異世界に、日本国現る    作:護衛艦 ゆきかぜ

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 はい。まずはグラ・バルカス帝国です—一話完結。この話の後、トーパ王国の魔王編を書き、そして日本とパーパルディア皇国の絡みに移ります。


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 レイフォル王国沖

 

 

 

「撃ち方始め!」

 

 大海に巨砲が鳴動する。

 前部に設置された46cm砲6門から近接信管付きの砲弾が発射される。

 

「着発まで、5秒——着発!」

 

 遠い上空でポッと灯りが灯る。

 

『10騎撃墜、残りの目標、尚も本艦に飛行中』

 

「主砲の第二射は間に合いませんね........近接防空戦用意」

 

 主砲の衝撃波を避ける為、遮蔽物に隠れていた水兵が対空機銃に付く。

 

「配置急げぇ!」

 

 40mm機銃と、20mm機銃にそれぞれ取り付く。

 

「高角砲の射程まで、後2分!」

 

 高角砲要員は発射命令を待つ。

 

「電探連動よし、射撃用意——撃ち方始め!」

 

「撃っ!」

 

 127mm3連装高角砲が火を吹く。初撃で3騎撃墜する。

 

「残り7騎! 距離10km!」

 

 既に高角砲の射撃限界距離まで近づいている。

 

「次弾装填よし! 撃て!」

 

 ダダァーン!!!

 

「2騎撃墜!」

 

「機銃射程まで10秒、射撃用意!」

 

 40mm機銃要員が引き金に手をかける。

 

「撃て!」

 

 若干重々しい音ともに40mm弾が発射される。その曳航弾を交えた射撃は昼間であってもはっきりと視認でき、遠くから見れば神秘的な光景にも見えるだろう。だが、それは敵を倒すための光景であった。

 

「20mmの射程にすぐ入ります! 射撃用意!」

 

「撃て!!」

 

 20mm機銃が火を吹く。

 40mm機銃からの攻撃を受けても突撃を敢行していたワイバーンは、20mm機銃が加わった濃密な弾幕に恐れ慄いたのか、機銃の射程から離れていく。

 

「バカめ。高角砲の餌食だ! 撃て!!」

 

 高角砲から近接信管付きの砲弾が発射される。

 レーダーと連動した高角砲は編隊を組んでいるワイバーンの中心に到達。信管が作動し、撃墜した。

 

「全騎撃墜」

 

『対水上レーダーに感あり、レイフォル王国の戦列艦と思われます」

 

 戦闘を眺めつつ、ラクスタルは思索に耽る。

 

(歴史を繰り返す運命なのか.........)

 

 ラクスタルはこうなった経緯を振り返る。

 時系列は巻き戻り、中央暦1638年の春まで戻る。

———————————————————————————————————

 中央暦1638年 グラ・バルカス帝国 帝都ラグナ

 

 

 

 ここグラ・バルカス帝国の帝都ラグナの外務省にて会議が行われていた。

 

「今度はパカンダ王国を通せか........」

 

 臨時外務大臣が唸りがら言う。

 

「はい........」

 

「足蹴にされるのは業腹だが、それが向こうの通例である以上仕方ない。ここはもう少し粘り強く続けよう」

 

「はい。それと—」

 

 職員が何か悩んでいる様子なので外務大臣が問う。

 

「どうした?」

 

「あ、いえ、その〜。未だに結果が出ないことに腹を立てて、今()()()()が来ています」

 

「む? 一体誰だ」

 

「.........皇族の中で融和派筆頭のハイラス様—」

 

 ガタッ!! 

