“しょうなん”と護衛艦“たくみ”を派遣する。

 “しょうなん”は魔法を使用する国家の通信の傍受など。新世界に対応した装備品を多数装備している。そしてこの“しょうなん”は、テストヘッド艦も兼ねていた。

 “たくみ”は非武装船である“しょうなん”が万が一にでも戦闘に巻き込まれた場合、その脱出援護の為に付けられた。

 とまぁ、戦闘情報収集のための最低限度かつ、その中でも戦闘係数が高い護衛艦が派遣されることとなった。

 派遣口実は『調査研究の為の護衛艦派遣』とされた。

 

 護衛艦などが到着してから僅か1週間後、アルタラス王国は降伏した。

 たったの1週間で終わった戦争であったが、パーパルディア皇国が使用する魔導周波数の解析、具体的な戦術の確認など一定の成果を挙げたのだった。

 そして時間は少し進み、アルタラス王国対パーパルディア皇国の戦争が始まって2週間後の旧ロウリア王国沖の群島に場所と時間を移す。

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 アルタラス王国商船 タルコス号

 

 

 

  アルタラス王国王女、ルミエスを乗せたタルコス号はロデニウス連邦北西沖の群島を通過していた。

 航海距離の長さと、船体規模が比例していない為、乗員の疲労はピークに達しつつあった。

 —尚、原作と同じやり取りのため割愛する。

 するとマスト上部にて周辺の警戒を行なっていた乗員が、群島の影から出てくる帆船3隻を見つける。そのマストには誰もが分かりやすいようにドクロが描かれていた。

 

「右舷より海賊船が3隻! 真っ直ぐ来る!!」

 

 その報告を受けて乗員が戦闘配置を整える。

 

「姫様、早く中へ!」

 

 リルセイドが王女が船内へ避難したのを確認すると自身も帯剣する。

 そして戦闘が始まった。

 —尚、原作(以下略)。

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 国防宇宙海軍 第一護衛隊群 第一護衛隊所属 護衛艦『かげろう』

 

 

 

 国防宇宙海軍所属のかげろう型一番艦『かげろう』は、海賊対処法に基づき旧ロウリア王国海域のパトロールを行なっていた。

 

「レーダー探知、群島より9.7km。数4.........内3隻は艦隊行動を取っている模様。本艦との距離、約200km」

 

 レーダー士官がCICから報告を上げる。

 

「.........通行申請のない船舶の模様です。P-1Bが急行しています」

 

 船務長が今日分の通行船舶の確認を行い報告した。

 

「了解。SH-60Cも向かわせろ、本艦も急行する。航海長、進路変更。面舵20°、第二戦速」

 

 副長が操艦指示を行う。

 

「面舵20°。第二戦速、黒10」

 

 操舵員が復唱しテレグラフレバーが第二戦速に合わせられる。機関出力が上がり、約38ノットまで加速する。

 

ゴッドアイ(P-1B)より情報通信。『民間船1隻が海賊船3隻に攻撃を受けている』です」

 

「急がないといけないな........両舷前進最大戦速、黒10」

 

「両舷前進最大戦速! 黒10!」

 

 機関出力が更に上がり、最大船速である43ノットまで加速する。

 

「艦長入られます!」

 

 艦橋に艦娘かげろうが入る。

 

「ご苦労様。状況は?」

 

「は。先程哨戒機より『海賊船が民間船に攻撃を行なっている』と送ってきました」

 

「了解です。合戦準備、対水上戦闘用意」

 

『対水上戦闘用意!』

 

 発令員が復唱すると、警報が鳴り、戦闘準備が整えられる。

 

「立入検査隊要員は所定の行動を取れ」

 

『対水上戦闘用意よし』

 

 かげろうは全速力で現場海域へ向かう。

 

 

 

 アルタラス王国王女、ルミエスは目の前で繰り広げられている命の奪い合いに、ただ呆然と眺めていた。

 

「何をしておられるのですか姫様ぁ!!!!」

 

 リルセイドの叫び声すらルミエスの耳に入らなかった。ただある存在を除いて—

 

「?」

 

 怒声があたりに響く中である音が聞こえてくる。

 

 —キィィィィーーーー!!!!