 

 外務大臣が椅子から立ち上がる。

 

「そう言うことは早く言え! すぐに行くぞ!」

 

 スーツを着ながら大臣は走って応接間に向かう。

 

「失礼します。申し訳ありませんハイラス—」

 

「よい。仕事で忙しかったのだろう? まぁ掛けたまえ」

 

「は、はい」

 

 皇族の中の皇族、現皇帝『グラ・ルークス』とは異母兄弟であることもあり、かなりの影響力を持つ。

 

「進捗は芳しくないか?」

 

 ハイラスの言葉に頭を下げる大臣。

 

「申し訳ありません。行く先々で足蹴にされておりまして........」

 

 ハイラスは手を顎に添える。

 

「仕方あるまい。向こうからすれば我が帝国のことを知らないのだ。粘り強く行こう」

 

「ありがたきお言葉.........」

 

「それはそうと、シエリア次官はどうしたのかね」

 

 ハイラスの何気ない呟きに大臣は若干ビクッとなる。

 

「シエリア、ですか?」

 

「あぁ、彼女が私に融和に関する直談判してきた時があってな」

 

 『シエリアの野郎』と拳を握り締めつつ思った大臣。

 

「で、シエリアは何と言ったのですか?」

 

 ハイラスはどこか悲しげな雰囲気を漂わせながら答える。

 

「『あなたはパカンダ王国でお亡くなりになるかもしれません』だとさ。私はお前が預言者か何かかと言ってやったよ」

 

(パカンダ王国で死ぬ? どういうことだ?)

 

「まぁ、忠告された以上、緊張を持って()()()()()()()

 

(『行くとする』!?)

 

「ま、まさか、パカンダ王国に行かれるおつもりなのですか!?」

 

 ハイラスはさも当然かのように答える。

 

「うむ。そのつもりだが? あぁ、護衛は要らんぞ」

 

 『お前が要らなくともこっちは付けなきゃいけないんだよ!!』と、心の中で罵声怒声を浴びせつつ、何とか説得しようとする。

 

「申し訳ありません。既に数カ国から足蹴にされている上、その全ての国家が帝国と比べてレベルが低い—そう、謂わば蛮族です。今までは処刑されるなどといった過激な行動はしていませんが、もうこれ以上は分かりません。どうかご再考を........」

 

 大臣の進言にハイラスは手を顎に添える。

 

「ふむ........貴様の言うことはよく理解している。だが先も言った通り、私は融和推進派だ。で、ある以上、いくしかあるまい」

 

 大臣はハイラスの目を見る。覚悟の据わった目であった。

 

「..........わかりました。こちらで何とかいたしますが、帝王の許可は絶対に必要—」

 

「それなら心配ない。ほれ」

 

 ハイラスはそう言いながら懐から紙を取り出す。

 

「拝見します...........!?」

 

 そこに書かれていたのは、帝王『グラ・ルークス』直筆の許可証であった。

 

(流石だ。異母とは言え、一応血の繋がりはあるからか、この行動力........)

 

「.........は〜」

 

 思わずため息が出てしまう。どうして皇族はこうも癖の多い人物ばかりなのだろうかと大臣は思った。

 

「わかりました。ですが最低の護衛はつけさせてもらいます」

 

「よいよい、任せる」

 

 そう言うとハイラスは徐に立ち上がり、部屋から出て行った。

 

「は〜。寿命が縮む........おい、今すぐ仕事に掛かれ」

 

 大臣は部下に命じた。命じられた部下は一礼すると部屋から出て行く。

 

「なぜだ、なぜシエリアがハイラス様がパカンダに行くと知っていた?」

 

 疑問が尽きない大臣であったが、気持ちを切り替えて仕事に取り掛かるのであった。

 

 そして運命の日がやってきた。

 ハイラスはパカンダ王国にて使節団と合流、そしてパカンダ王国外交局の応接間へと通された。

 

「事前に聞いてはいましたが、まさかハイラス様とここで会えるとは.......」

 

 職員が思わず涙を流す。グラ・バルカス帝国内での皇族の影響はかなり大きいからだ。

 

「気持ちはわかるが、仕事に集中しよう」

 

「はい.......」

 

 大広間を通り、いくつもの通路を抜けると、一際大きな部屋に案内される。従者らしき人物が扉を開けて、『どうぞ中へ』と案内する。

 部屋に入ると、驚きの光景があった。

 

「ふん。どんな奴かと思ったら、ただの蛮族ではないか」

 

 ピキッ

 

 明らかに聞き間違いではない、眉間に力が入る音が使節団の耳に入る。

 

「どうも、私はグラ・バルカス帝国使節団のハイラスと申します」

 

 他の面々も挨拶をしていく。

 

「ハッ! 外交窓口であるパカンダ王国を通さず、直々に列強であるレイフォル王国に出向くとは.......流石世界を知らない蛮族だな」

 

 ピキッ

 

 ハイラスは言い返したくなる衝動を抑える。世界を知らないという点ではまさにその通りだからだ。蛮族を除いて........。

 

「我が国、パガンダ王国は、第二文明圏列強国レイフォルの保護国である! そして我が名はパカンダ王国外交貴族、ドグラスである」

 

 ドグラスは足を机の上に乗せる。

 

(なんだよこれ!? レイフォルともう一つの国の対応が遥かにマシじゃないか!?)

 

 グラ・バルカス帝国外交官が内心で憤慨する。

 帝国が足蹴にされたと今まで思っていたが、このパカンダ王国のドグラスとやらの対応はそのレベルを遥かに超える。

 しかし命令は、『対話による融和』である。帝国臣民、そして外交官であるなら、それを忠実に実行しなければならない。

 

「申し訳ありません。今まで出向いた国家に対しても説明をしていますが、我が国は国家転移という現象によりこの世界にやってきました。現在我が帝国には他の国家との繋がりがありません。どうか仲介をお願いしたいのです」

 

 恐らく、グラ・バルカス帝国が元いた世界、『ユクド』の他の国家が今の状況を見たら『気が狂ったか?』と思うほど下手に出ていた。

 

「ふん。ならこれを実行しろ」

 

 ドグラスが質の悪い公文書をグラ・バルカス帝国外交官に渡す。

 

・第二文明圏との交易に際してはパガンダ王国を通し、関税をかける。関税率は項目により—

・パガンダ王国に対し、第二文明圏国家への口利き料金を金に建て替えて支払う。各国への額は—

・パガンダ王国を動かすために当外交局が稼働するため、外交長ドグラス個人に金及び関税の一部を納入する。額は—

 

「は?」

 

 思わず間の抜けた声を出す外交官。

 後ろからハイラスの護衛役である海軍軍人が公文書を見る。

 

「な!? これは賄賂だけで空母一隻建造可能なほどの金額じゃないか!?」

 

「それになんだこの関税率は!? 常識の範囲を超えているぞ!!」

 

 声を荒げるグラ・バルカス帝国人にドグラスは冷たい視線を浴びせる。

 

「これぐらいで大騒ぎをするな。むしろこれだけで済んでいるのだぞ」

 

 ドグラスの言にグラ・バルカス帝国使節団がスッと静まり返る。外務省に限らず、様々な機関で言われていたことだが、この世界の国家は程度が低いと。だがこのパカンダ王国はもはや程度が低いというものではなく、人間以下ともとれない国家であった。

 今まで黙っていたハイラスが静かに口を開く。

 

「私はグラ・バルカス帝国の皇族です」

 

「ほう。蛮族の王様の一筋か。で、何だ?」

 

 ハイラスは机の下で拳を握りしめる。

 

「この要求はあまりにも法外すぎます。もう少し常識的範囲に留められないでしょうか」

 

「ハッ! さっきも言ったが、これでも少ない方だぞ? うん? どうする?」

 

「国家と国家の対話とはとても思えませんが........」

 

「貴様らをいつ国だと認めた? あん? この要求を呑めば、国として認めてやるぞ?」

 

 ブチッ

 

 どこかの血管が切れる音が部屋にいる者の全ての耳に入る。音源の主が静かに立ち上がる。

 

「礼を失する数々の言動、目に余る……貴国らは外交相手を粗雑に扱う程度の品格しか持ち合わせておらんのか!」

 

 ハイラスがキレた。

 

「こうして我が帝国が下手に出ているというのに!!」

 

 一頻り言った後、ハイラスは『あ、やってしまった』という顔になる。シエリアからの忠告を心に留めていたのに、その全てがドグラスの失言に持ってかれてしまった。

 

「蛮族の、たかが皇族の一員がパカンダの王族であるドグラスに反抗するとは........フッ、衛兵!!」

 

 ドグラスが声を張り上げる。すると、武装した兵士が扉を開けて入ってくる。

 

「どうしましたか!?」

 

「其奴が不敬を働いた。不敬罪で拘束せよ」

 