 

 妙に甲高い音を鳴り響かせながら、白いそれは辺りをグルグルと飛び回る。

 

「なんだぁあいつは?」

 

「お頭ぁ! あいつはなんすか?」

 

 ここで海賊もリーダーの異変に気付く。

 

「おい、オメェら、覚悟はできたか?」

 

「どういうことでっさ?」

 

「あいつは.........あいつは『灰色の悪魔』を呼ぶぞ!!」

 

「は.......『灰色の悪魔』!?」

 

 『灰色の悪魔』

 およそ4年前に突如として現れた灰色の巨大船のことを例えた言い方であった。そう呼ばれる所以は、海賊を片っ端からボコボコにしていき、そして全員が連れ去られているからであった。

 すると白い羽虫も現れてくる。『灰色の悪魔』が出現する前兆が次々と起こる。そして—

 

「巨大船が来やした!」

 

 —灰色の悪魔が現れる。

 

「くそっ! 迎え撃つしかない!」

 

 今更ながら、自身の判断が甘かったことを呪う海賊のリーダー。かげろうが海上サイレンを鳴らし、呼び掛ける。

 

『こちらは日本国国防海軍。直ちに停船せよ!』

 

 人の声とは思えない声量でこちらに呼びかけてくる。おまけに何かをピカピカと光らせている。しかし彼我の船速が違いすぎる為逃げ切ることはできない。よってリーダーは迎撃を命ずる。

 

 

 

「該当船舶、停船命令を拒否。真っ直ぐこちらに近づく」

 

 どうやら指示を聞く気は無いらしい。かげろうはそう判断し指示を下す。

 

「主砲警告射撃、撃ち方始め!」

 

「主砲警告射撃、撃ち方始め!」

 

 手動にて主砲が3発発射される。3発の砲弾は海賊船の10m先に着弾する—が、海賊船は尚もこちらに向かってくる。

 

「CIWS、有効射程に入りました」

 

「CIWS、警告射撃。射撃始め!」

 

 CIWSが手動にて発射される。今度は海賊船の舳先を掠める、ギリギリを狙う。

 

「最終警告終了。海賊船は依然として本艦に向かいつつあり。対不審船機銃射撃用意」

 

『射撃用意よし』

 

 無線にて準備が整ったことが報告される。

 

「射撃開始!」

 

 今度は警告ではなく、沈めるための攻撃となる。

 戦闘という名の蹂躙戦は1分で終了した。人に当たれば体をズタズタにする12.7mm機銃が木造船に射撃された時点で察しである。

 海上に漂う海賊を引き上げて、ノックアウトシールを貼り、ギャーギャー騒ぐ海賊たちを黙らせる。

 そしてようやく民間船舶へと接触できる。

 

「かなりやられているわね.........負傷者の確認を」

 

 魔信にて負傷者の有無を確認すると、どうやら複数いるらしい。

 

「曹長。内火艇、複合艇を降ろして負傷者を収容、ついでに向こうのお偉いさんも連れてきて」

 

『了解です』

 

 立入検査隊隊長の曹長妖精が元気な声で返事をする。

 しばらくして、負傷者の収容を終えるのと同時にタルコス号の代表者と名乗る人物と、その護衛と思わしき人物を合わせて2人が貴賓室に案内された。

 

(綺麗な人ね........)

 

 かげろうはルミエスを見てそう思った。自身も並大抵の美貌では無いが..........。

 

「こんにちは。私は日本国国防海軍所属の護衛艦“かげろう”の艦長を拝命しているかげろうと申します。早速ですが、貴船の航行目的、国籍を教えて頂けるでしょうか?」

 

 すると2人は顔を見合わせて何かを話している。—何か隠しているのか?と、かげろうがそう思った時、身なりのいい服を着こなした女性がばたりと倒れる。

 

「姫様ぁ!!!」

 

 護衛と思わしき人物が()()と大声を張り上げる。かげろうは姫様というのが気になったが、取り敢えず後回しにする。

 ルミエスのことをよく見ると、左腕に包帯が巻かれていた。かげろうは慎重にそれを解くと、傷跡から微かに透明な液体が出ていた。

 