「はっ!」

 

 衛兵がハイラスのことを拘束しようとするが、護衛の軍人が少し妨害をする。

 

「グワっ!」

 

 衛兵がハイラスに夢中になって、注意がこちらに向いていない隙に背中を強く押す。

 

「こちらへ!」

 

 使節団を連れて部屋を出て行く。

 

「何をやっている! 早く追わんか!!!」

 

「奴らは不敬罪を働いた犯罪人だ! 絶対に捕らえろ!」

 

 パカンダ近衛兵が出動する。

 使節団を連れた海軍軍人は先頭に立ち、何とか脱出を試みる。だが場所が悪すぎた。部屋の位置が捻くれた場所にあるせいで外に出るまでが遠い。

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

「まずい!!」

 

 急いで反対方向に向かうが—

 

「いたぞ!」

 

 包囲されてしまう。

 

「クッ.........逃げ場がない」

 

 『せめて銃があれば』と強く思った軍人であった。

 

「蛮族にしてはまぁ頑張った方だな。大人しく縄に突いてもらおう」

 

 使節団全員が拘束される。

 

「はっはっはっ!! 情けないの〜。あれだけのことを言っておきながら捕まるなんて」

 

 ドグラスがハイラスのことを笑いながら言う。

 

「まぁお前は俺に対して不敬を働いたからな。即日処刑だ」

 

 使節団全員が驚愕する。皇族を不敬罪—ならまだ分かるが、あまつさえ処刑しようなどと言い出したのだ。

 

「な、何を言っている!?」

 

 もはや理解不能であった。

 

「待て。こいつらも連れていけ」

 

 使節団全員が一緒に連れて行かれる。

 

「本当に処刑するつもりなのか!?」

 

「当然だろ?」

 

「ふざけるな!」

 

 声を荒げるハイラス。たしかに不敬を働いた。だがそれでも処刑というのはないだろう。

 しばらく歩かされて、城から離れた場所に到着する。

 

「これより犯罪人の処刑を行う」

 

 ドグラスが高らかに宣言する。

 

「罪状、王族に対し不敬を働いた罪」

 

 あまりにも理不尽な行動に非難を浴びせる使節団。

 

「ふざけるな! こんなことが許されると思うのか!!」

 

「もし本当に実行したら帝国の裁きが下るぞ!!」

 

 そんな非難にも一切動じないドグラス。

 ハイラスの目が覆われ、そして膝立ちにさせられる。

 

「構え!!」

 

 処刑人が剣を構える。

 

「下せ!!」

 

 剣は振り下ろされた。

 

「なっ!!」

 

 ハイラスの首が地面に落ちるのと同時に体も倒れる。

 

「どうだ? 何もできない自分を恨むか?」

 

 ドグラスは首を持ち上げて使節団の前に持ってくる。

 あまりにも無惨な出来事に一部が嘔吐してしまう。

 

「この要求を呑まないどころか、不敬を働いた罰だ。グラ・バルカス帝国と言ったか? の上層部に伝えておけ」

 

 使節団は解放された。

 その後、ハイラスが処刑されたことが大本営会議にて公表、大本営会議はパカンダ王国に対して報復戦争を宣言。空母3隻、戦艦5隻、巡洋艦8隻、駆逐艦18隻からなる任務部隊がパカンダ王国に空爆、艦砲射撃による無差別攻撃を敢行。僅か2日で降伏した。

 そしてこの行為に激怒したレイフォル王国がグラ・バルカス帝国に宣戦布告、今に至る。

 ラクスタルがハイラスの処刑のことを知ったのは『グレード・アトラスター』艦内で、艦隊司令会議を終えた後、2人で話していた時であった。

 

「全く同じ状況ですか」

 

「あぁ。時系列が若干変わっているが、それでも年単位で見れば誤差に過ぎない」

 

「.........その情報はどこから?」

 

「ハイラス殿下の護衛に出ていた海軍陸戦隊から教えてもらった」

 

「初耳なのですが......」

 

「当然だ。皇族が直接出向くんだ。私を除いた一部の軍人しか知らない」

 

 『それから』とカイザルは声のトーンを落とす。

 

「軍令部内で出ている案だが.........レイフォルに対して報復攻撃を叫ぶ者が増えている」

 

「........また同じ歴史を?」

 

 カイザルは頷く。

 

「一応反対意見は出すべきだったが.........こればっかりは変えることは不可能だ」

 

 何しろ皇族が処刑されているのだ。思慮深い人物でも報復を叫ぶのは当然だろう。

 

「まさか外務大臣とその関係者、そして軍令部の一部の人間しか知らなかったとはな.........」

 

「東方艦隊司令である閣下でさえ?」

 

「あぁ。第二級重要機密に指定されていた」

 

 2人は揃って沈黙する。

 

「もはや裏に意図を感じますね」

 

「上からの指示だろうな。もしこのハイラス殿下の件で国内が戦争を望むようになったら........」

 

「それこそ1度目と同じになる、ということですか........」

 

 カイザルは頷く。

 

「.........貴官に、もう一度レイフォル王国首都攻撃をやらせるかもしれん。すまない」

 

 ラクスタルは制帽を被り直す。

 

「1度目で私はろくな死に方をしないと思っていました。ですが、こうして転生し、1度目より過酷ですが、私は責任を果たします」

 

 ラクスタルは敬礼すると士官室から出ていく。

 

「我々をどこに向かおうとしている.........」

 

 カイザルは自分がどうすべきか迷いつつあった。

———————————————————————————————————

 グレード・アトラスター 艦橋

 

 

 

『敵艦隊との距離49km。まもなく射程に入る』

 

「了解。航海長、速度を第五戦速に変速」

 

「両舷前進第五戦そ〜く。黒10」

 

 グレード・アトラスターの速力が26ノットまで加速する。

 

『敵艦隊、距離46km』

 

「レーダー測距開始」

 

 グレード・アトラスターに備えられたレーダー照準器が敵艦隊戦闘に電波を照射する。

 

「情報来ました。射角修正—」

 

 グレード・アトラスターの前部主砲2基が敵艦隊を狙う。

 

「距離43km」

 

「3万5千で砲撃開始だ」

 

『了解』

 

 やがて敵艦隊が35kmの距離に入る。

 

「敵艦との距離、3万5千です!」

 

「主砲第一斉射! 撃ち方始め!!」

 

 海上に46cm砲の音がこだまする。

 

「—着弾!」

 

 水平線の上で光が灯る。

 

「2隻轟沈」

 

 元防空指揮場から報告が入る。

 

「レーダーを利用した射撃にしては若干精度が荒いな」

 

 ラクスタルが唸る。

 

「まぁ技術屋の言っていた通り、データをわざわざ手動で記録する必要がないのでありがたいですがね」

 

 レントが同情的に言う。

 

「主砲、第二射用意よし」

 

「砲撃用意!」

 

 ブザーが3回鳴り終わるのと同時に—

 

「撃て!!」

 

 ラクスタルが声を張り上げて言った。

 

 淡々とした作業(虐殺)をこなしているグラ・バルカス帝国とは異なり、レイフォル王国艦隊は悲惨な状況にあった。

 

「戦列艦トラント轟沈!!!」

 

 伝令が報告を上げてくる。

 敵の超巨大船から放たれる攻撃は戦列艦のマストよりも遥かに高い水柱を乱立させる。

 すると、旗艦『ホーリー』の右3kmを航行していた戦列艦に砲弾が命中。水柱が消えるとそこには木片が漂っていた。

 

「せ......戦列艦『レイフォル』轟沈.........」

 

 ホーリー艦内に衝撃が走る

 戦列艦『レイフォル』

 王国の国名を頂くこの艦は、レイフォル無敵の象徴だった。

 100門級戦列艦であり、最新式の対魔弾鉄鋼式装甲を持ち、国内では世界最強と謳われていた。それが、蛮族どもの超巨大戦艦の超巨大砲によりレイフォル艦隊射程圏のはるか外側からの攻撃により、あっさりと、たったの1撃の被弾で爆散、轟沈した。