「この傷は?」

 

 リルセイドに見覚えは無いらしく、分からないと答えられた。

 

(動悸が狂っているわね—)

 

「もしかして毒!?」

 

 考えたことが思わず口に出るかげろう。考えるよりも先に体が動く。

 

「こちらかげろう。飛行班長、ヘリの状況は?」

 

 かげろうは無線にて飛行班長と連絡を取る。

 

「は? 今収容作業中ですが—」

 

「作業中止! すぐにエジェイの病院へ向かって! 要人一名が毒でかなりまずい状況よ!」

 

『了解しました!』

 

「毒!? まさかあの時に........」

 

 若干混乱しているリルセイドにかげろうは言う。

 

「後で『姫様』という意味をお聞きしますがよろしいですね?」

 

 その後ルミエスは、SH-60Cにてエジェイにある日本病院へ運び込まれた。

 —その後は原作と同様の為以下略。

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 日本国 とある料亭

 

 

 

 日本国内閣総理大臣上野は料亭にて経済連会長と会食を行なっていた。

 

「調子はどうだ?」

 

 会長が鍋を突きながら言う。

 

「はは.......佐山の跡継ぎ政権とも言われていますが、何分前任者が優秀すぎましたので、わたしには過分なものとなっています」

 

「ふ.......そう謙遜するな」

 

 仮にも総理大臣になっているのだ。その実力は計り知れない。

 和やかに話をしていると、障子を開けて政務秘書官が入ってくる。

 

「お食事中失礼します。その.........」

 

 政務秘書官は上野に耳打ちをする。上野の顔が今までの和やかな表情から、苦虫を潰したような顔になる。

 

「会長、申し訳ありませんがこれにて失礼します」

 

「あぁ、構わんよ」

 

 上野らはそそくさと退出した。その姿を見送った会長は部下に話しかけられる。

 

「どうお思いですか?」

 

「なに.........中継ぎ政権の長としては珍しくできているが........これを見たまえ」

 

 会長は足元に置いてあった紙の束を渡す。受け取った部下はそれを見るなり驚愕する。

 

「こ.......これは........」

 

 次々とページを捲っていく。

 

「す、全ての金の動きを.....!?」

 

 会長はニヤリと笑う。

 

「どうやら一悶着起こるかもしれん」

 

 

 

 料亭を出た後、上野は車に乗り、詳しい報告を聞く。

 

「アルタラス王国王女が日本国内の病院へと移送されました」

 

 その報告に上野は思わず歯噛みをする。

 

「誰が命じた?」

 

「外務大臣です..........」

 

「あいつめ..........派遣に反対と言っておきながら火種を拾うような真似を........! 宇治和はどこにいる?」

 

「本庁です。今向かっています」

 

 上野を乗せた車は外務省に到着する。

 

「総理!?」

 

 衛守が政府公用車のナンバーを見るなり慌てる。

 

「どうされましたか?」

 

 衛守の問いに答えず足早にエレベーターへと向かったので、それについていく。一国の主が護衛もなしに来たのだ。慌てるなと言われても慌てるしかない。

 上野は大臣室へと到着し、ノックなしで入る。

 

「宇治和君! どういう........こと........」

 

 上野の言葉は大臣室の光景を見たことで打ち切られる。

 

「お、お前は誰だ?」

 

 大臣室にいたのは、見た目14歳の少女であった。

 

「なんじゃ........最近の元首は儂のことを知らないのか?」

 

 知らないから聞いているのに、神経を逆撫でするようなことを言ってくる少女。

 上野はその顔をよく見るが、見覚えは全く無い。

 

「あれ? 首相、どうされましたか?」

 

 後ろから声を掛けられる。後ろを振り返ると宇治和がいた。

 

「か、彼女は?」

 

 そう聞くと宇治和は驚いた表情をする。

 

「彼女のことを知らないのですか?」

 

 —どいつもこいつもと同じことを言いやがって。

 と思う上野だったが、そんなことは表に出さず口に飲み込む。

 