 しかし、現実はゆっくりと絶望する暇を与えてはくれなかった。

 さらに砲撃が続く。

 歴戦の猛者たち、最高の艦と最高の乗組員たちが、ただの一撃も加える事無く、一方的に砲撃を受け、消滅していく。

 レイフォル艦隊は風神の涙を使用しているにも関わらず、敵の超巨大戦艦の方が、圧倒的に速い。

 一隻、また一隻と撃沈されていく。

 

「くそっ! くそっ!!」

 

 大将旗を掲げる100門級戦列艦『ホーリー』に乗艦する将軍バルは、ワナワナと震えていた。

 自分以外に残っている艦は3隻。

 敵艦は、現在残存艦の周囲を旋廻しつつ、全砲門をこちらに向けている。

 

「.........降伏の旗をあげよ」

 

 命令が下る

 戦列艦ホーリーのマストに、この世界で降伏を宣言するための、降伏旗が掲げられる。

 

「敵艦近づきます」

 

 超巨大船が近づいてきた。

 

「おのれぇ.....おのれおのれおのれおのれぇぇー!!! 蛮族どもが近づいてきたら、全砲門をもって、敵巨大戦艦を撃沈せよ!!」

 

 当然のバルの命令に参謀が聞き返す。

 

「は? 攻撃命令ですか!?」

 

「聞こえなかったのか! 奴らが近づいてきたら全砲門にて攻撃せよ!!」

 

 そんなことをしたら末代までの恥となってしまう。参謀は全力で反対する。

 

「し.....しかし、降伏後に攻撃など........栄えあるレイフォルの名を汚します!」

 

 グサっ!!

 

「かハッ!!」

 

 参謀の胸に剣が突き刺さる。参謀はそのまま倒れて動かなくなった。

 

「敵艦からの発砲により破壊された味方艦の破片により参謀は戦死した。解ったな」

 

 将軍バルは、参謀を刺し殺し、艦長に迫る。

 

「なーに、心配するな。我が方の炸裂弾を至近距離で食らえば、浮かんでいられる船などこの世にはない。どうせ敵は一隻しかいない。誰も言わなければ、降伏後の攻撃を行ったと事など解らんさ」

 

 バルは近づく敵艦を睨む。

 

「砲撃用意」

 

 バカな敵は、まんまと近づいてくる。距離は300mを切った。

 

「バカめ。俺の艦隊を散々壊してくれた代償は高くつく」

 

「撃てぇぇぇ!!!!!」

 

 100門級戦列艦の片側、50門の砲が一斉に火を噴く。海軍の軍隊は水軍、攻撃方法は船を接近させてのバリスタ、火矢、切り込みが通常のこの世界において、砲撃により、敵艦を船ごと破壊するために造られた艦、他とは隔絶された—列強の技術で造られた列強レイフォルの主力艦は、敵の巨大戦艦に向かってその力を行使した。

 敵の巨大戦艦に砲弾は着弾し、大きく爆発した。

 砲撃による噴煙と、着弾した敵の船にあがった炸裂弾による噴煙によりあたり一体を煙が覆う。

 

「全弾命中!!!」

 

「はーはっはっーーー!!! ざまぁみろ!! このレイフォルに蛮族ごときが逆らうからだハッハッハッ。ハッハッハッ..........は?」

 

 煙が晴れるとそれまで高笑いしていたバルの声がピタリと止む。

 

「敵艦健在!!!!!」

 

 伝令の悲鳴のような声があがる。

 

「ま、全く効いていないのか? ば、化け物めぇ!!!」

 

 グラ・バルカス帝国海軍所属『グレード・アトラスター』の45口径46cm砲9門、60口径15.5cm砲6門の至近距離からの一斉射により、降伏後の攻撃を行ったレイフォル王国艦隊戦列艦『ホーリー』は、この世から消滅した。

 残存艦3隻はもはや戦う意思を失っているようで、マストから帆を下ろし、降伏の旗を挙げている。

 海戦の勝敗は決した。

 

 グレード・アトラスターの艦橋で副長のレントが怒りを含んだ声で呟く。

 

「明らかに降伏の意思を示していたのに攻撃してくるとは........蛮族蛮族と言っておきながら向こうの方が蛮族じゃないか........」

 

 それは『グレード・アトラスター』乗員全員の気持ちであった。

 