「彼女は三笠様ですよ」

 

 三笠、それを聞いただけで上野はハッとする。

 

「三笠だと!?」

 

 ここ最近、表舞台に出てきていなかった為その存在を忘れていた上野。そして少し憎悪を込めた視線を三笠にぶつける。

 旧日本の政治に介入していた軍人の1人であったという認識のせいであった。

 

「じゃ、これにて失礼するかの」

 

 そう言うと三笠は大臣室から出ていった。大臣室には宇治和と上野、そして他の何人かが残る。

 

「宇治和、聞きたいことが山程あるがまずは一つはっきりと聞きたい。なぜアルタラス王国王女を日本国内の病院へ移送した?」

 

 宇治和は椅子に座らず立ったまま答える。

 

「王女は海賊のものと思われる毒矢を喰らい、危篤の状態でした。それに一国の王女です。ロデニウス連邦の病院も国内と同水準の医療レベルを誇っていますが、日本のように治安がいいかと聞かれるとそうは言えません。なので私の権限で移送させました」

 

 宇治和の言うことに非がない為、上野は矛を収める。

 

「そうか..........では彼女はなぜここにいる?」

 

「彼女が突然来たのです。そこを見てください」

 

 宇治和が指さす報告を見ると囲碁盤があった。

 

「囲碁?」

 

「えぇ。まぁボコボコにされましたがね」

 

 宇治和が言う通り、要所は全て抑えられ、全滅に近い被害が出ていた。

 

「............そうか」

 

 上野はそう言うと大臣室から出て行った。部屋に残された政務秘書官がおどおどしていたので宇治和は聞く。

 

「何かカッカしているようだったが、何かあったのか?」

 

「会食中に王女移送の件にて少し苛立っていたようですが、それとは何か別のことで何か.........」

 

「..........」

 

 宇治和は政務秘書官の答えにしばらく考え込むと、『ありがとう』といい、退出するよう促した。

 アルタラス王国王女を実質的に保護してしまったことは日本政府にとってそれなりに大きな衝撃となってしまった。

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 日本国 国防省 

 

 

 

「—護衛艦かげろうが保護した民間船舶に一国の王女、しかも滅ぼされたアルタラス王国ときた.........目的は話していなかったな?」

 

「話してはいませんが、亡命目的で間違いないでしょう」

 

 統合幕僚幹部がアルタラス王国王女の件について話し合っていた。

 

「........最悪の想定は皇国がルミエス王女の身柄を要求した時です。我が国は現在国際的な地位をほとんど持ち合わせていません」

 

 ほとんどと言ったが、それには少し語弊がある。ムーとも国交を締結し、通商条約を結ぶばかりか、日本企業が少しずつムーへと進出している。その甲斐あって、第二文明圏国家や、情報に聡い国、日本と関係がある国は事実上の列強であると認めていた。無論ムーもである。

 

「主権的な侵犯を犯さない限りは政府は強くは出れないでしょう。それに外務省はルミエス王女を亡命希望者として受け入れるつもりはないでしょう」

 

 幹部が言った通り、外務省はルミエスを最近制度を制定した異世界留学生の一員として保護するつもりであった。

 

「先程、最悪の想定と言いましたが、それ以上に最悪なのが、列強の一員であるパーパルディア皇国と戦争状態となった時です。その経緯の如何では我が国はこの世界での立場などを全て失いかねません」

 

「いずれにせよ、全ての判断が総理に掛かっている。我々は我々にできることをやろう」

 

 雲野副防衛総隊司令がそう締めくくった。『そういえば』と宇宙海軍統合運用官が付け加える。

 

「フェン王国主催の軍祭ですが、まもなく護衛艦が到着します。何もないといいんですがね」

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 数週間後 アルタラス王国 ル・ブリアス 

 

 

 

 パーパルディア皇国によってアルタラス王国は降伏、王族やその親族を全て処刑したが、1人その生死が未だに不明な人物がいた。アルタラス王国王女ルミエスである。

 アルタラス王国王族処刑から数週間経った現在でも消息が掴めないことにアルタラス王国統治機構長官、シュサクは苛立っていた。

 

「まだルミエス王女の居場所を掴めていないというのか!」

 

「はい.........ターラ14世については長官もご存知の通り、戦場にて騎兵隊を率いて突撃したのを確認しています。他の王族についても海外などに出向いている王族は1人もいないことを確認済みです」

 

「..........やはりどこかに亡命したか?」

 

 部下は静かに頷く。

 

「列強の一員である皇国と敵対した王国の王女を保護するとなると、文明圏外や文明圏国家ではありますまい。おそらく神聖ミシリアル帝国か、ムー共和国でしょう」

 

 シュサクは歯噛みする。もしそれが本当だとしたら皇国は手出しできない。相手は列強序列第一位と第二位だ。

 

「..........本国にこのことは?」

 

「既に伝えてあります。もちろん亡命の可能性も伝えました」

 

「了解した。本国も調査をするだろうが、一応こちらも調査をするように」

 

「はっ!」

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 同国 第三外務局

 

 

 

 第三外務局の局長室にはカイオスと監察軍司令の姿があった。

 

「懲罰艦隊は出港準備を整えています」

 

「すぐに出ろ。フェン王国の懲罰をすぐに開始しろ」

 

「は!」

 

 そう言うと監察軍司令は局長室から出て行った。

 皇国の軍港から魔導戦列艦22隻がフェン王国懲罰のために出撃する。ワイバーンロード20騎はそれに少し遅れて出撃することとなった。

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 フェン王国 アマノキ

 

 

 

 今年もフェン王国の軍祭に参加する日本はかげろう型『くろしお』と、同じく『ながなみ』、そして一時米軍に原隊復帰中のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『チャンセラービルズ』が派遣される。*2

 今回の艦隊旗艦はチャンセラービルズとなっている。転移した現在、そして在日米軍から国連軍へとなった今でも日本と国連軍(在日米軍)の合同演習は続いている為、はっきり言って米軍の指揮下に入るのはなんの抵抗もない。むしろ大歓迎であった。作者世界の日本はスーパーハイパーインフレが掛かっているが、実戦経験は圧倒的に米軍が上であった。だからである。

 

「入港用意!」

 

 入港用意のラッパが鳴り響く。フェン王国の港湾施設は日本と比べれば天と地の差だが、その水深は超大型タンカー(ULCC)レベルが停泊できるレベルまで掘り下げる工事をしたため、前回の軍祭よりも停泊しやすくなっていた。

 

「現在水深40m........余裕ですね」

 

「明日の軍祭まで待機になるみたいやから交代で休ましといて」

 

「了解です」

 

 

 

「おお〜。やはり巨大ですな。しかも前回のとは別の鉄船と来た」

 

 シハンの従者が言う。

 

「うむ。やはりあの鉄船を見るだけで頼もしい。日本軍はパーパルディア皇国の脅威を跳ね除けてくれるだろう」

 

「そうですね........気がかりと言えば、パーパルディア皇国の要求を断ってからなんの音沙汰もないことです。懲罰をするのかと思いきや、なんの反応もなし。逆に怖いですね」

 

「あぁ、だが今は軍祭に集中しよう」

 

「御意」

 

 剣王シハンはパーパルディア皇国の影に恐怖を感じつつも、軍祭を乗り切ることを決意する。

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 フェン王国沖 パーパルディア皇国監察軍

 

 

 

「フェン王国懲罰か..........一年以上も空いてしまったから、おそらく奴らはそのことをすっかり忘れているだろうな」

 

 皇国監察軍東洋艦隊司令ポクトアールが呟くと、艦長がそれに反応する。

 

「そうですね。しかし我々は勤めを果たさなければなりません」

 

「うむ。進路そのまま。フェン王国へ向かう!!」

 

 パーパルディア皇国監察軍東洋艦隊はフェン王国を攻撃するために突き進む。

 

 

 

 

 

*1
日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある(存立危機事態)、(2)日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない、(3)必要最小限度の実力を行使すること、を挙げている。

*2
長期メンテナンス明けでその就航試験を兼ねて()()より派遣された。






パラレルワールドその2 フェン王国に関する分岐点


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