「ひとまず本艦の任務は達成しました。帰還するとしましょう」

 

「あぁ、そうだな」

 

 レントが『航海長、進路を祖国へ』と言った。

 

「艦隊司令部に打電。『我、レイフォル王国艦隊を撃滅セリ』。そして詳細も打電してくれ」

 

「了解」

 

 しばらくして通信士が艦橋に上がってくる。

 

「艦長。本国から新たな任務の指示です」

 

「何? 新たな任務?」

 

 ラクスタルが聞き返すよりも先にレントが聞き返す。

 

「はい。第二級秘匿通信です。開封していません」

 

 ラクスタルは通信士から電文を受け取る。

 

「何かありましたかね?」

 

 レントが聞いてくるがラクスタルは答えない。

 

(まさか降伏後の攻撃に対する報復攻撃命令か?)

 

 ラクスタルは恐る恐る電文を、自身しか知らない符牒で送られてきた電文を見る。

 

「.........」

 

 彼はそれを一瞥すると天を仰ぐ。

 

「どうかしましたか?」

 

 ラクスタルはしばしの後に答える。

 

「先の降伏後の攻撃に対する報復攻撃命令だ。『レイフォル王国の首都レイフォリアに対して無差別艦砲射撃を行うべし』だとさ.......」

 

 レントは電文を受け取ると、『処分しておくように』と静かに言いながら部下に渡す。

 

「大丈夫ですか?」

 

(またやらねばならないのか........いや、1度目は何の感慨も抱かなかった。降伏後の攻撃に対するお仕置きでやるという、自分の正当性を信じて疑わなかった行動だった。だが.........)

 

 そう。悪巧みをするとき、普通の人間ならば1度目は何とも思わないだろうが、それをよく理解した上で2回目を行うとすると、とてつもない罪悪感に包まれるのである。

 

「艦長.......自分が指揮を—」

 

「いや、自分でやる」

 

 ラクスタルは迷いを断ち切る。

 

(これは俺が背負って行かなければならない(カルマ)だ。1度目で俺は罪を犯した。それはこの世界でも同様だ)

 

「進路変更、取り舵反転180度。目標! レイフォル王国首都レイフォリア!!」

 

 同日、レイフォル王国の首都レイフォリアは、グラ・バルカス帝国東方艦隊所属『グレード・アトラスター』単艦の全力砲撃を受けて灰と化した。

 翌日、生き残った軍部と政府首脳部によってグラ・バルカス帝国に対して無条件降伏した。

 パカンダ王国事件から数えて僅か10日。五大列強国の一員であるレイフォル王国は滑落することとなった。

 戦艦『グレード・アトラスター』は、たった一隻でレイフォル王国艦隊、レイフォル王国飛竜隊を撃滅し、その足で、レイフォル首都レイフォリアを焼き尽くし、降伏に追い込んだ世界最大最強の船として恐れられる事となり、生ける伝説となる。

 この世界の歴史にとって、それは激震となった。

———————————————————————————————————

 この世界にあらざる物体が第二文明圏西方沖で行われている海戦の撮影を行っていた。

 その映像はリアルタイムで日本国国防省情報収集部に送られる。

 

「.........」

 

 映像解析官は送られてくる映像を黙って見ていた。

 画面越しに戦闘が起こっているのだ。人の命を奪い合う戦いが。

 大和擬きと戦列艦は戦闘に入る。が、やはりと言うか、戦列艦は手も足も出ずにやられたようだ。その後、大和擬きは一度進路を戻したものの、再び進路をレイフォル王国に向ける。そして虐殺が始まる。

 

「任務を達成したが、自分たちの威光を知らしめるためにやったてか?」

 

 だとしたらグラ・バルカス帝国の国家像は上層部が予想している通り、覇権国家であると見て間違いない。

 

「危険だ.......」

 

 解析官は直ちに報告を上にあげる。

 ロデニウス大陸統一戦争時にも確認されたグラ・バルカス帝国諜報員、そして第三文明圏周辺で次々に確認されている潜水艦から危険な国家と認めていたが、これを機にグラ・バルカス帝国を正式に仮想敵国、そして覇権国家と認めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

パラレルワールドその2 フェン王国に関する分岐点


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